三河監獄国ものがたり・4
「ううううう暑い暑い暑いっ」
「水水水っ」囚人の皆様が水桶に早足で歩いて行かれます。走らないのは禁止されているからだそうで…。
で、竹筒水筒からまず飲み干して水桶から補給しておられますが、それがこの職区のルールと聞かされました。
理由は並ぶ時間も休憩時間に入っているからです。
そして時間になったら列は解散させられてしまいます。この辺は厳しいですね。
もっとも、きつい職区では工程補助員という方が水桶近辺の水筒立てに立てられた水筒に、持ち主が作業してる間に水を入れてくれたり、はたまた昨日騒ぎになっていた場所より更にきつい場所…あるんですね…では水桶の数を増やしたりなどなど、それなりの熱中症改善対策は取られてはいるようです。
しかし…これ、溶接工程のような火や熱が出るラインが入ると最低でも動力利用の強力な送風設備が必要になると思います。
現在は海陸風や陸海風を利用した風車を使って天井にこもる熱気を排気したり、工場壁面が随所で大きく開くので凌いでいるようですが、スポットクーラーというんですか、要所要所を冷やすあれが欲しいです。
痴女種になってその辺の心配が薄れている私たちですら水が欲しくなる環境ですからねぇ。
「たのちゃんだいじょーぶー?」
「ううっ、生まれて初めての工場仕事で身体が身体がっ」
「それはあたくしも最初に来た時は同じでした。ですから慣熟兼作業適性見極め用の試験らいんが存在するのですっ」
ええ、痴女宮でも聖院でも鬼教官マリーと言われている理由が今更ながらに悟れます。
眼鏡かけてロッ◯ンマイヤーって名前に変えたらしっくりすると言ってたのは雅美さんだっけかな。
(その役柄はマイレーネ様にお譲り申し上げます。あたくしはまだ更衣処で脱いだら女官が死んだとか、不手際を起こし連行されてきた女官を睨んだだけで倒れられる域に達しておりません!だいたいいくらロレーヌの生まれでも、顎がしゃくれたり特産品の芋を食べると芝生というのですか、芋娘な顔になるような名前に変えられるのは辛抱なりません!)
(ああそうか、あたしもフランス料理とイタリア料理が同じようなものと言われたら、発言者をピザ釜に叩き込んで点火すると思いますね。失礼、トスカーナワインとブルゴーニュワインの区別はすべきです)
(ベッコフはフランス料理なのでしょうか)
(たのちゃん…あれはアルザスです!我がロレーヌとは関係…まぁ庶民料理ですけどね。実際、罪人食堂や女官食堂で出したら割と好評で。加熱に時間を要するのと、鍋を洗うのが大変なのが難点ですが)
(たのちゃん、食事の話題は危険よ…この世界だと鬼汗国侵攻のあおりで当代の金衣様に吹き飛ばされた場所の料理を和食扱いされたら、たのちゃんだって怒るでしょ…? ナポリタンはケチャップじゃなくて、トマトソースをイタリア人好みの味にすればアリだとは思うのだけど)
(あのパスタの量が壮絶すぎますう…)
(確かにあれは…)
(そう言えば今日はきしめん祭りとか言われましたが、きしめんとは何なのでしょう)
(…あ、美男公の出身地や鯖挟国には似た食べ物がないか…単純に言うと平たいうどん…痴女宮の食堂でも出している平麺の部類です。茹でるのも早いし手早く食べられるので尾張や三河では人気なのですよ。伊勢にも似たものがあります)
(あとで昼食の際にいただきましょう)
で、食堂。
このたはら工場、地下鉄の駅なら三つくらいの区間が入るほど広い敷地らしいですが、実際に痴女宮から門前町や聖院港を含めた面積くらいはありそうです。
