痴女宮ふゆやすみ・りえちゃん米沢へ行く 1
「よく他社路線走行OKしたわね…」
「ん?いや、若様にこれで米沢行きたいつっただけだけど」
「あっさり言うな…」
で、私たちの目の前に何があるか。
そして、ここはどこなのか。
ええ、新幹線新大阪駅の高架下すぐ側に広がる車庫です。新大阪から博多方向に向かって走ると三列席の窓際なら見下ろせるあの場所です。
つまり、宮原というところです。
ここの正式名称はともかく、普通の人は電車の中で忘れ物をした場合以外に全く用事がない場所です。
そして、ここの正門は新大阪駅からだと、一番近い地下鉄の改札からですら、歩いて15分くらいかかります。
そんな場所にバスで連れて来られた私達ですが。
とりあえず目の前に緑色の車体があります。電車と言いたいのですが言えない理由は後で言います。
そして奥には金色っぽい車体の電車もいます。
そして、ここに来た理由はこの列車に乗るためです。
もうお分かりでしょう。
以前言っていた通り、あたし室見理恵のわがままが通りまして、これに乗って旅行させてもらえることになりました。
この列車に乗れるのはひとえに友人にして上司の高木まりあこと痴女皇国上皇マリアリーゼ陛下の人脈と資金あってのものだねですが、乗るまでの経緯を考えるだに、奴にはあまり純真な感謝をしたくない気もします。
で、この緑色の鉄道車両。
10両のうち5両が放出新車センターの製品です。
父が出向していた際にこれの製造指揮に関わっていたそうなのですが、その製品たる7号車に乗り込むのは感慨深いものがあります。
ただ…先頭車両他、いくつかの車両でぐわらぐわらと音がしています。音源になっている機械、静音制振効果のある箱に入れているそうですが。
そうです、これを電車と言うにはばかる理由がこの音でして、この緑の電車、分類上は気動車…エンジン付きの車両になるのです。7号車はエンジンが付いてないけど気動車として列車を組む一等寝台車という意味のキサイネとかいうカタカナ記号、これと番号の組み合わせが車体の下の方に表示されています。
もっとも、もう一本南側の線路に止まっている金色の変な先頭の形の電車、これも実は両側の先頭の車両にエンジンルームを持っておりまして、電気を取れない場所ではこの発電エンジンを回して起こす電気で走ります。
これは緑色の車両も同じで、エンジンを回した力は車輪に直接伝わらずに発電機を回すんですけどね。
そして緑の電車…敢えて間違ってるのを承知でこれからは電車で通しますけど、架線という電線がない路線でも走ることが出来ます。というかこれ、普段は主に山陰のそういう場所を走る団体旅行専用なのです。
ただし電車の運転免許で乗れるように運転席の操作系、この会社の電車と全く変わらないレバー二本で操作します。昔の気動車にあった変速ハンドルとかは存在しません。
更に団体旅行専用とサラッと言いましたけど、この列車、単純にどこそこに行きたいから乗るようなものではありません。
この列車の切符は旅行会社の主催するパックツアーとして売り出されます。
その金額、これからあたしとダリアが乗り込む7号車の場合、なんと120万円から150万円です。
他の客室でも列車の設備としては破格の高級さの上に、この列車に乗る旅行商品、まず確実に食堂車でのフルコースとか観光地巡りのバス代とか色々諸々含んでます。
ですので普通のお部屋の値段でも100万円は払うことになります。
まりりにこれ乗りたいとかわがまま言えたのも痴女皇国の財務規模だからおねだりできた話でして、普段の日にこれが走る一般的な旅行コースに申し込むだけでも、普通の人が気楽にほいっとお金払える代物じゃないと言うのはお分かり頂けますよね?
