春の逝麺争奪戦・珍珍清姫ものがたり・2
「なるほど、早苗のアパートの場所、微妙に不便なのはその辺もあったんかい…」
「そーなんですよ。ほれほれ、あの辺電車で走ると製鉄とか石油コンビナートっぽいのが見えるでしょ。で、産油量の減少で油槽所が規模を縮小した跡地に化学工場を誘致する話があって、それに乗ってもうたんが、あたしの勤務先やと思てください。ナフサとか精油する際の副産物を輸送する距離も短縮出来るって話になってまいましてねぇ」
えっと、とりあえず昔のうちの会社の故・武内業務部長が率いてたレディース引っ越し軍団の幹部の子が独立して始めた引っ越し会社のトラック、これを引き連れて高速道路を走っています。
で、今走っておりますのはそちらの世界だと海南湯浅道路なのですが、こちらでは紀州自動車道という名称になっている道です。
そして、とりあえずは紀伊半島をぐるっと一周回る高速道路が開通していることはしています。
ただ…全区間片道二車線以上ではなく、いまだに相当区間が片道1車線なんですよねぇ。
で、うちのランドローバーの助手席に早苗を乗せて向かってるのがそのアパート。
「ほんまは箕島の駅のもっと近い場所か、いっそ海南にしたかったんですけどねぇ…こないだでも四時台に特急あらへんから、海南まで車で出て時間貸(駐車場)に入れてこっち来てたんですわ。海南やったら全部の特急停まるんですけど、箕島は全部ちゃいますから」
でまぁ、途中のサービスエリアで和歌山ラーメンとか小さめのめはり寿司なんかみんなで食べたりした後で、和歌山市内の外れを抜けてほぼ、山の中をガンガン走って行きます。
(紀勢本線が出来た時はそんな長大トンネルを掘る技術が未確立だったのもあるんですけど、沿岸の町や村から魚だの木材だのミカンだのを積み出す貨物輸送の需要があったんですよねぇ)と、この辺りを通ってる電車の線路が曲がりくねって地形に合わせて遠回りしている理由、理恵ちゃんが教えてくれます。
道路は半島なら半島の付け根をトンネルで抜けて直線的に紀伊田辺や白浜方面を目指せますが、海沿いの町や村を縫って走るように敷かれた線路はそうもいかず、かなり大回りしているのが地図でもわかりますね。
とりあえず高速道路であっても情け容赦なく鹿やタヌキが出てきそうな山の中を走り抜けますと、少し長めのトンネルの先に目的地へのインターチェンジがあるよ、という表示がナビ画面、それから左右メーターの間の液晶パネルに表示されます。
「有田のランプ降りたらR42に出て下さい。で、そのまま和歌山方面に走ってもろたら箕島の街ですわ。駅の方に行かんとR42進んでもろたら有田川の南側を走って行きますよって、オーバーパス超えた先にベビー用品のお店の看板が見えたら、その手前の交差点左折ですわ」
でまぁ、その通りに走って早苗の住むテラスハウス風の二階建てアパートに到着。
あたしらに遅れてトラックと…そして国土局の二代目よく盗まれる号が到着。
「んじゃ早苗さん、壊れたら困るものとか片付けてくれてるかな?」と、新・盗まれ号から降り立ったのは雅美さんです。
そして二代目盗まれ号とトラックから降り立ったレディース引っ越し軍団ともども、白と黄緑帯の制服姿。
(フットワークの引越事業部の制服まんまだからねぇ…)
(クレーゼさんが社長してる時に入れた服やったなぁ)
あ、うちの義父の故・高木義夫が体調崩してた時に治療役を兼ねて再婚の上で社長に就任、会社を立て直してくれた事あるんですよ、クレーゼさん。
そしてその時に出来た子がスザンヌで、実はあの子…うちから見ると腹違いの妹になるんですよね…年齢からするとあたしの娘でも全くおかしくありませんし、実際にマリアンヌとほぼ一緒に育った事もあって母親枠認定されてますが。
(そりゃ、いくら何でもおばさまを姉扱いするほど、あたくし傲岸不遜ではございませんわよっ)
(まぁスザンヌがうちのかーさんに逆らえるかと言うと、オムツ替えてもらってた事もあるからねっ、ほほほほほ!)
(ぎゃああああ!マリアンヌ、あなたは何をバラすんですかぁっ!)
