地獄の沙汰も金次第? 痴女宮編・2
「とりあえず吉崎さん、あなたの処分を決める前に、お食事をして頂きましょう…ティーチ、アン。この方は処遇未定ですが、差し当たって罪人食堂で食事をして頂いて下さい。吉崎さんの罪人用聖環には配属先未決者として警務部の新規収監者経費枠から所定経費として1万南洋ルピーを入金済みです。それで支払うよう指導願います」と、不安そうな顔の吉崎さんの左手を取って聖環を操作し、お金が入ってるのを見せてあげます。
かなりずる賢く根性の悪い犯罪者思考なのは承知していますが、奥様やお嬢様が「全く自国民をかばう気がないどころか、俺を積極的に痴女皇国に預けようとしている」と知っては落胆するしかないようですね。
ちなみに吉崎さん、着ていた服は預かっています。
ですが、さすがに褌の締め方もわからないと思いましたので、登院する参詣客用の服をお貸ししています。健康診断や人間ドックで着る上下のようなものと言えばお分かりでしょうか。
「うむ。おい、兄さん。色々とあって悲嘆に暮れている気持ちもわかるが、まずは人として必要な事はしておけ。突然起きる何かに備えるのは兵隊や船乗りだけの専売特許じゃねぇんだ。人生ってなぁ海だ。凪いだ日だけじゃなくて嵐も来るんだよ、な」と側に立って諭すティーチです。
キャプテン・キッドの人となりや海賊としての伝説を研究し、海賊仲間だったバーソロミュー・ロバーツとも親交を結んで人心操作を研究したという黒ひげティーチ、意外にも知性派だったりするのです。
(俺が願いを言える立場じゃねぇが、ロバーツは俺より遥かに経営の才に長けていたと思うんだ。奴が生きてたらなぁ…と思う事は今でもあるんだわ。もし奴が生きていたら有無を言わさず、ナッソーかハバナの事業経営をさせてみてぇなぁ)
しみじみ言うティーチ。
確かバーソロミュー・ロバーツはアフリカ沿岸で死闘の末に大砲の破片に身体を貫かれて死んだはずですが、調べてみてもよいかも知れませんね。
どうもティーチたちが座右の銘にしている海賊の掟の諸々の原案を定めたのはこのロバーツなる伊達男らしいので。
「さ、兄さん。ジパングの生まれならハシも使えるだろ。本当ならもっと厳罰で済むのをたまたま命拾いできたんだ。運の良さを祝ってやるよ。自分の金は取っときな。ほら、行くよ」ボニー・アンが手を引いて吉崎さんを食堂に連れて行きます。
来た時はうちの騎士服や女官服に壮絶な抵抗をしていたアンとメアリーでしたが、体型矯正を受けたり、女海賊のリーダー格だった海賊女王自らが率先して「ここでは女である事を武器として使う方がよい。せっかくお前たちも男の気を引ける身体になったのだから、使えるものは使って身を立てなさい」と自分も女官服で勤務を始めたのに従った経緯があります。
そして罪人扱いの海賊たちからの「いやー、リードさんもアンさんも、元からここにいる女官さんたちと遜色ないじゃないっすかー。口説きたくなる女っぷりですよ」などのおだてや支持もあり、考え直して勤務に励んだ結果、気っ風の良い女騎士として罪人寮優先配置騎士待遇を得ております。
ちなみにですねぇ、海賊女王と女海賊二人は将来的には紺碧騎士団か海事部への配置転換が積極的に検討されておりまして、色は黒色ですが…紺碧騎士団用のセパレートスタイルなんですよ、騎士服。
「では、わしらも一夢庵に戻るとするか。捨丸」
「へい」
「后様…姫様、お国にも色々あろうかと存じるが、大将殿や妹姫様の御沙汰あらば我らをそちらに遣わす事も可能であろう。大した事は出来ぬが、一朝時あらば呼ばれたく候」と、一礼なさいます。
