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第1話 鬼嫁のいる日常

新作です。

ハーレムなし、嫁ひと筋でイチャイチャ多目なお話を目指して書いていきます。

嫁は強いですが、主人公はそこまでではないので困難有りです。ご注意ください。

 

「むにゃ……な、なんだ?」


 夢の世界に居た俺は、下半身をまさぐられる感覚で目が覚めた。

 障子越しに射し込んでくる朝日を疎ましく思いながら、胸元の掛け布団をめくってみると、紫紺色の和服姿の美女が俺の股間をむさぼっていた。



「夢、じゃないよな……ねぇ、朱里さん。あなたは朝から人の布団の中で、一体なにをやっているんですか?」

「はむ? ほむほむむ、ほーむほむほむっ(うん? (わらわ)はただ、旦那様を堪能しておったところじゃ)」

「う、ちょっと……喋りながらそういうのは、あの……ううっ」


 刺激の強い快感に抗えるわけもなく。卑猥な水音と俺の情けない声が六畳の和室に響きわたった。



 俺の名は茨城(いばらき)獅童(しどう)。犬江山の麓にある平屋の古民家に住んでいる、二十五歳の農家見習いだ。


 そして彼女の名は朱里(あかり)さん。俺の愛する人で――鬼嫁だ。

 念の為に言っておくと、鬼嫁というのは別に悪口じゃない。彼女は本物の鬼なのだ。


 額から角の生えた彼女は大胆に俺を咥え込み、紅く光る瞳で「気持ちいいでしょ?」とこちらを挑発してくる。何がとは言わないが、アフターサービスも素晴らしい。ナニがとは言わないが。



 視線を彼女から柱の鳩時計へと移してみれば、もうすぐ朝の八時を迎えるところだった。寝坊した俺が悪いんだけれど、それにしたって寝起き早々でこれは刺激が強すぎる。



「あのー、朱里さん? そろそろ俺も起きたいんだけど……」

「む、そうなのか? 仕方ないのう。旦那様も満足したようじゃし……けぷっ。それでは妾も一緒に起きようではないか」


 震える声でそう伝えると、朱里さんはようやく股間から口を離してくれた。残念そうな言葉とは裏腹に、満足気な表情だ。


 口元からこぼれそうになったものを指で掬い取り、そのまま口に入れてゴクンと飲み込んだ。その仕草はあまりにもエロティックで、思わず下半身が再び熱を持ちそうになる。



 ……このままではまずい。俺は逃げるようにして布団から這い出ると、部屋の隅に置いてある姿見の前に立った。


 そして鏡に映るガチムチ男を見て、思わず溜息が出る。



「旦那様よ、また一段と逞しくなったのではないか?」

「やっぱり? 朱里さんと暮らすようになってから、確かに体力がついた気がするけどさぁ……」


 クスクスと笑いながら、朱里さんは背後から俺をそっと抱き寄せて嬉しそうな声をあげる。残念ながら俺はその言葉には素直に喜べなかった。


(さすがにこれは見た目が変わりすぎだろ……)


 半年前、死んだ祖父が遺してくれたこの土地へ越してきたとき、俺の体型はそれはもう醜いデブだった。

 にもかかわらず、現在は全盛期だった十代を越える筋肉質な体へと変貌していた。本来ならもう二十半ばを過ぎて、オッサンに近付きつつあるのに。


 別に特別なトレーニングをしたわけではない。ただ、彼女と一緒にとあることをしただけ。



「ふふん。妾と共に毎日精魂尽き果てるまで運動をしているのじゃから、当然であろう?」

「あ、朱里さん?? 言い方がアレだけど、それってウチの裏にあるダンジョンの攻略だよね!?」


 そう、俺達は異界と繋がってしまった犬江山のダンジョンで、毎日のように妖魔という異形の魔物たちと戦い続けていたのだ。それも普通の人間なら絶対に勝てるはずがない強大な相手ともだ。


