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被検体の探し物  作者: いさり
始まり
3/6

3.悪夢の始まり

「お姉ちゃん、朝だよ~!起きて起きて!お祭りが始まっちゃうよ~!」

「そんな急いだって収穫祭はお昼からなんだって…」


 あの日、妹であるナナカに連れられて早朝から収穫祭に向けて支度をしていた。金色赤目の私と違って白髪赤目の彼女はとてもワクワクしていた。小さな獣人の集落だけど年齢が5歳から参加できるという決まりがあるため、5歳になったナナカは今年初めてこのお祭りに参加することになっていた。仕方なくもあるか。私もアレさえなければ楽しみだしね。



 私の収穫祭は昼に全体で集会を開くことから始まる。その後神様にその年、その村でとれた作物と解体された家畜の肉類を使い、お供え物を作る。その時に余った切れ端(神様には美味しい部分だけを使うから大量に余る)をスープや炒め物にして私たちで分け合うのだ。何も起こらない村ではそれだけでも一大イベントだったのだ。




 ……長いね、うん、わかっていたけども。

あれから祭りが始まり、面倒な村長さんのおありがたーいお話を聞かされている。私はお祭り自体楽しみだったが、最初のこの作業が苦痛だったのだ。そんな作業ですら隣に座っているナナカはニコニコと楽しそうに聞いている。ちなみにここには5歳から9歳の子供たち8人と村長さんしかいない。他の大人たちはお供え物の仕込みをしているからだ。


 村長の話の内容を簡単にまとめると、獣人と魔族は職業を持つ人間に追いやられ、やせた大地に住むはめになった。それを不憫に思った神様が、獣人と魔族に固有魔法を与え、開墾しやすくしたのだとか。なぜこれだけの話を2時間もかけて話すのだろうか、しかもこれで4回目。まぁ来年から聞かないしいいか。



 長ったらしい話を終えるといつもの犬の獣人の2人組と合流した。3つ年上のイツキ兄さんと同い年のカエデだ。いつもはナナカもいるが、お父さんたちに村長さんから教わった話を言いふらしまくっている。


「終わったか?」

「ん……ひまだった」

「どうして毎年聞かなくちゃいけないんだろうね?」

「そりゃあ、神様がわざわざ能力をくださったおかげで豊作になったし、暮らしやすくなったからな」

「えー、でも毎年聞く?カエデも飽きたでしょ?」

「まぁ……、でも大事だから……」

「ほらほら、そろそろ時間だからあっち行くぞ!」


 そう言われて村の広場に戻ろうとしたときだった。ふと鉄の匂いを感じた


「血の匂いがしない?」

「肉を裁いてるから当たり前だろ」

「……血抜きされているからありえない」

「……なにかあったか?」


 私たちは嫌な予感がして慌てて戻ることにした。そしてそのまま建物の陰から飛び出ようとしたら、イツキ兄さんに抑えられた。……よく見るとそこに広がっていたのは、楽しいお祭りの風景ではなく、逃げ惑う住民と、その人たちに剣を持って追いかける人間だった。ところどころ赤いものが散っており、もう息を引き取っている者や捕まっている者も見受けられる。


「……何、これ、……」


 私が口にした疑問に答えられた者はいなかった。今まで接してきた冒険者や市場の人で、多少のガラの悪い人はいたがここまでではなかった。……なんで、こんなことに……。


「お前ら、近くの他の獣人の村に逃げ込め」

「……イツキ兄は?」

「俺は少しでも多くの人を逃がす。……カエデ、そんな不満な顔をするなよ」

「だって……」

「それ、私も残るよ。家族がどこかで隠れてるかもだし」

「モミジ、お前もかよ⁉助けに行った自分が死んでも意味がないんだぞ!」

「でも見捨てられない‼ここで見捨てたら、これから先後ろめたい想いしなくちゃいけないんだもん!寝覚めの悪いことなんてしたくない!」

「2人とも、言い争っても……っ、危な……ぃ」


「「……えっ?」」


背中を押されたので振り返ると、カエデが横たわっていた。……頭から血を流して。


「おい、あそこにもいたぞ、再装填できてる奴は狙え!」


「あぁ……ああああああああああ!」


 目の前で友達が、なにもできないどころか自分のせいで死なせてしまった。気持ちが悪い。何もかもがどうでもいい。やり場のない感情をあいつ等に向け――⁉


「兄さん、離して!あいつら殺さないと――」

「カエデが救った命、棒に振る気か⁉ そんなことしたら死んでも殺しに行くぞ⁉」


 あぁ、そういえば、イツキ兄さんってカエデのことが好きだったんだっけ?


「……ごめん」

「いいから逃げ…「お姉ちゃん!」…っ」

「ナナカ⁉」


逃げ込んだ細道には恐怖からかとても顔色の悪いナナカが隠れていた。


「妹さんか、他のみんなはどうした?」


その言葉に反応し青くなっていた顔が、目には涙が溢れそうになっていた。


「みんな……捕まった。お父さんもお母さんも僕を……それで……」

「そんな……」


 そこから先は何も言わなかったが、おそらくナナカを逃がそうとして殺されたのだろう、それも目の前で。今までの当たり前が音を立てて崩れていくのが分かった。気がつけば私はナナカを抱きしめていた。果たしてそれはナナカを慰めたかったのか、私が不安だったのか、グチャグチャになった心では分からなかった。


「はぁ……仕方ない。早くお前らだけでも逃げろ‼」


 気が付けば辺りに人の気配が近づいていることが分かった。もう時間がないのか。


「みんなで…「気にすんな」…」

「俺にはもうお前らしかいないんだ。死なれるくらいなら胸を張ってカエデに会いに行くさ」


そう言った顔は悲しそうで、行っても聞かないと分かって。


「……無事でいてよ」


その言葉に返事はなく、私たちは逃げだした。




 どこから逃げればいいんだよ。分かっていたけど門は完全に抑えられているし、森に行こうにも人間が徘徊していた。そんな時、ナナカがふと思いついた。


「そうだ、僕たちが一緒に遊んでたあそこ」


 なるほど、確かに昔、みんなで作った木に移れる遊び場があった。あそこなら早く離れられる。……行くしかないか。


「行くよ」

「うん」





「まだいたぞ!」


「っ!バレた!逃げるよ!」


 そのまま手を引いて細道に入り、何回も曲がった。こうして銃から逃げながらあと一歩で着くところだったのに。急に宙に浮いた感覚がして動けなくなった。ここまで来て、罠の魔法陣か。


「お姉ちゃん、今助ける!!」

「いいから行って!早くしないと追いつかれる!私は隙を見て逃げるから」

「でも……でもっ……」


ナナカはもう泣いている。あぁ、イツキ兄さんもこんな気持ちだったのか。今ならわかる。


「大丈夫だよ、必ず会いに行く。だから今は生き延びて」


 そう語りかけると私の妹は背中を向けて走って行った。背後に人が迫っているのを感じながら私は意識を手放した。


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