リセットボタン
「あーあ、もっと若いときに勉強しとくんだった!」
公園で、誠司はため息まじりにつぶやいた。
「もういっぺん、やり直してみますか?」
白衣を着た謎の青年が話しかけてきた。
「そんなことできるわけないじゃん」
「できるんですよ。ほらこれ」
指輪のようなものを見せられた。宝石ではなくて、ボタンがついている。
「このボタンはリセットボタン」
「リセットボタン?」
「戻りたい時点まで戻ることが可能です」
「へー」
「しかし……」
青年が注意事項を言おうとした瞬間、誠司はリセットボタンを押してその場からかき消えてしまった。
「困った人だ。今度はもう少し被験者を見極めないと」
青年は首を振り振り立ち去った。
☆
「高校の時じゃん!」
誠司は大喜びだった。
「勉強……なんてしないよな!やっぱ青春をエンジョイしないと!」
遊びたいだけ遊びまくった。彼女も何人も作ってやりたいほうだい。
テストは白紙で提出して赤点でにっちもさっちもいかなくなると、リセットボタンを押した。
思いつくだけやりたいことをやりまくった。
「これ、は、前もやった」
だんだんマンネリ化してきた。
不満が募り、なげやりな気持ちでリセットボタンを押した。
幼稚園のころに戻った。
誠司は母親の細やかな愛情を一身に受けた。
「なんて幸せなんだろう?」
お母さん!俺はお母さんを幸せにしただろうか?
誠司は泣いた。
俺は……。
リセットボタンを押したが、なんの反応も起きなかった。
時間は普通に動き出した。
誠司は真面目に勉強して会社に入り、親孝行した。
いつかの公園に行くと、白衣の青年と再会した。
「リセットボタン?それはどうでしたか?」
青年はまだリセットボタンを開発する前だった。興味津々で誠司の話を聞いた。
「ぜひ、開発してください!」
動かなくなったリセットボタンを青年に託して、誠司は自分の人生を謳歌した。