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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


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白夜の供花 -Nio skönhet sakristia-

皆様ヘイサン(こんにちわ)


私、ニオオフラーネと申します。


生まれは北欧で、このお話ではポルノ王国だのフリーおめこ王国だの無茶苦茶な言われようの国の出身です。野菜ばかり食べてグレた女の子が生まれた地で、その意味でも評判がよろしくないようです。


と言ってもあの国、結構広いのですよ。


オーロラが見えるほどの北辺から、南のイェーテボリあたりまではかなり離れています。


で、生まれた場所をもっと細かく申しますと、ヘルシングランド地方イェヴレボリとなります。


皆様の世界に当てはめて行き方を申し上げますと、ストックホルムからインターシティで1時間半、車ですと高速E04号線使用で2時間くらいですかね。飛行機に乗るまでもない場所です。


さて、私についてあれこれ語る前に、ステータスをまずご確認ください。私の生まれや出身地について、結構、重要な情報が入っているらしいのですよ。


NioOffrarne (Maya Sakristia) Hundred Suction(Limited thousand)百人卒(限定千人卒) Pure female Visual(Male Functional restriction). 女性外観(痴女機能制限者)Black Rosy knights, Imperial of Temptress. 黒薔薇騎士団


この名前は正直嫌なのです。


私の俗名…村の外から来た者の子を孕む役目を与えられた意味があるんですよ。


そして神への供物の一族の出を表す姓でして。


で、私の出家名。


それとなく関係者に「九つの供犠(くぎ)の村出身」を注意する意味があると聞かされました。


この村は長きに渡り生贄(いけにえ)の風習を持っていました。


ですが小規模な上に他所者との交流を極端に避けていたのと、我が故郷の村以外にも神話に基づく生贄の風習が蔓延(まんえん)している国でしたので、この間まで外国の方はおろか、国内にすら知る人が極めて少ない有り様でした。


…なにせ王様ですら飢饉(ききん)を止めるお願いのための生贄にする国ですから。


なに、人権大国だの永世中立国じゃないのかですと。


甘いです。


お手持ちの箱なり板なりで「冬至の生贄」って打ち込んで出て来る絵の由来、見てください。


そんなお国柄ですから、我が村なぞ恐ろしいにもほどがある事を長年続けておりましたそうです。


中にいると恐ろしさに気づきにくいのですが、よそさまの風習と比べる事が出来る今では、狂っていたなという感想しか出てまいりません。


まず人は供物です。家畜の餌はもとより…場合によっては村人の食事の材料にも。


ただ、その前に必ず神に捧げる行為に供されます。


村主いわく、人は輪廻で生きるものであり、新たな生に向けて踏み出す試練の一つとして残る者の滋養になるのも神の定めだそうです。


更に私の外観処理。痴女皇国の騎士業務をする際には、痴女種というものに進化する必要があるとは聞かされました。


ただ…私の場合、出身地の呪縛めいた暗示処理が強力なために現状では力の制限をかけておく必要があると聞かされました。


これは…私が生まれた地を仮に生贄村(いけにえむら)としておきましょう。そこを偶然にも離れた際に保護を受けて、スイスという国にあるお城で生活している際に起きた事です。


