春の逝麺争奪戦・珍珍清姫ものがたり・4
「ほんまは関大前あたりの学生さん向けを借りる話もあったらしいんですけど、さすがに拒否しました…ほら、箕島のアパートも、あたしと生活時間帯が変わる人が隣やったんで難儀したんですわ」
「学生さんばっかりやったら隣がうるさなる可能性もあるしなぁ」
「そうですねん。ほら、あたしの大学時代の下宿がまさにそういう学生専門でうるさなるんはわかってましたから、なんぼ家賃安い言うても関大前は避けるしかなかったんですわ」
でまぁ、早苗が家賃を一部自己負担してまで希望したというマンションに荷物をちゃっちゃと運び込みまして、レディース軍団と別れた後で話をしております。
そして本来なら帰宅時に難波方面を回るか転送で痴女宮に帰宅してるベラ子、十三と南方を経由して電車でこちらに来てくれました。
(んじゃジーナちゃん、マリアンヌちゃんとスザンヌちゃんは池尻大橋に送っていいのね?)
(うん。もしアレやったら宇賀神さんとこ顔出して一緒にメシ食うて来てぇや)
(はいはい、んじゃねー)で、雅美さんに娘二人を送り届けてもらいます。
あ、マリアンヌとスザンヌの二人、高木企画の大阪支社名義で押さえてるマンションに住ませた方が通学にもいいのですが…例の娘さん向けアニメのビューティーツインズの仕事が入る場合、池尻大橋のマンションの方が都合いいんですよね…。
まぁ伊藤瞳さんと阿波内侍さんが見張ってくれていますし、徒歩5分の距離に宇賀神夫妻が住むマンションもあることから、奥さんの桔梗さんも時折顔を出してくれています。
ですので、二人が悪い遊びを覚えない体制は一応、作ってはいるんですよ…何せ自転車があれば、渋谷はもとより人間状態でさえ1時間で品川新宿六本木まで行けちゃいますから。
むろん、南青山の関東メディアにもバイクで走るくらいの速度なら10分で行けてしまいます…痴女種能力を都内で日常的に解放すんなとは言ってますけどね。
そうそう、ベラ子と学友たちですが、この4月からは分体を出しての通学継続になります。
それとさっき出た話で、割とみんなにベラ子が気を配っている話を一つ。
彼女たち…登校はともかく、帰宅時にはなるべく痴女宮本宮正門のエントランスから入るようにしていますね。
(あたしが通りかかる事で皆に気を引き締めさせる狙いがあるって、ねーさんが言い出したんですけどね。ただ、あそこを通ると必然的に女官管理室や貴賓区画受付とか経由しますから、あたしも主旨を聞いてそれならと納得していますよ)
むろん、緊急連絡があれば心話で常時つながりますけど、警備の騎士や女官管理室横を通る事で何かしらの伝言や連絡を受けやすくしたいそうです。
(下足処の混み具合もわかりますし、女官管理室に顔を出してアフロディーネちゃんの顔も見れますしね)
あーそうか、4月を待たずに引き継ぎに入ってたな…ブリュントレーネさんがブルゴーニュ公国出身者でシャルル突進公の血縁だという事もあって、フランス王国への介入要員に抜擢されて4月にはマリーともどもストラスブールに正式赴任という内示も見ております。
で、ベラ子を見る早苗の顔と心理を密かに観察。
うーん。
たしかに、ベラ子に惚れてる節はあります。
そして大事な事を。
先ほどまでの車内での会話、ベラ子にも意識共有で流れています。
で、ベラ子の所感。
(あたしは皇帝として女官からの敬愛を集めるのが職務ですからねぇ。確かに早苗さんの境遇には配慮しますけど、早苗さんばかりを贔屓するとやはり、他の女官との人間関係に影響が出ますから…)
そしてベラ子の言わんとする事もわかります。
更には、うちに望んでいる事も。
早苗の人となりや人間関係をよく知るあたしに対応して欲しいのです。
その方が後々良いのではないか。
多分、早苗が本格的に痴女種化してしまうと、確実に痴女皇国を離れたくなくなるでしょう。
しかし痴女種にとって人類の種族保存、つまり婚姻は進めてもらわなくてはならない要求事項であり、我々も子作りをして頂くための支援を惜しまない必要があります。
だから早苗に選択を迫る役、早苗の心理をよりよく理解しているうちの方が適任だと言ってるわけです。
