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アプカるるDream Fighter  作者: ふるうつ盆地
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Fight-1 最高を求めて

 16歳の冬、私は『神』になった。

 より正確に言うなら、この地球上に残された『最期の』天神であることを知った。

 だから全世界に「もう天神はいません」と一斉神託を下ろしたのだけれど、その反応は散々なものだった。

 もう罵詈雑言、存在否認、神格否定、誹謗中傷の雨あられ。

 まぁ、普通に考えれば、狂人の戯言だ。

 テレビでもラジオでもインターネットでもなく、全人類の脳に直接響いた、という事実がなければ。

 が、どの媒体でも記録不可能であったために、逆に「あれはみんながたまたま同時に見た夢だったんだ」という言い訳が罷り通ってしまった。特に、有名な宗教家の皆々様は、唯一神が否定されたという一点で怒髪天を衝いて、私の神託にケチをつけまくってくれた。

 まぁ、別にどうでも良かったのだけれど、あまりにも否定が過ぎれば、神の沽券に関わるというもの。

 そんなわけで、私は、神の実在証明のために、現実に介入を始めた。

 民間人への空爆を邪魔して、大規模山火事を鎮火し、畑を蹂躙するバッタの大群を蹴散らし、地上のカミガミと協力して自然災害を防いだり……していたら、気付くと信者が増えていた。

カミは元より、信仰を糧に存在するモノだ。人間に存在を認知されて始めて、カミという器を維持することが出来る。そういう意味で、地上のカミガミは死にかかっていた。唯一絶対神だけが神であり、他の土着宗教は全て異端だと迫害を受け、破壊され、 蹂躙の限りを尽くされたのだから仕方がない。

 だから私は、そういう地祇(ちぎ:地上のカミガミ)を助けるために奔走することにした。

 人助けは続ける。

 神助けも平行する。

 人は確かに科学技術を進歩させて、医療的にも生活レベルを格段にレベルアップさせておぞましいほど人口を増やしてきたけれど、科学の域を超越できる神通力もまた、バカに出来ない利便性があるからだ。

 せっかく便利なものならば、世界平和に役立てないのは勿体ない。

 そういうわけで、地上のカミガミがまだ残していた神通力を、何とか人間のために役立てられないのかと、あれこれ試行錯誤して、なんとか試作品らしきものまでこぎ着けた。

 と言うわけで、ここからが本番だ。

 大変遅くなりましたけれど、私の名は、月見里野乃華佐久夜比咩命。つきみのさとの ののはなが さくやびめのみこと。月見神でも、のの様でも、佐久夜姫でも、好きな風に呼んで貰って構わない。

 天津神の残り滓であり、地球と月の間の天国に召されて帰れなくなった数多の魂の地球帰還計画を任された者であり、そしてそして、数多の信者の真摯な祈りになんとかして応えなきゃならないと身震いしている、新米神です、以後お見知りおきを、お手柔らかに、迂闊にチャンネル登録してくれると身悶えするほど喜びます、チャリン。

「で、のののん? なんでここに来たん?」

「いや、姫子のリクエストやし」

「いや、違うやろ」

「半年以上前の事だから忘れてるんじゃないの?」

「そうやっていつもいつも私のメモリー勝手に蒸発させてくれて煙に巻こうとするけどな、のののんにリクエストはしたけれど、私が連れ回される義務はない!」

「義務はなくとも義理はあるでしょ」

「……というか、相手の同意すっ飛ばして、最前線に送り込む癖、そろそろ何とかならん?」

「戦況逼迫退路遮断、圧倒的戦力差の孤立無援、姫子は大好きやん?」

「それはアニメの燃えシチュエーションとしてはな!」

 と言うわけで、のののんこと新米神、月見里野乃華佐久夜比咩命は神の力で地球の裏側までひとっ飛び、相棒というか腐れ縁というか唯一無二の親友というか、これしか友が居ないという悲しみの象徴とも言える、我が人間時代を知る巫女、地球最強の女「姫子」を伴って、彼の地へと降り立

「降りてないし!」

 街の上空に浮かんでいた。

 中東。人類文明発祥の地であり、新石器時代には農耕と祭祀が始まっていた可能性すらあり、神話に残る大洪水では箱船が辿り着いた場所であり、そして今を支配する啓典の民の神託が降ろされ、その後も人類史の交差点、東西文明の中継点として栄え続けた枢要の土地。

 その、とある遺跡近くの沙漠の街はここ数日、正規軍による包囲と空爆に晒されていた。

 水も電気も携帯電波も止められ、周辺道路は全て封鎖され、ネズミ一匹入り込めない厳戒態勢の街にはまだ、数千もの民間人が取り残されているという。今、その街に運び込まれるのは、他国籍軍機による無差別爆撃と、街を包囲する戦車群から放たれる威嚇射撃のみであり、このままでは爆風に倒れるか餓死するかという、究極の選択が迫られる危機的状況だという慟哭が、この耳に突き刺さった。

