駄洒落にならない怖い世界・にっぽん洒落怖物語
お尻店長と
駄洒落阿闍梨に捧ぐ
「で、何か。リニア通過土地詐欺にあったんですかその人」
「ええ…基地内、というか空港内に入って離陸便か着陸便に轢かれる事を考えたようでして…」
「よう潜り込めましたね…」
「いえ、既に確保済みですが、それならばと手引きした反社活動家が漁船を盗み出して送り届けまして」
「確かにあそこの滑走路、02も20も海に面してるからな…で、フェンスを破壊して侵入と…ようランウェイ正面のフェンスぶっ壊せましたね。あれ、オーバーランした航空機が海に突っ込む直前の最後の防衛ラインなんで、ちょっと特殊な構造のはずなんですけど…」
「あー、サイドのフェンスですわこれ。こっちはまだ通常の方ですよ。まぁ、近年は電車の駅にはホームドア、車は自動ブレーキで、自殺するならば飛び降りるか沈むか…そこまでの度胸はなかったみたいですね」
「しかし参りましたわ。ここ、宙兵隊基地併設ですけど、まさに航空自衛軍との合同訓練中で良かったとしか…うちだけで発着運用中だと、下手したら警備ロボットのスタン攻撃でなくてCIWSのレーザーが作動してた可能性ありましたからねぇ」
「しかし高木少将、よく気づかれましたな」
「あー、前席の娘が察してくれましてね、迷い込んだのがいるからと、管制塔に連絡してくれたんですよ」
「おかげで我々も民間人を巻き込んで云々の被害に遭わずに済みまして…助かりました」
「礼はマリアヴェッラに言って下さいな。それとですね、もし何でしたら、その未遂者が巻き込まれてたって詐欺事件、私どもの方でも話を聞かせて頂きたいのですが。これは宙兵隊ではなく痴女皇国関係者としての申し出です。というのも、あの計画…痴女皇国も出資や土木工事に参画しておりますので、類似事件で風評被害を出したくないんですよ」
「了解しました。漁船に乗っていた反社活動家2名は海上自衛軍飛行隊と海保が確保、上位互換協定に基づいて宙兵警務隊で尋問中です。こちらは確保場所が基地周辺海域という事もあり、岩国警察署に引渡し予定ですが…」
「そっちも調べましょか?反社なら繋がり全部、うちが調査できますよ」と、自分の頭を指して言うのはあたくし、毎度おなじみジーナおばはんです。
「そうですねえ。岩国署が証拠採用するかはともかく、お調べ頂けると正直助かりますので…」
「じゃ、ちょっと一人応援呼びますね。雅美さんー、紫で誰か空いてるやつ10分か20分貸してくれへん?宙兵隊岩国基地で滑走路侵入手引きした容疑者の頭の中身抜いて欲しいねんけどー」
「はいはーい。わかりました。めんどいのであたしが来ましたよ」本人が来るのか。
「だって被疑者が日本人ならあたしが調べた方が早いでしょ?」
「ほな警務の人について行こ。あたしらも侵入実行犯を見てみるんで。ベラ子、うちらの警務の要領で頼むわ」
「了解です。めんどくさいけど仕方ありませんね」という訳で雅美さんと、そしてゲスト用のパイロットスーツを着たベラ子を連れて、警務隊の車両に乗り込みます。
さて、何でまた岩国基地に来ているか。
単純に言うとベラ子の航空機操縦免許取得。
スケアクロウを連邦領空内で運用する場合に備えて、双発タービン機並びにICD駆動機の免許だけでも取らせておいた方が良いとなりまして。
で、以前、聖院への協力運用で預かっていて菅野ちゃんが乗っていたJA0425という日本の民間機レジ番を持っているF-300バンシーと、同じくレジ番JA0334のF-400ババヤガーAR、通称・虎柄悪くない号。
この2機、宙兵隊に返還しておりましたが、嘉手納で保管してくれていたそうです。
特にブラックボックス化された状態ではありますが、NB技術を試験導入した機体であるババヤガーAR、迂闊にモスボール処置も取れないので、引き続き何かの時には適宜飛ばしてくれと言われまして、主にあたしが技量維持飛行に使っておりました。
で…この二機とも元来、生体インターフェイスなしには飛ばせない機体ですが、女官種や痴女種の細胞を解析して類似機能を持たせる試験機として運用されておりまして、成果は連邦宇宙軍や宙兵隊のみならず、各国国軍機として採用実績のあるIF-200ニンフェットに反映されとります。
これの日本向け仕様が築城基地にも来ておりまして、VTOL性能を強化したJB型が二個飛行隊配置されてるんですが。
はい、百目鬼三等空佐。
「単発なんでとにかく軽い小さい。そりゃ最高速度とか兵装搭載量はバンシーに負けますけど、うちの空軍ならまぁこんなもんっしょ」
はい、菅野一等空尉。
「噴進機にした零戦に自動空戦補助翼がついた感じ。ただ推力くれ。ばんしーより明らかに力がない」
…後者の意見は黙殺します。
なんせババヤガーの半分、バンシーの三分のニの調達価格とあっては、戦いは数だよ兄貴な世界はもとより、オーストリアやスイスのような小さい国やフィリピン辺りでも何とか一個飛行隊または一個分隊くらいは持てるとありまして、多少性能が落ちるくらいは我慢しやがれ下さいとなりますよね?
