ライン沿岸冬景色・ローレライの岩は雪の中・6
ベラ子「今回は前半をあたしがお話しします」
まさみ「で、後半パートはあたしが喋りますよ」
ベラ子「まさみさんがあくやくになります」
まさみ「何よベラちゃん!いくら今回はあたしが泥かぶりポジションだって言っても…やめてよその言い方!」
ベラ子「はいはい。愚痴は後書きでお聞きしますよっ」
「あのー」
「何ですかアルトさん」
「べらこへいか。いえ、ベラ子陛下。いくらわたくしが昔、すっぽんぽんでダリアに勝ったと申しましても」
「ですから、あたしも付き合います」
「アルト。気持ちはわかるがな…おめー、この方がやるっつってんのにお前が断れるって思ってるのか」
「え」
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さて。
春先に労働力が必要になるという、農家には傍迷惑な時期に戦争を仕掛ける困ったおじさんがいます。
読者の皆様の世界では頭がハゲたおじさんが世界中を困らせていると思うのですが、こちら痴女皇国の所在する世界で周りを困らせているおじさん、多少は特徴的ですけど頭髪は残っています。
アルブレヒト=フォン=ヴァレンシュタインというのがそのおじさんです。
本当はもっと長いお名前でして、アルブレヒト・ヴェンツェル・オイゼービウス・フォン・ヴァレンシュタインというのが暗殺される直前のフルネームだそうです。
ですがこの世界ではまだご健在です、困ったことに。
そして困ったおじさんという理由。
この方はこちらの世界でもそうなんですが、連邦世界…そして読者の皆様の世界での歴史で説明しますと、ボヘミア…後にチェコスロバキアを経てチェコと呼ばれる国でお生まれになりました。
で、イタリアに留学してベネチアの近くにあるパドヴァの大学に進学後、問題を起こして退学。
その後はハプスブルグ家…つまり神聖ローマ帝国の皇帝を輩出するおうちに仕えて頭角を表します。
ただ、その頭角の表し方がものすごく問題だったのです。
なんとかペディアとかいうネット百科事典では、このおじさんについてものすごく色々と書かれていますが、天の声に省略した説明をやってもらいましょう。
『資産家の未亡人をこまして得た原資で金融や領地での産業振興を行い、傭兵軍団を作って皇帝をヨイショ。更には軍事力不足で困る皇帝に代わって傭兵を雇う軍資金を免奪税として徴収する勅令を取り付けて、貴族などから無理やり金を集めて回って皆さんの恨みを買いまくり、大出世するものの最終的には暗殺されてしまう』という、なかなかに壮絶な人生をお送りになられたお方です。
そしてこちらの痴女皇国世界でも、大体は似たような流れで神聖ローマ帝国の陸軍兵力を指揮する軍団長となっております。
で、このおじさんがバーデン=バーデンを責めるための戦費を集める手段として各地の貴族や富裕層に課そうとしている免奪税または軍税という名称の課税。
皇帝軍を組織するという大義名分があるにはありますが、何度も何度も「領地で略奪されたくなければ金を出せ」という、今の感覚からすると狂った要求を自国の選帝侯他大貴族の皆様に対して突き付けてるんですよ…そりゃあ、恨みを買わない方がおかしいでしょう…。
ただ、逆に言えば近代的な徴税制度がまだ整備されていないからこそ起きた悲劇でもあるでしょう。
そして貴族領地の寄り集まったのが国家だという形態の国が世界の主流だった時代です。
貴族にしてみれば「自分の土地から取れたり掘って出てきたり、あるいは加工生産されたものを売った収入なのに何で巻き上げられなくてはならないのか」となるでしょうし、実際にこうした意識をお持ちの方も多かった時代ではあります。
ええ、デステ叔母様ことイザベラ=デステ大公がイタリアを統一したのがこちらの歴史ですが、そこに至るまでの税制度整備、結構揉めたんですよ…。
さて、神聖ローマ帝国の総軍団長なる役職に就かれたヴァレンシュタイン・フリートラント公爵殿下。
読者の皆さんは、ここまで読み進めて頂くだけでも既にこのおじさん、なかなかにあこぎであくどい策略家という印象をお持ちになられたと思いますが、そういう人物がバーデン=バーデンの実質独立宣言を聞きつけた。
更には皇帝から「あれ何とかならんか。バーデン辺境伯領の実質独立なんか認めてしまったら他の選帝侯や辺境伯辺りが似たような要求を皇帝家に突きつけて来るではないか。そうなれば帝国の軍政財政の屋台骨が揺らぐのは必至。何としてでも内々で討伐希望」っぽいお願いをされたようです。