ま、珍走団が出てきた場合、本当にこの方々をお呼びして退治してもらおうかという案もありましたが、一行四人「だけ」で、それも下手をすれば鬼種族系の強化措置抜きで長篠とか桶狭間とか、更には比叡山延暦寺とか石山本願寺レベルのフルボッコをやりかねないからと姉に断念させた経緯がありまして。
うん、この4人用の鬼族仕様強化鎧が比丘尼国主導で開発されています。
うちの技術を投入しても良かったのですが、とりあえず「4人で薩摩を陥落させる程度」に留めておく必要があると関係者が協議した結果、強化程度を調整した代物を作成し、普段は元伊勢の倉庫に仕舞っておくことにした模様。
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「お食事をお出ししても大丈夫でしょうか…一応、大黒埠頭への時空間軸復帰時に調整はさせて頂きますが」
そしてやんごとない奥様にご都合をお聞きしてから、本宮23階の貴賓食堂にご案内します。
何せ急に決まった話なので、痴女宮に戻る日時を調整してうちの昼食時間帯になるようにしております。
既報の通り、この貴賓食堂は調理人の技倆維持のために、この世界の西暦での日曜以外の昼食と夕食について試作料理の提供を兼ねて稼働しております。
で、こんな感じで不意の来客を歓待する場合に備えて、お昼に賓客をお迎えする場合は昼食の試食担当兼マナー研修受講者を夕方または後日回し、冒険系試作品をまかないご飯に回して無難な完成メニューに差し替える事で貴賓客を接遇する手順が確立されています。
で、あたしへの懲罰、絶賛継続中。
軽いものとは言えどフランス料理で行くと通告されました。姉から。
「うううううううう」
「ベラ子…お前だけカツ丼にするか…? それか罪人食堂で食ってくるか」
「陛下と内親王殿下のご臨席でそれは出来ないでしょ…」
「皇帝としての自覚が出来ていて何よりだ。実は試作品はイタリア料理の方向だったらしいんだが、ペペロンチーノ風スープパスタとかいう訳のわからんものを新人女性料理人が試作してな。これは陛下にお出しするにはあまりに忍びないということでな…そんな訳ですので申し訳ございません…陛下、殿下」
「いえいえ。元来でしたらこちらが催事を企画させて頂くところですのに…」と、テーブルにつかれた奥様には逆に恐縮される羽目に。
バローロで食後のチーズを終わらせてくれたのが姉の慈悲というべきですか。
陛下と殿下の講評はまずまずというところで。
急な応対でしたが、南米産牛肉が活躍してくれました。
更にスープが何気にミネストローネだったり、あるいは魚料理がタラか何かのポワレですがパスタに載せられて出て来た上に、オリーブオイルとぺぺで味付けされてたりとか、あるいはセコンド・ピアットがオッソ・ブッコだったのは姉か母の手回しでしょう。
(これをフランス料理と言うにはあまりに無理がある気もするがわかったな。この後はキリキリ働くのだっ!)
へいへい。
このお礼には、いつかマントヴァのアンティカ・オステリア・アイ・ラナーリってレストランに連れて行ってあげましょう。本場のイタリア料理で有名ですよって。
(マリアヴェッラ陛下…そこ、グルヌイユを出す店では…絶対にマリアリーゼ陛下、怒りますよ…)
(あそこのは美味しいわよ。それにジョスリーヌさん、何もそちらばかりがRanaを食べる国の専売特許じゃありませんよっほほほほほ!)