更に言うけどさ菅野ちゃん、昔のこの手の安物と違うて、かなりしっかりした全天候飛行性能あるねんで? さすがに大気圏離脱は無理…というより、有人迎撃機としては究極レベルの性能のIF-170ドゥブルヴェの必要性が問題になりまして。
NBとの実質講和がなり、向こう主導での技術革新が進みました結果、平和になったんなら何もあんなクソ高価な上昇番長いらんやん、代替の迎撃機なら無人機のQIF-150ジャベリン改良したら済むやんというわけで、本当に必要最低限の武装と安定した飛行性能を求めたのがニンフェットとお考え下さい。
それに、機材調達価格以外にもコストダウンに寄与したでかい変更があります。
痴女種や女官種の心話機能や特定の相手の身体遠隔操作能力を解析した新型インターフェイスシステムを採用した結果、あたしもかつて埋め込まれていた生体インターフェイスや部分強化手術なしに全機能が使えることになりました。
で、従来は高機動戦闘時に必須だった生体インターフェイスの埋め込み手術が不要となりました結果、施工対象となった軍人が受けられる高機能障害者年金や定期診療費用負担も減りまして、軍事費節減の役にも立っております。
(これが開発できたから菅野さんも戦闘機に乗れるようになったんですよね…)ええ、あの菅野君に件の手術を施すかどうかですったもんだしていたのが一挙解決しましたのもお教えしておきましょう。
で、この変更困るのは安物を大量生産することで利益率が落ちるメーカー各社くらいだろーなー。あ、基本設計は米国ですが、ライセンス生産は他の航空機メーカーにも枠が設けられ、連邦世界一丸でやってますよ。
そしてこのニンフェット、実はテンプレスの艦載機としても話が出ました。Qちゃん仕様という無人機化キットがオプションであるとか、はたまた単純にバンシーの維持コストの半分でいけますよ…そりゃエンジン二個から一個に減ったわけですから…という売り文句に心が動きましたが。
複座仕様がないんですよ…。
これ、誰かを乗せるアシに使う用途も多いうちらでは致命的です。そんな訳で寝ていたバンシーの処遇を改めて求められましたが、連邦サイドの本音はリース料くらいは貰いたい。更に厄介種のババヤガーを押し付けたい。
で、あたしとマリ公とるっきーでニューヨークに乗り込んで直談判しました結果、二束三文で買い叩こうとする痴女皇国陣と高いリース価格を押し付けたい連邦統合参謀本部との戦いに宙兵隊が介入。
蘇生者扱いで終生将官職者のあたしを指揮官にして、日本国籍で元々軍属待遇者のマリ公とイタリア国籍のベラ子を所属させた教導分隊を創設、分隊司令部はテンプレス2世航空機管制艦橋内。
そして配属機材としてババヤガーとバンシーを押し付け…いや整備費と要員は宙兵隊で持つから、とにかく、スケアクロウを地球大気圏内で飛ばす際に必要と思われる飛行資格だけでも取ってくれと懇願されましたのですわ。
何でこうなったか。
事態は半月前に遡ります。
無事にNBでの改装工事を終えたスケアクロウ11番機、M型からG型に変わりまして、搭載工事を終わらせたテンプレス2世ともども地球に戻りましたが、すぐさま痴女宮裏手の聖院湖のいつもの係留位置に戻すかと思いきや、周防灘で航空自衛軍築城基地所属機の発着訓練プラットフォームにされたの、皆様覚えておられますでしょうか。
更に新田原基地とか、果ては那覇基地だの宙兵隊岩国基地の機材まで来艦するハメになりまして、お前ら基地で訓練やれやと臨時航空指揮所担当官やらされた白マリが切れておりましたが。
それはともかく、岩国基地所属の宙兵隊仕様S型ニンフェットを受け入れていた最中に、基地近辺の自治体から海上自衛軍岩国基地に緊急連絡が入りました。
内容は「急なゲリラ豪雨で山中の私立学校に繋がる私有地道路にて崩落発生。学校は孤立しており、現地の調査並びに、可能ならば取り残された生徒学生の救出を依頼したい」というものでした。
で、宙兵隊は連邦政府経由で日本国とは地位協定を締結しており、加盟国の災害時には出動要請に応じる必要があります。