…ただし、表立って討伐命令を出せば、それこそ欧州地区本部長が動きます。
ですので皇帝家は知りません聞いてませんを徹頭徹尾貫く代わりに、フリートラント…今で言うオランダの一部ではなく、結構広いバーデン=バーデン領を欲しがったヴァレンシュタインが暴走しちゃいましたという建前で押し通して辺境伯の交代を黙認しようとしたようなんです。
つまり、お貴族様同士の内乱を装うと。
本来ならこんな企みは白日の下に晒して神聖ローマ帝国を糾弾するところですが、敢えて返り討ちにしてしまえとなりました。
理由そのいち。
ヴァレンシュタイン公の軍勢ですが、どうも募兵時期が悪く1万人を少し超える軍勢で終わりそうなのです。そりゃまぁ、冬場ですしね。
まぁ、仮に元来予定していた3万人を集めたとしても、どうという事はありません。むしろこちらとしては、その1万人なら1万人をそっくり捕虜として頂きたいのです。
むろん、罪人扱いして世界各地での開拓事業に投入するためです。
更には男性1万人の精気を定期的に収集可能な状態にしたい。あまつさえ結婚相手とかお世話させて頂ければ少子化対策にもよし。
この話で度々出てくる三河監獄国に該当する某・自動車メーカーがありますよね。
あそこが持っている中では日本最大規模の工場が渥美半島にありますよね。あの工場、従業員の方だけで9,000人は働いているそうです。
その工場で働く人々に匹敵する数の男性。言うまでもなく、我々痴女種にとっては貴重極まりない資源です。
ええ、わざと攻め込ませて全員拉致してしまえという戦略が打ち出されました。
更には、ヴァレンシュタイン軍団長を捕縛して神聖ローマ帝国への外交交渉材料にさせて頂く。
無論、帝国総軍団長を捕まえて罪人化してしまえば、帝国の軍事力は完全に骨抜きになりますよね。
こちらの交渉が極めて有利になること請け合いです。
そしてですね。
湯田屋の皆様。
痴女皇国世界での神聖ローマ帝国内における地位もそれなりでして、富裕商人や金融業者が宮廷湯田屋人として出入りしているのも掴んでおります。
この湯田屋の皆様に対して、初代様が後付けで、例の全裸の英雄ゼンラスキー将軍の再臨の可能性の話を刷り込まれておしまいになりました。
さも昔から伝わっていたかのように覚え込ませてしまう荒技です。
そして、いくらでも人間の記憶をいじり回せるので、元来は禁断の技だそうです。
実際に、家族会ではこの後付け伝説を湯田屋の皆様にすり込む事の実行については紛糾したそうです。
しかしながら、マイレーネさんとアレーゼおばさまの一言。
「湯田屋人の生業のせいもあるが、嫌われ者である事が多い。しかしながら今回、伝説の英雄が降臨して人種の区別なく悪漢将軍を退け人々を救えばどうなるか。少しでも人種間偏見を和らげる助けとなるならば検討の価値あり」
「それに独自の宗教めいた信仰を築いているのは聖院の世界でも同じ。そこに後付けで英雄譚を滑り込ませてしまえば違和感はないだろう。困るのは実際に討伐される悪漢だけとなれば、やってみない法はない」
といった内容の主張をされまして、悪影響よりも効果の方が遥かに大きい上に、仮に事実を知っても騙された感を抱くものはいないだろう。
更には初代様、皆様には既に正体がお分かりかと思いますが、本物の神様です。
湯田屋の皆様はもちろんのこと、普通に暮らしているだけの一般庶民の方々が理不尽に生活を脅かされ、生計の場である町や村を荒らされ下手をすれば滅ぼされかねない事に憂慮されての振る舞いとすれば、仮に後付けの伝説であろうと納得できると姉も主張しました。
結果。
全裸英雄将軍その人「に見える」何かの役回りの人物を用意して、我々からすれば賊軍に見えるヴァレンシュタイン軍を迎撃する運びとなりました。
まぁ、元々は討伐軍を全てバーデン=バーデンに誘い込んで捕獲する内容の作戦です。
主役が変わるだけの話。
…ただですねぇ。
誰がこの2月の雪残るバーデン=バーデンで一糸纏わぬ全裸になって戦うのかぁっ。
その人事について紛糾しまして。
ええ、普通ならばですね。
痴女皇国の幹部、この手のお祭りにはこぞって参加するはずなんです。
まして相手はバーデン=バーデン公国領を蹂躙して暴虐の限りを尽くそうというのが来る前からわかっている連中です。まず確実に返り討ちにしたがると思うのです。