さて、食後はこのまま痴女宮内のご案内をさせて頂きます。
まずは同じ階の一番大きな貴賓室を。
ここは旧・アレーゼ叔母様…そして初代様がお使いだったお部屋をリニューアルした場所です。
シンプルな調度だったのをそれなりにモダンにまとめてホテルのスイート風に改装。
客室稼働時は最低でも1名は女官を常駐させるお部屋で、両陛下がお越しの際はここにご宿泊頂く事になりますが、お部屋の出来にご不満があれば是非にもご指摘を頂きたいと説明。
「いや、本当に真剣にご要望があれば承らせて頂きますから」と汗をかきかき、ここやすぐ下の22階、準貴賓室区画が縄張りになるジーナ母様が奥様のお相手をしておられます。
(一応参考にしてるのはバリ辺りのリゾートホテル。大理石の床にしてベッド周りに敷物。ベランダにデッキチェアや椅子を配して聖院湖を眺めながら一杯とかな)
「あら、先ほどまで下の港におられませんでしたかしら、あのお船」ベランダからの眺めをチェックする最中、ど正面にテンプレス2世の巨体ががが。
「ああ、実はテンプレス2世はあそこが定位置なんですよ。あの場所が1番スポット。で、聖炎島への橋を挟んで2番3番4番と係留場所を設けております」姉がベランダの向こう側を指して説明をしております。
ここは元来、高さ4mくらいの植え込みで「隣の部屋のベランダで起きている事」が見えないようにされていましたが、改装にあたり2m程度の植え込みに変更されています。
そして主にこちら側から開く緊急脱出扉もつけられ、ますます連邦世界風に。
ちなみに今回の改装で眼下右手、テンプレス2世の船尾から300mほど東側に見える浮き橋、水面下に沈む機能がつきました。
理由は、1番スポットにテンプレスが接岸した状態でスケアクロウを出したり戻すのに橋が微妙に邪魔。
で、例のおっきな岸壁コンセントがあるのが1番スポットなので、可能な限りテンプレス2世はあそこに接岸させておく必要があるそうです。
ですので離岸着岸時にテンプレス2世またはアークロイヤル級の船底に引っかからない位置まで沈むようにされました。まぁ、1番にアークロイヤル級が入ることとは最近だとほぼありませんから、この沈下機能はあまり使わないようです。
ええ、あたしがスケアクロウを飛ばす時にはこの橋、沈めた方がいいとなりまして…。しくしく。
で。
「元来はあの先にある聖炎宮で金衣銀衣の公式葬儀を行う際に使われる橋でして、最後にあの橋を本来の用途で使用した弔事、ジーナ皇帝室長崩御の際の火葬儀式となります。現在は聖炎宮は改装され、痴女皇国皇族の居住区域たる後宮となっております」
よどみなく解説するのは広報に臨時復帰した雅美さん。先ほどまでのスーツ姿から広報仕様の紫の制服に着替えてのご案内ですね。
そして雅美さんと母の案内で21階に。まずは理恵さんの現在の巣たる国土局をご案内。
事務室規模は小さいですが、既に事務女官も配属されて建設工事関係の資料を取りまとめる作業に入っています。
続いてうちの母親…ルクレツィア母様が仕切る外務局に。
実は組織改編以降、女官が何名か常駐するようになりました。
ただ…実はこの女官の皆様、広報局が内務局広報部となった関係で配置換えになった方々でして。
ぶっちゃけて申し上げますと、紫薔薇騎士団員です。
要するに、広報局が担っていたスパイ事業の一部をここで担当しております。
ですから女官服を着ているのはカムフラージュのようなものです。
で、流石にここでやってる事をお見せするのはまずい、となりまして…母様には急遽、財務局に経費申請に行ってるふりをしてもらいます。
そして財務局。
実はここも、あまり見せたくはない場所です。
しかし先先代様や先代金衣が役職者として配属されておりますので、顔を出さないわけには行きません。
それとですねっ。
奥様と娘さんには切望されていますが、これまた見せたくないものがあるのです。
それを見せたくないがために、この財務局を経由した方がよいのです。
見せたくないもの。
ずばり、今の時間帯の修学宮、もっと言うと修学寮内。
新年度からは聖院学院に変わりますが、昼食後のこの時間帯は午睡…つまりお昼寝に充てています。
もう、お分かりでしょう。
寮内で今、お昼寝とは名ばかりで今、何を繰り広げているのかぁっ。
しかも未成年就学児童ですよっ。
(こればかりは絶対に見せられねぇ…なんとかして時間稼ぎをしよう…)
(異論はない。それにあそこはあそこで「見せたい」場所になるからなぁ…)と、姉と母がひそひそ話しています。
で、ここで財務局長のデルフィリーゼおばさま…先先代様が付き添い、例の財務用エレベーターで地下23階に降りることに。
そして出納部を経由して地下鉄ホームを見学頂きます。
「なるほど、現金輸送用ですか…」感心する奥様。
ちょうど今、港町行きの電車が停車していまして、何かを積んだ電動台車を載せている最中でした。
この電動台車、お正月の時にもお話させて頂く機会があるかも知れませんが、荷台は施錠可能な箱状になっています。
あたしの聖環で荷札の電子タグ、読めるかな…。
そして出てきた出庫先を黙って奥様とお嬢様にお見せしておきます。
二人とも黙ってうんうん頷かれてますね。
ええ、何がどこに行くか、皆様にもこっそりとお教えしておきましょう。
For Montreux, Switzerland. Our Marie Memorial Bank, Europe blanch head office. Ag 999 10kg x 20 piece.
