1項目 今日は快晴?
藤波真夏です。
今回ですが、まだ私が「小説家になろう」を始める前に執筆していた作品を投稿することになりました。
この小説は「なろう」で初投稿した『アヤカシ草子』よりも以前に書いた、まさに原点です。
いつもはファンタジーばかり書いている藤波が、まさかの日常系のお話を書くなんて未来の私は驚きです。
なので、今回はあえて小説を無修正・無改変のありのままでお届けしますので、温かい目で見守ってくれたら嬉しいです。
なお、次回からは前書き・後書きを世界観に浸って欲しいのでカットさせていただきます。
よろしくお願いします。
☆Manatsu Fujinami☆
1項目 今日は快晴?
4月15日金曜日、快晴。
姉ちゃんが朝から出勤。毎日続いているこの日。どうして俺が花屋のバイトを受け持つことになってしまったのか。花は母さんが庭で愛でているが俺はどうも興味なんて湧かない。女子ってどうして花に群がるんだ? よくわかんねえ。さあ、仕事を始めよう。 佐月
俺が学校からそのまま花屋に向かう。今日もお客さんは少ない。このままだと赤字なんじゃないの、と思うくらい少ない。うん、少ない。
姉ちゃんもよくここに就職した。その経緯が分からない。確かに板橋は学生がたくさん通る。(近くに大学あるし、俺の高校も近いし・・・)フローリスタの前も結構人通る。人通りはいいんだけど入ってくんないからなあ・・・。
でも俺はここで稼いでおかないと昼飯代に困る。あと姉ちゃんにしている借金も返さなきゃいけない。様々な事情で俺はフローリスタに放り込まれた。
俺の主な仕事は接客やレジ打ち、花の搬入。店長の中澤さんが結構こき使う。
「文ちゃんの弟くんは若いから助かるよ!」
っていつも言われているけど、俺あんまり体力に自信ないんだよね。これを言ったら中澤さんショック受けるから絶対に言わない。
制服からいつも置いてある動きやすい格好になってエプロンをつける。エプロンなんて学校の調理実習以外ほとんどつけないのに。
今日も暇(?)な店番、開始です---。
「佐月、ちゃんと立って」
後ろからけたたましい声がした。これを聞けば誰だかおおよその見当はつく。文姉ちゃんだ。俺より6歳年上。大学を卒業してからこのフローリスタで働いている。姉弟揃って店番なんて、夢から覚めてほしい。
「ちゃんとやってるって」
「言い訳すんな。中澤さんが多めに見てくれるからいいものを。世の中甘くないんだぞ、少年」
「少年じゃねえし」
こんな会話いつものこと。姉と弟の喧嘩がこれって友達に言ったら絶対イジられる。うん、絶対そうだ。
そうしているうちにフローリスタの扉が開いた。
「「いらっしゃいませー」」
声が揃った。そこは血の繋がった姉弟なんだなって思う。これだからあんまり姉ちゃんを悪く言えない。その場でなんとなーく収まってしまう。不思議だなあ。
入ってきたのはおばあさん。白髪頭の混じったシワのあるおばあさんだ。店の中をウロウロしている。俺は立っていることしかできないが、姉ちゃんが俺の脇腹をどついてきた。
「いっ?!」
すると姉ちゃんは口をパクパクして俺に言う。
(聞いてこい)
またパシリかよ。姉ちゃん、別に対人恐怖症じゃねえだろう。しかも俺よりここで働いているキャリアあるだろう? なんで弟を危険区域に突き出すかな?
