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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど
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Unbeaten Tracks in Japan - 日本をめこ紀行 -「みなと横浜編」1

「マリアヴェッラ皇帝陛下・マリアリーゼ上皇陛下に於かれましてはご機嫌麗しゅう。こちらは大英帝国・八百比丘尼国大使館館開設準備室長サー・ハリー・スミス・パークス。そして副室長兼現地調査官のイザベラ・ルーシー・バードとなります。で、私が痴女皇国公使館長に任命されましたアーネスト・サトウと申します」


「パークス様、バード様、サトウ様。お三方の着任を歓迎させて頂きます。こちらは我が妹にして痴女皇国二代目皇帝のマリアヴェッラ・ワーズワース。私がマリアリーゼ・ワーズワースです。よろしく」と姉に紹介されます。


「こちらが信任状となります。お改めください」サトウ様が姉へお渡しになった文書を姉から預かり、さっと拝見。側のルクレツィア外事局長…ルクレツィア母様の持つお盆にお載せします。


で、母様が台に載せられた書類函に納めて蓋をします。


そして書類函をミカエルに渡して皆様に一礼。


「ま、これで皆様が退出が元来の信任状捧呈式のプロセスですが…我が国はあまり堅苦しくやらない部類でしてね。とりあえず着任を歓待させて頂くもう一つの儀式を執り行いましょうか。さ、どうぞ」


さて、こんな堅苦しめの儀式をやっているのは痴女宮本宮22階。


例によってエマちゃんがいじくりまわした結果、貴賓階としての設備が充実する事になりました。


まず南側に設けられていた管制室兼幹部会議室が地下に移動され、その跡にこの公使着任儀式を執り行った謁見室、そして会談用の応接室や貴賓食堂なるお部屋と厨房、侍従女官控室などが設けられております。


(聖院時代から今に至るまで、聖院宮…痴女宮に外国要人を頻繁に迎えて外交式典や会議をやるってのはあまり考えてられなかったからな。クレーゼ母様までは謁見、大講堂でやってたし)


(対等外交めいた事はねーさんが始めたんでしたっけ)


(んだ。それまでは一種の閨房(ねや)、つまりベッドルーム外交だったからなー。要人は金衣居室に招いて以下略)


(ああ、何か絵面が想像できます…)


などと申しつつ同じ階の食堂に。


母にやらせて申し訳ないのですが、痴女皇国の筆頭外交官たるルクレツィア母様の先導で、あたしと姉が並んで進みます。その後に英国の皆様がついて来られる絵図で。


そして最後尾には正装のアルトさんとダリアさん。護衛役を付けてますよという意味だそうです。


そして「銀座の◯笠會館というよりは◯阪倶楽部っぽい、いわゆるお貴族様や王様のお屋敷のダイニングではなくもう少しシックでシンプルで暑苦しくない感じ」とか姉が申します内装の食堂へ。


(実は帆船建造用の毒林檎(マンチニール)他の木材を使いまくってるのは内緒だっ。毒の樹液を完全乾燥除去した上で難燃性の保護樹脂コーティングはしてるけどな。だからニス塗りみたいな重苦しいふいんきじゃなくて、白木造りの明るい感じ。比丘尼国繋がりもあるよと窓の飾り日除け戸の障子紙やらで、皇居の竹の間風味を演出しますた)


(絨毯は鯖挟国ですか?)


(複合。主な部分は旧22階やうちらの廊下と同じ一枚物ウールカーペットだけど、盆栽やら生花やら飾ってる台の下とかの敷物見てみな)


(で、シャンデリアやグラスのガラス細工はベネツィアで椅子はイタリア木工、テーブルは密かにスペインと)


(基本デザインはこっちで起こして渡したけどな。さて、評価はいかに)


そして女官が複数控える食卓前に。


まずは来賓の外交官の方々にお座り頂いた後、向かい合わせに座る配置なので上座に姉、次にあたしマリアヴェッラ、そしてルクレツィア母様の順で。


本来なら食前酒、最近スペインで作らせている特産の柑橘類をベースにした軽めの果実酒で行きたいのですが、相手がブリカ…英国の方々です。


このお酒は何よ産地はいずことなりました場合、お答えしたが最後何考えとんねんという話になりかねないものをお出しする訳には参りません。


よりによって表向きは英国とは準戦時体制絶賛維持中なイスパニア産の産品を最初から出すと、これはもう大顰蹙必至でしょう。


というわけで複雑怪奇な欧州事情下で一応は中立的位置を取ってもらっているイタリア系で料理もお酒も固めようとなりました。


申し遅れましたがテーブルクロスは天竺綿花を用いた綿製品で、冨岡絹糸の装飾刺繍をそこかしこに入れた代物です。


これも出所を尋ねられた場合、痴女皇国が現状でどことお付き合いが深いかをお教えできる話になりますね。


(で、英国風の内装も取り入れたいですよねぇとやるわけよ。ただ、横浜の公館はあちら風味で行こうぜって話に持って行ってるよ)