(ただ、母様に丸投げじゃありませんからね…飯島さんって、母様から言われる方が素直に聞いてくれると思うのですよ…)
なるほど、ベラ子に行ってるのはおねだり系の甘えの可能性もなくはなし、と。
確かに早苗、実家を含めて貧乏でもありません。何だかんだで下宿させてもらってましたしね。
つまり、おねだりすればある程度は聞いてもらえる家庭に育っています。
(うちの方がねだりやすい思うねんけどな。まぁええわ。とりあえず加藤さんに仕事をしてもらお)
で、今回の早苗の痴女皇国派遣勤務。
先方様にお話をして、建前ではうちらが呼んだ時に来てもらうオブザーバーめいた立場に留めて日本政府に納得してもらおう。
そして実態は…分体を出して、早苗の身柄はこちらで預かることにしようと思うのです。
で、普通の分体だと早苗の欠点やら何やらかんやらを引き継いでしまいますし、更に言うと痴女皇国を良く思わない人にいらん事されたりする可能性も。
そこで一計を案じたのですが、普通の日本での会社員生活をしてもらう分体、それもただの人間として結婚出産を含めた一生を終えてもらう運勢込みの分体を用意できないか。
この辺の要求項目、マリ公が理恵ちゃんに与えている分体とは全く異なります。あれは理恵ちゃんに日本の大学を卒業させるための学歴取得に特化させた分体だそうなのですよ。
(だから大学卒業後はあたしの分体、回収される予定なんですよねぇ。まぁ、分体は真面目に通ってますし男っ気もありませんし)
と、痴女皇国ではそれなりに身体の楽しみを満喫している、むっつりホトトギスが。
(ジーナさん。あとでケツしばかして下さい。やっと国土局に戻ったと思えば海事部地中海分室立ち上げであんなお色気おばちゃんの面倒見るとか…ラウラさんというのですか? イタリア海軍の方の教育とかそっちでやって下さいよ…痴女皇国世界のスペインとストラスブールに鉄道敷く話だけでも大変なんですよ?)
ああ、ラウラ・ロレンツォさんの面倒見などで精気使ってんのか…。理恵ちゃんもお腹空いてるなら、素直にそない言いなさいよ…。
(全く、あたしの体が恋しいならそう言ってくださいっ。あっ、ダリアの分もありますので、部屋に来て頂くのは本当にお願いしますよっ)
相変わらず一言多いというか、言い返したがるどすけべホトトギスの性格は変わってませんねぇ、理恵ちゃん。
ですが良識は一応、あるんですよ。
つまり、理恵ちゃんの部屋に呼んでる理由ですけど、離宮内で騒音の苦情が出ないように静かに精気授受を行なって欲しいので、理恵ちゃんの部屋に来てこそーっとしてくれという要望でもあるわけです。
(話は変わりますが飯島早苗さん。離婚についてですけど、全くご本人に非がない訳でもないと思いますよ…結婚後も職場は別としても共働きだったんですよね)
(確かにお互いに忙しい身やし、すれ違いめいた事も度々起きてたようやな…)
(あと男性と女性の体力…というよりは体の性質差もありますよねぇ…早苗さんがOKでも鴨志田さんが疲れてたりとか、お互いの勤務シフトがズレてたりとか)
(うちもクリスとデキた直後やけど、超勤とかで色々あって、なかなか当たりに結びつかへんかったようなんや…早苗の不発も他人事とは思えん一面があるからなぁ)とまぁ、早苗の不妊や本人の性格などに起因する、旦那さんとの不和を要素として挙げておきます。
この要素を抜いておかないと、仮に早苗が再婚しても、同じことの繰り返しになりかねませんからね。
「では、始めますよ…おかみ様」
そうそう、今から加藤さんがしてくれること。
おかみ様の力も必要っぽいんです。
「全く、手間なことをおもいつきよる。まぁ、今生の事情もわからぬでもない。よきにいたせ」
「まさか将門公を黄泉比良坂から呼び戻す技、このように使う事になるとは思っても見ませんでしたけどね」
五芒星を描いた手袋をはめた手で、加藤さんが室内の床に寝ている早苗の体の上で何かしらの印を描くように指先を動かします。
(あまてらす…頼むから人の運命をいじるとか寿命を変えるとかな…)
(ふん、あとろぽす。この人の子を婢女のくにに連れていけば、ただひとではなくなるから人のことわりからはずれよるのや。それをひとのからだにもどすのやから、おまえらのおさめてるりょうぶんを踏み越えるわけではないのやぞ)
