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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど
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さまよえる村の謎を追え -Utforska Loulan-

皆様こんにちわマリアヴェッラです。

神隠しというのが日本では割とある現象らしいですが、天狗の仕業とも言うそうですね。



それはともかく、姉に天狗のお面を使いたくなりました。

…どう使うのかはお察しください!

「ノルデンショルド君。王立科学協会員として君を当該村落に派遣し、これの調査を依頼したい。それと…該当調査にはベルリン大学特待留学生スヴェン・ヘディンを随行する事で我が国が貴君の行動を支持支援する体裁を取りたい。よいかね」


「は。確かにフィン人(スオミ)の私が貴国内を歩くのはまだしも、まかり間違えば組織的殺人の摘発となりかねない話。ヘディン君の同行は有難い話でもあります」


「うむ。本当であれば王立海軍兵を派遣して鎮圧を図りたいところであるが、イェブレは元よりウプサラでの情報収集の結果、かの村を損ねる動きを迂闊に見せると見つからずじまいになるというのは事実らしい。一体全体どんな方法で村丸ごと隠しているか、我々には見当もつかないが…」


はい、ここは北欧自由恋愛王国首都、王立科学アカデミーの建物です。


そして我々の前で例のいけにえ村探索を科学協会理事長から命じられているのは、ヘルシンキ大学教授で探検家のアドルフ・ノルデンショルドさん。


もともと鉱山の探索を生業にしていた人らしく、キルナ鉱山の発見で自由恋愛王国王室の表彰を受けて貴族身分も頂いた方らしいのですが。


(この人が悪い訳じゃないんだけど、ヘルシンキ大学を解雇されかけてるんだよ…狙撃兵国と北方帝国の間で緊張状態続いてるだろ。あれよあれ)


(ねーさんには珍しくキルナの鉱山資源、押さえてませんでしたね)


(偶然、どーしよっかなーとか考えてはいた。ただ、掘削技術が必要なんで、この時代だとまだ簡単には掘り出せねぇはずだ。それとあそこ、何としてもレール用に確保しろとだな、りええにあずさんが二人して来てだな!)


(それと必ず石炭、それも良質炭が必要ですからねぇ。あずさんに教わりましたが、高炉という仕掛けは既に監獄国にあるとしても、石炭が大量に要るとは聞きました)


(鉱石や石炭の長距離輸送は例の半潜水船がある。テンプレス2世でも運べるけど、船室汚すからな…しかし本当に放置しといて良かったぜ。自由恋愛王国との交渉材料にばっちり使えたし)


(ここの科学アカデミーって例の修学宮絡みの設立ですよね)


(ああ、修学宮互換の学術研究機関設立については大規模の無利子融資を認めると。融資審査条件甘々にしといた上に、講師の初期教育を修学宮で無償実施とか色々特典つけといたからな。これを国家事業や軍事目的転用に考えねぇアホはいないと踏んでの敢えての措置よ)


(ああ、学校作る名目でお金借りて実際には別目的で使うと…)


(ただ、最低限の学校は作ってくれ、うちからも監視を兼ねて講師送り込むからとは釘は刺してある。…だが、逆に全力で乗り気なのが神聖ローマ帝国、それもドイツ部分だ。皮肉なもんだぜ、一番この融資案件の価値に気づいて欲しくねぇところが真っ先に手ぇ上げやがった)


(でも、規制は可能だから見て見ぬふりしてるんでしょ?)


(というか学術目的の探検やら探索行為は認めたんだ。で、連中も考えたもんでね。連邦世界ほどじゃないにしても軍事的プレゼンスにあまり積極的じゃない上に、バイキング譲りの陸海両用の探察行動が得意なフィンランドやスウェーデンの連中を多用してるんだよ。ま、あたしも入れ知恵はしたけどね)


(なるほど、学術探検であればうちの融資や科学技術の貸与を受けやすくなりますね)


(そーゆーこった。フランスからもアンドレ・シトローエンって奴のシベリアからタクラマカン砂漠への探検計画書が上がってんだけど、これをどうしてくれようかって話はともかく…目下はいけにえ村の特定作業だ)


(しかし本当にどうやって隠れてんですかね)


(亜空間や異空間の類なら逆に、おっさんの網にかからねぇ訳がねぇんだけどな…ま、種を明かすと、おっさんは既に発見してくれた。ただ…気楽にサラッと教えるとマリアリーゼのためにならんから自分で考えなさいとだとさ…最近あのおっさん、ワーズワースのお祖父様に毒されてねぇか)


(前からでは。で、おじさまは何と)


(ヒントだけくれた。小泉八雲作品を読めだと…おい…あれ、この世界でも古文じゃなくて現代国語の範囲に入れられてる作品ばっかなんだけどよ…流石にそろそろ古文に入れろよってのはともかく、だ)


(その様子では全然分かってませんね。んじゃ、あたしのクラスメートたちにもお助けを依頼しましょう。ラフカディオ・ハーンの作品の中にあの村を見つけるヒントがあるからちょっと探偵してくれと)


(全く、この世界にピンカートン・インヴェスティゲーションズがあれば依頼するんだけどまだ影も形もねぇわな)


(それ以前にあれは探偵というより密偵(スパイ)と傭兵派遣会社では?)


