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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


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痴女皇国ぼうえき作戦・貿易は防疫だ

「ジーナさん。しかしこの駄洒落菌、とんでもない代物ですよ」


「クリスがそう言うからには、実際生物学的にかなりとんでもなさそうやな」


「まず、真核生物の特性があります。詳細は本一冊書ける話なのでなるべく簡潔に行きますが、細胞核そのものだけの個体形状を持つ微生物が生物分類されているのが大方のウィルス、いわゆる真核生物ですね」


「は?菌やろ?それなのにウィルスて…」


「その件は後で述べます。で、真核生物は原核生物…細菌や、あるいはマクロファージと呼ばれる捕食細胞に自らを食べさせる事により増殖を試みます」ここで、クリスは話を一旦止めて机の上に置かれた◯ールうすあじ関西限定版の袋を差し出して来ます。これを食え、とな。


「もぐもぐ」


「いま、ジーナさんが特定地域向けのお菓子を食べましたが、なぜこれを食べようとしたか。はい、宇賀神(うがじん)さん」


「関西人に訴えかけるお菓子だからではないでしょうか。わたしは全国版チーズあじが欲しいです。さくさく」


「では、これをカー◯、つまり食べられるお菓子として認識したプロセスを考えてみましょう。勅使河原(てしがわら)さん。これを食物と判断するために、人間に備わるどんな感覚器官を使用しましたか。あ、霊感ヤマカン第六感ですとか、パンチさんすら習得困難と言わしめた黄金闘士の第七感に関する話題はなしで」


「えーと、まず目ですね。目でパッケージと中身を確認。それから匂い、その後に食べた味を認識しました。むぐむぐ」


「つまり、人間に備わる感覚器官によって、このカ◯ルをおやつと認識したわけです。あの珍妙な形状で知られるファージも真核生物や原核生物を感覚器官で捕食対象として知覚します。さて、普通、おやつとして製造されたこれ、食べやすいように加工されていますよね、五百旗頭(いおきべ)さん」


「はい。味の好みはともかく、児童の摂食も考慮されていると思います。詰まらせ防止も鑑みた形や固さですし。むぐぐおちゃください」


「ではですね、普通の生物、やすやすと他の生物に食べられるようにするでしょうか、四十洲(しかす)さん」


「逃げるか抵抗すると思います。インポタケのように有毒性を帯びたり、あるいはウニや栗のように捕食困難な外観形状を備えることも含んで発言しています。かりかり」


「細菌だって同じなんですよ。捕食に抵抗するために、自らの細胞膜を異様に強化したりDNA保持部分の消化阻止機能を有する種が確認されています。しかし、敢えて捕食されるように自分の体を肥大化させたり、あるいは帯電してファージに餌として認識させようとする行動をとる生物がいます。ウィルスです」


「あー、それ何か習った気が。真核生物は増殖や移動に他生物の細胞を借りるので敢えて食べられたり吸収されると」


「…防疫教育でも習わされたなそれ…赴任地に行く際や基地帰任時は健康診断や靴裏洗浄とか、行先によってはかなり厳しくやられるんやわ。むろん、微生物を含む外来生物持ち込み防止処置な。旧・米軍の防疫研究所がその辺詳しいよ」


「今回、駄洒落菌の発見に寄与した機関ですしね。で、なぜ駄洒落「菌」の話なのにウィルスの話から入ったかと言いますと…これ、他の細胞と独立している状態では原核生物…つまり細菌として振る舞う生態が確認されたんです…普通なら真核生物は一種の結晶状態になるとかして仮死化しますよね…」


「ええ…つまり自分で生物として形状変化というか進化するって事でしょうか…」


「それだけじゃないんです。哺乳類、わけても人類の脳内に入る際に、血液脳関門を通過するために、アンフェタミン(ただのびたみんざい)分子レベルに身体を縮小することすら行います」


