2.誰?
さて、目的の人のそばまで来た。近くの木から様子を伺うと川の近くにテントがあるのが分かった。川、あったのね、まったく気づかなかった…。気を取り直して、その人はテントの中にいるようだ。というか、反応している。この反応は人間かな。故郷を滅ぼし、私で実験した種族なわけだが、信用できるものなのか。ここに来たのは失敗…じゃないといいなぁ。
しばらく様子を伺っているとテントからランタンを持った男が出てきた。周りをキョロキョロ見るとこちらをじっと見てきた。音も立ててないし、バレるわk…「そこにいるのはわかっているぞ!出てこい!」……バレテマスネ、ハイ。しかも、怖そう。まぁ、ここまで来て逃げるわけにはいかないよね。どうせボロボロの身体じゃ逃げられないし。お父さん、お母さん、どうか守ってください!
木の陰からおっかなびっくり顔を見せると相手は驚いたような顔をした。
「獣人…しかも狐のか?」
お互い硬直して、変な空気が流れてきた。緊張で喉が渇いて痛い。頭もぼんやりとしてきた。そのまま世界が揺れて、意識が…。
美味しそうな匂いにうっすらと目を開けると、誰か―先ほどの男だろうか―が火の前で何かをしていた。こちらに背を向けており、何をしているかが分からない。魔法を使って見ようとしたら男が振り返った。
「お前、なんなんだ? 魔力を周りにまき散らしながら現れて、挙句勝手に目の前で倒れやがって」
呆れた目でそんなことを言ってきた。そっか、倒れたのか。その間、施設に連れ戻されたわけでもないし話すのも悪くないかもしれない。でもその前に、
「私はモミジです、助けてくれてありがとうございます。申し訳ないのですが、お腹も空いているので食料も分けて頂けますでしょうか?」
「チッ、ほらよ」
そう言って男はこちらに燻製した肉や簡単なスープをくれた。昔に比べればお粗末な食事は今食べると言葉で表せないほど美味しかった。あそこだと最低限しか食べられなかったから。無事に地獄を抜け出してこれたのだと安心して、美味しい食事を食べられて、気づいたら涙が止まらなかった。
男はこちらが落ち着くまで黙っていた。案外、怖いけど悪い人ではないのかもしれない。
「んで、なんであそこにいた?」
男はついに本題に入った。さて、どうしようか。話したいけど、最低限の保証も欲しい。
「……かつて私の住んでいた村は人間に襲われて、失いました。私の知り合いがどこに行ったか知っていますか?」
「…いや、申し訳ないが知らないな。まさか探しに来たのか?」
…うん、この反応は本当に知らなそうだ。私はこれまでの地獄を話すことにした。