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アプカるるDream Fighter  作者: ふるうつ盆地
11/11

Fight-11 新時代

 そもそもの発端を思い出せ。

 政府によって、水道もガスも電気も止められ、街道を検問で封鎖され、空爆と砲撃によって街からの脱出も叶わず、ただただ嬲り殺しにされるだけだった日々から、どうして今の活況まで復興を遂げられたのか。

 『杖』で空中から水と燃料を取り出したからだ。

 『杖』で発電機を回して電気を発生させたからだ。

 『杖』で瓦礫を撤去して交通を再開できたからだ。

 『杖』で物資の運搬を可能としたからだ。

 その『全て』を、女が担当したから、だ。

 だというのに、ちょっと事業が上手く回り出した途端に、「女は邪魔だからすっこんでろ!」と?

 いい度胸してるじゃない。

 そっちがその気なら、こっちだって今まで散々、ただ働きさせられてきた分、キッチリと取り立てさせて貰うからね!



「これで、居住区のウォールドール完成、と」

 相変わらずの謎の怪音を轟かせながら、白い巨人が居住区の出入り口前に着陸した。

 ほぼ同時に、姫子がこれまで造りに造った他の巨大フィギアも、居住区と商業区の連絡道路を塞ぐ形で移動を完了、巨人の群れが居住区を守る鉄壁を成して、白日の下に偉容を誇る。銃を天高く向けるモノ、天を仰いで月を支えるモノ、日輪を背負って腕を組むモノ、放熱板を拡げて両肩の砲を番えるモノ、ポーズは様々だが、男を断じて通さないという鋼の意思だけは共通だ。

 同時に居住区の中からは、子供と老人を除く男達が、女達の魔法によって追放されて、商業地区へ向けて空をかっ飛んでいく。

「たーまやー」

「いや、爆裂しないから」

 女の「外出禁止令」なら、裏を返せば「男の強制外出」だ。真っ昼間から居住区でゴロゴロしている男なんて、全員追い出してしまえばいい。

「極端すぎね?」

「先に始めたのは、向こうよ」

 居住区はそもそも、政府軍の襲撃に備えて籠城できる体勢を整えてあった。食料は備蓄していたし、水と電気は自前で調達可能。地上を封鎖しても、空を飛んで物資の運搬は継続できるので、しばらくは保たせる事が出来る。

「我慢比べってわけ?」

「堪忍袋の緒を斬っただけよ、男共が」

 そもそも不満は燻っていた。

 当初は内戦状況下の緊急支援だったため、水も燃料も電気も無料で供給するしかなかったのだが、街が商業的活動を始めた後も、女達の魔法は『無料奉仕』で消費され続けてきたからだ。労働という意味では、インフラを支え続けてきた女達にも、二酸化炭素という商品の生産業務に対しても、相応の報酬が支払われてしかるべきだったにも関わらず。

 それを女たちは、街と子供を守るため、とグッと堪えて飲み込んできた。

 男たちは、そんな葛藤を知ろうともせず、当たり前として浪費し続けてきた。

 火を付けたのは男たちだけれども、導火線は縦横無尽に敷かれていたのだ。遅かれ早かれ、街の分裂は不可避だった。だったら視覚的に分かりやすく、物理的に分断してしまった方が、相手に与えるダメージがデカい。

『ノノ! 出入り口は完全に遮断したよ』

 可動防御壁で通路を封鎖していたナーディヤから作戦完了の報告が入る。

『あとは、街に残ってる男共を射出するわ』

『怪我人と病人、あと医療関係者は勘弁してあげて』

『気にする余裕があったらね』

 口は悪いが面倒見が良いのが彼女の取り柄だ、仕事としてならキッチリとこなしてくれるはず。

 ズバイダ女史のおかげで、女たちの動きは活発にして的確だった。

 ひとえに、女史の情報処理能力の高さ故、だ。複数のモニターを上下左右に整列させ、居住区の地図と照らし合わせて、報告が上がってきたポイントを瞬時に把握。必要な指示を与えて反応を待ち、それをまた次の指示へと反映させていく、機械顔負けの冷静沈着な判断力。

 それは、男女なんて関係ない、純粋にズバイダという個人に与えられたギフトだ。

 そもそも、単純な力仕事からほぼ解放された現代で、男女で仕事を分ける意味とは一体なんだ。

 いな、違う。

 悪いが「男」には『杖』は扱えない。これは単純に、そう作られている。そもそも太古の昔から、魂を通じて幽世に接続できる能力は、女性が独占してきたのだ。巫女が神と対話をしてきたからこそ、この世界は文明を獲得して発展し続けてこられた。

