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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


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Unbeaten Tracks in Japan - 日本をめこ紀行 -「吉原炎上編」

「やれやれ、色々仰天することしきりじゃ」からからと笑われる慶次郎さんの前で、もじもじ恥ずかしそうにしている姉ですが。


「いやーすんません、うちの国と言うか聖院の成り立ちとか色々説明不足で」


「はっはっはっ、聞いてしまえば大した事はない。河原者の芸や、忍びの術と同じよ。種も仕掛けも分からぬから人は惑うのじゃ。のう捨丸」


「え、ええ…」


(ああ…骨の旦那の仕掛けで危うく(タマ)を取られそうになった過去があるのね…)


(ええ、もう松風に助けられてなかったら確実にここに立っておれませんで…)


「それより大将殿、あれが日の本であの辺が江戸と申されるか」


「そうそう。んであそこが京都であれ琵琶湖」


えー、テンプレスの現在の姿勢ですが、艦首を地球側に向けております。ですのでカメラとか使わなくても真正面の窓から地球が見れる状態ですね。更に極軌道(SSO)とやらを取っております。


普通、人工衛星だの宇宙船だのというものは地球の赤道を基準にして横に回るそうですが、極地観測を含めた大地を調べる場合などで縦回りした方が都合が良いこともあるそうでして…。


「地球の中で年がら年中雪と氷に覆われているといえば南極と北極に尽きる。更にアルプスだのヒマラヤだの、そして例のいけにえ村のある自由恋愛国…北極圏に国の相当部がかかってるからな…この辺りの上空を軌道遷移すれば総ナメできるやろ」という聖院ジーナ母様の意見で、実際に地球で冷えてる場所を見学して頂こうとなりました。


「うまいこと生贄村があるらしい地方の上空を朝とか夕方の時間帯に通過できたら、料理をこしらえてる煙を発見できるかも分からんのよなぁ。マリア、あの辺のパンって時間かけて焼く奴か」


「うんにゃ。あのせんべいみたいな薄いやつ。酵母使わない筈だよ」


「えーっと、クネッケブロートね。小麦粉足らないときは木の皮とか混ぜて焼くの」


(ですね。うちの村もそれです。火を使うのは、聖なる炎以外では夕食前の調理が一番薪を燃やしていますね)


「とりあえず自由恋愛国の上空はじっくりねっとり通過しよ。それとな、痴女宮のエマちゃんから、テンプレス2世は今動かせませーんと言われとるけど、あれか? オラトリオ、こっち持って来るせいか?」


「そそ。今回はオラトリオを待機させておくつもりなんだよ。で…あれをダイソン発電から外すとさ、代替電力が北米他で必要になるとか色々弊害があってさぁ…とりあえずテキサスとサハラと英国に痴女宮の備品の融発モジュール持って行ってる関係で痴女宮の発電設備が心もとないんだよね。んで…」


「皆まで言うな。テンプレス級の発電所機能を使ってるから出航不可能なんやろ? まぁ、前にそっちのエマちゃんがやらかした時と事情は全然違うし、しゃーないわな。んでオラトリオは3基とも軌道遷移済んどるんか?」


「うんにゃ、とりあえずうちらとカブらないようにして100キロほど上の軌道周回させてる。バレルクーラー、拡張タイプに交換してもらう必要もあるし」


「よしよし。本番でタングラムとアルス=ノーヴァの中継射線から外れへんようにしてくれたらええわ」


「そのおらとりおというのは何じゃ」


「んー、こんなの」と姉が直上のものを見せております。


「ふむ。大砲(おおつつ)と見たが…」


「本来はお天道(てんと)様の周りに置いてる数珠みたいなので作った目に見えない(かすみ)を、こっちに持って来てるのが、今横に船がいてゴソゴソやってもらってる奴の親玉なわけよ。これこれ、これがオラトリオ・アルス=ノーヴァ。んで太陽…お天道様の反対側に同じもんがあってそれがオラトリオ・タングラムって名前でね。この模式図見るとわかりやすいよ」


「ほうほう。お天道様から出てるのが霞じゃな」


「で、こいつを地球側で受けて、今は北米大陸…うちの支部の近所にあるのとか、他二つの受け皿に流すのがこいつの元来の役目なのよ。今、大砲の砲身を冷やす巻物を交換してもらってるのがオラトリオ・ラウダ。あと、オラトリオ・マドリガーレとバッラータっていう同じのが別の場所にいるけど、こいつら三台をうまく使うと、あたしがさっき月で実験した刀くらいの事はできるんだよ…できるんだけどね…」


