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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


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アフリカの爆弾女 1

皆様こんにちわ、室見理恵です。


いくら高校時代に先生の作品に触れて精神汚染された(しゃざいと)(ばいしょう)とかアホな事を言っているのはともかく、それなりに熱心に作品を読んでいたからと言ってもですね。



…天の声は筒井康隆先生(元祖不謹慎小説家)に謝るべきだと思います!

あのですね。


絶対これ垂水区(たるみく)の人に怒られると思うんだけど。


「日本を沈める話を書いたお友達(こまつさきょう)が大成功したからと、日本以外を全部沈める話を書いた人の作品だからって…」雅美さんが絶句していますが。


「ありゃ2人がマブダチだから出来た話であってな…」と、まりりも渋い顔をしています。


で、下手をすると我々全員時を駆けて学園に俗人ばかりの梁山泊をこしらえたあげく、超能力者だからと狙われそうな副題はともかく、そんな意味不明な会話を交わしている場所、ナッソー市街地に面した港です。


連邦世界の歴史ならパラダイスアイランドに飛行艇の基地があったり、戦後にその設備を利用してマイアミとの間に旅客用飛行艇を飛ばしていた会社があったそうですけど、痴女皇国世界ではまずナッソー開発という事で飛行艇が海から上がってくる坂道、ナッソー港に作っています。


で、ナッソーのあるニュープロビデンス島、なぜ海賊の拠点として目をつけられたか。

 

まず、この辺りは珊瑚礁由来の小島が多く、海賊船が身を隠す場所に事欠かなかったそうです。そしてこのニュープロビデンス島、最大標高5mという「どこの天保山(てんぽうざん)や」状態の平べったい島です。ですが割と大きめの湖もいくつかあって水源に事欠きません。


そして台北(たいぺい)とだいたい同じ緯度で亜熱帯気候。


ハリケーンの被害に遭いやすい島ですが、年間平均降水量1,500ミリ前後と雨に恵まれており、水を補給できる島として海賊には重宝されていたようです。


連邦世界では海賊共和国なる自称国家を築いていたこのナッソーで、海賊女王に治めさせるまともな国家たるバハマ共和国を立ち上げ、監督役として痴女皇国中米支部を設立して地域の治安維持を図るというのがまりりの構想です。


んじゃキューバどうすんのよ。


あたしの問いに対しては、ハバナ造船所開設の経緯から南欧支部直轄としてスペインから人を送り込んで分室としている。

だが、ゆくゆくは中米支部の所轄として米大陸地区本部管轄に移行するという計画を聞かされます。


で、現地の状況を鑑みて緊急出動や巡視のアシにと、以前の海賊退治作戦の際にハバナに置いておいた半分飛行機の有翼高速艇…メロウという人魚の魔物の名前がついているそれがナッソーに移されています。


これがかなり狂った速度…海面飛行高度50メートル未満で音速以上が出ないように制限がかかっているそうですが、言い換えればそれくらいは平気で出る代物です。


カリブ海の主要海域や大陸沿岸まで1時間あればだいたい着けてしまうので、これの飛ばし方やら、鬼作戦の時に使った気泡推進式潜水具の扱い方をナッソー支部の面々にまりりとアルトさんが教えていましたが、そもそも海賊女王と2人についてはあらかじめ予備教育を済ませていたので割と早く終わった模様。


(あのあわの中をとんでいくすいしんきですが、精気ででんきをつくるかいりょうがたになりました。ひろしまからまつやままで三十分とかいうとはやさがわかるそうですよ)


ちなみにこのスーパーキャビテーションジェット推進機、万卒以上か人魚種でないと耐えられないそうですけど、波の影響を受けない海中を飛ばして行けるので海が荒れている際には重宝するみたいですね。


「しかし、りええ…まずい話があってよ…いや、支部の件じゃねぇんだ。あれよあれ」


「あーあれね。もう記憶消去しかないんじゃない?」


「中井が何だかんだで、夕飯の時にさっとタコスまがいとメキシカンピラフみたいなの作って見せたじゃん。んでビーンズスープも添えて。あれで海賊女王が気に入って、あいつら三人は交代で支部の食堂と海賊酒場のコックを担当する話になっちまったからな…」


