第二幕 一話
四月上旬。だんだんと梅の木は枯れ始め、桜の花が咲き出した季節。学生は卒業、入学のシーズンに入って行った。オルガ、ベンクドは無事進級したらしい。そしてそれ以外のイザーク、ベルナール、ハヴェルは卒業した。
三人に手紙を送るとすぐに来てくれた。集合場所は魔法屋だ。
「どうした?」
一番に来てくれていたイザークが僕に聞いてきた。
「全員集まったら言うね」
そう言ってイザークを魔法屋の中へと案内することにした。
中ではアラスターが料理をしていた。
半年間魔法屋を経営していたが、アラスターの料理を売ってみると魔法と売上は一緒くらいまで上がった。
予想外だったがその分奪われたお金も補えそうだった。ただ最近は魔法屋がぐらぐら揺れるようになってきていた。
もうそろそろ立て替えないといけないのかな。
「おはようございます」
そう言ってベルナールが来た。
「中で話すから、はいってはいって」
そう言ってベルナールも家の中に入れた。正直話すのは外でもできるけどアラスターの料理を食べてみて欲しかったと言うのもあったのだ。
それから数分経つとハヴェルも来て、卒業した研究室の人全員が集まった。
「で、話って何?」
イザークが前のめりになって聞いた。
「研究、成功した?」
僕がそう聞くとイザークは首を横に振った。
「正直あのままで終わりたくなかった。もう一年居たかったし、あの研究室も存続してほしかった」
「え? あそこ無くなったの?」
僕は半年前に抜けてしまったためあれからの研究室のことを知らない。
「人数不足で。もともと五年が多かったし今年も新入生参加しなかったから無くなった。だからオルガとベンクドも早期卒業試験やるって」
早期卒業試験とは学校を早く卒業できる制度だ。テストに合格すれば卒業できる。
「じゃあちょうどよかったかもね。ここでまた研究室やらない? 仕事もあるし」
簿記はそう言って魔法屋の方を指した。
「細かくはまだ決まってないけどこの五人が居たら上手くできるんじゃないかと思って」
一瞬の沈黙の後、イザークは、
「できるならやるよ。魔法屋もやりたいし」
と言ってくれた。
ベルナールも、
「魔鉱石、また見つけて実験したいです」
と言ってくれた。
「僕もやるよ」
ハヴェルもそう言ってくれた。
こうして五人がまた集まることができた。
「やるとしてもどこでやるの?」
イザークがそう聞いてきた。
「お金は結構あるからちょっと研究室の部分だけ増築しようと思ってるけど最近この建物揺れてきてるんだよね」
僕はそう言って柱を支えた。こうしておかないと揺れることがある。
「じゃあ補強するか立て替えたほうが……」
イザークは心配そうに言った。
「一回大工さんに見てもらう?」
僕がそう言ったため大工さんに伝書鳩を飛ばすことにした。大工さんは城下町にしか居ないしここから城下町に歩いて行くのも一日はかかる。
後日、大工さんがきてくれた。みるのだけだと無料と言うところだった。
「ここに研究室を増築したいんですけど……」
そう言うと大工さんは柱を少し揺らして、
「こりゃダメだ。補強しないと悪くて一週間で倒れる」
と言われた。
「補強ってどれくらいかかりますかね」
僕はなるべく店を開けたくなかったためそう聞いた。
「魔法使ったらすぐだけど中の荷物空っぽにしてもらわなきゃ困るな。三十万ペリドットでどうだ。補強だけでな。相場よりは安いぞ」
一日にだいぶ稼いでる僕たちからすれば三十万ペリドットは結構安かった。
「あ、じゃあお願いします」
そして大工さんには来週来てもらうことにした。魔法屋の定休日は週に一回しかないためだ。
そして一週間後、四人に集まってもらった。理由は荷物を運び出してもらうためだ。
「お、今日は人いっぱいいるけど」
大工さんはそう言って家の中の荷物を運び出した。
六人いると荷物を運び出すのも一瞬だった。
「じゃあとりあえず建物を補強して、家の右側のところに十二畳の部屋を付け替える。ちょうどそこには裏口あるからそのまま使っていいね。増築の分も併せてお金が五十万ペリドットになるよ」
大工さんは設計図を鉛筆で指しながらはなしている。
そこから大工さんが魔法陣を書き出した。
すると魔法陣から木材やネジなどの材料が出てきていた。