「なんやねんその超生物…何がなんでも駄洒落を言わせるために誰かが作ったとしか思えんぞ…」


「そして、もっと驚く話がありますよ。ウィルス状態でもDNAとRNA、双方の遺伝子を保持しています…B型肝炎ウィルスでもRNAを一部しか保有しない事を考えると、恐るべき新種生命体です。ですが」


「確かにこれを使うと色々できそうですね…」


「人間の脳内、思考や意志を管理できかねない気が」


「それが問題なんです。ジーナさんが駄洒落山一帯を生物化学兵器原材料採取可能地として危険指定した理由もこれです。仮に駄洒落菌の変種製造に成功した場合、駄洒落でなく殺意や犯意衝動に突き動かされたらどうなるでしょうか。人をゾンビ化するようなものです」


「そーやねんよなー」

「ただ…この駄洒落菌、もう一つ対処する方法がありますよ。駄洒落菌と似た繁殖生態を持ち、人体に及ぼす影響極大な生物災害(ばいおはざーど)に我々は対応、成功裡に無害化できた実績がありますよね。はいマリア」


「んー…鬼細胞!」


「そう。細菌ではないが強力な汚染能力と増殖力を持ち、細胞単体で個体生物として認定すら可能なほど強力な生態細胞でした。ただ…」


「痴女種細胞の特性を組み合わせて省エネルギーかつ鬼族他の生態能力や特徴を阻害しない改良がなされた。現在、地球上の比丘尼国関係者やかつての鬼の乱当時の主犯を含め、鬼族やもののけ族は全て改良新種化されているから、精気枯渇に苦しんだり衝動的に凶暴化する事はないよ。そして…」


「逆に痴女種にも順次、鬼種の特長を採用して改良してるんですよみなさん。主に精気消費の省燃費化方向だけど。そして、今回発見された駄洒落菌、実は痴女種細胞や鬼族細胞と類似の生態作用があり、痴女皇国や聖院としてはその研究成果を有効活用したい。ただ…連邦社会では…」


「とーさん。確かにこの駄洒落菌、転用次第ではものすごい革命になるだろ。あたしでさえ、ノーベル賞ものの発見がいくつか思いつくぞ。ガンや風邪の完治とか」


「しかし、駄洒落菌については、連邦社会へのテクノロジーフィードバックを行うと、そうしたメリットよりもデメリットの方が大きいと判断されました。理由は言うまでもなく、思考や思想制御に悪用される危険大。これに尽きます」


「しかし、だからと言って駄洒落菌を根絶するとだ…駄洒落宗を迫害する危険があるんだよな…これが頭痛いんだよ…」


「それに駄洒落菌の感染副作用、場所によっては使えるからタチが悪いんや…クリス。駄洒落山の別名、凍山(こおりやま)やろ」


「あー、あの原因不明の急速冷凍効果…」


「ちなみに奈良県の類似地名は金魚の名産地やから混同夢しないように」


「生仲田氏を推奨するんじゃねぇ。あんたはカトリックか」


「性的表現を地味に盛り込むおっさんセクハラ的発言はともかくですね、まさか、冷凍が必要な貨物を乗せた船に駄洒落菌感染者を載せて駄洒落呟かせるとかじゃないでしょうね」


「それな。上苦理学園の理事長先生に協力して頂いて実験したんだよ。あのハゲと剃髪は違うのよ有識者委員会参事」


「なんちゅう団体やねんそれ…」


「仏門に入って剃髪が必要になった方々がハゲと同列に扱われるのは困るらしい。特に性欲絶倫に見られるのが嫌だそうだ」


「オークと見ればち◯ぽに思う発想やなそれ…確かにラッツィオーニ閣下もゴルディーニのおっさんも盛んな部類やが…あのアルザス禿に至っては普段はわざとED化してるくらいやからな…」