「で、メシマズ女以前の美咲さんはまたしても浮いてしまったと…」


「ところがよ、理恵ちゃん」そこにかまきりが来ました。


「しばくわよ理恵ちゃんっ…それはともかく、記憶消去ダメって言うのよ…二代目様」


「今それで初代様と喧嘩中。初代様はあたしと同意見で、学習のためにも脳をリセットする方がいいと強硬に主張してます」そこに淫乱マザコンも来ました。


「パイセン…怒りますよっ。で、困った家族会の皆様も、姉さんの判断に委ねようと言っておりますが」


「マリ公これどないすんねん。いや、機械もんいけたらまだ使い道あんねん。それかクレーゼさんに預けるかやけど、財務女官の登用基準あるやろ。在籍1年以上のあれ」どすけべおばちゃんも頭を抱えています。


「理恵ちゃん、モントルーかマドリードまで後ろ(かもつしつ)行こか。ここで座席パレット外されへんからスペース空いてるで」


あれ(へんたいゆそうき)の操縦誰がするんですかっ」


「とりあえずベラ子とマリ公にやらせよう。いや、マリ公も頭抱えとんねん。モントルーに押しつけるんが一番手っ取り早いねんけどな。今回、後ろに積むもん…マデイラ島に届ける必要あんねんわ」と、おばちゃんがスケアクロウに積み込まれる木材を指差しています。


あれ。


毒林檎材ではないのでしょうか。


ワイン樽ならオークのはずですが。


「いや、さすがに毒林檎で樽は作らへんよ。あそこの海事部事務所にストックとして置いとく船の応急修理用資材。アフリカ航路の寄港地やろ」

あーなるほど。


見れば座席の上にも板材を渡してその上にも木材やら何やらを積んでいます。崩れないんですかね。


「最後に縄かラッシングバンドで縛るよ。あの積み込みが済んだらマデイラまで飛んで、あれの代わりにワイン積んでゴンダールに行く。んでゴンダールでオパール積んで聖院湖戻り…の前に月に寄るからな」


ゴンダールとはどこなのでせうか。


「理恵ちゃん国際史選択してたんじゃないのっ。エチオピア帝国の首都よっ」女郎蜘蛛先輩に怒られました。


え。あそこの首都、アジスアベバでは…。


「あそこに遷都したのはもっと後なのよ…ゴンダールができるまでは新帝即位ごとに都の場所変えたりとかしていたみたいだけどね」


「で、りええ。エチオピアに行く理由だけどよ。連邦世界のエチオピア正教会ってわかるか」


あんまわからん。確か独自宗派…どすけべおばちゃんの身体の故郷のロシア正教みたいな感じのがあるのは知ってる。


「でなぁ。こっちでは宗教、特にアッラーアクバル系とエイメン系の普及を抑制してるけど、どうも原始聖母信仰の痕跡があったようなんだよ。そもそもシバの女王、こっちだと確実に実在してたんだわ。…金ピカ王様(まんしんだいすき)の生まれ変わりなのは内緒だが!」


「まぁ、でなきゃ湯田屋の王様に金6トンとか贈れないわよねぇ」と、復帰早々に痴女宮元祖歴女たる面目を一新するかまきり。

乳上ほどではありませんが、昨今のベラちゃんくらいはある胸を突き出してドヤ顔しています。


ぐわしっ。


問答無用であたしのちちを掴んできます。


痛いじゃないですか!