「何か困る事でもあるのかの? それがあれば例の蝦夷の宝剣をわざわざ借りる話にもならんであろうが…」


「そーなのよー。ちょっと威力あり過ぎてねー。おまけにモノの性質上、細かい加減がちょっと厳しいのよ。普段はおてんとさまの力をこっちに持って来てあたしらが使いやすいようにするだけなんだけど、大砲として使うとかなりえげつない事になるから…今やってんのは、大砲にすると熱くなって壊れるのを防ぐために冷やす仕掛けをつけてると思って」


あー、それでアークロイヤルが横にいるのか…。


(そーそー。なんせ慶次郎さんの時代の人にはさ、そもそもマイクロウェーブ発電やらダイソン球はもとより電気の概念知識自体がねーだろ。説明に苦労すんだよな…)


(もともとこれ、連邦世界の地球にあるやつの丸パク…エマちゃんのやらかしの後でおっさんに作らせたやつでしょ?)


(んだんだ。で、そもそも地球で使ってたから電子ビーム兵器運用時用のバレルクーリングジャケットを装備してなくてね。あたしらもMIDIあっから別に兵器運用する時につけりゃいいかーって思ってたらこれよこれ)


(慶次郎さんの疑問、あたしも思うんですけど、何でこれ使わないんですか?)


(っとな。この後でオラトリオのテストを兼ねて、テンプレスを東京湾の江戸前に停泊できるように浚渫(しゅんせつ)する作業で使う時にわかるよ。あれ、照射範囲絞っても周囲に電子レンジみてーな副作用効果があんだわ。で、ビーム射線が着弾した周囲の水気を含む物にも影響があってな、片端から電子レンジに放り込むか、大出力レーダーの前に置いたように料理されちまうのよ。だから臨時にMIDI持って来て格子構造シールド、江戸城との間に構築するぞ。…あと、日本橋側の防壁構築にはベラ子も手伝ってもらうからな? 聖炎宮での火葬やる時の要領だから手順は白マリに聞いといてくれ)


(ええー、めんどくさいなー)


(我慢しろ我慢。それか、あれのバレルアッセンブリ交換作業やるか? 高出力照射時間10秒を超えたら砲身交換になるからなるべく使いたくねぇんだよ…砲身、無料(タダ)じゃねーんだぞ…)


(何でNBの船がオラトリオに手を入れてるのかと思ったらそーゆー事ですか…)


(全く同じもんをNB植民地改造の際に設置してんだ。だから保守パーツは手に入る。んで、兵器運用さえしなきゃ100年200年は余裕で持たせられるもんなんだから、使うにしても5秒くらいで留めたいわけよ…)


(なるほど、それで出来れば使いたくないと…)


(本当ならMIDI06で十分こいつの代わりはできる。だが今回、MIDIは超光速粒子銃を構えて自由恋愛国の真裏に配置する必要があんだわ。位置でいうとニュージーランドの東くらいかな。だから代わりのビーム系火器の用意が必要という訳だよベラ子君。宇宙空間を含むいくさはめっちゃ金がかかるのだ!)


「えー、エマニエルですぅ。すんませんが試射予定地、東京湾の代わりにちょい北の辺りにして欲しいんですけどっ」


「おや黒エマちゃん、どないした」


「いやね、おかみ様経由の要望。江戸開発自体がまだなのに比丘尼国の神社作るのはまだ先の話になるやろと。ならタヌキさんに請願寄せてる御免色里の話あるじゃないですか。あれに元伊勢噛ませる代わりに開設早めたげようって案が出ましてね。んで予定地の湿地帯の脱水硬化干拓に使わせてもろてもいいすか?」


「あー、あの庄司甚右衛門と風魔小太郎がタヌキさんに頼んでたアレか…」


「ほう。庄司甚内か…あのお子が甚右衛門を継いだとは聞いたが」


「え、慶次郎さん知ってんの?」


「おう。小田原平定の際に箱根で小太郎と先代甚右衛門に紹介されてのう。そこの外道丸どのくらいの子供のなりで、いっぱしの唐剣法を使うから覚えておったのよ」


「更に言うと甚右衛門殿を引き合わせたのはあたしの繋がりでしてね。河原者頭(かわらものがしら)をされているようなお方、流石に付き合いなしに()()()忍びは出来ませんから」