ところがアメリカ海兵隊駐留時と違って、二個戦術戦闘飛行隊が分駐するだけの宙兵隊に要請されても、せいぜい現地を偵察するだけです。
が、運良くというか運悪くというか、周防灘に浮かぶテンプレス2世、言うまでもなく空中や宇宙空間の航行機能がある上に、アングルドデッキこそ備わりませんが本格空母と揚陸艦の合いの子です。
取り残された教職員に児童合わせて千名くらいなら、格納庫甲板などに簡単に収容可能。何班かに分けて待たせる必要はありますが、風呂や食事も充分に提供可能です。
更に、横には最大200人はなんとか詰め込んで垂直離着陸可能なモロ輸送機のスケアクロウすらおりました。
という訳で岩国と嘉手納の司令部の許可を取った上で、聖院&痴女皇国がNBを介して日本国やイタリアと結んでいる緊急時艦船支援協定を拡大解釈しまして、臨時徴用に応じてくだんの学校上空に。
その際にマリ公がテンプレス2世を学校のグラウンドに着地ぎりぎりで浮かせて人員救出を行ったのはまぁ、緊急時だからよいでしょう。
問題は、要請を受けたのちに嘉手納に転移して、宙兵陸戦工兵隊の人員と機材を積み込んで現地にとんぼ返りして急行したスケアクロウ。
地球では国籍不明機…とまではいかねど、臨時に宙兵隊所属信号をIFFから発信して飛ばしましたが、その時に操縦していた面子が問題になりまして…具体的にはコパイ席のベラ子。
ベラ子自体はNBのスケアクロウ操縦資格をなんとか取得できましたが、そもそも当のNB空軍ですら、痴女皇国と聖院へのリース機を含めて13機しか保有していない貴重品かつ機密の塊です。
実際にはこうした緊急合同作戦の必要があるから連邦側でもあれを積む時にはこうとか、緊急利用手順が確立されていたり、災害救助などで乗機する可能性の高い宙兵隊関係者の乗務訓練を実施してはおりますが、建前は機密兵器。
ですので公式的には地球にないはずのものです。
ないはずのものの操縦資格免許試験など行えませんし、さすがにコクピットブロックにあたしやマリ公やベラ子以外の連邦軍関係者は乗せてくれるなと言われとります。日本かイタリアの軍籍持ちならいいそうですけど。
ここまで言えばわかるでしょう。
連邦運輸局航空宇宙輸送部発行の大気圏再突入機や四発輸送機免許持ちのあたしはともかく、ベラ子が地球または汎銀河人類族連邦領土内でスケアクロウを動かすと、即座に無免許操縦になるんですよ…。
スケアクロウの場合、百歩譲って民間機扱いにしても、機体サイズや積載定員から大型輸送機扱いになりまして、本当なら技能資格者が正副2名操縦席に座ってないと無免許扱いになるのです。
これはさすがにバレたらまずいとなり、ベラ子には何がなんでも無免許にはならないような種類のパイロットライセンスを発給したげるようにするから、せめて最低限の資格試験飛行は合格しといてくれと言われましてね。
そんな訳で嘉手納から岩国に往復飛行の訓練をしておりました矢先、滑走路に侵入したアホタレの発見と相成りました次第でございます。
「はぁ…また何でそんな土地詐欺丸わかりの話に乗ったんですか。一坪地主とか、明らかに参加者に儲けさせるよりも工事の邪魔をするための常套手段ですよ?古くは成田や沖縄で乱用されたんで、対策法案も出来てる話なんですけど…」いかにもこの手の詐欺商法に引っかかってしまいそうなお兄ちゃんに説教中。
「僕の百万円は戻ってくるんでしょうか…」
「とりあえず返還されるよう、岩国警察署にはお願いしておきます。しかし、なぜに滑走路侵入を試みたんですか。悪質な利敵行為と判断されたら、日本の裁判所でなくて横田で軍事裁判になる可能性もありますからね?」まぁ、いちいち聞かなくても頭の中見たら動機とか分かりますけど、警務士官が調書を作成したり、尋問中は録画されてますから音声で聞き答え。
(母様…どうもリニア反対派と手引き犯、繋がってますよ…)