「で、こちらが出納部金庫室です」と、案内される先は。
出納部を出て廊下を挟んだ向かいにある金庫室…ここは以前、地下1階出納部時代に存在した第1金庫室がそっくりそのまま…というより、だいぶ広げられていますね。
他国の通貨はもちろん、最近では欧州地区本部や米大陸本部向けの移動資金の一時留置もしていますから。
で、がっつりと裸で置かれたインゴットがずらり並んでいますが、ここの金銀は「呪われていない」か「呪いを外してある」ものです。
そしてここからは旧・呪われたエレベーターで地下24階に降りることになります。
と言っても最近は降りた場所も明るくされ、以前のような禍々しい雰囲気は一掃されています。
「この真っ白に燃え尽きておられるのは…」
「陛下。これ…恥ずかしながら私めです。で、寝台に倒れているのがここなクレーゼの若い時ですね」
そして発光結晶体でライトアップされた「例の」巨大な絵画と、その由来を説明されるデルフィリーゼ様ですが。
はい。その近くでものっすごく嫌そうにしているクレーゼおばさまです。
ここに出禁にされていたのを解禁されて長くなりますが、未だに足が向かないそうです。
うん、来たら絶対にこの絵が目に入りますからね。
(絶対に母はこれを見せたいがためにわたくしを連れて来たに決まっております!財務部金庫室の解錠なぞ、母だけで出来るでしょうに!…マリアヴェッラ、いいかげんあたくしだけで開けられるようになりませんか…)
(おばさま…皇帝と言えども金衣と同じで全て好き勝手放題に出来る訳ではないのです。特に、超高額なお金が絡む件につきましては姉に頼む方が早い気もします…)
(後で一個くらい淫語ットをガメておきましょう。女の隠し場所に隠せば何とでもなりますわ!)
おばさま…○国人の金塊密輸団ですか…。
そして嫌そうにしている人物、もう一人。
ええ、姉。
なるべくあのオフ会写真について触れて欲しくない顔です。
ですが、前はここのすぐ下だったでしょうが、入口。
現在はここの入り口は写真と絵画の右側の壁にあります。
従来の入口は既に痕跡すら窺えないまでに埋められて、写真の下に祭壇と焼香台が…。
ちょっと待って、もう一人嫌そうな顔の人がっ。
(あたしと初代様まだ死んでない!なんで今のうちから遺影飾られてんのよ!)
