マリアたちの里帰り・1
皆様こんにちわ。
フランスからお送りする今回のお話、田中雅美がご案内させて頂きます。
えーとね。フランスって、英国の事をブリカスとか絶対に言えないと思うんです。
…何故言えないか、今回の旅行で嫌というほど思い知りましたから。
それと新婚旅行とか観光旅行でフランスって言うのが友人知人にもしいたら、少し冷静に考えさせようと思います!思いますから!
「あのさぁ、理恵さん」
「何よ」
「フランスでうまいもん食えるって聞いたのに、何なのこの立ち食い食堂はっ」カップラーメンのフォークを振り回しながら大人モードのマリアンヌちゃんが文句を言っています。…信じられない方、本当に本当にここ…フランスの新幹線とか言われているTGVという列車の軽食堂車でスープとかヌードルを頼むとカップラーメンが出て来ますよ。
「文句はSNCFとRENFEに言って!あと一等旅費を拒否された件でたのきちと財務局長に!」
「しかもバルセロナ行きに乗りたいからとわざわざリヨン回りルート取るかよ…りええ…」
「あたくしも随分と現代フランスについて勉強いたしましたが、これは流石にパリのリヨン駅からでなく、モンパルナス駅から出る方のTGVでトゥールーズを回った方が良かったのでは?」
「しかもドイツ製車両回避したいからと朝イチのバルセロナ行きを選んだのは良しとして、こないだも遭遇したようなフランス製二階建て、とどめに一階席って何かの罰ゲームですかっ。しかも二等でグループ予約したから向かい合わせ席で狭いし、座席と座席の間のテーブル死ぬほど邪魔だしっ」札幌並みの緯度にあるパリのオテルから、朝まだ暗い午前6時にチェックアウトさせられた恨みか、ベラちゃんが声を荒げます。
ええ、冬のパリの日の出がおっそいのは有名ですが、11月の時点で既に午前7時でも日は出てません…。
「フレッチャロッサでも二等車は似たようなもんよ!ベラちゃんは我慢しなさいっ」
「かーさん…やっぱりこれスケアクロウ出した方が良かったと思うぜ…あれに客席パレット付けた方がまだ快適だろ…」
「フランス上空の飛行申請めんどくさいんやぞ…文句はゴルディーニのおっさんにゆえっ」
えー。孕まされた田中雅美です。
広報局長こそ解任されましたが、広報部付の立場で同行しておりますこの旅行、高齢者向けツアー会社ならば「TGVファーストクラスで行く聖母降臨聖地ルルド巡礼の旅」などという謳い文句で売り出した事でしょう。
しかし、手配師役に指名された室見理恵さんがやらかしました。
まずは以前、室見さんがベラちゃんやマリーに伴われて、聖院二代目金衣様の指定でフランスに行かされた事が発端でした。
その際、本人たちに言わせればマリーの転送ミスらしいのですが、目的地と全く関係のないマリーの生家があった辺りに寄り道した上に、TGV1等車を食事付き直前料金で利用してパリまで帰るわ、あまつさえ鴨とシャンパンを堪能して帰って来たのをたのきちこと田野瀬麻里子さんに自慢したのが運の尽き。
そうです。
痴女皇国財務局幹部経験者にして、日本国財務省職員時代は税務署でしごかれていたマルサの女たるたのきち、経費無駄遣いっぽい話に飛びつかない訳がありません。
「りええ…なんでTGV通ってないヌヴェールを往復する経路のはずなのにTGV1等乗ってんのよ…しかもパリと逆方向のナンシーなんか寄る必要あるわけ? ベラちゃんもベラちゃんよ!鴨食べるならあたしも誘いなさ…ゲホゲホっ」と厳しい指摘を入れられた結果、今回はTGV2等車利用を申し渡されています。
(本当は青と赤の詰め込み仕様爆安TGVを指定されたんだけど、モンペリエに直行で行く便がないし、直前料金で買うと普通のTGVと変わらないから!と泣いて拒否しました…本当ならスペイン所属の平屋車に乗れたら二等でも多少マシだったんですがぁっ)
で、何とか地図を見て頂くなりしてパリとモンペリエとトゥールーズとルルドの位置関係を把握願いたいのですが、実はパリからルルドに行くにはオルリー空港かいっそド・ゴール空港に出て飛行機に乗るのが本当は一番手早いのです、一般のキリスト教巡礼旅行者ならば。
で、次がルルド行きの団体臨時列車に乗るか、はたまたマリーが言う通り、TGV大西洋線とかアトランティック線とか言う特急電車でボルドー経由してトゥールーズへ。そこから地域急行線の快速に乗るか、はたまた巡礼が盛んな時期にはパリから直通する臨時TGVを選べばあっさりルルドに着けます。
ですが…理恵ちゃーん…。
ええ、我々が今乗っているのは何とスペインのバルセロナ行き国際TGVです。さっきマリーがモンパルナス駅とか言ってましたが、実はパリの始発駅はいくつもあります。
例えば、通路な国の名物のチョコレートを食べに行くとか宝石を買い付けたり、はたまたもう少し北の海抜が低い国に行って大麻や売春を楽しむとか、あるいはドーバー海峡を穴で越えて食事がおいしくない国にわざわざ行くためなら北駅。