はい、実は本日は春休みという事もあり、娘どもも大人状態でうちのランドローバーの後ろに積んで来ております。
むろんレディース軍団同様の制服で、手伝わせる気満々。
(時給出せー)
(大人の給与くらいは出して頂きたいですわっ)
(じゃかましい、あんたらの業務報償金、大人枠で承認取ったったやろがいっ)
(早苗さんとかに奢るくせに身内に渋いってかーさん、嫌われるわよ…)
(身内贔屓はあかんのやぁっ)
などと娘どもに心話で説教こいてるのを知らなくて当たり前なのですが、早苗が申します。
「あ、言われた通りヤバめなもんは貰ろた段ボールに詰めて分けときました」
…という訳で雅美さんやうちや、更には限定解除したスザンヌと強化マリアンヌの能力もあり、あっと言う間に早苗の部屋の荷物、搬出完了。
同じ棟の奥に住むという大家さんに早苗が連絡して部屋を確認して明け渡して鍵返却、お世話になりましたという事で去らせて頂きます。
あ、そうそう。
早苗が通勤に使っていた車をどうするかという話がありましたが、とりあえず高木企画大阪支店所有に名変して…痴女皇国に持って来る予定だったりします。
というのも、さなえ号は雅美さんの軽四駆と同じメーカーの製品でして、雅美号ほど本格的なものではありませんが四駆仕様。
更には車高も高めなので、痴女皇国世界の未舗装路でも使い道があるとばかりにローン残債処理の後で召し上げております。
「その、さなえ号ゆう言い方なんとかなりませんか。なんかうちの実家の田植え機とか耕運機みたいで嫌ですねんけど」
「さなえの車やないかっ」
「もうあたしの所有やありませんっ」
「ふっふっふっ痴女皇国国土局交通部車両管理課の辞令やっ」と、聖環から内務局総務部発行の車両管理者通達を見せてやりますと。
「えー何ですのこれ…なにわ5** る26-99 ス◯キ ハ◯ラー 車両所属 通商産業局 管理者 飯島早苗 駐車場所 聖院学院寮前 16番…ってこれあたしの車やないですか!」
「あ、まだ自分のんやいう認識しとるな。ちょうどええわ。うはは」
(それとな、早苗。あんた、1番下から1つ上の箱の中に下着類に混ぜて隠しとるもんあるやろ。あれうち来たら必要あらへんようになるし、第一痴女皇国はオっとナニをーしてる行為、無許可やと重罪やぞ。堤防一歩手前の公開懲罰として本宮正面入口のロビーでやらす罰があるくらいやからな)
ええ、ダメ押しに早苗の荷物の中にある大人の玩具について心話で教えてやります。
「いいいいい? 何でわかるんですかぁっ?」
「言うたやろ…うちと雅美さんとスザンヌとマリアンヌには見えるんや…」
まぁ、マリアンヌはスザンヌに強化してもらった場合だけですけどね。
で、真っ赤になってピクピクしている早苗をランドローバーの助手席に積み込んで大阪に戻ります。
「あんたもしかし、ああいうものを常備する程度には大人になったのかと思うと感慨深い」
「嫌なもん指摘せんといて下さいよ…」
「まぁそう言わんと。それに精気授受があるから女官候補には必ず言い渡してる話やねんわ」
「やっぱりあの研修、あるんですか…?」
「あんたは技術系枠やから最小限で済ます予定や。ただ…出すもんは出してもらうでっ」
ええそうです。
早苗の会社の持ってる技術と引き換えです。
ぶっちゃけ産業スパイ要素も期待しています。
ただ、この時代…例えば鉄砲の弾丸。
ケースレス薬莢とか非・金属薬莢とかあります。
つまりまだ明治時代にすら達していない痴女皇国世界で、そんな未来にも程があるもんを生産しろという方が間違っています。
ですので、まずはフリントロックとか原始的な雷管…パーカッションのような、痴女皇国世界で使えそうなローテクノロジーの産物が欲しいのです。
「ジーナさんそれ真剣に無茶ですよ…うちやのうて延岡の方の会社に頼んで下さいよ…」
「頼めるもんやったら頼んでるわいっ」
ええそうです、武器輸出がどーたらこーたら。
(まぁ、フランスやイタリアの銃器メーカーに声掛けるとか、手はまだあんねんけどな…一応は日本を儲けさせる必要もあるし、何より早苗。あんたの再婚話とか人生の転機にもつながる事やから、なるべくは早苗の勤務先を噛ませたいねんで?)