「吉原か…おかみ様ー、出雲の会議中だと思いますけど、今大丈夫です? 吉原色里の件、うちのエマニエル夫人2号から聞きましたけど」


(誰がエマニエル夫人ですか…まぁ、ジーナかーさまが頑なにあのエマニエル夫人ヘアをやめないからあたしも付き合うしかないんですがねっ)


(更に言うとあたし、聖院エマニエルはエマニエル夫人扱いが嫌で敢えて髪型変えてますっ)


「やかましい仕事しやがれっ…へいへい。最初はうちから巫女出して仕事の形を作るが、開拓に伴って普通の遊女専門にして行くと…はあ。で、山谷堀を掘るのと吉原の敷地固めるのをしてくれと。横浜遊郭は今は手をつけないでいいんですか? そっちがおかみ様の本命っつーかタヌキさんが出してきた折衷案でしょ? はぁ、陸蒸気こさえて大使館やら港が出来てからでいいと。了解。とりあえずエマニエル夫人いてますしやっときますよ。タヌキさんに伝えてくれますよね…今あたしら宇宙空間ですよ…はいはい」


「ほぅ、とうとう甚内の奴、御免状を交付して貰いよったか…」


「ああ、なんか根気負けしたとかタヌキさん言ってるみたいだね。あと風魔忍軍を野放しにもできないと言う話もあったみたいで…」


「おう、大将殿もご存知であったか」


(正直さぁ、おかみ様のやってる女郎神社あるっしょ…あれともろに話がかぶるからうちらでも対応困ってたんだよ…そっかー、慶次郎さんの身内だし食うの困ってんのいるんだよねー。わかったわかった、なら早めに開業できるようにしてあげるか。とりあえず旦那、米沢戻って引越し準備しようよ)


「とは言え、江戸で住むところをどうするかじゃな」


「慶次郎様、前田屋敷も上杉屋敷も使えますでしょう…」


「す・て・ま・る・さ・ん」流石にこれはちょっと空気を読んでいないので、あたしがお説教します。


(ほら!慶次郎さんと伽子さんとおまつさんの都合!)


「…ああ、大陸でも捨丸は雰囲気を読まなかったからな…」


「旅がはかどらんと言って苛々しておったからのぅ…はっは」


「捨丸の旦那、朴念仁なのが取り柄の一つですからなぁ」


「みんなひでぇじゃねぇか!俺だって住宅の手配とか色々考えてたんだぞ!」


「あー、住むとこないのか。そんなもん簡単よ。落ち着くまでこの船か、痴女皇国に置いてるけどもう一隻のこいつに住んどけば?部屋は余ってるし。何なら連邦世界の日本からプレハブ住宅取り寄せてやんよ。ほらこんなの」と、姉が仮設住宅のカタログを見せています。


「何やったら、そっちの21階か22階の部屋から通えるようにしたったらええんちゃうん」


「とまぁ、一夢庵の家財道具さえ積み出してしまえば何とでもなるのだよ。このいけにえ村の件さえ片付けば、横浜港整備や公使館建設に取り掛かれるからね」


「なるほど。確かにこれほどの船だ。船乗りが暮らせるようになっていない方がおかしいだろうな」と悟洞さん。


「とは言え、公使の方々とのご挨拶もありますし…痴女宮の上の階の方が良いのでは?」とあたしが意見。


「まぁ、うちの上ならいいだろうけど、問題はだな、日本の和式生活に慣れた方々には西洋風の暮らしを強いる事になってしまうのだよ…」姉が割と深刻そうに申します。


「一夢庵丸ごと転送という手もありますけどね。ただ、痴女皇国だと真剣に暑いんですよ。慶次郎さん、唐入りの際に美麗島立ち寄ってるでしょ、台湾。あそこより暑いんですわ、うち…」


「まぁ、南蛮の暮らしを知っておくのも手じゃ。それに…一夢庵はあのままにしておく方が良いとわしは考える。米沢を永遠に離れるような振る舞いをすれば、景勝殿や直江が寂しがるしな」


「旦那が遊んでる子供らも寂しがりますぜ」


(慶次郎さん、子供好きらしいのよ…)


「ふむふむ。うちの国にも子供いますよ」


「ほう。遊女の寺と思うたが…おう、でかい寺子屋があったのう」


「そそ。実はあれ大きくした理由があってね、子供を育てるのに困った親から預かったり、捨て子を受け入れたりするためなんだよ。元々は元服直前くらいの大人になりかけの子供とか、学者や賢者志望の大人を受け入れたりうちらが研究やら何やらをするための学び舎だったんだけどね。修学宮って名前つけてて、遊郭の建物とは分けてんのさ」