そのごはんがおいしくない国以上に痴女皇国世界でも連邦世界でもフランスとは犬猿の仲のお芋な国に行くには北駅または東駅。
フランス第二の都市リヨンやアルプスのスキーリゾートや果ては山を越えてイタリアに行くとかマルセイユやコートダジュール、ニースやモナコ方面を目指す場合はリヨン駅と、行きたい場所に行く列車がどの駅から出るか把握する必要があります。
そして我々が目指すルルド。ここに行くには先ほど申しました通り、モンパルナス駅に行くのが本当は正解のはずです。
しかし理恵ちゃんが予約したのはバルセロナ行きです。しかも二十両編成で後ろ十両のマルセイユ行きにあわや間違えて乗りかけるおまけまで付きました…。
これもマリーがドア横に出た液晶表示にMarseilleの文字を発見して騒がなければ、高い確率で我々はモンペリエではなくマルセイユに連れて行かれて途方に暮れた事でしょう。
あ、転送すればいいか。
で、TGVは全車指定席だそうです。
ですが我々は二階建て車両の一階席という穴蔵な場所に加えて日本の新幹線より明らかに狭い座席を見るなり、バー車という軽食堂と売店が一緒くたになった車両に逃げ出しました。
さっきマリアンヌちゃんがカップ麺に文句を言っていましたが、このバー車で売っているものは本格的な食事とまでは言いませんがそれなりの料理や飲み物、お菓子にパンです。そして売店の販売員さん、お湯をカップ麺に入れてくれたりレンジでチンする程度の事はしてくれます。
そして基本的に品揃えは日本のコンビニまたはキオスクと大して変わりません。
更には日本における消費税に該当する付加価値税の問題がありまして、このバー車で飲み食べすると10%、自席に持ち帰ると6%程度の消費税を取られるせいもありますが割高な印象です。
ベラちゃんに言わせると、きちんとしたコースメニューの食事を提供する食堂車が繋がれたイタリアの高速列車の方がマシだそうですが、そっちはもっと料金取られるでしょうに…。
このバー車でもランチキットめいた箱詰めの食事セットですとか、あるいは1等席で食事込みの予約をすると座席にワイン含めて配達される飛行機の機内食めいたものが提供されますが、日本の駅弁が懐かしいところです。
そして発射、いえ射精作業じゃなくて発車直後の営業開始から陣取ってる我々以外にも、後から後からお客さんが結構来て混んでるんですよ。
(理由わかりましたわ。リヨン駅で早朝から開いている食堂や売店の類が少ない上に、日本で言う24時間営業のコンビニめいたものが充実していないのです。ですから旅行者は必然的にこの軽食堂車を頼らざるを得ないのですわね…)マリーがため息をつきながら心話をよこします。
ええ、正直あたしも1660とかいうビールの缶と、サービスで一緒についてきた合成素材カップを前にして我慢が出来ない状態です。
「マリアちゃん…リヨンまで我慢しようかと思ったけど…あたしのおこづかいで何とかするから、一等車にしようよ。…TGVの一等車が一等の名に値するかは別にしても、せめてもうちょっと快適に過ごそう!」と提案します。
10名で1人1万円の追加料金としても10万円なら何とかなるっ。
というかこういう時の為に、いけないバイトに励んでまで裏金作りに精を出していたのです。
(あたしが甘々な処分とも言えない処分を雅美さんに下していた理由がまさにこれなんだよな…現地で余計な出費がある際に手持ち資金を持ってもらうとか、あるいは現地の事前情報収集をきちんとしてくれてるかとかさぁ)と、さりげなくあたしを擁護するマリアちゃん。
いや、実際に今回の抜き打ちめいた処分に対して、あたしが恨み言多々あれどあまり文句を言っていないのは、マリアちゃんが庇いに庇ってくれていたからと聞いているためです。
そして今の一言、理恵ちゃんに対するさりげない苦言ですね…。
だからりええは雅美さんの処分や処遇についてこれ以上言うなら、今みたいな事が起きないようちゃんとやれよと暗に言いたい訳です、彼女。
確かにあたしならまず、ジーナちゃんにスケアクロウ動かせないかとか、マリアちゃんにテンプレス2世が使えないかをまず打診します。
それがダメならジーナちゃんとベラちゃんに頼んでイタリア空軍か宙兵隊の輸送機手配。
百歩譲ってパリの夜を楽しみたいならば翌朝のオルリーかドゴール空港発の便でルルドの最寄り空港…巡礼団体用に大型機を受け入れられるそうです…に直行していましたね。
TGVなんて帰りにでも乗ればよろしい。または乗りたい人だけ別行動って感じで。
ええ、この辺りがマリアちゃんの怖いところで、かつ、あたしが何だかんだでマリアちゃんに頭が上がらない理由でもあります。
あたしの顔を立てると同時に、わざと理恵ちゃんにまだまだ至らないところがある点を悟らせようとしていますね…。