(そらあんた、一坪地主まがいの手口でリニア通過予想地を共同購入して売却時配当とかさー、頭がハードポート旋回してそうな傾向の人らがいかにも思いつきそうな話やん)
「はぁ…それが、通過予定地から外れたから返金は不可能、はい区分所有権利書と紙切れ一枚送りつけられて困り果ててたんですけど、同様の被害に遭われたという方から被害者の会を結成するが、世間の目を向けさせるために協力して欲しいとか言われまして。自殺は僕の思いつきですが」
「とりあえずこのあとは警務で身柄を預からせていただきます。日本の警察に逮捕された場合とは扱いが異なることがありますので、担当官の指示には従ってください。ご協力ありがとうございました」と、質疑を打ち切らせていただきます。むろん、警務士官にはベラ子が心話で相手の本音やらなにやらを片端から送信済みです。
(閣下…ご協力ありがとうございました。基地だけでなく飛行場全体への嫌がらせの可能性もありますので、本件は海上自衛軍と民間空港所轄官庁…岩国でしたら国交省管轄ですね。そちらに流しておきます)
(頼みますわ。あと、10月のフレンドシップデーに嘉手納も参加の件、基地司令によろしくお伝え下さい)などなど親睦の話もしておきまして。
でぇ。
岩国の飛行隊指揮官、学生時代にあたしの受け持ちでした。
捜査協力のお礼をと基地司令に言われたらしく、基地からそう遠くないレストランに案内されまして。
なんか店長がお尻フェチらしく、店内にクリスお好みのスポイラ系水着モデルのポスターがあちこちに貼られてるのは相変わらず。
というのも基地関係者には知られた店らしく、あたしも二、三回来た事あるんですよ。
「もう少し遅かったら牡蠣をお出し出来たんですが」などなど言われつつ、沖縄に勝るとも劣らずなステーキなど頂きながら歓談。
「そーいや少将閣下、いや教官殿…リニアの話ですけど、このお店でその辺の話してたお客さんいたんだそうですよ。マスター? あれこの辺の人なんだっけ?」
「いやいや一見ですよ。だいたいこの店のお客さん、基地の方が圧倒的ですからねぇ」
「聞かせみたいに投資話をしてたらしくて、海上さんでも宙兵隊でも怪しい変な話に乗るなって回覧回せとか、訓示の際に注意が出たりしましてね。特に独身隊員は要注意と」
「しかし、くだんの土地…学校の近くらしいやん。よう売り出せたな」
「あー、活動家の記憶にあったわよジーナちゃん。山の持ち主が維持に困って売り出したの、仲介不動産業者にねじ込んで分筆させたとかなんとか」
「その場所って…どこなのかわかります?」で、シャーベットを運んできたマスターも参戦。で、このマスターたるや、見るからに筋者なごっつい外観の上に、愛車が黒っぽい大型の車で、右翼に間違われた経験多数な方だそうで…。
「えーとね、こないだ水害で道流されたあの学校…上苦理学園やったっけ?」
「えええ!あの山一帯、駄洒落宗の持ち山ですよ?よくあんなとこ取得できたもんだな…」驚愕の表情のマスターですが、思い当たる節が…。
「あー、そう言えば…ほら、あそこの災害救助に当たった陸戦工兵部隊の隊員が何か言うてたな…隙あらば滑りそうな寒いジョークを言うようになったのが数日続いたって…」
「ええええええ? 駄洒落を言うって事ですよね? 駄洒落って感染症だったんですか?」
「うむ…これさぁ、他の客おらんし、マスターやから言うけどさぁ…ちょっと機密やから扱いに注意してな…実害は駄洒落以外にないねんけど、BC兵器開発原種発生地帯として要監視地域に指定されたからな、あの山一帯…」
で、皆が戦慄する話をさせて頂きます。
そして、この話、まかり間違うと本当のリニア通過ルート選定にも関わるので、マリ公と理恵ちゃんにも遠隔心話参戦依頼。
(で、あまりにも底冷えする駄洒落を言う奴が救助任務参加者に続出してな…とりあえず症状が出た陸戦工兵全員の血液サンプルを採取してもろた。んで、テンプレスに収容した生徒と、理事長夫妻の分は後で密かにダリア行かせて細胞サンプル収集。で、米国の防疫研究所と、クリスが臨時講師やってた○大生物学部微生物研究室、NBはファインテックの半生体研究室に送り込んで調べてな…」