そんな広い工場なので食堂も四つくらいは設けられています。
寮の食器と違い、痴女皇国の技術提供という木製椀や食器トレーは漆塗りまがいの半生体樹脂コーティングがなされています。
プラスチック食器並みの軽さと耐久性と洗いやすさで好評らしいのですが。
同じくLEDまがいの結晶照明が明るく光る食堂内、板張りなの以外はどこが江戸時代直前やねん!と、ここに来てから浮かぶ感想がまたしても。
「日本でも今後はコレラとやらが流行り人がコロリコロリと千人万人倒れ死ぬと聞かされましては…」と、昼食の直前に工場管理棟の事務員用食堂に呼ばれまして、きしめんを頂きながら工場長様との意見交換を依頼されます。
で、工場長様が気にしているのはベラ子陛下。
先帝たるまりりの方針もあって、私たちは普段はフレンドリーに気さくに話をしていますが、やはり痴女皇国の皇帝に現場仕事をさせるのが気になる様子。例え私たちの希望といえど長期間はやらせたくないようです。
「工場長様、お気遣いなく。正にこの作業を体験しておきませんと、我々の進める罪人工場拡張計画の具体案作成に支障が出ますから…」
「工場長。私どもの計画には監獄国からのご協力の話もさせて頂いております。ですので私どもの工場も監獄国仕様で建設させて頂きませんと、将来予想される貴国からの支援者をまごつかせる話になりますわ。我々が囚人同様に暮らす事で身につき理解可能な話もございます」
「健康面のご心配には及びませんよ。戦の経験あまたあれど、工人職人の経験皆無な私ですら、普通に働けておりますよ」と、私以外の三人はやる気をみなぎらせています。
(ふふふ、マリア姉とエマちゃんが新しい金山を南洋王国領内に複数発見しましてね…というか連邦世界で有数の金山を開発しただけですが、そこから採掘し尽くした金銀銅を監獄国への投資に回すのですよ。ほら、比丘尼国領土以外の主な金山銀山はあらかじめ痴女皇国で安全に採掘して保管し、各国への産業投資に回すという事業計画通知書が回っておりましたでしょ。あれですよあれ)
(ああ、うちが南ドイツの銀山をいじってハプスブルク家から猛抗議を受けたあれ…)
(この時代から既に環境破壊が出ておりましたし、マイレーネさんに「説得」させたら黙りましたけどね。国家事業計画を出すなら無償または低利貸付してやるから素直に従って欲しいと、マイレーネさんとイザベルさんが殴る気満々で押しかけて行きましたから)
(あれ、イザベルさんってハプスブルク家遠縁…)
(だからこそですわよ。お前らうちの国がガタった時に支援する気あったのかと怒ってましたから。うちよりフランスが大事なのかー!と激怒してましたけど、マイレーネさんの案を聞いて悪人顔に)
(イタリアからドイツへの陸運ルートの貿易利権とか色々ちらつかされてましたからねぇ。何なら毛皮取引事業、渡そうかとかイギリスに言われてむぐぐ状態と聞きましたが)
(ドイツ・オーストリア・ハンガリーが食えるだけの事業は提供してやるからガタガタ言うなっちゅうねん、まったく)ベラ子陛下はエキサイトするとジーナ語が出る癖がありますね。
「とりあえず、聖環技術の提供も含めた、とよかわの工場新築の件は我が国も全面支援させていただきます。あの工場の成否に比丘尼国の国運がかかっております事、私どもも重々承知しております」
ベラ子陛下が言う豊川という地名でピンと来た人は鉄道マニアの可能性があると思うのですが、何と我がダチにして痴女宮女官長の室見理恵の実家が旗を握り、比丘尼国の基幹交通網整備にいっちょ噛みする話が現在、絶賛進行中。