で、ここで今回のルルド行きの面子。
痴女宮ジーナ
痴女宮マリアリーゼ
聖院マリアリーゼ
高木マリアヴェッラ
高木マリアンヌ
マリアンヌ・ド・ロレーヌ
高木スザンヌ
室見理恵
田中雅美
さすがに聖院の方のマリアンヌちゃんとスザンヌちゃんはまだ産まれてあまり間がないしということで除外。
そしてこの中で身長が高めで文句を言うか、口にこそ出さないものの嫌そうにしてるのがベラちゃんとジーナちゃんの180cm超え親子コンビ。
ええ、あたしの提案に乗るどころかですね。
「雅美さん…とりあえずあたしが出しておきます。後で経費承認に掛け合う面倒はともかく、あの座席は辛抱なりません。確かにそれなりにお洒落ではありますけど、あの天井の圧迫感は許せませんっ。いいですよね、ねーさん!」とベラちゃんが啖呵を切ります。
という事でマリーと理恵ちゃんが車掌への使者となって列車内を捜索に行ったところ、バー車の片隅に常駐しているのが主な仕事の車掌さんが対応してくれまして、その場で10人分のまとまった席を確保してくださいました。
2人がけ×5席が二階に見つかったとの事で予約変更を入れてもらい、ベラちゃんのメディアウォッチモードの聖環で支払いを済ませて…二階にあるバー車からそのまま階段を使わずに移動して該当車両に来ますと。
「ねぇ理恵さん。この座席は回せませんの?」とスザンヌちゃんが疑惑の目を向けます。
そうです、TGVというかヨーロッパの列車あるある、進行方向と逆向きに座らされる恐怖の配置です。
そりゃ、2等より割高な1等席としてもまるっと五列分空いてもいますよ…。
そして空いてる理由。
この座席、新幹線やリニアのように回転しません。
ですので事情を知っていてあらかじめネット予約していると思しき方が、片端から進行方向を向いて座る区画の座席を占めておられます。
一方、我々が呆然としている逆向き側の区画はガラガラに近いです。
(つまりこのTGVだとリヨンはペラーシュに寄らずにパールデュー駅経由ですね…我々はあと二時間ほど我慢してモンペリエで降りれば済みますが、仮に終点のバルセロナまで乗るとすると延々六時間近く進行方向と逆向き座りです)
(ああ、スザンヌちゃん…イタリアでも大体これよ。1両にいくつかあるハズレ席。ただ、フレッチャロッサで例えばローマからミラノに行く場合、途中のフィレンツェでサンタマリア・ノヴェッラ駅に寄る便だとそこで前後ろが変わるからフィレンツェからミラノまでは前向きだったりするの)と、イタリアで似たようなものに乗った経験何度かのベラちゃんが解説してくれます。
(これを避けたいがために車両スペイン持ちのAVEにしたかったんだけど…パリ行きだとドイツ製の電車が来るのよ…あれだと椅子は回るんだけどねぇ…えーと、ドイツの電車乗りたい人)
(理恵さん。死にたいのですか)
マリーが薩意を込めた目で理恵ちゃんを睨みます。
(ナンシーからの時は仕方なく我慢しましたが、選べる余裕がある時にわざわざ選択する理由は全くありませんわよっ)
(うちも出来たら避けて欲しい。ドイツ言うだけで昔のムカつく上司のおっさんの顔がな、顔がな)
(あたしもこないだので懲りました。あのレザーシート、見た目はいいのですが長時間乗ると確実に疲れます。いくら痴女種でもあの椅子はあり得ません。おまけにあの食堂車はイタリア系のあたしに喧嘩を売るような…まださっきのバー車の方が我慢できます!)
ええ、デザイナーの手が入ったこの座席、前後の幅は少々苦しいですが、確かにそれなりに追加料金を取るだけのものです。
(ベラちゃん…AVEは車内サービス、スペイン持ちだからドイツ純正ICEより遥かにマシよ…ただし注意。TGVだけでなく、ヨーロッパの電車や列車、一部の夜行用とかベラちゃんがよく言うイタリアの高速列車の特等席とかの例外以外、リクライニングシートと言えどガバっと倒れません。さらにこの列車の一等席と二等席が正にそうですが、座布団の部分が前に出るのにつられて背もたれが少し傾く程度しか動かないのです。ただ、TGVの一等はデフォルトで背もたれがかなり倒れてますよ)などと理恵ちゃん解説。
確かに電動スイッチを入れてもあまり倒れた気がしません。
それにこの座席、向かい合わせになってる区画でこの機能を使うと確実に座った人同士の間で膝が喧嘩を始めますね。
少なくともジーナちゃんとベラちゃんが向かい合わせに座ってリクライニング機能を使うと、確実にお互いの膝同士が相手の領域に入り込みます。
互いの珍珍をぐりぐりするには幅が広めですが、まぁそのような事をするのは滅多に。
(助平tube辺りで空いているのを良い事に以下略)
(確かに見ますわね)
あんたら幹部用聖環やパソコン、ネットに繋がるのをよい事に何してんのですか…。
これに反応した人もあたしの事、あまり悪し様に言えませんよ?