ですが今回、立候補者がいないという事態に陥りました。雪の中で戦うのは女官種モードになればどうということはないのですが、流石に全裸はやめてほしいとの要望多数。
はい、血の気の多いはずの乳上やメーテヒルデさんはもちろん、この手の事になるとはーいはーいと手を挙げる面子がですね、肝心の全裸英雄役を振ると全力で逃げるのです。
そして頭を抱える田中雅美・内務局情報部長。
むろん暫定内務局長たるジーナ母様も頭を抱えております。
そこで白羽の矢が立ったのが、誰あろうアルトさん。
過去に全裸で戦い、見事に勝利した実績があります…ただ、誰にどうやって勝ったのか、この場では明言しないでおこうと思います。出来れば触れないで欲しいと言う涙目の顔であたしをじーっと見つめていますから。
ですが、過去の戦績はともかく、全裸で迎え撃って勝つ。
この困難なハードルを乗り越えてもらわなくてはなりません。
その為の説得が冒頭という訳です。
どないしましょうかね、と言う訳で、あたし自身も心底嫌なのですが、バーデン=バーデンのため痴女皇国のためと思って立候補。
むろん、本命のアルトさんを引っ張り出すためです。
大体想像つくと思いますけど、アルトさん、動かないと決めたら基本、テコでも動こうとしません。
ですので姉の加勢も得ようとしていたんです。
そうしたら、思いもよらぬ人に手を挙げて頂きまして。
ともあれ、これで迎撃戦力は準備万端となりました。
さて、ここで語り手を少しばかり交代させて頂きましょうか。
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えーとですね、ベラちゃん。
あなたの話だとさ。
サクサクと準備が進んだように読者の方々が考えてしまうと思うんだけど。
ええ。
何、ハンガリー担当で楽してんのよ。
こっちはドイツよドイツ、それもバルト海からの北風が吹き付ける北ドイツとか。
そして徴税部隊も、こんな悪天候下で何も真面目にやらなくてもいいじゃないのってのに派遣されて動いてたんですからね。
あ、申し遅れました。
このお話では散々な扱いのせいで読者の皆様にも偏見の目で見られている事しきりであろう、田中雅美です。
しかも強姦作戦どころか、雪の中で身動き取れない人で病人とかだと片端から治したりね。
「あーっ寒い寒い寒い!」
「雅美さん…あんたも義体貰ってんねんから暑さ寒さ、あんま関係ないんちゃうん…」
「それがマリアちゃんの回して来た体って、なまじ人間のそれに忠実みたいで寒い時は本当に寒いのよ!」
と、ジーナちゃんの乗るTAPPS7というロボットみたいな大型装甲服…と言っていいのでしょうか、とりあえず肩にパトライトを付けた白い警察用ロボットですとか、タコの類似品みたいに言われる戦車みたいなむせる部類のような大きさのものの後部座席に身体を滑り込ませます。
「しかし参ったな、マリ公が嫌がらせで雪降らせる言うとったけど、まさかこんなに吹雪くとは思わんかったがな。これやったら軍税を徴収しようとした連中も身動き取れんのとちゃうん…」
ええ、思いっきり吹雪です。
それも、地吹雪。
暗号が方言になっている地方語で会話している某地方だとあまりによく発生するために、逆手に取って冬場の観光の目玉にしていて、地吹雪ツアーなんてことをやっているあれです、あれ。
「あー寒寒寒、暖房入んないのこれ…」
「せやから後ろ用の専用服着て言うたんや…とりあえずハッチ閉めるでー」
で、国土局の盗まれ号ですとか、あるいはジーナちゃんやベラちゃんの四輪駆動車の後部電動ゲートが閉まるような感じでぴーぴーぱっこん、と頭部ハッチが閉まります。
実はこの田中雅美、あおかん号というひどい名前で知られていて「実質的にジーナちゃん専用機」として長年にわたり連邦宙兵隊から借りているこの物件にまともに乗った事がありませんでした。
ですので、乗ったみんながひどいひどいとか言ってるの、いまいちよく分からなかったのです。
しかし、乗って分かりました。
確かにこれはひどい代物です。
まず、歩くとか走るとかすると後ろの座席にはズンズンと衝撃が来ます。
ジーナちゃんに言わせるとこれでも衝撃吸収機構が備わっているそうなのですが、それでも来ます、お尻に。
オフロード用のオートバイ…欧州地区本部にはイタリア製とイギリス製、それから日本の音叉社…監獄社の繋がりで何台か配備されているものがあるのですが、あれで舗装していない道を走るようなものです。