差し当たり東京〜博多間に新幹線と在来線の類似品をそれぞれ企画しており、鳥羽港から名古屋までの支線…案の定伊勢市や二見浦を経由するようですが…や、三河田原から豊橋までだの名港から熱田だのという監獄国内の貨物路線も並行して優先整備して行く方向との事。
これが出来ると筑豊の石炭や美祢や揖斐の石灰石が名港沿岸の工場に運ばれて工業資源として活用されるそうですが…。
(にいがたの会社で昔むかし作っていたきかんしゃとやらが使い勝手が良いらしいのですよ。で、重油を燃やす代わりに生体もーたーを積んでとりあえず使ってみよう、監獄国内で設計や製造技術が確立するまでは、あめろこ型と並行して蒸気機関車の代わりにあちこちで使って頂く話のようで)
あー、それ見せられました。
DD51 842とかいう、天皇陛下のお召し列車を走らせるのに使っていた特別仕様の凸みたいな形の機関車が保存されていたのでデータを取りーの、エンジン以外は再生産しーので。
(エンジンと変速機の代わりに、半生体機関を積むから一種の電気機関車みたいになるわね。あと最高速度を少し上げて120km/h対応にするのと、砂箱の代わりにセラジェット装置を積みます。単機出力千五百馬力×2基、四重連まで直接総括運用可能…つまり4両連結まで繋がるし、無線制御を入れたらで最大10両まで他の機関車をコントロールできるから、北欧フリー助平王国の一万トン鉄鉱石列車はもちろん、アフリカやブラジルの鉱石貨物列車すら牽けると思います。アメロコがなんぼのもんじゃいいい!)
あー、あの全長二キロとか三キロとか気の狂ったような長いやつ…。
(あの類だと中間や最後尾にも機関車を繋いでおかないと、ブレーキをかけただけでも大事故が起きるのよ。ちょっとした軍艦や貨物船並みの重さが後ろに繋がってるわけだから、前だけでブレーキかけたら後ろの重い貨車がどどっと前倒しに押し寄せてくる訳。実際それで起きた脱線事故が一件じゃ二件じゃないから、列車の中間に入れた機関車や最後尾に繋いだ機関車に対して無線操縦で本務機…先頭の車で入れたブレーキの指令に合わせてなるべく列車全体に均等にブレーキをかけるようにするのね。貨車のブレーキは機関車からの圧搾空気で動くから、前だけだと二キロ後ろまで空気が行かないのよ)
あーなるほど。にしても詳しいよね。鉄女発見!
(親父の商売じゃっ! 東海道筋他の貨物電車には父社も噛んでんのよ! それより分体からこの話を聞いたうちの父が噴き上がること噴き上がること…マジ聖環渡して直接誰かと話させてよ…あたしの分体、まだあっこ大学経済学部よ…毎日毎日あれこれ聞かれて迷惑してんのよ…お願い何とかしてっ!)
(りええ。気持ちはわかるけど、それはまりりに言え。比丘尼国近代化事案はまりり所轄じゃ…)
(あぐうううう)
(まぁまともに進めたら兆円単位のプロジェクトだけどさー…採算合うのかまりりに念押ししてよ?)
(理恵ちゃん…気持ちはわかるけど、まずは人口や利用者の数から調べた方がいいわよ。それに言ってたでしょ。どちらかと言うと物流がまず先。国内物流経路を作りたい、海路から離れた内陸がまだまだ大変だからって…)
(いや、うちの父の会社、どちらかと言うと新幹線作りたがってんのよ…リニアも主力車両は父社製造メインだし…)
(りええ。ド素人のあたしにもわかる。まず監獄国から各地の物流、その次に人の流れよ…元伊勢はともかく、名目朝廷の場所は京都なり大阪なり東京なり何とでも出来るらしいわよ…)
(あ、それと理恵ちゃん…にりあって電気を一杯使うらしいけど大丈夫なのかな?)