「さすがにTGV、それもパリ〜リヨンが激混み当たり前の南東線の一等で助平行為やるのはそうそういないと思いますがっ」と、あたしの隣の通路側にいる理恵ちゃんが反論します。
「その割にはこれの一等、空いてるわね。二等は混んでたけど」
「あー多分、後ろのマルセイユ行きから優先して埋めてますね。さすがにパリからバルセロナまで乗り通す人はあまりいないと思いますし、確かこれ、リヨンかバランスで後ろ切り離しちゃうはずなんで、余計にマルセイユ方面に行く人は乗らないはずです」
「あーはいはい…パリに人間の流れが集まるアレか…」
そうです。
この国、革命と余の辞書に云々の人以降は中央集権型の官僚社会化しておりまして、それ以前の時代に輪をかけて人とモノの流れがパリとそれ以外の方向に集中しているんですよ。
「朝、パリを出てバー車が開いたあたりでLGVに入って行った時の景色を思い出して頂きたいのですが、パリからものの10分であの畑畑畑でしょ」聖環で地図を出すと、我々の乗る列車、今はディジョン近辺で進路を南に変えてそろそろリヨン近辺に到達するはずですが、車窓はパリを出てしばらくしてからとほぼ変わり映えしない畑畑畑です。
「確かに今も前のモニター見ても左右見ても畑畑畑よね」
えっとですね。
他国に売るくらいに農作物が取れるこの国、その広大な面積の相当が可耕地なのを最大限に活用しております。
本土面積が確か日本の1.7倍な上に人口密度が1/3とあって、先進国と呼ばれていた国としては異様なほど食料自給率、高いんですよね。
その畑畑畑な国土に敷かれた線路ですが、要所要所に建てられた防音壁のせいもあってか、二階建てといえど車窓の眺めはあまりよろしくありません。
「LGV南東線は特に、フランスで最初に敷かれた高速線でして…地形的にも丘陵地ばかりでしょ。ですから穴を掘るの避けてるのはもちろん、丘を越えるくらいだと高架を立てる建設費をケチって地面に線路敷いてる区間が多いんです。どこだったかな、第一次世界大戦の時の塹壕が残ってる場所に線路敷いて、TGVが通過した際にその塹壕の穴が崩れて脱線したのって」
は?
…そういうの、普通はちゃんと調べてから線路敷かないの?
「雅美さん。ユーラシア大陸のクソ硬い地面にあぐらをかいて中途半端な線路敷いても高速運転ができる国なのですっ。マイ父社や親会社の人間が呆れる話に事欠きませんよ、TGV…」
「はぁ。パリの近くだと通勤電車が走る線路を走るのは聞いたしさっき見たばかりだけど」
「それも妙にケチくさい性分のこの国らしい話なのです。でぇ、在来線でさえ、かなり重い客車走らせても地面が硬いから機関車の力さえあれば時速200km出せたんですよ」理恵ちゃんがアキテーヌとかキャピトールとかミストラルとか言う列車の外観と車内を見せてくれます。
「1950年代から70年代にかけてフランス国内を走っていた全車一等の特急です。フランスがごねて国内列車なのにTEE、国際特急扱いにしてもらっていました。当時の名士しか乗れない高級列車の看板が欲しかったわけですよ」なるほど、それで列車内で散髪屋さんまで…。
「女の人が揺れる車内でお化粧したり、えらい人が秘書に個室席でテーブルに置いたタイプライターを使わせていますが、それができるほど揺れないんだよ、ドヤ!と言う乗り心地自慢をしたいがためのフランス国鉄の宣伝動画ですっ。これを見た橙色の会社の新幹線やリニア関係者がさつまの目になっていたと父が教えてくれましたっ」
「これ、一等なのに食堂じゃなくて自分の席でフルコース食べてない?」
あたしたちが座っている座席が向かい合わせになったようなところで、テーブルクロスが敷かれ銀やガラスの食器に、白いお皿が置かれて食堂車のようになっている画像に目が行きます。なかなか豪華そうです。
「あ、それ多分ブリュッセルかアムステルダム行きのTEEです。ベルギーまで2時間か3時間はかかってたはずなんで、その間に晩ごはん済ませる感覚ですね」
「あーなるほど、フルコース食べてチーズかデザート終わった時点でブリュッセルに着くようにしてるのか。優雅と言えば優雅よね」
「座席の配置が向かい合わせなのもこの時代の名残りっちゃ名残りなんですよ。なにせ周りが名士ばかりですから、相席になった車内で商談が始まるとか普通にあったみたいなので」
(昔の日本の一等展望車みてーなもんだ。高級軍人や政治家、財閥関係者しか乗ってないから車内が高級サロン化してたんだよ)
「これ、本当に当時が偲ばれるわね…そりゃ庶民が入り込む世界じゃないわよ」
「ミストラルにワゴン・リ社の高級客車を繋いでた時期はもっとすごかったらしいですよ。一等の更に倍のお金取ってて、お食事も本来の食堂車に行く必要すらなかったって」と、銀色の客車の前に青い古ぼけた客車が二両くらい繋がっているのを見せてもらいます。
あー、オリエント急行の客車か…。
(そうそう。今みたいに親が何して稼いでんのかわからないボンボンやおねーちゃんが新幹線のグリーンに乗ってくる時代じゃないんだよな。下手すりゃドレスコード要求された時代だろ、それ)
「まずミストラルとは何か説明しとかないと10代20代の人、理解ついていかないと思うわよ」
(将来的に痴女皇国世界の欧州で鉄道事業やるしな、まず確実に似たようなもん走らせる必要あるだろ)
そうです。
比丘尼国や、ひいては欧州やら北米大陸で大量輸送機関を運用する事業が視野に入ればこそ、理恵ちゃんのTGV乗りてーというわがままが通ってしまったのです。
わたしたちも鉄道旅行を経験する事で痴女皇国、ひいては聖院世界での地球における鉄道建設計画を立案するだけの見解見地を皆に持たせる狙いがあるからこそ、この苦行にマリアちゃんも付き合っていると…。
(でなきゃイラチなあたしが真っ先に転送入れてルルド飛ばすってよ…フランスの鉄道産業は欧州でも決して無視できないからな、実態調査にはちょうどよかったよ。文句は山ほど言いたいけど、収穫もまたゼロじゃねぇから)
「んじゃ、まずこれを」と見せられたのは蒸気機関車。MISTRALと書かれた板が取り付けられていますが、黒光りして太くて大きいですね。