「慶次郎様。伽子さんのお琴の手習いもございますでしょうし、わたくしも一度あそこに住んでみとうございます。江戸の上杉屋敷や前田屋敷に通えるようにはして下さいましょう。食べ物については、箸で食べるものをまかないで出されておるようでございますよ」とおまつさんが鶴の一声を。


(殿方と申しますのは、こと日頃の暮らしが変わったり慣しが変わる件につきましては、割と優柔不断で悩まれる事がございます。わたくしと加奈は若返りの際にそちら様の事どもが頭に入るようにして頂いておりますからまごつく事はございませんが。まぁ、慶次郎様は目新しい事が好きな御仁なので興味を惹かれるものがあれば勝手に色々聞きの学ばれのをなされますよ)と、姉とあたしにおまつさんが入れ知恵して下さいます。ありがとうございます。


(それよりまりや様。慶次郎様をお膝元に置く方が色々はかどるのでは? わたくしも後押しいたしまするが。ほほほほほほ!)げ、読まれてーら。


(ええ、うちの姉は隠し事が苦手です。認めます。そして、捨丸さんもびっくりの意外な奥手です。決してたのきち…うちの文教部長で痴女宮もてない女コンビの一人を馬鹿にできないのです…ほーっほほほほ!)


(やかましいベラ子、そのもてない女を囲い込んでるのはお前だろうが!)


(たのきちは優秀で従順なので、不肖わたくしマリアヴェッラが付いていないと色々困るのです。初代様には貸しているという感覚なのですっ)


(ふふふふふ、今度たのきちに寝る部屋を選ばせましょうかっ。23階に行かなければあたくしの勝ちですわっ)


(え?初代様、お部屋…23階ではなかったのですか?)


(エマちゃん。あたくし内務局なのに未だに女官寮ですわよっ…まぁ、23階のあなた方と大して変わらないお部屋を頂いておりますが…)


(ひぎぃいいいいい!ななななな何とかしますすすす!)


(あの様子じゃエマちゃん、完璧に忘れてたな、初代様の部屋割り振り…)


(いえ、デルフィリーゼが気を利かせて部屋を替わろうかと申してくれていたのですが、ほら、クレーゼの教育の件がありましたし…まぁ21階ですから内務の事務室までは行きやすいのですがね)


(あと痴女宮の女官管理室って厚労局所轄だから美男公に火の粉が飛んで行く予感っ)


でまぁ、こちらの内輪揉めや日本側の意思統一(おまつさまおしきり)を経まして。


「慶次郎さんたちには長年体に染みついている日本の武士の風習に基づいた生活習慣があるので、いきなり痴女宮の規則を押し付けるのもいかがなものか。それに馬の世話の問題がある。人間は痴女種あるいは対応処理されているが、やはりうちの熱帯性気候は慣れていないと辛い。ついては智秋記念牧場内に一夢庵丸ごと複製を敢えて提案したい」と言う姉の判断が下りました。


「ああ、雨が多くては松風と野風が嫌がりますわね…」これにはおまつさんも納得せざるを得なかったようです。


「車はおろか、馬も走らせる場所が限られるんですよ、うち…」


「馬はごるし君が牧草や岩塩や水場の割り振りとか厠の場所を教えますから、あの二頭なら覚えてくれるでしょう。何よりぷらいばしーの問題がございますしね」と、姉と初代様もフォロー。


「ああ、そうか…馬達にはあの暑さはちと厳しいのぅ…」


「ざざ降りの大雨が日に一度、必ず降ると申しますしねぇ。洗濯などはからくりを置いて頂けますし、近くに川もございますようで」


「食料も届けてくれるならよいのではないか?」


「加奈様とおまつ様のお部屋を増築頂けるようですし、私には異存ございませんな」

と、日本側の同意を得て、エマちゃんが叔父様譲りの本気忠実コピペ+増築加工をやってのける事に。


(精気または代替エネルギーを結構食うから常用したくないんですよ。あたしがこれできるからってあんまり気安く依頼しないで下さいよっ)と釘を刺されましたが。


「まぁ、例のモノレールを一便増やせばお弁当とか届けられるし、何なら道もあるから山を降りて来てもらってもいいしな。おまつ様の聖環は場所限定で転送処理を許可してるから、緊急時には一瞬で痴女宮に来てもらえるし」