これはあなたが寝入った後の事だと前置きされた上で、映像なるものを見せられました。


そこには、女官服という仕事着に着替えて外出しようとする私の姿がありました。むろん、こんな事してる自覚も記憶もありません。


しかし、確かにどこかに行こうとしているのは私です。


そのお城で一番えらいという、眼鏡を掛けたおばさまが私を診察されましたが、これは生贄村で生活していた時にかけられた一種の呪いだそうです。


アリが自分や他のアリが地面につけた匂いを辿って巣に戻るように、私も村に戻る行動を取るよう教育されているそうです。


確かに村の女総出で花を摘みに行く際に、敢えて独りぼっちにされても村に戻れるように、何度も何度も森の中に一人置き去りにされましたが。


更に、村を出て分かった事です。顔に表情を出すのはもちろん、果ては口で喋る事すらできなくなっていました。


これも「教育」とやらが施された結果だそうです。


村では私たちは食事を皆で取ります。


その際に皆で歌を歌ったり、聖唱なる行為をします。単なる歌ではなく、導き役の女性が出す声と同じ声を出すよう教えられます。


更には、いつの間にか泣き笑いとは「他の女達と共にする」行為となっていました。


その時々の導き役が泣けば皆が泣き、笑えば皆が笑う。生贄が神の元に送られ次の輪廻(りんね)に入る…つまり死ぬ時は皆が悲しみます。


お分かりでしょうか。


私は村でないと生きられないよう、そうとは気付かれずに仕込まれて生きてきたのです。


それは村の中ではごく普通で当たり前でした。


皆と一緒に泣き笑いし、皆と寝起きする。


そして儀式の際には必要に応じて指名を受け、授かった役を務めます。


別に何の疑問も持ちませんでした。


必要に応じて川に投げ込み。


必要に応じて槌で顔を砕き。


必要に応じて藁で焼き尽し。


必要だからしていると思っていました。


事実、生贄を生贄として扱う際の村主は、必ず神への供物として捧げる事を皆に告げ知らせてから扱いました。


はい。


生贄を扱う際、村の全員または供犠(くぎ)の儀式に必要な人間が揃って行います。


供物を捧げる供犠の儀式。


それはあらかじめ定まっている手順か、その都度神の意思を受け取る為の器具類を動かして決めています。


または、新たな手順が神託巫女の描く絵物語によって示されます。


村に泊めた際に逃げ出そうとした他所者を捕まえ、供物に用いる為の処理を行う際も、定めに則り行われます。


村を(はずかし)めた発言をした者は辱めてから輪廻の輪に。


立ち入ってはならぬ場所に立ち入った者は、立ち入れなくしてから輪廻の輪に。


聖なる場所を(けが)したら、汚してから輪廻の輪に。


口汚きものを喋れなくするための()()()()で口の中に何をするか。申し上げるまでもありませんね。


足を切られて絶叫しながら逃げようとする者を追い詰め振り下ろす槌が何を砕くか、申し上げるまでもありませんね。


立ち小便などしようものなら、その尿の出どころに向けられた大きな裁ち()()()がどう使われるか、申し上げるまでもありませんね。


かつてこの地にたどり着いて神託を得た海の一族の習わし、屈辱には屈辱、目には目をの通りにしているそうです。


…その時に乗っていた船、陸に引き上げられて聖物の一つとして森の中に置かれています。半ば朽ちかけていますが。


そして神託巫女は、運命の神の神託を受けて聖なる絵物語(タペストリ)を描きます。例えば、村娘の一人が子を孕む定めだったとしましょう。


神託巫女は出産の場に立ち会い、産まれた子の定めの神託を下ろして一枚の長い布に書き連ねます。


…私の場合、他所者を誘惑して精を貰う役目でした。そして子供を産み落とした後は…ね。


ところが、何の因果か私に種をつけた男が手順に従って「供物にされた」後に、もう一人他所者がやって来まして。


これはどうも神託を受けていなかった予定外の出来事だったらしいのです。


で、この他所者の男は私に種を付けた男が帰って来ないのを不思議に思って探しに来たと言いますが…とりあえず誰を孕み女としてあてがうかの神託を受けるまでは村に留め置けとなりまして、孕まされたばかりの私ですが、孕み女の役目として男の世話役をしろとなりました。


ところが男は、ここにいないなら他所を探すとばかりに夜陰に乗じて逃げ出しまして。


しかもその際に、まずい事に種付け男の遺品を目撃されましてね、狩り用の弓矢。


普通ならあれは何だと騒ぐところを、この男は「あいつは絶対この村に何かされた。事情の究明は後にしてとりあえず逃げ出す」と考え、私を殴って荷車に乗せて連れ出し、仲間と合流。


そして私を連れて町に向かいました。


仲間の手がかりになる私は口が聞けませんでした。


尋ねられたことはわかりますし、聞かれた事には答えようとしましたが声になりません。


紙とペンを渡されたので筆談をしようとしましたが、私の書く文字がさっぱりわからん!となりまして…町に住む古老に紙を持ち込み私も見せたところですね、その古老が血相を変えまして。


「こやつは生贄を神に捧げる事を生業にした隠れ村の住民。村から離れた呪いにかかっているから喋れぬも無理はない。更に文字は神事や呪法に使うものであり、お前らが知らんのも道理じゃ。かの村は…生贄と定めた者が近寄らぬ限りは容易く見つけられぬと聞く。この娘を連れ出したお前も生贄にする定めにされたから入れたのじゃろう」