さながら世界最大の平均値を誇るフランス人の珍珍のように。
「雅美さんのセクハラ発言についてはともかく、ミストラルが運行開始した1950年よりはるか前の1800年代後半から海浜リゾート地のコート・ダジュールや地中海に面した港湾都市マルセイユをパリと結ぶ需要は大きく、第二次世界大戦前にも豪華設備を誇る急行列車が運転されていました」
(まぁ、東京から大阪や神戸を経由して下関を結ぶ列車みたいなもんだな)
「まりりの認識で合ってる。んで1950年当時は日本も欧州も一等二等三等の等級制で、運賃と料金がほぼ一体化されていたと考えてね。で、二等は三等の二倍、一等は二等の更に二倍の金額設定だったと思って下さい」
(だから貧乏人は本当に三等しか選択肢がなかったんだよな…)
「身分制度が実質的に残ってた時代だしねぇ」
「で、1956年にはさっき映ってた銀色のエアコン付き客車…初代ミストラル型とかミストラル56型とか言われる一等客車ばかりをつないだ特急になります。前につないだワゴン・リ社の青い特別車と特別食堂車は引き続き繋ぎましたけど」
「つまり、パリからリヨンやマルセイユに行くビジネス客か、その先のニースやカンヌ、更にはモナコのようなリゾート地に別荘がある富豪やお貴族様中心に利用されていた高級特急だったと」
「そしてミストラル客車の設備は好評でして、当時のヨーロッパで走っていた国際特急のフランス受け持ち分も同系統の車両で賄われるようになります。もう、この銀色のステンレス車体が停まっていたら標識とか見なくても国際特急扱いの一等客車だと認識されてしまうくらいに」
(で、あたしも苦手だし、みんなにも評判が悪い向かい合わせ座りだけどよ。りええ、ミストラル客車って車内どんなんだったのよ)
「で、登場当時は一等個室ばかりでした。1部屋六人定員が一両につきだいたい8部屋。これは二代目ミストラル客車、ミストラル69型って言われたものになると、個室の扉や壁、今見ても斬新なガラス張りの壁やドアになりますので、ジーナさんあたりはかえって興奮するかも知れませんね」
(なんか理恵ちゃん、あたしを誤解してへんか)
(確かにかーさま、この部屋にあたしかクリスさんと二人ならどうしますかっ)
(うん。普通ならこんな場所で始めないと思うが、このおばはんや雅美さんはやりかねん。更に言うとマリーとダリアならマリーがなんかしそうだ)
(なんであたしに火の粉が!)
(あたくしも同じ!)
「実はTGVアトランティック線を避けたかったのはこれもあんのよ。あそこの平屋車両、一等だと通路挟んで半分が個室みたいになってんのあるから。で、誰かとか誰かは何かしそうでねぇ…」
(つまり個室ばかりで、独身はもちろん秘書や従者を連れて歩けない人には肩身が狭い列車だったわけね)
「のちのちにはオープン席も連結されるけど、これまた他線区だと食堂車扱いになる事があるから向かい合わせ座りでおっきいテーブルが固定されているか広げられるようになってます。ミストラルは長距離客が多かったから食堂車を二両繋いでたけど」
「これは改めて見ると日本人の文化と真っ向衝突する設備よね…見ず知らずの人と相席で、しかもフランス語で自己紹介とあいさつができないなら田舎もの扱いされるのが目に見えているわ…」
「実際に鉄道由来の文筆界ではもそもそ先生と言われる方が申されておりましたが、念願のTEEに乗り食堂車に向かうと相席にされた上に白人の老人が突然怒り出し、食堂の給仕に食ってかかり別の席に代わって行かれたそうです。同じ席の老婦人が英語で先生に気にするなと宥めたそうですが、もしフランス語が理解出来ていたら喧嘩になっていたかも知れません」
「あー、有色人種差別を受けたのか…それと服装。当時なら恐らくスーツかブランドモノのリゾートウェアでないと白い目で見られた可能性あるわね。Gパンとか履いてたら出禁になったレストランやホテルがあった時代だから…」
(つまり、うちやベラ子やマリーの格好は当時だとアウト…)
「動画や画像で分かるとおり、あの時代にそんなブローニュの森の娼婦まがいなスタイルで乗れば顰蹙です。最悪、車掌に降ろされていた可能性すらありえますっ」
(だからミニスカートを発明した飯のまずい国は偉大だと思うぞ、かーさん。あれでそういう貴族社会や上級市民社会の価値観がかなり変わって行ったからな。実はアメリカですら当時は、かーさんたちの格好で優等列車に乗ったら大ひんしゅくを買いまくってた可能性があったのだよっ)
(ええー、と言いたいが確かに当時のアメ公は割と意外に保守的…)
「まー、今だとあんまし奇異の目は向けられないとは思うけどさ、普通ならボディガード複数つけて歩くセレブしか許されない姿だと認識するように。あと、ベラちゃんとジーナさんは今の季節が何か思い出してくださいね」
そして列車が減速して駅に停まります。確かに後ろ側と言わず、この車両と言わずわさわさ降りていますね。
「フランス第二の都市リヨンですから。でも、リヨン市内にはここだと遠いんですけどね」
「ぬ。ホームの表示がGare de Lyon-Part-Dieu…リヨン・パール・デュー駅ね…」
「もともとリヨン市内中心にぺラーシュ駅ってのがあるんですよ。ベラちゃんがよく引き合いに出すフィレンツェだとサンタ・マリア・ノヴェッラ駅みたいな感じで」
「ふむふむ」
「だけどそこは昔の蒸気機関車時代の名残りで行き止まりな上に、高速線をマルセイユ方面へ伸ばすには都合悪いとなりまして、…岐阜羽島みたいな感じでリヨン市内の外れに作ったのがこのパールデュー駅なんです」
「でも何か羽島より賑わっているわね」
「そりゃフランス第二の都市ですから…ポール・ボキューズのショッピングモールなんかも近いみたいですよ」
「料理とかするなら寄ってみたいわね。鹿とかウサギとか野鳥とかカエルのお肉くらいありそうだし」
(雅美さん、ロレーヌだとカエルは流石に食べませんわよ!つぐみとか雉は捕れたら頂きますが!…まったく、確かにロレーヌ公国はフランコニア語の他にフランス語も使いますし、一応はあたくしの代でも既にフランスの属国扱いでしたけど、フランスと完全同一視は嫌ですわっ!)