「かーさん。今度言っといてくれ。頼むから70超えてNYの電話帳末尾に載ってる怪しい番号に週一回ペースで電話すんなよって」


「いや。あれは嫁さんとの協定や。愛人の類は禁じる。バレたら殴る蹴るだが、風俗は不問にするらしい。要は私以外にアモーレとか言いやがったら殴ると…」


「確かに長寿措置を入れたから、あと100年は現役のイタリア男だけどよ!」


「まぁともかく冷凍効果や。言ってみれば瞬間凍結作用…フリーズドライに近い効果が出る時もあれば、じわりじわりと効く事もある。要は駄洒落がどれくらい滑って寒いか、駄洒落の質に左右されるねん。つまり…工業的利用は難しいのや…」


「かーさん大事な事忘れてるぞ。冷凍効果は駄洒落を発した者から冷気が送られてるんじゃなくて、その駄洒落を聞いた聴衆の生体エネルギー運動が影響してるんだよ。…そりゃ、駄洒落を言いやがった駄洒落者とさ、発生した冷凍効果との間に物理的な因果関係が観測されないわけだわ」


「ただ、旧女官種と真逆の生体活動…周囲の急速冷却効果が顕著になる条件は見つかっているよ、マリア」


「だよねー。聴衆で駄洒落菌保菌者または抗体持ち。加えて痴女種か類似の人類上位種。この条件を満たすと寒い駄洒落に対して怒るか絶望した!こんな話を聞いて笑う自分に絶望した!とばかりに、本人の周囲に冷却気流を発生させんのよ…」


「しかし何でまたそんな冷凍技術転用研究を」


「あたしの同窓にして、君たちの先輩の室見さんの要望だ…奴は博多や下関などから、汐留までの冷蔵あるいは冷凍貨物列車の運用を考えているんだよ…」


「あー、リーファーコンテナか!」


「ま、かーさんみたいな運輸経験者は真っ先にそこに目が行くよな。で、りええの奴は、冷蔵コンテナや冷凍コンテナで必ず必要なものが痴女皇国世界では入手困難と理解している」


「発電機燃料、または直接供給電力やな」


「そうだ。で…生体発電機をまたしても使うと、これはこれでもったいない。なんか代わりになるものはないのか、これが奴の質問だけど、その中には大量の製氷も含むと言うんだ。みんな、これを見てくれるかな」マリ公がとびうお ぎんりんと聖環に打ち込んで出てきた画像を見ましたが…。


「な、なんちゅうワイルドな冷蔵方法…」


「これ、走ってる間に氷が溶けた水とかどうすんのよ…」


はい、白い貨車ばかりを延々と連ねて走る列車はまだしもその車内です。


マリ公が理恵ちゃんに聞いた話では、幡生(はたぶ)のような貨物駅で木箱やスチロール箱に入れた鮮魚を積み込んだ後に箱の中に氷を詰め込み倒して搭載。アメリカ方式では更に貨車の横腹や天井の投入口から大量にロックアイスを流し込んで、この氷が溶けるまでの間に都心部の貨物駅や、市場に併設された駅まで何がなんでも走り切る特急貨物列車が存在したそうです。


「溶けた水は垂れ流しだ。あたしらは戦中の日本を知ってるから事情はわかるけど、当時の長距離列車は東京なら東京に近づくとトイレの鍵をかけるんだよ…」


「え」


「ぐぇ…」


「まぁ、察した人もいるから当時の衛生事情はなんとか理解してくれ。魚を冷やした氷水くらいでグダグダ言われなかった時代もあったんだよ…」


「遅れた場合とかはどうしてたんですか?台風とか」


「途中で氷を追加。これができる駅は限られていたが、積荷を腐らせたら賠償金がとんでもないから、鮮魚列車は最優先されたらしい。当時の特急列車と同じ最高速度で走れる専用貨車を使ったそうだけどな」


