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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど
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アフリカの爆弾女 3

「まー、あんた(サン=ジェルマン)の存在はなるべく秘匿しときたかったんだけどさぁ。正直に言う。月にはあたしとベラ子とかーさんだけで行きたかったんだよ…」


(そりゃ悪かった。埋め合わせにチタン合金でも何トンか持って帰るかい?)


「今更いらねぇよ。それより用意できるならロマネ・コンティの何本かでも呑み助たちにくれてやってよ」


(無茶言わないでくれよ…僕の今の境遇、わかってて言ってるよね? 一応は幽閉状態なんだよ?)


「自業自得だろ…それに会社(ルナテックス)は再生中とは言え、それなりに金は持ってるだろ…」


(まぁね。とりあえずダリアちゃんと室見さんか。終わったみたいだし連れておいで。ラッツィオーニさんには僕から話を入れてるから、月面周回軌道に入ったら宇宙軍のエスコート艦が付き添ってくれるはずだよ)


「はいはい。とりあえず行くだけは行くよ…全くフランス人って奴ぁ困ったもんだ。あ、ジョスリーヌさんは聞かなかった方向で」


「全力で聞こえております。…しかし陛下、サン=ジェルマンと言えば西暦1700年代の人物とされる謎の存在かと。マリアヴェッラ陛下とルクレツィア閣下には誠に申し訳ないのですが、シチリアの生んだ稀代の詐欺師たるアレサンドロ・ディ・カリオストロと並ぶ胡散臭い人物の筆頭格であるかと」


「そんなの出てきたんですの…シチリアは困った島ですわね」


「ルクレツィア母様、他人事のように言わないでくださいよ…痴女皇国世界でも出現の可能性が指摘されていますよ、カリオストロ」


「ま、出てきたら出てきた時の話だよ。それより…うん、今度は上手く行ったかな。ダリア、とりあえず大人しくしといてくれよ」


(はぁ…サン=ジェルマンのおっさん、何で黒マリ以外に話すかなぁ…あたしもそっち行くわ。さすがにあの無責任迷惑おじさんに出て来られたら話がややこしくなって困んのよねぇ…)



で、スケアクロウ操縦室から引き続きマリアヴェッラがお送りしております。


「ぶっちゃけサン=ジェルマンが諸々の原因というのは理解しました。しかしね、マリアちゃん。このおっさんが諸悪の根源かというと」難しそうな顔の雅美さん。


「足掛け数十年にわたる予算横領合計金額数十兆円を溶かしてMIDIを作り、非人道的な方法で13体掛ける7名分の脳を入手した。連邦基準で言えばそりゃ犯罪だわなぁ」


「だけど死刑または無期懲役に等しい長期刑囚が対象だし、何よりサン=ジェルマン自身が脳を提供してるしねぇ」


「それでよう生きとるな」


「だから始末に終えねぇんだよ…とにかく、聖院世界の成り立ちについては吉村さん以外は理解してもらえた。その前提であのおっさんと話をしねぇと前に進まねぇのはわかってくれ」


「とりあえずこんな無茶な世界、何かの介入もなんもなしに成り立つわけがないと思ってたけどさぁ。こっちの歴史との矛盾、多過ぎんのよ」


「ちなみに当人曰く、僕が隅々まで考え抜いて色々決めたわけじゃないから責めるなってのが言い分らしい」


「まぁ、直して欲しいところは直せる範囲で直させよう。とりあえず月行くぞ月」



というわけであっさり月に着きました。


「ベラちゃん駄洒落菌検査した方がよくない?」


「これくらいで駄洒落菌検査してたらどうなるんですか…」


「とりあえずエスコート艦が…お、来た来た」


右後方からスケアクロウを追い越して周回速度を合わせる長細い宇宙船が、前の窓越しに見えます。


「しかし時代は変わったねぇ。NB建造艦の採用なんて」


「ファンタスク級フリゲート艦やな。ヴァンパイア級の連邦版や」


(ベラ子。この場だから言うが、実はテンプレス級同様のリース品や。フランス航空宇宙軍籍にして連邦宇宙軍の戦力編入艦扱いにしとる)