そして我々は通常の場合にこの電車が走る経路ではなく、別の会社の線路を走り山形県米沢市に向かいます。
「いや、これが実現されないと痴女皇国世界のお仕事はフランスに行くかも知れないなぁという話が出たようでねっ。理恵ちゃんのわがままを叶えるために関係者が総出で泣いたようだよっ」
「まりりが鬼なだけでは…それにあたし、米沢を行き先に指定した記憶はないわよ…まさかこのためだけに東日本用のデジタルATS機器積ませてないわよね…互換性あったかしら」
「電車なんかどこで動かしてもおんなじようなもんじゃねぇのかよ」
「まりり。そもそも信号装置が同じ日本の会社でも微妙に違うの。それとね、ベラちゃんがたまに国土局の盗まれ号を運転した時みたいな感じになるって言うとわかるかな。車と同じでさ、瑞○なら○風で慣れるための運転業務を事前にする必要があるのよ…ベラちゃんがイタリアで乱暴ルギーニの独自講習受けたような事をする必要があるんだからさぁ。西の運転士さんも四季○動かせとか無茶言われて泣いたと思うよ?」
そうです、同じような電車でも、エンジンで走る時に始動する操作とか、時刻表通りに走るために列車の癖をつかんだり安全装置のセットの方法を覚えたりする手順の違いを学習することがもちろん必要になります。果てはもしもエンジンや燃料に由来する火災が発生した時の非常時操作手順、○風と○季島ではかなり異なるのですよ。
更に言うと四○島は東の会社の標準めいた運転席です。
西の会社の電車の運転席の光景とはかなり違います。
車で言うとバックギアに入れるレバーの位置や、各種操作支援用のモニタディスプレイの配置も全く異なりますが、もっと違うところがあります。
具体的には四季○、運転するときは制御ハンドルを左手だけで操作します。
四○島にはついてたかな…車種によっては一定速度を保って走らせる場合にレバーを止めておく位置がありますけど、基本は中立位置から前に倒して行ってブレーキ、手前に引けばアクセルです。
これが西の経営は○いけどロゴは青い会社ですと、左手側のレバーを引いてアクセル、右手側レバーを引いてブレーキです。そして手を離せば中立位置に戻りますから、延々引いておく必要があります。
まりりに説明したら、坂道発進する時のサイドブレーキの操作みたいな事するためじゃないのか、ずり下がらないようにブレーキかけながらアクセル開けていくためだろって言われましたけど、今時坂道発進でそんなブレーキ使う車ってあるんですか。
国土局の盗まれやすいおっきな四駆はもちろん、雅美さんの小さい四駆ですら、とあるボタンを押しておけばあとはアクセルを踏むだけで坂道発進してくれますよ。
あ、車と電車でちょっと違うことが。
あたしたちの時代のくるま、運転手が居眠り運転や体に異常を来してるとみなすと警報が鳴って、道路によっては非常ブレーキを作動させる仕掛けがついています。
ですが電車の世界ではかなり早くからこのデッドマン装置というものが開発されていまして、だいたい1分の間にハンドル操作や汽笛を鳴らしたり何かをしないと警報が鳴って非常ブレーキが勝手にかかります。
ですので運転中は、自動化されているあたしたちの時代の新幹線ですら運転席保安要員が何かの操作をして「私は起きて前方を見張ってますよ」という意志を定期的に列車に送る必要があるのです。
「でさぁ、米坂線って確かこれが入ると元々あそこ走ってるディーゼルカーと行き違い出来ないんだけど…」と、旅程表を…えいめんどくさい。車掌さんの持ってる方の運転用時刻表だと全区間の運転情報が掲載されているだろうと痴女種能力で見てみますと。
「…あ…始発前に米沢に抜けるんか…全区間一閉塞扱いで夜中に突破させるんかい…」どうも最終列車が出た後で行き違いしなくてもいいように走るみたいです。
しかし、普段はハイブリッド式の気動車…これも運転は電車の操作とほとんど同じですけど…が1両から3両連結くらいでトコトコ走っている件の路線です。10両編成の豪華列車を2本も入れて大丈夫なのか。そう思って今回の旅行をセッティングしてくれた若様に聞いてみます。
と言っても若様も、鉄道知識をあまり持たない一般人ですから、聞き方には注意が必要です。
「あそこ地元用の電車も走るんだけど、こんな長いの2本も入れて大丈夫なのかな…米沢も新幹線の線路があるから、こんなの長い時間置いとけないでしょうに」
確か米沢駅ってローカル線用に使える線路、二本のはずなんですけど…。つまり、この長い電車が2本も来たら普通にお客さん乗せる定期便の電車、駅に入れなくなります。