「どきどき」
「なんか出たのね…」
「うむ。昔、世界中に蔓延した某感染症ウィルス。大陸発のあれ。あれに近い感染力を持つが、生存と繁殖期間はごく短いんやけど、知的生物の脳に至り言語野を侵食する性質が発見されたのや…」ビビってるベラ子と雅美さんに、研究所から寄せられた回答を教えます。むろん、教え子とマスターにも。
「まさか、駄洒落が生物由来とは…」マスターが絶句していますが。
「え?マスターちょっと待って下さいよ!確かあの辺に山菜採りとか言っておられませんでした?地元の爺さん婆さんのリクエストで七草粥作る時とか!」昔の教え子が顔色変えてますよ。あの辺行ったんですか…。
「そーいやそーですねぇ。ただ、僕、妻にも駄洒落を言うとか指摘された事はないんですよ…」
「ふむ」瞬間、閃くものが。
「エマ子!ちょっとあたしのとこ来てくれ!もしかしたら駄洒落菌の自然抗体保持者おるかもしれん!あたしとクリスの部屋にDNA検査用採集キットあるはずやから、それ持って来てくれ!」
…で、がんつ服を変形させた黒のビキニアーマーに目を白黒する…と言うより、店長好みの尻だったらしく、謝礼は後でエマ子ケツ一分間触り放題を条件に血液と細胞サンプルを採集、その場でエマ子に調べてもらいます。
「ええ。店長さん、駄洒落菌抗体が自然発生していますね。ただ、これ、罹患してすぐ出来るものじゃないですよ。何年か何世代かに亘って駄洒落菌に感染し続けて初めて発生する可能性が高いと推測できるんです。つまり、店長さんのご先祖様をはじめ、あの山に近いとこに住んでるのが最低、親子の代くらいでないと駄洒落菌への抗体が出来ないっぽいです」
「…なるほど…だから地元の警察や消防の人は駄洒落を言わないわけか…」
「しかし恐ろしいウィルスよね…例えば赴任してきた外科医なり内科医で執刀医だったとすると、手術中に駄洒落が言いたくなるとか悪夢よ…」
(ただ、感染して発症するかは個体差があるようなんだよ。痴女種にも有効な病原体だってのは判明したんだけどさ…極論を言えば、あたしのMIDI状態やかーさんのエマ子ボディは痴女種をエミュレーションして稼働してるから、理論的には駄洒落を言いたくなる以外無害な駄洒落菌、発症するはずなんだ)
「しかし…あたしもマリ公も駄洒落を口にしたくなんか、ならんぞ…」
(もう一つ発見された事がある。聖院第二公用語を特定条件下で学習・習得した痴女種は駄洒落菌に感染しても言語野を侵食されないんだ)
「ななななんですと?」
「まさか、その覚え方って…ねぇマリアちゃん、あたし、該当するかな?」
(ビンゴ。つーか雅美さん、東京生活が長かったから普段使わないだけでさ、元来はネイティブスピーカーじゃん。かーさん語の)
「えええ? いわゆるジーナ語と言われるあれを使うと駄洒落菌が防げるって事っすか?ねーさん!」
(そう大声で言うな…いや、あたしも考えてみりゃ、普段全く使わないだけでかーさん語の影響下に置かれてるんだよ。つまり、関西圏に居住するか関西人と接触期間が長い場合にも一種の抗体作用めいた物質が自然生成されて、駄洒落菌の神経や脳細胞作用を阻害するようなんだ…そして瀬戸の凛ちゃん。あれ、瀬戸組の組事務所ってどこよ)
(確か今で言う呉か海田市か、とにかく広島県の沖…まさか!)
(そう、りええ…あんたも抗体保有者だが関西由来だ。そして、駄洒落菌に有効な抗体はもみまん…変な想像するなよ、もみじ饅頭県というか土手鍋県というか赤ヘル女子県の言語域の人間も生み出せるようなんだわ。凛ちゃんなんて考えてみりゃ、村上水軍を含めてモロに駄洒落菌感染してなきゃおかしい行動エリアだったんだからな)
「うーむ、考えてみればあたしも、モロに母様の脳から聖院第二公用語を引き継ぎ学習してますからねぇ、ねーさん同様に」
(つまり、聖院所属または痴女皇国の痴女種は、痴女宮で一定期間を過ごせば勝手に駄洒落菌への免疫がついてしまうのかしら?)