そしてそれは急に浮き上がって右往左往と飛び回った。屋根から柱まで色々なところに飛んでいきネジがそれをつけて行った。
昔はこれを手作業でしていたそうだが最近は魔法を使えるようになってこうすることになったらしい。
そして木材は研究室のところにも飛んで行って新しく部屋を完成させて行った。
「できたぞ」
ほんの一瞬で建物が出来上がった。補強する前の家とは違い、少し近代風になった感じだった。
「ありがとうございます」
僕はそういいお金を払うと、大工さんは帰って行った。
時刻は午後三時。春だからか日の入りも早い。空は黄色く染まっていた。
そして最後の方、小物を片付けている時だった。本を僕の本棚に入れていると、見覚えのない本があった。
正直この家にずっと住んできたがお父さん、お母さんの部屋のものではない。その二部屋のものは別の場所に分けておいたはずだ。
表紙を見てみると、『日記』と書いてあった。字的に多分おじいちゃんのだろう。
開いてみると、いたって普通の日記だった。どちらかと言うと魔法学のことを書くことが多かった。
そうして読み進めていると、
『九月五日。これは大発見だ。レポートを書いて発表しなければ』
と言うページがあった。そしてまたページをめった。
『九月六日。レポートが完成した。あとは明日発表の話もついた。楽しみだ』
そうか。これは炎の魔法か魔法の種類分けかを発見したのか。
『九月七日。大変だ。朝起きるとレポートが盗まれていた。どこを探してもなかった』
どう言うことだろう。
『七月八日。あのレポートをブルーズが発表しやがった。世間は魔法は本当にあったと騒ぎ立てている。発見したのは俺なのに』
魔法は本当にあった? この文を読む限り魔法を発見したのはおじいちゃんだったように見えるけど。どう言うことだろう。
『七月九日。ブルーズが俺の発表を盗んだと言ってみたが信じてくれる人がいるはずもない。魔法を発見したのは俺なのに……』
やっぱり魔法を発見したと言っている。と言うことはおじいちゃんとブルーズが仲が良かったと言うのは嘘だったのか?
『七月十日。これから俺は新しい研究を始めようと思う。炎の魔法だ。実験の途中でたまたま見つけたやつだからまだ世間は知らない。見返してやる』
そこからずっと読み続けたがそれ以降特に何もなかった。
「おーい、何してるんだ?」
アラスターの声で一気に引き戻された。
「あ、アラスター、おじいちゃんの日記なんだけど見て」
僕はそういいさっきのページを開いた。
「え? これって……ってことは君のおじいちゃんが魔法を発見したってこと?」
「多分……そうなるよね」
僕はそう言った。
「一応……警察に渡してみる? 遅いかもしれないけど」
「うん……」
その日はみんなが荷物を運んでくれていて改修工事も何もなく終わった。
その日の夜、日記を警察に渡しに行った。
「これ……五十年くらい前のだよね。じゃあちょっと……厳しいかな。申し訳ないんだけどノールズが魔法を発見してから時間が経ち過ぎてる」
「あ……じゃあ持って帰ります」
そう言って僕が持って帰ろうとすると、警察の人が、「ちょっと待って」と言い僕を引き止めた。
「これ……一応預かっといていい? いつか他の証拠が出た時には使えるから」
そう言ってパッと取られた。
「あ、はい……」
その日は家に帰るしかなかった。
「どうだった?」
家に帰るとアラスターが料理をしていた。アラスターは料理をするか採集をするかだから家にいるときはずっと料理をしている。
「いや……一応預かってもらったけど調査はできないって」
「持って帰ってきたの?」
「いや、預かっとくって言われたから渡した」
「そっか。まぁこれでも食べなよ」
そう言って出されたのはステーキだった。
「最近牛肉を作るところが増えてきててさ。だから安くなってきたの。これからは肉でも増やしていければなと思ってて」
「そうなんだ。前まで野菜ばっかだったからね」
そう言って僕は食べ始めた。
「どうした? なんか元気ないぞ?」
アラスターが顔を覗き込んできた。
「いや……ショックで……」
「そっかぁ。まぁおじいちゃんの分も俺らが取り戻したらいいじゃん」
そうか。僕には研究室がある。これでおじいちゃんの分まで取り戻そう……。
僕そう固く決心した。