「そりゃまぁ、わかりますけどねぇ」
「とりあえず無煙火薬の製造やっ。こっちはまだ黒色火薬なんや…まぁ聖院が火薬の製造技術をあまり広めないようにしていたせいもあんねんけどなぁ」
「そりゃ西暦だと1600年代でしょ? 無煙火薬ってまずニトログリセリンが発明されてから開発されるもんなんで、そっちから手掛けないとあきませんやんか…」
「早苗。あんたそもそも延岡採用やろ?」
あ、これちょっと解説しておきましょう。
あの辺の会社と「堺に工場があった会社」、こっちの連邦世界では部門統廃合やら何やらで一種の提携関係にあるんですよ。
で、火薬に関係する部門はそれぞれの子会社になっていますが、その火薬部門や雷管部門だけ合併したそうなんですね。
…確かに、収束エネルギー兵器や純粋核融合兵器などが普及して火薬の需要が減少傾向にあるこの世界、建設用や小火器向けなどのために必要最小限を生産する方向でメーカーも縮小傾向なんだそうです。
「そりゃあ、21世紀の話ですけど、あのコルト社が倒産とかあったんですから…火薬の需要自体が減って行くのは仕方ないと思いますけどねぇ」
しかし何でまた、そんな分野に回されたのか。
あんた微生物方面やったんちゃうんかいな…。
「ええ、ジーナさんとこで何かしたでしょ。あれのせいで変な研究が回って来ましてね。ほら、ミサイルにシロアリみたいな作用する微生物詰めて木造船を腐らせたあれ…」
…ああ、トリエステ港作戦か!
「で、超高速ミサイル用の生物化学兵器散布用弾頭ケースとか、はたまたその中身ですねぇ…ええ、非殺傷兵器の研究についての話がうちの会社にも来たんですよ。で、関連プロジェクトに参集の上で配置転換され、生産現場に回ることになったんですわ…」
「ふむふむ。確かにクリスの研究、単なる生物としてだけやなくて、言うなれば微生物のサイボーグ化やからなぁ。兵器に転用しても色々と価値があるわけやし」
「正直、どこに使うのって疑問もなくはありませんねぇ…」
(飯島さん、後ろから失礼しますわよ。ちょっと調べてみましょう)スザンヌが後席から参戦しますが。
(バレんようにやれよ…)
(飯島さんの上司の方とか、発注者の意識を追いかけるだけですわよ…)
「え、そんな事が…あ、そうか、女官や痴女種だとできますよね…」
(出ましたわ。えーっと、そんなに物騒な話じゃありませんわよ。とりあえず連邦政府の意向ではなく日本独自の開発。で、どちらかというと今後、惑星開発でケミカルや微生物を散布するための基礎研究の一環ですわね)
(兵器にしようにも、あれだけ強力な半生体ナノマシンを日本独自で開発できるかというと難しい。あとパテントを英国…NBが抑えている話だしねぇ)マリアンヌもスザンヌに協力して色々見てみたようですね。
(兵器に使いそうなら、リーゼ姉がストップをかけると思いますわよ)
(まぁ、使えそうな技術なのは間違いねぇな。日本は基本的に食料や資源を外国に頼るしかねぇから、ある程度の軍事技術を保有せざるを得ないんだよ。連邦社会も一枚岩じゃないしなぁ…ただ、あたしらが存在しているからには、かつてのような大規模戦争は起こさないように介入する準備はしているから安心していいよ)
「え、マリアさん…」
(ああ、飯島さん…うちらは常時誰かと繋がってるようなもんなんだ。ただ、同時に複数と話すとかはその当人の処理能力に依存するけどな。あなたも昇格したらそういうことができるようになるよ)
あ、マリ公は痴女皇国世界の比丘尼国にいますよ。
(早苗。言うたやろー。うちらに隠し事は不可能やって…)
「ジーナさんにダダ漏れいうのもなんか嫌なんですけどぉっ」
「ふははははは。それは仕方あらへんがな。まぁ上のもんの考えは全て読まれへんようにしてるけどな」
「ずっこいですよそれー。うちもジーナさんの本音、見して下さいよー」
何や、そんなん見たいんかい。
マリ公。
ちょっと繋いだげて。
(めんどいなぁ…それくらいやれよ…ほれ)
「っと、どれどれ…まぁ、確かにあたしはウザい部類や思いますよっ。それと助平は否定しませんっ」
「いや、それは今後は大切な事になるんや。と言うのも痴女種に転換するからには、これは避けて通れん話になってまうんやで?」
「確かに、精気授受って言うんですか…それに絶対必要なんですよねぇ…」
「それと、男に興味が向かなくなってくるのが痛いんや…いや、人間としての価値を否定する事にはならんのやけど、性欲の対象から外れてくるんや…これ、何が言いたいかわかるか?」