「ふん、体型補正してもまだまだお子ちゃまね!」


おのれ暴力女。


あたしも負けずと摑み返して差し上げます。この無駄な脂肪の塊、少しもらおうかしら。


「それはよいが、とりあえず理恵ちゃん。ベラ子と2人で後ろ行ってくれへんか。いや、真面目な話やねん」


「二代目様の方針ですけど、慈悲で言われてるんじゃないんですよ…恐ろしい話ですけど…」


そしてベラちゃんの話、驚愕ものでした。


…今まで仲間だと思っていた全てに拒絶される定めであると。

それは我々が吉村美咲という人物に触れて分かる通り、本人の普段の言動が原因である。


アフリカを経由しても悔い改めぬ場合、二人の火刑権限者の合意で焼いてもよいと…。


つまり、アフリカ赴任が最後の防波堤だそうです。


しかし、生かして従順化した方がうちの国の役に立たないか。それがわたくし室見の意見なのですが。


「雅美さんかジョスリーヌさんの家畜にしていいなら、だそうですけど」


「あたし美咲みたいなめんどくさいの飼うの嫌。毎日殴る絵図しか見えないからね…」


「もっと調教に値する人物に時と労力を割きたいですね」


「ジョスリーヌさんがベラちゃんを妖しい目で見ている…」


みんな冷たいなぁ…。いや、あたしも正直めんどいです。

パソコンだめだし、運転も苦手くさいし子供嫌とかキャバ勤めまがい嫌、何より売春がイヤ。

だからうちの売春は売春であって売春でないと何回言わすんじゃいっ。


そんな訳であたし室見、ベラちゃんと二人して後ろの貨物室に乗る事に。


「重ねて言うけど何もしないでよっ」


「母様じゃないんですからしませんっ」


「誰の事を指してどすけべおばちゃんと申されますの?」と、そこにもう一人、助平が追加されました。


ルクレツィア・ボルジア。


誰あろうベラちゃんのおかーさんですが、あたし実はダリアさんと二人でこの人を誘拐した際にえらい目(えろいめ)にあわされたことがあります。


今回は秘書のミカエルさんを伴ってアフリカへ赴任されるそうです。


「えーと、シニョーリ…ヨシムラ・ミサキさんね。痴女皇国外務局長のルクレツィア・ボルジアと申します。まぁお話は伺いましたけど。うーん…そうですわね。あなたは何もおできにならないからここにいると。でも不思議なお話ですわね。ミカエル。普通は他の痴女から自然に学習するものではなくて?」と、傍の秘書に尋ねられるマンマ。


「少々お待ちを。…一種の心身障害ですね。いわゆるハラスメントを受けて全てを受け入れ難くなっているようです。これはルクレツィア様には少々理解し難い状態になりますかと」と、怯えた目の美咲さんを一瞥しただけで速攻で言ってのけるミカエルさん。


ああ、パワハラを受けて鬱になってるようなものですね。


ミカエルさんが分析結果を出して来られましたけど…。


要するに連邦世界の日本で好き放題してきた自分の人生が完全否定されている。


そして泣きつく相手がいない。


出来ることも思いつかない。


それと、この美咲さん…中井さんとしてる時に、()()()()使ってましたよね。


元々好きじゃないみたいなんですよ。()()

おくすりの力で無理やり好きなように見せていたと。


そして…潔癖性です。ぶっちゃけ本当は男があまり好きじゃなさげ。


そう、悪い意味でお嬢さん。


もうナチュラルに本当は汚れ仕事を嫌うタイプ、ビジュアルで生きてきただけのような御仁だそうです。


うん、るっきーの真逆というか…。


「人より恵まれた立場だからこそ、恵まれた立場たるに相応しい(こと)どもを覚える。あたくしに付けられた教育係、ことごとくそれを教えておりましたからねぇ…」


はい、イタリア富裕商にして貴族の生まれで、しかも再婚を重ねたとは言えお貴族様の奥様ばっかりやってたるっきーです。はっきり言いますけど、美咲さんよりもっとランクの高いお嬢様です。なんせ父親から城ひとつ(ボルジア城)、贈られてますから。


ですが、本人いわく。


「あたくしが生まれ育った当時、フィレンツェと言わずローマと言わず、貧者は町に溢れて物乞いを求める声数多。いえめん宗教隆盛のれんぽう世界の同じ時代のイタリアと全く同様ですわ。ですので富裕者は恵みを与える必要に駆られておりました。汚らしい乞食などと蔑む者が逆に蔑まれる状況でしたわね」