(あとマフィア以前のヤクザ仕事の代行な)


「ではマリアヴェッラ陛下、この2名をお付け致します。探査行動につきましてはなにとぞよろしくお願い申し上げます」


「元来なら国内犯罪行為だとは思いますが、何分にも神族種が絡みますと、この辺り一帯が海に沈むとか吹き飛ぶくらいは余裕で起きますので、私ども痴女皇国の介入やむなしという事でご了承願います。では、お二方をお預かりしますよ」そしてお部屋を辞して…。


「しかしマリアリーゼ陛下、侍女扱いでよろしかったので?」廊下を歩いている最中に、姉にノルデンショルドさんがお尋ねになられますが。


「んー。一応欧州外交の顔は妹で行こうと思ってますから。ま、マリアヴェッラはイタリア由来の子だってのを隠してない時点で、我が痴女皇国に対して良好な関係を築こうと思われるなら、どこの伝手を使うのが手っ取り早いかを教えているようなものですよ」


「姉はとにかく私に表向けの仕事を押し付けようとしますので…」


「それはともかくノルデンショルドさん、連中の村の存在に関するどんな話でもいいのですが、ガムラ・ウプサラ(古ウプサラ)の伝承研究についてウプサラ大学の方で進めておられる結果がどう出るか…ですね」


「ここに来る前に実態風習について可能な限り資料を漁ってくれとは依頼しておきました。何せカルマル同盟締結前の風習については破壊焼失したものも多く、正直デンマークを恨みたいですよ…ストックホルムの血浴からあまり年月も経過しておりませんしね」この時代、バイキング国はデンマークの支配下にありまして。そしてカルマル同盟という名のデンマーク支配下にあった自由恋愛王国、姉いわくの血みどろの独立戦争を戦い抜いて同盟を抜けたそうです。


「ま、バイキング同盟からも話が来ていますが、今回の件の調査結果次第で、ノルウェーが完全独立を果たしたいなら後押しをする理由づけが出来ますからね。デンマークの統治が優秀ならこんな村、野放しになってねぇだろって」はっはっはと笑う姉ですが、痴女皇国開国時は、まさにこういう筋書きで欧州各地から中央アジア・アフリカに至るまで難癖をつけて暴れ倒す毎日だったみたいで…。


「ヘディン君。ガムラ・ウプサラの遺跡資料以外の件については我々の管轄外だが、学生寄宿舎の面々には『村に誘う』甘言を発する者に注意しろと噂を流すようにしてくれ。王立科学協会長…つまりグスタフ陛下のサイン入りの指示状もある。里者(さともの)と言われる村出身者が言葉巧みに村行きを持ちかけている可能性があるからだが、彼らは自分の出自が暴露されたり、過剰な警戒をされる事を極端に嫌う傾向があるそうだ。つまり、文書で警告を発すれば逆に里者が潜伏する可能性がある」


「なるほど…しかし、我が国の古き悪習、そこまでして頑なに守るべきとは到底思えませんが…」


「私も純粋なこの国の人間ではないし、更に言うと狙撃兵(しもへいへ)国の神話は君の国のそれと全く異なるものでね…生贄風習の有無はもちろん、その村の女性の話では熊は強大な悪の象徴らしいんだけど、フィン人は熊を神格視すらしているんだよ」


「ああ、確か先生のお国の方にラグナロク云々と話をしても首を傾げられるとは聞きましたが」


「うむ。だがしかし、熊一つとって見ても文化環境がこうも違う者が、いくら残酷な行為とは言え、相応の神話や文化体系を持つ別民族の風習を反射的全面的に否定するのも学者の姿勢としては良くはないだろう。恐らくいけにえを始めた当時の農業技術は今より更に発達していない上に、狩猟時期すら限定されるのは想像に難くない。彼らの神の存在や影響力の有無はともかく、供犠風習に踏み切る動機や文化背景を調べてから正当性を評価した方が良いのは言うまでもないだろうね」