(そーいう事になるな。ただ、問題は…リニアだよ…エマ子、くだんの学校法人上苦理学園か、あの学校の所在地とリニアのトンネル予定地を重ねてくれ。特に斜坑口だな、つまりトンネル本坑完成時には換気用の通路としても機能する場所だ。あ、ちょっと大佐や店長さんには見せられないんだ、これまだ未確定だし、本当に買い占められたら困るからな。わはは)
(ねー、まりり…本当の名前は駄洒落山っていうの?凍山っていうその山、モロに通過ルート至近よ…しかもエマちゃんの予定図だと斜坑開削地点になってるわよ、学校の近所…)
「ぎゃああああ!エマ子!まだ掘ってないやろな!掘ってたら絶対に埋め戻せ!最低10キロはその山から離して掘れ!」
「いや、あと数日この話を聞くのが遅れたら掘ってた可能性がありましたよ…聞いて助かりました…駄洒落菌を多量に含んだ空気を通過車両のエアコンが吸い上げてたら、在郷軍人病真っ青の状況になってて、通過列車の乗客が片端から駄洒落菌に感染してたかも知れませんよ…新大阪も大深度地下なんで、関西弁ウィルスと仮に仮定しておきますけど、それの予防効果が見込みづらいままに博多行きが突っ走ってしまう可能性は高かったですからね。理恵さん、コ○ナ対策の時並みに、リニア車両の換気回数増やした方がいいですよ。特に新大阪停車中になるべく車内の空気を入れ替える勢いで…」
(救いは、大型駅なので新大阪停車時間、のぞみ同様に2分から3分は取るはずなのよね。あれでかなり換気されると思うから…)
「しかし、なんちゅう傍迷惑な菌やねん…クリスに頼んでカウンターファージ開発してばら撒いてもらうか…」
(かーさん、その件についてだが出来れば対策をしないよう依頼が来ている。請願者はパンチさんだ)
「えええ?何で?確かに駄洒落宗は仏教宗派やけど、別にパンチさんが興した宗派ちゃうやん?それに有害微生物やんか…」
(いやいや、パンチさんの考えはこうだ。「駄洒落を唱えて友好と平和を促すのであれば、経を唱えるのと差異はないでしょう。ただ、駄洒落の場所と時間を選べとは指導できるかも知れません。ただ、駄洒落そのものを迫害するのはよろしくないのでは」とな…確かにパンチさんの考えは正論と言えば正論だ…駄洒落で周囲を冷凍する科学・魔法・呪術他、あらゆる関連要素が発見されない以上、駄洒落を禁じるのはマナーを説く以外に道はないんだ…)
「確かに、駄洒落そのものを禁じるのは言論封鎖…」
「ああああああ!」
「どないしたん雅美さん、とうとうあんたまで駄洒落菌に」
「やられてないやられてない。確かさ、表向きはわかんないようにしてるけど、そこの理事長夫人って結構癖のある人でね、昔から腐敗した腐った薄い本の世界では有名人のはずなのよ。駄洒落宗や上苦理学園との関係ってさ、よほど年季の入った即売会戦士とか宗主板関係者とかでないと知らないと思うけど、学校もののやおい話では妙に描写がリアルなのよ。そりゃ、おウチが学校を経営してたら詳しくも描けるわよね…」
(そうですよね…よく見たら学校への私有道路の取り付け部のすぐそばじゃないですか、駄洒落山駄洒落院って…)
「あー、うち疑問に思っててんけど、なんであの学校、あんな山奥にしたんよ。話を聞いたら別に全寮制寄宿制でもなんでもないし、駅からスクールバスはもちろん、路線バスも走ってるそうやん。何もあんなクソ狭い酷道まがいの私道作らんでも、もっとええ道引くか、学校自体ももっと山麓に作れへんかったんかいなと」
「ああ、それ、絶対やらないと思いますよ」と、約束通りエマ子のケツを撫でさせてもらってご満悦の店長さんが断言なさいます。
「えええええ?学生にわざと苦労して通学させるとか」
「いや、もっと簡単な理由なんですよ。あの理事長、特定車種のユーザーグループでは有名な人で、その車種専門の旧車會の名物男なんです。何インチにリフトアップしてたのかな、とにかく、奥様もグループA仕様並みにいじってるエボボな車を別に持ってるくらいの車好きなんで、リフトアップした上にボルトオンキットでターボ化してオリジナルの二倍近い馬力出してるのにご夫婦で乗ってるんです。で、酷道マニアなんで、自分が酷道に行けない時のストレス解消用に走るためにあの学校への道、わざと酷道仕様にしてるって話です。これ、特定車種の車系SNSあるでしょ。みんなでカラオケ。あれじゃ有名ですよ」
