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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


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地獄の沙汰も金次第? 痴女宮編・3

「だから俺がメシは食えって言ったろ…」ティーチが金庫室天井を仰いで申します。


「ここの飯は薬じゃないけど薬代わりになるもんを入れてくれてんだよ…だから残すと指導が入るくらいなんだよ…」黒色ですがセパレートタイプの紺碧騎士団仕様制服姿のボニー・アンも言わんこっちゃないと言う顔です。


「ああそうか、お前さんも悪党は悪党だったな。…ふむ。今、こちらの方々のお力でな、俺はお前さんがまさに今、考えてる事を分かってしまえるんだが、この国じゃやれと言われたらやる、やるなと言われたらやらない。この当たり前の事を徹底して守らされるんだよ。ま、俺やアンはそもそも海賊時代には海の掟を守らざるを得なかったし、守って来たからこそ鮫のエサにならずに今ここでお前さんに一言ものが申せるわけだが…陛下、どうしますかね…」


痴女種の思考共有能力を使ってティーチに一方通行で見せていると言うのがわかったみたいですね、吉崎さん。ガクブルしはじめました。


で、ティーチが顔を向ける先は…あたしか?


(いや、マリアリーゼ陛下からの指示ですよ。ベラ子陛下に考えさせてみろって)


(むー)


(あとこいつ、こちらの落ち度を探ってますね。ふてぇ野郎だ)


アンが怒ってますね…。さっきの食事に誘った時の態度と比べて欲しいのですが、海賊上がり組は基本、面倒見は良いです。


ただ…裏切ったり後ろ足で土をかけるようなふるまいをすると…ま、腰のカットラス、抜いてもらってもいいかな。死ぬ前に治療すればいいですし。


(ベラ子陛下を怒らせたら手下のあたしらがただじゃおかねぇからなってのを身に教えてやりたいだけですよぅ…なますに切り刻むくらいでやめますって)


(それこいつ死ぬから。だからよアン、いよいよとなったらマリアリーゼ陛下が癇癪玉(かんしゃくだま)を破裂させるって筋書きよ。ま、俺もさっき釘は刺させてもらったがね)


「陛下。一つお尋ねしたい事がございます。私共一家や智秋係長他、日本の関係者はことごとく予防注射と称する措置を受けておりますが、その理由、これでしょうか」奥様が変わりつつある吉崎さんの姿を見ながら静かに申されます。


「確か、八百比丘尼国の方々の場合、無対策であればもっと異常な状態になると…」お嬢様もこの件についてはそれなりに知識、お持ちですね。


「あーあーあー…あんさん、ここのごはん食べへんかったんかいな…何やっとんねん…」と、そこに刀を持った外道丸ちゃんが来ます。


「あ、まりあはん、あれとりあえず仕舞い込んどきましたけどよろしいか。本番は大講堂でしたな」


「んだね。そーいやあれ一応金衣グッズの一つなんだよな。本番の時にここから引き出すの、あたしかアレーゼおばさまがやるから忘れてたら教えてよ。でさー外道ちゃん、ちょっとおかみ様呼んでくんね?」



「まぁ、きのどくやけど道はふたつやな。実はな。おとこに戻す方法、ふたつあるぞ。のう、まりや」


で、呼ばれて来たおかみ様。姉に話を振ります。


「一つはさ、あたしらは還俗って言ってんだけどね、女官種と呼ばれる生物から普通の人間に戻す作業をする。ただ、寿命めちゃくちゃ縮まるぞ。40歳くらいで死ぬんだわ。まぁこの時代なら、何もしなきゃ割とそのくらいで死ぬけどな」


「で、もう一つはな…茨木。ちょとこのこ、みてやれ」


はい、外道ちゃんの実弟にして前任者のプラウファーネさんです。今回は…青つなぎ服ではないですか!


