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さて、話をするとしてどこまで話そうか。思い返してもやすやすと話せる内容でない。すべて話したとしても信用はされないだろう。そして全く話さないわけにもいかない。ここにいる理由を話すにはこの話をしなくてはいけないし、ナナカを探さないといけない。厚かましいかもしれないけど。それに一番の目的である研究員を捕まえて救助も頼まなきゃ。
悩んだ挙句、端的伝えることにした。
「村が襲われたあと、実験台にされて。それではぐれた妹を探してて――」
「おい、待て」
ドスの利いた声で制された。ビクッと身構えた私に質問してくる。
「お前、村を襲われたあと、実験台にされたのか?」
「そ、そうですけど……」
その後、男は何かをぶつぶつと何かを言っていた。
「あ、あの……」
「ん、あぁ、スマン。この国にはある村の支援で来てるんでな、少し知り合いの心配してた。」
「信じるんですか?」
「……半々だな」
「研究員を捕まえるのは?救助は?」
「他にもいるのか?無理だな、俺は今武器とか装備してないから強くないし、奴らももう証拠になりそうなものは持って逃げてるだろうからな。」
「そんな……」
覚悟していたことだが、自分だけ逃げたことが自分の首を絞めているような感覚に陥った。
「で、どんな実験かわかるか?」
「えっと、多分、固有魔法を変えたかったのかと」
「じゃあ、体を流れる魔力が変わったと?」
「ハイ」
「そうか」
それだけ聞くとそのまま黙ってしまった。どうすればいいか分からず、じっとすること数秒、男は口を開いた。
「この件は俺にはどうにもできねぇ、お前はこの後どうするつもりだ?」
やっぱり、無理か。分かっていた、少数で止められるようなものではないことは。それにしてもこれからか。
「とりあえず、近くの町で妹を探す!」
「はぁ……、捕まりたいのか?」
話をまとめると5年前にこの帝国の皇帝が変わった。その人は人間至上主義で他の種族――亜人と魔族――を嫌悪している。そして4年前から兵がその人たちを排除するようになった。町や帝都でもそれは当たり前になっていった。噂では研究員も当たり前のようにその人達を人体実験に使うらしい。私は噂だったはずの一例なんだとか。そんな国だから訴えても無駄なんだって。それで私がこの国で活動したいなら他の国でギルドに登録しないといけないらしい。だったら他国まで連れて行ってと思ったが今回は連れ出す予定がなかったのでどこかで次に来るのを待たなくてはいけないらしい。
「行く当てがないならついてこい。俺が行く予定の唯一残っているエルフの村に連れて行ってやる。おそらくあいつらも喜ぶだろう」
はっきり言って驚いた。こんな環境でまだ残っていたのか。
「お願いします」
他の方法も思いつかず即決だった。ひょっとしたらナナカもそこに避難しているかもしれないし。
出発は翌朝になった。少し眠気が残るけど初めて訪れるエルフの村にワクワクしていた。もともと川にはこの人がきた国(王国?)から川の流れで荷物が流れるのを待っていたらしい。そして、この人についていくと森の深いところまではいって行った。そういえば、肝心なことを聞いてなかった。
「あの、なんて名前なんですか?」
そう、私はいまだこの人の名前を知らないのだ。自分の名前は過去を語るときに話したのに。これからこの人が支援している場所へ連れて行ってくれるのなら信用している証だとは思うのだが。
「知ってどうする?」
「どうもしません。ただ、助けてもらったので感謝をと」
「はぁ……、ハンジェヌスだ」
「ありがとうございます」
「ほら、もう見えたぞ。あそこがエルフの村だ」
そう言われてハンジェヌスさんが指さしたほうを見ると木と家が一体となった神秘的な場所が目に飛び込んできた。