「恐ろしい趣味やな…」
「確かにイタリア貴族でも、クラシックカー、特にオールドフェラ ーリやランチアやアルファロメオとかマセラティのレーシングカーを隠したいがために、わざと山上に邸宅を作って麓までの道をそうしてるのはいますけど…」
「なんにせよ、パンチさんの請願は無視できませんよ…勝手にわたしらがファージばら撒いて駄洒落菌を死滅させたのがバレたら、それこそ初代様とおかみ様が援護に回りますよ…」
「うむ。勝つか負けるかは別にして、パンチさんの言い分を無視すると強行した我々が悪人に見られかねん…それは認めざるを得ないやろ…理恵ちゃん、残念やけど、斜坑の換気設備にウィルス遮断機構をつけるかルート変更、どちらかで進めざるを得ないやろ。明日、あたしら嘉手納にバンシー返しに行くついでに、取り付け道路の復旧工事の状況を撮影する段取りになってるから、上空からもっかい直近の映像を撮ってそっちに送るわ。それ使こて国土地理院の地図と突き合わせてエマ子と方針決めなおして…ごめんな」
(いやいや、ジーナさんのせいじゃないですから。しかしこれは本当に厄介な話が出たもんですよねー。痴女皇国には直接的には無害ですけど…)
「まぁ、あそこの理事長さん自体は駄洒落を言う以外には別に害がない人なんですよ。学校生含めて地域貢献の奉仕行事も積極的になさってますし、教育内容も左右どっちかに偏る事はないって話ですから。ただ…留学生をあまり積極的に受け入れないんですよね。駄洒落を理解しないのが理由らしいですけど」
「その理由が如何にも駄洒落宗だ…」
「地元ではあの山が駄洒落山だっての、公然の秘密です。ここだけの話ですが、山菜の他にキノコがよく取れるんですよ…」
(いい事聞いた。今度、インポタケの胞子を撒いてやろう。毒性なくしてハナっから食ったら効果出る改良無害化種)
「やめい。毒性をなくしても別の意味で有害や!」
「その猥褻な名前のキノコってなんなんですか。調理人として聞き捨てなりませんが」
「はぁ…マリ公…乾燥ゲンキタケの干物ある?ちょっと店長にサンプルで渡しとくわ…」と、タッパーに入った干しキノコをお渡しして。
「トリュフとかポルチーニみたいな味なんですよ。ただ…股間に効きます…効きすぎるくらいに…」
「わかりました。必ずお客に出す前に試食してからにします」
そんな訳で痴女皇国関係者はがんつ服に着替えて店長と記念撮影したりとかして過ごした後、岩国基地の官舎をお借りして一泊した翌朝。
海側へ離陸してから、バンシーの進路を山のほうに取るようにベラ子に指示を出していきます。あたしは後席から偵察ポッドを操作中。
(母様、間もなく凍山上空です)
(おっけー。こないだの復旧工事の後の本工事は施工中か…しかし、ほんまに酷道そのものの道やな…ようこんなんでスクールバスとか路線バス通す気になるわ)
(学校は幼年部から高等部まであるんでしたっけ。かなり巨大な学校ですよね。これで寄宿舎なしなんだから、本当、なんでこんな場所に作ったのか理解に苦しみます)
(何でも迫害されていた当時の駄洒落宗宗祖が、この地に密かに開山したらしいわ)
(高野山といい比叡山といい、仏教ってやたらと山の中にお寺作るの好きですよね)
(平地にも作るの好きやねんけどな、本願寺とか成田山とか)
(あー、阿波内侍さんが何としても鹿島神宮のナマズを使いたいって言ってましたね。成田山だけは廃墟にしたいって)
(絶対不許可。あの神宮には追加で淫魔像を置いてナマズを暴れさせないようにするそうや)
(そんなに危険な神社なのか…)
(関東はそもそも地震が多いからな。それに地震を許可すると将門公がつい我を忘れて帝都滅ぶべしとやるのもあるが、若様のおうちの牧場がどこにあるか考えてみ。あそこに害を為す行為は比丘尼国でも痴女皇国でも聖院でも禁則事項やろ)
(ああー、そうでしたね)
(よし、とりあえずこの映像や画像データを痴女宮に持ち帰ろか。FL800までズーム上昇、嘉手納へのRTBコースに乗せて)
(了解です。しかし、あんな恐ろしい菌がいるのもさりながら、対抗手段が既に身近にあったとは思いもよりませんでした)
(やはり関西弁最強やな!)