「えーっとベラ子陛下。実は私もこんな感じで呼ばれた際に着てくれと、このやらないか服を送られて来ましたので。ついでに私の懲罰服まで送付されて来たのですが…」


「あれはプラウファーネさん専用にサイズを取ったワンオフの特注品なんだよ?」


「マリア様。これ、返品よろしいでしょうか」見ればその左手には◯神百貨店の紙袋が。そして右手に、禁断のはずの黒いブラ◯ガスが。


「プ、プラウファーネさん、話せばわかるっ」


「あっそうか、プラウファーネさんもそれ触れましたよね。今使うとちょっと18禁描写になってしまいますから後で存分に…って、プラウファーネさんちょっとそれ真剣に仕舞って!耐性ない人いる!」


見れば、吉崎さんが苦しんでいます。


ティーチやアンも多少気分が悪そうです。


「あ、あたしが戻して来ますよ。プラウファーネさん、箱番どれから出したんだっけ?」雅美さんがあっさり、その危険品を受け取られますが。


「予備品なので3番です。まだあまり使ってない方ですから瘴気は薄いはずなんですが…」


「まぁ、これは取り扱い資格最上級でないと触れないからねぇ」と、すたすたと懲罰具倉庫側に歩いて行かれます。


「あ、ありゃなんなんですかい陛下」


「あんな禍々しいものをマサミさん、普通に持ってたけどさ…」


どばどばと冷や汗をかきながら姉に尋ねるティーチとアン。


ちなみに姉が奥様とお嬢様を守っているようで、お二人には影響はないようです。


というか、あったら只じゃ済みませんよ…。


「あ、そうか…あれが懲罰具って言って、金衣にはあれくらいでないと効かないって言って作られたんだよ。もともとクレーゼ母様対策で作られたんだけどね」


「マリア。あれは破棄できませんの?」


「クレーゼ。お前以外にも効果があるのが判明したから、あれは家族会扱い物件になっているのを知っておろう。承認なく破棄はできないし、だいいち破壊困難なのはお前も知っておろうに…」


「あ、ティーチとアンと、それから陛下と殿下にもあれが何か説明させて頂きましょうか。さて吉崎くん、君はまだ声が出せないと思うが、頭で考えて答えてくれ。それで陛下や殿下含めて全員に伝わるから。で、これは元来はあっちの金属の棚…安全柵の向こうにあって普段は使わない金塊だ。重さは10kgで24金だから、日本円にして700万円は下らないだろう。さて、これが君の眼前にあるとしよう」と、アンが介抱している吉崎さんの手が届く位置にその、ドクロマーク付きの淫語っとを差し出します。


その鈍く光る金の輝きに、思わず手を差し出す吉崎さん。


しかし、次の瞬間にダイアデレーヤ…現・ディアディリーネさんが以前、これを触ってしまった時と同じ事が起きてしまいます。


慌ててあたしが落としかけた金塊を引き寄せて持ちます。


「ベラ子、ちょっとの間それ持ってて。で、君はこの金塊の表面のドクロマークに疑問を抱かずに触ってしまったわけだが、これを触ることができるかな」


ええ。今度はあの恥ずかしい◯二つと棒を組み合わせた紋章が入った普通の金塊です。


ですが、姉がそれを近づけた瞬間に身をよじって逃げようとします。


「実はさっきのドクロマークの金塊、痴女皇国の元になった聖院を開いた初代最上級女官の方の細胞を元にした作用機能を組み込んでインゴットにしてるんだ。盗難防止が目的だが、触れた人間の金なら金に執着する欲望が強ければ強いほど、真逆の生理反応を刻んでしまうんだよ。だから君は今、金はもとより金目のものを触りたくないはずだ。今、君の目にはこの金塊、言い方は悪いが人間の排泄物のように見えているはずだろう。で」


そしてあたしに下した指示は。


「ベラ子、その金塊、陛下に触って頂いて。陛下は大丈夫だから」


本当ですよね。


で、あたしの差し出した呪いの金塊を恐る恐る触る奥様ですけど。


「わたくしは…普通に触れますわね。重さが重さだけに持つのは両手でないと厳しいと思いますが」


あら。


何でなんでしょ。


「そりゃベラ子お前、日本で一番人間の出来たご一家のお(きさき)様だぞ。それにこの方々にこれくらいじゃ全然足らないだろ。最低でも皇室歳費分と同額積み上げて、どうぞお納め下さいませっつって土下座して献上するくらいでなきゃ心を動かしてくれやしねぇよ。ま、仮に献上してもご寄付なさるか、旦那様の生物学研究所の運営費などにお回しになられるだろ」


「こんなもん一つあつかえんようではわしの子孫のよめがつとまるか。のう」


で、笑って金塊を持つおかみ様。


「ほれまさみ、お前も持てるやろ」と、雅美さんに金塊をお渡しになられますが。


「あたしの場合はちょっと嫌になるんですよね。ま、数時間で元に戻りますけど。んー、アンとティーチは触るのやめといた方がいいかもね」


「ちなみにかーさんだが」と、雅美さんから金を受け取って、早業でかーさまに押し付ける姉。


「こらマリ公、何さらすねん! …うちやと半日はここに居たないようになるて知っとるやろが…あと副作用、説明しとけよ」まぁ、母様は仕方がないですね。あの地域で長く生きると金銭への執着心が強まるのは理解できますから。


