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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど
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マリアたちの里帰り・3

「降りる直前に検札が来るとは…」


「この経費はたのきちに気付かれないようにしましょう…」


そうです、アンテルシテ…特急に乗り込んだ際に検札が来たら指定券料金を払おうと思っていた我々、ルルド駅下車間際に来た車掌さんにみごと、指定券を持っていないのを指摘されまして…。


で、ここはわたくしマリアヴェッラが「パルドン!スピアチェーンテ(ごめんなさい)!飛び乗りましたぁっ」と外国人観光客を装うべく矢面に立ちましたところ、ニコニコ笑いながら肩掛けカバンを掛けたおじさん車掌が人数分の指定料金…一人あたま2連邦ドルくらいを徴収してくれて事なきを得ました。


これ、本当なら無賃乗車扱いにされる可能性もあったそうです。


まぁ、この辺りはフレッチャルジェント(割と急ぐ特急)アンテルシティ(特に急がない特急)でも似たような制度なので、サクッとあたしの聖環からお支払いしておきましたけど。


「それはそうとルルド駅から泉までちょっと歩くんですよね…」


「駅を出て右に曲がってガール通りを道なりに…か。歩けば20分はかかりそうね」


「めんどいっ」待て姉!


「ふはははは、光学迷彩入れて転送するくらいはあたしの頭の中に浮かんでおるわ!」


ええ。本当ならポー川に向かって西に進み、フランスらしい光景を眺めながら橋を渡ってというのが道順のはず。


さらにはタクシーを呼んでも…駅前のタクシー乗り場にベンツやシトロエンのミニバンがタクシー標識を載せて待機していましたので、ある程度の人数の利用が日常的に見込めるのでしょう。


実際に平屋でこじんまりしたルルドの駅舎、あたしたちと同じ列車から降り立った、明らかに巡礼者や観光客とおぼしき方々で賑わっていましたし。


更には車椅子で来られる方も結構目立ちます。そうした方…ルルドの奇跡にすがりたい人が来られた際にもワゴン型やミニバン型のタクシーは活躍するはずです。


(正直あたしらの立場ならあれ、速攻で治してあげたくなるんだよなぁ)


(痴女皇国や聖院ならともかく、連邦世界のフランスでそれやると大騒ぎよ…まだ泉に来てる時にやる方が無難よ…)


(手を差し伸べたくなる気持ちはわかります。女官種の血を引く者はもちろん、人由来であってもあれを見て何の感慨も湧かない者はおらぬでしょう。とりあえず聖域に参りますよ)


(はい、二代目様…)あたしの中に背乗り状態の二代目様の指示に従おうとした時。


「あ、ちょい待ち」


母様がフェルマータ(ストップ)をかけます。手を挙げて誰かに合図してますね。


で、駆け寄ってくる警察っぽい制服姿の女性2名。


「あー、ドミニクさんわざわざごめんねー」


「いやいや閣下、とりあえず紹介させていただきますよ。CGOMのジョスリーヌ・メルラン大尉です」


「メルランです。ヨロシク、ジーナ閣下」


「いえいえこちらこそ」母が女性二人と挨拶して握手とかしてます。


「あーみんな、紹介しとくわ。宙兵隊嘉手納基地のドミニク・ボーレーヌさんと、ジャンダルメリ(フランス国家憲兵)のジョスリーヌ・メルランさん。間に合うなら言うことで案内役に来てくれたから」


(実際はドミニクさんは宙兵警務局情報統制部嘉手納分室長少佐、ジョスリーヌさんはDGSI(国内治安総局)…フランス国内が縄張りの情報機関の人や。ま、うちらの警備名目兼監視役やな)と母様がお二人の本当のお仕事を皆にこっそり教えています。


(それでR A I D(国家警察特別介入部隊)も来てんのかよ…あの後ろのバスの中、特別介入部隊のVIP警護班満載じゃん)


なるほど、駅前駐車場の一角にIVECO(イベコ)FORD(ドイツフォード)のエンブレムをつけた青いバスが2台と、同じく青いパトカーが2台ばかりいます。


で、普通の警察ならPOLICEなのに、バスにもパトカーにもGENDERMERIEって書かれてますね。


(イタリアのカラビニエリと同じ。警察の上位互換組織を軍が持ってて国内外の治安維持活動に対応してるんだよ。ま、ジョスリーヌさんは身分を擬装してるけどな)


