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魔法屋  作者: 兎
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第一幕 三話

 魔鉱石は思ったよりもろかった。今回の実験もそのような結論しか出なかった。これで三個目。今まで貯めてきた魔鉱石に対する仮説は大量にあるが当たりそうにない。

 そしてもう日が暮れてきた。カラスがカーカーと鳴き出している。

 いつもだと帰る時間だ。だがまだ帰ることはできない。理由はさっきも言ったが、魔鉱石は時間が経つと純度がどんどん低くなっていく。一週間もたてば中に入っている魔力は半分ほどになる。そのため寝ている暇もないのだ。

「さすがに帰らない方がいいよね」

 と僕が言うと、イザークは、

「純度落ちるしね……。俺は研究室あるから帰れなくなることもあるかもしれないとは言ってるし大丈夫だよ」

 そしてベルナールも、

「魔鉱石は普通に置いてると何故かわからないですが痛むってこともあるらしいですからね……」

 と言った。続けて、

「私も研究室で帰れなくなるかもとお父さんに言っているので大丈夫です」

 と言っていた。

「他のみんなは大丈夫なの?」

 と僕が聞いたが、僕、イザーク、ベルナール以外はみんなこの学校の寮で生活しているらしい。

「僕は大丈夫だよ。一人暮らししてるし」

 と先生も言っていた。

 と言うことは帰らないといけないのは僕だけだ。

「どうしよう……」

 と悩んでいると、ハヴェルが、

「俺の伝書鳩つかう?」

 と言ってくれた。そう、すっかり忘れていたが、ハヴェルは伝書鳩使いという魔法を持っている。この魔法は、名前の通り伝書鳩を飛ばすことができる。しかも場所はハヴェルが知っている場所であればどこでもいってくれるのだ。すでに躾けられた鳩も生み出すことができる。そしてハヴェルは一回だけ家に招待したことがあったのだ。