(ベラ子。親子の対話はおろそかにしない方がええ思うねん。今度いっぺん堤防で話しよか)


(…返り討ちにさせて頂きますよっ)


「へいへい。で、こいつにはもう一つ厄介な副作用があってね。吉崎くん、君は金だけでなく女も好きだとは思うが、仮にうちの妹…マリアヴェッラがベッドに誘っても多分、逃げることになるよ。そうだ。欲望が強ければ強いほど、この呪い…としか君には思えない懲罰作用は強く効くんだよ」


「なるほど。マリアリーゼ陛下、つまり先程の恐竜の玩具めいた何かも同様に、人間の邪心欲心を増幅して悪い方への心理作用を引き起こすのですか」


「そうです。で、我々痴女種や女官種にかかっている禁忌処理を外す作用もありますので、一種のパワーアップツールとしても使えるんですよ。内親王様にはイグナイトモジュールと言えば通じますかね」


あーなるほど、という顔をなさるお嬢様。


「さて、これを治す方法だが、吉崎くん。君の今後の進路に関わる話だ。君にとって女性化は不本意だろうが、あたしたち痴女皇国や聖院と呼ばれている異世界宗教的施設にうかつに関わらせないようにこちらとNBと連邦政府が情報管制していた大きな理由の一つが、まさに今、君の身の上に起きている事だ」


「吉崎さん。あなたは今…女官種と言われる女性性別しかいない人類の上位互換生命体に変わりつつあります。あなたは今の状態ですと…あと20年は今の姿を保って生活できます。ただ、それを過ぎると急速な老化が始まり、身体が発する熱の制御が不可能になってしまうのです」


「マリアヴェッラの言う意味がわかるか、吉崎くん。普通の人間より見た目は老けない状態が続くんだけど、寿命が早くなる。そして、自分で勝手に火葬されるような死に方をするんだよ」


「で、我々は自己発熱を防ぎ長寿化するために自己進化しました。痴女種と言われる生命体になれば、最低でも200年は生きます。わたしたち特有の能力階級が上であれば最低でも1万年は生きます。しかし、そんな長寿でさまざまな能力を持つ種族が好き勝手すると色々な弊害が社会に起きますよね?」


「だからあたしらは思考に制限をかけたり、無闇やたらに他の生命体を殺害する事に禁忌事項を設定してるんだよ。ま、これは聖院を運営していた女官種の時代を含めたら千年以上、延々と引き継いで守って来た決まりなんだけどな」


「でな、じぶんの頭できちんともの考えて、おとことして生きたいんやったら、うち来てはたらいてもらうぞ」


「その代わり、場所によりますけどな、仕事の監督しとんのん、ここより怖いお姉ちゃんか、さもなかったらな、うちとか茨木みたいな鬼やねん。おかみ様、よろしいか」


「ちょっとだけやぞ」


「茨木、お前も見したり」


ええ、外道ちゃんとプラウファーネさんが擬態を解きました。


身長2m以上の元来の姿に。


さすがに奥様とお嬢様はもちろん、ティーチやアンもこれには驚きます。


「こりゃたまげたもんだ。(オーガ)だったとはな」


「またえらく変われるもんだねぇ」


「ま、うちらは理屈はちゃうけど結果としてマリアはんやベラ子はんに近い事が出来るんやわ。ついでに言うと、基本やらへんけど君みたいな悪い子、喜んで食わしてもらうからな」


「今は食べなくても何とかなるんですけどね。ま、そもそも比丘尼国はここほど甘くありません。そちらで言う江戸時代ですから、死刑…ありますよ。割と簡単に死刑判決、出しますから」


と、元の姿に戻ったお二人が()()()言い聞かせます。しかし、目が全く笑っていませんよ。


漏らすなよ、お願いだから漏らさないでね吉崎さん。


あとのお掃除、あたしたちでやる事になるからね。


あ、ケ◯ヒャーで吉崎さんごとまとめてやる堤防方式が使えるか…。


「いやいや、皇后さまと内親王さまでしたか。えらい驚かしてしもてすんまへん。ついでに何か、うちの偉い方がお酒盗み飲みしてここの人困らしてるみたいですさかいに、何か言うてもらえると助かりますねん」