だから雅美さんも、あたしが飾ったんじゃありませんって…。
どうしてみんな皇帝と言うだけであたしに話をするのですか。
そりゃ誰が何をしたか調べられる能力もありますしそれを出来る立場ですが、犯人があたしであるかの如く言ってくるのはやめてください。
今度そう言う言い方した人が現れたら堤防ですよ堤防。
で、墓所の変更点もういっこ。コンクリートっぽい素材の床に白い塗料か何かでレールのような二本の線が描かれています。
そして呪いのエレベーター手前に行く道筋と、奥まで進んで右に曲がるような道筋で描かれています。
更に、例の扉も禍々しい雰囲気は変わりませんが、更に大型の両開きドアになっています。しかも開かれていますよ?いいんでしょうか…。
「あー、あれの試験組み立てだな。実はですな陛下、私共の新年行事と初代金衣、そして田中広報部長の崩御にあたりまして必要な儀礼衣装の一部がこの向こうに保管されております」
デルフィリーゼおばさまの説明に頷く奥様。
ええ、こちらのおうちにもそのような倉庫めいた場所があるのは想像に難くありません。
そしておそらくは重要文化財級のものも少なからず保管されているのでしょう。
「元来はこの扉の先、聖院ではなく痴女皇国流に言うとですな、皇族や上級幹部が何が不始末をした場合に用いる懲罰器具を格納していたのです。…ただ、諸事情で金衣が用いる式典装備や緊急用の戦闘服を格納するようにもなりましてな。更にはこの奥にありまして、陛下と内親王殿下にお見せしたい物の搬入や搬出通路を兼ねております」
「で、組み付けたものが実はあれですねん…」と青いツナギ姿で悦吏子ちゃんと二人して疲れた顔をしている外道ちゃんこと、国土局痴女宮設備部長の外道丸ちゃん。
本日は珍しく、身体を大きめにして鬼の姿になってますね…あ、いつもの姿に戻るのね。
そして奥様とお嬢様を向いて礼儀正しく一礼。
「皇后陛下と内親王殿下におかれましてはまたえらい時にお越しに…いや、今ちょっと懲罰具倉庫の掃除かたがたアレの試験組み立てしてましてんわ。このいつものなりでも普通やったらいけますねんけど、あれ一応聖院金衣の力を試す仕掛けしてますやろ。なもんで擬態解かんと押し引きも難儀でしてな…」
「しかし、見た目は何と申しますべきか…」はい。それを見た奥様もお嬢様も、年末の歌番組収録にご臨席されたかのような、複雑な表情を浮かべておられます。
「これは通常典礼衣装を着用した上でこれ、このように背負い子の肩紐を通して背負いましてな。で、このまま立ち上がった後で左右の車輪付き架台を下げてもらうのです」と、事もなげにそれを背負うデルフィリーゼ様。
「そちら様の単位で200kgくらいにはなるかな。とりあえず式典中、この姿で玉座に座りっぱなしになります。ですので金衣の物体支持力…内親王様、失礼をば。このような力を行使してこれを支えておかねばならんのですよ。あ、外道君、悦吏子さん、架台を持って来てくれるか」娘さんに手を触れずに地上から30センチばかり浮かせたデルフィリーゼ様、再び娘さんを床に戻されますと、次にその公式典礼装備とやらを脱いでおしまいになります。
しかし、その巨大なものは浮いたままです。
で、それの左右と中央それぞれ用に右とか左とか中央と書かれた、棒がいくつか突き出た台車が配置されますと、ゆっくりと部品が支え棒やクッションに載ります。
「正直私も頭を抱えた代物でな…クレーゼ、お前の時はどうしたのだ…まさか!」
「隠し支柱を付けさせて頂きました。ただ…強さが足りなかったようで、支柱が折れてあわや舞台上で左右のぶひんを落としかけましたわよ…マリアリーゼがこれを拒否したのを幸い、そそくさと脱いで片付けさせて頂きましたのですがね!」
「こればかりは私でなく、作った初代様に言え。あとマリアリーゼにマリアヴェッラ。お前たちも注意しておけよ。何かあればこれを引っ張り出したがる人間は家族会の大多数だ。聖院制度を引き継ぐ限りこれからは逃げられんぞ…」
えええええ!
「マリ公。お前まさか痴女皇国作った理由、英国留学とかNB行きを嫌がったがためだけとちゃうやろな? まさかこれを避けたいのも理由ちゃうやろな?」
がし、と姉の肩を掴むかーさま。
「今からでも遅くない。オックスフォードかケンブリッジへの留学推薦願書、ワーズワースの爺さんに書いてもらおか。それかアグネスさんが引き受けてくれてるけどNB政界行き、やっぱりお前行くか」
「い、言いがかりはよしやがれっ…」
「陛下。殿下。私は崩御後は一種の無国籍状態ですが、喉仏のお骨は大阪市営の霊園内の高木家の墓に納めて頂いている身。日本国との友好のためにも敢えて身内の恥をバラさせますが…どうしてもコレとかコレが理不尽な話を言って来た場合は連絡を願います」と、はりせんを取り出して姉とあたしの頭をはたきやがります。
(ベラ子。お前の性格だとこういう扱いの後で必ず母に報復を企てるであろうが、今は黙ってはたかれておきなさい。要はマリ公があんまりにも暴走しすぎた場合の監査機構が存在することを改めて皇室に印象づけねばならん。わかるやろ?)