 この数世紀、科学万能信仰がはびこった反動で忘れられてきただけで、人類の歴史の大半は、巫女とカミが支え続けてきたにも関わらず、男共は政治と戦争に明け暮れ、足元がどうして盤石を保っているのか、振り返ろうともしなかった。

 ヤハウェと名乗り、ゴッドと呼ばれ、アラーと崇められた万能神は、たしかに存在する。

 だがもう「地球」には居ない。次の星系へと旅立ってしまったからだ。

 一寸の虫にも五分の魂。つまり、1.5センチの欠片さえ在れば、21グラムの魂は現界し、恒星間天体を駆れば宇宙も跨ぐ。そうして次の「万能神」が訪れるのは、百年後か、はたまた千年の後か。

 そんな当てにならない存在を待つくらいなら、そもそも1万年以上前からこの地上を支配してきたカミガミを、再び敬い崇め奉るのは、当然の結論なんじゃないのか?

 人間だけでは、科学だけでは、この広大無辺な大地を御しきるなんて不可能だ。

 そのためにはどうしたって、目に見えないカミガミの力を頼らざるを得ない。

 そのカミガミとコンタクトを取るのは、女だけに与えられた使命だ。

 男が現実世界で力を振るえるように作られたのなら、女は精神世界でカミガミを操れるように作られた。

 そうやって数万年、世界は保たれ続けてきたというのに、男達は目に見えないカミガミを信じることをせず、科学に傾倒して戦争に明け暮れ、果てには地球を滅亡に追い込もうとまでしている。

 新世紀と呼ばれ、希望の未来と言われてきた21世紀が直面しているのは、前世紀から警鐘を鳴らされ続けてきた環境破壊と、温暖化に端を発する異常気象災害の多発であり、それはつまり、男共がこの数十年、何もせずに課題を先送りにし続けてきた末路、だ。

 男が何もしないのなら、せめて女は何とかしなければならない。

 それは男のためではなく、自分と子供のために、だ。

 世界や国際社会や行政の事なんか知ったことか。

 目に映る10メートル四方の世界を守るために、地球環境をどうにかしないといけないのなら、それ以外に選択肢が存在するか。

 否、存在しない。

 とどのつまり、私がカミとなってからこっち、ただひたすらに『杖』を作ってきたのは、そういう衝動に突き動かされてしまったからだ。

 物心ついた頃からカミ様が見えて、語れて、触れることすら出来た自分が、実は古事記のカミの残滓から編まれた最期の生き残りで、おまけに当の御先祖様たちは地球人の魂を残して天国から次の地へ飛び立ってしまったと聞かされれば、せめて末裔として何かをせねば、という気にもなろう。

 それがどうしてこの地だったのかと問われれば、そもメソポタミア地域が現文明の発祥の地であり、序でに言えば、現文明の遙か前に、農耕と天体観測技術を発展させていた超古代文明の遺跡が残っている地域だから、だ。

 アプカルルと呼ばれる7人の魚人によって知識と知恵を与えられた人々の伝承は、この地のみならず、アメリカ大陸でも同様の伝承が残されていて、南米の巨石文明の見事な石積みは、現代の技術をもってしても容易には再現できない緻密さで建造されているという。

 だがそんな超古代文明も、ノアの大洪水とバベルの塔の崩落、そしてソドムとゴモラに下された硫黄と火の一撃という隕石衝突の衝撃で、跡形もなく消し去られてしまった。

 続く文明を率いたのは別の神であり、それがすなわちヤハウェでありゴッドでありアラーであって、かの神は自身を唯一絶対神とすることで、従来の偶像崇拝を悉く否定し、邪教として地方へと追いやってしまった。

 それはいい。

 日本だって同時期、後から来た天津神が、縄文時代から葦原中津国を平らげてきた国津神を追い落として、統治権を奪取したのだから。

 そういった、太古のカミの交代劇が起こったことは、世界中の神話に記録として刻まれている。

 問題は、そうやって星権を取った新たなカミガミが、7世紀の預言を最期に、地球を去ってしまった事、だ。

 最初は意味が分からなかった。

 けれど、わざわざ「最期の預言」とまで強調して天使を遣わし、実際にその後の干渉記録がないということは、西暦7世紀初頭に、この星を去るべきイベントが起こったと推察する他ない。

