臨時校外活動・日本三大祟り神営業ドサ回り!3
「まぁまぁ、かーさんかーさん、そうぶんむくれるなよ。ほら豚まんあるぞ」
「マリア姉さん、それテロ行為ですよ…あたしでも知ってますが」はい、それ自体の匂いに加えて辛子の臭いが更にきついんですよね、その中華風ピロシキ。
「貸切だしいーじゃん。ほれほれお茶お茶。慌ててがっつくなよ…」ええ。いい年してと思わなくもありませんが、背後で饅頭をむさぼり食べていると思しき母親の気持ちもわかります。
昨晩は突きまくられながらあたしが愚痴を聞き、突いてるクリスおじ様には喘ぎながら器用に愚痴を言うという状態でしたから。何を突いて何が突かれているのか、詳細を申し上げるのもはばかる修羅場でしたから。
さて、母を餌付けする姉やあたしが乗っているもの。
中央新幹線のひびき号という列車です。新大阪の新幹線ホームと違って地下にある駅を出てからというもの、奈良県境までは延々と穴の中を走るそうですが…。
「本日は中央新幹線をご利用頂きありがとうございます。この列車は中央新幹線ひびき608号品川行きです。停車駅は名古屋、名古屋を出ますと終点品川まで止まりません。平城山、新亀山、新中津川、リニア伊那、南甲府、橋本には止まりませんのでご注意下さい。名古屋には10時20分、終点品川には11時ちょうどの到着となります。列車前から16号車、15号車の順に繋いでおります。8号車、9号車・10号車はグリーン車となっております。全車座席指定で…」そうです、あたしは東京のイタリア大使館にお邪魔するために何度か乗っていますが、痴女皇国では未体験者も多いリニアモーターカーです。
旅客機並みに小さな窓が気になりますが、理恵ちゃん曰く「全線の8割がトンネルだから窓の外を見ても穴しか見えないからねぇ。その代わりにほら、これ」と前の席の背もたれに付いているディスプレイを操作してくれます。
「これが先頭についてるカメラからの映像。で、こっちの現在位置の地図と合わせて見れたりもするのよ。普通車なら端っこの壁についてるモニターに同じものが出るけど、グリーンだと各席の画面で見れるのよ。で、これが速度表示。今300キロ越えて加速中ね」結構速い気が。
「ああ、最高速度まで加速するの3分かかんないから。新幹線より加速いいよ」
「スケアクロウよりは遅いか…あれの操縦、なんとか出来るようにはなったんだけどさ、未だに気が重いのよ。値段を聞いた日には特に」
「ベラちゃん、乱暴ルギーニでもソローっと動かすからねぇ、慎重派なのは一緒に乗ったらよくわかるし」
「母様の影響極大。あれであの人、機械ものの扱いは乱暴にやらないの徹底してるから。とにかく衝撃与えて壊す行為をものすごく嫌がるのよ。だから菅野さんと折り合い悪かったんだなーと…」
「あーわかるわかる。菅野さん無茶大好きだから…」そうです。太宰府からの帰り、女子は新幹線でしたが男子はスケアクロウで帰阪という流れになりましたけど、母様、意地でも菅野さんに操縦させませんでしたから。更に嫁さん二人…アレーゼおばさまはもちろん、百目鬼さんが成層圏でのスケアクロウの挙動から何かを悟ったらしく「これは間違っても直ちゃんに動かさせてはならないデリケートな代物だ。あんたの優先使用機の歪みゲージの数値が築城基地の機材平均値未満に収まるように努力するまでダメ絶対」とか謎の話をして矛を収めさせていましたね。
で、くだんの菅野さんですが、百目鬼さん同行で休暇扱いが認められたらしく、本日も私たちに同行しています。百目鬼さんは滅多にリニアや新幹線に乗らない乗れないらしく、きゃっほーいとはしゃいでいますが、自分で動かせないものにあまり興味なさげな旦那さんは静かにされてますね。
(というか、羽根もないのに浮いているのが生理的に受け入れられんらしい。更に物理的に操縦士が乗らない乗れない代物だからな…彼の元々いた時代にはそんなものを想像した人物すらいなかっただろうし。私も理屈を説明してもらっていなければ足がすくんでいたかも知れんが)と、嫁さん一号から大人しい理由の解説が。