で、驚愕の回答。
「マリアさんがお金で解決しました。米坂線は始発から10時までと、18時から23時まで代行バス運転。○季島と瑞○は我々を降ろした後に新津に回送するそうです。で、夜にもう一度米沢にこれを戻して我々が乗り込みます」
…何しとんねん、まりり。
ええ、冬場は雪で運休する可能性があるから代行バスを走らせる段取り、米沢界隈を管轄するJRの支社だけでなくバス会社も慣れていると思いますからまだよしとしましょう。
しかし、鉄道側は運転士さんや乗務するサービス係の人だけでなく、深夜にこれを動かすと地上側でも司令室などで監視する人が必要になります。しかもこの列車のサービスクルー…車掌さんや客室乗務員さん、食堂のコックさんは専属でチームを組んでいるはず。
その人件費を考えろっ。更にいちいちバスに乗せられる地元の皆様の迷惑も考えろっ。
「明日日曜だし旅客少ないからって、そうするらしいよ」
「おい。お召し列車でもここまでしないわよ」
「なに、ほんの十億」十億をはした金のように言うなっ。
「いや、おまけしてくれてはいるようだよ? なんせこの企画、りええのお父さんが言ってただろ。本当の電車じゃないものをローカル線で走らせたらどうなるのかのデータ取りも兼ねてるって。んで比丘尼国での鉄道事業の際の参考にするからって、区間ごとの通過スピードとか測るみたいだぞ?」
「あー、確かに…四◯島も◯風もそれなりに重いからなぁ」
「で、瑞○はあえて痴女皇国に入れる機関車で引っ張るそうです。何かあれば○風なら自走可能かと」と、男性の声が聞こえます。解説してくれたようですが、次の一言が驚愕ものでした。
「で、だ。四季○はともかく、瑞○って近○車輌の製品だよな」
「全部じゃないけど、編成の半分はそう…え? 父さん?」
はい。ネクタイ姿の上に、白い安全帽をかぶって勤務先の作業用ジャンパーを羽織った父が来ました。
室見幸蔵。正真正銘あたしの遺伝子提供者です。横には普通の旅姿ですが、母親の室見祐子も。
そしてあたしは突っ込みます。
なんであんたらが。
「理恵。お前の企画した計画のせいで私は嬉しい悲鳴を上げていてな。今回は高木さんの計らいで母さんは乗客として乗せてもらえるんだが、私は当時の車両側製造担当者としてデータ収集作業に従事する必要があると業務添乗を出向先に言い渡されたんだよ…だから米坂線区間は起きて1号車に詰めてなきゃならんのだ…父さんの年でそれは勘弁して欲しいんだがなぁ…」と、恨みがましい目であたしを見る父。
「なんなら米坂線区間はあたし起きてようか?」
「駄目だ。お前の性格だと機関車側に乗りたがるだろう。そして職権乱用でマスコン握ろうとするだろ?」
「…否定しません…」
はい、この室見理恵が詳しい女になった理由ですが、ひとえにこの父親の蔵書のせいです。
この話での痴女皇国世界では三河監獄国の領土となっている県の我が実家。
埋め尽くされてこそいませんが、仕事柄必要に迫られ買い集めたという鉄道関係の書籍で戸建て住宅の部屋のかなりの面積を食われています。
父の仕事がらみとあっては処分しろとか言いづらいのですが、正直、電子化されているものについては勤務先か国会図書館辺りに引き取って欲しい気もします。
…そして専門書から専門雑誌まで、その手の書籍を絵本代わりにして育ったのがあたしです。
「まぁともかくだ。高木さん…いえ、マリアリーゼ陛下とお呼びした方がよろしいのですかな。この度はお招きを頂き有難うございます。娘のわがままのせいで何かとお困りかとは存じますが、今後ともよろしくお願いいたします」と、母から受け取った稲荷巻せんべいの包みを差し出す父。
「いえいえ、もうそんなにお気遣いを頂かなくても」とまぁ、まりりと父がそんなやりとりをしておりますと。
(ちょっと待って…データ収集って…1号車の展望車に何か機材積んでたのってそれ? 理恵ちゃん…)同級生と話していたらしいベラちゃんが心話をよこしてきます。
(うん。例の機関車の積雪時試験走行って意味もあるからさ、痴女皇国としての支払額はその程度で済んだってまりりもたのきちも言ってたけど。ベラちゃん、何かあるの…待て。ベラちゃん。まさか夜中の展望車で変なことしようとか考えてないよね? ないよね? 言っとくけど10号車でも最後尾の揺動を観測するための測定装置とか、測定班の基地置くからね? 作業する人たちは新津で乗ってくるけど、そこから先は1号車と10号車はちょっと遠慮してよ?)