「室見先輩がやりたいことが読めた気がします…」


「つまり、駄洒落効果で製氷した氷を使って生鮮貨物を運ぶ…」


「これ鉄道趣味のある人以外、絶対思いつきませんよ…」


「さすが痴女皇国最強の鉄ヲタ女…」


「その称号は本人の前では禁句だからな!だが、電力事情を考えると魅力的ではあるんだよ…氷を作りさえすれば他にも応用は効くしな」


「しかし駄洒落菌、潜在的な危険性はあるけどさ、利用価値が非常に高い高度特殊微生物ではあるんだよね…」


「だから修学宮運営陣には無理を言っててここを作ったんだ。とーさんには悪いけど、万一の生物災害事故発生時には迅速に埋没処分や焼却処分可能という事で、微生物制御研究部をここに置くのを了承してくれ…」


はい、我々がいる場所。


痴女宮B24、つまり墓所フロアと全く同じ深さの地下です。


そして現在の修学宮ですが、以前お話がありました増築移転、これを果たしております。


本題の地下フロアのお話の前に、とりあえずどこが変わったか、軽くおさらいしておきましょう。


聖院湖開闢記念大堤(    →の先もあります)

修学寮 痴女宮 女官寮 罪人寮 工場○ 工場●

修学宮 痴女宮 女官寮 罪人寮 工場○ 工場●

淋の森 参 道 運動場 運動場 工場○ 工場●

宿坊街 参 道 倉庫街 倉庫街 倉庫街 倉庫街

宿坊街 参 道 荷捌場 荷捌場 荷捌場 荷捌場

宿坊街 参 道 聖院港 聖院港 聖院港 聖院港

門前町 参 道 (↑痴女宮向け一般船舶用)

市場街 聖院港(←痴女皇国関係艦専用)

市場街 聖院港(←痴女皇国関係艦専用)

倉庫街

聖院港(一般貨物・旅客用)


まず、砂糖・塩・香辛料など食品加工。そして綿などの紡績関係を中心とした軽工業施設が工場○です。


そして、金属加工やら木工やら重作業系で熱や騒音が懸念される工場は工場●です。


更に工場の拡張に伴い、原料搬入や製品輸出用の荷捌施設・倉庫街も拡大。積み出し用の港も拡張を果たしています。…監獄国系の企業のどこぞフォークリフトから大型小型こき混ぜて電動リフトを10台くらい買い付けたのは内緒で!


そして修学宮に女官寮。罪人寮ともども、前に増築モジュールを挟み込んで前に押し出した痴女宮拡張の要領で、同じくらいの規模の建物が並びました。


…つーまーりー。あたしが初めて聖院世界に来た当時の聖院宮からすると、横に四倍縦に二倍の大きさになっています…実はあと3セット分は横に作れるそうですが。


で、女官寮。


ここも大拡張を果たしましたが、21階から先は痴女宮と繋がるようになりました。


そして財務局の要領で、他部局のオフィスも順次ここに開設して行く予定です。


…で、実は千人卒以上の居住区を本宮10〜21階にしたのはかなり評判が悪かったんですよ。自分の寝泊まりするお部屋で客を以下略は嫌だという意見が請願処にかなりの量、来ていましたので。


今回の拡張の稟議が下りた大きい理由の一つがこれで、皇族または皇配女官以外は基本的にこの女官寮に居住することになります。


ただ、特殊業務女官については従来通りですね。えーと、悦吏子ちゃん(エレンファーネ)雅美さん博子さん(こうほうほんぶ)、それと福祉女官と言われる保母さん役。特に福祉女官は基本的に修学寮住まいとなります。


そして修学宮も聖院宮(痴女宮)本宮同等の建物に移され、後部ブロックが修学寮となりました。雅美さんや乳上が入り浸ってるともっぱらなのがここです。


…で、修学宮。


ここの学者や研究者で「うかつに触ったりするとヤバいもの」を扱ってる連中が多少おりますが、従来の修学宮であれば痴女宮や女官寮とはそれなりに距離を取った場所にありましたので、安全面においてはあまり悪目立ちしませんでした。あそこが一種の治外法権地帯なのは以前、たのきちあたりが話をしていましたね。