「今、平城山駅を通過。またすぐトンネルだから」通路側の理恵ちゃんが解説するも、通過はほんとに一瞬なのですが、駅名は確実に読めました…ただ、MIDI化したからこそ出来たようなものでしょう。
昨日、実はあたしもスケアクロウで学校を経由して痴女宮に戻っています。
ただ…操縦室ではなく後部荷物室で。
更にエマちゃんの手でMIDIシリーズ、全領域機動戦闘体の有機体型とかいうそうですが、姉やエマちゃん同様の能力持ちにされました。
その際に受けた注意事項。
・視聴覚制限なし
「対象に注意を向ける必要はありますけど、この世に知覚不可なものがなくなります。誰かさんの青姦や、誰かさんの悪口とか地球の裏側で誰かさんと誰かさんが姉弟ショタックスしてるとか、NBでワーズワース叔父様が今日は山崎30年物二杯目空けたとかまでわかります」
・単体で瞬間移動可能。
「スケアクロウやテンプレス不要。更にかーさまが指定したあらゆるものや空間を切り取り移動可能。ただ、やり過ぎたら世の中めちゃくちゃになりますから注意」
・精気不要。
「エネルギー源はこの世から取りません。一応精気管理サイクルに入って扱う事はできますが、必ずしもかー様自体が必要とするわけじゃありません。ただ、マリアねーさんがやってた精製と還元作業は必要ですけどね。基本的にかー様が意識してやる必要、あんまないです」
・妊娠不可。
「する事もさせる事もできまへん。聖院のジーナ様やクリス様とかマリアねーさんと同じ。懐妊には人体の懐妊過程エミュレータモード…まぁ要するに、ややこしい手順必要です!めっちゃめんどくさいのでどうしてもという時には聞いてください!」
・不死身。
「本体がこの世にないのに、どないして物理的に殲滅できるんすか。更にあたしらが一種の遍在した状況作り出せるんすから。攻撃の意思を完全に削ぐ…というか、あたしならあたしと同じものをどうして壊せますか。自殺や自爆も不可能にしますが」
・事象改変
「というより事実…イベントという方がいいかな。何かを創造すら可能。ただ、この機能、かー様はもとよりあたしやマリアねーさんにもリミッターかかってます。完全解放したら八百萬神族すら配下に入れられる事になりますから。ただ、祇園で使わざるを得ないかも知れません。その時はあたしが自分で外すか、ねーさんかかー様の機能リミッターをごく一瞬だけ解除させてもらいます」
・MIDI06操作
「あたしとかー様二人の承認で起動可能。かー様とねーさんでも可能。ただ、普通の人や痴女種が混ざると、従来通りに起動承認処理に合計七人が必要となりますからご注意」
とまぁ、色々あれこれ言われましたが、主要機能はこんなところらしいです。
「くどいようですが、M-IKLAモデルは通常のMIDIと違って何かをぶっ壊すためにできてません。やろうと思えばできるだけで、主目的はぶっ壊さずに何とかするためにありますから。くれぐれも色々やるときはそれを念頭に置いてくださいよ。気に入らないからとフランス丸ごと薩摩るとか、ハプスブルク家根絶やしにするとかモスクワ大公国をロリヤされる前に潰すとか、そういうのは絶対やめてくださいね」そこまで言われたら逆にやりたくなります。特にロリヤやふぁんふぁん鳴るたいさの出身地のあ・そ・こ。
「ろりやは現れたら殴る方向で済ませてください。あと筆ヒゲのおじさんとかハゲのおっさんも!」
あとですねぇ。
マリア姉が言ってた、あまり性欲に意欲が向かない問題。これかなり顕著に出ました。
例えば、たのきちが盛らないとあたしもその気になりません。従って痴女宮淫乱ベスト何とかからは自動脱落です。いいのやら悪いのやら。
(いやお前が性欲湧かないのってさ、精気管理の頂点たる立場上まずいだろ…とりあえずインポタケの成分に添加剤混ぜ込んだ試作錠剤、雅美さんに渡してテストしてもらってるから。効果が判明次第ベラ子にも服用してもらうからな)
一体全体なにを作っとるのですか、ねーさん。更に言うなら自分で試しなさいよ、そういうのは。