(例の東風(とんぷう)級駆逐艦採用汚職事件の余波で調達計画見直しになってさ、拠点防衛用艦の定数未達が続いてたんだよ。で、話を聞きつけたうちのジジイが提案持ちかけてリースしたんだよね…)


(そりゃ共和国、NBと痴女皇国には頭が上がりませんよ…連邦政府から受け取る使用費でリース費相殺されるどころか利益が出ておりますからねぇ)


(連邦向けの搭載兵装システムはタレスとダッソー主体だからそっちでも利益出せると思うよ。建造中の艦が順次就役していくから、かなりウハれるな)


(対消滅機関はロールスロイス・マーリンNB工場、船殻はBAEエアロスペースのニューポーツマス製造やけどな!)


(ああっあたしがフランスに作ったコネが軍艦調達に悪用されている!)


(おしょくのにおいがします。これはジョスリーヌさん、みなさんにフランスりょうりだけではすみませんね)


(…みなさん共和国の軍需産業に偏見持ち過ぎでは?)


(前科ゼロやったらええねんけどな…特にダッソーとかダッソーとかダッソーとか!)


(ベラ子陛下、るっきー、絶対これ何かワイロの流れがあると思いますよ)


(あたしもそう思う。ジーナちゃんかマリアちゃんの口座は要・監視ね…)


(イタリアに美味しい話が流れてませんわね…)


(しかしルクレツィア母様、ラッツィオーニ閣下に話が通らずに進んでいる件でもないようですが…)


(搭載レーザ主砲やレールガンはブレダメカニカ製や。鉄道関係で何の木イタリアの生産比重上げてんねんから船関係ではあまり言うてやるな…あと雅美さんは自分の裏金作りがバレた腹いせにこの件を掘らないように)


(ジョスリンのバイタルデータ変動から察するだに、絶対ジーナさんは何か利益を得てる…まりりも怪しい…雅美さん、この件は掘ってみるべきよっ)


(しょーがねーな…あのなりええ、怪しいもクソもねーよ。だいたいファンタスク級の名目製造メーカーは英国本社のテンプレス・サーフェスシップ社だ。逆に痴女皇国はフランスやイギリスの現代造船技術の提供、このダミー会社経由で受けてんだよ…)


(マドモアゼル・ムロミ…つまりあの船はNBで建造して完成させたのですが、建前としては英国の軍需造船所企業の製品なのですよ…で、そこの社長がマリアリーゼ陛下という筋書きです)


(で、フランスは国債発行してうちへのリース費を払ってる建前ってわけよ)


(え? さっきフランスから連邦にリースしてるって言ったよね? 何でまりりの会社がリース費受け取るのよ)


(んもー。だからあの船はほんとはNB保有なんだけど、連邦と公式国交結んでないじゃん。だからあたしの会社が建造して英国船籍で登録してフランスにリースしてる建前にしてんのよ。で、フランスはそれを連邦に貸してんのっ)


(何というややこしい又貸し…)


(ちなみに連邦政府の軍事予算で払えるリース費から逆算して各国各社のリース費決めてるから破綻の危険はあらへん。ただ、基本契約が50年くらいの長期リースやけどな。実際には連邦に貸しっぱなし前提の艤装や装備にしてるさかい、中はほぼ完全に連邦宇宙軍仕様やぞ、あれ)


(ですから共和国はマリアリーゼ陛下にリース費をお支払いする立場なのですよ…)


(なにかよくわかりませんがものすごくおかねがながれているはなしにきこえます)


(吉村。機密事項以前に深く突っ込んで考えちゃダメなの。あえてNBと公式で講和せずに敵国扱いを完全に解いてない方がいいことがあるのよ…)