(船ではかなりスペインの造船技術を渡してるはずなんですけどね。カティサークの内装装飾も割とスペインの船に近かったですし)


(ま、とりあえずカクテルだ)と、そこへ食前酒のグラスを載せたワゴンが登場。


「おや、これはモヒートではありませんか、両陛下…」


「ええ、そうですわ。イタリアでも親しまれておりまして、食前酒として供する事も多ぅございますの」


「ほぅほぅ。これが海賊どもの間で評判という…しかし氷入りは流石の連中でも、そうは飲めませんでしたでしょうね」とのたまうはイザベラ・バードさん。連邦世界では48歳で来日されたそうですが、この世界ですと30代前半というところでしょうか。


「本当でしたらネグローニやカンパリ、スプリッツといったイタリア由来のものをお出ししようかと思いましたのですが…」


「せっかくだからお国の名産を取り入れたものをお出しさせて頂こうかと思いましてね。ラム酒を炭酸水で割ってライムとミントと砂糖で味付けしたものなのですよ。冷えておりますから飲み口は悪くないでしょう?」と姉があたしを援護してくれます。


「うむ。これは海賊云々より、我が国に縁の深い酒として貴国のご紹介に預かったとは伺っておりますからなぁ、ラム酒」


「ですねパークス様」


「ところでサトウ館長のお名前なのですが、マリアヴェッラはともかく、私の故郷でもある日本国…異なる世界の比丘尼国ではサトウというのは多くの人々が姓に使っておりますけど、何か比丘尼国にご縁でも?」


「いえいえ、実は私の父が北の自由恋愛王国の出身でして、そこに少数ながら伝わる名と聞いておりました。ですが、サトウという名前が未来の比丘尼国で多く名乗られるとも存じておりますので、もしも比丘尼国にご縁が出来ましたら日本語の文字で名前を書きやすくなりますな」はっはっはと笑うお髭のおじさん。ちなみにこの時代の英国の政治家のおじさん達はだいたい、おひげを生やしている事が多いそうですね。


「そう言えばパークス公使は中原龍皇国について大学時代にご研究の対象とされておられたとか」


「ええ。実は派遣艦隊を向かわせたり陸路探察隊を送るにはしておったのですよ、我が国。そして今回の貴国並びに比丘尼国との国交樹立につきましては、アジア方面全般の貿易に関しての観点からも全面的に推進させて来い、成果を挙げるまで帰国は許さぬとの女王勅命を預かっておりますよ。はっはっはっ」


「エリザベス一世陛下のご意向は当方の欧州本部長からも伝わっておりますよ。スペインとの協調外交路線は甚だしく気に入らないが、フランスと組むよりはマシだと」ニヤニヤしながら言わないの、ねーさん。


「ま、あの国の巨額債務を肩代わりしている立場としては破産されると困りますのでね。ほほほ。それより前菜が参りましたわ」


(で、イタリア絡みの件だが、これは生ハム…プロシュット・サン・ダニエーレで掴みだぜ)


(うわー、たっかいの使いましたねー…ってイベリコも添えてません? それと普通のハモン・セラーノも)


(ああ、それもハモン・イベリコ・ベジョータ。最高級品だぜ)


「ほう。このハム…果物に巻かれておりますな」


「ええ。このメロンもホンジュラス…南米産を敢えて用いております。比丘尼国産のメロンだと夕張産にしろ、田原産にしろ甘味が強いのですよ。ちょうどいいのがイタリア他で栽培されている、この赤肉種でしてね」