「何と恐ろしき村。しかし我らの定めでは屈辱には屈辱。攫われたらなら攫い返す。この娘のみならず、今までの行方知れずがその村の仕業なれば復讐が正義では?」


「しかし容易くは村の場所を探れまい。迂闊に赴けば誘われ生贄にされかねん。まずはこの娘の口が利けるようにせねばならぬ。幸いにして今、港にいる船がしら、わしの旧知じゃ。異教ではあるが滝の町(ヒョッス)にある聖院なる女官の神殿なら治せぬ病はないと聞く。べるげんか滝町に行かぬか聞いてみよう。船に使いを出してくれ」


というようなやり取りを聞いた後。


ばいきんぐなる海賊のかしらの船に乗せられ…この辺りの海賊は海賊ばかりしているわけではなく、金がない時に他所者の船をたまに襲うくらいで普段は普通に交易をしているそうですよ…ばいきんぐの国の大きな滝がある町に連れて行かれて、滝の途中に作られた神殿に引き渡されました。


とりあえず喋る事や泣き笑いを顔に出すことはまだ出来ませんが、心話という意思疎通の方法を教えられ、女官としての教育を受ける事になりました。


そしてミューレンフィーネという神殿の長を務める方にも引き合わされて話を聞きの聞かれのした結果、この滝の町からかなり下の方になる山の国にあるお城にえらい人がいるからと、移り住む話になりました。


村の呪いを外す方法を調べるためとあっては私も同意します。


この神殿の方々、私のいた村の女達とは違う方法で思いや考えはもちろん知識を共有できるそうでして。


この頃には私は今までの暮らしがいかに異常で、しかもあの村以外だと非常に重い罪に問われる事なのかを理解するに至っていました。


ですが、今度は村の呪いが私を苦しめ始めました。


まず、孕まされた子供。


この子もある種の呪いの触媒になっているらしく、特殊な方法で出産を早められ、修学寮なる不幸な子供を育てる施設に送られました。


(あなたには気の毒ですが、引き離しておかないと村に帰りたくなる帰巣本能を呼び起こす引き金となります。最悪、親子ともども再び輪廻の輪に入るよう心中を選びかねません。引き離されるのは辛いと思いますが、合意願います)


実はこれ、苦痛ではなかったのですよね。


と言いますのも、産まれた子は村の子として皆の共有財産となり育てられ、誰の子でもなくなります。


ですので子供から離される事には合意いたします。


そして、マイレーネ様という、とても偉い方の面接を受けましたところ。


「呪いを全て解くには、呪われた彼の村に撒かれた呪いの要因を全て解き放つ必要があります。この呪いの源は絶滅寸前の北欧神種族の残滓によるもの。生贄を求めて地の恵みを操る呪縛が為せるわざです」という、私が聞いても無理難題と思える診断が下りました。


(うわちゃー、あの連中、まだ生き残ってましたの? あいつら地球維持適格種判定不合格につき処分対象にあわわこれ喋っちゃダメなんでしたわほほほほほ忘れてマイレーネ!)


(もう遅うございます。しかしははう…初代様。彼ら北欧種、我らが誅する事は出来ませぬ)


(えー、あんなのマイレーネかアレーゼが殴れば済む話ではございませんの? 今や貴女方は八百萬神族会議出席敘列者、生贄風習にいまだ縛られるあんなポンコツな連中ごとき…何ならあたくしがしばきに行きましょうか?)


(アレーゼです。初代様、神族同士での争いは法度。更に…倒してもあれ、再生がかかりますよ。北欧神種を打倒するには彼ら曰くのラグナロクで滅びるか、さもなくば人が打ち倒す必要があります。あの習性があるなればこそ、北欧支部も手を焼いておるかと)


(あちゃー…そーでしたわねー。まー主神もいないし、運命の三女神は統括種に統合されたし…あと残ったのは狼と蛇と巨人くらいではありませんでしたかしら?)