ですが…児童福祉施設の性格も持たされた修学宮。その上に修学寮が一体化しています。これはさすがに無視できんやろという訳で、爆発系や有毒系・感染系の研究室は地下送りにされました。


そして、その中でも最大深度となる地下24階の一室が…クリスが詰める微生物制御研究部室。


NBのファインテック社研究開発本部とはオンラインで結ばれておりまして、いんちゅうくんやしろありくんと言った危険で怪しい半分生物半分機械なナノマシンの開発や、はたまたインポタケのような菌類を分析改良することを目的としています。


(かーさま。公式最大深度って言うといてもらわんと。あれがありますやんアレが…)


(ああ…あれがあったな…誰やねんあんなクソふざけた名前つけたんわ…)


はい。地下101階。


北米防空司令部並みに深度1,000mの岩盤地層内に存在する、転送能力者でないと行けない場所です。


そして、工場廃棄物の中でもちょっとヤバいもんを最終廃棄するための一時貯留倉庫の上でもあります。


そんな場所で何を研究しているか。


ラジウムとかプルトニウムとか、とにかくHの…いや、叡智の青い光が漏れそうなものを扱う場所だと思っておいてください。ここや下の倉庫、もし危険な兆候があったら丸ごとマントル層に転移対象でして、細かい座標指定抜きにボタン一発で処分可能なようにしているそうです。


そして通称がニワトリ研究室。


もっかい言います。ニワトリ研究室。


由来、第二次世界大戦後に某ブリカスで英国面な、クリスはもちろん、ワーズワース大公でも意向を完全無視には出来ない心の本国由来の試作兵器です。


ええ、変態という名の紳士的な素養をお持ちの方にはお分かり頂けるでしょう。


そう、あの英国面とブリカス面の両方が発揮された、頭のおかしい起爆装置保温機能(いきたにわとりさん)を装備した核地雷。あれ由来であることは申し上げるまでもないでしょう。


むろん、核兵器そのものを研究させたい訳ではありません。


ラジウムなどの放射性物質で、医療作業やその他工業的に必要なものを研究させるためです。


例えば原子時計に使われるセシウムや、皆さんお乗りの自動車に装備された排気ガス浄化用の三元触媒に用いられるプラチナ属のロジウムやパラジウム。そして放射線触媒として発電補助や水素抽出に使われるルテニウムあたりが有名どころでしょうか。


…ただですねぇ、モノによっては危険な抽出や製造作業が必要なもんが往々にしてあるのが、このラヂヲでアイソトープな放射性同位元素の世界。


まぁ、クリスのお部屋はそこまで危険性がないけど、ヤバいには違いないのでこういう扱いになりました。


そしてこの部屋、扱っている物がモノだけに空調は独立しています。クリーンルーム併設はもちろんですが、一般研究室区画でも他とは切り離されています。そして部屋に入る際には下着だけになって使い捨て服着用とか、半導体製造や手術行程もかくやの姿になります。


…ただ、この状況に頭を痛めているのが2名。


ダリアと、他ならぬあたしです。


言うまでもなくクリスはあたしの旦那です。


そして、長寿を含む女官種能力の移植実験体を兼ねた過程で定期的に女官種による体調調整(おめこ)が必要となった名残で、ダリアがその相手をしています。つまりあたし公認愛人。


なお、同様にあたしの愛人役が指定されておりまして、アルトがその任務についておりました。あたしとアルトの仲がいいとか折に触れてコンビを組んでいるの、この経緯があるからなんですよ。


(いやー、ジーナさんも頭痛いと思うんですけど、ほんっとクリス様、研究に没頭しだしたらなっかなか上がって来られませんからねー。いやマジに一週間篭りきりとかあり得るんじゃないですか今後)


(また悪い事に、感染防止のための入浴施設とか、あそこで暮らせる設備揃いまくってんのよ。食事も昔の財務部同様に予約したら配膳されてくるし…とどめにクリスもエマちゃんボディなんで食事摂取はもとより精気授受の必要が極限まで減ってるからなー)


