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竜と恋と石の花  作者: 重田いの
荒野の魔女のはじまり

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ルイーズの埋葬が終わった。彼女は法律上の保護者をすでに亡くしていたので、扱いとしてはユルカイアに暮らす大勢のうちの一人である。クィントゥスの息子の一人、メディア家の最後の直系の終わりとしては、あまりにもあっけない。


城の中庭にある小さな礼拝堂でささやかな祈祷が開かれ、ごく少人数が参列した。ユルカイアの駐留僧は皺に埋もれるような顔の禿頭の男で、ぼそぼそした声で聖なる文言を読んだ。


グティエルは嘆きの声を上げたが、その顔に涙が伝っていないこと、彼がむしろ死んだルイーズよりかたわらのラウラを気にかけていることは誰の目にも明白だった。人々の噂は波のように広がり――グティエルが勢いよく靴の踵を石畳に叩きつけたことで、止まった。


それはラウラが見たことのないグティエルの姿だった。無表情で、肩も口元も力が抜け自然体だった。身体はいつでも動き出せるよう体重分散をしている。彼は今までと何かが確実に変わっていたが、ラウラはそれを認めたくない。彼女が焦がれたのは彼の優しさだった。彼女と同じものを同じ目線で見ようとしてくれるところが好きだったのだ。信じたくはなかった、もしかして……あなたはあなたの一番柔らかいところを失ってしまったの? なんて、聞きたくもなかった。


早朝。ラウラは薄暗い城の中を進む。マヌエラの部屋は二階のサンルームの隣にある。大理石のバルコニーがついた一番高貴な方を迎え入れるための応接間である。きらきらと輝くサンルームだけ別世界のもののようで、ラウラには眩しい。


部屋の鍵は台所のスパイス棚の裏にあった。マヌエラの行動を思い返し、貴婦人が大事なものを隠すだろうところを考え考え、探ってみたら当たっていた。ちょっと笑えた。田舎の小さな城でみんなに慕われる貴婦人として、夫に愛されて生きることがラウラのひそかな夢だったが、マヌエラの生活はまるでそれをそのまま映したよう。それでも彼女はそれがきっといやだったのだろう。


小さくても趣味のいい美しい部屋だった。絨毯とタペストリーはほころびのない立派なもので、ピンク色の光に染まった天使が海の上を飛び回っている。小さなマントルピースの中の灰はそのまま放置され、それを除けばまだマヌエラの生きている感じがした。小机の上の書きかけの日記帳がラウラの目に留まる。


続き部屋があり、そこはルイーズの部屋だったらしい。女の子らしく愛らしいオレンジで統一されたデザインは、多くの女性が心和むものだろう。家具は白で統一されていた。窓枠や天井まで。小さく華奢なドアノブも扉自体も白く塗られ、何もかもが清潔に整っている。本当のユルカイアの貴婦人が誰だったのかを突きつけられるようだった。あの暗く荘厳で埃と油汚れに満ちた隙間風の吹く正妻の間の、どんよりした絶望をラウラはどうしても思い出してしまう。


気を取り直し、ラウラは家探しを続けた。ひそやかな足音がするのを耳は捕らえたが、無視して棚の隙間から絵画の裏、テーブルクロスの下まで見て回る。母の機嫌取りをしたがった妹がその友達と一緒にそうしたのを真似て、かつてどこかのスパイだったメイドがラウラの部屋にしたように。


様子見に来た若い侍女はすぐさま情報を持って帰り、ラウラがどれほどマヌエラとルイーズを憎んでいたか触れ回るだろう。もうどうだってよかった。宮廷から逃げ去ったときの自暴自棄な感情とは違っていた。ラウラはこのままユルカイアがどうなるか知っている。ずっと見てきた。圧倒的なカリスマを持つ誰か一人に屈服したとき、その土地と人々は命ごと奴隷になる。母がそうしていたように。


――自分に母と同じ才能があるなんて知らなかったし、いらなかった。だがグティエルの態度は、つまりそういうことだった。彼は自分の感情と可能性が湧き出るところを自分の心ではなくラウラにしようとしている。ラウラのために生きて全部捧げ、そうして生きる目的を自力で探さなくてもよくなるように。……子羊が彼の中に戻ったことで、何が変わったのだろうか? 答えを持っているだろうエトナは姿を見せず、タイリーは死んだという。ならばラウラは自分で考えて、動かなくてはならなかった。


「ラウラ?」


不思議そうな声が背中にかかったのは、必要そうなものをあらかたまとめたあとだった。躊躇なく踏み込んでくる体重を感じさせない軽やかな足音に、背筋がぞくっとしたのは気のせいだろう。そうに違いない。


マヌエラの日記やルイーズの出生にまつわる書類などを、ラウラは古い旅行鞄に詰め込んだ。他人の部屋で他人の遺した家族にしか触れられたくないだろうものを、泥棒のように荒らしていることへの罪悪感から無理やり目を逸らし、