「ふむ…これは確かにこの果実で塩味がうまく相殺される…」


「キャンティ…というのですか、イタリアのワインにもよく合いますね」


「単なる塩漬けの豚肉と違い、上品な口溶けですわね。脂っぽくありませんし」


「イタリア産の豚でしてね。チーズを作る際の乳精を餌の一つとして与えてる品種から作るんですよ」


「という事はマリアヴェッラ陛下とルクレツィア閣下の…」もみあげが特徴なパークス公使が目を光らせます。この方はおひげ、生やされてませんね。


「ええ、祖母の遠縁がフリウーリにおりまして、あの辺りの豚は特に意を払って飼育されておりますの」そうです、この豚、いつぞやのベナンダンティの伝承が伝わっている地域で飼われてまして、パルマのハムより更に高級な扱いなんですよ…。


「そして、こちらにハムだけ載せておりますが、これもメロンに載せてよしそのままでも良しでどうぞ、お召し上がりください」と、前菜のサーブの際に別に中くらいの皿にいくつか盛られたメロンを姉が示します。


「こちらの赤みが少ないものの方が塩味はきつめですわね」


「うむ、赤い方がきめ細かい脂身だし、肉もとろけるようだ…」


「イスパニア特産、でしたかね。陛下」


「ご名答。ハモン・イベリコ。ただし、普通の餌を与えたものと、ドングリを多く食べさせたものがありましてね。赤身のきついのがそのドングリで育てたベジョータという品種から作ったものですよ」


「ハムに留まらず、干して熟成させる食品は生産地を選びますからなぁ。我が国では燻製を主体とせざるを得ないのが辛いところでして」


「比丘尼国で公館が開設された暁にはローストビーフを内製させますか?あちらの牛でちょうど良さそうな品種を何種類か育てていただいてるらしいので、材料には事欠きませんよ」


「それは楽しみですなぁ。本国の牛で作るのも良いが、是非あちらの牛の出来を試してみたいものだ」


「そー言えば…三浦按針(みうらあんじん)…ウィリアム・アダムス氏の処遇について比丘尼国から打診を受けてるんですよ。本人は日本人の奥様がいるほど比丘尼国に定着してるんですが、そちらの家族の安否を気遣ってるところもありまして…」


「とりあえず比丘尼国に赴任した後に面談させて頂きましょう。幕府の役人として生計を得ているのは伺っておりますが、幕府と本人の意志に問題がなければ本国送還もやぶさかではありませんよ」


(この時代に日本に流れ着くなんて、運がいいのか悪いのか…)


(鯖挟国かスペインの交易船に乗船して送り返す手もあったんだけど、鯖挟国はまだしも、英国人の送還にスペイン船はなぁ…それに、タヌキが西欧事情を聞きたがってて手放しやがらねぇらしいんだよ。ま、欧州事情については公館が開設されりゃ、どの道流れ出すだろ。それに、按針さん、比丘尼国の大使として向こうに戻す手も考えられるぜ)


(しかしマリア陛下、こういう外交話がお好きですわねぇ…)


(るっきー…これ本来だとあんたの仕事だぞ…まぁ、エゲレス相手はあたしの方が慣れてっけどさー)


(得意な方にお任せするのが一番ですわっ)


(調子に乗るのが得意なのがるっきーの性分たぁ言え…ベラ子、これもお前の母親だからな!)


(了解しました。ボルジアの家訓といたしましては汚名と屈辱は濯ぐ。従いましてルクレツィア母様はあたしとジーナ母様で堤防連行)


(ベラ子、多分それご褒美になるからやめとけ。毒林檎の木に縛っておく方がまだいいと思うぞ)


(ルクレツィア母様への懲罰内容は別にしまして…あら、スープの次はお魚のお皿ですか)


(そそ。パスタはこの時代なんで敢えて外した。今だとイギリスにはイタリア料理の文化が伝わっていないし、あそこ伝統的にフランス料理の作法の影響がつえーんだよ)


(あれだけ仲が悪いのに、料理はフランスを珍重するから不思議ですわよねぇ)


(ちょいとその話題を振ってみるか。パークスさんとバードさんは知ってる顔だしな)


「おや、ピカタではなくポワレですか…」


「ええ、この魚ですと脂に癖がありますのでね。二種類を用意してみました」


「このバサっとしていない方が脂が乗っていますね」むぐむぐしながらバードさんがおっしゃいます。


「今バードさんが召し上がられている方が(さわら)。で、サトウさんが口に運ばれたのが(さば)です。脂の癖や食感が少しばかり違いますでしょ」母親が解説します。なお最近は日本食にも慣れて箸も使うボルジア家痴女皇国分家ですが、何か。