仕方ない。俺は前へ出ておばあさんに声をかけた。
「あの、何かお探しですか?」
するとおばあさんは少し考え込んでいた。目当ての花の名前が出てこないのかな? と考えた。しかしそんなことはなかった。おばあさんは店の手前にあるピンク色の花を指差した。
「あれにするわ。あれを頂戴」
さしたのはピンク色の花。ネームプレートにはスイートピーと書かれている。ここに入る時姉ちゃんは言っていた。
「スイートピー、最盛期は3月から4月。実はマメ科。別名香豌豆。マメからほのかな香りがすることから名前がついたのよ」
姉ちゃんは花屋で働くにあたって花の知識を頭に叩き込んだらしい。これは中澤さんがお願いって頼んだわけじゃないそうだ。姉ちゃんが張り切りすぎて店に置いてある花の名前とそれに関する知識をいつも勉強しているという。
俺の部屋には国語や数学のプリントファイル教科書が山積みになっているが、姉ちゃんの家では植物関係の本がこれでもかっていうくらい山積みになっているらしい。姉ちゃんはもう実家を出てるからどうなっているのかは分からない。俺の想像だ。
「かしこまりました」
俺は奥から新聞紙を取ってきてスイートピーを数本取ってくるんだ。姉ちゃんのいう通りスイートピーは香りがすごい。俺が「スイートピー」と聞いて思いつくのは、松田麗子のヒットナンバー『赤いスイートピー』がとっさに思いつく。
高校でよく聞く。っていうか国語の先生が鼻歌でよく歌う。うんざりするほど聞いているから耳に残った。でも誰しもが知るヒットナンバーであることは間違いないと思う。
「プレゼント用ですか?」
花屋の鉄板用語。だいたい家で飾ったりするけどほとんどがプレゼント用。おかげでレジの隣の作業台の後ろには色とりどりの包装紙やリボンが備え付けてある。だいたい中澤さんの奥さんがやっている。
俺はほとんどやってない。俺は不器用だしまあ入りたての新人にやらせるほうもどうかと思うけど。俺は姉ちゃんに花を渡して先にレジへ向かう。
「1300円になります」
俺がそう言うとおばあさんはしわくちゃの手で財布を探りお金を出した。俺がお金を受け取りレジを開いてレシートを渡した。
「君はいくつかい?」
声をかけられて硬直。
おばあさん、いきなりは反則ですよ。俺だって驚くぐらいあります。
「俺ですか? 今17です。高校生の」
「高校生か・・・。うちの孫娘は今年高校に進学したのよ」
「そうですか。おめでとうございます」
孫娘が高校に入学か。ということはこの花はお祝いなのか? そんな考えを巡らせているとおばあさんの顔に陰りがさす。
「でもね・・・、あの子人見知りで友達が少なかったらしいから・・・新しいところでやっていけるか不安なの」
それは夢の高校生生活に待ち受ける一不安。友達ができず孤立している人もいる。内気なやつとかがなる。それを言うと後で職員室に呼び出されるからこれ以上は言わない。
「それは不安ですね・・・」
同意の言葉しか出てこない・・・。ここは先輩としておばあさんの孫娘に一言物申したかった! アドバイスができなかった俺のバカな頭に後悔した。何をやってるんだか。
「お待たせいたしました!」
姉ちゃんがスイートピーを花束にして持ってきた。しかしかなり大きい。腰の弱いおばあさんにはこれは重荷じゃないのか? 花に合わせて白い水玉の包装紙に赤いリボンがラッピングされた花束。
「ありがとう」
おばあさんが受け取ると少ししんどそうだった。俺は一体何を考えたのだろう? とっさに言葉が出てきた。
「家までお届けしましょうか? このまま」
これには俺だけじゃない、姉ちゃんも驚いていた。無理やり花屋で働いている高校生アルバイトとは思えない。俺はその言葉を後々後悔した。
「いいの?」
口から出てしまったものを訂正するわけにはいかない。俺はそのまま頷くしかできなかった。姉ちゃんはにやっと笑って俺の背中を思いっきり叩く。しかも手のひらで。(重要)
「私の弟がいきますので、じゃんじゃんこき使っちゃってください!」
「はあっ?!」
親は子供を崖から突き落とす、とかいうニュアンスの言葉を学校の授業で先生が言っていたことを思い出す。あれ、テスト範囲だ。そんなことはどうでもいい。これこそ姉ちゃんが俺を崖へと突き落とした瞬間だ。
解せぬ、許せるものじゃない。今度姉ちゃんに彼氏いないってからかってやる!