(ミユキにいいことを教えてやろう。無能な味方より有能で賢い敵の方が世の中、色々とはかどることがあるのだよ…)


「痴女皇国という長寿生存種の運営国家があるからできる荒技でもあるから皆さんは真似せんように…はいこちらテンプレス・セキュリティ所属JA6919、IT011。機長高木ジーナ。どうぞ」


(誰が真似をするのだろうか)


『JA6919、こちら宇宙軍地球圏防衛艦隊所属艦、ヴォークラン0102。艦長の吉住です。高木少将閣下、月面基地まで先導させて頂きます。IFFは宙兵隊モードで発信作動願います。どうぞ』


「こちら高木。吉住少佐、よろしくお願いします。IFFトランスポンダUGH-SAMY確認。艦隊航行管制モード、スレーブ確認。航行誘導制御待機準備よし。どうぞ」


『こちら吉住。航行開始します。以上』


「さすがに月面基地群に勝手に降りて行く訳にゃいかねーよな」噴射炎を見せずに降下していく軍艦に付き従うように、こちらも動き始めます。


「そんなんしたが最後、迎撃ミサイルと言わず収束兵器と言わず片端から叩き込まれるわい。スケアクロウでもG型なら防衛してやり返せんこともあらへんけど、戦争に来た訳ちゃうしな」


「しかし強制誘導に従う意味あんのかよ」


「基地群自体が場所含めて機密事項や。月面の民間港とは離してるし、そもそも今から行く場所は宇宙軍の防衛艦隊母港に近いはずやで」


「あーそうか、ルナテックスの造船所か…そりゃNB機材のスケアクロウのナビゲーションデータに場所、入れられんよな…」


「うちらは一応は月駐在の陸戦隊を訪問してスケアクロウへの0G装備隊員の乗降訓練手順を行う名目やからな。確認しとくけど面会時間は1時間や」


で、先行する軍艦の後方に続いて月面に降りて行きます。行き先には結構深く大きな峡谷が。


(月面に入口とか作んないんですか)

「ベラ子。月面のクレーターとは何でできたかわかるか」

(あー…なるほど)


「付け加えておくと、地球に隕石があまり落ちて来ないのは月の重力に捕まってこっちに落ちるからでもあったりする。それでも全部捕まえてくれねーんだけどよ」


「せやから隕石の直撃を防ぐためにも地下に設備を作る必要があるんや。うちはちょっと離れた民間港に船入れた事あるけど、アプローチはだいたい同じやな」


既にスケアクロウは翼を複葉状態に戻しています。


『では我々はここで失礼させて頂きます。基地港湾管制局のガイドナビに従って下さい。良いご航海を』

軍艦は入港せずにそのまま上昇していきます。


「誘導ありがとうございます。良いご航海を…マリ公、あれやな」


「んだな。61番スポット誘導、間違いねぇ」

進行方向前方にホログラム表示で左向き矢印が出ています。JA6919という機体番号も点滅表示されていますから間違いないでしょう。


そこまで来ると頑丈そうなハッチが開いて開口部が見えています。


「機体上部のスリングフックマークが吸着固定場所を兼ねています。クレーンアーム、そちらにヒット願います」かーさまが港の方とやりとりしていますが、開口部側から出てきたアームに捕まえてもらうようです。


あちこちで回転灯だの点滅灯が黄色や赤の光を飛ばす中、スケアクロウは横向きで穴の中へ。


『JA6919、このまま係留でよろしいですか?』

「JA6919、大丈夫です。乗員のみ降機します」


(ワイン大丈夫やろな…)


(貨物室は与圧かけまくった上で内部気温0度近くにしてる。とどめに樽は梱包用樹脂剤で固めてっから大丈夫だ。今確認した)


(ほな全員降りるで。ちょっと着替えてもらうから。あと重力注意な。絶対飛び上がるな走るな)


という訳で全員の服、姉が宙兵隊作業服と無重力対応安全靴に変えてしまいました。

そして母様を先頭、姉が最後尾について皆で降りて行く事に。


ばこん、と音がしてハッチが外部から開かれます。

簡易宇宙服姿の作業員らしき人の誘導で、飛行機のボーディングブリッジめいた通路を歩く事に。


「手すりにつかまってなー」と母様から指示が飛びます。なにせ重力が地球の1/6ということだそうですので、慎重に慎重に。


(宇宙なんか来るの生まれて初めてなのにー!)