「確かに先生の言われる通りです。特に探検は異文化風習に直面する行為。言動には注意いたします」


「うむ。いけにえ風習の由来や理由は、最終的に村の連中に聞くしかないだろうね。ただ…素直に話してくれれば、の話だ。行為が行為だけに咎められる話だし、向こうもそれを極度に警戒しているのは事実だろう。少なくとも正当性があれば隠れる必要は微塵もあるまい」


(ねーさん…この学者さん何者なんですか…ものすごく理路整然とうとうとフィールドワーク主義を説かれますが)


(このおじさんはだな、雅美さん曰くの生まれた時代が連邦地球史と違う人がまた一人って方だ。この世界で達成できるかは不明だけど、本当なら世界初の北極海沿岸航行に成功して北欧やロシアから日本またはアメリカ大陸への航路を開拓したおじさんだよ。明治時代の日本でも北極海を越えた男として国を挙げて歓迎されているぞ)


(なんで日本が歓迎を)


(そりゃ簡単さ。当時、開国して武士社会から西欧近代国家に方向転換したばかりの日本を目指して来たからだよ。つまり、単純な探検だけじゃなしに商業航路の目的地とする価値があると見てくれた訳だ。我々の船が停泊できて補給はもちろん、治安が保証されて荷物や旅客を扱う港があるよと宣伝してくれるも同然の話なら、普通は歓迎するだろ?)


(なるほど…鯖挟国の軍艦が遭難した時も丁重に扱ったのと同じような理屈ですね)


(ああ。他所者が迷い込んだからと言って首を狩ったりいけにえにするのと真逆の発想だろ? …あとな、今は学生のヘディン君だが、この人も生まれた時代が違う組だ…今頃雅美さんが頭を抱えているだろうけど、本当なら明治時代に中央アジアから中国大陸の砂漠地帯を探検して楼蘭(ろうらん)という紀元前の古代都市を発掘している。更に、さまよえる湖として有名なロプノールを発見したのもこのおじさんだよ)


(なかなか優秀な業績をおさめられた方々なんですね)


(連邦世界史でもこの二人は師弟関係だよ。ただ…ほもってはいないから掛け算しないように)


(しませんっ)


「とりあえずウプサラ大学に戻りましょうか。お送りしますよ」


「ありがとうございます。助かりますよ」


で、転送一発。


「我々は上空で待機しております。何かわかりましたらこれで連絡願います」と、聖環を見せる姉。


ノルデンショルドさんとヘディンさんには今回の特別任務のために機能限定版をお貸ししていますよ。


「なるべく早期に現地へ向かう事を優先でよろしいですか。蔵書を全て渉猟する間にも新たな犠牲者が出かねない話とは認識しております」


「ええ。正直気分のよい話ではないと思いますが、そちら様の調査状況は把握させて頂きます。急かして申し訳ありませんが、ある程度の概要把握だけでも作戦決行に踏み切らざるを得ないでしょう。よろしくお願いします」


そう、痴女皇国の面々、特に八百萬神族会議出席許可者が不用意に自由恋愛王国を闊歩すると、いけにえ村の連中に警戒されかねないという事で…。


「で、レパルスの買取かリースの話がこちらにも来ている訳ですが。黒マリ、あんたこれどうすんのよ。うちは別にテンプレスだけでいいじゃん」


「確かに普段はイラネなんだけどなー、やっぱテンプレスが動かせない時があるし、アークロイヤル級の積載能力は魅力だしなー」


「アークロイヤルとレパルス二隻合計でいくらよ」


「超サービス大バーゲン価格で二隻セットで75億ポンド。つまり一兆円」


「どこがバーゲンだよ…しかも艦載機抜きだろうが…それに白マリ、大事な事忘れてねぇか」


「兵装は個艦防衛分は装備済み。オプションモジュールは別途応談らしいけどさー」


「いやいやいや。もっと根本的な話。テンプレス級並みに自動化されてないと困るだろ? 聖院世界でも痴女皇国世界でも、航宙船用の乗組員確保なんて無茶言うなって話にならないか?」


「まぁ、テンプレス級の積載量がアークロイヤル級の半分未満なの、自動運行・保守機能に場所取られてるせいもあるけどねぇ」


「そもそもアークロイヤル級、うちに回せるくらい余ってんのかよ…」


「痴女皇国側のNBからの打診だからそっちの話じゃんか…あ、うちにアークロイヤル回されたら同一艦が二隻存在する事になるわね…」


「その辺は注意しとく。それに白マリの方はまだ就役から10年も経過してないから…売り飛ばす気にならんだろ」


「あたしたちは中古空母を押し付けられるインドの立場かというのは差し置き、空母運用時で千人、貨物船運用ですら百人以上の航宙船乗務資格者を養成するのはちょっと厳しいわよね…」