(エマ子ですら強制発情させられそうな代物だからな。ふっふっふっ、普通の人間用の三千倍だよ三千倍)
(あたしねぇ、マリアねーさんに対して確実に、性能的に劣ってると思うんですよ。そういう変なもん発明する着想能力についてですけどねっ。あれだけはマリアリーゼに譲るってクロスのおっさんも)
「確かに痴女服の変な機能とか、当たってるとは思う。あんなもん、まりり以外に誰が考えつくのだろうか」
「このアオザイにしてもとんでも機能満載ですからねぇ。編笠ユニットの装着を拒否して正解でした」
「更に言うと、クリスさんが絡むともっと変なもの作る。いんちゅう君とかしろありくんとか」
「変態やな」
「ええ、変態ですね…ちょっと待った母様。高木家を変態の系譜のように言うと、あたしにも被害が。あとサリーやエマ子にも風評被害ががが」
「諸君。そもそもこの母親と青姦していない者はいるだろうか」ちょっと姉。いきなり何を言うんですか。…うん、一度や二度じゃないけど。
しーん。車内が沈黙に包まれます。
と言っても、トンネルの中に、ぎゅわんぎゅわんと新幹線を更に強烈にしたような走行音は響いています。ただし遮音は効いていますので、何かを落としたり話した声はちゃんと聞こえますよ。
「かーさん。悪いが、あたしの遺伝子の九割くらいはかーさん由来だったと自分で調べて解っているからな。この言葉の意味をよく噛みしめながら、そのスゴイ・カタイ・アイスを食ってくれ」
「さっき車販が回ってきて買うたばっかしやろ。まだ硬いやないか」
「痴女種の歯と顎ならいけるいける」
「無茶言うなっ。だいたい痴女宮の中やと落ち着かんからやで、あたしが淋の森とかに行く理由っ」
「仕方ねーな…とりあえず淋番警備担当の慰安を条件に了承もらったんだろ?場所が確保できたんだから良かったじゃん」
「やかましっみんなでボロクソに言いやがってっ」
「まー、泣いてる母親は姉に任せるとしまして、智秋先生、本日はどのように」
「品川到着後、バスで大手町に向かいます。品川からだと絶対に乗り換えが必要になりますからねぇ。東京駅なら丸の内線一本で済むんですが」
「帝都もややっこしい事になってんだよなぁ。ほら、俺ん時は地下鉄道が銀座線だけで、東京市電ばっかりだったから。まぁあれも乗り間違えたら車掌と喧嘩するとかややこしい代物だけどな」
「今はまだましよ、なおしちゃん。元・都営線がメトロに編入されてなかった時期は本当に大変だったらしいからねー」
「大阪は今、私鉄直通可能な規格で作り替えとる最中やからなぁ。ほれ、なまじ核攻撃で市内中心部が壊滅した上に事実上は大阪市が消滅したも同然やし」
「ジーナさん…あれに投資して回収できるのかってたのきちが泣いてましたよ…おまけに昨日の福岡県と◯鉄の泣きつきでしょ、リニア博多延伸の後押し支援とかどうするんですか」
「はっはっはっ大丈夫だよりええ君。我が痴女皇国は逆にJR◯日本と大阪市やメトロおおさかその他から英国経由で施工費用を受け取る立場なのだよ。それも財務省に実質的な手形裏書きさせて50年ローンだがな!」
「理恵さん、実は除染はとっくに終わっとるのですわ。ほれ、あたしがこないだ行ってゴソゴソやってた件」
「つまり…うちがやった分の作業経費って実質ゼロに近い…濡れ手に粟も甚だしくない?」
「はっはっはっ、更に酷道2号線とリニアの分の関門トンネルの施工打診も若様にお願いしていますよ。リニアに必要な主要な穴さえ掘っておけば、早けりゃ五年以内で開通するでしょ。あと、名目は英国の土建屋主導で日本の土木業数社参加の合同企業体施工ですけど」
「ぐふふふふ。たの父の勤務先から大規模融資を入れさせていてね。政府が動かないなら銀行動かすよ。更に石灰石や砂利や鉄鉱石を現物支給してやるともな!」
「それ絶対無償じゃなくて売却でしょ!」
「はっはっはっ人聞きの悪い事を言うものじゃないよ、リニアの軌道敷くくらいのセメント原料や鉄鉱石くらい何とでもなるわっ。それに川砂も、七代目金衣様が吹き飛ばす直前のどっか半島から大量に調達して保管中だから、あとは例の私有高速興産とか乳父の山奥の会社にとかだな!」