「え、いいの?」

 僕はそういい伝書鳩を使わせて貰うことにした。

 するとハヴェルの手から鳩がポン、と出てきた。

「こいつに紙持たせたら送れるよ。君の家一回行ったことあるし」

 そう言われたので僕は紙に今の状況を書いた。

『魔鉱石を見つけたので、実験をしないといけなくなりました。なので少し家に帰れなくなります。ダニエル』

 その紙を伝書鳩の足へとくくりつけると、バサッバサッと鳩が研究室の窓から飛んでいった。

 そこからは全員が帰らなくても良くなったためずっと仮説を検証し続けていた。

 一つは魔鉱石をすべすべにすると何か見える説だった。水晶みたいなものだと思ったが、何もなかった。

 二つ目は魔鉱石をボロボロにしたら何か起こる説だったがさっきの実験でボロボロになっていたため魔鉱石の無駄としてやらないことになった。

 それからも結構な数の仮説を検証してきたがついに、

「私コーヒー飲まないと無理かも」

 とオルガが言ってコーヒーを淹れはじめた。眠気と疲れが出始めてきたのだろう。

 そのためみんなもらうことにした。オルガはなぜか知らないがコーヒーを入れるのが上手かった。

 だが深夜0時を回った頃、先生が、

「もう限界」

 と言い床で寝始めてしまった。

 そして、アラスターも

「じゃあ……俺も仮眠とる」

 と言って寝てしまった。

 そこから伝染していくかのようにみんな寝はじめて行ったのだった。最後まで起きていた僕は一応電気を消して寝た。魔力に敏感な体質で魔力を使う証明だと眠れないからだ。

 次の日は朝日で起きた。だいぶ寝ちゃった。起き上がるとみんないなくなっていた。そして外では何かザワザワしていた。

 昨日のとは日にならないほどの新聞社などもきていた。

「何があったの?」

 たまたま近くにいたアラスターに聞くと、

「魔鉱石を盗まれたんだ。寝てる間に誰か入っちゃったっぽい。あぁ油断してた」

 と頭を抱え込んだ。

「電気ついたら気づいてたはずなんだけどなぁ」

 僕は寝ていても魔力を使う電気がつくとなぜかすぐ起きる。だからたまたまとは思えない。

「暗視持ってるんだよ。盗んだやつ」

 アラスターはそういうと広場の方へと歩いていった。

 その日は学校がなくなったため家へと帰った。

 あれ。魔法屋空いてない。今日って魔法屋定休日だったっけ。

「ただいま」

 僕は魔法屋の裏側の家の出入り口に入った。だが中はしんとしていた。

「まだ寝てるの?」

 僕はそう大声で言ったがどこからも返事が返ってこなかった。

 恐る恐る家の一部屋一部屋を見て回ったが誰もいなかった。買い物にでも行ったのかと思って一応魔法屋の方に置き手紙がないか見に行った。

 僕は階段を大きな足音を立てながら降りた。

 僕の両親は家を出る時だいたい置き手紙が残っている。

 すると予想通り置き手紙が残っていた。だが、そこには衝撃の事実が書いてあった。

『魔鉱石は俺がもらった。すまない』

 そうとだけ書かれていた。字からも確実にお父さんだろう。

 そうだ。僕のお父さんは暗視を持っている。しかも伝書鳩が届いた時間を考えると全然みんなが起きるまで間に合う。

 奥はその場に座り込んで泣き出した。このままどうすることもできない。

 だが僕は気づいた。このまま泣き続けていても仕方がないと。

 それから座ったまま五分ほどどうすればいいか悩んだが、一旦学校に戻ってみることにした。どうしようにも誰かに話さないと始まらない。

 手紙を片手に僕は家を飛び出した。走り続けていたため倒れるかと思ったがその時はそんなことも気にせずとにかく走り続けていた。

 気づくと学校についていた。まるでワープでもしたかのようだった。

 僕はまずいつもの研究室に入ろうとしたがそこは警察に封鎖されていた。さっきのことがあったからだろう。

 だから僕は学校内を走り回って研究室の誰かがいないかを探し回った。

 五分くらい走り回っていると研究室の先生が廊下を歩いていた。

「あ、あの……」

 僕がはぁはぁ言いながら話しかけると、先生は

「一旦落ち着け。で、どうした?」

 とゆっくり話しかけてくれた。

「あの……。家に帰ったらこれがあって……」

 僕は片手にあった手紙を先生に見せた。

 先生は驚いたようにそれを何度も見返し、

「え? これが家に置いてあったの?」

 と聞いてきた。そりゃあ驚くはずだ。

「ダニエルの家って……確か両親がが魔法屋経営してたよね」

「はい……でも最近うまく行ってないとは聞いてましたけど……」

 そう、最近は魔法の勉強が義務化してきたりして魔法屋の需要がなくなってきている。だからうちの魔法屋も経営がうまく行っていないと聞いた。

「いや、でも昔一回あったけどそんなことする人じゃないようにみえるけどなぁ」

「僕もそう思いますけど、やっぱりこういう手紙があったんで……」

 正直お父さんとお母さんがそんなことするとは思えない。ただこれがある以上やったとしか思えない。あの量あれば人二人分くらい余裕で生きていけるだろう。魔鉱石はそれぐらい多かったのだ。