(そやつらが面倒なんでしょうが…)


(まぁしかし、何とかしないと生贄村を破壊してもどこかで再建されますし、第二第三のこのお子を量産されても困りますわよねぇ)


(北欧支部にもバイキングの頭の連名で討伐嘆願状が寄せられております。元来は報復の掟に従い我らが誅すべきであるが、何せ相手は神隠しの村、人が探さねば見つかりませぬ上に彼らの手に余ると)


(あーはいはい、あいつら一種の神域化能力持ちですわよね。あの厄介な擬装力。あれのせいであの辺の豊作不作や豊漁不漁も連中に制御されてるんだったかしら…よろしい。痴女皇国内務局長としてではなく、古代海洋神種族原初母神として討伐指示を出しましょう。姉様!よろしいですわね!)


(相変わらず気の短いやっちゃのう。ぐりーんらんどやあいすらんどのかざんいじっていやがらせするくらいでええんちゃうんかいっ)


(あれは他の地域にまで被害出るからダメとマリアリーゼに叱られます!…エマちゃんっ)


(おかみ様。あそこら噴火させるのって阿寒岳と有珠山と駒ヶ岳と恐山と磐梯山と浅間山と富士山と雲仙と阿蘇と桜島、全部一斉に点火するくらい危ないんでっせ。試しにやっていいすか)


(痴女皇国の近所の山でやれや!何で日の本のかざんでやるねん!)


(この時代の日本にめちゃくちゃやばい山がようけあるからに決まってるじゃないすか。ハワイやインドネシア界隈も大概ですがね、何でまた赤道帯域から外れてるのに、あんだけ活火山アホみたいに作ったんですか!)


(きんぎんをとるのとおんせんつかりたいからに決まっとるやろが!)


(日本国民と国津神の皆様が聞いたら泣きますわよ、その理由…)


(とりあえず火山は禁止します。あと北欧神種族を打ち倒すのは人間の戦士に限ります。んでもーいっこ。そこの女の子の呪縛アンロック条件、北欧神種族の力を借りずに豊穣を実現してみせること。これ、比丘尼国の面子だと難易度めっちゃ低いっすよ。外道さん大嶽さん茨木さんのうち、誰か一人用意してまぐわい相手確保したら一瞬でカタ付きます。ただ、界隈の土地から北欧神種因子完全除去後の条件が付きますから注意してくださいねっ)


(あー、豊穣能力持ちでしたわね、鬼の皆様)


(それと、人間の戦士ですけど…あたしに心当たりがあります。今度おかみ様も初代様も米沢行くでしょ。あの人けしかけたらどーですか)


(えー。あいつにたのみごと…わしいややいうてるやないか!)


(一応神様なんですから仕事しましょうよ!頼光さんとか綱さんとか金時さんからしょっちゅう呼び出し食らってるでしょ!)


(あ!きんたろうにやらしたらええがな!)


(残念ながら金時さんは魔界騎士になりました。人類認定されませんよ…鎧は借りますけど。あと袴垂もあきまへん。あきらめてかぶき者の説得してください)


(ふじんがさいきん、わしにきびしいんやけど)


(神種族のお目付とか無理難題言われましてね…思い当たる節はありませんやろか。痴女宮入り浸るとか!)


(仕方ないな…米沢に皆が行った際に私がこの子を連れて行って話を切り出してみよう。日本人なら高い確率で不憫に思うだろうし、邪神や妖怪を打ち倒す勇者の伝承を好む地域の方々だ。共感を生む話の流れには持って行きやすいだろう。初代様、それまでは痴女宮扱いでよろしいか)


(承知しました。アレーゼ、マイレーネ。この子の移送と引き取り手続きをお願いします。痴女宮には私から関係者に話を回覧しておきましょう)


(ニオオフラーネ…何故皆の話を聴かせたかお分かりになりますか)マイレーネ様が申されます。


(何かこう、神様というのは私の村ですと絶対に逆らえない、逆らってはならぬものであると教えられる存在だったのですが。たった今、私の心中にて、その教えが音を立てて崩れ落ちております)


(これも呪いを解く作業の一環です。神に対する過大な恐怖を抱かぬように)


(まぁ、かみさまと名前がつくもんを何でもかんでもあがめるのもかんがえもんやなっ)


(神様の株を暴落させている姉妹な方はともかくですなっ、わたしに合う神様違うと思ったら乗り換えてもかましませんのですよっ)


(待てお賽銭くれへんようなるやないかっ)


(それ以前に国家予算で祀られてるでしょうがお姉様わっ。他の神社の皆様がどんだけ指くわえてるかお分かりですの? 崇徳院様を悪しざまに申せませんわよ?)