(ドミニクさんもや。うちが階級や正確な所属言わんかったやろ。で、バス2台に分乗してるんはフランス国家憲兵隊配下の対テロ部隊RAIDのうち、要人警備担当やな)


「とりあえず足を用意しました。シトロエンやルノーのVIP用とは参りませんけど…」


と、ジョスリーヌさんが駐車場に停めてある民間用らしい小型バスめいた車を指し示します。


結構おっきな車ですね。


ルノー・(ふらんすの)マスター(は○えーす)のマイクロバス仕様か…いかにもフランスだよなぁ…監獄社にも似た製品があって、おキヌちゃんちの実家で旅館の送迎用に使ってるはずだぜ)


(高木のお婆様とかお祖父様のお墓参りで盆やお彼岸の時に瓜破霊園(うりわりれいえん)に行くと乗れるけど、地下鉄の出戸(でと)駅との間を結ぶ無料バスがこんな感じよね)


「いやいや、こんなん用意して頂かんでも」


「お気になさらないでください。皆様にはお土産品はともかく、聖水を汲むポリタンクは必要ないでしょうし」


で、バスの中に案内されます。


運転席にはジョスリーヌさん、助手席にはドミニクさんが座りましたね。


そしてあたしたちのバスの前後にその憲兵隊とかいう人たちのパトカーと小型バスがつき、青いパトランプを光らせながら走り始めます。


といってもそこどけめいた緊急走行ではなく、通りを行く車に混ざって普通に走ります。


「びみょーにいたりあとちがう」それなりに雰囲気の良い田舎町といった通りの眺めを見ておりますと。


「そりゃフランスだしよ。あと、通るかどうかわかんないけどな、行く道にさっき少し話題に出たポリタンクや十字架や聖母像なんかのお土産を売る店が集まってる場所があるはずなんだよ」


「道が上下一車線の割に賑わっていますね」


「人口はそんなに多くないけど聖母降臨の地だろ。修道院やら教会施設が多いし、病院も割と大きいのが建ってるよ。ほら、あれだろ」なるほど、ロンポワン(ロテトーリア)、というのですか…日本の方にはあまり馴染みのないランドアバウトとかロータリーとかいう形の交差点すぐ横の高台に病院がありますね。


「恐らく、ルルドの泉に行く時に見ると思うけどな…車椅子どころか重病患者用の電動ストレッチャーやベッドで来てる人もいるはずだ。もはやこの泉が最後の望みってやつだよ」


「あたしたちなら…治せますよね…」


「ただ、うかつに治すなよ。ルルドじゃなくてあたしらに殺到する。そしてあたしらが治療する場合の条件があるだろ。出家するか、さもなきゃあたしたちに協力してくれるかだ」


「祖国の事を鑑みますと、治して頂きたいのはやまやまなのですが…」と、運転席横の添乗員席に座られた、まだ若い姿のドミニクさんが深刻そうな声を出されます。見た目はジョスリーヌさんと変わらないのに少佐というのも…。


「ま、奇跡を装えばいいでしょう。生まれついての免疫不全やら幼少時の受傷なんかで寝たきり生活を余儀なくされている人がいまだにいるのはあたしも承知していますよ」


「高度機能障害治療受けられたらええねんけどな。サイボーグ化は金かかるし、誰でも受けられる治療ちゃうねん。他ならぬあたしが高度機能障害者証明持ちやったからなぁ」


「あれ実質軍人以外無理だろ…現時点で痴女種化より面倒なんじゃねぇ?」


「高機能化したら、場所によっては人間より強なるからな」


「しかし…痴女種化しますと、なまじのサイボーグより強化されてしまいますわよね。実際に私達二人、皆様のような状態を経験しますと、これは迂闊に世に広められないというのがよくわかりますわ。男性器官(ちんちん)機能も普段は制限されていますし」


「あのー、かーさん、まさかこのお二人って…」と、助手席のドミニクさんの言葉に驚愕します。


(やっと気付いたんか…ほれほれ、イタリア海軍のラウラ・ロレンツォさんおったやろ。あの人同様に連邦政府職員向け転換プログラム試験志願者やっ)


そうです。このお二方、痴女種だったみたいで…。


(書類は回したぞー。まぁ、聖院で初期研修したからベラ子は直接に二人を見てないかも知れねぇな…)