「ついでに申し上げさせて頂きますと、元伊勢か伊勢にお帰りになればお酒、いくらでもお飲み頂けるはずなのですが…頼光様から童子切安綱(どうじきりやすつな)、預かっておりますけど」にっこり笑って隠し持っていたらしき刀を見せるプラウファーネさん。


「ま、待てや茨木!」


「これを使うとどうなるのでしょう」狼狽するおかみ様を怪訝そうな顔で見るお嬢様ですが。


「仮にこの刀でおかみ様を斬るとしましょう。痛い痛いと泣き叫ばれるのです」


「それは誰を斬っても…あ!」内親王様は思い当たられたようです。


おかみ様は普通の人間じゃないということに。


「むろん、神様相手ですから死にはしません。しかし、お仕置き程度の効き目はあるんですよ。あと…姉が持っている鬼切丸でも少し弱いんですが、やはり蜂に刺されたくらいには痛がって頂けます」


「あくまでも俗界向けのすがたのときだけやけどな。で、この安綱をうまいことつかうと、このわるさがすきなお子はおとこにもどせるんや。もどせるんやけどな。べらこ、うち来たら何やらすか見したってくれるか」


へいへい。


「あたしは比丘尼国内の愛知県に該当する三河監獄国の労働刑務所を視察した際に労働を体験しています。うちの罪人工場、そちらでしている仕事を参考に内容を改善していますが…まぁ、熱帯で働くか、日本に該当する場所で働いてもらうか、ですね」と言って吉崎さんに監獄国のラインを見せてあげます。マリーやたのきちや美男公と汗を流して労働者のみなさんと泣き笑いしているものにしましたけど…。


ま、ちゃんと働いた事がない人には厳しい場所かも知れません。


「ついでに言っといたげるけど、この方法で男に戻せるのは今から約24時間以内だ。ほっとくとこのまま女性化が進むから、そうなるとここの上で売春をしてもらう事になるぞ」


「今の状態ですと、全てを嫌がっておられるようですね、この方」奥様が冷たい目で吉崎さんを見られます。


「お母様、確かこの方…」


「失礼、陛下、殿下。先程簡裁から発効された令状です。吉崎無限、君の逮捕状だ。罪状は誘拐並びに殺人教唆と共謀罪だが…マリアリーゼ陛下。お願いできますか」


そこに加藤さんが不気味な笑顔を湛えて現れます。


「おっけー。実は吉崎くん、君に喋らせていない理由だが、これは我々痴女皇国の流儀の裁判に近い処分決定作業を実体験してもらうためでもある。あたしら、君の記憶だけじゃなくてさ、過去に君が何をしたか逐一さかのぼって客観的に調べられるんだよ。ま、人身売買に売春強要に殺人に傷害に集団強姦に…ほんとにきみ、色々やってるね…ってのは置いとこうか。そしてね、あたしたちの能力で調べ上げた証拠、実は日本というか連邦政府で有効なように法改正してるんだよ…表向きはあたしが社長をしている会社がNBと提携して開発した捜査技術の成果を連邦政府法務局に提供するんだけどね」


「ああ、テンプレス・セキュリティの提供する過去情報記録照合システムですね」


「そそ。今は吉崎くんの他に中井くんと石灘くんのを洗ってる最中なんで、結果は法務官の黄さん経由でこの加藤刑事にお渡しするとしてだね。吉崎くん、連邦政府の法律でさ、上位互換法ってあるだろ。連邦政府刑法は日本国の刑法に優先して適用されるやつ。あれを君のやったことに対して適用するって申請、日本国側から出してもらうから。安田くんが自白してるんだけどさ、君、日本の女の子、海外に売ってたり、あるいは逆に東欧や特定アジア数国やキューバから輸入してたよね。あれ国際犯罪って事で既にドイツ連邦共和国で摘発かかっててさ。法務局指揮下で国際捜査対象になっちゃってるんだよ」


「という訳で司法局パリ本部発行の逮捕状です。あのさ、マリアちゃん…痴女皇国と聖院の機密情報漏洩を適用して軍事裁判扱いにもできるけど、どうする? 軍事裁判扱いなら銃殺かグァンタナモ…いえ、ビキニ環礁収容所かフランス所轄だけどムルロア環境修復センター送りに出来るんじゃないかな?」