「ミネルバ様はかつてあなたの母上の侍女をしていたそうですね?」

ラウラは目線だけで夫を振り返った。

「ああ。なんで気になるんだ、そんなこと。どうだっていいだろう?」

グティエルはあどけなく笑った。彼の拳が血に濡れていることを気づかないふりする。

「塔でじっくり見させていただきますの。ユルカイアについて、私たちの知らないことが書かれているかもしれません」

「なんだって? 塔? どうして、ラウラ……」


グティエルは不満そうに彼女の腕を掴もうとしたが、妻はぱっと身を翻し彼の手から逃げる。その気を出せばすぐ掴まえられる動きだったが、グティエルは眉をひそめながらも彼女の態度を許した。

「何か嫌なことでもあったのか? さっきの口さがない奴は罰しておいた」

ふっと不安そうな顔を、彼はした。落ち着かなげに足を踏みかえ、そっと囁くようにおずおずと尋ねる。


「もうユルカイアが嫌になったか? 俺のせいか? ごめんな。離してやることはできないが、すぐお前の居心地いいようにするから」

「いいえ、いいえ」

ラウラは目に涙を貯めて首を横に振った。

「ここでお別れします。私はこれから荒野の、塔に住みます」

グティエルは動かなかったが、彼の心が崩壊したのがわかった。

「――城はそんなにも居心地が悪かったか?」


彼の中に憎しみが芽生える前に、それは避けられない遠くない未来に確実になることだったろうが、ラウラは鞄を置いて夫の肩に手を絡めた。首筋に鼻先を当てて力なくすり寄る。山の中の闇の匂いがして、いとおしかった。


「考え直してくれ。ここにいてくれ。お前のためならユルカイアを再編成できる。山の中に残された魔石を加工して、よそに売るよ。またここを金持ちの土地にする。傭兵を雇って軍隊を作って、クォートとも戦うから……」

「いいえ、雇うなら傭兵ではなく元々ここにいた人たちを」


ラウラはグティエルの頭を放す。力なく見つめてくる黒い目の奥の奥、群青色に光る目の色が何かやっとわかった――彼はラピスラズリの目の色を持っていたのだ。おそらく何百個もの輝きがあまりに凝縮されすぎて、一度見るだけではただ暗い色としか認識できないくらい。


「いいですか、よく聞いてください。クォートが本格的にユルカイアの占領を目指したとき、現状では太刀打ちできません。けれど中央で魔物が暴れているなら避難民が発生するはず。そこには必ず戦える者がいます。あなたは魔石を通して再びユルカイアを復興させ、彼らを保護しなくてはなりません。そのときクォートの皇女だった者がお傍にいては、人々があなたを信じることが難しくなります」


あえてそんな理由を取って付けたのは、つまりこういうことだった。――ラウラは母になりたくない。どんな女になるのも構わない、マヌエラのようにユルカイアを陰から支配する魔女でもいいけれど、母の再来にだけはなりたくない。


グティエルと同じ場所に立ち、同じものを見て生きていきたい。だが彼の生きる理由にはなりたくなかった。母に操られた男たちは皆、十分以上に才能と実力を兼ね備えていたのに、淫欲皇后の美に酔い痴れたと理由をつけられるならどんな我儘も願望も自分の中で整理がつくと気づいてからすぐ堕落した。


ラウラはグティエルを彼らのようにはしないつもりだ。彼はまだ若く、未来があり、力がある。

「エトナ様があなたを導いてくれるでしょう。私はそれを荒野から見ています」

「だが」

「それに、魔法の塔はこの城の中より安全でしょうから」


ラウラは鞄を手に取った。グティエルは反射的に彼女の肩を掴んだが、ラウラがやんわりと手を外させると逆らうことはできなかった。彼は彼女を傷つけられない。ほだされた、骨抜きにされた、というならこれがそうなのだろう。


「たまに会いに来てください。私はいつでも荒野に、ユルカイアにいますから」

「ラウラ。ラウラ、俺は」

「あなたが……冷酷なだけではなく、強いだけではなく、ユルカイアを愛し愛される領主になれることを私は知っています。きっとそうなってくれると信じています。だから、さようなら」


グティエルはまっすぐ立っていられない人のような顔をしたが、身体はしっかりと立ち尽くし揺らぎもしない。手を伸ばしたがっているのがラウラにはわかった。だが振り返らなかった。

陰の中からエトナが見ていた。彼だけではない、たくさんの狼たちがそこにいるのも。

柱や扉の後ろから使用人たちは彼女をちらちら見ていたが、何も言わなかった。


「ラウラ!」


血を吐くように痛切なグティエルの声が聞こえる。ラウラは拳を握りしめる。血が染みた絨毯を踏みしめ、前へ前へ向かう。


大広間を抜けると冷たい風がうつろな心ごとラウラを切りつけた。彼女は必死に顔を上げた。泣かないように。タラを心配しつつも希望に溢れて宮廷を後にしたあの日とは違って、彼女は逃げるが、グティエルを生かすため逃げるのだ。ユルカイアを滅ぼさないためそうするのだ。


――彼を魔王にしないために。

だから泣く必要はどこにもなかった。


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