もしくは、DQNと呼ばれている方々が大いに好まれる箱のような車。
実はダンケ号もその部類なのですが、ほら、もっと豪華で見た目も威嚇的なの、あるでしょ。
天の声のお知り合いで監獄社の中の人が事あるごとにネット掲示板で「ヴェ○ファイ○を公費で新婚世帯に支給して少子化を解消しよう!」とか言ってて「あんなでかいもんいるか」「重量税やら何やらが洒落にならないくらいかかるんだよ…2t超えたら維持費アホみたいに跳ね上がるんだぞ」「なぜアル○ァードじゃなくて○ェル○ァ○ア推しなんだよ、売れてないからだろ」と都度都度突っ込みを入れられて困っているあれの兄弟車ですよ、あれ。
で、あれの実物に乗った事がある方…特に2列目にお乗りになられた方ならわかると思いますけどね、意外なほどにお尻に来るのですよ、一般道で。
少なくとも、同じ監獄社のお車でも盗まれ号の方がはるかに乗り心地が良いのは断言できます。
そして後席が一種のサドルというかバイクのシートのような構造に近いの、他の人がお話していましたよね。
普通ならこういう感じの、アメリカンバイク専門雑誌にありがちな絵図を思い浮かべると思うんですよ、私はともかくジーナちゃんとかが跨ってるイメージ。
ですがね、今、あたしたちがTAPPSの中に収まってる状態、大体これに近いと思ってください。
いえ、実際にはもう少し離れてますよ。
それに前席の後ろ側…あたしとジーナちゃんとの間にはモニタ装置などが挟まっているので、ジーナちゃんのヘルメットをかぶった後頭部は見えません。
ですが身体、特に下半身部の密着度は結構これに近いものがあるのです。
あたしの足でジーナちゃんの足を蹴る事がないようには出来ていますが、限りなくこれに近い感じであたしたちが座ってるというか着ていると思ってください。
そしてオートバイと違うのは、ハッチを閉める前にシートベルト代わりのストラップアームとか言う拘束装置…左右で別れている救命胴衣のようなものが上半身と首を押さえてしまうのですよ。
頸椎損傷の危険を防ぐためにこうするそうなんですけど、冗談抜きに上半身をガチっと押さえつけられます。
ええ、身体のどこかが痒いからと言って直接掻く事なんかできません。
そして喉が渇いた場合ですけど、一応はスケアクロウに普通の人が乗るときにできるような「飲料水や液状食のチューブのストローを差し込むための穴」がヘルメットについてます。ですが、動いている最中だとなるべく使いたくありません。
更におトイレ、行きたくても行けません。痴女種だからと我慢させられますけど、これまたスケアクロウ同様に本当はオムツめいた専用下着を着用してから搭乗服を着込むそうです。
…そう、これにある程度の時間、乗るだけで一種の拷問なんですよ…。
ですので、浮かせて飛ばして欲しいのです。
しかし、外は地吹雪。
風速何メートルか知りませんが、少なくともジーナちゃんは今、あまり浮かせたくないようです。
でまぁ、あたしたちがいる場所。
ベルリンってありますよね。
そのベルリンからおおむね真西に伸びる街道を向かうと、マグデブルグの劫掠が行われたマグデブルグを経てハノーバーまたはハノーファーと呼ばれる大都市に行き当たります。
で、マグデブルグとハノーバーの間にあるブラウンシュバイクという町。
そこの近辺をうろうろしてると思って下さい。
理由は、ハノーバーを仕切るハノーファー選帝侯。
このお貴族様に対して、ヴァレンシュタインが軍税徴収部隊を差し向けたという情報が入ったからです。
(っていうかこの吹雪状態ならさ、絶対に立ち往生してると思うわよ…)
(エマ子の衛星スキャンだと、ブラウンシュバイクに徴税かたがた滞在してるらしいねんけどな…)
(ジーナちゃん、何かこっちのモニタに表示が出たんだけど…なになに、CAUTION, thermal source…)
(ん。ちょっと待ってな…ふむふむ。百人ばかりの集団やけど…待った。雅美さん、多分あいつら徴税兵やぞ…)
なんと。
吹雪の中をついて進軍…するどころか立ち往生しかけています。
こちらを見てぎょっとするも、あたしが心話で呼びかけますと、もし可能なら助けて欲しいと。
(エマ子すまん、うちらの前におる馬車隊の連中、TAPPSごとテンプレス2世に連れ帰れるか?凍死しかけとるんわかるやろ?)