そうです。道に沿って例のみかん畑モノレール、出来ました。


こちらは修学寮の子供たちの牧場実習の足を兼ねているので始発場所と車庫は修学寮裏手、堤防を少し歩いて牧場への通称・痴女皇国道1号線の交差点に出る手前に設けられています。


ちなみにまたの名を酷道1号と呼ばれるこの道、聖院開闢記念大堤(しばきあいのばしょ)の堤防だけでなく門前町に繋がっておりまして、淋の森公園の外れに出てきます。


聖院湖のダム頂部から門前町までの高低差200メートルをクリアするためにぐねぐね曲がっていますので、修学寮の子供たちが淋の森公園に実習に出たり遊びに行く際には例の陸橋を使う方が近道になりますけどね…。


「では申し訳ないが、行って参り申す」


「ま、慶次郎殿であれば朝飯前であろう。兼続には諸々頼んでおる故、何かあれば頼られよ」上杉景勝様他、上杉家家臣の方のお見送りを受ける慶次郎様御一行。兼続様は芋煮の後で江戸屋敷に転送されています。あと、母様たちを米沢で待たせてはかわいそうなので、芋煮の翌日の米沢に戻っていますよ。


「太刀の一つも渡してやりたいが、済まぬのう」と申し訳なさそうにしている大男は山上道及(やまがみどうきゅう)という方で慶次郎さんの戦友みたいな付き合いの人だそうです。


「お主が行けば、またぞろ首供養の手間を増やす事になるではないか。それに異人相手では、仏の作法で供養されてくれるかは分からぬぞ?」


「なるほど、祟られるのはかなわんからなぁ」はっはっはっと笑い合っておられますが。


(なんでこの時代の日本って、こんな方ばっかりなんですかっ)


(おめーの叔父貴や愛人やら串刺しやら美男公見てりゃわかるだろ。あたしらや比丘尼国朝廷が差し止めしても、この時代だと戦争で殺したのは十人や二十人じゃきかない人がゴロゴロしてんだよ…)


(それも剣やら槍やら弓矢やらでその数字ですよね…どんだけ無双してんですかこの時代)


(鉄砲の保有数制限してこれだからなぁ…)


「旦那ー、家財道具、()()に積み込んで頂きましたよー」エマちゃんの傍の捨丸さんが遠くから呼んでいます。


(はーやれやれ、ネパール並みに厳しいなここは、横風成分ありまくりやんけ…)


そしてスケアクロウ11号機をテンプレスの甲板に降ろして来た痴女宮の方の母様が。


「盆地だししゃーねーじゃん。とりあえず聖院湖にに戻るかー」


「んじゃ、あたしは先に牧場行って一夢庵の別院作っときますよ」といつもの◯方スタイルで、エマちゃんが先行して転送で消えます。


(聖院湖の接岸場所空いてるんか?)


(アークロイヤルがどいてるはず。3番4番は遠いし、出来たら2番がいいね)


(まぁ、上空に出て様子見てから降ろしたらええやろ。そろそろ乗艦頼むで)


「はいはーい」


「じゃ、慶次郎さん、行くかい」


「芳春院様。前田家の世話になり申し訳ござらぬが、慶次郎殿の処遇、何卒よろしくお計らい下さり申す」


「お任せ下さいませ。朝廷に加えてまりや様の後押しがございますれば、江戸にそれなりの顔も出来ましょう」景勝様の前で自信に満ち満ちた若奥様という雰囲気で、和装のおまつさんがにっこり笑っておられます。


(秀忠さんには、監督役としておまつさんに付いて貰う事が公使館護衛役の条件だよって言っといたんだ。ま、野郎所帯じゃ色々滞る事もあるだろうし、加奈さんの他に必要があれば加賀藩から女中呼んだりしてくれるだろ)


(そりゃそうと、うち側の人選どーすんですかっ)


(最初はアルトとナディア姉妹で行くかって思ったんだがよ…あの二人抜くのも支障出るじゃんか…それに比丘尼国仕様の女官種でなくて、うちの痴女種にしてる人がいるだろーがよ、二人…)


(えええええ…大丈夫なんですか?)


(本人二人の承認は取った。あとは国元の話をつけるだけだ。…痴女宮での研修は、いけにえ村が解決してからでもいいだろ?)