(かーさま。その喋り方で痴女皇国が言語汚染されているのをご自覚なさっておられますか。みんな言ってますよ。たのきちはもちろんですけど、理恵ちゃんですら、知らずに関西弁で話してる時があるって)
(…初代様ですら言ってる時あるらしいな。まぁ、あそこは姉が関西弁まがい使いやし、しゃーないやろ)
(ただですね…流石に請願処の内務窓口で相談されると放置プレイというわけにはいかないんですよ。一応は皇帝として感染源を消毒除菌しましたという証明を出す必要はあるんですが)
(ええー?そんなん適当に書いときーや)
(そうはいきません。請願者は複数いますが、アレーゼおばさまの名前もありますから)
(何でまたあの人が)
(ミカエルが関西弁をたまに喋るので困るそうです。あと、うちの叔父やデステ叔母様までが聖院第二公用語使用時に口にしていることに気付くというてまして)
(ベラ子。あんたも今言うたぞ)
(あたくしはかー様の娘ですし。で、対策を直接DNA転写した証明を対処報告に添付して、それで納得を頂こうかと思います)
(…まさか…その対策とは…)
(あたくしのラスプーちんちんで直接投与。これはマリアねーさんとエマ子から指示されています。痴女皇国と言わず、可能なら嘉手納到着後に即時施工せよとも)
(お前皇帝やろが!執務権限で拒否られんのか!)
(せやからあきまへんて言うてますやんかーさま。ほら出たし!これが公式の会談の場で出るからあたしも困ってんですからね!あと、後席のエジェクションハンドル操作、こっちで無効にしてますし、だいいち今射出したら九州本島から奄美大島に被害甚大ですよ!)
(つまり何か、後数分であたしはベラ子に)
(その先の発言はR18です。なんにせよかー様は逃げられないのです。諦めて着陸後はおとなしく降機してください。痛いようにはしまへんから…ってほらまた!これこそ根絶の必要があるとお思いになりませんか!)
(菌か!関西弁は菌やったのか!)
(んな訳ありまへんがな!戦闘機の機内ですからはりせん使えないのが残念なんですけどね!これがスケアクロウなら問答無用で横に手を伸ばしてますよ!…いや待てよ?オートパイロット入れて荷物室直行できるな…スケアクロウなら)
(むすめがおやをけがすことしかあたまにありません。せいがんしょにせいがんしてよろしいやろか)
(初代様に直接依頼を。マリアねーさんだと100%却下すると思いますから、慈悲の心で受理しそうな相手を推奨しておきます。あ、そろそろアプローチキューが出る頃合いですね。さぁ母様、心の準備を。痴女皇国の言語摩擦をこれ以上蔓延させないための措置と思って我慢してください。それとも基地内のスーパーで罰ゲーム食の缶詰を買ってきましょうか?)
(やめろベラ子!あれはあの身体でも効くんや!放射能汚染並みに身体に臭いがこびりつくんやぞ!)
(でしたら大人しく受け入れてください。ま、母様の弁だと施工した事実だけでも有効なんですよね♪)
(やめろー!お願いやからこのカーテンハンドルを引かせてくれ!キャノピスルーであたしだけ射出されるようにするから!)
(諦めてください。マリアンヌとスザンヌからも、かー様の関西弁が伝染して困るとの請願が来てますからね!まだ幼い娘をまた泣かせたいのですか?諦めて大人しくしてください!)
…最近、娘が強引な気がします。…ってベラ子も実際の年齢を考えると反抗期の可能性があるんだよな…。
(促成栽培をするからこうなるのです。まぁ、痛いのは最初だけですよ。さ・い・し・ょ・♪)うっふっふーとベラ子がウキウキしていますが、せめてこうなったら抵抗はやめましょう。ただ、場所は…基地外活動はやめよう。な。
(キ○○イのようにアヘる可能性を鑑みて基地外のらぶほにしましょう。○チ○イだけに)ベラ子…あんたにも駄洒落菌、感染してアクティブになってないか…ええ、蹂躙から生きて帰れたら、絶対に陽性検査を受けさせましょう。そうします。
ですから皆さん、あたしの無事を祈っていてください!お願いします!