(あまりたようしないでくれ…)
ま、運命を決める三女神様からは少し、文句が出そうな事のようですね。
(閣下、今より飯島早苗嬢の魂…こちらの流儀で説明しますよ…を身体から浮かせます。そしてそちら様のご用意の身体に移します…魂の複製を、ね)
(まぁ、ひらたく言うと金衣の葬儀時の意識転送だ。皆さんに説明しておくと、この話での霊魂は実は多重次元空間の一つ…あたしらやM-IKLAシリーズの本体がある場所とも近いんだけど、一種の立体光学演算回路を組める空間だと思ってくれ。で、加藤さんが呪術の体裁で今やってくれているのは、演算回路を早苗さん用のマテリアルボディに接続してるんだよ、そして…もともと、飯島早苗として人生を歩んで次の輪廻に切り替わって行く演算回路個体の複製を作って、元々の早苗さんの身体に繋ぎ変えようとしてるんだ)
で、この作業…マリ公も噛んでるんですよ。
(反魂の術の応用ですな)
(ぱんちのいう、りんねのわに入れるあたらしいたましいを用意したようなもんじゃ。今はかとうだけでは魔人の力をすべてつかえんからな。わしがたすけることでかとうの力をふるわせとるのや)
で…ベラ子の身体の機能をマリ公がリモートで使って…と単純には行かないのです。
なにせそのままマテリアルボディを与えると、MIDI仕様の身体を与えることになります。
これはいくら何でもまずい。特に早苗にはまずい。うはは。
で、早苗の身体は痴女種構造で…それもなるべく有機成分が多く、人に戻しやすい百人卒未満…ぶっちゃけ下級女官種や罪人女官同等の人に限りなく近い身体で構成すると。
(いや、一応はそれで行くけど、何せ今回が初めてだからな。もしかすると雅美さんの後輩の誤施工みたいに千人卒級に仕上がる可能性もあるんだよなぁ…ま、早苗さんなら千人卒化しても問題はないだろ。他の昇格審査待ちの女官から文句は出るかも知れないけど)
(早苗の能力や知識があるから、特例召喚って事で納得してもらえるやろ。ベラ子、その辺はどないや)
(Non ce' problema. 問題おまへ…ありませんっ)
そーです、早苗だけがというえこひいき批判を予防するということで、敢えて1人卒のマテリアルボディならぬ有機分体を用意せねばならんのです。
更には早苗の元来の身体は日本に残し、妊娠可能な人間・飯島早苗としての人生を歩ませる。
そして痴女種のシステムで早苗同士を繋ぐのではなく、加藤さんの術式を使って人としての早苗を必要に応じてこちらの早苗が使うようにしておくという、分体と本来の本人の身体を逆転させた方法で今回は行きます。
で、単に少子化を解消するだけではなく、人間の身体の早苗が結婚生活をやり直しやすい運命プリセット値を入れた高次元空間光学回路…つまり魂を早苗の人間体に繋ぐ事で、人としての早苗の人生を全うさせてやろう。
これで行く案をマリ公が出してくれよりました。
(これなら少子化防止に繋がるだろ。それに、かーさんが何となく負い目に感じてる早苗さんへの心境に対するあたしらの対応処置としちゃ、なかなかいい感じにならなくないかい?)
(まぁなぁ。後は早苗が納得するかやな)
(それに今回は、りええの時みたいにはいそうですかって素直に情報出してくれる会社じゃねぇからな。自衛軍の弾薬類だの兵器用の部品だの、かなり防衛機密に触れる生産品多数の製造に関わる企業だから、早苗さん勤務社のごく一部の人間以外には今回の提携は伏せておいた方がいいだろって事で日本政府方面にも了承してもらってるよ)
(あたしの会社、文句言いませんかね…痴女皇国との提携であれこれ欲しいもんがあるみたいですけど)お、複製体に入った方の早苗が応答してきました。意識が回復したようですね。
(そいつはすぐにスッと渡せるもんじゃないからな。早苗さんとあと、お二人の働き次第だ。それと、うちの半生体微生物製造や制御技術はファインテック由来だ。どの技術を渡すかについては早苗さん達の専管で決めるんじゃなくて、最低でもクリス父様が噛むことになるからね。ほら、駄洒落菌改良種。あんなもん、絶対に渡せないよな?)