(めっちゃ不満ですけど、姉が日本皇室にやらかす可能性を鑑みますと、智秋さんかマイレーネさんを呼ぶ必要もまた理解できます。アレーゼおばさまは割と姉に甘いですしっ)
(あとな。うちの聖環でお前らのパワーリミッターかけられるようになったからな。初代様崩御後の措置やと。文句はエマ子にゆえ)
(なななな何実装してんだよ!こらエマ子!)
(エマちゃん!普通は逆じゃない? かー様を止める方が大変と思わない?)
(はー…仮にベラ子かー様がそれ使うとしましょうか。で、ジーナかーさまもベラ子かー様の力を制限しようとした。そしたらどないなる思いますか)
(まさか…喧嘩両成敗…)
(あと、アルトさん強化して三人を堤防送りにする権限はうちに渡されました。あたしだけでもかー様ふたりとねーさんを抑えるのはできますけど、痴女皇国の流儀で泣かす方法を知ってるアルトさんがやる方が効くやろと家族会のアドバイスを頂きまして)
それはともかく。
奥様とお嬢様に見せたいものとは。
デルフィリーゼおばさまがくだんの懲罰具倉庫の奥にある両開き扉を開こうとされます。
…あ、そのちょっと右横にある扉、さりげなく雅美さんが前に立ちましたね。
絶対にそこを開けて欲しくないという顔です。
ええ、何があるかはだいたいわかってます。
雅美さんですしねっ。
(いえ、ベラちゃんの想像してるのと多分同じかそれ以上だけど…高圧艦長とかクスコとかだけじゃなくてピアス用の器具とかも)
あんたはドイツ野郎ですかっ。
ジャーマンビザールはうちの国で流行りませんよっ。
(そこまでしたくないのよ…わかってよベラちゃんっ)
(仕方ないですねぇ。お願いですから密林系痛販じゃなくて通販とか、大人のおもちゃ屋さん向け業務卸通販の荷物を天王寺の領事館に送らせるのだけはやめましょうよ…)
(痴女皇国に荷物が届かないから仕方ないじゃない!)
(ママの店宛で送る手があるじゃないですか…沖縄ですから送料かかりますけど。それに雅美さん、英語とフラ語一応できるんですから、イタリアかフランス…今後はエリゼー宮はさすがにまずいとしても、大統領閣下の私邸に配達してもらえるのでは?)
(そっか、その手があるわね。それかパリならフランクフルトでもハンブルクでもベルリンでも飛べば速いし…理恵ちゃんに言わせればケルンやフランクフルトやハンブルク行きの高速列車もあるからねぇ、直接買いに行けるし…本場物)
(絶対に復活したらそれ実行する気満々でしょ…)
(あらベラちゃん…絶対にいると思うわよ? うひひひひひ)
(ええ、多分使うとは思いますけどね)
(とりあえず後宮のあたしと初代様に割り当てられた部屋でなくてこっちに置いとくようにするから。ベラちゃんならここまでは入れるよね?)
(外道ちゃんか誰かに入室許可を取る必要はありますけどね)
(あと使ったらちゃんとお手入れしててよっ)
ええ。何の話かはともかく。
ごとごと音を立てて開く防火水密扉。
その先にあるものですが、実はここの中も少しばかり変わってます。
具体的には手前に、出番の多いものが置かれるようになりました。
ええ、銀色のあれです。純度99.9%の淫語っと10kgです。
そして、もうちょっとマシな刻印の国章とか記章の鋳型で鋳造できなかったのでしょうか。
Imperial of Temptress 1048 999 10kgとかいう文字の上の図形、二つの丸と何本かの棒で構成されたシンプルな意匠ですが。
絶対に直接、奥様とお嬢様の手に取らせるわけにはいきません。
…こんなアホなエンブレムで鋳造するな、姉。
https://38087.mitemin.net/i609951/
…こんなもん入ってるだけでですね、呪い以前に盗む気が全くなくなりそうな銀塊ですよ!