「えーと、結婚に興味が行かなくなる」
「そういう事や。つまり人類として種族保存する最大の原動力を損なう話になってまうから、誰でも彼でも痴女種にするわけにいかへんし、昨今は百人卒未満で時期が来たら還俗するか昇格する審査を厳しくしてるんも、かかってこれやねん」
「確かに誰でも彼でもそうなったら困った事が色々起きますよねぇ」
「ま、その辺りは人類というものの今後の在り方も考えた上での話やな」
「飯島さん、自由に決められるっていい事だと思うわよ…」
「え、あ…そうか、マリアンヌちゃんは決まってるんよね…」
「あたくしも場所は決められておりますからねぇ。飯島さん、痴女皇国とのお付き合いの中で成果を挙げてから人生を考えても遅くはありませんわよ」
「なんか、スザンヌちゃんに言われるときついものが…」
「この子らは実質大人やからな。それと、男性との関係が指定されとるんや…」
「なんかこう、自由がないというか何というか…痴女皇国の幹部ってそういうの、好き放題できないんですか?」
(飯島さん、田中雅美です。あたしたちはある一線以上は好き勝手出来ないのよ。例えば、男性を相手にするとか女性を相手にする事を考えてみてね。ほら、ベラちゃんが施工してくれた時のあれよ、あれ)
「ええええええええ!あれって…」
「あのなぁ、早苗。記憶や意識共有というのはそう言う事やねんぞ…」
うん、助手席で顔を真っ赤にしてうつむいている早苗が気の毒なので、そっち側のエアコンの温度を下げてあげます。
「いや、確かにベラちゃんって結構女たらしよね」
「そうよスザンヌ、あの股間と技は反則だわ」
「その辺はかーさんも学ぶべきよね、スザンヌ」
ってお前らまで何を言い出してるんじゃい。確かに昨今のベラ子は割と女官受けがいいのは聞いております知っております。おりますが。
「ああ、ジーナおばさまはあれでいいと思うわよ。基本的に百合百合しいの嫌いだし」
「お前ら、うちとベラ子を比較するなよ…」
「それとさぁ、早苗さん。ベラちゃんはあくまで皇帝の職務としてああいう風に男前に見えるというか、女官にモテる振る舞いをしているだけよ。あの振る舞い、絶対勘違いしちゃダメなのよっ」
さなえ「なんかあたしがホストにハマりかけてるような扱いに」
ジーナ「実際ハマりかけとるやろ」
ベラ子「早苗さん、気持ちは分かりますがあたしに色目を使う女官は多いのですよ…出世の下心の有無はともかくとして、ですけど」
ジーナ「実はベラ子の相手制限、皇帝に取り入るあざとい奴予防のためでもある」
ダリア「更に言いますと、今まではアルトさんやあたしがある意味でベラ子陛下の防波堤になっていたようなものなんですよ」
ジーナ「つまり皇帝へのヨイショごますり陳情の受け皿として、代わりに引き受けてくれていた訳や」
ベラ子「実は理恵さんが女官長を続けられていた理由も、ダリアさんが黒薔薇メンバーを動かして騎士役の吸い上げをやっていたのが大きいのです」
ジーナ「まぁ、ダリアを動かせるのは理恵ちゃんの才能のうちやろ。それも含めて理恵ちゃんへの評価や」
ダリア「あの鉄ヲタ趣味が許されているのも、理恵さんの昔の実績があるからなんですよ…」
ベラ子「ちなみにその辺の人間関係がありまして、理恵さんはどちらかと言うとジーナ母様にベタベタしています」
ジーナ「本編を読めばわかるが、あの子は割と甘える」
ダリア「だからアルトさんとジーナさんとベラ子陛下の誰に行くかと言えば、ジーナさんに行くんですよねぇ」
ジーナ「あの子の業務上、うちにすると話が早い案件が多いせいもあんねんけどな。うちに話すと速攻でマリアに伝わるし」
ベラ子「あたしに甘えてもいいのにっ…あっ、やっぱりダメです…あの人はあたしの母乳効果の恐怖を知って以来、避けてるんですよねぇ」
ジーナ「あと言いたくないが、最近こそ激減したけど未だにベラ子はたまにうちに甘えにくる」
ベラ子「実の母親以前に皇帝室長の職務です。受け止めてください。あたしもたのきちの幼児プレイ状態を受け止めているんですよ?」
ジーナ「あんたみたいなデカい子が赤ちゃんやられても困るんやぞ、うちも…」
ベラ子「早苗さんも危ないんですよ? あたしと精気授受すると、片端からあたしを母親視するんですよみなさん…」
さなえ「ひいいいい」
ジーナ「早苗がマザコン性癖にハマるか抜けるか賭けよか。うちは抜けられへんに一票」
さなえ「フラグやめてぇぇ!(泣)」