Dominique Bollène ドミニク・ボレーヌ Single Suction(Limited thousand)一人卒(限定千人卒) Pure female Visual(Male Functional restriction). 女性外観(痴女機能制限者)White Rosy knights, Imperial of Temptress. 白薔薇騎士団


Jocelyne Merlin ジョスリーヌ・メラン Single Suction(Limited thousand)一人卒(限定千人卒) Pure female Visual(Male Functional restriction). 女性外観(痴女機能制限者)White Rosy knights, Imperial of Temptress. 白薔薇騎士団


(あれ? お二人とも白薔薇扱い…)


(雅美さん絡みの紫薔薇問題があるし、お二人ともとりあえず痴女種になってもらって初期研修を済ませただけの状態なんだよ。だから聖院なり痴女皇国なりに来れば駆け出し扱いで、敢えてマリー所管のままで、月に何回かペースで純子さんのとこに来てもらってケイシーちゃんに研修させてるんだ。スパイ屋さんの痴女種ならケイシーちゃんがはるかに先輩だからなっ)


(必要があればあたしか黒マリか黒かーさんに連絡したら、即千人卒状態になれるけどね)


(マリーならフランス語ネイティブで話せるし、ちょうどいいと思ってさ)


(しかしですね、宙兵隊のドミニクさんはまだしもフランス国家の情報部門のジョスリーヌさんが痴女化して大丈夫なのでしょうか。スパイな人が痴女種になると利点もありますが弊害もあるんじゃないでしょうか)


(ああ、マリアヴェッラ陛下…問題ありませんわ。実は遅まきながら、我がフランスも痴女皇国とのお付き合いを独自に進める方向で行こうという方向で二大有力政党も合意しまして。目下のところは宙兵隊のゴルディーニ閣下から強く強く強く独自交渉を焦るべからずという通達を出されておりますが…)


(ジョスリーヌの言う通りなんですよ。ジーナ終生少将閣下はご存知かと思われますが、うちの国…他国を出し抜くとか裏で手を回すとか袖の下を握らせるような搦め手(からめて)外交、大好きでしょう?)


(うん。ご飯まずい国の過去の失敗の陰に隠れてるし、日本やったらあまり目立てへんけど、政府関係者は割とフランスを警戒はするな)


(たださぁ…あなた方にあまり言いたくないんだけど、自国政府…信用しすぎない方がいいぞ…)


(あーそれ、うちも言うた。ドミニクさんに至ってはゴルディーニのおっさんの悪戦苦闘を知ってるだけに尚更な、尚更な…)


(実はそれもある程度対策済みです。ジョスリーヌ少尉)


(ええ。痴女種化していただいたお陰で、上司や部下の職掌も含めて色々と部内局内ではかどる事もありまして)と、記憶を見せて頂きます。


なんですか。


つまり、色仕掛け…。


(ええ。Coq(珍珍)が付きますと女性の部下はもちろん、上司の懐柔も捗りますので。おまけに情事の証拠を握れば色々とですね、色々と)


(な、なんか雅美さんのフランス版のような予感が…)


(な!なんであたしが引き合いにぃっ!)


(うちもそない思う。このバスにうちらしかおらんし、心話やから録音盗聴の類は心配いらんから言える話やけど、ドミニクさんも痴女種である事をフル活用しとるのは知っとるぞ…)


で、ドミニクさんの記憶も。


ああ、なるほど…取り調べはもちろん、諜報活動に関しても読心や記憶参照だけでなくドレインや…その…場合によっては男性相手に珍珍を使用…。


(ジョスリーヌにもこれは教えておりますわよ。普通はドレインだけで事足りますけど、特殊な性癖をお持ちの場合や同性愛者はもちろん、自分の立場をわきまえさせるために、敢えて豚のような悲鳴を上げさせた方が良い場合がございますので)


ひええええ、あたし…その発想はなかった…ありませんでした…少なくとも逆強姦する発想は…。


(うち、クリスに一回それやろか言うた事あんねん。ただなぁ…開発せんとうちのん、入れへんやろ…)


あのー、かーさま。何を暴露しとるのですか…。


(これだからおばはんわぁっ。父様に後ろも使わせてるのは以前話が出ていたけどなぁっ)


うむ。しかし良い事を聞きました。今度、叔父が何か逆らった場合は試してみましょう。


(慎重にやった方がええぞ。美男公はまだしもな、兄貴の串刺しみたいにそれされてトラウマになってるケースもあるからな?)