(ですねぇ…あれは仏様を微生物にしたようなもんですよねぇ…)
とりあえず、作業は成功することはしたようです。
で、早苗の荷物を開梱して諸々配置するのをあたしらでササっとやってしま…エマ子、すまんな。
「ええんです、呼ばれると思てましたから。かー様の聖環でハイライトとストロングアレを買って帰らしてもろたら、あたしは文句言いまへんっ」
ええ、ドカ○姿のエマ子が電ヤニをくゆらしています。
一瞬で梱包からあれをそこに、これをあそこにをやってくれました。
無論、早苗の恥ずかしい下着や恥ずかしい玩具もこっそりと。
(ううううう、処分しましょうよ…)
(こっちの早苗には必要やろ!)
ああ、そうそう。早苗には早苗がしてることは伝わるようです。
そして…早苗経由であたしらも、覗けることは覗けるのですよ。
(それつまりジーナさんにあたしの私生活筒抜けいう事やないですか!)
(ただ、この早苗を使って欲しい情報を抜く事になる場合があるからな…または、この早苗の代わりにあんたがこそーっと入れ替わるとかいうシチュの可能性があるわけよ。そして、早苗…この身体にも連邦側からの干渉が予想されるんや。加藤さんがちょっとした仕掛けをしてくれたから、危害が及ぶ遥か前にうちらには伝わるが、それでも何かあったら然るべきもんがすぐに動けるようにしとく必要、あるからな?)
ええ、この分体扱いの、元来の早苗の身体も監視対象です。
そして早苗の本来の身体は治すところを治してありますけど、普通の人体と全く変わらない状態に戻ってますよ。
ただ…うちらと接触した人間として調べる可能性は多分にあります。
早苗の勤務先だけの話で済めばいいんですけど、第三者が噛んで来た場合は対処が必要かも知れません。
(ま、うちらの身体を分析したい連中は結構いるだろうけどな)
(あの方々の身体を調べるにも調べられんからな…ほれ、宮内庁病院と聖路加以外には漏らすなって厳命降ってる人ら)
(それにさ、今やあの方々は基本的には病気知らずに近いから調べる口実を作るにも一苦労だろ)
(何かあれば、私が動きますけどね…ま、皇族の方々の警護も、おかみ様からは厳命されておりますので)
そうですねぇ、加藤さんはそういう仕事の方ですからねぇ、昔はともかく、今は。
(それに満更でもないのですよ。ジーナ閣下の人生、陰陽や宿曜の道から見ても興味深い。ある意味では私の観察対象なんですから、痴女種の皆様方は、ね)
(かとうはこの日の本を滅ぼすうらみだけで生きとるのにのう、すまんな)
(まぁ、私の望みが叶うかどうかはともかく、おかみ様の配下としては有能だと思っていますよ、私自身は)
(え…加藤さんって警察の人じゃないんですか?)
(さなえー。いらんことに気付くなよー。加藤さんは訳ありなんや…)
(ま、飯島さんに分かりやすく申しますと、私は悪霊や怨霊の能力を人間の身体のまま持っているような存在なのですよ。おかげで長生きも出来ますが、今の私はおかみ様に生かされているようなものでしてね)
(かとうがおるほうがいろいろはかどるからな。こやつには悪いが、怨念あって存在が許されているようなもんなんや。せやからかとうのうらみはうらみでおいとかなあかんのや、のぅ)
(仰せの通りで。それに、恨んでいるからと言ってすぐさま滅ぼす云々をする訳ではないのでご安心下さい。…そうですね、飯島早苗さん。貴女の今後は私としても観察対象だ。私の使っている呪法は実のところ占いとも密接な関係がありましてね。貴女の本来の魂が痴女種を模した身体に移ったことで、いかなる生涯を歩むのか。天を読み暦を読む術者としても、私はジーナ閣下や貴女方の歩む未来に非常な興味を持たざるを得ないのですよ。痴女種の観察、知人のサン=ジェルマンからも推奨されていますしね)