と言うわけで、非常手段として「地下でいたす」ための寝室があります。と言っても、元来は研究員向けの仮眠室。常時空いてる訳ではありません。


(最悪は転送回収か…)


(ジーナさんそれダメですよ。あそこはクリーンルーム内転送禁止区域です。クリスさんが地下だと多分、あの中入りっぱなしになるのでは…)


(ぐぬぬ…確かにあそこと出納部事務所はあたしやベラ子ですら簡単に立ち入られへん場所…しかも、ダリアはまだしもあたしがゴネたらジーナさん重要性わかるでしょとぐぬぬせざるを得ないからな…)


(週一回は上がるかあたしたちを呼ぶようにお願いしましょう…)これ、心話で警務本部のダリアと話してますけど、直接だとあたしら泣きながら誓ってましたね…。


(二人とも、とりあえず今日はこの後仮眠室の竣工点検がありますからその時に…ダリアは警備責任者として室内視察名目で来てくれたら通すから…)と、気配り旦那の気遣いに感謝せざるを得ません。

空気が読める希少種ブリ◯ス人として連邦側でも密かに知られる我が亭主、痴女島の島内道路はベラ子の乱暴ルギーニの車体サイズ対応に加え、軽ターハムやカニ目やモーガンが普通に走れるよう平滑にしてくれとエマ子に依頼しておきましょう。もちろん、あたしやダリアを横に乗せてトロトロ走る為です。


「とりあえず駄洒落菌について、現時点で痴女皇国世界での撲滅は絶対不可能。無害化もしくは有用変種化を最大目標とする事。これを微生物制御研究部の目標にします」


「連邦社会ではどうするん。フォート・デトリックはもちろんやけど武漢やあたしの身体の祖国が知ったら絶対これ何かに使う事企むで…」


「ちょおおっと待ったあああ」そこに現れるエマ子。なんやいきなり。


「先程判明した新・解析事実がございます。なんと駄洒落菌自体は、連邦社会だと兵器転用が難しいのが判明いたしました」


「な、なんだってー!!111!!」ええ。居合わせた全員、例のあれ状態です。


「つーのもNBに送った分ですが、ファインテックで雇用してる被験者を使って実験したんですけど…連邦宙兵隊での感染者データだと、早ければ24時間から48時間でジョークを言わなくなっていましたよね」


「あー、生存期間が比較的短いと言われてたあれ」


「で、NBでも早期に血液中から駄洒落菌が検出されなくなる現象が観測されまして。で、宙兵隊感染者データを提供してもらいましたところ、ある因果性が推測されますた」


「その因果性とは…」


「そもそも駄洒落とはどこの文化だしょ」


「日本…あああああ!」


「そうですねん。実はクリスおじ様の脳もあたしがモニタリングしてますから判明してますけど、聖院第二公用語が理解可能な人類の血液内で、一番高い生存期間が観測されますねん。要は駄洒落が駄洒落として通じる言語使用者であればあるほど駄洒落菌が繁殖します。ただ、例の方言抗体の存在がありますから、駄洒落菌が長期に亘り生存する人体…言うなれば人間駄洒落菌専用培地としての適格条件を満たす個体は極めて限定されると推測できますね」


「…つまり、駄洒落宗信徒でないと駄洒落菌キャリアにはなりにくいわけか…これが駄洒落菌ほど強力な生体なのに問題視されづらかった理由とすれば納得いくぜ、父さん」


「更に、駄洒落が滑れば滑るほど駄洒落菌の育成繁殖に好適な環境が脳内に構築されるらしいんですわ。これ、かー様がよく理解出来ると思うんですけど、関西ジョークのボケツッコミ同様に、滑った駄洒落を決めるためには極めて高度な知的作業が脳に対して要求されますよね」