「実際には蔑んでいる者も少なくはなかったんですよ。ですけど叔父(ちぇーざれ)が教皇に就任して、真っ先に慈善に着手しまして…悪く言うと、聖母教会の浸透普及に浮浪者を利用しちゃったんです。貧民救済に邁進せぬ者はイタリアに住むべきではないとか、例え貧民であろうとも美しく暮らすべきであるとか、姉の全面協力の下で政治的な宣伝活動をバンバン打って聖母教会の活動を正当化してしまったのですよねぇ」うん、ベラちゃんの叔父さんがやってることだけによく知ってるよね。


「マリアリーゼ陛下から資金や食料の拠出を受けたからこそ可能になった話ですけど、貧民も望んで貧民をしているわけではないのです。施しを受けるばかりで堕落した者もおりますけど、それはそれで、()()()処置のしようもございますからね、ほほほ」


…つまりぃ、いくらイタリアでも、あまりに怠けていて聖母教会の炊き出しに並んでばかりの人、罪人扱いにして痴女宮(うち)に送り込んでるんですよ…。で、労働力として使い物になる状態にしてイタリアに返すなりスペインに渡すなりしています。


ですが、あのイタリアですらこうだと言われては美咲さんにはさらなるショックだったようです。


しかしっ。


ここでイタリアをよく知るロシア系イタリア人とスペイン系イタリア人のおことばっ。


「美咲さん…イタリア人でも、働く人は働くんですよ? 例えば美咲さんが持ってるそのプ◯ダのようなバッグありますよね。ああいうものを作る職人の工房は徒弟制度を敷いていてかなり厳しく仕込むんです、お弟子さん…」


「シニョーリ・ヨシムラ…娘の言う通りでしてよ。芸や美の才能を認められるだけでも大変な苦労をするのがイタリアなのです。痴女皇国もイタリアへは芸術文化支援ということで金銭的な援助をかなりしておりますけど、裏を返せば天才や有能な者を発掘するにはお金と手間がかかるということなのです。…ピサ大学も今や聖院学院の分校認定を得ておりますけど、そこに至るまでは大変でしたわよ…」


えええええーという顔をしていますが、真っ赤は真っ赤でも赤い飛行艇に乗る豚さんの機体をチューニングしている工房の娘さん、いましたよね。

ああいう感じで肉親だけでなく、徒弟系の修行を延々と積ませるのがイタリア職人業界のありがちな姿のようです。


で、ここでもう一つ、るっきーのために注釈。


出先で遊び歩き遊び倒しているような印象もあるるっきーですけど、実際にはかなり精力的に行動しています。それはもう、アメリカドサ回りの間にも、時間があれば連邦世界のママの店に顔を出しニューヨークに行って状況報告をラッツィオーニ閣下に入れの、イタリアに行きスペインに行きイギリス、更には敵国たるドイツやフランスにすら密かに赴いて外交交渉をしていますよ。


…その行動にムラがあるのが難点ですがっ。


「行きたい場所に行って良いとマリアリーゼ陛下が言われましたものっ。しかし最近はどこ行けそこ行けあそこ行けが多いのが困り物でございますけどっ」


そそ、るっきーは数少ない「単独活動可能な痴女種」だったりします。要は紫薔薇の浸透偵察員騎士と同じで、取り込んだ精気を体内で精製して自分のために使えるのですよ。ですからベラちゃんあたりが補充をしなくても長期間活動可能なのです。


「ただ、あたくしのやり過ぎ行き過ぎがないようにミカエルが監視役として付いておりますから、緊急事態でなければミカエルから精気を貰わなくてはならないのですわ。で、ちょくちょく痴女宮に戻ったりしておりますのは理恵さんもご存知でしょう? そーですわねぇ、今回のアフリカ視察の後ですけど、春先からは外務局の組織立ち上げということで痴女宮に戻る予定ではおりますわよ」


もどらんでいいですっ、と思いかけましたけど、それはちょっとまずいのですよ。


と申しますのも、アメリカの外交面で一息ついた後、痴女皇国の体制を中欧安定化とシベリア開発…ぶっちゃけロシアにウラルから東を渡す気などさらさらないというのがまりりの方針です。