 そしてその当時の日本はと言えば、遣隋使や聖徳太子、蘇我入鹿の活躍した飛鳥時代に当たり、つまり日本においても、有史から続いた神道支配から、仏教を取り入れた新時代への過渡期にあったという「偶然」だ。結果的に日本もまた、大化の改新を通じてそれまでの神権政治から律令国家へと移行し、神宮の祟りに脅かされる時代は過去のモノとなり、記録からカミの影響が薄れていく。

 カミの、そして統治者の交代劇は、歴史の日常茶飯事として、繰り返し起こっている。

 ならば今、この時に、男から女へと主導権の移譲が起こったって、そんなに珍しい出来事というわけじゃない。

 むしろ、「地球の危機」という切羽詰まった状況ならば尚更、それくらいの革命でも起こさなければ、とてもとても吃緊の課題の解決なんて望めない。

 新時代だ。

 世界中を1度に全て塗り替えてしまおうなんて、そんな大それた夢は描かない。

 そもそも、そんな急進的な方法では、絶対に瓦解する。

 けれど、この一歩を、未来へと繋げる。

 幸い、私の寿命は無限にある。

 綱渡りみたいな一歩でも、進み続けた先に拡がるのは、新しい景色だ。

「で、一体全体、どうすんの、これから?」

「ま、向こうが黙っちゃいないでしょから、それを聞いてからじゃない?」

 私と姫子は巨人の肩の上に座し、男たちが支配している商業区を俯瞰する。

 たった数ヶ月前、ここは空襲と砲撃に晒された廃墟同然の地だった。それが今では、コンテナとタンク、それらを繋ぐ配管が網の目のように張り巡らされた、大工場地帯へと変貌しつつある。付け焼き刃の突貫工事で、とても整っているとは言いがたいチグハグな外観だけれど、それでもあの状態からここまで育て上げた情熱と根性は、賞賛に値する。

 それだって、女たちの無償の献身があったればこそ、だけどな。

 ただ、普通に暮らしたい。

 空襲に怯えず、明日のご飯を心配せず、水と電気が保たれている生活。

 そんなレベルを望むことも出来なかった日々から、ようやく脱却できたのは、この街の女性たちが懸命に『杖』を使いこなしてきたからだ。

 故にこそ、あっという間に、事態は転倒する。

『水と電気が止まったぞ、女どもは何をやってんだ!』

 足元の街で、分かりきっていた混乱が始まっていた。

 私も姫子も、巨人の肩で胡座を組んで、高みの見物としゃれ込む以外に手はない。

「そりゃ、女たちが、8交代制で24時間、水と電気をひたすら回し続けてきたのを、いきなり外出禁止させたら、止まるわな」

「水と電気はタダって思ってたんじゃね?」

 工場の操業が止まってしまっても、街道から商品を求めた車列はすぐには止まれない。徐々に取引待ちのトラックの列が延び始め、クレームと暇潰しで鳴らされるクラクションのオーケストラが響き続ける。

「というか、燃料の備蓄だって、どんだけ保つんかね?」

 普通に考えれば分かることだろうにのぉ。

 どうして女を残らず支配できる、なんて妄想に囚われてしまうのか。

『水と電気に関わる女どもを、今すぐ出勤させろ!』

 足元からこちらに怒鳴る声がする。

 とは言えコチラも、居住区の出入り口を厳重に締め切ってしまったからな。早々簡単に出勤なんて出来ないんですがな。

『水と電気だけで、なんとかなるのかい?』

 居住区の中から、拡声された女たちの笑い声が轟き渡る。当然ながら、居住区内では水も電気も潤沢だ。

『ガスも燃料も、どうやって製造を続けるつもりなのか、ちったぁ考えてから喋りな』

 そもそも、私と姫子を陽動に出張させておけば、この街の権力を一手に掌握できる、なんて傲慢かました時点で能力が知れている。

 いや、まぁ、それをこの街の男共だけで判断したのかどうかは、正直怪しいところがあるけどな。

 単純に人流が増えたことで、外からのスパイも大勢紛れ込んでいる。そういった連中に金で唆されて、もしくは弱みを握られて脅されて、結局のところ男共が、敵対勢力の言いなりになってしまっている可能性も、無くは無い。

 とは言えぶっちゃけ、『杖』と女たちを仕切っていたのは私ですらないから、私と姫子を追い出したところで女たちを支配なんて無理な話だったんだけど、そんな事も見抜けずにクーデターなんて、そりゃ、政府軍にも負けるわ、情けないけれど。

『水と電気が必要なら、融通してやるから代金払いな』

『親族から金を取るのかっ?!』

『嫌なら自力でなんとかしな!』

 すでに、私を介さずに交渉が始まっている。

 ま、私が間に入っても同じ結論だっただろうけど。

 要するに、世界は需要と供給で成り立っているのだ。

 何かを得ようとすれば、相応の代償を払わなければならない。

 ほら、錬金術だって等価交換だって言うでしょ?