「だろ。やっと帆船航行の学校経営を軌道に乗せたばかりだぜ…」


姉が二人いるのも不思議は不思議なのですが、理屈を知れば納得もします。


もっとも、その納得に至るには時間や空間に対するSFめいた知識のある事が条件になるのですが…。


そして、もっと条件が厳しいのが宇宙空間や宇宙船に関する知識。


「厠の使い方がわかりませぬ…」


「船だけでも慣れぬのに、これは流石に…」女性二名が恨みの声を発しますが、こればかりは慣れて頂かないとどうしようもありません。


はい、我々がいるのは聖院側テンプレスの船内です。


そして姉二人とあたしが顔突き合わせてあーだこーだしてるのは士官用食堂。


更に…痴女皇国ならテンプレス2世がいるではないか、何故に聖院テンプレスを持って来たのか。


はい聖院の姉。


「うちのテンプレス最近あまり動かしてないから乗務訓練にちょうどいいかなと。あと、かーさんがスケアクロウをテンプレスの中から引っ張り出すの面倒くさがってね…」そちらの母様の折檻はお任せします。依頼があれば痴女宮名物堤防を体験頂きますが。


(あたしも痴女皇国に一年くらいおったから知っとる。そしてベラちゃん…うちはそっちほどスケアクロウを頻繁に飛ばす話がないのや…)


(前田まつさんと伽姫様と…ニオオフラーネさんは?)


(航海艦橋から地球を見せたまでは良かったんやけどなぁ。とりあえずブリーフィングルームで休んでもろてるで)


(全艦1G環境ですよね。気圧も士官食堂で0.99ですし)


(まぁいきなり時間にして600年は先の船、それも軍艦やからなぁ…ただ、ほんまもんの航宙船より遥かに快適やねんけど、ま、知らん人にはわからんわのー)


(それよりベラ子。話が終わったらマリ公二人連れてブリーフィングルーム来てくれるか)


(はーい、ねーさん達呼ばれてますよー)


(へいへい)そうです。以前、崇徳院様や阿波内侍様、果てはおかみ様がしておられた「宇宙空間は管轄外」を覚えておいででしょうか。ただ今テンプレスは衛星軌道上、自由恋愛王国の高度1,000キロ以上を姉いわく「かなり無理矢理に力技で静止軌道にいるように滞在」しております。


「で、現在の状況ですがウプサラ大学所蔵の書籍に資料文献などを大学関係者に探して頂く一方、我々も船内に缶詰めにされているわけにもいきませんので現地調査用のドローン類はもちろん、間もなく帰投しますがスケアクロウ13号機が高高度からの偵察結果を持ち帰って来ます。まずはそれらの情報を分析して少しでも早く村の位置を推測しましょう」聖院側のかーさまが言われます。


「13号機はどなたが?」


「ベラちゃんのおかーさんとうちのサリー。ダリア・しほちゃん・アンジェリーナ・直美ちゃんで後席分担。ま、聖院側の皇室関係者総出に近いわな」


「白かーさん、うちのおばはんに川の話してくれたっけ?」


「おう。そのニオオフラーネさんか、この人の話聞いたらなるほど思うたから、ゲリラ探知用の水質センサー撒いてくれ言うといたで。測定結果はある程度まとめてTAISポッド経由で流れてくるけど」


「ああ…井戸じゃなくて川の水を生活用水に使ってるのがわかったのは大ヒットだったよな。もし生贄を処理したら血液他、人体由来の細胞なりが流れるし、排泄物を直接流しはしないだろうけど、流したらそれも検知だ」


「あとマリアから言われた流水量な。少なく見積もっても居住者百人として一日百リットルは消費しよるやろ。畑作してるならもっと使うよな」


(毎朝食後に当番四人で(かめ)十個を馬車二台に積んで汲みに行ってました。金属の缶を入れる話もありましたが、村の外と取引になりますからね…かめなら土を焼けば出来ますから)


「その一度だけでも200リットルだ。時間あたりの源流と下流の流量差を比較したらある程度の位置は特定できるだろ。畑作で撒く時は二往復三往復してたらしいから、なおさら水量差ははっきり出るはずだ。神の使いか何か知らんけど、人間やその類似品ってのが百人も暮らしてりゃ水と塩は絶対必要になるんだ。塩分は動物の血から取るにしても…な」


(塩は取引商人から岩塩を買っていましたね)