はい。この瑞◯も○季島も先頭と最後尾の車両は展望ラウンジになっています。
しかも瑞◯の方は運転席が張り出した下が柵こそついていますが、車外に出れるベランダ風のオープンデッキ、昔風に言うと展望デッキです。
ただし今回は父によるとローカル線での車両挙動、特に痴女皇国仕様の機関車を走らせた際の客車側の挙動を調べるためのセンサー類を管理する測定基地としてそのラウンジを使う予定になっているようですね。
ただ、今回の行程の全区間で測定観測作業をするのではなく、先程話が出ていた新津という鉄道基地のある町の駅で先頭にその機関車を連結して走り出してからだそうです。
本当は四○島はもちろん、瑞○も米坂線を自力で走ることはできるのですが、かなり重い瑞○を客車に見立てて走らせることで、比丘尼国の山岳地帯に線路を敷いた際の参考データを集める狙いがあるそうです。
そして○季島側でもある程度の観測機器を積んで行く段取りになっていまして、機関車に牽引された瑞○が線路に及ぼす影響を調べていく予定になっているという話も聞きます。
そして車両メーカーや建設会社はもとより、運転や整備保守指導をする鉄道会社側にとっては都合のいいことに、この米坂線沿線…冬場はかなり洒落にならない量の雪に覆われるんですよ。特に米沢側。
ですのでNB用、更には比丘尼国用機関車の耐雪試験にもちょうどいいということで、破格の値段でツアー旅行の予定を組んでもらえたそうなのです。
「いや…理恵…この話を受けないと比丘尼国の話もアルストムに流されるとか恐ろしい事をお前が言ってると聞かされたんだが…」
「何よ父さん。いくら何でもあたしそこまで言ってないわよっ? だからまりり、あたしをダシにすんなと」
「痛い痛い痛い!つねるなよ…」
(しかし理恵ちゃん。あの瑞○の展望デッキとかいうもの。あれは夜は立ち入り禁止なのであろうか)今度は乗り込む面々を名簿と照合して点呼を取っていたジーナさんから質問が来ます。
(ジーナさん。あそこで青姦とか考えてましたね? そもそもあの展望車は父を含めた測定の係員さんが夜通し仕事してますし、先頭の機関車が巻き上げた雪があの辺まで降ってきますよ。今回は最終の後で米坂線を走りますので除雪は基本的にないはずです。かなりの巻き上げが予想されますから、仮にデッキが空いていてもやめとく方が無難ですよ。あ、後ろ側もかなり巻き上げがありますからね?)
と、最後尾の客車が雪まみれになっている銀色の豪華寝台列車の画像をエマニエル夫人顔負けのどすけべ奥様に見せて差し上げます。ちなみに敢えて皆様に念押ししますけど、ベラちゃん…痴女皇国二代目皇帝たるマリアヴェッラ・ボルジア陛下の実のお母さんはこの人ですからね?
で、本当なら瑞○でなくてもこの客車を走らせれば運転士さんの慣熟走行とか不要になって話が早かったのですが、米坂線には長すぎたのですよ…。目の前の豪華列車も大概な長さですが、それは機関車入れたら13両、更に長くなるんです。
おまけに固定編成と言って、客車だからと途中の何両かを抜いて短くできないつくりのものですしね。
(いや、雅美さんが復活するまではあたしがヨゴレになるのは目に見えてたさかいに多少の嫌味には甘んじるけど…理恵ちゃんには後でフィスト○ァック10分、これで妥協したるわ)
(お返しに金のラスプーちんちん挿入して今晩のディナーに付き合ってもらいますよ。それでなら合意します)
(うう、理恵ちゃんが攻撃的極まりない…)
(それよりちゃんとみんな引率して乗せてくださいよ。…エマちゃん、撮り鉄対策お願いねっ)
(へい。さすがにここでカメラを構えて撮るのはいませんけど、沿線が危ないですね。あとBE69-919ですか、痴女皇国に入れる機関車の試作品を繋いだ後が要注意ですね)
(まぁ、新津は夜に着いてホームから離れた場所で、そのふざけた試作番号のついた機関車をつなぐみたいだし、雪に覆われた米坂線沿線で冬の深夜にカメラ構える根性のある撮り鉄はそうそういないでしょ)900番台が試作車を示す番号なのはわかるのですが、今回来るのは試作1号機だったはずです。