渡すにしても痴女皇国が強力に干渉管理可能な状態にする。


その裏には、この痴女皇国&聖院世界で仮にハゲのおじさんとか筆ヒゲのおじさんとかロリヤが生まれても何がなんでも赤い国を作らせないという強い決意があるのを聞いています。


シベリアの資源を使えなくして、仮に共産政権が出来たとしても、その資金源を絶つ。


これがまりりの新年の抱負だそうです。


で、その対外戦略の尖兵としてまずは外交交渉…という事で外務局については可能な限り増員をという話が来ています。


(不足する場合、黒薔薇または紫薔薇騎士団を動員しても良しとの話すら来ておりますわ…)


(ぶっちゃけた話、シベリアの毛皮産業だけじゃなくてコルィマ金山とかプラチナやチタン、ニッケルなんかの鉱物資源を片端から抑えたのって、北方帝国をロシア同様に大帝国化させないためなのよね…)


(そりゃロシアがでかくなりすぎたせいで第一次〜第三次世界大戦のきっかけの一つになってんだよね…とりあえずモスクワ大公国とかキエフ大公国レベルに留めたいんだよ…)


(とりあえず飛ばすでっ)


そしてあたしたちの頭上でキンキン唸るICDの駆動音がすると、夜の海にばっちゃんと着水する感触があります。

窓…ないんですよね…貨物室…。


あ、ニュープロビデンス島の地図にあるジョージ王子埠頭から少し行った辺り…そうですね、とんでもない行動で知られるご令嬢(ぱりす昼豚)がいらっしゃるホテルチェーンのおうちが経営するホテルが後にできる辺りの砂浜。

ここにスケアクロウが使う坂道と荷捌場が設けられていますよ。


(そろそろシートベルトしとけー)


(今○○○したらしばくでー)


(するかーっ!)


(母様じゃないんですから…)


(すべての痴女種が聖母様と同一ではないのですから…いくらあたくしでも分別はついておりましてよ…)


まぁともかく。


実はるっきー、人生自体がそもそも一種のギャンブルだった人です。


生涯に産んだ子供の数、8人…うち1名は死産…だの、後世の歴史研究家から「この他にも3人は子供がいる!」と主張されてしまうだの、貴族子女はまず子孫を残すことを強く求められた上に、出産自体が大冒険だった医療未発達時代の人物です。


それ故に死産かつ自分も死んでしまうところを痴女皇国に救われた事実を知っているが故に…更にボルジア家没落を防いでもらったとあって、それなりに労働する意欲はあります。


(まぁ、裏切った場合の担保…マリアリーゼ陛下はきっちり取っておられますけどねぇ…具体的にはあたくしのすてーたすとやら、ミカエルが管理しておりまして、彼女抜きにはわたくし一週間とて生きれぬようにされております)


それを聞いてええええーという顔をする美咲さんですが。


「そりゃあ、イタリアをよくご存知ない方には理解頂くのが難しいかも知れませんわね…家族間でも家督を巡って謀略謀計を巡らせたりする事も決して珍しくはない話でしてよ。ただ、この時代のジィアポネも騎士領主が私共と似たようなお家争いなどをしておられたと伺っております。この時代をお学びのシニョーラ・マサミ…雅美さん辺りにはよくお分かりの話と思いますわよ」


つまり、家族…親兄弟姉妹親戚の間でもあまり信用できないというわけですね。


加えて、るっきーはボルジア家の出身です。あのイケメンのおじさん教皇猊下、連邦世界では毒を盛り謀殺暗殺にも全く躊躇がない戦略家・政略家の代名詞みたく言われてますけど、あの家の出身ですよ…。


良かれ悪かれボルジア家ってばお金でローマ教皇の椅子を買えるくらいの大金持ちで貴族だったんですし、痴女皇国世界でもローマ政庁幹部の椅子を買おうとしていたようです。そしてお兄さんも、るっきー自身も結婚政略のために産まされてる妾腹の産まれです。加えて幼い頃に母親と引き離されています。