「そっちはイェブレやウプサラに黒薔薇と紫薔薇を回して探させてる。岩塩扱いの商人ならおっつけ絞り込めるだろ」


「しかし…あたしら忍びからしても徹底しておりますな。煮炊きの煙や水の汚れについてはわしらも何かの手がかりにはしますが、川の流れの量までは流石に測れませんで」


「そりゃ捨丸さんの時代なら仕方ねぇよ。あたしらがそーゆーのまで調べるからくり持ってただけだから」


「雲の遥か上から見張ると申しますのも…ね。お話を聞けば肉を焼く他、聖なる炎ですか…薪を絶やさぬかまどもあるとか。全く煙なしに一日を過ごすのはあり得んでしょうな」


「もちろん、赤外反応…煮炊きの火を調べてますよ。かの村、百人はいる上に皆の食事をまとめて用意してるらしいので」


「せきがい反応とやらを先程見せていただきましたが、ものによっては足跡までわかるのですな。私も思わず忍びとして現役に戻りたくなりましたが」


「ちょ、骨さんに使われたら暗殺し放題になるからダメ絶対ダメ!うちらの道具なくても江戸城に忍び込んで公方様のタマ取りかねない人に流石になぁ…」


「江戸城は流石に無理です。伊賀忍軍が固めておりますからね。それに…慶次郎の旦那といる方が、下手な殺しより面白い。今がまさにその面白い事の真っ最中ですよ。ただ…地面は丸いはまだしも、月が石ころの塊だから兎はいないというのは風流じゃありませんが」


「昔はおったかも知れんぞ。あれだけ()()()が出来ておるのだ、空から何か降って来たが故に滅んだ可能性もあるじゃろ?」


「何かいた方が探検する意欲も湧きますしね。それより慶次郎の旦那、酒、我慢させて申し訳ありませんね」


「酔いの回りが早いとあってはのう。まぁ、頂いた酒の始末はむらを何とかした後の祝杯と致そう。それより大将殿、村に忍び込む為の手立ては如何致される」


「基本的に降ろす面子は変わりませんよ。ただ…向こうがどれくらいヤバい奴が近づけば隠れるか、それで行く順番を変えようと思っています」


「役柄に不満があるのですが」


「狼公女に同じ。いくらなんでも」


「野獣公女二人に同じ。なぜあたくしまで」


「マリー…後で堤防」


「泣くで済ませません」


「ふっ、ダリアが付けば二対二ですわよ」


「…みなさんわがまま言い過ぎです。北欧語の通詞が最低二人いるからと、私も駆り出されているのですが」


「せめて奴隷扱いはやめて欲しいのですが!」


「やかましいお前ら!まつさんも伽姫様も加奈さんも協力的な上、ベラ子はもとよりこのあたしも付き合うって言ってんだろうが!」


ええ。姉いわくのSENKAな格好です。


東方の奴隷商人が海賊と結託してバイキング企画の奴隷セールで北方帝国に売り込みに行く途中で立ち寄った云々。


「黒マリ…あんたが指揮官でしょうが…率先して敵地に乗り込んでどーすんのよ」


「なら代わるか? メイク落とすのめんどくさいんだけどさ」


「もういいわよ今更…んじゃ東方の奴隷商人は骨さん悟洞さん。で、おまつさん伽子さん加奈さん、んで黒マリが奴隷役」


「海賊扱いの奴隷は乳上、クレーニャ、マリー、ベラ子だ。んで通詞役兼任がミューレンフィーネ」


「で、旦那とあたしが旅の者で通詞にその村娘さんと」


「ボロが出ねぇように音声はあたしが流すよ。何でこいつ口利けるのって相手に思わせりゃしめたもんさ」


「うむ。それに…誰一人、役柄で嘘は言うておらんからのう」


「ああ。慶次郎の旦那は物見に出されたさむらいで捨丸さんは供の者。いつもの組み合わせだし、たまたま拾った村娘を通詞に雇ってるだけだ」


「で、わしらが奴隷を売りに来た倭寇と人買い。これも骨の旦那は元より、俺も倭寇でしていた事だから話に破綻はない」


「…ただ、無駄とは思うがよ…人選に一つ文句を言いてぇんだが…何で俺が海賊役なんだよ!」


「うるせぇ黒ひげ!それにこの役、ロッシュやロロネーにやらせて勤まるか?賭けてもいいけど、あいつらだと絶対ボロ出しやがるぞ?」


「そうよ黒ひげ。それにあんたまだ罪環に継ぎ目出てないでしょ? ここで頑張れば自由への道が早くなるわよ?」


「まぁ…フズールでも無理があるし、俺が適任なのは否定してねぇけどよ。なんかその人さらい村だか人食い村だか知らねぇけどよ、妖術を使うんだって?大丈夫なんだろうな…」