「うむ。核攻撃前の難波の芸人企業村近所の公園などで芸人が漫才の練習をする光景があったらしいけど、確かに笑い芸はそれなりに修行を要する芸事や…待て…つまり上苦理学園の理事長先生って実質駄洒落阿闍梨やろ? あの人こそ一番の駄洒落菌保菌者という事になるで…」


「はい。駄洒落菌を長期間保菌するためにはまず聖院第二公用語常用者である事。そして的確に滑っている駄洒落を発案して放てる知的作業が可能な高度知性体である事。すなわち、アホちゃう日本人である事が実質的に必須ですわ。ですから生物兵器に転用するためにはこの条件を満たす日本人を確保した上で、駄洒落菌変異体を育成する作業が必要になるんすよ」


「はぁ…父さん…これさぁ、父さんなら兵器化できる?」


「厳しい。駄洒落菌は真核生物の性質を帯びるから、帯電イオンを発してファージに捕食される事でも繁殖を試みる生態が予測可能。そしてね…多分、宿主の脳内のシナプス信号の電位差刺激の程度をトリガーにして繁殖行動を取る可能性も考えられるんだ。マリア…この意味、わかるかな…」


「まさか、駄洒落菌は駄洒落が受けたかどうかを判断して増殖するか決めてるのかよ!」


「恐らく。だから駄洒落宗または駄洒落者と言われている駄洒落中毒者でなければキャリアになれないと思うんだ。そして方言抗体。これらの要素が、駄洒落菌が駄洒落山周辺地域以外で問題視されなかった…患者が多数観測されていない理由と僕は考える」


「何やねん…つくづく人為的に発生した生物にしか思えんぞ…おかみ様か初代様か誰かが作ったんちゃうやろな?」


(あほかあああ!そんなめんどくさおもろいもんいちいちつくらんでも比丘尼国は回るわ!)


(あのー、聖母様…わたくしを筆頭にマリアリーゼに至りますまでの歴代聖院金衣の性格、お分かりですわよね…そんな滑りまくる駄洒落を連発してる方に対して、どう反応するかお考え頂きたいのですが…)


(…殴ります?)


(ええ。問答無用に)


(確かにあたしも、駄洒落菌や駄洒落宗の存在知ってなきゃ、確実にあの理事長さん殴りかねなかったな…)


「…ともかく、駄洒落菌の冷凍効果利用です。駄洒落菌の起源については甚だしく興味深いけど、まずは利用を考えましょう」


「で、上苦理学園を含む凍山特有の現象たる冷気。夏場はよいとして冬場の暖房費が問題視されていますねん。これ、痴女種の別空間放熱先を弄りましてね、熱交換システムが組めないかと。現時点で製氷可能なほど急速に気温を低下させるのは駄洒落の聞き手に上位痴女種を用意する必要があるんですけど、聞き手として教育された上苦理学園在校生フル出席なら…日計1トンは製氷可能ですね。先方でも暖房費節減になるならと導入には乗り気です」


「もうちょい欲しいといや欲しいよな」


「で、理事長先生曰く、某匿名掲示板で駄洒落者が集まる場所がありまして、仮想居酒屋めいたそこの本店と板門店って支店の常連に数名、滑らせる事に人生を賭けている方がおられると言う話ですわ」


「…エマ子…特定可能か?」


「もぉおおちろん。現段階では淋の里、ちりめん、たこ焼きに所在を確認しています」


「特定阻止とは言え、ひどい地名やな…」


「その人達まで熱交換システムに組めるのかな?」


「困難ですけど試してみます。なんせ駄洒落凍気としておきますが、冷却効果は駄洒落を受け取る側で発生しますからねぇ」


「まぁ、ダメならダメで素直に氷を作るか。とりあえず魚の輸送に限るなら、帰りの貨車に氷は不要なわけだし」


「それと駄洒落菌以外の問題がある。今後、痴女皇国はもちろん、比丘尼国で加工される食品や工業製品原料の搬入や、製品輸出過程で外来種運搬を助けてしまう懸念が予想されると思うんだ。もちろん微生物、特に流行性病原体も含んでの話だよ」