 とはいっても、戦っているのはほとんど朱里さんで、俺は弱った妖魔にトドメを刺してばっかりなんだけど。



「しかし、妾とまぐわっているのも事実であろう?」

「そ、それはそうなんだけどさ……」


 朱里さんは白くて細い指で俺の顎を猫のように撫でまわす。完全に良いように扱われてしまっているんだけど、相手が美人なだけにそれが幸せと感じてしまっている俺もいる。



「のぅ、旦那様よ」

「駄目だよ朱里さん。今日こそは朝イチでダンジョンに行くって、昨日も話したじゃない。だからこれ以上エッチなことは――」


 しかし言葉の途中で口を塞がれてしまった。柔らかく湿った唇によって。


 そのまま舌まで絡めようとするものだから、抵抗なんてできるわけもなく。鬼の剛力で引きずられるようにして、俺は布団の上に連れ戻されてしまった。



 ◇


 起床から数時間後。俺たちは裏山の二合目にある古ぼけた鳥居の前へと来ていた。



「はぁ……朱里さんのせいで、結局お昼を過ぎちゃったじゃないか」

「ふふふ。悶える旦那様が可愛くてな、つい興が乗ってしまった」


 これから危険なダンジョンの中に入るというのに、まるでピクニックでも楽しむかのような笑顔を浮かべている朱里さん。服は相変わらず和服姿だし、足元は下駄だ。とても戦闘向きじゃない。まぁ対する俺もジャージ姿なので人のことを言えないけど。



「はぁ。本当に大丈夫かな」


 俺は彼女の隣で小さく肩を落とした。まだ何もしていないのに、俺の体力はゴッソリと減ってしまっている。文字通りに搾り取られたんだよ……俺の嫁、本当は鬼じゃなくてサキュバスなんじゃないかな。



「さぁ旦那様、ここから先は妖魔の蔓延る異界じゃ。油断するでないぞ?」

「わ、分かってるよ……」


 朱里さんは漢らしい言葉を俺に投げかけると、特製の釘バットを片手に鳥居をくぐっていく。

 俺は自分の腰元に護身用の刀がちゃんとあることを手で確認してから、彼女の後に続いた。



 ダンジョンの入口である赤い鳥居を過ぎた瞬間。自分を中心に視界がぐわりと周り、眩暈に似た感覚に襲われる。


 異界への転移は毎日しているけれど、未だにこの感覚には慣れない。仕方がないので転移が終わるまで、目をつぶってやり過ごす。



「大丈夫か、旦那様」

「う、終わった……?」


 目蓋を開けると、心配そうな顔をした朱里さんと目が合った。

 心配は要らないと返事をしながら辺りを見渡してみると、そこには鬱蒼とした森が広がっていた。


 鳥居をくぐる前に居た裏山とはまた違って、重苦しい空気が漂っている。

 環境や動物などの生態は元の世界と似通ってはいるのだが、明確に違うものがひとつある。



「……おったぞ、鎧兎(スケイルラビット)だ」


 しばらく森の中を歩いていると、朱里さんが今回のターゲットを発見した。


 数十メートル先の茂みに潜んでいたのは、一メートル程の大きさをしたウサギ型の妖魔たち。フワフワの体毛の代わりに、硬そうな鱗で覆われているのが特徴だ。



「しめたぞ、四匹もいる」

「食べたいのは分かるけど、捕らぬ狸の皮算用は駄目だよ朱里さん」

「なに、妾に任せておくがよい。旦那様は夕飯の献立でも考えておれ」


 すっかり討伐した後のことしか頭にない朱里さんは、一匹たりとも逃してなるものかと舌なめずりをしている。


 こいつは臆病な性格をしているので、こちらから攻撃しなければ襲ってくることはない。だが名前にもあるように鎧の皮が厄介で、一撃で仕留めるのが難しい。俺なんかじゃ一匹は倒せても、他は逃がしてしまうだろう。だけど朱里さんなら――。