「みなさーん、世に知れた海賊黒ひげがビビってまーす」


「おいおいマリア姐さん、あんた俺達の習性知ってるだろ…海軍みてぇなのとガチにやり合って勝てねぇから基本は逃げだぜ逃げ」


「根性ねぇなぁ…それに、あんたの組を見てみろよ。遅れは取らねぇどころか、生半可な連中じゃ足止めすら無理な奴ばかりだろうがよ」


「確かにそりゃそうだ。マリアヴェッラ陛下までいるしな…だから余計に気を使うんだよ!」


「ああ、その辺は何とでも言い訳は効くだろ。そっちは基本全員上玉だぞ? 高く売りつけてぇから身だしなみを整えさせてるって言や納得するだろ」


「まぁ実際、こんくらい別嬪さんなら普通は高く売るための手を尽くすな。ロッシュやロロネーなら喜んで傷物にしちまいかねねぇが…」


「私らの方も、まりや様がいるなら間違いはないでしょうよ。もっとも悟洞と私の二人だけでも五十人くらいはお相手しますけどね」


「んだね。骨さん」


瞬間、ひゅ、と音がしました。


見れば、姉が顔の手前で短剣…くないというそうですが、忍者が使うものを受け止めています。


「え…今、投げたのかよ?」


「これが日本の忍者。そこの慶次郎の旦那でもそうだけど、基本的に相手を攻撃することに躊躇はない。そして、殺意を感じた人…えー、ダリアとベラ子と…白マリだけかよ?」


「だって殺す気ありませんでしたよ。投げろって命令されたから投げただけでしょ?」とクレーニャ…メーテヒルデさんがおっしゃいます。


「ええ。ま、私らは息をするように人を殺す鍛錬をしておりますからね、よほど勘の鋭い方でないと気づかれる事はないでしょう」


「もっとも、俺は博多で見事にしくじったがな…相手が悪すぎた」


「その代わり、東平館じゃ見事に返り討ちにしてたけど…あの連中相手に渡り合える金の旦那はなかなかのもんだぜ。後で聞いたらあいつら、半島上がりの暗殺団でさ、履いて捨てるほど殺し屋を抱えてる帮でさえ仕事頼んでたってんだからよ」どれどれ…うわぁ、こんな暗殺組織があるんですか…。


「玄蘇殿も出自があれでなければ生きてはおれぬと言うておったな。李自成とやらが拳だけでのし上がったのも何となくわかる。ああいう手合いなら、下手な刃物は却って邪魔だろう」放火と爆弾テロのみならず、暗殺専用の小刀を使ってですか。慶次郎様や他の方の記憶を見せて頂きましたが、よくもまぁ普通の人があんな化け物みたいな集団を返り討ちに出来たものです。黒薔薇の攻撃すらかわしそうですね…。


(流石にあたしらをかわされたら泣きますよ…それよりベラ子へーか。煙視認。そっちからも見えませんか?送れ)これは痴女皇国の黒ダリアですね。滑空翼を装備して現地付近の上空から見てくれています。


(こちらからも視認。座標特定。周りに一番近いので誰がいますか?送れ)


(シュバルツェーネですね。村正門まで500m。送れ)


(マリアだ。ダリア、シュバルツェーネに正門へ接近させろ。地上組は旅姿だな…お前はシュバルツェーネ後方の街道に降下、後方から光学欺瞞入れてバックアップ追尾。送れ)


(了解。他の面子はどうしますか。送れ)


(最接近者以外は村の中心から3キロは離れてるな…現地点維持。可能な限り各員に高所に上がりセンサー観測を指示。送れ)


(ダリア了解。みんな聞いたね? 降下中。着地次第所定行動。フェイスカメラ、リアルタイム撮影になってますよね。映像確認希望、送れ)


(ああ、映像来てる。んじゃ異変はこちらでも観測してる。何かあれば増援送る。おわり(おーばー)


(りょーかい。心話一旦切ります。おわり)


「みんな。村の位置はとりあえず特定できた。今、偵察衛星で一番近いのがロックオンして追尾中。スケアクロウ13号機も…上空に移動したな」


「マリア。アクティブセンサーや対地レーダーは切らせるぞ、かめへんか」


「あいよ。こっちで観測衛星クラスターのレーダー入れてるし、スケアクロウのは切らせてOK」


ブリーフィングルームの正面スクリーンに出た各種映像がにわかに慌ただしく切り替わって行きます。


「黒マリ、オラトリオ・ラウダ、マドリガーレ、バッラータ照準軸線リンクOK。オラトリオ・アルス=ノーヴァとのチャージリンク確立。オラトリオシリーズのアクティブスイッチ操作権限あたしが握っていいかな」