そんな状況では親すら下手すると信用なんねぇという、ある意味荒んだ考えになってもおかしくはありません。特に母親はもとより妹とすら疎遠にされた因縁のあるお兄さんは、本当に根本的には他人を信用しない人物です。


教皇猊下の懐刀だの、暗殺頭(ころしがしら)とまで言われたミケーレ・ダ・コレーラ…ミケロットさんですら、あたしやベラちゃんに「チェーザレ様は一見陽気で親しげですが、よく人となりをお知りになって接して下さりますように」とそれとなく注意してくるくらいですから…。


「まぁ、そんな兄に対して傲岸不遜にも程があるお付き合いをされる方がいらっしゃいますからねぇ…謀反を企てないのかですとか、反乱軍のひとつも組織しろよですとか!」


うん。


まりりの悪い癖です。


奴は男…時には女の度量を試すためにわざと謀反を煽ります。美男公の時がまさにそれでしたけど、隙すらわざと作ります。


「な、なんでまた…自分の部下の人でしょ? ヨシフミなんかお店の人がこっそり独立しようとしてたら半死半生の目にあわせてましたよ…」


「それはあなたがお付き合いしていたシニョーレ・ナカイの判断基準ですわ。マリアリーゼ陛下は気に入った人物がどのように反乱を起こして国を興すのか、政治家(ポリティコ)としての度量を試されるのがお好きなのです。もっとも、兄もそれを読んでおりますから、適度にあしらっておりますけどね」


ああ、奴は時々、ディプロ○シーに誘ってますね。あと今回みたいに痴女皇国を離れる場合に「この時に謀反を起こすとして毒盛りの兄貴ならどうするよ」とかわざと聞いてます。


(逆に毒盛りの立場になってやれよ…あいつはあいつでイタリア諸侯全てから敬愛される立場じゃないんだよ…むしろさ、るっきーがよく知ってるけど、恨みを買ってる場合の方が多いんだよね…だから毒盛りには「自分が反乱を起こされたらどう対処するか。またはどうやって未然に防ぐのか」を常々気にしろって言ってんのさ。ディ○ロマシーに誘ってんのも、他国とどう折り合いをつけて聖母教の教皇庁を確固たる存在として維持するかの訓練だと思ってくれ…)


「貴族も楽じゃありませんのよ、この時代…」と、温室育ちのお嬢様をじろーりと睨む野生のお嬢様。


「しかし、それはそれとしてシニョーリ・ヨシムラ。あなたが記憶を消されるのをお嫌なのは分かります。けれども、痴女皇国があなたを犯罪者として処遇している以前に、どのみちどこへどう行こうと生き延びる努力をなさるか、それとも諦めるかの二択…人である限りは変わりませんでしょ? でしたら、いっそ“やり直す”という着想に至るのも考え方のひとつじゃございませんこと? 生きるための技術なり知識をお持ちでないなら、それを学びやすい乳飲み児にお戻りになってから得られても、決して遅くはありません事よ?」


つまり…るっきーの言うのは「小学生からやり直せ」の超・過激バージョンです…。


しかし。


「ご自身の今までに固執するから嫌になるのです。より良いご自分であるために、やり直す機会を得たとお思いになるわけにはまいりませんこと? そちら様のおっしゃるいえめん宗教が広まっております連邦世界のイタリア、どうせこの世は働かねばならぬ苦行の現世と考えておる方あまた。なれば今の苦行が嫌であれば、苦痛もなくやり直させてもらえる痴女皇国の措置を積極的に受け入れる価値があると思うのでございますけどねぇ…」


「じゃ、おくさんは…やり直しを言われたらやり直すのですか?」いささかムッとした顔で言う美咲さん。


ですが、るっきーの言い分、美咲さんについては全くもって正しいと思うのです。


だって美咲さん、痴女皇国にいる限り、今後の生涯ではよほど大出世しない限り、絶対に日本に連絡もできない立場になることが決定してますから。ですから実家のご経営の会社も、そしておうちの資産とか親御さんの人脈金脈の一切合切、利用したくてもできない立場なんですよね。


