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第二章 過去と今。(6)

結局、あんな状態の人間に話を聞くことなどできるわけがなく、姉ちゃんには神無月のことを聞くことはできなかった。

まぁ、帰ってからだな。

しかし、大方の予想はついている。

神無月は姉ちゃんと昔からの知り合いで、それで俺のことも少し知っていたと。

この仮説が正しければ、今までの神無月の行動も納得がいく。

あるいは、俺の―

「おはよう」

「え? あっ、ああ、おはよう」

ちょうど神無月のことを考えながら登校してきた俺は、神無月に挨拶をされて少し驚いてしまった。

「昨日はありがとな」

俺は鞄から教科書等を取り出し、机の中に入れながら言葉と耳だけ神無月の方へと向ける。

「別にそう何度もお礼を言われるほどのことはしてないのだけれど」

神無月も本を読みながら、言葉と耳だけを向けてくる。

「お礼ってことであなたが今すぐここから飛び降りて永眠してくれれば、すごく嬉しいのだけれど」

またかよ…。

どうしてこんな毒舌キャラなんだろうな。

 普通な時もあるのに……。

「おい、そんなお礼はしないぞ」

「冗談よ」

「それは知ってる」

会話の返しがお互いに早くなっているというのは、言うまでもないだろう。

どうやら俺は、こいつに慣れてしまったらしい。

「あれれ? なんだかよからぬ感じがするな」

俺と神無月の中心に、意地悪な笑みを浮かべた夢風が現れた。

「どうした?」

「紫苑と水無月くん…なんか一日でめちゃくちゃ仲良くなってない?」

「そんなことない…………わけでもないかもしれない」

少し照れくさいのだが、事実だと思う。

「まったく水無月くんも隅に置けないな。私の紫苑が取られちゃうかもしれないね」

「ちょっと、夢乃」

「ん~。いいじゃんいいじゃんっ」

そう言って、神無月のことを後ろから抱きしめながら、ニコニコ笑っている夢風。

嫌がっているような雰囲気を神無月は出してはいるが、内心はかなり喜んでそうだった。なんとなく分かる。

そんな仲睦まじそうな二人を見て、

すごいだろ? これ、夢風の方は全部演技なんだぜ。

「で。紫苑は水無月くんのことどうなの? なんか怪しい感じがするんだけど…」

あざとく微笑む夢風。

そんな夢風とは対象的に、神無月は無表情で、

「特になにもないわ」

「本当に?」

「ええ、何も。強いて言えば、今すぐ窓から突き落としたい……ってくらいかしら」

「何かと俺を突き落とそうとするよな! ねえ? それも冗談なんだよね!」

「さぁ、どうかしらね」

「どうしかしらねって、冗談って言え! なんか怖いから」

「いやよ」

そんな俺と神無月のやりとりを見ていた夢風はいきなり笑い出す。

「ふふふっ、なんか紫苑と水無月くん夫婦漫才してるみたいだねっ」

「別にそんなつもりはないんだが…」

その瞬間。ほんの一瞬だった。

神無月から離れた夢風は一言、顔を少しうつむかせて言った。

「ちょっと妬けちゃうな…」

「夢乃? 今何か言った?」

どうやら神無月には聞き取れなかったらしい。

「ううん。何も言ってないよ」

「そう…何か言ったように聞こえたのだけれど」

「本当になんでもないって」

はっきりと聞こえたわけではないのだけれど、おそらく言った内容は聞こえていたと思う。

妬けちゃうな…って言ってたよな。

どうして夢風も神無月も……

もっと分かりやすい人間になってくれないんだよ。

と、心の中で愚痴を呟いたのだった。


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