(あーそうか、鯖挟国の人質になった時に以下略な経験してるよな、あの兄弟…)


あの根性なし(美男公)はロシア中央部で当分苦労させますっ)


(あのさー、ベラ子。お前まさか、美男公の後ろをやおいったと言うかほもった事は…)


(ええ。イタリア夜の爛れ会に連れて行った時などに何度か)


(まさかとは思うが、奴が成功の可能性が低い謀反に走った理由て…ベラ子お前、そん時に無茶してへんやろな!)


(ぴーたーのーすにしときましたけど)


(あのなぁ…24cmでも規格外なんやぞ…ほんまは…)


(ちょっと美男公に聞いてみよう。おーい、越冬準備で忙しいところすまん。やぶからぼうに聞くけど、あんたベラ子に後ろ掘られた事ある? …ああ、でかいのはまだしも硬いからキツかったと…できればお断りしたかったと…一応念のために聞いとくけど、それ原因で謀反考えたわけじゃないよな…え? それもあるかも知れない…? ああ。あいつはイタリア料理禁止1ヶ月の刑だな。いくらあんたがほもでも、やおい穴を提供するのにも同意は必要だとあたしも思う。あと、これを知ったらあんたに同情の目を向ける奴は決して少なくないというのは保証しておこう。うん、自分の力で人生を切り開くのは素晴らしいと思うけど、今のあんたの話を聞いてだな、少なくともあたしはもしどうしても困ったら快く泣きついて来いという思いに満ち満ちたよ。とりあえずあたしのアドバイス通り、毛皮商人として身を立ててみるんだな? うん、コートと帽子作ったら裸の上に羽織って画像くれ。あんたのその姿見たら発狂するやつ、うちに多いから。んじゃねー…、おい。みんな。ベラ子に課そうと思う懲罰について、意見があるやついるか)


(ざんねんながら) (とうぜん)


(これ…マリアヴェッラ陛下…機会を見て謝っておいた方がいいと思いますわよ…)


(あたしも正直ベラちゃんが悪いと思うの…)


(うん。美男公を知ってるとあたしもね、あの人がかわいそうに思えるよ…)


(懲罰の意味で復縁を考えてもいいと思いますわっ)


(みんなひどい!ちょっと試したかっただけじゃない!)


(一回だけならまだしも何度かやったんだろ!)


(ところてんにはなりましたよ)


(なったら良え(ええ)言うもんちゃうわ!クリスに以下略の時も事前準備いるねんからなっ…ところてん状況作るの…)


(かーさん。ベラ子と美男公の経緯を考えろ。同意なく開発するなよ…)


(そーよ…白かーさんにも忠告しとこう。美男公謀反の真の理由はこれだから絶対無茶したらダメよって…)


(ああ、少なくともベラ子は美男公をアホボケカス呼ばわりはできない。たった今あたしはそれを悟った…)


(すみません田野瀬です。とんでもない話が流れてきましたけど…ええ。あの時に美男公をヘタレと思ったあたしも自分を反省したいです。あの方は忍耐強かったのですね…ベラちゃん。今後あたしとも後ろやめてね。あんたのマジ痛いからね…)


(たのきちも毒牙にかけていたのか…)


(ちょっと懲罰内容変更。ベラ子は1ヶ月フランス料理かドイツ料理で通す事。選ばせるのはあたしの慈悲だ)


(せめて日本料理にしてください!)


(うるせぇっアメリカ風ピザかナポスパ食わせるぞ!ワインもイタリア産は禁止だからな!)


(マリ公。明太子スパの刑もありかもわからんぞ)


うぅ、とんだ藪蛇です。痛いなら痛いってその時に言ってよ!


(…そりゃおめぇ、自分の立場考えろ…たのきちですらな、お前に迫られたら断りづらいって暗に言ってるも同じだろうがよ…)


(あとなベラ子。何を開発してるとか言わへんけどな、開発された奴とか開発途上の奴はチャレンジャーやねん…ただ、美男公の話を聞くだに、一度の挑戦で諦めようとしたみたいやけど、そこで相手があきらめへん上に断り辛い場合はどないする…実際に巨珍が理由で離婚に至った事例はあるんや…)


(母様と同じものを装備しているではないですか!)