「まぁやってみてからですわね。ただし、今のわたくしが痴女皇国で幹部の地位を頂けます理由のひとつがボルジアの出である件ですから、そこから逃げ出せるかどうかはマリアリーゼ陛下のお考え次第でしょう。しかし、もしもわたくしがボルジア家の娘であることを嫌に思う場合、こんな好機を逃してたまるものかという事で、ものは試しに別の家に産み落とされないものかとかお願いしますわねぇ」と、すらすらとおっしゃるルクレツィアさん。


ええ、この人の頭の回転が早いのと、ノリの良さはこの話に登場した時から語られていたと思います。とにかく人生をポジティブに生きる。そして機会を逃さず調子良く自分を売り込んで行く…ええ、割と同じ女性から反感買うタイプです。…イザベラ・デステさんとは相変わらずあまり仲が良くないようですし…。


(シニョーラ・ムロミ…ルクレツィアを貴女にわかりやすく申しますと、調子こき、あるいは調子乗りなのです。お調子者な側面をお忘れなきように…あとマリアヴェッラ。月間痴女宮に時々、貴女の醜聞が載っておりますがね、聖母様はどうしようもないとしても、貴女の母親の一人が誰かを絶対に忘れずに節度ある行動を心がけなさい。わかりましたねっ!)


ええ、ベラちゃんが密かに苦手にしている親戚のおばちゃんからお叱りが来ました。


(ジーナ母様が悪いんですっ)


(くらぁベラ子、うちのせいにすんなぁっ)


(叔母様。アメリゴ生活がわたくしを強くしたのです。アレーゼ閣下からも相応の成長を認めて頂いたが故の外務局長への昇格抜擢(しょうかくばってき)と心得ております)


(ルクレツィア。貴女…毒林檎の実の味はいかがでしたの? あんな派手に危険危ない触るな近寄るな食べるなと絵入りで書かれた看板がそこかしこに立っているのになぜ、あの実を口にしたのです…強くなるというのは、ああいう実を食べても平然としている事ではありませんよ。あれが危ういと言う看板だけでなく、ナッソーに来た際にも注意を受けているではありませんか。おっちょこちょいなのはうちの亭主の逸物(いちもつ)の大きさ、うっかり口を滑らせてバラす程度になさいませ!)


えええええ。


(ま、まぁ…割と大きかったし…そのですね叔母様)


(まぁよろしい。ルクレツィアは2月の会合席上でとっちめるとして…シニョーリ・ヨシムラ。イタリア大公を任じられたイザベラ・デステと申します。確かにルクレツィアたるや、聞いての通りの浮気者で尻軽で気移り目移りするのが大好きな困った女です。ですが、()()()()でも才覚があれば拾う方がおられるのです。その才覚とやらは貴女にとっては一体何なのか、人に求められる貴女とは一体どんな姿なのか。それに思いを馳せてみなさい。それが出来るならイタリア連合公国が、責任持って貴女を召し抱えて生活の面倒を見て差し上げてよ?)

まりり「実はこの話は一連の反社作戦とつながっているのである」

りええ「直接にはアルトさんの話↓あたりからなのね」

https://novel18.syosetu.com/n5728gy/91/

べらこ「でもねーさん、この副題…怒られそうですよ…」

まりり「それを言うなら、あたしらの話全部、なんだかんだ言って全方位に怒られる内容じゃん…」

りええ「確かに言えている。絶対言えてる」

べらこ「一見口当たりがいいんですけど、その(じつ)、猛毒な気もするんですよね…」

りええ「正になろう界の毒林檎。商業出版…つまり金になる話にせんがために我慢するなんて嫌とかわがまま言い散らして書いてるらしいんですよ…天の声…」

べらこ「普通、お金をもらえるための努力の一環として話を書くものではと言う気もしますが」

まさみ「薄い本の世界でもいるのよ…部数を売るためじゃなくて過激な表現をしたいからと印刷製本代をドブに捨てるようなことをする人が…」

まりり「しかしデステさんも言い切るよな」

べらこ「一見面倒見良さそうなセリフですけどね」

りええ「しかし、よくよく考えると…デステさんならデステさんの求める人材がどんなのか考えて、それになってから来いって言ってんだよねぇ」

みさき「ひいいいい」

べらこ「あの叔母様はびっしびし言う方ですよ。でないとうるさい上に自分の権利を主張しまくるわ、下手をすると実力行使でわがままを通そうとすらするイタリア地方領主をまとめられないんですよ…」