(んじゃドイツと同一視しましょうか?)
(もっと嫌に決まってますわよ!)
あー、それでアルザスドイツ語とかドイツ語に対して生理的に嫌なのね…。
などとマリーの嘆きを聞いているうちにTGVはパールデュー駅を発車しています。
進行方向側の席も結構空いてきたので、次の停車駅が乗り換え駅のモンペリエという事もあり、空いてる進行方向の席に移ります。
敢えて向かい合わせの席に座り、理恵ちゃんの解説を聞きながらモンペリエを目指すとしましょう。
列車は貨物駅みたいな場所が見えるような所とかを通って行きます。
東北本線や高崎線で大宮を過ぎてからくらいですとか、常磐線の取手から先のような感じでしょうか。
ただ、聖環のアプリで見ると移動速度は160km/h前後、結構速いですねぇ。
「これがフランスの強みなんですよ。さっきの貨物駅でもかなり大きい貨車ばかりだったでしょ?TGVは連接客車ですけど、普通の特急…ミストラルに使ってたような客車とか、例のケチなコライユ客車だと長さ26mあります。日本の在来線が20m、新幹線ですら25mなのでかなり長いのがわかるでしょう」
「あーそうか、ユーラシア大陸の頑丈な地盤のせいで重く大きくできるのね」
「そそ。ただ、TGVは軸重…左右の車輪1セットにかかる重さを17トンまでにしてくれって制限があるので、割と軽めには作ってますけどね。重すぎると早々に線路やその下の路盤が割れたり崩れちゃうんですよ」
「そーいえばモーターの音がしないわね」
「モーターで走るのもありますけど、これユーロデュプレックスII型…前後の機関車が客車8両を挟み込んで走る伝統的なTGVなので、客車の車輪にモーターつながってないんですよ。ベラちゃんがよく乗ってるらしいフレッチャロッサも同じように、機関車が客車の列を挟み込んでいます」
「それで割と静かなのね。あ、ちょっと音変わった」
「あー、LGV区間に入りましたね。デッドセクション…電気が変わる区間の表示ありましたから。今から交流2万5千ボルト50ヘルツ区間に入ります。JR東日本の新幹線と同じ電圧と周波数ですね」
「なんかインターチェンジみたいなところで青と赤のこれが止まってたけど」
「それがOuigoって言って、たのきちが乗せようとした恐怖の詰め込み格安列車です。言うなれば夜行バスの青春ドリーム号のようなものなのです。ベラちゃんが乗れば10秒以内に怒り狂ってたのきちのところに転送かけて犯しかねない代物です」
(理恵さん、何という例えを言うんですか。確かにそんなもんに乗せられたら最後、レイプじゃ済ませませんけど…そんなに狭いんですか)
「ベラちゃん。これ見て」と、理恵ちゃんが車内の写真が載った乗車記ブログとかのアドレスをベラちゃんの聖環に送ってます。
あたしも見せてもら…なにこの、1人がけと3人がけが並んだ変な配置の席!