「――ッ!!」


 朱里さんの口から短い呼吸音が漏れる。同時に地面を蹴る音。


 次の瞬間には、俺の隣にいたはずの朱里さんの姿が消えていた。

 そして視界の先で、鈍く光る銀色が鎧兎たちの間を横切ったのが映った。


 キィンという金属が弾けるような音。それと同時に四匹の鎧兎が一斉に四方へ吹き飛んだ。



「――よし、これで終わりかの」


 ドサリと何かが落ちた音で振り返ると、朱里さんが満足気な顔で笑っていた。

 彼女の足元には、見るも無残な姿となった鎧兎たちが転がっている。



「相変わらず凄いな、朱里さんは……」

「なんのこれしき。多少硬いだけの兎ごとき、妾の敵ではないわ」


 手に持っていた釘バットをブンっと振ると、先端についていた血が地面に落ちる。


 汗ひとつかかず、息も乱れていない様子を見て俺は呆気に取られてしまう。



 結局俺はなにもしないまま、今回の探索は終わることになりそうだ。だけどひとつだけ、朱里さんに言っておかなくてはならないことがある。



「全部を仕留めたのはさすがだけど、方法がちょっと雑過ぎたんじゃない?」

「なんじゃ、妾のやり方に文句があるのか?」


 ムッとした表情も可愛いくて思わず口元が緩みそうになるけれど、今回は本当に駄目なのだ。

 俺はそんな彼女に、静かに首を横に振った。



「忘れたの? 今回の依頼は鎧兎の皮。なのにどれもグチャグチャじゃないか」


 そう、今回俺たちはとある人物から、『鎧兎の皮』を持ってくるよう依頼されていた。

 だけど目の前に転がっている鎧兎たちの皮は、朱里さんの手によって粉々にされてしまっている。もはや肉塊と言った方が近いかもしれない。



「肉が取れれば妾はそれで構わないのじゃ。それにあんな奴の言うことなぞ、別に聞かなくても……」

「朱里さん? あんまり我が儘なことを言うような子には、料理を作ってあげないよ?」

「えっ……そ、それは困るのじゃ!! ……すまなかった。つい力加減を間違ってしもうた」


 軽く叱ってみると、彼女はすぐに謝ってきた。なので俺は許してあげることにした。


 そもそも朱里さん任せにした俺も悪いしな。彼女もただ、少しばかり張り切り過ぎてしまっただけだろうし。



「今回は仕方ないから、今度は気を付けようね」

「うむ。……旦那様は怒っておるのか?」

「怒ってないよ。だから泣かないの」


 今にも泣き出しそうな朱里さんの目元を優しく拭ってあげた。

 すると彼女は安心した様子で、胸元に飛び込んで来た。そのままグリグリと頭を擦りつけてくる。



「まったく、甘えん坊なんだから」

「……旦那様が悪いのじゃ。いつも妾を子供扱いするから、心が昔に戻ってしまっておる」


 拗ねる朱里さんを抱き締めて、俺は耳元で囁いてあげる。



「体は大人のお姉さんだけど、中身はまだまだ子供だからね」

「こ、これは妾のせいじゃないのじゃ! その……旦那様の匂いを嗅いだり、撫でられたりすると……勝手にこうなるのじゃ」

「……それじゃあ、責任取らないとな」

「ひゃっ!? ま、待つのじゃ旦那様。角を撫でるのは……んぅっ!」


 朱里さんは鬼のように強くてカッコイイ。けれど本当はとっても可愛い乙女なのだ。


 なのでこうして強引に攻めないと、なかなか真の姿を見せてくれない。そのギャップがまた楽しくて、ついつい意地悪をしてしまう。



「もう……旦那様は意地悪なのじゃ……」

「あはは。朝の仕返しだよ。日が暮れる前に帰ろうか」


 俺は真っ赤に染まった彼女の頬に軽くキスをしてから、依頼人の元へ向かうことにした。



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