(りょうかーい。とりあえず収容後に馬も人も凍傷防止措置を取りますわ)
で、艦内にいた女官たちと手分けして蘇生作業を済ませ、ありあわせの艦内作業服などに着替えさせて暖を取らせ、熱いスープなどを飲ませておりますと。
「た、助かった…この御礼を何としたものか…」と隊長らしき方にお礼を言われます。
でまぁ、何であんな場所にいたのか。おおよそ把握していますが、話を聞きますと…うん、ブラックな内容でした。
自分はもともとライプチヒの駐留兵だったが徴税に動員され、ベルリンを経由してハノーバーに向かおうとしたところ折からの猛吹雪に巻き込まれ、冬ごしらえの装備が満足でなかった兵卒の介抱をしていて立ち往生した。
このお礼を本来はすべきであるが、我々が科された徴税額を持ち帰らなければ我らの故郷が襲われ略奪されると脅されている。
故郷に残した妻子のためにも、何としてもハノーバーにたどり着いて軍税を取り立てねばならない。
名乗られた通りに聖母教会の関係者であれば、一つお願いがある。
我々も後々恨みを買う徴税を避けたいし、お助け頂いた上に恐縮千万だが、何とか良い知恵をお授け願えないだろうか。
実際に我らが徴税兵だという事がどうやらバレているようで、近隣の村や町に助けを求めるのは藪蛇となるので困っていた。
などなどの話を聞く事になりました。
どうも、嫌々やらされていたようなのです。
「うーん、これは確かに見捨てるには忍びないわよねぇ。どうする? ジーナちゃん…」と、傍のジーナちゃんに聞きますと。
「んなもん簡単やん。本来、ハノーバーからむしる予定やった額の銀貨、うちらが都合したったらええがな。どうせ後々ヴァレンシュタインから無理にでも返してもらう予定やねんし、ここでこの人ら助けておいた方が色々はかどるやろ」
と、元々は何らかの方法で軍税を聖母教会が肩代わりしてハノーファー選帝侯に恩を売る戦術を取る予定だったのをあたしに思い出させようとしてくれます。
という訳で、ハノーファー選帝侯へのお芝居に協力してもらう事で話をまとめてみましょう。
実はハノーファー選帝侯、こちらの歴史でも内帑長官なる役職についており、皇帝家の金庫番めいた地位にある方です。
つまり、しこたまお金を溜め込んでいるとみなされていまして、徴税部隊も5台くらいの馬車を仕立てて護衛兵士も随行するなど、それなりの集団で向かっていたようなのです。
(という訳でマリ公。ハノーファー選帝侯に交渉しようと思うのだが)
(わかった。マイレーネさんと合流してくれ。徴税団が回復次第、ハノーファー選帝侯の宮殿に転送するわ。それと、必要な銀貨の都合だよな。…例の再鋳造不可のセイント銀貨でいいだろ)
(おー。それで頼むわ)
と、ジーナちゃんとマリアちゃんで打ち合わせをしてもらいます。
そしてマイレーネさんに合流したあたしとジーナちゃんはハノーファー選帝侯のルートヴィヒ伯爵なる人物に半ば無理やり面会して話を詰めて来ました。
「は、はぁ…確かに先代選帝侯はザクセン聖母教会の名誉職も授かっておりましたが、余は聖界諸侯にあらず、世俗諸侯の地位でございまするに…そのような施しを頂きますと却って後々何をすればと、恐れながら申し上げさせて頂きたく…」
えーとですね。要はハノーファー選帝侯領の経営に口出しされたくないのです、この方。
ですので我々の提案を恩着せがましいものに感じておられます。最悪の場合、自領の兵で徴税部隊と一戦交えてでも軍税拠出を拒む案すら考えておられました。
しかし、マイレーネさんが前にいます。
このプレッシャーに耐え抜くのは容易ではないでしょう。
「まぁまぁ殿下。とりあえず要求額に等しい銀貨、聖母教会が用立てさせて頂きますがな。利子とかそういうケチくさい事は申しませんからご安心ください。ただしですな…」
で、ジーナちゃんが吹き込む話を汗を拭き拭き聞かれる、いかにもこの時代の貴族ー!という外観のルートヴィヒ伯爵。