「その当て字は乳上を連想しそうね…あと、アナルなギャルのファンが怒るからやめた方がいいわよっ」
「ベラちゃん質問。イタリアの人の気質が伝染してる気もするんだけど」そんな我々の雑談に対して、果たしてこれでいいのか痴女皇国という目を向ける級友、特に二人。
「あと大阪のノリ。生粋のだぎゃー人でも二人以上集まらないとみゃーみゃー言わないわよ今時…」
「あー、よっしーにあずさん。それについては智秋先生が学生の時に出した報告で判明しています。聖院時代に第二言語を決めようとなった際に、諸国の言語での表現をなるべく包括可能で語彙豊富なものを検討。で、母様がお使いのあの言葉、実は方言性がない共通語であれば、クリスおじさまもワーズワース大公の影響で喋れるのがわかりまして」
「で、初代様も、比丘尼国の言語と互換性があるというから認可を出してクレーゼ母様が採用決定したんだよ。ちなみにクリス父様はまだしも、ワーズワースのお祖父様が英語圏の人だからって日本語で悪口言うとえらい目に遭うからな。普段は意地でも英語で話すだけで、あたしや母様とかアグネスさんくらいしか周りにいないと、日本語で言う方が楽な話題は切り替えてくるからな…あのジジイ、関西弁も理解すんだよ…口にしないだけで…」ちなみにマリア姉のこういう暴露話、わざとやっているのがわかっています。外交の際に日本の関係者が地雷を踏まないようにするための事前情報交換だとかで。
「これ本当に日本の関係者には要注意なんですよね。大公と会談する時に日本語で内緒話ができないって事なので」
「読者の皆様は覚えておいででしょうか。ワーズワース卿は学生時代、本国と違う気候条件や大学の専攻教科を建前に、自分が洋館住まいが暑苦しい上に当時婚約者だった嫁はんや両親と顔を合わすのも嫌だから日本式木造住宅を建てて以来ですね、ろくに邸宅本館に戻らずにアグネスさんと二人で快適な四季を堪能している、根性ババ色なお方だというのを!」
「その和式の離れで愚痴酒に付き合わされる恨みの説明を忘れているぞかーさん」
「今度、清りょうか七水をお贈りしましょうか?」
「若様!それジジイに贈る前にあたしに欲しい!ちょっと味見さして!」
「意地汚いおばはんだな!あたしが大五郎か鬼ころしを飲ませてやるよ!それかストロングに人間やめるあれの原液とスピリタスで作ったろうか?」
「ふっ、あのスーパーのウィスキーをくれてやるわ…あれを主計のロシア出身者に贈ってたら飲んでたのには参ったけどな!」
「せめてニッカかダルマにしてやれよ…あれはアル中御用達だぞ…」
「いや、あたしも本当は泡盛を勧めたんやぞ。嘉手納にいたら一番入手しやすいし、安いのは値段も手頃やけど、…ただ、奴の消費量には追いつかんらしくてな…ちょうど基地の住宅区画に近い場所にそのスーパーのでかい店があって、あそこやとこれがあると教えて以来ハマるハマる」
「健康診断で引っかかったり身分不相応な勲章もらった挙句に滑走路清掃車で暴走してCIWSの集中射撃で排除処理されるようなもん教えるなよ!」
「仕方ないやろ…日本語わからん子やし、ママの店で酒の愚痴聞かされたゴルディーニのおっさんから相談受けて、航空自衛軍の那覇基地あるやん、あっこの知り合いに電話してなんかないか聞いたらこれ教えてくれたんや…」
「まさか、かーさんも飲んで」
「それはない。あたしその時既に生体インターフェイス入ってたから過剰摂取は濾過されてまうし、第一、飲み過ぎたら肝臓検査で引っかかって飛行停止処置入るよってな。お菓子とお酒については厳しく自粛していたのや…」
「なんでお菓子まで」
「女の楽しみすら軍隊は奪うのか…」
「いや、そんな事あらへんよ。日本のお菓子をあまり扱ってへんだけで、PX…売店はもとより、基地内居住家族向けスーパーに行けば各国の主要なお菓子がずらり。サルミアッキすら売られてた。日本のお菓子が欲しければ、車で5分のくだんのでかいスーパー行ったらなんぼでも売っとったし」