「んじゃ、のののんは、杖の代償に何を得ているわけよ?」

 暇を持て余した姫子が絡んでくる。

「信仰心」

 これはマジだ。この街が成長すればするほど、ライブ配信の登録者が増えれば増えるほど、月見里野乃華佐久夜比咩命の信者の増加が止まらない。その人々の想いは地球を巡って魂を揺り動かして、私の神通力として現出する。いわば私は、人々の想いを物理力に変換する装置に過ぎない。そういった機能を持った存在こそが『カミ』であり、古代から女たちに力を与えて、文明を支えてきた根幹なのだ。

 古代のカミガミも、そうして現世利益を還元することで、信者を増やし、栄えてきた。今では私の信者も、ざっと1億人を越えている。この地上で活動しているカミとしては、最高峰の原動力を獲得しているといっても過言では無い。いや、他のカミガミも、もっと堂々と表に出てきて欲しいもんだけどな、この波瀾万丈な世界情勢。

「結局、その力を振るってやることが人助けのボランティアなら、採算あってなくない?」

「良いんだよ、細かい事は。カミ様なんて、結局、無限の暇潰しなんだから。

 それを言うんなら、姫子の実家はどうなのよ。神代の昔からひたすら神様に奉仕し続けて、それで何か、損しているわけ?」

「実家の場合は、妖怪退治が趣味みたいなもんだしなぁ。いや、でも本質的には、天津神に復讐するのが目的で、今までそれを伝統として受け継いできたんだっけ?」

「それがどうして、天津神の末裔のお手伝いなんてしてんのよ?」

「何の説明もなしに無理矢理巻き込んでおいて今更……いや、白昼堂々と大暴れできるのは楽しいから、それは良いんだけど」

「人助けは二の次?」

「人助けは二の次」

 ニッと顔を見合わせて、大笑する。

「大義とか正義とか、そんなの結局、言い訳なのよね。

 偽善だって、誰かが喜んでいるのなら、それは結果オーライなわけで。

 何かを犠牲にしようと、それで誰が助かろうと、結局大元の問題は、自分がその行為に納得しているのかどうか、なんよな」

 そんな会話をよそに、巨人の壁を挟んで下界では、男と女が本音をぶつけ合って白熱している。

 噴き出し始めたら止まらない。

 双方のこれまでの不満鬱憤わだかまりが、止めどなく溢れ出す。

 まぁそれも、大元を糾せば内戦状態なのがアカンのだ。

 平和になったところで男女の諍いは終わらないのだろうけれど、とりあえず、日夜命の危険に晒され続けている状況では、真っ当な判断力なんて育たないでしょ。

 人だかりが増えていく。

 列が壁となり、壁が波となって、巨人を境界として、男と女の塊が互いの熱量をぶつけ合っている。

『とりあえず、昼飯はいつも家族で食べているんだ。それだけでも解禁してくれ』

『子供のサッカー場が商業区にあるんだよ。練習に行かせておくれ』

『居住区にしか病院がないんだ、急患はどうするんだ!』

『彼氏が久々に逢いに来るのよ。こんな所で待っていられない』

 人の営みは複雑怪奇で、それまで当たり前だと思っていたことが封じられると、思わぬ所からしっぺ返しを食らうことになる。

 これじゃ、女の外出禁止令を決めた男共が悪いのか、それに便乗して居住区を封鎖した私が悪いのか、そもそも彼ら彼女にとってはそれすらも本質じゃなくて、とどのつまり、

「一方的な改変は、受け入れられないよね」

 言うても、女の外出禁止を決めたのは商業区の方で、いまだにそれは撤回されていないわけだからな。

「このままじゃ、なし崩しに解放しちゃわない?」

「住民がそれを望むのなら、そっちが正しいんじゃないの?」

「……女の女による女のための革命じゃなかったん?」

「だって物語は、最期は日常に還るものなんでしょ?」

 雨降って地固ま、らない場合もあるけれど。

 この場合、女にも言い分があって、無茶やろうとすれば反対の声が上がるって、先例を作れたのは良いんじゃないかね。