(えー、顕仁(あきひと)に御座います。一応朕の先祖に当たるお方の更生につきましては半分諦めております。しかしながらご要望があれば一応は祟りますので祈念を頂けましたら)


(マジに崇徳上皇陛下を支援してみようか考えたくなりますねっ)


(まりあんぬとすざんぬが怒りそうなので適当なところで自制は致します。ご検討を。ま、それはともかくですな。このお子に聞きたい事が。そなた、村に戻りたいか)何かこう、不思議な服装のそのおじさんが聞いてきますが、答えは一つ。


村は私が逃げた事で子供を失う訳ですから、皆の共有財産である子供を取り返そうとするはずです。


もしくは里者(さともの)、つまり巷に派遣している村民を使って私なり子供を探して連れ帰ることを試みる筈です。


そして私が自ら戻るよう思い直させるためのあらゆる試みの一つとして、村主を始め皆が一丸となって祈祷祈念を始めるでしょう。


そして戻る事が叶わない場合、第二段階として存在抹消を図るはずです。


これも、今となっては「口封じ」のために行ったとおぼしきさまざまな祭事を私は知っていますから。


ええ。私の殺害にかかりますね。


そして戻ったら戻ったで生贄にされるでしょう。


(戻りたくありません)


(よし。阿波。渡しやれ)いつの間にか私の側に女性が一人。長細く、何かの模様の入った紙を渡されます。


(そなたの書きようで構いませぬ。村に戻りたくないとお書きなされ)マイレーネ様からもペンを渡されます。書き終えたものは…。


(阿波。聖子(せいし)に査証させよ)


(は。主上。異国文字ではございますが古代聖院文字でもあり、意は通りまする)


兵衛佐(ひょうえのすけ)。願の作法とはいささかに異なるが、受ける値にあるや無きや)


(村との縁切りにつき、承る事はやぶさかにございませぬ)おじさんの配下の女性がもう二人、私の書いたお札を受け付けるかどうかを判断しているようです。


(娘。縁切りの願いはしかとこの顕仁(あきひと)が預かった。そなた異人なれど、海母神(わだつみのははがみ)様が姉、大日孁貴神(おおひるめの)貴神(むちのかみ)様の扱いと為す故に、安井金刀比羅宮にてそなたの願を受け付け致す。しかしながら…ただ一度のみ再訪せよ。異神の呪いを断ち切るには九鬼嘉隆(くきよしたか)が縁者、滝川家のものを伴に付けるがよい)


(すとく…確か、滝川の縁者と言えば…)


(あの傾奇者以外に誰がおりますか。それとも将門に身体を与えて付けまするか)


(やめやれ。あいつはそのこを守るとかどうこうの前に、まずまっさきにえど滅ぶべしとわめきよるわ。こないだも揺らしよったしな!)


(この時代なら(みやこ)を滅ぼすべきだと思いますが、我が社を潰されてもかなわんのでそれは致しませぬ。ま、あやつの説得は妹神様の縁者の方にお願いした方が良きかと)


(崇徳院殿。配慮かたじけない。だが…あんな北欧の、それも神通力で人から隠された里に貴殿の呪いが効くものか?)アレーゼと言われた方がおたずねに。


(拳聖様。日の本の縁者であれば朕の力の及ぶ対象にございます。ま、向こうも強うございますからな。最後はやはり、人が邪神を打ち倒す伝承の通りに運ぶ方がよろしかろう。しかしながら厄介な上にも厄介なのが分かっております故、足くらいは引っ張らせて頂きましょう。世を滅ぼすは朕の望みにありて、蛇神風情の出る幕に非ずという事でよろしいか)はっはっはと笑うおじさんですが、この方…うちの村で祀られてた神様だか何だかの類より強大じゃないんでしょうか。


(そりゃニオオフラーネさん、もともと日本の天子様ですよ?皇帝よりえらいんですよ?おまけに大人しくしてはりますけど、国ひとつ祟って滅ぼす力をお持ちですからねぇ。あんな村一つ牛耳ってるだけで地球の覇者めいたデカい顔されたら怒りもしますって)と、エマニエルという方がおっしゃられます。