で、ID画面を吉崎さんに見せながら黄さんまでもが。


ここ確か直接転送、ダメなはずでは…。


(初代様が特例承認取ってくれてる。本当は吉崎を自分でいじりたくてウズウズしてるぞ。わはは)


「マリアンヌとスザンヌが噛んでるんやったら…うん、あの子らNB国籍取ってるやろ。NBと英国の司法協定使うてロンドンで代行裁判言う手もあるぞ、マリ公。ま、それ適用したらNB第8番惑星送り確定やけどな。まかり間違っても地球の土は二度と踏めんようになるぞ、きみ」


「ついでに言うとパリの司法局扱いで連邦裁判所所轄だと天王星系か冥王星系での終身労働刑は確実よね。連邦裁判所も死刑は廃止してるから」


「さて吉崎くん。君は妻子がいたと思うが、彼女たちの声を聞いてみるとしようか。あ、その前にだな。君…今、仮に連邦世界に戻っても吉崎無限って人間として認めてもらえないよ。加藤さん、吉崎くんの指紋と静脈と虹彩パターン、照合してもらえますか」姉が吉崎さんの側にしゃがんでまず、左手を取ります。


で、加藤さんの業務用メディアウォッチにかざすと…。


Unknown Person.


ピーピーと警報が鳴っています。詳細を説明されなくてもわかりますよね。


「私の時計だが、特別措置で日本の所属につながって身元照会が可能になっているからね。つまり君は今、日本国内において自分の時計でお金を使うと身元不明者として拘束される状態だ」


「で、同じことを私がしてみても、ほら。身元不明なのよ」黄さんもご自身のメディアウォッチを操作した結果を見せつけています。


「つまり吉崎さん。あんたは本当ならこの人達に泣いて土下座して許してくださいお願いしますってさ、頼まないといけない立場なんですよ。昔、俺があんたに対してやらされたみたいにね」


と、黒薔薇騎士に付き添われて入って来たのは安田さん。


「ようミスターヤスダ、あれ持って来てくれたかい」とアンが催促します。


「はい。この箱で良かったんですよね」と、安田さんがアンに渡したその箱とは。


「でね吉崎くん。君にあたしたちからの贈り物をしようと思うんだ。…アン、中身見せたげてよ」


出て来たものは一丁の拳銃、それと弾丸一発が収まった繊維質のブリスターです。


「ほい、んでこれをこう弾丸を込めて…と。で、この拳銃はFP-45リベレーターと言って、第二次世界大戦中にアメリカが枢軸国へのレジスタンス活動を支援するために作ってさ、ヨーロッパやアジアのゲリラに向けて配られたものなんだ。ま、これは実物から型を取って製作してるレプリカだけど、原型品よりも格段に品質は上がってるからさ、普通に引き金を引いたらちゃんと弾は出るよ」


そして姉は、未だへたりこむ吉崎さんからぎりぎり手が届かない位置にそのブリスターを置きます。


「で、これさ、さっき見てもらった通り、弾丸は一発だけしか入らないんだ。その弾丸をどう使うか、どこに向けて使うか、君に任せる事にするよ。むろん使わないなら、この後で口も身体も動くようにしてあげるから、いりませんと言ってくれたらいい。ただ…その時は、さっき食事に行ってくれた罪人寮の中にある初期収監者向け独房って言ってね、ここに初めて来た人のために入ってもらう部屋で24時間過ごしてもらう。そして24時間過ぎてもどうするか決まってなかったり、あたしたちに反抗的なら首の輪っかが作動して君の脳が覚えている記憶や人格を勝手に消してしまうんだ。食事を届けに来る以外は誰も来ないから、自分の身体が女になるまでそこにいてもらうんだよ。わかったかい。じゃ、あと1分後に君の身体を動かせるようにしてあげるよ。ベラ子、離れな」


へいへい。


「あ、マリアさん…僕から吉崎さんに一言だけ言っていいですかね」


「んー。…うん。それならいい。手短にね」


安田さんが言いたい事を知った姉、快く許可してます。


そうですね、あたしもそれなら言ってあげていいと思います。


ほんとにこの人、あえて皆さんに声を聞かせてませんけどね、往生際…悪いですよ?