「学生諸君、あたし百目鬼も虫歯については同じ立場なのよ…虫歯になると、医師の治療証明が出るまで飛行停止。症状によっては完全に人工歯差し替えしないと戦闘機乗務から外されますんですわっ」
「俺もドメちゃんからしつこく言われてんだよ。ほら、昔の俺ならB公…B29を追いかけ回したくても長い時間、連中が飛んでる高さにいられなかったけどよ、今あてがわれてるやつは成層圏飛行当たり前だからな。気圧が低いところで虫歯のままだと圧力差で虫歯が破裂するんだよ。最悪、口の中血だらけ」
「あずさん、よっしー…あたしもお菓子制限されてるの…」
「え」
「なぜベラちゃんが…体型維持?」
「ノ!ノ!ほらスケアクロウ。あれ、ものすごい高さまで上がるから虫歯だと大変なのよ」
「ちなみに旅客機操縦者も歯科医の証明書が必要だから、トビ職なら虫歯対策は常識だったりするのよっ。フタイチマルマル…21時になったら宿題済ませて歯を磨くのですよっ」
「ひとつ質問。そこまでして維持する資格の代償の収入、ズバリおいくらなのですかっ」
「学生の新卒募集への影響を気にされるならばまずそこです!」
「航空自衛軍は民間トビ職よりはっきり言って安い。ただ、乗務手当によって変わるから、私で基本八百、手当込みでだいたい年収一千と思っておくれなはれ。直ちゃんはあたしからマイナス百くらいね」
「ただ、帝国と違って食費や被服費が無料。これがでかいんだよ!帝国だと士官は飯と服、自腹だったからなぁ…」
「宙兵隊は少尉七百大尉九百、これに地上基地勤務か航宙艦艦載機乗務かで変わる手当がつく。ただ…地上勤務とあまり変わらない生活空間が確保されてる艦隊母艦や航空兵力揚陸艦…つまり空母はあんま手当つかん。一番高いのはあたしが左遷で食らった駆逐艦配属分隊勤務。これが一番給料としては美味しい。ただし…男所帯やし、宇宙軍の駆逐艦乗員はもとより、宙兵陸戦隊とも仲良くせなあかんねん。最長半年は同じメンツで延々と船の中で暮らすからな。おまけに滅多に重力入れてくれんから体力維持が大変で大変で…あ、佐官からはちょっと変わってくるからな。勤務時間や日数変動要素がカットされてくる。その代わりに余裕で千越えするけどな。うちが少佐の時でだいたい千二百未満。ちなみに少将だと正規勤務者で二千五百超え。うちは特務扱いで常勤と違うかったけど、聖院や痴女皇国関連とか天王寺絡みの話があったのを足して引いてだいたい二千にしてもろてた」
「高いのか安いのか判断に苦しむ数字だ…」
「持ち出し支出が少ないのは聞いた事ありますね」
「ただ、体力が必要そうなのが…」
「これは一般企業でもオーバーワークになってもうたら体力いるから、あんま変わらんと思うで。今日は雅美さん来てへんけど、あの人に話聞いてみたらええわ。身体鍛えるのが義務化されてへんだけや言うから。あと、体型についてはあたしの体格で務まった。メスゴリラになる必要ないっ」
「つーか、かーさんは特殊業務の方の練習があっただろうがよ。ほれママの店!」
「あんたな…あれがあるから言うて全課程とか全業務免除な訳あらへんやろ…マジにあれであたしは死ぬ思いをしたんや…」
「ちなみに参考までに。そっちの世界だとどれくらい稼げるのでしょう」
「那覇の場合限定やけど、食えてる子でも、波の上のお風呂よりは稼げません。ムラがかなりある。あと悪い事に日本は未だに売春…厳密に言うと売春幇助は犯罪やから。まぁ、嘉手納に新規赴任者が来る時期から一ヶ月は絶対に何回か揉める。ウチはゴーゴーバーやない。ボアチでもないとな…」
「純子さんのところはどうなのでしょ」
「あそこは売春があるから、かなり事情が変わるのでは? こんな事言うと物議かもすけど、売春しなきゃならないなら日本より痴女皇国でやる方がマシな気がします」
「真顔でなんてこと言うの梓ちゃん」
「だって考えてみてよ。お客さんより強くしてもらえるから、こちらさえ道を踏み外さないなら問題は少なくなる。更に病気やら障害と無縁。まりあ先輩ー。車椅子というものは痴女皇国世界では存在しない。なぜなら我々が歩けるようにするからだと言われましたよね」