(更に申すとな、我が日の本の神々は()()()()意識に目覚めておってな…生贄とか何を勿体ない非効率な事をしよるのかと、怒り心頭なのじゃ。せっかく我らが貴重な資源たる人を上手く使うて飯の種にしておるのに何をしよるのかと。のう阿波)


(ええ、ええ。こないだおやしろのちゅうしゃじょうそばのマンションという重ね長屋。あれの三階くらいで土曜の夜におめこを始めたのがおりまして。こないだまででしたら問答無用で祟るところでしたが、らぶほの要領でさかっておるつがいの後押しを致しましたらまぁ頑張って下さいまして、精気ごっつぁんですという事がございまして。もっとも、後押ししすぎまして、おとなりから声が大きいと怒られておったようですけど)


(そなた…近所迷惑は一応考えてやれ…)


(阿波内侍さんが順調に痴女皇国に染まっている好例ですねっ!)


(ま、そこなお子は私どもで預かるという事で…)


そして、私の生まれ育った村とは全く異なる気候の地に足を踏み入れることになりました。


見上げんばかりに大きな四つの石造の建物のうち一つに居住し、女官としての教育を受ける事になると。


聖環という腕輪をつけられましたが、これは村の呪いをある程度緩和したり、はたまた村側から何かちょっかいをかけられたら感知して警報を鳴らすことも出来るそうです。


二回くらい、それが鳴って担当の先輩女官が飛んできましたので、まず確実に私を諦めてはいないのでしょう。


そしてある日、私の呪いを打ち砕くかも知れない騎士の候補として考えているという人がいる場所へ、アレーゼ様という方に連れられて赴きます。


その方を見た瞬間。


私の胸はときめきました。


恋愛感情とかではありません。


この方ならばもしかすると、という期待感です。


ただの人間の方だそうですが、大変にお強いとか。


持って頂く武器の種類によっては、真剣にラグナロクを生き延びそうな印象すらあります。


少なくともエッダを綴るようなジジ…いや老人ならば必ず強さを讃えそうです。


「そうか、口が利けぬのか。非道な事を致すものであるな」その方は静かにおっしゃいます。


「あれーぜ様。わしら日の本のさむらいが他所にまで赴き暴れるのは道理によろしくないであろう。しかしながら、地元の海賊どもですら討伐に難儀し、これを助ける筋書きであれば加勢やぶさかにあらず。何より…骨。お主、この村の風習、いかがと見る」


「忍びでも、もう少し()()()やりますな」


「悟洞。お主はどうじゃ」


「旦那次第だ。主人の命令には従う。ただ、俺一人なら…海賊が攻め入るのを躊躇う何かがあるのを知るまでは迂闊に手は出したくない。単なる目眩しじゃない。俺の勘だが、絶対にその村には人を超える何かがあるはずだ。それに打ち勝つものを旦那に貸してやって欲しい。これが俺の意見だ」