「確か鯖挟国でパンに挟んでいる方がこちらでしたっけ、さば」


「そそ。脂が肉の中まで回ってないので、アロゼだけじゃ足りませんからオリーブオイルと塩で味を整えた方がいいんですよ。我々でしたら醤油を使いますけどね」


「焼き物なら断然に鰆の方ですが、煮物ですと鯖かなぁ」


「アクアパッツァにしやすいのもさばですわね」


「そういえばドーバーの舌鮃(したびらめ)か、北海の(たら)をお出しさせて頂こうかとも思いましたが、フランスとはヒラメやホタテでも戦争されてましたっけ」


「獲り合いとも申しますな。ドーバーは漁業権を巡って争いが絶えないところでして」


「お、この白はかなりの辛口ですね。どこのワインなのでしょう」


「ヴィトヴスカ。フリウーリ地方…ベネチアの近くが産地でございますわよ」


「イタリアと言えば赤ワインという印象ですけどねぇ」


「そうそう、バローロの醸造元でも一種類だけは白ワインを作っておりますのよ」と、この辺りの解説は詳しいルクレツィア母様にお任せ。食い意地が張ってるとも申しますけどね!隙あらばイタリア行きやがりますし…。今度、もはや他部署ですが、たのきちに経費使途内容精査させたろか。


「バローロ…醸造元はトリノの方(きたいたりあのはずれ)でございますか」


「ええ、往来としましてはスイスの私どもの支部が山越えの商隊護衛兵を出していますけどね。山賊が出ることもありましたので。なんせ、あの辺りはスイスももちろんですが、フランスとも接しておりますので」


「料理ではどうしてもあの国の料理人に一歩を譲ってしまいますからねぇ。王室としましても全く付き合いがない訳ではありませんので」


「これからはイタリアもよろしくお願いいたしますね」


「そうですな、マリアヴェッラ陛下が北方帝国とイタリアの血筋とはお伺いしましたが、やはりルクレツィア外事局長様のご影響で?」


「ええ、それはもう。わたくしの生まれがそもそもランペデューサですし、母の影響は強く強く受けておりますのは自覚しております。見た目がこれでしょう?」


「はっはっはっ、お母様似であらせられますからなぁ」と、あたくしと母様の癖ありまくりな天パ巻毛を見比べられながらパークスさんがおっさいます。


(まぁ、パークスさんもサトウさんも、フランスを今すぐどうこうしてくれって話をこちらとする意向はなし、と。それよりはベラ子の好みとか食事の傾向を聞いてるのに注意しろよ。恐らく横浜の公使館開館後の招待に預かった時とか、将来この世界の英国本国に行った場合、好意的な会合なら北イタリアの料理やワインを出してくるはずだよ)


(なるほど、そういう時のための事前情報収集の方が優先ってことですね、この方々)


「機会があればマントヴァのダル・ペスカトーレのシェフをご紹介させて…あ、これ連邦世界のリストランテでしたわ、申し訳ございません。ほほほほほ」


「マントヴァ…ボルジアのご一家とご関係が? デステ大公母様があそこの領主夫人だとはお伺いしましたが…」


「ええ。祖母があそこの出でして…後々の世になりますが、魚料理を主体としたオテル・リストランテがその地で名声を博しますの。これまたそちらには耳が痛い話ですが、ミシュランという会社が出しておりますガイドブックで星三つの評価を得るところでして…」


(おいおーい、そこってラッツィオーニのおっさんとか連邦世界でのイタリア首相のお気に入りじゃねーか…)


(だからこそかー様と二人して無理な上にも無理言ってエマちゃん修行に出したんですよっ。今日の料理に文句つけられたらあたし、バット持ってカポネってました(平和大好きバット技)よ!)


(あー、エノテカ・ピンキオーリの銀座にも行かせたあれか…)


(ローマのラ・ペルゴラなんてどれだけ頭下げてもらったか!)