「もちろん。助けて欲しい意志を示せばあたしらは助ける。戦争などで身体を欠損した場合や、有毒生物にやられた場合もしかり。その代わりに助けた分は働いてくれ。具体的には痴女皇国に来てもらうか、斡旋する仕事についてもらう。既に仕事についていて今いる場所を離れられない場合聖母教会に来て奉仕するか、最低限、布教活動に協力してくれ。…実は聖院時代とあんまり変わらんのよ、この条件」
「聖院時代は、聖院宮または支部の請願処に来る事が条件でしたからね。ただ、実際には来る事すら叶わない方々には女官か騎士を差し向けていましたが」
「建前ではお布施を頂くのが条件になるんだよ。はっきり言って金持ってる奴なら割と簡単に来れるし、助けない方が世のためになる奴も来るからな。ただ、聖院…痴女宮なり、うちの支部に来るまでにそりゃあもう大変な苦労をしたとか、まさに藁にもすがる思いで来る人は大抵が懐具合があれだろ、だから貧しい人については、まず助けてからその後の生活相談をさせてもらうのさ」
「マリアリーゼ。日本の方々は生きる権利を法で保証しておられるでしょう。我々の方針とは少しばかり差異がある事をお教えしておきなさい」
「えーと、今、初代様が言われた話なんだけどさ。聖院世界…痴女皇国もそうだが、およそ生物には生きる権利と完全に表裏一体で生きる義務があるというのを聖院では採用しているんだ。だから請願処に来る人にきっちり説明するのは、助ける代わりに生物としての役目を全うしてもらう。聖院時代から門前町を含めて働かない者は不要としてるのは、この考えが前提にあるからなんだわ。ちなみに比丘尼国にもデンデラ野や姥捨山は存在しないかんな。うちと同じように寿命ぎりぎりまで働いてもらう仕掛けがあるんだ」
「あ、その件について疑問が」
「宇賀神ちゃんから疑問とは珍しいわね」
「えっとねベラちゃん。渋谷にいた占い師さんに聞いたんだけど、人は生まれた瞬間にある程度は人生が決まります。しかし完全に決まる訳じゃなくて、ある程度の方向性があると言われたのね。具体的には私達の本来の学校でも試験や面接はありますし、学生として不適切な行動や成績であれば退学もあり得ます。つまり、本人が努力しないと振れ幅の一番悪い方に流されてしまうから、入学試験に受かる類の努力は必要だって言われました。で、あたしの疑問」
「あー、何となく宇賀神ちゃんの言いたいことはわかるけど言うてみ」
「例えば交通事故に遭って死ぬか、寝たきり植物人間人生の人がいたとしましょう。まりあ先輩なら治せますよね。でも、それって…占星術で言うホロスコープで決まった運命の許容範囲をぶっちぎってませんか? もっと言うと神様レベルでその人の運命を改変できるのでしょうか」
「なかなか良い質問だっ。では宇賀神ちゃんの疑問に、まりあモードでお答えしよう。…うちの母がいるよね。今あたしの隣で硬いアイスと格闘してる人でショタ捕まえて玉の輿なおばちゃん」
「見た目、あたしたちから多少年上にしか見えませんが、まぁ、いらっしゃいますね」
「っと、マリ公はあとで泣かすとしてやね、あたしの中学や高校生の時の同級生にも散々言われた。ジーナちゃん何で宙兵隊なんか行くのと。お母さんに何を言われようと進学すりゃいーじゃん。ジーナちゃんの成績なら奨学金申請したら普通に大学行けるやんと。担任や進路指導にも言われた。しかし、父に泣きつかれた事もあったし、例の縁切り神社に行った件もあって、敢えてあたしは志願書を横田に送りました」
「その結果が…まぁ、少なくとも人が羨むかどうかはわかんないけど、うちの母は見ての通りアラフィフに見えますかって感じでしょ」
「あとまぁ、備蓄資源を含めたら兆円単位の資産がある都市国家の皇族兼、NBの実質国王みたいな人の親族だよね。普通の大学行ってたらまず無理でしょ」
「さて宇賀神ちゃん。クリス父様とかーさんが知り合ったのって偶然じゃないのは聞いてるかな」