「捨丸…その焙烙玉は何だ」


「え。検分していただけですよ。嫌だなぁ、今の手持ちがいくつあったか勘定していただけですよ。使う可能性があるとか、あたしは微塵も思ってはいませんがね」


「おい悟洞。捨丸の目が泳いでおらぬか」


「ええ。いつもの嘘をつくときの癖のようで」


「しかしながら赤柄の槍、上杉家にお返し申したしのう…」


「お待ちやれ」熊のような立派な体格の戦士めいた方が、何やら重そうな包みを運ばせています。


包みを解くと、木箱が出て来ます。その戦士の方が木箱のふたを開くと、鈍く光る刃物が姿を現しました。


「秀康殿…これはよもや結城家家宝の御手杵(おてぎね)ではござらぬか?」


「左様。槍拵(やりごしらえ)からは外したが、正しく結城家に伝わる御手杵そのものにござる」


「これ…槍というより長巻ではないか…前に結城屋敷の前で打ち合った際には、御手杵を携えてはおられなかったよな」


「持ち出したかったのですがな!それだけはやめてくれと家臣に止められましてな…」


「まぁ、使い道が限られる槍ではあろうな」


「しかしながら、今の若返られた慶次郎殿がお持ちになれば、さぞや似合うであろうなぁ…」


「確かに、これに赤柄をしつらえますと中々に映えるのではないかな」


「慶次郎殿がこの御手杵を振り回すと、突くより斬る方が向きますでしょうな。樫か何かで硬めの柄にして少々細めに。で、石突きをわざと重くして釣り合いを取るとか」


「皆様…わしにこれを持てと?」


「えーとね慶次郎さん。こいつを長巻めいた使い方で使うなら…そーだね。南蛮船で竜骨に使ってる毒林檎の木があってね。そいつを芯にしてカーボンコンポジット…炭素繊維で補強して特殊金属で固めたのがあるんだけどさ、ちょっとこれ持ってみてくれるかな」一見すると、私くらいの年齢っぽい女の子が、どこからともなく取り出した赤くて長い棒を差し出します。


「ほほう。こいつは軽くて持ち良さそうじゃ。しかし…これでは御手杵に対して軽すぎる気がするんじゃが」


「まーまー、で、御手杵借りまっせ。ほいっと」槍…というのにはあまりに長すぎる刀のような刃物が空中に浮かび上がって、その赤い棒に取り付けられてしまいます。


「はい。ちょっと軽く振ってみて」


「では景勝殿…ちと失礼をば」その槍を持って、広間の中央に向かう戦士様。


ぶん。


ものすごい速さで水平に槍が振るわれます。


そして突きに斬りにと、慣れた手つきで槍を振るってみせる戦士様。


「まりや殿…この柄、おもしろいからくりを仕込んでござらんか?」


「ええ。オートバランスシステムと、思念金属…持ち方や攻撃意思、そして適性によって質量が変わるとかいうものを試作してみましてね。突く動作の時と切る動作の時で、柄の重さや剛性が微妙に変わるでしょ?アレーゼおばさまに似たの渡して測定したプリセット値…基本動作内容を入れてますから、そんなに違和感のあるような持ち味になってない筈ですよ。何度か稽古して癖を覚えさせたら、慶次郎さんなら使いこなせると私は信じてるからね!」


「無茶を申される。じゃが、これはこれで面白い使いでになりそうじゃ。どれ秀康殿も」この広間に集まった男性はどの方も戦士の経験があるようでして、この不思議な武器を振り回しては感心した顔で次の方に渡されておりました。


「何より、普段これを持つ捨丸が楽できそうじゃな。ほれ、持ってみろ」小柄でお猿さんのような感じの付き人に槍が渡ります。


「ふむ…確かに、普段は柄がものすごく軽いですね。こいつは面白そうだ」


「で、悟洞さん。あなたにはこいつだ」長細い箱が、目の細くて鋭い、日焼けした男性に。


「これは…遠町筒ですな」箱の中から出て来たのはてっぽうというものだそうです。


「3連発だから何人も薙ぎ倒すような使い方は出来ねぇけど、一里先の直径二尺の的に対して十発打って十発、的の中に当たるよ。連射性能や射程距離は兄弟分のこいつより劣るけど、命中精度は遥かに高いんだ。使い方はダリアに習ってくれ」


「こいつは凄そうな鉄砲だ…これで一里先を狙えるのか。そっちとどう違うんだ?」


「こっちは一里半だが、狙いが少しまとまらねぇ。あと、反動が更にでかいのと…弾箱が十発入りなんだ」


「え?いちいち弾込めしなくていいのか?」


「んだ。そんなもんうちらの世界じゃとっくに絶滅してるよ…マスケットっていう先ごめの銃を趣味で持ってるやつがいるくらいさ。あと、その村に人数がいる場合の飛び道具は別に用意してあっから」


「それでバレットM82とM95を頼んでたんですね…これ、訓練用の弾でも当たったら人、死にますよ…」やたらと癖のある長髪のお姉さんが、その地味な女の子に聞きます。


「あたしがそれ考えずに渡すと思ってか。マイクロVT信管付きのノンリーサル変態弾丸だぞ? 強化駄洒落菌を撒き散らす特製物件だぞ? 駄洒落を考えつくまで首から下に強力な麻痺作用をもたらすから普通の人間はもとより、麻薬や覚醒剤投与者にも解毒と駄洒落中毒効果を高速で発症させるし、助け起こそうとした周りのやつらまで感染するおまけ付きだぜ…あいつら多分、カンナビス系かキノコ系の幻覚補助剤を常用してる可能性あっからな」