(まー、その辺はねーさんに任せますがねー…)


(安心しろ。二人とも公然と慶次郎さんに絡めるからやる気は満々だっ)


そして皆してテンプレスに乗り込み、汽笛一声米沢を離れます。


そして痴女宮。


「で、慶次郎さん。うちも人手不足なんで、この件について了承願いたいんだけど…」


「正直、監督役には適任であろうが、監督されるわしらがあまり気ままに過ごせぬのでな…なるべく早う前田屋敷に…」


「だけど本人、尻に敷くどころか下手したら慶次郎さんの子種搾り取る気満々じゃん…いや、伽姫様の懐妊の方が順番としては先だとあたしも思うよ…」


はい、皇帝室秘書課に浴衣っぽい着流し姿で来られた慶次郎さんとうちの姉、小声でひそひそ密談中ですが。


「おまつ様だけならまだしも、加奈殿がきっちりした性格でな…あの細かい捨丸ですら布団の上げ下ろしやら飯の支度やらで難儀しとるんじゃよ…」


「ところが加奈さんは割と捨丸さんを買ってはいるからねぇ…」ああ、生活指導を受けているのですね。ニオオフラーネさんもついてはいますが、なんせ彼女は北欧生活が基本、日本の暮らしには馴染みがないと言う事で女官寮生活が基本です。


「なら、加奈さんからまず洋風生活に慣らして行くか…ニオオフラーネさんと交代で女官寮入りするように女官管理室に指示を出すかねぇ」


「江戸住まいでも逃げられそうにはないであろうな…」


「ま、訓練にかこつけて息抜きしてきてよ。とりあえずうちのエマ助が吉原色里開設工事、必死になってるし。もう建物も出来て甚右衛門さんや小太郎さんが住んでるっしょ?」


「あそこの近所に、くだんの村を見立てた修練場をこさえてくれたのは真剣に助かるわい。鍛錬ついでに甚内や小太郎と酒が飲めるしな」ああ、なんか家に帰りたくない日本のお父さんみたいな事言ってますね…。


はい、吉原を切り開くのにひと騒動ありました。


まずは神田山から木材になりそうな木を全てどけるわ、江戸城前の入江から海洋生物を退避させた上で、一瞬に東京湾を隆起させーので干拓を終えたエマ助。


そして神田山とお茶の水渓谷を掘削した土を被せて東京駅から日本橋になるあたりを陸地化した返す刀でですね。


オラトリオ三基の電子ビームで吉原の湿地帯を焼き払い、ついでに神田山の残土で整地。


んで神田川から隅田川、そして山谷堀に、吉原を囲むお堀を一気に建設しまして…。


わずか1時間程度でこれらの作業を済ませてしまう神技を見せつけて幕府の皆様を唖然とさせておりました。


(横浜の方は漁師の立ち退き移転交渉が済み次第取り掛かります。ま、退けるものさえどけて貰ったら護岸工事含めて一日仕事っすね。堤防とか灯台とか細かい仕事入れたらもうちょいかかりますがっ)


「ま、大将殿の国に逆らう阿呆、これで幕府にはおらぬようになるであろう。しかし…甚内が嘆いておったぞ」


「あー、若返りさせすぎたあれね…」


「ダリアが悪ノリするから…」


「わしも優男に見られて苦労したから分かるのじゃが、荒場で舐められるんじゃよ…ほれ、甚内と知り合うたのがそもそも、あれが色小姓(男の娘)に見られて揉めておった時であったから…」と、ご自身の頭をつんつんと突いておっしゃいます。


あ、慶次郎さんはあたしたちが頭の中の記憶や考えが読めるのご存知です。


で、早速にも活用に及んでいます。


んで…姉は慶次郎さんや他の方には頭の中をなるべくオープンにしているようですね。このこの。


(やかましいベラ子てめぇ…たのきち調教中の姿を流すぞっ)


「あ、陛下、いい所に。実は公使館準備室から依頼がございまして…」と、そこにルクレツィア母様が。


「これはパークス公使だけの判断ではなく、本国からの要請ですわ。現在日本の江戸並びに横浜を視察後、痴女皇国経由で本国への帰途に着く予定のカティサークと、痴女皇国滞在中のイザベラ・バードを臨時に自由恋愛国に派遣していけにえ村の風習に関する実態調査を依頼したい。可能であれば痴女皇国の現地対応を見学したいと…」


「はぁ? 何考えてんだ…」


「どうやらネルソン提督から本国への報告で動いたようですが、英国の本音は北欧方面の貿易活動に対する支障排除について貴国に相談したい。可能ならカティサークのいけにえ村討伐作戦参加をネルソン提督に指示するから、必要なら活用して欲しいともパークス公使から言われていますわ」