「ついでに言っとくと車椅子対応以外の全ての座席、リクライニング機構とか豪華装備は一切ありません。電源コンセントも有料オプションですし、荷物の持ち込みもサイズや個数の制限がめっちゃ厳しいです。更にバー車…簡易食堂車すらありません。飲み食べするものは予め用意しろって事ですね…」
(理恵さん。あたしは思います。たのきちは命拾いした、と。そして理恵さんの判断は何だかんだ言って、ねーさんが言うフランスの鉄道事情をあたしたちに理解させる目的が前提であれば必ずしも、非難轟々の嵐に晒すべきではないとも思い直しています)
「だからあたしもそれなりに色々考えてこのルート選んだんだってば…決してマニアな趣味性だけで選んだんじゃないんだから、それは理解してよ…」
「しかし、複線…っていうの? 南東線だかの時も思ったけど、日本と違って隣の線路になかなか電車来ないよね。無駄に思えるんだけど…」と、話題を変えるために話を振ってみます。
「あー、それもこの国らしい無茶な運用です。ミストラル時代からやってましたけど、例えば貨物列車がミストラルの前を走っていたとしましょう。あ、フランスの線路は日本と同じで左側通行ですからね」
「普通なら貨物列車をどこかの駅に入れて追い抜くわよね」
「で、ここからが無茶っぷりです。台湾とかでもやってますけど、特急を右の線路に入れて貨物を追い抜くんです…」
「はぁ?前から電車来たらどうすんのよ…正面衝突するじゃない…」
「それ、一応ダイヤグラムという運転計画に入れてますから大丈夫…と言うのが彼らの言い分です…指令室でも列車ごとの位置を把握して管理してましたけどね…で、追い抜くだけじゃなくて、線路を整備するとか、電線張り替えるとかの保守工事、可能な限り昼間にするんですよ…」
「えええええ!今でも320km/h出てるじゃない!その横で工事って…フランス人大丈夫なの?頭沸いてない?」
「これ…労働者の権利が認められてて、夜間作業が多かったりするとすぐストライキするらしくて、苦肉の策みたいですよ。で、雅美さんが言う通り、工事してる横をどえらい速度で電車が通過したら、やはり安全上の問題が出ますよね。…そんな時、どうすると思います?」
「えー…運休とか…」ええ、電車止めるしかないと思うんです。大昔だと新幹線若返り工事とかで半年くらい止めたってのを聞いた事もありますし。
ですが、理恵ちゃんの話の続きが驚愕でした。
「えーとね、話をちょっと変えますけど、この客車、幅が狭くないですか」
(言われてみれば確かに)
(新幹線と比べたら明らかに狭い。リニアと比べても少し狭く思う)
などなど意見が出ます。ええ、確かにあたしも狭いと思いますね。
「えーと、リニアが幅2.9m。新幹線が3.3mです。で、これ…2.8mなんですよ。何でだと思います?」
(まさか…悪い予感がする…)
(そう言えばパリの駅も通勤電車とかと同じ駅使ってたし、途中まで普通の電車っぽいのバンバン追い抜いてたし…)
「ええ。目ざとい人は高速で走ってる際にも、途中で別れてどこかに消えていく線路を目撃したかも知れません。その区間を工事で運休する場合、在来線に降ろして迂回運転させるんですよ…レールの幅が在来線と同じですし、信号装置や電気も在来線に対応してるからできる芸当なんですけど…もちろん、到着時間は大幅に遅れますから予め計画されていてお客さんにも告知されます。ただ、多くはフランス語だけで、ですけど…」
(あのさぁ理恵ちゃん。うちの認識やとな、例えば新幹線で新大阪から京都の間で工事するとしよう。普通、日本やったら夜中にやるよな。せやけど理恵ちゃんの話やと、昼間に電車を止めて工事する。んで、新幹線は東海道線…JR京都線に下ろして走らせる。こう言うふうに聞こえたんやけどな…)
「ジーナさんの指摘で合ってますよ。日本の新幹線ではできませんけど、TGVならそれ、できちゃうんです。極端な例がこれ」
え。
なんか電線ないとこ走ってるんだけど。先頭の機関車、煙噴いてるし。
で、理恵ちゃんが見せてくれた動画の解説が驚愕でした。
「これ、大西洋岸にあるリゾート地でお客さん呼びたいからって町が政府におねだりしてTGV入れてくれって頼んだんですよ。でも当時、TGVどころか電車すら来てなくてディーゼル車しか走らないローカル線の終点。じゃどうするか。電車として走れるぎりっぎりまで自走してきたTGVの先頭に機関車つないで引っ張らせたんです…こんなむちゃくちゃな走らせ方、どこの国でもそうそうやりませんよ…日本でも普通の特急でやってたとこありますけど、色々問題があって数年でやめましたし…」
「つまり何、新幹線の電車を客車とか貨物列車扱いにしてたと…」
「例の安康服のノリで言いますと、大洗の海岸にひたち号やときわ号を直通させようとしたと考えてください…」何かよくわかりませんが、大変なのはわかります。
(あのさー、りええ…これ、当然だけど客乗ってるよな…)
「もちろん、海岸のバカンスとかヨットを楽しもうと言うリゾート客満載」
(つまり、時期は夏だろ…車内の冷房とかどうしてたんだよ…)
「えーとね、この機関車、特急用の客車も牽けるから、給電用の発電機も積んでるの。で、TGV用の連結器にしてるから、TGV繋いだらエアコンとかバー車で使う電気、機関車からもらえるよ」
(なんというか…その、昔のシトロエンにあった、サハラ砂漠地帯のフランス海外領土とかで使うために四輪駆動が欲しいからと車体の前後にエンジン積んだ車みたいな力技を感じるんやけど…)
(りええ…あのさぁ…フランスに鉄道敷く時、あいつら一切噛まさないか、さもなかったらあいつらにある程度の技術教えて、あとは好きにさせた方がいいんじゃないかな…中途半端にあれこれ教えるとロクなもん作らないだろうから、徹底管理するか好きにしろって放置するかの二極しかない選択肢を突きつけた方があいつらのためになる気がするんだ…)
「まりり。好きにさせない方がいいわよ。英国とまた違った変態的合理思考で変なもん作るから。まりり以外にも言っとくけど、そもそもこのTGV自体がフランスで走らせる事以外、基本的に考えてない壮絶な頭おかしい代物だってそろそろ認識しといてね? この変態的な列車を体験しておかないと、フランス人に鉄道作らせたら最後、フランスの車以上に変なもん作ってくる理由、絶対に理解できないからね?」
…ああ神様。
薄々感じていましたが、やはりフランスはフランスでした。
そして理恵ちゃん、鉄ヲタとか言ってごめん。
あなたはあなたで、痴女皇国世界の地球の行く末をそれなりに考えていたのね。
新幹線ですらこれでは在来線なんか、一体どうなるんでしょうか…。
「時間があったらセルダーニュ線っていう狭軌の地下鉄みたいなのが山の中走ってるローカル線、トゥールーズの近くからスペイン国境付近を延々乗る奴に案内したいんですけどね、乗客が生きた豚とかニワトリとか平気でお客さんのいる車内に乗せてくるらしいんで、色々頭抱える事になりますよ。ただ…ひどい区間は1日2往復なんです…あたしこれ一度乗りたいんですけど、流石にここ乗るのは難易度ものすっごい高いので今回は諦めようかと…あ、この線、SNCF…つまり私鉄じゃなくてフランス国営ですからね? 国営でトロッコ列車みたいなの日常のアシとして毎日走らせてますからね?」
ええ、あたしの中のフランスという国の固定観念が色々と音を立てて崩れそうです。偉大なる田舎国家と誰かが言ったのが理解できそうです。
(少なくとも機械工業分野でフランスは英国を変態紳士呼ばわりできねぇ。あたしの持論に反論できる奴、心話で返してくれ)
しーん。
マリアちゃんの問いかけに誰も返事しません。
えらい国に来た。マリーですら愕然としている雰囲気が伝わって来ます。
…だから何で、よりによってこんな国に聖母の奇跡を実現させたような偉人が生誕したとか、はたまた聖母様が奇跡をお示しになったのか。あたしは小一時間問い詰めたいです!