俺はおばあさんの隣を歩いた。まさかエプロン姿で板橋のど真ん中を歩くなんて・・・。このまま進むと大きな商業道路、大正通りに出てしまう。あそこは人の行き来が多いのにこれでは晒し地獄だろ。大正通り沿いには俺の通う高校もある。
見られるのは恥ずかしい。
板橋通りを抜けて狭い道を進んでいくと一軒家が見えてきた。きっとあれがおばあさんの家なんだろう。
「ありがとう、お花屋さん」
おばあさんが扉を開けるとそこには女子が立っていた。俺と同じくらい、いや今年入学した孫娘がいるって言ってたなあ・・・。もしかして、
「おかえり」
おばあさんは俺から花束を受け取ると孫娘に向きあった。
「真里、入学おめでとう。おばあちゃんからお祝いよ」
ピンク色のスイートピーの花束がおばあさんの手から真里さんの手に渡った。でも真里さんの表情は浮かない顔だ。もしかしてフローリストで言っていた内気な---。
「あの・・・」
居心地が悪くて俺は言葉を発した。花に興味がないのになぜこんな・・・。
「おばあちゃん。私、やっぱり不安なの。またいじめられるんじゃないかって・・・」
「真里」
真里さんはどうやら過去に何かあったらしい。内気な彼女はこれから始まる新生活に不安しかなさそうだ。俺にはその経験はない。という面倒ごとは避けてきた。俺は逃げることしか出来ないから。中にはこういう人もいたんだ。
「ん?」
真里さんが花束の中をごそごそと探っている。花束の中に何か入ってるのか? 姉ちゃん何を仕込んだのか? おいおい、本当に解せぬ。もし大事ならそのフラグを回収する俺の身になれ! 本当に姉ちゃんは野蛮だなぁ。
真里さんが取り出したのはメッセージカードのようなもの。おばあさんも驚いている。こっちを見てるけど俺にもどうすることも出来ない。俺だって予想外なものは出てきたから。
「サービスですか?」
「すいません、俺にも全く・・・いつの間に入れておくなんて用意周到な行為」
メッセージカードには何が書かれているのだろう。俺も興味がある。こんな興味をそそるものがあるのか。
真里さんがメッセージカードを開くとそこには押し花が貼られていた。メッセージはこんな言葉が---。
高校ご入学おめでとうございます。ピンク色のスイートピーの花言葉は『別離』や『優しい思い出』と言われますが、『門出』とも言われます。スイートピーの香りは香水のような甘い香り。女性らしさの象徴です。より良い高校生活になることを願っております。
From板橋 florist
「姉ちゃん、いつの間に・・・」
ピンク色のスイートピーの花言葉は『門出』。彼女にとって一番欲しい言葉だったと思う。
初々しい高校生の門出を祝うそんな花。俺はただ真里さんが愕然としている姿しか見えなかった。
「あのお花屋さんはね、板橋に住む人たちが想いを花に託そうとやってくるの。素敵なお花屋さんよ」
おばあさんが真里さんに言った。姉ちゃんの部屋に植物関係の本などが山積みな理由がようやく理解できた気がする。俺はそんな花屋でバイトしているのかと思うとなんだか照れくさい。
「私、赤いスイートピーしか知らないけど、ピンクのスイートピーも綺麗だね」
真里さんは笑顔になった。花束に添えられたカードが一人の女の子を変えてしまった。おばあさんの想いが花を通じて伝わったんだ。
夕方になって俺はフローリスタに戻ってきた。戻ると姉ちゃんがレジにいて台を吹いていた。おかえり、と返してきて俺はただいま、と小さい声で返した。
「あれ、姉ちゃんだろ?」
「だったら?」
姉と弟の会話が始まる。言葉では言えないがすごいと思った。
「佐月もあれ、やってみたら?」
「え?!」
「母さんの部屋に園芸や花言葉の本たっくさんあるからそれで勉強したら? フローリスタで働く以上はね」
姉ちゃんは笑って店の奥へ行ってしまった。一人店の表に残された俺はたくさんの花たちを眺めていた。花一つで人を笑顔にする。想いが通じた時、花は輝き出す。
「俺にも・・・できる・・・かね?」
俺は花なんてそこまで興味なかった。なのにこれでは母さんにからかわれる。なんだか花に興味が湧いてきた。男のくせにって言われそう。
2日後、フローリスタへバイトに行くと俺はカバンから小さな手帳を出した。これは俺がメッセージカードを書いた人のことを書き記すため。何にでも適当にやってきた俺がこんなものを書くなんて。
「なんて題名にしよう?」
俺は考えてふっと思いつき、油性ペンを走らせた。
『florist diary』
この手帳の題名。お花屋さんの手帳、誕生だ。
注意
この小説の内容に関してはフィクションであり、実在の地名や建物名が出てきますが実際のものとは全く関係ありませんので、ご容赦ください。また、様々なものが文言を変えて登場しますがこれも実際のものとは関係ありませんので、ご注意ください。
☆MAnatsu Fujinami☆