まぁ幸いにも、通学高校の体育館二つ分くらいの部屋に設けられた棚にみっちり詰め込まれたインゴット、From Holy Roman EmpireですとかFrom Espanaですとか From Japanとか棚に書かれていまして、その文字の理由をデルフィリーゼ様がご説明しているのを神妙に聞き入っておられます。
つまり、ここの銀、要は元来はそこで採掘可能だったはずのものです。
それを痴女皇国が強制的に預かっていると。
むろん利子とかそういうものは払っておりません。
こらそこ、泥棒とか言うな。
主に元来の持ち主が困った際に「お返し」するためですからね? 利子は取りますが。
(ベラちゃん、それ盗難金塊を元手に湯田屋の商人をベニスでやるくらい悪徳商人臭がする話よ…)
雅美さん。あれはエゲレス人が書いた創作戯曲小説でしょう。
湯田屋さんはともかく、イタリア人には濡れ衣も甚だしい気がするのですが。
そして、続く扉を抜けた先には同じくらいの広さの空間がありました。
棚も似たようなものですが、ある所から木の棚ではなく金属棚に変わっていまして、そこの手前の通路にドクロマークと「未処理在庫注意」という注意書きの書かれた板がトラロープでぶら下がっています。
そして、棚に納まっている淫語っとは金色になりました。
こちらは出荷可能な分は例の恥ずかしいエンブレムですけど、奥の金属棚の分はドクロマークが彫られた鋳型で鋳造されています。
そう、例の手に持つと呪われる金塊、あれです。
実はここの金塊、順調に地球各地の主要金山から無断採く…ええ、痴女皇国の誇るどすけべホトトギスな国土局長と、もはやドカ○スタイルが制服という認識をされている我が娘にして建設部長が高度な技術力をもって採掘を重ねておりまして、太陽系内のよその星からガメてきた分も含めて、ここで保管している分だけでも2万トン近いそうです。
そしてNBの国営銀行に担保として預けたり、聖母記念銀行のバーゼル欧州本店ではなく、真の欧州地区本店たるモントルー支店…要するに欧州地域本部で保管しているものまで含めれば3万トンを超すそうです、金。
そして、ここの金塊の由来や保有目的が「痴女皇国の保有信用資産であり、痴女皇国世界の無用なデフレインフレを避けるための経済統制用である」という説明を受けている奥様とお嬢様。
まぁ、日本銀行でも数千トンの金をこうした目的でお持ちですので、我々がかくも大量の金銀を保有している理由は速やかにご理解頂けたようです。
そして、電子メモではありますが、ざっとの保有量が書かれたメモと、この金保管区画の棚をバックに記念撮影した画像を奥様の「聖環」に保存してお持ち帰りになることに…。
あ「聖環」をお渡ししているのにも注目願います。
これも皇族の方々とのお付き合いの程度、今はどこまで進んだ状態なのかをお教えすることになると思いますので…。
さて、かくも重要な金庫をお見せしている理由は、「日本国に」対して、かかって比丘尼国を含めた痴女皇国世界、ひいてはNB本星での鉄道敷設事業に関わる費用支払い能力を実物でご理解頂くためです。
「正直、石油資源も木星内部の有機液体プール層から汲み出せるんですよねぇ…うちの国ですと」
「それを元素転換して石油や石炭を供給することもやろうと思えば可能です。しかし、やりすぎますと怒ってくるお目付役がおりまして…」などと汗だらだらで姉や母も「資源現物払いも可能ではある」件を説明しておりますと。
(陛下! あたいはアンだけどさ…あのヨシザキってボーイ、やっぱり食事が喉を通らないってんで何とかライスだけでも流し込ませたんだよ…で、罪人寮を見学してる際に苦しみ出してさ…ガールになりかけてんのよ! だからメシちゃんと食えっつってんのに!)