(意地でもフランス料理よりイタリア料理を優先させるるっきーとベラ子の執念だけは理解した!強く理解した!…だけどよ、一応はフランス料理の習得もさせとけよ…お食事外交じゃ無難っちゃ無難なんだよ…)


(マリーを行かせたらいいでしょうに…)


(るっきーおめー無茶言うな、マリーに包丁握らせんのかよ…ほれ肉料理だぞ)付け加えておきますとマリー、料理出来ない訳じゃないんですよ。ただ、厨房に入れると()()()のラインみたいなノリで暴れまわりますので…。


「ほう…チェダーチーズですな」


「その下はトーストでしょうか」


「いやいや、流石に肉が見えておりますよ」


はっはっはっほっほっほっと笑う英国のお三方。


「ウェルシュ・レアビット風のラムステーキです。肉はラム酒をベースとしたソースに漬け込んでありますよ」


「ほっほう。我が国風ですか。どれどれ…うむ。ラム特有の臭みも少ないし、これはなかなか」


「バローロですか、赤ワインにも合いますのね」


「ラムと言えば脂も気になりますが、これは上手く処理されておりますな」


(ふう…ワーズワースのお祖父様とアグネスさんを実験台にしておいてセーフだったぜ…)


(クリスおじ様でも良かったのでは?)


(ありゃ天王寺生活が主体だったから、数年もかからずに日本に毒されてんだ。一応はNBから軍属のメイドさんが来てたし、食堂のシェフも英国から派遣されてたけどな…食材が日本調達のも多かったし、何よりみんな英国料理ばかりなのを嫌がってな!カツ丼の日とかカツカレーの日とかやってんだよ今も!)


(づまり、天王寺の人たちは英国人として料理の実験台にするのは不適切と…)


(んだ。それならまだ、NB行ってアグネスさんやお祖父様を実験台にする方が話が早いんだよっ)


(え…じゃ、まさか、ねーさんが料理を…)


(おい…ベラ子…あたしが料理やっちゃダメなのかよ…これも、最終の焼き上げはエマ子だけどよ…下仕込みはあたしだぞ…)


(べらこ陛下。しんじられないとおもいますけど、まりあさまはいがいとできるのですよ、おりょうり)と、背後で控えているアルトさんが申します。


(もっとも横着して今日は芋煮だぜー!とか言って堤防で鍋始める事も多かったですけどね…自分の好みですき焼きを始めて関東派の雅美さんと喧嘩したりしてましたけど)


(あの人元々大阪なのに何を毒されてんだよ!まずは鍋で牛脂(ヘット)を熱して砂糖と牛肉を炒めるところから始めるのがジャスティスだろうがよ!)


(あたしにUSAティーポなピッツァとか、ナポリタンスパゲティを平気で出そうとしましたしね。いえ、事前に断って頂けたら普通に食しましたが)


(つくづく、あたくしが痴女皇国が落ち着いてからここにお邪魔して正解という心象になるのですが)


(母様だと本当にフェラーラかフィレンツェかローマから料理人呼んでましたね…)


(そしてたのちゃんか初代様が財務本部にあたくしを呼び出す未来ががが)


(ちなみにジーナ母様の飯の好みは完全に日本人だ。ありゃ身体の祖国とか頭の祖国とか言い分けるだけの事はあるくらい徹底してるからな。サワークリームどころかマヨネーズすらロクに使いやがらねぇ。サラダ食う時に困るんだよっ)


(じゃかましいわおのれらだけでパクパクうまいもん食いくさりやがって!あたし今罪人食堂で野菜炒め定食やねんからな!…あ、ご飯大盛りー)


(うるせぇっ外交交渉面倒だからってあたしらに接待押し付けて逃げるからだろうがっ。本来なら聖母で皇帝室長なんだから、別にかーさんにも出席してもらっても良かったんだぞ?)


(そーですわよ。聖母様もお相伴頂けばよかったのに。あら、インサラータ・ルッサですわね)


(あー本当だ。ジーナかー様の身体の祖国由来のサラータですよこれ)


(ピエモンテの料理だな。わかりやすく言うとポテトサラダだ。レシピの詳細は省くが、下拵えに赤ワインを使うとかマヨネーズソースにアンチョビやケッパーの実を使うのが特徴だっ)


(はいはい解説ありがとうございます)一方でルクレツィア母様が、その由来をお客様方に解説中。


実はこのサラダ、ロシア料理ではないのです。


ロシアからの客人に料理をお出しする際、どんなものが良いか知恵を捻った当地の料理人が考えついたものだそうでして…。


(なんか、あたしの身体の祖国が大食だと思われてるようで…野菜炒めがいつもより辛い気がする…これは涙の味やっ)


(しゃーないでしょ。文句は考えた人にお願いしますっ)


(確かに芋を使う時点で、何かこう…)