(あたしら幹部は連邦やNBに絡む仕事もあるから宇宙船とかに慣れる必要あるんだけどねぇ)


(むじゅうりょくと違って変に身体の重さがあるからこわいですわっ)


(実はこの面子で宇宙未経験、ミカエルと吉村さんなんだよな…)


(私は身体制御が出来ますから特に無問題ですが、まぁ…吉村さんは何があったら私に捕まって下さい)


(それよりここ、空気があるのに何で宇宙服…あっそーか、あたしら痴女皇国地球から来てるから検疫か…)


(雅美さん正解。この後一応は体裁だけど紫外線消毒と身体洗浄が入るから。んで向こうの用意した服に着替えてもらうからな)


(それで宙兵隊の服を着せられたわけですか…)


(あたしらがここになんか持ち込む方が問題になるからな。ちょっと我慢して付き合ってくれ)


(地球でなんらかの定期健診受けてて、サハラタワーステーションで事前検査と検疫受けてから月シャトルに乗ってたら免除。せやからどっかでこれされる。民間港はここほど厳密にやらんけどな)


(なんでこんなにきびしいんですか…)


(うちらが痴女種だから。あとこの基地は軍艦の建造だけじゃなくて定期整備する基地でもあるから重要度が高いんだよ。インフルエンザに感染してるのわかるだけで上陸差し止めかかるからな…まぁ、うちらが感染症持ちになりようがないのは宇宙軍にも分かってるから、あとは付着菌の消毒だけだ。これだけでもかなり規程緩和してくれてんだから協力してやろうぜ)


(ほんまやったらうちらにも気密服着せられて脱ぐな言う話になるような場所やねん。ほれほれこの車に乗って乗って)


と、出て来た先の場所に停まっていたゴルフカートのような電気自動車数台に分かれて乗せられます。


(母様はよく、この人たちと話が出来ますね…気密服着ておられるのに…)


(べーらーこー。お前も生体インターフェイス準拠会話できるやろがー)


(あぁ、そうでした…)


(こういう間の抜けた女に最大級の警戒体制を敷くというのは何か間違っている気がしなくもない)


(マリアちゃん。ベラちゃんもそうだけど、親が誰かよく考えた方がいいわね。特にベラちゃんは両親が誰か…)


(そうですね。べらこへいかはわりとぬけています。てんねんです)


(アルトさんにだけはいわれとうなかった!)


(うむ。マリ公も今ではこうだが…かつてすっぽんぽんで天王寺の領事館から外出しかけた事何度もという逸話があってな…白マリも黒マリもお前ら絶対これ覚えてるはずや。あんまりやらかしかけたから領事館のエレベーター、1階で降りたその目の前にでかい鏡置かれた事あったやろが…)


(かーさんやめてよそれ…女官種時代の可愛いチョンボじゃん…)


(それバラすんじゃねぇおばはん!あんたも広報時代についうっかりして広報用のエロ服で来客に会った事何度もあるだろうが!何を素知らぬ顔して応対してんだよあん時!)


(聖院とか痴女皇国の関係者やからええやんけ!)


(マリアちゃん。それ…あたしもやった事あんの…それも一度や二度じゃなくね…)


(雅美さんもかよ…頼むよ…)


(雅美さんも連邦向けの広報してたからねぇ…)


(あとルクレツィア母様。痴女皇国ドレスも大概ですけど、前の女官服で会談するのもいい加減刺激強すぎるんですよ…?)