「撃つなよ、絶対撃つなよ」


「督促されてるのか悩む返答やめなさいよ。とりあえずテンプレスの対地兵装はフューズアクティブまたはセイフティ、アンロック。いつでもボコれるわよ」


「スケアクロウのコンフォーマルポッド、通常装備だっけ。かーさーん、マスターアーム入れるだけ入れといて。あとベラ子、シュバルツェーネは機能限定処理してたよな。十人卒で間違いねぇか?」


「ですね。男性機能リミッターも入れてます。通常なら人間女性にしか見えないはずですよ」


「…なんか知らんけど、こんな上空で皆が離れてるのに指揮が取れてるのが凄えんだが…そりゃ俺ら、負けるよな…」黒ひげがうめいています。


「うん。カリブ海の時もスケアクロウいたからさ。ぶっちゃけ狼煙台とかナッソーの町の動き含めてあんたら全員上空から丸見えだったって思って」


「…今なら言える。あんたらに戦争を挑む奴は世界最高の間抜けだ。…人間ならな」


「ま、神様がついてるかどうか今からわかるさ。とりあえず旅の娘に擬装した黒薔薇の子が正門に近づいたな。シュバルツェーネ…転びかけたふりしてパン籠のパン、地面に落とせ。最低一本は勢い余って踏んづけてくれよ」


(シュバルツェーネ了解。…あいたっ!)


(よし、なかなか迫真の演技だったぜ。痛がるふりをして村人が出てこなきゃヨロヨロして立ち上がって助けを求めに入れ)


(了解ですぅ…)


「あれ…何撒いたんです?」嫌な予感がしますが聞いてみます。


「改良型インポタケ胞子。微量だけど一種の放射線を出すんだ。あと蛍光発光する。黒薔薇と紫薔薇の聖環なら環境センサで検知可能だよ」


「繁殖種じゃないでしょうね?」


「あ、それ考えてねぇわ」


「ねーさんは後ではりせんとして…とりあえず誰も出て来ませんね…突入させます?」


「待て、後ろからダリアが来てる。ツーマンセル組めるようにして行かせよう。ダリア、シュバルツェーネの後方。最低50メートルは空けて村の正門に近づいてくれ」


(ダリア了解ー。今のところ、村が消える気配はありませんね)ダリアの視点で村の門が見えますが、変な形の板細工です。しかも黄色に塗られてるし…。この時代にペンキとかあったんですかね。


「よし。シュバルツェーネ。門をくぐれ。ダリアはいつでもシュバルツェーネを引き戻せる位置についてくれ」


そしてシュバルツェーネが門をくぐる瞬間。


「ダリア!引き戻せ!」姉が叫びます。


普通の人間なら絶対に門が消えて無くなったように見えたでしょう。しかし、MIDI化したあたしと…恐らく姉二人には村が隠れる過程が確実に見えたはず。


「村が…消えやがった…」


「ああ、神隠しだな…」


「慌てるな捨丸。そして髭の御仁。大将殿が落ち着いておられるという事は、むらが失せたからくりがわかったという事じゃ」キセルという喫煙具を優雅に使われる慶次郎様。最近は姉も時々ヤニっていますし、何よりこれを使うのまでやめさせるのはこの方に失礼らしく、姉二人が場所指定で許可しています。


「えー、ねーさん。タイミングよく宇賀神さんから報告。たぶん安芸之介の夢って話だと思うって言ってますよ。神隠しって言うより、極楽みたいな国で二十年ほど過ごした後で人間の世界に戻されるんですが、うたた寝しててほとんど時間が経過してなかったって奴」


「あー、南柯郡大守伝…邯鄲(かんたん)の夢の類似品か…しかし、夢や幻想の国じゃねぇぞあの村。確かに物理反応あったよな」


(マリアさん。あの村消えてなくなってませんよ。シュバルツェーネが一歩足を踏み入れた際のインポタケ胞子、それからわざと駄洒落菌変種持たせてたでしょ。多分それ、あの丘の上から出ますよ)


「了解。一旦は村から離れて監視継続。炊事中だし長くは隠れてられねぇはずだ…」


「大将殿。南柯郡大守伝と言えば、確か寝ている際に蟻の国に誘われた話であったか」


「ええそうですよ。その小泉八雲って作家の話も舞台が奈良…大和国に変わっただけで大筋は同じです。何であのおっさんはそれを…ああっ!白マリ!あの丘をリモートセンシング精密スキャン!特に地上から地中!絶対に直接行って手出しすんな!」