…この方、連邦世界の歴史だと後に英国国王になるんですが、痴女皇国世界史ですとハノーファーに留まっておいでです。まぁ、国王になったものの苦労の挙句、退位後に祖国に帰る途中にお亡くなりになるというですね、いわゆる「あまりパッとしない人生」を歩まれた方っぽいので、今の人生はそれはそれで良いのではないかとも思われます。
ハノーファー選帝侯時代は帝国元帥に任命されるもですね、スペイン王位継承戦争の間に、事もあろうに上司の神聖ローマ帝国皇帝に戦費を横領されるとか散々な目に遭っていますしね…。
で、ご本人は金庫番職ということもあって、お金の貸し借りに敏感です。
「それにこれは無用の内乱を招かないための措置ですがな…仮にこの案を断ってみなはれ。バーデン=バーデンの前座にそちらを攻めかねん話にもなりまっせ。なんせヴァレンシュタイン公、ボヘミアでは既に2万の軍勢を集めてはるようで、攻め込む兵力自体はまぁ都合をつけたようでしてなぁ」
などなどある事ない事吹き込んで、ヴァレンシュタインの次の目標はあんたやぞと不安を煽っているジーナちゃんですけど…ま、あながち間違いでもないんですよね。
と言いますのも、助けた部隊長から聞けた話ですが、ドイツ北部の徴税に回した部隊は指揮官の下に集合して再編成、そのままバーデン=バーデンを北から攻める軍団として攻め入る段取りだったようなのです。
そしてバーデン=バーデン公国を東方から攻めるヴァレンシュタインの本隊とで2方向侵攻を行った後についででハノーファーを始め、バーデン=バーデン領の北側に存在する諸侯領に攻め入って配下に置こうという構想もあるようでしてねぇ。
「選帝侯。これはバーデン=バーデンのみならず貴領の消滅にも繋がりかねない椿事。それに我が聖母教会、ひいては痴女皇国はバーデン=バーデンを防衛するためには多少の無理もやむを得ないと考えております。何でしたら付帯行為として、一時的に貴領を接収して軍事統治下に置いてもよろしうございますが」
「その方が守って貰えてええんちゃいます?」
と、マイレーネさんとジーナちゃんがチクチクといじめた結果、選帝侯には「快く」協力の快諾を取り付けさせて頂くことができました。
…誰ですか。
ベラルーシが対・ウクライナへの軍事行動に非協力的だからと爆撃して言うこと聞かせようとしたハゲたおじさんの蛮行に近いものがあるというのは!
…軍事同盟というのは古今東西を問わず、強固でなくちゃいけないんですからね!
ベラ子「悪役でした」
まさみ「仕方ないじゃない!」
ジーナ「うむ。ベラ子はぬくいとこの担当やったから想像つかんやろけどな…タイタンという土星の衛星あるやろ…あそことかエウロパの表面で活動するくらい面倒やったんやぞ!TAPPSの関節部の氷結防止ヒーター入れっぱなしやってんからな!」
ベラ子「かーさまが東欧地域ドサ回りをめんどくさがったんでしょうが…。自業自得ですよっ」
ジーナ「うぎぎぎぎぎ」
まさみ「とりあえず今後の予定ですけど、バーデン=バーデン防衛戦はこのままR15枠で行きたいようよ。天の声としてはこんにちわ、マリアの連載編数を第百部に近づけてR18版と合わせたいみたいだし」
ベラ子「助平シーンが欲しい人、ちょっと待ってくださいね」
ジーナ「うちらのエロシーンに果たして需要はあるのであろうか」
まさみ「ジーナちゃん…それは思ってても口に出しちゃダメ!ダメなのよ!」
ベラ子「ただ、もしかするとアルトさん枠で行くかも知れないそうです。その時はここに告知させて頂きますね」
全員「では、次回もよろしくお願いします!」
2022.3.14追記
マリア「という訳でアルト枠で行くそうだ」
https://novel18.syosetu.com/n5728gy/106/
ベラ子「まぁ、アルトさん担ぎ出しますからねぇ」
マリア「それにしてもアルトってあんなに雪山、苦手だったかな」
ベラ子「単に未経験だからでは?」
マリア「だから経験者を呼んだんだよ…(ニヤリ」
ベラ子「誰が来たかはお楽しみに(ニヤリ」