「確かに聖院港全般の利用船舶寄港数、あたしが金衣を引き継いだ当時の十倍は行ってるはずだぜ。そりゃ、外来種持ち込みの危険性は飛躍的に跳ね上がるだろ…」


「とりあえずバラストタンク装備船舶、地中海と紅海入り口での海水入れ替えを義務づけてはおるけどな」


「さすがのあたしも港に出入りする貨物や船全部の見張りはキツいっす…」などなど話しておりましたが。



「やっと起こされたと思ったら荷物検査役とか一体なんなんですか!あたし、こんな仕事のために生まれたとか人生悲観していいでしょうか!」


「あかん!地味な仕事こそゼニの花は開くんや!」


「そんなどてらい発想でMIDIシリーズの能力フル活用しとうないです!」


「だからあたしも付き合ってるやん!」


ええ、荷捌き場でどつき漫才しながら荷物検査していくエマ子とロンギヌスの姿が。


「なあかーさん。駄洒落で冷凍機が組めるんなら、漫才の滑りで冷凍機作れないかな」


「吉◯興業や松◯芸能が健在なら考えていたな。とりあえず駄洒落山の協力分でなんとかするか…リニアのトンネルどうすんのよ」


「で、駄洒落菌の影響が無視できるレベルらしいのもあるが、その製氷装置兼上苦理学園の空調装置を新たに設置する場所にリニアのトンネル空間を使う方法もあるらしい。りええ曰く、よろずトンネルというものは道路にしろ鉄道にしろ、本坑だけじゃなくて他にも何本か掘るらしいんだわ」


「で、付帯設備を納める穴も掘るからついでにそこに置くという訳かいな」


「んだ。リニア事業協力費や環境影響補償だの、工区への取り付け道路を新たな通学路に共用する話もあるから、学園側としては敷地内にリニアのトンネルが通るのをむしろ歓迎する方向でね。ま、大深度地下で通すから騒音や振動の被害僅少とされたのも大きいと思うけど」


「あとは理事長の酷道趣味か」


「実はリニアで得られる収入や、冷凍設備で節約が予想される電気代を原資に私道を延長して険道、いや県道として県に提供しようとしているようだが…奥さんが頭をはたいていたな…」


「まー、趣味については我々は関与しないでおこう。あたしらはリニア建設に出資した投資と、駄洒落冷凍機から得られる氷が回収できればよいのじゃ」


「あと上苦理学園側から申し出があってね」


「悪い予感がする」


「凍気を欲するならばそちらで駄洒落宗を広めてくれないだろうかと。確かにうちら側のこの時代、駄洒落宗は迫害されていて隠れキリシタン並みに地下に潜伏してるんだけどよ」


「マリ公。その請願を素直に受理する気は」


「多少考える時間が欲しいんだけど」


「確かにな…駄洒落菌の扱いに加えて、駄洒落冷凍機の稼働にあたり必然的に起きる悪影響が予想されるねんけど」


「ああ…頻繁に駄洒落を聞かされるという悪夢な状態がな…」


「痴女皇国や比丘尼国での駄洒落冷凍機導入は慎重にしような。外来種細菌も持ち込みたくないし」


「ただ、駄洒落冷凍機の効率を上げるツールを我々は持っているから、上苦理学園側に提供はしてやりたい」


「まさか」


「そうだ。いまやうちの制式装備と化しつつあるハリセン。あれでつまらない駄洒落が出た場合に発言者をしばくと冷凍効果が向上するとエマ子がな」


「…どつき漫才まで推奨するんかいな…」


この時、あたしは思いました。


絶対に駄洒落菌を開発した奴の起源を調査しようと。ええ、もちろん生物学や考古学的興味からではありません。


…こんなアホなもん、人為的にこしらえた奴がもしいるのなら、ハリセンでしばく為に決まっているじゃないですか!

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