そしてもっと問題なことに、BE69とかいうR18な番号、JR各社の命名規則を根本的に無視しています。いいのか。
(念のために宙兵隊仕様の偵察ドローンを上空飛行させます。山間部は神野さんが雪女を配置してくれるそうです)
(撮り鉄を凍死させる気満々な気がする…)
…ええ。私たちが正規の駅で乗り込まない理由がこれです。いけにえ作戦とヲカマ狩り作戦の功労者の慰安旅行ということで企画されたこの旅行、ただでも目立つ団体列車を常日頃から付け狙う撮り鉄さん、今回も被写体として狙わない訳がありません。
そして偶然走って来た瑞○や四季○を見た一般人が「あ、なんかきた」とノリでつい撮影してしまう可能性があります。
ですが、日本どころか連邦と痴女皇国、果てはNBの開発事業にも関わる重要な試験をする車両とあっては、その計画が不必要に第三者に漏れては困る。
特にNBは一時停戦協定を結んでいるだけで名目敵国です。
敵国を支援する経済活動とは何事かと騒ぐ人が出ては困りますよね。
さらに今回はフランス政府の非合法軍事活動関係者やNBの情報部員も乗り組みますので、いくらドミニクさんやジョスリーヌさん、はたまたケイシーちゃんやマーガレットちゃんが痴女種化していて人相変更が比較的楽にできるとはいえ、被写体にされるのはもちろん、乗り込んでるのが誰よと話題になる件だけでもあまり知れて欲しくはない話です。
で、痴女種に加えてそんなスパイ関係者も乗るこの列車、ジーナさんの手回しで連邦宙兵隊の機密作戦行動管轄下に置かれておりまして…。つまり撮影したら捕まります。
ただ、あまりに多くの人目に晒されてしまう事もあり、撮影した全員をいちいち逮捕してられません。
そこで安井金刀比羅宮封鎖時にも威力を発揮したエマちゃんの干渉能力で、瑞◯と四季◯にレンズを向けた撮影機器を誤作動させてしまう作戦で行く事になりました。
これで我々も遠慮なく客室のブラインドやカーテンを開けて、東の会社と西の会社がご自慢な車両の大きい窓からの展望を楽しめるというものです。
さらには。
「はっはっはっ八百萬神種属の協力のもと、呪いがかかってしまうよう祟らせて頂きましたっ」
「と言っても祟られるのはこの列車を撮ろうとした場合だけだがなっ」
「エマちゃん…まりり…あんたら何をした…」
「簡単だ。以降、電車を撮ろうとするとカメラが不調を来たすようになるだけだよっ」
「付喪神の呪いというやつですがな。ちなみに瑞◯か四季◯に仕事として接するか、お客として乗れば祟りはなくなりますよ」
「だから客であるあたしらや、今後この列車を利用する人は祟られないんだわ。業務で必要があってカメラに収める場合も同じ。事故とか故障で必要な場所を撮影することまで呪われることはないよ」
「あと呪いの対象は日本人限定っす。たまたまこの列車を見かけた外国人観光客や滞在者なら、まず悪質な撮り鉄じゃないと思いますから」
「一応呪いの話はJR関係者には伝えてるから。趣味の撮影でこの列車を撮るとこういう呪いがかかるよって言ったらさ」
「緑ロゴ社も青文字社も、その呪いをうちの保有する全車両にかけて欲しいと言ってはりますねん…」
「うーん、確かにそんな便利な呪いならかけて欲しくなるだろうけど…例えば事故をした車両を報道の人が撮影するとか、撮り鉄じゃない家族連れが記念撮影するのは大丈夫なようにならないかな」
「大丈夫っす。仕事で撮るとか、被写体に四季◯なら四季◯以外も入れて撮る意志があれば祟られまへん。電車の前で外人がダブピー決めてても大丈夫です。付喪神が判断しますから、本当に撮り鉄行為にしか反応しませんよ」
「ならいいか。お金を落としてくれるお客さんとか、将来はお金を落としてくれる未来のお客さんに害がないのならいーよ」とあたしも合意しておきます。
皆さんの世界でもこの撮り鉄問題、社会的にも悪影響を及ぼしているとは思います。
で、私たちの世界では汎銀河人類族連邦加盟国は上位互換法条約を締結して加盟することになっています。