「ふーむ、んじゃバードさんとカティサーク連れて行くか…とりあえず公使館に話をしに行くべ。慶次郎さん、るっきー、悪いけど同行してくれる? ベラ子も行くぞ」


で、エレベーターを10階で降りて修学寮を経由し、陸橋から淋の森を目指します。


実は淋の森、完全な平地ではありません。


現在の陸橋が降りている辺りはもちろん、今はバチカン聖母教会が占めている、かつての階段があった辺りもちょっとした丘になっていまして、痴女宮や修学宮から見ると5階か4階くらいの位置に教会や外交官施設が建っています。


更に陸橋側から各教会に階段が伸ばされて、いわば裏口から痴女宮の方に行けるようにもされています。


そして東方聖母教会の後ろを越えて、陸橋突き当たりの淋の森に向かう階段手前に英国国教会建物に降りる階段が別にあります。


そして階段を降りて通用口にいた警備騎士…痴女皇国の騎士にかなう人間は用意できないだろうという事で、各国教会もとい公使館は駐在武官を置かずに痴女皇国に警備を依頼する方針にしているそうです。


それに、建前では教会ですからね…。


で、警備騎士が通用扉を開けてくれます。この辺りはあたしたちの姿を見る前から、警備担当者が心話と聖環で教会側とやりとりしていますので円滑に進みます。


「ほう、腐らせる…というのは失礼であるな。ただ、生の茶葉では長く置いておけぬゆえにこうなさるのは分かる。わしらの作法とはいささか違うが、なかなかに面白い茶じゃ」と、英国風紅茶の感想を述べられます。


(あとさぁ、向こうは飲める水が取れる場所が限られてくるんだよね。あたしらの元々の世界ほどひどくはないけど、日の本より土地の成り立ちが古い分、湧き水に余計なもんが混ざり込んでてさ、茶の味が変わっちまったりするんだよなぁ)


(故に他国に手を伸ばさざるを得ぬ、か)


(その辺、あたしらの世界でのぶりてんがやった失敗教えて指導してるから、だいぶ大人しいけどね。この茶は主に天竺で取れるから向こうと共同でやらせてんのさ。あの速い船も、本来ならこの茶を本国に持って行くために作らせたんだ…本来ならあまり肩入れしたくないけど、あたしの爺さんがよりによってこの腹黒二枚舌外交大国の出身でね…ま、嫌な話はこっちが引き受けるよ。あたしも一応、その嫌味ジジイの家系で血を引いてるからあしらい方はわかるさ)


(はっは、家康殿すら翻弄しよる大将じゃ、任せる故に余計な口は開かぬ。安心されよ)


確かにうちの姉の外交手腕、あたしが見てもかなり上手です。いかに武力や未来技術、果ては神様の類の力の裏付けがあるとは言え、強気一辺倒ではありません。


必要に応じこちらの弱みを敢えて見せたり、餌を巧みにチラつかせたり…。うちの叔父叔母はもとより戦略の専門家たる元・無職オジですら上皇陛下の前でうかつな話は出来ないからマリアヴェッラ、何とかしてこれをとあたしを頼る有様です。


最近ではイザベル陛下すらこの技を使い出しましたが…あの若くて綺麗な陛下を見るとついつい以下略で、2回に1回はちんぽでお返事ごほごほ。


(おっさんかお前は。どっちかというとベラ子も元来はSENKAされる側のキャラなんだがよ…それはいいとして、バードさん体調どうよ)


(もう大喜びですね、周りが毎日眉をひそめるくらい、普通に歩ける暮らせると大はしゃぎしてるみたいですねぇ)


(子供かよ…まぁ脊髄損傷に悩まされてた人だからな…パークスさんが北欧行きを思いついたの、もしかして厄介払い…おい、絶対にバードさんに慶次郎さんの刀を見せろとかいらん事しゃべらせるなよ?)


(はいはい。あと指示通り、本人を一人卒化してるのは内緒で)


(マインドコントロールまでは必要ねーわ。それするとあの人の取り柄まで潰しちまうからな)ってな事を裏で打ち合わせしつつ、パークスさんの話を聞いております。


「しかし、ネルソン君にも困ったものです。今回の討伐作戦は時間的に急ぐ部類の話なのですが、乗員休養と補給名目でナポリに寄港して上陸1日のスケジュールを連絡して参りまして…バード嬢だけをそちらにお預けしても構いませんかな」瞬間、あたしは母に心話を繋ぎました。


(かー様、パークスさんの話、聞きました?これ絶対何かありますよ…食料やら水の補給、聖院港でも普通に出来るじゃないですか…カティサークなら聖院港から無補給でスエズ抜けて本国帰還どころか自由恋愛国沖まで充分いけますよ?おまけに今回、聖院港からテンプレスごとまとめて転送で送る段取りでしょ?なおさらナポリに寄る理由ありませんよ!)