「まぁ信じようよ。でもその手紙は一応警察に渡しとくから」

 先生が手を差し出したため僕は手紙を先生に預けた。

「じゃあ今日はもう帰ってくれる? 警察に言ったら君に新聞社とかくるだろうし」

 そう言われたのでその日は帰ることにしようとしたが、家には誰もいないことに気づいた。こんなことがあった後に家に誰もいないと正直言って怖い。

 僕はアラスターがこの学校の中にある寮に住んでることを思い出したため行ってみることにした。

 アラスターの部屋の前に着くと、ドアをノックした。

「ん? どうした?」

「僕家帰ったらお父さんとお母さんいなくなっててさ……」

 僕はそこから今まであったことを全て話した。するとアラスターは、

「今日君の家泊まって行っていい?」

 と言ってくれた。そうして僕たちは僕の家へと向かった。

 うちの学校は授業とか研究室とかに出ていれば寮の外に出たりするのは自由らしい。

 そしてこの事件があってこの学校は一週間休み。警察が徹底的に探すらしい。そのために僕は家の住所を渡してきていた。

「家になんか食材ある? 俺一応最低限は料理できるんだけど」

 そういえばアラスターは昼休みは食堂で食べずに毎回部屋に戻っている。料理していると聞いたことがあったけどほんとだったっぽいな。

「いやー何にもないな。いつもお父さんが完成してるやつ買ってきてるから」

 僕はそういい家のドアを開けた。

「制作室に魔法系のやつだったらあるけどそれ以外ないよ」

 僕はそういいアラスターを制作室へ案内した。

「すげぇ。自宅に制作室あるんだ。そっか魔法屋だもんね」

 アラスターはいろいろなものを見て回っていた。そしていくつかの材料を持つと台所に向かっていった。だがあんな材料で料理ができるとは思えない。実際全部魔法がついている。少しでもmpが入れば魔法が活性化してしまうのだ。

 mpはものすごく少しだが空気中にも漂っている。場所が高ければ高いほどマソも強くなていくため高い場所にポピーなど炎系の花とヒヤシンスなどの氷系の花は生えないらしい。

 するとアラスターはポピーにmpを吹き込んで火を起こした。うちの家はガスが通っていない。最近は城下町の方で通り始めたらしい。そこから黄色のポピー(雷)を火で炙り出した。

「これ意外と美味しいんだよ。昔本に載ってて試してみたらいい感じにピリピリしてた」

 アラスターはそう言っているが僕は信じれなかった。

「嘘でしょ」

「嘘じゃないよ。じゃあ食べてみてよ」

 そう言って黄色い花を差し出してきたため僕は疑いながら口に入れた。

 それはすぐに喉を通った。ピリピリした感覚とサクサクした食感が美味しかった。

「ほら。美味しかったでしょ」

 そう言ってアラスターは他にもいろいろな食べ物を作り始めた。ほとんどは見たことない物だったけどアラスターのことだし安心していた。

 そしてアラスターが作った料理は期待通り、いや、期待以上に美味しかった。

「どう?」

「美味しい。アラスター料理できるとは聞いてたけどここまでとは思わなかったよ」

 その日の夜もアラスターがご飯を作ってくれた。

 アラスターはいつも自分しか食べてないから美味しいかわかっていなかったらしい。

 そうしていろいろあったその日も最後は安静に終わることができた。

「そういえばいつまでいていいの?」

 次の日、アラスターが聞いてきた。

「正直ずっといてほしいけど……。迷惑だよね」

 僕がそういうと、アラスターが

「前言っと思うんだけど、将来の夢が魔法屋を経営することなんだ。だから俺と一緒に後継しない?」

 僕はそう言われて思い出した。ここはこの村唯一の魔法屋と言うこと。そしてそこを経営している人がいなくなってしまったと言うことを。

「でも学校あるじゃん。学校終わってから?」

 と僕が聞くと、

「退学すればいいじゃん。俺も君も今は親いないんだよ」

 と言った。

 退学と言うても一つの手だ。最近は魔法学校の価値が下がってきていたため退学していく人も増えていた。ただ、僕たちにはやらないといけないことがあると思ってずっと避けて通ってきた。

 あとアラスターに親がいないことを今知った。だがあそこまで料理がうまいとなんとなくだが納得できた。

 将来から考えると馬鹿なことだとはわかってきていたがせっかくの楽しい時間をなくす方がもったいないと思っていた。

「研究室は……」

 僕がそういうとアラスターは頷いた。そして、

「そうしないと生きていけないよね」

 と言った。その通りだ。家のお金は全て持って行かれていた。誰だかはわからない。だが生きていくには必要になってくるのだった。

「あと研究室のみんなと連絡取れるようにして卒業したらやるって言う方法もあるよ。確かベングドは卒業したら魔法教師になるって言ってたし。ハヴェルはこの研究が終わらない限り実験は続けるって言ってた。ベルナールは魔鉱石の研究をしたいって。オルガは学校の先生になるらしい。この話題してた時君とイザークがいなかったから知らなかったと思うけど、周りも意外と熱心なんだよ」

 そう、これから道はいっぱいあるのだ。みんな夢を持って頑張ってやろうとしてる。

 僕らは決断し、二人で紙を持って学校へと向かった。

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