つまり、その国の法律以上に厳しい処置をする法律が連邦政府に存在した場合、連邦側の法律に準拠して物事が判断されます。
さっきジーナさんが指定をかけていたという軍事機密行動云々ですが、連邦宇宙軍・宙兵隊の軍事作戦行動時の使用器物人員を許可なく撮影すると罰せられる軍事行動保護法とかいう法律によって民間人の行動を抑制することができるそうです。
で、連邦宙兵隊の軍人が2名と、宙兵隊の承認を得た人物…ジョスリーヌさんですね…と、宙兵隊軍属資格のまりりとベラちゃんが乗って痴女皇国世界に関係する行動をするということで、みだりに撮影したものは処罰されるわネットに公開した写真は確実に消されるわとなるようです。もちろん、公開に加担した雑誌社やSNSサービス会社なども処分対象です。
ただ、回避方法はありまして、事前に宙兵隊なら宙兵隊に撮影許可を申し出ること。つまり従軍記者として申請するならば報道の自由や、ひいては知る権利を保証してもらえるそうです。
これは民間人でも同じことでして「米坂線の雪の中を行く瑞○を撮影したい。撮影目的はこれこれで写真コンテストに投稿する素材として使いたい」とカメラを構える予定位置を含めてあらかじめ言ってくれれば審査にかけて許可を連絡するそうです。
(嘉手納でも横田でも岩国でも三沢でもな、実戦行動で出撃する機材を撮影に来るマニアがおって問題になってな。外から見てたらそう簡単には離着陸する飛行機、訓練か実戦飛行で飛んでるんか分からんやん。で、普段から撮りに来てる人も多いのはうちらも知ってるし、宙兵隊や宇宙軍への理解を助ける宣伝にもなるのはわかるんで、あらかじめ審査の上でマンスリープレスパスを出すようにしてるんや。間違って撮った場合にも実戦使用機材でこれ撮られたらたらまずいよな言う場合は消すだけで済むし、本人には今回はすまん消したけど、またええのん撮ってなとお詫びメール送ってシャンシャンで済ませられるしな)
あーなるほど、そういう熱心な人もいるんですね。
(言うなればセルフ報道記者やな。滑走路外の撮影ポイントにおる連中には警務が定期巡回して職務質問入れた上で、そういうパス制度があるから無用なトラブルを避けて撮影を楽しんでもらえるように登録しといてねと案内しとるんやわ。宇宙軍も宙兵隊も民間人との親睦を深める必要性を理解してるから、昔のソ連や台湾やイタリアとかどっか民国のように鉄道車両や施設は一切撮影禁止とかまでは厳しくやってへんねん)
スケアクロウはどうなるんですか。
(現状では消してる。あれはモロにNB製造保有の機材やし流石に撮られるのはまずい。ただ、うちらにおるG型とか、NB保有のM型みたいな可変複葉機の特殊戦仕様モデルやなしに通常輸送機のC型を宙兵隊が導入する話もあるから、連邦世界でスケアクロウが普通に飛んでる状況になったら撮ってもろてもええよと言う話にいずれはなるやろうなぁ)
同じ撮影対象でも軍用機はもう少しフレンドリーなんですね。
(そもそも機材の側に近寄れるのは友好催事の時くらいやしな。現実には脚立を立てて撮影するとか色々な問題は起きてはいるんやけど、撮り鉄さんよりは人口が少ないし…雨風を避けるためにも重装備が必要やねん、あれ。んでもっと重要なことやけど、カメラに超望遠レンズ装着が必須になる。つまり撮り鉄さんするより更にお金がかかるんや。車がないと撮影スポットに行くのも難しいしな)
あー…大人の人じゃないと無理ですね…。
(鉄道写真でもそういう大人の関係を築いてくれたら、被写体運営団体との無用の軋轢を避けられるとは思うねんけどなぁ)
などという話をしつつも乗り込んで出発を待ちます。用意された踏み台を上がって車内に…。
「おー、これはなかなか頑張ってる感じですね。うちらのペントハウスも結構いいお部屋ですけど」ダリアが嬉しそうに言います。
ソファに座ってしばらくすると、先頭で汽笛が鳴り、列車はゆっくりと進み始めました。
さて、今回はどう言う揉め事が…。
…いや、普通の旅行で終わりますよね。きっとそうですよね!