「よくわからんが、人を殺さない代わりにひどい目に合わせる弾丸を使わせたいのはわかった」


「ま、悟洞さんの狙撃の腕前に任せるよ。出立までに間に合わせるけど、捨丸さんと骨さんにも駄洒落菌で現地を汚染するための爆弾とかを渡すことになると思うから」


「なるほど…駄洒落菌で無力化するんか…あれは確かに覚醒剤成分以上に脳関門を通過してまうからな…」


どうも、村で使っているお香や食事に混ぜている草や花の効き目を消してしまえる手段をお持ちのようです。


「あとな、まりや殿…その、えげれすのご婦人、この口を封じられた娘子の故郷を訪れた事はござらんか?流石にわしも案内(あない)なしに向こうに行くには心許ない。この娘子に口が利けたら道を指南してもらえるのじゃがのう」


「ちょいまち。逆にうちから案内を出したげるよ。ついでにバードさんに同行してもらえれば、探検名目で来たけど護衛をつけてるからって言い訳も立つしな。…って慶次郎さん。あんた、話を受ける気なのかい?」


「うむ。助右衛門…おまつ様、そして景勝様、兼続殿。いくら紅毛人と我らの考えが違うとは言うても、その贄の村がまともではないのは他の南蛮の方もお墨付きを出されておる。そして人に仇を成す神をみだりに信じるのは、神仏は敬うもので頼むものではない武士としていかがなものか。伽子を救うてこの娘子を救わぬ道理はわしにはないが、わしが働けば呪いが解けるならばよし。更には流血なく事が収まるならば異国を害したとはならぬであろう。秀忠様、いかがか」


「おかみ様に判断を委ねたい。異国異教の神といくさとなれば、正直、幕府の判断を超える話じゃ。ま、赴く場合は親父殿の刀から何か一振り、お貸し申し上げる」


「おいおい、わしにふるか。…てるこ。ふじん。おまえらはどうする。仮にも相手は北国の神族の末裔が後ろにおる。人同士のいくさにおさまるまい」


「討伐すべしと考えます。あの蛇とか巨人のやり方では最終的にラグナロクに行き着きます」


「初代様の意見にうちも賛成っすね。ただ指揮官は指名させて頂きます。マリアねーさんが大将を勤めること。これがOKなら、うちもMIDI06起動承認出しますよ」


「なんでぇ、またあたしかよ…まぁいい、現地の北欧神族因子を潰すにゃMIDI使わねぇと無理だし、今回は特殊攻撃の必要性があっからな。慶次郎の旦那、あたしが指揮官させられるらしいけど、いいかな?」


「まりや殿。この槍を組み上げて下すったのはそなたじゃ。わしらを若返らせたのもそなたじゃ。このためにわしらを動かしたかったのであろう? わしの性分は、疑って安全を保つより信じて裏切られる、じゃ。そなたを信じねば、この子も助けられまい。それに骨はまだしも、捨丸と悟洞の顔を見ておるとな…そのいけにえ村とやら、成敗せざるを得まいよ」


そして戦士の方は申されます。


「わしらはいくさ人じゃ。人の生き死ににいちいち悲しむ暇もない時がある。しかしいくさに出ぬおなごが泣き笑いを封じられ歌も歌えぬ。呪いか何か知らぬが、決して年頃の娘にして良い話ではあるまい。何としてもそなたに笑い顔を取り戻させて見せようぞ。己の意思で笑い泣くのが人じゃ。それで良いか」


私は大きく頷き、戦士の方の手を取りました。


今は泣けません。笑えません。


しかし、この方ならば神すら倒しておしまいになる気が致します。


戦士の方に祝福を。死んだ戦士ではなく生きた戦士を讃えましょう。その思いを込めて、手を握らせて頂きます。


その戦士の方も頷くと、にっこり笑って申されます。


「わしの名は前田慶次郎利益。日の本の将軍から傾奇御免状を授かっておるさむらいじゃ。そなたの村に人の振る舞いを教えるために一槍馳走して進ぜよう。そなたらの戦士とやらも強いか知れぬが、わしらもなかなかな所を一つ見せてやるゆえ、楽しみにしておるがよいぞ。必ずや非道を討ち果たして参ろう。捨丸」


「は。只今より天下無双の傾奇者、前田慶次郎利益様、ご出陣致しまする!」

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