「はい。えーとね、吉崎さん…石灘さんね、それ、使()()()()()()()?」意地悪い笑いで安田さんが吉崎さんを見下ろして宣告されます。


(なぁベラ子。あたしは…安田くんに張るけど)


(趣味悪すぎますよ! うーん、言いたくないけど、陛下か殿下)


(それやったら真剣にあたし、プラウファーネさんから安綱借りるからな…で、かーさんは?)


(うーん、雅美さんがもう少し前に出るなら雅美さんやね。ちょっと前出てぇな)


(ジーナちゃんそれ、本当にあたし狙うんじゃない? いくら()()()()()()()()でも嫌だけど…まぁ、陛下と殿下の盾になる位置に動くわよ。いいよねマリアちゃん)


(うん、頼むわ。黄さんと加藤さんは?)


(私はマリアリーゼ陛下に)


(そうね、あたしもマリアちゃんに)


(アンとティーチは?)


(マリア陛下に)


(俺もマリア陛下だな。ベラ子陛下相手とは見る目が違ってた)


(皆さん悪趣味ですなぁ、うちは…うん、まりあはんに)


(私もやっぱりマリアさんですかねぇ)


(みんなあたしばっかりかよ!)


(だってねーさんが一番しゃべってるし、結構えぐいこと言ってるしっ)


(マリアリーゼ陛下、マリアヴェッラ陛下…即時拘束の準備はしましたよ。で、私もマリアリーゼ陛下に)


(私共にはお聞きになられないので? そうですねぇ、やはりマリアリーゼ陛下かしら。絢子(あやこ)はいかが?)


(うーん、私は田中雅美様に。そもそもこの吉崎とか言う方、ここにいる原因は田中様との()()破談でしょう。それに、マリアリーゼ陛下が普通の人間でない事を見ていますからね)


(ううううう、まぁ、この場合、あたしが一番恨まれるとは思うんですけどねぇ…)


(僕は…うーん、言いたくないけど僕自身に張ります。でもマリアさん、あれ、本当に大丈夫なんでしょうね…)


(あー安田くん、これがアレだってわかってるだろ? ベラ子とジョスリーヌさんを信じるんだっ)


…ええ、あたしも含めてですけど、みんな何やってんですかと。


そして、こういうお馬鹿な賭け事をのんびりやってる理由。


もうすぐ、わかりますよ。


「田中ぁ!そもそもてめぇが!」で、ぱん、と音がしましたが。


その瞬間、使い捨て拳銃を握った吉崎さんの両手から火花が飛び、奇妙な音を立てて倒れます。

…目を剥いてますよ…。


そして発射された弾丸。


銃口から飛び出ずに、火薬の破裂音だけが起きる昔の駄菓子屋さんのおもちゃのように銃身内で破裂します。つまりこの弾丸、一種の空包です。


そして、雅美さんの火葬の時の予行演習ということで、あたしが出させられた保護場によって破裂した弾丸から飛び散る茶色い煙、周りに拡散せずに倒れていく吉崎さんの身体を覆います。


すると。


びくびくっと吉崎さんが痙攣して…そのまま動かなくなりました。


そうです。吉崎さんに渡されたものですが、自殺用拳銃に見せかけた擬似自決用キット「ぶしのなさけくん」です。


前にジーナ母様が言っておられた駄洒落菌の脳内侵食能力に着目して開発された「精気を浪費せずに人格と記憶を消してしまう」作用をもたらす駄洒落菌亜種を吸い込ませると同時に、銃の握りの部分に内蔵されたスタンガンまがいの機能が作動して、握って引き金を引いた当人を失神昏倒させてしまう意地の悪い器具です。


渡したのはこれだという連絡を皆が受け取っていたからこそ、奥様やお嬢様も興味津々で賭けに乗ったのです。


そして、事もあろうに姉が取り出した防水密閉型の死体袋に吉崎さんを詰め込んでしまうと、これまたどこかから出て来た車輪付きのストレッチャー…寝台にその袋ごと吉崎さんを載せてしまい、拘束ベルトをかけてからアンとティーチに引き渡します。


「よっしゃ、んじゃ、ティーチとアンはこいつを気密仕様の初期収監房に放り込んどいて。アンは袋から引っ張り出してもOKだけど、ティーチは独房内に入らない方がいいよ。ま、念のためにこれ飲んどいて」と、抗体剤らしきボトルをティーチに渡す姉。