 男だけじゃ生産が出来ない。

 女だけじゃ商売が出来ない。

 だったら双方、渋々ながらも、手を結ぶしかないわけで。

 あとは男の方に「ごめんなさい」できる度量さえあれば……ま、ないわな。

「さて、おいでなさったよ、と」

 銃声が、商業区から鳴り響いた。

 自動小銃の威嚇射撃だ。

 空に向かって数秒、群衆が黙るまで引き金を引き続けて警備隊がやってくる。

 普通に国内に武装集団がうろついているご時世だ。こっちだって武器を持ってなけりゃ街は守れない。だが故に、その武器を同胞に向けるのは阿呆の仕業と信じたかったのだけれど……。

「ま、お約束だよね」

 空を見上げて嘆息するほかない。

「本当、学習しないよねぇ」

 彼らは、心底忘れているのだろうか。

 この街を取り返したのもまた、「女」の力だったと言うことを。

 1体の巨人が、重量音を轟かせて近づいてくる。

 全高20メートルのコンクリートの塊は、その歩行だけで地を震わせ、野次馬たちを浮き立たせた。更に、その右手に握った銃を前方に構えたとなれば、その威圧感は半端ない。反射的に男共に動揺が走り、慌てて逃げだそうとする者すらいて、現場は一気に騒然となる。

「あれ、撃てる?」

 対象を指さして尋ねてみれば、姫子は自信満々に笑みを浮かべて、

「撃てるよ」

 撃った。

 音速を超えた弾丸が銃口から射出され、野次馬たちは逃げる暇も無く耳を押さえて大地に伏せる以外にやれることは無く、

「たーまやー」

「かーぎやー」

 狙い違わず命中したそれは、大空に黒煙をぶちまけて、場に集った一同の視線を、政府によるミサイル攻撃という現実に釘付けにした。

「あと2発来てるよ」

「はいはいはい、と」

 他の巨人も動く。肩に2本の大砲を伸ばした白黒の巨人が、その背中の放熱板を光り輝かせ、2発、轟音と共に熱戦を虚空に放った。

 再度、空中にて迎撃されたミサイルの華が咲く。

 同時に、居住区からは移動防御壁のコンクリートドームが立ち上がり、万が一撃ち漏らしても街への被害を防ぐ体勢が整った。

「あとは何が来てるん?」

「自爆ドローンが向かってきているけど、こうなったら鴨撃ちよな」

 街道沿いに並べた魔力アンテナは同時に、街に近づく敵性勢力を把握するためのレーダー網も兼ねている。それらからのデータをズバイダ女史が処理すれば、姫子の方に標的の位置と高度が返ってきて、姫子の号令に応えたコンクリートの巨人達が、全砲門を開いて一斉射撃、その模様が全世界を生配信で駆け巡った。

 青空に、無数の爆炎の華が開く。

 その一つ一つが、この街を破壊するために放たれたドローンだ。

 流石に人命は惜しいのか、戦闘機による空爆はない。

 ま、こっちは夜中に空軍基地に殴り込んで戦闘機をまとめてなぎ倒し、おまけに収容所をぶち壊して囚人逃亡の手助けまでしているのだ。政府軍としちゃ面目丸つぶれで報復しないわけにはいかないだろうし、だからこそまったく、男という生物は、メンツに拘って自滅する馬鹿だよね、本当。

「す、凄ぇ」

 観衆の感動は、魔法による無敵防衛への賞賛に塗り替えられた。

 ミサイル1発が何万ドルするのか知らないけれど、その成果は全て、「杖」の効果を改めて世に知らしめる政府広報に化けたのだ。

 その証拠に、姫子の操る巨大人形がミサイルを迎撃した動画の、再生数カウンターが廻りっぱなしで止まらない。

 今やこの街は、常時数千人がライブ配信に接続し続ける、鑑賞都市と化しているのだ。

 いかに政府と軍が強力で狡猾であろうとも、世論を味方に付けられるかどうかというのは、勝敗を大きく左右する要因だ。

『民間人を虐殺するために放たれたミサイルを、アニメの等身大ロボットが迎撃した動画』という、文句の付けようのない正義を得たコチラに勝てる道理なんて、あるわけがない。