(ぎゃあああああマリアヴェッラ何をバラすんですの!)


(そーれーもーフィレンツェとかフェラーラとかマントヴァの地元メディアの取材でー)


(イタリア国内なら案外素で普通に接しそうだから怖いわね…)


(ええ。普通に取材されてました。ボルジア家関係の歴史番組出演というので私もオブザーバーで出ましたけどね)


(イタリア人凄いわね…)


(確かにうちも夏のナポリを知っとるけど…うん。ベラ子ですら違和感がな、違和感がな)


そんなアホ話をする間にも基地か工場かよくわからない場所の通路をどんどんと進んで行く車。


やがて、両開き扉が設けられた場所を通過すると、ここで車を降りるように無線で連絡を受けます。


『ではこちらで消毒と洗浄を終えられてから、別の者がお送りさせて頂きます。この先はルナテックス社の社有区画となりますが、閣下と他の方々の()()は向こう側にも伝達を確認しております』


「ご配慮痛み入ります。では」


そして走り去る自動車3台。


『ジーナ・高木少将閣下。ようこそルナテックス・エアロスペース航宙技術開発センターへ。前方にお進み下さい。シャワールームがございます』


とまぁ、音声による案内を受けまして。


「またしかしえっらく厳重ねぇ」


検査着まがいの上下に着替えた雅美さんが呆れたように言われますけど、あたしも同感です。

しかもここのシャワー、重力が地球よりきつくないせいで、透明な筒に入った上で上下左右から全身じゃばじゃば洗われた上で強制的に筒内の水を吸引して空にする、宇宙船に装備されたものと同じような代物なんですよ…。


「かみのけかわかしたい〜〜〜〜」


「まりあゔぇっらにおなじ〜〜〜」


「母娘で漫才すんなっ」


「まぁ天パ親子はともかくだなっ」


でぇ。


バスタオルはもちろん、ドライヤーもないんです。


シャワーを出た場所で上から吹き付けて来る熱風でしばらく髪の毛と身体を乾かしてから出て来るそうなんですけど…絶対に後でお風呂入り直したいですぅ…。


でまぁ、使い捨てスリッパと使い捨て下着に、先ほど申しました検査用とか健康診断だの人間ドック用っぽい青緑色の上下を身に付けました後で、女性職員の方に案内された先。


オフィスらしき部屋がいくつも通路の両脇に存在する奥に警備兵っぽい人…明らかに宇宙軍や宙兵警務隊じゃないっぽい服装で低反動銃を携帯した方が2名、扉の両脇に立っている場所まで連れて来られます。


しかしその銃を構えるでなく、ドア横の操作パネルを使って開けてもらえます。


「あぁ、皆さんに銃が無意味だとは聞いておりますから」


「中で社長がお待ちです。まぁ、本当は普段、ここまで厳しくないんですけどね…部外者にはこうして監禁してるように見せておけって…」


いいんでしょうか、こんな話聞いて。


「月から出さなきゃいいらしいです。ささ、どうぞどうぞ」


なるほど、この会社の警備部門の方なんですね。


そして扉を抜けた先。


窓がないだけで役員室ー!という感じのお部屋です。


「いやぁすまないねぇ、こんなめんどくさい場所に来てもらって」


はっはっはっと笑うのは見た目20代のお兄さ…え?