ジーナ「なんかタイトル詐欺と言う気もするが、とりあえずエマ助いわく、吉原は燃やしたそうである」

エマ子「エマ助呼ばわりはともかく、ばっちり燃やしました。むしろあそこにいた動物逃すのが大変だったくらいで」

ベラ子「そんな事よりかーさま、ネルソン提督ですよ…ナポリ一日って確実にあれしか考えられませんよ…」

ジーナ「せやな…これはまずいかなりまずい」

マリア「かーさん。更にまずい話だぜ。カティサーク派遣は英国本国の指示だ。パークスさんが言う通りで、バードのおねーちゃんをテンプレスに乗せたら話は済むが、カティサークを別行動させるとネルソンさんが命令違反に問われかねねぇぞ…」

ジーナ「まぁ、素で考えてもそうなるわな」

ベラ子「とりあえずカティサークは絶対に聖院港に寄港させましょう。その際にネルソン提督から死なないギリギリまで吸い上げて使い物にならないようにしておけば」

ジーナ「それ以前に1日あったら決着ついとるやろ。何もかも終わった後に来られても何をしてたという話にしかならんぞ…」

マリア「これは、心を鬼にして今回はナポリ寄港を差し止めするしかないよな…」

バード「時に聖母様。実は往路でナポリに寄りました際に、ハミルトン夫妻が着任した公館で公使歓迎パーティーが開かれましてですね。その際にハミルトン夫人が舞踊を披露」

ジーナ「ぎゃああああ」

バード「で…行きの船でも、船長や提督と士官食堂で食事をご一緒しておりましたけど、どうもハミルトンご夫婦とネルソン提督の仲が異様に良いのですよ」

ベラ子「ひぎぃいいいい」

バード「更に、あの船、今までの帆船と全く違う作りでございますよね…提督室や船長室と賓客室が並んでおります。そして私たちも乗船しました関係で賓客室が足らぬ話になり、ではと提督室にハミルトン夫妻がお邪魔する事に」

マリア「うげぇーっ(恐◯新聞が配達されてきた顔で)」

ジーナ「う、運命には抗えぬのか…」

ベラ子「まだ手はあります!安井金刀比羅宮に参りましょう!」

すとく「気持ちはわかるが当事者のどちらかが参らねばな…朕も受けてやりたいが、二人とも離れる気はないのであろう? 聖子も内侍も兵衛も色恋ならば仕方ないと申しておるのよ。せめてねるそんとやらの妻が来て札を書いてくれれば話は通せるのじゃが…」

ないじ「どうも、はみるとん様も老齢で、妻が喜ぶならばと認めておられるご様子。第三者の縁切り依頼は横槍になりかねませぬから…」

バード「まぁ、うちの国は汚職などが絡まなければ割と寛容ですから、成り行きを見守るのであればよろしいのではないでしょうか。それよりですねっ」

ジーナ「な、なんざんしょ…(この上無理難題やめてな…)」

バード「女奴隷役、私も志願してよろしうございますか。何分にも本国からはできれば色々見て来てくれと話がががが」

マリア「かなり危険ですよ…ハワイの火山に近寄る以上に危ないんですが…」

バード「私も事情は説明しましたが、そんな変な風習の村なら是非観察して来いと(行く気満々)」

ジーナ「オカルト好きの国民性から逃げられんのですか…」

バード「作戦参加を名目にナポリ寄港を拒否できますわよ」

マリア「しゃーねーなー…絶対いらん事しないでくださいよ…」

バード(ふっふっふっ、交渉とはこのように致すものなのですよっ)

ジーナ「なお奴隷役ですが、うちの欧州本部の幹部連中はもとよりマリアリーゼやマリアヴェッラも役に入ります。決して独断先行はなさらないように」

バード「えええええ…はい、承知いたしました…(うわー、勝手にあちこち見て回れないじゃない!)」

ジーナ(ふっふっふっ集団行動管理なんぞうちの本職じゃっ!作戦機担当者の先走り防止措置を仕込んでおかいでかっ)

けいじ「大将殿の母君もなかなかおやりになられる」

マリア(ま、あのおばはんはこういう事にはめざといからな…)

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