 既に今は、そういう新しい価値観、情報戦争の時代なのだ。戦果ではなく、いかに世論の同情を獲得するか。それによって国際市場での信頼と取引量が、見違えるほど変化するのだ。

 結果として、今回の空襲は完全にコチラの勝利であり、商業区の男達にとって、この街で女を敵に回したら命がない、という切実な現実の再認識を促した。

 故に、これで元の木阿弥空騒ぎ、とは問屋が卸さない。

 こちらはこれだけの労力を費やして、自らの「杖」の有効性を示したのだ。

 成果には対価が必要だ。

 その命と、この生活に、どれだけの価値を認めているのか、今度は男達が、目に見える形で女に示す番が来た。

 まさかこの期に及んで、無償で安全を要求するような子供じみた事は出来まいて。

「え、もうおしまい? 呆気なくない?」

「あんたが撃ち落としたミサイルとドローン、全部合算したら、軽く億越えるんでないの?」

「いやいやいや、国家予算っしょ。派手にパーッと使って貰わないと」

 ま、政府軍も当てが外れて大慌てって感じだろう。

 私と姫子を陽動作戦で不在にした隙に、商業区の中枢を唆してクーデター勃発、その混乱に乗じてミサイルとドローンを撃ち込んで街の機能を麻痺させて、配送トラックに紛れ込ませた特殊部隊で商業区の経営陣を一網打尽、くらいは考えていたに違いない。

 ま、クーデターが予見されちゃってた時点で詰めが甘かったわけだが。

「しばらくは大人しいんじゃないの?」

 この街には今、純粋に商業目的で訪れている外国人が多数存在している。

 もし万が一、それらの民間人から被害が出るようなことがあれば、外交ルートから正式な抗議が殺到するに違いない。

 おまけに、流れ弾が国連難民キャンプに着弾でもしたら大事だ。ただでさえ、国連で非難決議が発案されるような危うい状況なのに、更に外交問題にまで発展すれば、いくら後ろ盾が盤石だろうと経済制裁は免れない。

 いや、というかまぁ、これだけ自国民を虐殺しておいて、未だにトップの首がすげ変わらないという現実は、げんなりするしかないのだが。

 結局、そういう「仕組み」もまた、男共の作り上げたものなわけで。

 世界はまだまだ、「新時代」にはほど遠い。

 実際の所、あと一世代二世代、時代が廻らないことには因習は断てないだろう。

 ま、そんなこんなを「過去」に押し詰めてしまうために、私は今、ここにいるわけなんだが……。

 気が付けば、銃を構えた男達が消えている。

 というか、こちらに殺到してきていた男共の群れが、明らかに減っている。

 どこまでが扇動者で、どこからが街の住人だったのか。

「とりあえず、居住区の開放、どうすんの?」

「言うても、今日はこのまま、厳戒態勢でしょ」

 コンクリートドームによる全方向防御態勢は、崩さずに維持することとなった。

 同時に水と電気に関しては、有償で居住区から商業区に販売することで、話がついたらしい。当然のことながら、国連難民キャンプからは金を取れないけれど、今までが無料奉仕だったことを思えば、祝宴に値する革命だ。

 結局、暴力でねじ伏せない限りは、要求が通らないのよなぁ、この世界。

 それが弱肉強食だと、冷笑系の自称リアリストは鼻で嗤うのだろうけど、いつまで経っても畜生から解脱できないのならいっそ、全裸で公道脱糞でもしていろ。

 正義や人権や自由は、武器じゃない。

 優しさだけじゃ生きていけないとしたって、優しくなければ生きている価値もない。

 そもそも、寝て、食べて、笑っているだけで世界はこんなにも、輝き、美しく、ただそこにあるものだ。

 それでも、誰も1ミリも悪くなくても、天変地異で大崩壊は起こりうる。

 だったら尚更、わざわざ自分たちで、破壊の限りを尽くす意味がどこにある?

 だというのに男という生き物は、弾圧、強権、禁止に差別が大好物で、その動機が「自分の方が上だと示す」という下らないことこの上ない、ミクロな尻の穴の証拠である支配欲だというのが情けない。

 どっちが強いか、誰がトップか、腹の虫が収まらねぇ、沽券に関わる、とクソみたいな理由で暴力を撒き散らして自己満足に浸っているのが、突き詰めればこの世界の争いの大元だ。

 このどうにもならない理不尽な世界で、それでも「自分だけは思い通りに振る舞いたい」という我欲剥き出しの糞ダサい衝動に負けた猿たちが、この世界を暴力で支配し、暴虐と破壊の限りを尽くしてきた。

 誇るのが力だろうと金だろうと得票数だろうと、根っこは同じだ。

 勝つか負けるか。

 それしか理解できない蚤レベルな脳味噌が、こんなにも世界をダメにし尽くした。

 だってそうでしょ?