「しかし、本当に往生際が悪かったもんだ。あんだけ説教食らっといて何で俺がとかあんたらに俺を裁く権利がとか、よくも言えたもんだよ…」


「俺達も捕まった時は悪態を垂れるのが通り相場だったけどよ…まぁ、流石に逆らえる相手と逆らえねぇ相手の分別はつくな、うん。じゃ、陛下…これ、アンと二人で放り込みに行きますよ」


「うん、お手間だけど頼むね。外道ちゃん、送ったげて。安田くんも一緒に戻っていいよ」



呪われたエレベーターにストレッチャーが消えると。


「そう言えばヤスダは順調に研修を済ませているようですが…」と、ジョスリーヌさんが心配そうに言います。「あれは裏切らないでしょうか…」


「心配性だなぁ、ジョスリーヌさんは。ま、仕方ないさ。心配無用だよ」


(陛下と殿下がご臨席だから心話でね。あいつがパリから自分の隠し口座にアクセスした際にパスワードとして思い出した文字列がさ、罪環の記憶剥奪用バッチ処理プログラムで動く駄洒落菌無痛注入と女官種化処理の起動トリガーに設定してあるんだ。あいつ絶対にあの口座に残ってる自分の金を引き出すか移そうとするだろ。そしてそれが上手くいけば、次は店の売り上げに手をつけるはずだよ)


(うふふふふふ。マリアリーゼ陛下もお人が悪くていらっしゃる)


(まぁ、あえて発見してないフリしてるけど、安田は六本木の店の売上ちょこちょこ抜いてたんだよね。あたしも吉崎に教える気全くなかったけどさ。少なくとも二千万円は絶対に横領してるね)


(現在の逃亡先がバレる事に思い至ればよいですわね。あ、後任者のマダ…マドモアゼル・ヴィゼアムスキは嫌がっていましたが、女性保護と福祉のためという事で拝任しておられます。敢えて千人卒化した事で痴女皇国に従わねば自動的に死亡、ですか。ふふふふふ)


(ま、福祉の精神があるなら女性救済を実践なさいというカルメンさんの鶴の一声があったしね。安田くんがやらかすまでの間に、娼館経営のノウハウをしっかりうちの欧州地区本部で積んでもらおうよ)


(サポートには痴女種化したコルシカンマフィア構成員愛人をつけます。この女も我々や情報コミュニティの管理下に置いておりましてよ…)


(うん。百人卒未満用の効果淫(こかいん)のテストも兼ねてるからよろしくね)


ああ、なんという会話。


この悪役感みなぎる会話にはあえて注釈をつけないようにしましょう…。


一つだけ。


効果淫なるしろものですが、実は南米産のコカの葉っぱ由来の薬物です。


ただしこの効果淫、連邦世界のコカインとちょっと違う改良品種由来薬物なんです。


具体的にはコカの木から覚醒剤成分、つまりコカインを生成しないようにした代わりに、高地での高山病を予防あるいは治療するための特殊成分を含ませています。


ぶっちゃけ、インポタケの葉緑植物版とお考え下さい。


ええ、性欲と体力をみなぎらせる効果がありますので、ギンギンになります。


酸素濃度の薄いアンデスの高地でも平地とさほど変わらない肉体能力と脳機能の維持が可能になるそうです。


ただ…例の禁断の断種ウィルスの研究成果が密かに投入されておりまして、効いている間に生産された精子が薄くなるという副作用ががが。


更に依存性が結構ありまして、72時間我慢すれば依存受容体は脳から消失するそうですが、その間禁欲出来るかと言うと…ええ、R18の方を含めたこのお話に出てくるインポタケの効能をご存知なら、極めて困難なのはお分かりでしょう…。


(だって、あの辺の人たちに避妊とかいう概念を教えた上でさ、夢を混同するものを配っても素直に使うと思うか?)


(まぁそりゃそうですけどねっ)


(まりあさまー。うがじんさんかられんらくですー。なかいがおんなのひとといっしょににげまわってるらしいですー)

アルト「で、じつはですね、つづきがですね」

マリア「ああ、またなんだ。すまない」

https://novel18.syosetu.com/n5728gy/90/

ベラ子「またですか…未成年の方、ごめんなさい…」

ダリア「まー、この人たちのやってきた事ってどうしてもR18な話になるんですよねぇ」

マリア「という訳で未成年者は頑張って読んで…読まないでくれ(滝のような汗)」

ベラ子「よい子は未成年なのに薄い本を買ったりて補導されないでねっ」

マリア「まぁ、それに匹敵する苦しい釈明って事だな!」

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