(るっきーに同意。更にはお客様方もなんかこう、納得の表情をしておられるのだがっ)


(そのからだのそこくのちをひくむすめふたりがははおやをいじめる…)


(そう思うなら今の段階でモスクワとかキエフ攻めてフランス料理かイタリア料理を流行らせてきやがれっ)


(ふんっビストロの語源はロシア語やっ)


(フランス語にもなってしまってますね…)


(読者の皆さまに説明させていただきますとですね、睡眠時間3時間のナポ公がロシアを攻めた際に、現地の料理屋の仕事がトロいから早よせい早うせいという意味のビストロを連呼したのが由来らしいですがようわかりませんっ)


でまぁ、氷菓など振る舞いの紅茶をお出ししのいたしました後に、宿舎へのご案内となります。


さてみなさま。


ここまでのお話で…何か大事なことを伝え忘れてはいないのかという疑問はございますか。


実は痴女皇国側、ミカエル・アルトさん・ダリアさんは桃薔薇正装スタイルで女官調の姿でした。痴女皇国(うち)のいつものあれですからお尻こそ見えてますが、あくまでも女官調なので帯剣すらせず。


そして姉と母とあたしの三名は公式略装というピンクのスーツ姿。で…。


実は英国外交官の御三方、この時代はまだまだ一般的ではないスーツスタイルです。


男性はだいたい明治時代あたりの英国紳士姿を参考に、バードさんには二十世紀後半の高級なスーツを仕立ててお渡ししております。更には半袖の探検家スタイルなどの服も。


(さすがにウチの気候に中世英国貴族スタイルもなぁ…大量生産が効いたり、オーダーメイドでも作りやすく補修しやすい服どうよ、お宅の未来の流行りよと英国に紹介したのよ)


(なるほど。フランスとは違うのだよフランスとはをやろうとしたのですね)


(特に女性には好評。うちの服がアレすぎるのはともかく、活動性は着目されてるからミニスカートはまだしも、現代風はブリ◯スには珍しく受け入れられた模様)


で、わたしたちも食事を終えてピンクのがんつ服姿になり…だから姉、なんでセーラー服!


(あたしはケツを見せずとも良い立場アピールだっ。一応は隠居してんだぞっ)


(なら尼さん服にしなさいよっ)


とやり合っているのを悟らせずに、10階の階段から公使邸を兼ねた英国国教会にご案内いたします。


そこに送迎役を兼ねたネルソン提督とジーナ母様が…。


「かー様。提督閣下がご一緒ならなおさら同席頂いても良かったのでわっ」


「提督閣下のご要望やっ」


「いや、正直堅苦しいのは苦手というのもありますが、ここを訪問させて頂くのは初めてでしたのでね、ご案内頂きますかたがた軽く食事をと」


「一応うちらも正餐はお勧めしましたで」


「海事関係者でお話がしたいというのもありましてですねっ」と、擁護に回る凛ちゃんとナディアさん。


(あと、ネルソンさん、この航海でナポリ駐在領事も送って来たらしいんや…)


(それが何か…母様…顔色悪いですよ…)


(あー、その外交官の名前、思い当たるけどさ、一応言ってよ。あと多分、歳の離れた奥さんも一緒だったろ?)


(せやねん…ヤバいぞこれ。今回ナポリに赴任した駐在公使がウィリアム・ダグラス・ハミルトン。で、嫁さんがエマ・ハミルトンやねん…)


(あー…やっぱりか…かーさんが顔色悪くなる訳だわ…)


(誰ですかそれ)


(カリブの時にもジーナ様、少しばかり事情をお話されてましたわね…)


(ベラ子。史実のネルソン提督にはホレイシアという娘さんがおってんけどな…ある意味あんたと同じ庶子扱いで、ホレイシアさんはネルソン提督の娘やあらへんと否定する生涯やってん…で、ホレイシアさんの母親はエマ・ハミルトンでな…)


(え)


…やべーというジーナ母様の思考がよく分かりました。確かにそれは不倫というか浮気というか、痴女皇国のめちゃくちゃな家系図渦中にいるあたしからしても危険な匂いがする話ですよ。


(一応、ネルソン提督はあたしの言いつけを守って結婚したんやけど、相手が未亡人でな…フランシス夫人とは妊娠した気配がないみたいやねん…これは帰りにナポリに何がなんでも立ち寄らせずに邪魔すべきか、あたしも頭痛くてなぁ…)

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