(あのな…あたしは男を積極的に掘る趣味はないぞ…プラウファーネさんときも、あの人から相談されたからやってただけやぞ…)


(とりあえずベラちゃん、折りを見て美男公に冬服か何か差し入れしとく方がいいわよ? )


(鯖挟国はまぁ、美男公の謀叛を裏で後押ししたからギルティとして…折を見て処分緩和しておくか…)


ああ、こういう事に対する救いはないんでしょうか…。


(言っときますけどあたしも良かれと思ってやったんですよ…最初は向こうも乗り気だったし…しくしく)


(相手が嫌がった時点でやめておいた方が良い話ですわね…陛下、お気持ちはわかりますがここは美男公を立てて差し上げましょう。彼もとりあえず自分の力で身を立てられるか試したいようですから、上手くすれば協力者として再活用の道も開けるかと進言申し上げます)


(はい、マリーの言う通りですね…フランス料理で我慢しておきます…)


(まぁ、ベラちゃんのご飯は毎回食べんでもええやつやろ? シェフの技量維持や試作目的でしてるアレに出席してるだけやん)


(ああ、あれ女官のマナー教育も兼ねてるからな…フランス料理かイタリア料理が無難と言えば無難なんだよな)


(あのコックさん聖院にもよこしてよっ)


あ、ちょっと注釈をば。


以前、パークスさん他の英国外交官の皆様を接待するシーンが出てきた貴賓食堂ですが、実は日曜日以外はほぼ毎日稼働しています。


賓客を歓待する宴席がない日について、青薔薇シフトに入った女官の給仕教育や千人卒以上のマナー教育も兼ねてコース料理を出しているんですよ。


で、あたしが出席する日はあらかじめ厨房に連絡していますので、女官や罪人の調理担当者がイタリア料理を出してくださいます。


姉が言う罰とは、この料理をフランスやドイツのものにするぞと言う事なんですよ。


特に婚活系の出家者や、はたまた紫薔薇で潜入任務に入る担当者には好評なこのご馳走の日、月に給仕側と食べる側それぞれ3回くらいは当番で回って来ます。


(ハズレ日に当たると泣くやつはいるがな…試作品を出して感想を聞くとか、あくまでもみんなの教育実習目的で実施している、いわば業務なんだって理解してくれよ…)


(給仕側に入った時のまかないご飯も豪勢ですから、人気ではありますわね。回数を増やして欲しいという声もありますが)


「しかしここ、街の規模の割に賑わってますねぇ」雅美さんが感想を述べます。


一方通行の道の両脇に、土産物屋だけでなく、様々なお店が並んでいます。つい立ち寄りたくなるのは痴女種と言えど女の性です、サガ。


(興味のある人はルルド・オキシタニ グロット通りで街中ビューが見られる地図を見るといいわよ)などと聖院の姉も申しておりますので。


で、道の両脇のお土産物屋さんの軒先に、ちょこちょこ話題に出ているポリタンク、確かに積まれていますね。


(これで聖水を汲んで帰ってからシャワーや風呂の時に使う訳よ。あとあの水、確かかなりきつい硬水で飲用に適さないはずだからな)


そしてバスはポー川にかかる橋を渡り、巡礼客で賑わう道のバス停らしい場所で停まります。


(モンセニョール・ローランス広場。泉に一番近い聖域入り口ね)


で、バス内でちょっとした作業を。


速攻で姉があたしの体の複製を取りました。


はい。二代目様をここで分離します。


スモークガラスのバスなら中の様子、外からはほとんど伺えないでしょうし。


そして白い修道服姿の二代目様を先頭に、バスから降り立ちます。


憲兵隊の方が警備の編成を整えて、車両を待機位置に回す人と我々の警護を行う集団に別れて…ジョスリーヌさんかドミニクさんが連絡を取ってくれたのでしょう。


出迎えらしき聖職者の方の案内を受けて聖なる泉の湧く洞窟に案内されます。


並んでおられる方々…今回もすみません…。


ええ、この泉に繋がる道…かなりの数の巡礼の方が列を作っておられるのですよ…。


(我々はあの列に並ぶ必要はありません。洞窟前の広場で結構です)と、二代目様が申されます。


(あの列が泉の水を汲む並びですね)ドミニクさんの解説によると、ポー川すぐ側の洞窟めいた穴から湧く水が、まさに聖女…無学にも関わらず、原罪のない存在と自らを語った女性が発見した泉だそうです。