「何よ黒マリ…あ、アリさん…」


「ああ、八雲の怪談みたいにアリの巣そのものじゃないかも知れないけど、あの村が消える瞬間の動きで納得できたぜ。奴ら、転移や偽装じゃない。村ごと小さくなってたんだ!」

けいじ「ところであの最中に聞くのは憚られたんじゃが、おらとりおとか言うのは何じゃ。大将どのがわざわざ撃つなとかいうくらいじゃから、碌でもないもんだとは思うが」

黒マリ「お天道様の力を借りて今必殺の一撃をお見舞いする大砲にございます、殿」

けいじ「いやいや、わしが殿呼ばわりなぞこそばゆいわ。…利家が生きておったとして、金沢城に見舞うと驚きよるもんかいのう」

黒マリ(金沢の町ごと焼き払うようなもんですからダメですって…もしも蛇や巨人が湧いて出た場合の消毒用っすよ汚物の…」

白マリ(ねぇねぇ捨丸さん…慶次郎さんってまだ金沢に色々根に持ってる事あるの?)

すて丸「…四井主馬が生きてる間は根に持つと思いますよ。なんせ佐渡攻めの時に親不知…越後領内まで来て射殺する気でしたから。あたしと骨の旦那が焙烙玉で返り討ちにしましたが」

白マリ(あー、そりゃ根に持つなって言っても持つわね)

すて丸「ところでまりや様が二人の件ですが、旦那はそっちの方が内心あれっと思ってるようで」

白マリ「基本的に二人とも同じ。ただ、素直に育ったらこうなる部分を強く持ってるのが金髪のあたしで、やさぐれ部分を多めに引き受けてるのが黒髪のマリア。だから性格の根っこは同じだけど人当たりはだいぶ違うのね」

すて丸「うちの死んだ兄貴とあたしより似てねぇな…」

黒マリ「まぁ口調と態度が違うだけで中身は同じ、できることも同じだな。ついでにあたしに言った事は全部白マリに伝わるぞ」

白マリ「だから逆にあたしに言うと黒マリにも伝わるのね。捨丸さんがうちの子で誰か好みがいたら伝えるわよ」

すて丸「いやいやいやいや、あたしはもう間に合ってますのでっ」

黒マリ「なんでーおもしろくねーなー、アルト辺りからめてやろうかと思ったんだが」

アルト「そう言えばあたくしのでばんがっ」

黒マリ「おめーは今回やりすぎるからだめっ」

アルト「ええーてかげんしますよー」

黒マリ「まぁ、勇者軍団ってのが出てきたら呼びつけるかもしれねーから」

てるこ「あたくしのでばん」

黒マリ「初代様ももっとやり過ぎそうだからな…」

クレーゼ「ではあたくしが久々に白金衣を着て」

黒マリ「母様はもっと自重しなさそうだからダメ絶対」

クレーゼ「マリアー、あたくしそんなに信用ございませんの?」

黒マリ「母様。うしろ」

でるこ「クレーゼ。そちには拳だけでは足りぬか。朕の脚を受けてみるか」

クレーゼ「ぎゃあああああ」

黒マリ「全く、金衣は血の気が多くて困るぜ。あ、初代様。その真っ黒いオリハルコン製のはりせん、懲罰具倉庫に戻してください」

てるこ(ちっ…マリアリーゼは鋭いですからね…)

白マリ「オラトリオの照準コントローラ、あたしが握るからね」

黒マリ「おい待て」

白エマ「テンプレスのCIC立入権限もロックします」

黒マリ「ちょちょちょ(くくく、テンプレス2世の存在をみんな忘れてやがる…)」

黒エマ「すんませんねーさん。かーさまからテンプレス2世の兵装、駄洒落菌弾頭になってんの忘れんなよと伝言がっ。あとMIDIの破壊系兵装は今回やめてくださいね」

黒マリ「MIDIの兵装制限は今回に限らねぇ気もするが…」

ベラ子「全く、おとなしいのはあたしくらいですね」

たまも「ケマコシネカムイとシトゥンペカムイからのあずかりもんとどけに来ました」

ベラ子「あー、ねーさんが頼んでたあれね。ちょっと借りとこ」

黒マリ「ごらぁベラ子。12日間火災確定物件を勝手に持って行くんじゃねぇ」

けいじ「皆、血の気が多くて困るのう」

すて丸「旦那…悟洞の遠町筒、勝手に使うと怒りよりますよ…」

おまつ「全く殿方も女性も困ったもので」

かなこ「まつ様。その小太刀はお預け願います…何かこう、やり過ぎが怖いですわ…」

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