 全ての責任はトップが取るものだとして、支配者層の男女比が逆転した瞬間が、一体今まで何秒あったの?

 だったらつまり、世の中の不平等理不尽差別に虐待、貧困に戦乱の9割9分9厘は男が悪い。

 それだって結局、「女に指図されるのは面白くない」なんていう感情が根拠であって、要するに男共に支配を任せ続けていたって、碌な未来は望めないのだ。

 と!

 い、う、か!

 何度でも言うけれど!

 太古は女がカミと繋がって、巫女の託宣を至上とした時代もあったの!

 けれど「新しい神」は、女を穢れだ不浄だと難癖付けて権力から追い出した。血で血を洗う執念で徹底的に女を踏みつけ、組み伏し、血眼になって自由と権利を奪い尽くしてこの2千年来、非論理的な聖典を振りかざし、解釈に解釈を注ぎ足して誤魔化し続けて、一方的に女を「産む機械」として支配し続けた。

 この21世紀、男女平等、基本的人権が当たり前になった今もまだ、その影響は色濃くこべりついている。

 そもそも人体なんてものは、その腹かっ捌けば平等に、血と糞と臓物の詰まった肉袋なのだから、浄も不浄もあるものか。

 仮に1億歩譲って、神の言が正しかったとしよう。

 だが、そのカミはとうの昔にこの地球を去っている。

 つまり「カミの言葉」と言われている内容は、人間の男達が自分たちの都合の良い様に理屈をこねくり回し続けて変質した偽物に過ぎず、むしろ神の威を借る聖職者達の方が、その神意を私物化した大罪人と言っても過言でない。

 というかぶっちゃけ、聖書の神も天使も、人間を玩具にして弄ぶロクデナシやん。

 いや、他の神話のカミガミも、そのアグレッシブさは大概酷いものだけれど、そんなカミの言こそが正しいなんて、非道徳的にも程がある。

 縄文時代の土偶を思い起こして欲しい。

 太古には、豊穣の神として、大地母神こそが尊ばれた時代が確かにあった。それが、新しい神にとって支配の邪魔となり、タブーに貶められ、完膚なきまでに弾圧されて、今日まで来てしまった。

 既にそれを先導し、煽動した神は去って久しいというのに、未だに自分たちの治世に都合が良いからと、出涸らし並みに干からびた聖典を掲げて、他人を虐げる根拠と利用する愚者がいる。