「んー、いろんな意味で適性者を調べ上げて決まったのは聞きました」
「…宇賀神さん。貴女、もしかして…変えて欲しいの?」
「待ちやれ、てるこ。うがじんとやら。お主、七つの川流れという話を知っとるか」
「恥ずかしながら存じておりません」
「よし、まぁ、おまえらの日本はおろか、ちきゅうのあちこちに似た話があるんじゃがな、ま、かいつまんで言うてやる。例えば、お前の親が禁則を犯したとしようや。わしとこの庭先の川で小便したとか、魚を取った程度でええやろ。で、わしの下のもんが怒って産土に命じて、お前が七つになったら生命をもろうてこい。川を汚したから川に流せとでも決めよったとしよう。ところがそう取り決めしたのが、お前の父なり母なりにばれた。ほな、お前の親は七つになった娘が川にとられるのを防ごうとするやろかの」
「抵抗を試みると思います」
「まぁ、川に行かさんようにするやろなぁ。しかし、川にとられるか、はたまた生き延びるかはそのときどきでかわるのや。きょうみがあればしらべてみい。あとな、聖院の世界に来たら、その占い師の占のもとの考えにしとることわりからはずれるからの。そのかわり、じぶんで生きろ。お前が今、生きとるしがらみから外れるかわりに、しがらみに守られた生き方から外れるのや。それはあたりまえや。このりくつ、わかるな?」
「宇賀神さん…もう少し希望を持たせて差し上げますわ。貴女は今、痴女種化しておりますね。このままですと、良きにつけ悪きにつけ、貴女の人生を決める理に、聖院歴代金衣の意向が介在します」
「ただな、宇賀神さん。いつものあたしに戻って言うけど、あなたの…そして、他の学生さんや日本人のみなさんの運命を決める元来の担当者はあたしらや、八百萬神種だけじゃないんだ。人の運命のプリセット担当者が別にいるんだよ。で、プリセットする奴らが、基準が変わったがために再設定する条件がいくつかあってね。一つは、聖院世界に来る事。もう一つは太陽系を外れて生活する事。そして…」
「千人卒以上の痴女種化すること。これだと単純な人類としての運命を逸脱してしまうの。ゆっきー、多分あなた、占星術で出た運勢を気にしてると思います。けど、本来の痴女種…意味わかるよね…になると、八百萬神族種と人類の中間に位置する事になります。ただ、普通の人が悩む事に悩まされなくて済む代わりの義務が生じるの。だから…もし、決めたい話があるなら、今この場で決めなくても大丈夫だけど、いつかは決めないといけない話なら早めに決めた方がいいわ。同級生として、そして痴女皇国を預かる立場として忠告しておきます」
ベラ子「もしかして占い師から結構きつい事、言われてない?」
ゆきこ「そーなのよー。普通はこんな事言わないんだけど、もしかしたらって事があるから特別に言うって前置きされてさー」
マリア「宇賀神ちゃんの悩みはちょっと置いとくけどな、運命のブレについて一つ事例を紹介しとこう。対象は他ならぬ天の声だ」
ゆきこ「あの人、何やらかしたんですか」
ジーナ「東京転勤後に人生に悩み、占い師に勧められて大阪に戻った。その数十年後、当時同期で入社した大卒者と餃子のキングジェネラルな店でばったり出くわした際に自分が辞めた後の話を聞けば、同期で大阪本社から東京に転勤した者は全員、最終的に中途退職。更にその企業も自動車産業他の衰退を受けて土地や社屋など資産を整理して、最終的に関連業種大手企業の系列会社として吸収合併。業界でよく知られたその社名も多分消滅するのではないかという話に」
ゆきこ「戻って良かったのでは」
マリア「ただなぁ、本人には一種の座敷童子属性があるようで、今までにアルバイト含めて勤務した団体、ことごとく衰退するか大規模な組織改変で実質別物になるとかしたらしい。むろん、関わった風俗店は全て現存しないし、他にも邪険疎遠にした親類縁者にことごとく不幸がとか。だから、なるべく影響を受けないように規模の大きい組織に属する方がよいとか」
ゆきこ「ひいいいい」