「ああ、マリアヴェッラ。簡単だよ。君達とは理屈は違うんだけど、(ぼか)ぁ見た目の年齢を適当にいじれるのさ」


「ったく悪趣味な…どっか適当に座っていいかい?」

とぶっきらぼうに言う姉。


「いいよいいよ。そこの椅子座って座って。君たちには…えーと、吉村美咲さんか。あなたにはお茶、出した方がいいよね。…えーと僕だ、紅茶、人数分持ってきてくれる?」


「なんというか…ねぇ、サン=ジェルマン…あなた本当に幽閉されてる立場なの?」

聖院姉が聞きますが。


「そう言う事になってるんだよ…いや、実際問題として、月から出たらさすがに怒られるよ? 僕だって一応ここの会社の長ではあるんだし、従業員の生活について責任感もそれなりにあるんだからさ…」


「宇宙一かも知れない無責任男がよく言うよ…あんたが変な世界思いついた件であたしらめっちゃ困ってんだからな!せめて資源埋蔵量、連邦世界地球の半分でいいからもうちょっと増し積みしといてくれよ!」と、ソファにぼすっと乱暴に座りながら姉が申しますが…。


「おいおい、ここが月っての忘れないでくれよ…」


ねーさん、身体、反動で浮いてるじゃないですか。


「すぐ沈むよ。それはそれとしてさぁ、先に美咲さん見てくれよ。あ、獣帯級駆逐艦の改装設計書と仕様書渡すから受領サイン頼むぜ」


「はいはい。こういう小口の仕事も貰っとかないとね」と、メディアメモリーらしい小さな棒を姉からゆっくりした速度で投げつけられたのを受け取るお兄さん。


「マリアリーゼ、これさぁ…機関換装抜きに進める奴で間違ってないよね? 対消滅機関搭載抜きで進める奴だよね?」と、再生もせずにその棒を振ってみせるお兄さん。


「おーい、間違っても対消滅機関積まないでよ? それしたらあたし怒るぞマジ怒るぞ」


「はいはい。本当はルナテックスでも作れなくはないんだけどね、ここに生産ライン作るほど間抜けでも喧嘩好きでもないから。…あ、吉村さん、ちょっと待ってくれよ…ふーむ」大きな机の向こうの椅子に座って目を閉じ、考え込むような風のお兄さんですけど、やがて目を開けると、美咲さんの前に立たれます。


「あのさぁ…君、言い方は悪いんだけどね。驚かないでよ。それと絶対に僕を恨まないで欲しいんだけどね。僕の指定する場所で死ぬ方が、この先の事を考えると、もうちょっとマシな人生に生まれ変われる可能性があるよ」


なななななな何なんでしょうこのお兄さん。いきなりやぶからぼうに。


さすがに美咲さんでなくとも、いきなり初対面でこんな事言われたら誰でも驚くか、下手すると怒るでしょう。


「それ以前に何でこの人、あたしのことを知ってるんでしょうか…」


「ああ、それね。簡単だよ。マリアリーゼの見聞き体験した事、僕にも伝わるんだよ」


「えええええ?」


「いやね、僕もある事情で生身の身体じゃなくなっててね。ちょっとしたカラクリ仕掛けの身体なんだよ。ほら」と言っていきなり老人になってしまいます。


「とまぁ、こんな感じである程度は外面をいじれるの。で、それだけじゃなくて色々見聞きできてね。例えば、あなたの生年月日が西暦…じゃなくて今は連邦暦ってのか。何年何月何日だとか、あとあなたの口座…日本のどこそこ銀行の口座番号何何番の暗証番号が○○○○で今の残高が○○○○○円でクレジットカードの今月の支払請求額が○○万円だとかさ」


「なんでこの人たちってあたしの個人情報こんだけポンポン抜いてきてさらせるのよ!」


「つーか吉村さん…言いたくねぇんだけどさ…あたしも出来るんだよ…そういう個人情報ぶっこ抜き…かーさんとベラ子は苦手だけどな。あと、雅美さんは別ルートからそれくらいのことはできる」


「ヨシムラ。ちなみに私も日本の警察を経由する必要はあるが、捜査情報照会請求を入れれば今くらいの個人情報、数分で取って来れるぞ。それよりもこのサン=ジェルマンという方だがな…たった今遭遇したお前の個人情報を知っている以上に、お前の人生の未来を知っていそうな件について尋ねる方がいいんじゃないか?」

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