 共通の敵を作り、差別を利用して団結を強いるのは、野蛮人の知恵だ。

 暴力こそが治安だなんて前世紀までの価値観は、捨て去らなければ未来は無い。

 既に、環境崩壊は目前に迫っている。

 たとえそれが、人為の及ばない宇宙規模の気候変動だとしても、だったら尚更、何もせずに自然に任せていては大量絶滅の危機に晒される。

 滅びたくなければサステナブるしか路はない。

 そんなの分かりきっているはずなのに、手遅れにならなければ知覚できないおバカがハンドルを握っているのが、宇宙船地球号の実態だ。

 はぁ、やれやれ。

 ま、つらつらと愚痴を吐いた所で、今すぐ劇的に世の中が虹色に輝き出すことはないんだけれどね。

 と、

「のののん、お客さんだよ」

「ん? どなた?」

 姫子の指さす先には、果たして見知った顔がある。

 その決意を秘めた視線には、有無を言わせぬ迫力が込められていた。

 これには流石に、応じないわけにはいかない。

 かくして私は、ラシード医師と対面する事となる。

「全く、あんたが来てからこっち、気の休まる時間がないな」

「いや、そもそもずっと前から、この街は戦争状態だったでしょ」

「戦争という日常に、平和という非日常が持ち込まれて、まだ慣れてないんだ、誰も彼も」

 二人、密室にて、茶を交わす。

 まるで初めてこの街に踏み入れた時のように。

 考えてみりゃ、ここ3ヶ月ほど、ほとんど会っていなかったな。

 それは彼が、本来の医者としての業務に没頭できていたから、という理由が大きい。

 加えて私は、女性たちと居住区を作り上げるのに夢中になっていた。

 かつては一つ屋根の下で夜を過ごし、床に座して同じ食事を囲んでいた「日常」は、こんなにもアッサリ、姿を変えてしまって取り返せないモノなのか。

「ノノ、こんな事を聞かにゃならんのは、業腹なんだが……」

 それを告発する瞳は、純粋に、医者としての怒りに燃えていた。

「この3ヶ月、極端に新規の妊娠が減ったのは、「杖」のせいなのか?」

 なるほど、そろそろ刻限か。

 いずれはバレると分かっていた。

 だからこそ初期は、「妊娠の可能性の薄い」十代と四十代以後の女性を、意図的に選択していたのだ。

 だが、その事実に懺悔は無い。

 成果に対価は必要だ。

 錬金術は、等価交換によって成り立つのだ。

 これ以外の方法で、これほど劇的に、戦争を平和に塗り替えることが果たして出来ただろうか?

 応じる私の口元に、「魔女」の笑みが浮かぶのが止められない。

「そう、だと認めたら?」

 「杖」は女性にしか扱えない。

 そういう風に、作ったからだ。

 「杖」がもたらす魔法。

 その原資は「生まれたかもしれない1人の人間が産み出した生産力」。

 故に、「杖」を振るう女性は、その代償として卵子を「1人」捧げる。

 1人の人間がその一生で世界に及ぼしうる影響力を、純粋な力の塊に変換することで、「杖」の魔法は成り立っている。

 カミは魂を物理力に変換する、装置だ。

 カミならざる人の身は、その「魂」を、内から引き出す以外に手段がない。

 姫子のように、素質があり、長年の修行を積んで初めて、巫女はカミの代替と成れる。

 だが巫女は、その振るう力の代償に、出産の機会を失うのだ。

 巫女に処女性が求められるのは、それをカミが望むからではない。

 巫女であり、カミの力を利用する間は妊娠が出来ないからこその、処女性なのだ。

 太古、女性は豊穣を司り、大地母神が崇め奉られた。

 巫女はカミと繋がり、その力を宿すことで、人々に文明を与え続けてきた。

 そうして、「一部の女性」が「一時期」の妊娠を諦めることで、社会は廻り、栄えてきたのだ。

「逆に言えば、「杖」を使わなくなれば、妊娠は可能よ」

「……そんなリスクを、今まで隠していたのか!」

「無償で奇跡が手に入るなんて考えの方が、横暴じゃない?」

「あんたは、生まれてきたかも知れない子供を、殺したんだぞ!」

「何もしなければ殺されていた人々を、生かすために、ね」

 私に、譲る線はない。

 目の前の人間から魂を引っこ抜いて力に変換するのならともかく、受精もしていない卵子が一つ消えたところで、人生にどんな影響があるというのか。

 「杖」が抽出するのは、その卵子が受精し、着床し、無事生まれ育って成人したかも知れない「可能性」を担保にした、魂の塊だ。

 虚空を漂う希薄な魂の渦を、その「可能性」を核に集めて凝縮し、「1人分」の密度に高めて利用する。

 そのもたらすメリットを考えれば、生理によって毎月失われる卵子が有効活用される分だけ、まだマシではないだろうか?

「むしろ、生理が来なくなった分だけ、女性たちも生活しやすくなったんじゃない?」

「この……魔女……め」

 ふむ。この期に及んで、まだ呑み込めていないのか。

「言ったでしょ? 私はカミよ。

 最も、悪魔でも良いから助けてくれと願ったのは、この街の住民だけれどね」

 そして私は、リスクに見合うだけのメリットを、この3ヶ月で具体的に示してきた。

 1人の女性が魔法によって一時的に妊娠の機会を失うリスクと、政府軍の空襲による虐殺を防ぎうるメリット。

 もちろん、それを力尽くで強制するつもりはない。

 あくまで、選ぶのは住民だ。

 だってそれが、職業選択の自由ってモノだから。

 そして私の目指す未来は必然、そんなリスクを屁とも思わない強靱な女性たちが、少なくとも100万人、必要となる。

 

 故に、改めて問う。

 「魔法」にて、世界を革命する覚悟を。

 果たして妊娠を後回しにしてでも、成しうる夢を是とするか否か。

 そんな「前」だけを、見据えられるかどうか。

 私は行く。

 同士は誇れる美丈夫、「Dream Fighter」として、いつでも誰でも歓迎する。


 さぁ、私たちの「新時代」は、ここからだ!


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