『神様でも悪魔でも誰でも良いから、誰か、みんなを助けて!』

 よろしい、ならば私が助けよう。

 我が身も一つなれば、70億の人間全ての祈りを同時に叶えるのは不可能なれど、見て見ぬ振りをするにも限度がある。少女は私の信者ではないけれど、その純粋な祈りは、確かに『神』へ発せられた魂の叫びであり、何よりこの地は、諸々の実験に丁度良い。

「また、何か悪巧みしている笑みだね」

「そういう姫子も、準備運動は済んでるみたいね」

「というか、この宙ぶらりん、気持ち悪いんですけど」

「姫子は空飛べたっけ?」

「のののんは私を何だと思ってるんですかね?」

「いや、普通に地上最強のバカだと信じて疑わないけど」

「史上空前のドS神に言われたかないわ」

「んじゃ、空軍機はこっちで墜とすから、あんたは戦車部隊、よろしく」

「流石の私も戦車を相手したことないんですけど!?」

「姫子なら素手でも引っ繰り返せるやろ?」

「信頼と無茶振りをごちゃ混ぜにされても困るんですけど!?」

 これ以上漫才しても時間の無駄なので、姫子を戦車部隊の眼前に投げ飛ばした。ま、彼女はこのくらいの扱いでも、ちゃんと受け身して着地を決めて、戦車相手にファイティングポーズを構えるくらいは秒で応えてくれるので、放っておいて問題ない。

 さて。

 地上の方は、空から無警告で降ってきた白衣の巫女に目を白黒させているだろうから暫く時間稼ぎできるとして、こっちはこっちで仕事をしますかね、と、我が魂のアクティブ霊波を、半径100キロメートルに投擲。うん、北東から近づく感あり。ここ数日、病院や学校といった、女子供が居ることが明白な建物を標的として爆撃を繰り返してきた戦闘機に間違いは無いだろう。たとえ間違っていたとしても、この地へと飛んでくるモノが、物資補給のための救援機などでは無いことは自明だ。インターネットも遮断された街からの悲鳴を拾う者は誰も無く、ジャーナリストも危険すぎて撤収した後となれば、国連と言えども迂闊に近づくことは不可能な戦闘地帯……いや、明らかに民間人、それも自国民を標的とした虐殺の舞台であり、この蛮行を戦闘などと呼ぶことは度しがたい。

 流石の私も、明確な殺意を持って人を殺すことに躊躇いを覚えないでは無いけれど、これほどの人道無視、明白な犯罪を目の当たりにして、それでも不殺の法を守るべきかどうかと問われれば、鼻で笑いたくもなる。その点、姫子は巫女として、殺人だけは厳に戒めているけれど、カミの力をその身に降ろして、殺人以外の破壊衝動はあらかた経験済みなので、あれを真っ当な人間だと一瞬でも油断してしまうのはやめておいた方がいい。全高15メートルのダイダラボッチを目の前にして、一瞬も躊躇わずに突撃した女だ、あれは。

 さて(2回目)。

 地上は、突然の闖入者にギャラリーの視線が釘付けで、当の姫子はと言えば、並み居る戦車に怖じもせず、むしろ堂々と歩を進めて、指をポキポキ鳴らして挑発中。

 で、こっちは当然、予定通りの空爆を行うべく、戦闘機がまっしぐらに接近中。はるか上空から好き勝手にミサイルを撃ち込んで、高射砲による反撃すら受けずに通り過ぎていく、なんてイージーゲームに油断極まったパイロットが相手だ。さて、どうしてあげようか、なんて考えている間にも、轟音が空を引き裂いてやってきた。どんぴしゃ。真正面。まだ発射前。さすがはパイロット、視力だけは合格。前方、空に人影が浮いているなんて異常な状況にもちゃんと気付いて一瞬で機体を捻ってすり抜けていった。

 とりあえず、空爆は一旦回避。

 あとは、この上空の異常を敏感に悟って、基地にとんぼ返りしてくれれば御の字だけれど、そうは問屋が卸さないわな。半径100キロメートル内にロックオンした戦闘機は、二度目のリトライの為に大きく円を描いて、また同じコースで爆撃を目指してくる。

 んもう、無駄にお仕事熱心なことでな。そんなに病院を爆撃したいのかお前ら。そこに入院しているのは、怪我した戦闘員だけじゃ無くて、妊婦だっているんだって、分かっているんだろうに、本当はっ!