ジーナ「天の声本人曰く、私は意識してこの恨み晴らさでおくべきかとやったわけではなく、疎遠になるか逃げた後でそうなってただけ。自分の意思で恨み呪い祟りが成就するような便利な能力ではない、間違ってもない模様」
おきぬ「もしかして、その方、例えばわたしの地元だと、御巣鷹山や谷川岳一の倉沢で何か見てくるような人なんですか」
マリア「都合よく何かが見える聞こえるわけではないと断言している。これはあたしにもわかる。あいつは霊感は零感…ゼロ感に限りなく近いな。ただ、昔住んでたところが一種の事故物件で、前居住者が「病棟入り口に鍵をかけられたり鉄格子だったり拘束具付き寝台に縛り付けられている病院に行って帰ってこなかった」曰く付きで…何度か金縛りにあった他、そこに住んでたのが理由としか思えない現象あまた」
おきぬ「ぎええええ」
ジーナ「幸い、今の住まいに移ってからはぱったりと止まったらしいけど…あーそうそう。あれ、本当ならとっくに死んでたらしいわ」
ゆきこ「はぁあああ?」
ジーナ「占い師の勧めもあり、占星術用の天文暦…当時はホロスコープ作成Webサイトとか便利なものはなかったから、目の玉が飛び出るくらい高価なものだったらしいけど、それを使って自分の事を診たところ、◯十歳辺りで死ぬ…それも苦痛を伴う事故か殺人が死因だと」
おきぬ「でもそこから何年も経過してますよね」
ジーナ「ただ、奴が働いていた企業の幹部候補制度で採用された後輩だが、生年月日が一週間と違わぬ人物…後年、天の声がだいたいこの辺りまでに死ぬだろうと算定した年齢で、就寝中に同居女性に以下略。これは何とかてるに掲載されているそうや」
ゆきこ「ぎええええ」
おきぬ「…普通は別れますよね…刺し◯すとかなんでまた」
ジーナ「動機は不明だが起きた事実はそういう事で、しかも天の声自身も、もしかしたら自分もそうなっていたかもと思い当たる節があったようやな」
マリア「で、あいつが回避できた理由だが、まず、たまたま訪れた某叡智な店の女の子と霊感の話をした際に、急に真顔になったその子から、その時点での残り寿命約五年を告げられる」
おきぬ「その子は痴女種でしょうか」
マリア「違う違う。ただ、対象の頭部付近のオーロラのようなものの色で判断できるとか言ってたそうだ。で、自分でも占星術が多少は理解できていた天の声に対して、貴方なら怒らずに信じてくれるだろうから特別に伝えた。普通なら百日後どころか、明日死ぬ人でも絶対に言わないとまで」
ゆきこ「確かに、いきなり言われて信じられる話じゃありませんね…」
マリア「実はその叡智嬢は引退を決めていて日本を離れる事もあり、二度と会うこともないだろうと天の声に打ち明けた模様。で、叡智どころじゃなくなった奴に対して回避方法も伝えている。叡智遊びの延長でなく寿命を延長したくば、悪いお付き合いをやめた方がよいと」
ジーナ「で、ある店の経営者やある店の経営者など、その手の業界関係者と色々あった後で、念のために呪い返しのカウンターを仕掛ける事を思いついて、ある事をしたらしい」
おきぬ「深夜0時にパソコンかスマホに名前打ち込むとか」
マリア「いやそれしたら自分も地獄に流されるだろ」
おかみ「あー、それで、あいつ、あそことかあそこ来ておったんかい」
マリア「五寸釘と藁人形持って」
おかみ「単に拝んで行きよっただけや言うてたな。せやけど相手がよろしくない奴やったから、跳ね返りが向こうにはそれなりにあったみたいでな」
ジーナ「向こうが呪っていたかどうかは分かれへんけど、とりあえず奴の関わっていた叡智な店や組織は全て現存していない。これが答えらしいわ」
マリア「実はこの、むーっと唸りそうな雑誌にすら載らないようなオカルト話の中にだね、ゆっきーが悩んでいた場合のヒントがあるらしいんだな」
ゆきこ「わかったようなわからないような」
ジーナ「まぁ、読者の皆様は悪い大人とのお付き合いはしない方が無難やね」
マリア(かーさんも大概、悪い大人の範疇に入りそうなのはみんな、思っていても言うなよ!食べ物で釣るにも限界があるんだからな!)