まさみ「いくら痴女皇国が手を貸したって言っても、あれが出来る貫禄と実力があるから出来た話なのよ。いいこと吉村。この時代のヨーロッパってどこもかしこもこんなもんよ。暗殺や反乱とか日常行事だと思っといて間違いないくらいなんだからね」

まりり「毒盛りが毒盛りと呼ばれたのは伊達ではないのだよ…」

りええ「ま、日本人の宗教観とイタリア人のそれの違いもあるからねぇ、無理は言わないわよ」

まりり「と、子宮で考えて痴女皇国に来たりええであった」

りええ「うるせぇっ。でも結果論としてさ、あたし来て助かったでしょ?少なくとも雅美さんの妹さんよりは貢献したと思うわよっ」

まさみ「裕美のことだけは言わないで理恵ちゃん…(涙目)」

まりり「雅美さんの古傷をえぐって申し訳ないんだけどさ…吉村さん見てると、ある意味裕美を思い出すんだよな…」

まさみ「うぐぐぐぐ…。で、あれ今中洲泡風呂国でしょ? あいつちゃんとお勤めしてんのかしら…」

まりり「聞いてみよう。もしもしおかみさまー(心話中)。…っとな、あと2年くらいで奉公明けらしい。あとは懇意の旦那の嫁に行くか任意継続契約か、だとさ」

みさき「あのー、中洲泡風呂国って…ソー○ランドなんですか?」

まりり「主要産業がそれだ。もし工場労働がしたいなら三河監獄国に行かせるが」

みさき「その国の名前が嫌すぎますっ」

べらこ「でも実際に働いて来ましたけど、そんなに過酷じゃありませんよ」

みさき「ええええ!」

べらこ「ほら。ちなみにマリーさんも働いたことありますよ(動画見せる)」

みさき「動きが人間のそれじゃない…」

べらこ「言っときますけど、たのきちもこれくらいは出来ますよ。ほれほれ」

みさき「ううう、プライドがおれる…」

まりり「まぁ、痴女種ならこれくらいはしてあげないと向こうの囚人やうちの罪人には白い目で見られるな」

おかみ「あのなぁ。あまえたことばかりいうとると、人魚の肉くわすぞ」

まりり「…その手があったか!」

べらこ(ねーさんが嫌な思いつきをしたな…)

みさき「それ食べるとどうなるんですか」

おかみ「どうもこうもあらへんわい。うちの巫女連中と同じ、天女族と鬼族のあいのこのちからと寿命が手に入るだけや」

まりり「まぁ要するにうちの痴女種の登竜門と同じだな」

おかみ「ただなあ…うちは言うこと聞かんと、みんなどつくぞ…」

べらこ「アルトさんの妹さんからも聞きました。熊野大社も体育会系だって」

おかみ「べらこくらいつよかったらええねんけどな。ちなみになであも向こうではでかいかおできるぞ」

あると「いもうとがどうあばれたのかそうぞうつきます」

おかみ「まぁ、熊野三所権現長光あるやろ、なであのかたな」

まさみ「あのものすごいおねだんのかたな」

おかみ「まさみ…売ったら怒られるからやめとけよ…あれをすっともらえるくらいやからな。ちなみにわしが言ってもはいそうですかと出してくれるかたなちゃうからな、あれ」

まさみ「まぁご神刀ですしね」

あると「みさきさん。痴女宮はちからがないといきていけないのです。かわいそうなのであたくしがきたえてあげましょう」

他全員「あなたが鍛えると死ぬからだめ!」

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