 そもそもその病院は、正規の病院ですらない。国際NGO組織が、現地民からの要請を受けて、現地政府の許可を取らずに人道的処置として無理矢理入国して、無報酬で勝手に治療しているボランティアだ。なぜなら、真っ当な医者はほとんど、内戦状態になったら金持って海外に逃亡しちゃったからな! それすらできない貧乏な一般市民は、戦闘の巻き添えを食らって、住んでいた街に残っていたという理由だけで、一方的に殺されようとしているんだよ、それも言葉も通じなければ見たこともない外国の戦闘機の無関心な爆撃のせいでな!

 一度目は見逃したけど、二度目はない。

 仏の顔は三度だけれど、野乃華の顔は一度までだ。

「それが、人類の、やることかよっ!」

 ミサイルを放たれたら元も子もない。今度は遠慮呵責なく一直線、こちらから突っ込む。全魂を右手に込めて、さらにその10倍の魂を周辺からかき集めて、空に巨大な光る拳を産み出して、一片の躊躇もなく、私はその拳を、全力で、振り下ろした、ドンッ!

 スカッた。

 見事に。

 ノー手応え。

 早すぎたんだ。

 けれど、ゴッと、空気が抉れた。

 乱れた気流が渦となって周囲を掻き乱し、一直線に突っ込んできた戦闘機を見事に巻き込んで、その機体から全揚力を弾き飛ばした。

 制御不能になった戦闘機が、きりきり舞いながら墜ちていく先には、戦車群が待っていた。

 巻き込む。

 翼端が戦車の砲塔に引っかかり、空中で一回転、戦闘機は派手に跳ね転がりながら沙漠に長い長い砂煙を描いて、爆発炎上した。

 あ、れ?

 こんな派手にするつもりなかったのに?

 地上では、見せ場を奪われたうえに巻き添えをくらいそうになった姫子が、恨めしそうな顔でコチラにブーイングをかましている。

 何より、戦車兵たちが、一体何が起きたのかと、無様に砲塔から顔を覗かせて放心している。

 うん、まぁ、やっちゃったもんは仕方が無い。

 活かそう。

『この数日、この地で行われた悪逆非道は今、月見里野乃華佐久夜比咩命が手で糾正した!

 我は告げる、今後この地において、いかなる暴虐行為も肯んぜられぬ!

 これ以上この地に戦闘車両を留め置くと言うのなら、神の使徒たるこの我と、その巫女たるそこな少女が、無窮の神通力の存在を証明するのみ!』

 言葉は要らない。

 念ずるだけで、この周囲の全ての人間の頭脳に直に響く。

 こちらは無手で、戦闘機を撃墜したのだ。

 なんなら姫子は、素手で戦車を引っ繰り返すつもりだったのだ。

 神の無限の力をもってすれば、そのくらいは造作も無い。

 なんなら、もっとエグい所業だって不可能ではない。

 けれど、無用の殺生は後味が悪い。

 圧倒的な戦力差は歴然なのだから、頼むからスゴスゴと帰ってくれ。

 そんな圧を視線に込めて、私は瞬きもせずに、下界を睨み続ける。片や戦車部隊は、砲口を空に向けるべきか街を狙うべきか、決めかねているように見える。戦闘機の巻き添えをくらって横転した戦車から負傷者を救助するのに手間取って、それどころじゃないという事情も感じられ、事態は膠着するかと思われ

「あ……」

 そんな一触即発の空気を、微塵にも解さない女が、地上にいた。スタスタと、何の迷いもなく横転した戦車に近づいていった姫子は、睨み一喝で集っていた兵士たちを退けると、

「ファイトぉー!」

 四股を踏んで、横転した戦車の縁を両手で掴み、

「いっぱぁぁぁつ!!」

 号令一閃、本当に素手で戦車をひっくり返しやがった。

 もちろん、神通力で筋力をマシマシにしているから可能な芸当だけれども、並み居る兵士たちに銃口を向けられた状態を、一顧だにせずそれをやり遂げる胆力、もとい無神経さには敬意と呆気しか感じられない。

 が、それが決定打となった。

 負傷兵を無事に救出し終えると、兵士たちは姫子に無言で一礼、そのまま踵を返して一目散に撤退したのだ。

 マジで?

 5分経過、確かに戦車部隊は地平線の彼方に去っていき。

 10分経過しても戻っては来なかった。

 マジだ。

 そして、街から歓声が上がった。

 子供たちの喜びの笑い声が、割れんばかりに空に響いた。

 だが私はまだ、これが終わりのない旅になると、覚悟すら決められていなかったのだ。

 それが生きている証拠である以上、歩み始めたら決して逃げられない、泥沼に自ら飛び込んだことを知るのは、まだまだまだ、先のことである。

 


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