(観光名所でもありますし、あの蝋燭立てや岩壁の穴に掘られた聖母像を写真で見た方も多いと思いますよ)


(では)


瞬間、我々は光に包まれました。


「レベル3スティックス・スペース…よね、黒マリ…」


「ああ、時間軸と切り離されたな。空間軸は同調しているけど…」


(よく来た、聖母種の子ら。ベルナルディーゼ、大儀であった)あたしたちの前に何かが現れます。ただ…人であって人でない、そして色や形すら定まっていないような印象です。


(形を取った方が良いかや? マリアヴェッラ)


(ではラケシス姉様、そのように)


(これでどうじゃ)今度ははっきりと姿が分かりました。


(マリアリーゼ、話をした事はあるが…顔を合わせるのは初めてじゃな。子らに我らを教えてたもれ)はさみらしいものを持った薄着の女性です。ギリシャ神話の神様のような姿ですね。


(今話された、はさみを持ってるのがアトローポスさん。アナンケーの紡錘を回す役で、ついでに人の寿命や運命を確定させる役目。本当の姿はこれじゃないけど、みんなに分かりやすい姿を取ってもらってるから)


え。


(ベラ子、ローマ神話のパルカって女神三姉妹と全く同じ存在だよ。ついでに言っておくと、北欧神族種のノルニル三姉妹とも、な)


(北欧神族種は滅亡させたのでは…)


(ついでに言うとギリシャ神種族も滅亡寸前だ。だが、この御三方…長女クロトさんが糸巻き持ってる人。次女のアトローポスさんがはさみの人で、三女のラケシスさんが(くじ)と定規持ってる人。まっさみさーん。あんた来てもらったのは他でもないんだ。アナンケーの紡錘で多分、ピンとくるかも知んないけどさ。オルフェウス教やエレシスの秘儀ってわかるっかな)


(マリアちゃん。お許しを頂けるならさ、初代様来て貰った方がよくない?恐らくシュメールやギョベクリ・テペと同じで初代様も噛んでそうな話じゃないかしら…)


(たなかまさみとやら。来させずともよい。お前は既に新世代型神族種原型原母である。エレシュキガルが既にお前を借りているしな)糸巻きの人が申されます。


(え…じゃ、お腹の中の子供って…)


(既に成体として活動しておるぞ。だが全ては産まれてからじゃ。そしてナンムにもイシュタルの再来がおる。全く…正直を言えば、お前とナンムそれぞれが孕んだ子、我ら状況設定種には不要である。むしろ邪魔とすら言い切ってもよい。よいのだが…)今度ははさみの人が。


(たなかまさみ。おまえは正直、既に死んでいなくてはならない身である。自覚はあるか)定規の人が尋ねます。


(いえ…)きょとんとした顔で雅美さんが首を振っています。


(マリアリーゼ。わかるか。これがお前たちの干渉能力である。たなかまさみとひろみは元来、家族4人で旅行の際にわざわいにまきこまれてしぬ運命であった)


(おまえがかんよした事でこのものたちにさだめたないようは大幅に狂ったのだ)


(われわれは当然であるがこうぎした)


(しかるにおまえの叔父は容認したのである)


(であるが、われらが前にたなかまさみが現れたため、さだめにまつろわる手直しが行われよう)


(たなかまさみ。おまえとナンムに告げる。12月31日の夜はこのほしより離れよ)


(おまえたちがこどもを授かりたくばわれらのさだめより離れよ)


(こどもにそだつことを祈るならば地球より離れよ)


(マリアリーゼ。お前なら出来よう。よいな)


3人のうちどなたが言われているのか分かりません。


ついでに発音とかも少し、日本語であって日本語でないような…。


(0時ジャストに出産。それでいいですか)うちの姉が静かに申します。


(うむ。同日夕刻、お前たちの墓場に二人をよこせ。それでよかろう。われらの定めは容易くははずれぬ。定めたわれらでもな)


(ベラ子…前に言ったことあるの覚えてるか…これが人、ひいては神種族の運命ですらプリセットする役目の存在、選定役の御三方だよ…)

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