マリア「しかしシベリア鉄道じゃあるまいし、フランスでカップ麺ってなんか侘しいよな…」
あんぬ「出された時真剣に頭くらくらしたわよ」
まさみ「まぁ、フランスにもマクドや牛丼屋さんあるし…」
ベラ子「イタリアにもあるにはありますが」
マリア「ちなみにサイゼ◯ヤはこの世界でも欧州には出店していないぞ」
ベラ子「イタリア人には人気なのですが…」
マリー「あと個人的に頭が痛かったのがパリの治安。地下鉄とか駅ですね。これがあるから売店や食堂が夜遅く朝早くと開けていられないかも知れません」
まさみ「これは本当に注意した方がいい話よ。みなさんも海外に行く時は荷物から目を離さないようにね。スーツケース丸ごと持ち去るとか平気でやるから」
ベラ子「実はあたしもパリでやられかけました。あえて実行させて、持ち去ろうとした瞬間にムチ伸ばして速攻で捕まえて駅警備のカラビニエリ…じゃなくてジャンダルメリに引き渡しましたけど」
マリア「なお、るっきー始め海外渡航任務の多い奴のスーツケースには阿波内侍さんの協力の下、安井金刀比羅宮のお守りを入れている。むろん痴女皇国仕様だっ」
マリー「持ち去ると呪われるとか」
マリア「いや、シャバとの縁が切れる。つまり荷物をそっくりきちんと返さない場合は生涯ムショ暮らしだぜっ」
ベラ子「ひどいんだかひどくないんだかよくわからない祟りですね…」
マリア「まぁ、聖院女官種含めてあたしらに何かしようと目論んだ時点で聖環が警報出すんだけどな」
まさみ「そうそう、この話、実はR18の闇落ちマリアからの続きだったりします。18歳未満の人はがんばって読んで…じゃなくて読んじゃダメよっ」
あんぬ「橋の下のえろほんをよむなよよむなよとか、R18な内容入りまくりなのに一般書籍カテゴリーな漫画とかと同じ種類の警告ですね」
まさみ「天の声のことだから間違っても青少年のオカズになるような話じゃないんだけどね…」
https://novel18.syosetu.com/n0112gz/60/
マリア「それについて懸念がある。今回あたしたちはフランスに行くが、パリ経由で帰る予定だ」
まさみ「マリアちゃん、まさかブローニュ寄る気?」
マリア「まずベラ子が面子にいる。更に悪い事にかーさんがいる。あのおばはんが淋の森どころじゃない青姦と売春の本場に来て何もせずに帰るだろうか」
まさみ「二人を簀巻きにできるの、聖院のマリアちゃんと痴女宮のマリアちゃんしか無理よ…」
マリア「正直痛い目を見せようか悩んでんだよ。ただ、11月のフランスだ。早い初雪が降っても不思議じゃないよな…」
まさみ「あの二人、今人工身体だけど…」
マリア「体感感度を無理矢理人間に戻してくれるわぁああっ」
あんぬ「風邪引いてもやりそうなんだけど」
マリア「ちなみに風邪にかかるような事を自分でやらかした場合、懲罰的に風邪なりインフルエンザ感染状態をエミュレートするぞ。他人に移しはしないけどな」
あんぬ「二人の運命が今から読めるわね」
マリア「あえてかーさんのランドローバーを青姦用としてパリに引き寄せる手もあるぞ。宙兵隊の地域連絡本部がパリにあるしな。何なら英国大使館に持ってきてもよい。あのおばはんの車、宙兵隊幹部所有だから緊急海外赴任対応用の国際電子ナンバープレートもついてるんだわ」
ベラ子「あたしの乱暴ルギーニをパリに持ち込むのはさすがにやりたくないです」
マリア「あのバンパーで前の車を押し出す無茶な駐車の習慣があるからな…」
ベラ子「みなさんもこれを機にイタリアひいきに」
マリア「五十歩百歩って突っ込み入るぞ、多分…」