(エマ子ですが…あの半生体機関は監獄国みたいに大量の男性が雇用されてる場所や、帆船のように普段の推進装置たる帆などの巡航用推進手段がある場合の方がいいんですよ…あれ、燃費かなり悪いので…あと、燃料の精気を供給するために必ず痴女種の管理要員が近くにいる必要がありますよ)
(げー、鉄道に使うつもりだったけど…)
(仕方ないですね、あのでーでー51とかえっちでー300とかのエンジンそのままで使うのなら重油は都合しますよ。この近所の低質油田の油なら船舶や鉄道用機関向きですし。まぁ、最終的にはこの世界由来の何らかの動力を都合する方向で考えましょ。なんせあのカティサークやサンティシマ号の電磁誘導水流ジェット機関、現状じゃフル出力だと一時間で千人卒の一日分の吸い込み精気を消費してしまうんですよ…巡航出力で帆を併用したら一週間は持ちますけど、両船共に意図的に船員を百人から千人は乗せてる理由たるやお察しで)
(ひええええ、何という…ガレー船と変わらないのでは?)
(失礼な、ガレー船と違って奴隷ぽんぽん使い捨ててまへんがな。まぁあの船、万卒クラスの痴女種機関員必須なんですわ。良かれ悪かれ精気で動きますからねぇ)
(とりあえずたのちゃんは初代様が申しておられた監獄国の事業計画の投資関連調査と報告書作成他、数字の絡むお仕事がありましたでしょ。あれを優先してもらって構いませんよ。どうも工場長様は副国主様から、聖環提供のお話を何としてもまとめて欲しいと申し付けられているようで…)
(あー…端末…ここで動くかな…)
(あー、そっか、経理端末…)
(はいはーい、たのさん、要はキーボードと画面があって、経理ホストに繋がったらええんですよね? で、監獄国のたはら工場だから寮には空調用電源はあるけど、工場施設内の発電施設は小規模で限定…よっしゃ。5分以内で何とかしましょ。クリス父さーん、今カリバーン空いてます? はいはい、そもそもあれで飛んで行くような仕事は今はやってない…了解了解。ちょっと監獄国でたのさん困ってますから借りますよっ)
待て待て待てエマちゃん、あれ持って来て大丈夫なの?
(あれはスティックスドライブ・レベル4対応クァンタムリンク搭載してますし、あたしやマリア姉はもちろん、他のMIDIとか痴女皇国ホストや聖院ホストとかテンプレス級に常時接続状態でっせ。あとはたのさんの経理端末の機能を後席で作業できたらおっけぇっしょ。カリバーン、緊急。こちら痴女皇国皇配騎士エマニエル。あたしを操縦席に転移後、テンプレス2世フライトデッキに自己移動)
(This is Cariburn. Savior Emmanuel Order approved. User VM area installed accounting operation system version Build-4.0.1381. Temporary user status recognized Mariko Tanose.)
(ほれほれ、カリバーンもたのさんの経理処理になら使っていいって言ってますよ。あと、たはらの工場管理棟前の圧搾空気馬車置き場、あそこの空き地に降ろしますけど、痴女皇国関係者以外はカリバーンから2m以内に近寄るなって言ってくださいね。あれ最近自己アップデートして、痴女のドレイン能力備えてますから…。ドゥブルヴェやバンシーのゲストバッジ未装着接近者を警告の上で射撃する機能よかマシでしょ)
エマちゃんが言うなり、何やら痴女皇国世界ではあまり聞こえない類の甲高い作動音が外から聞こえて来ました。
(あ、お邪魔しますー。痴女皇国設備管理部担当騎士のエマニエルです。うちの経理企画の田野瀬麻里子が食事終了したら正面前に駐めてる白い変な鳥みたいなカラクリまで来てくれとお伝えください)
うわー、エマちゃん…本当に戦闘機、それもMIDIシリーズになるカリバーン持って来たよ…。
(はっはっはっはっはっ、たのさんが必要な書類を仕上げるまでカリバーンが出してくれないでしょう。小説家の缶詰状態と申しますか、空飛ぶ座敷牢ですよっ)
(えええええ、あれ、戦闘機…)
(あーそうか、たのさん、あれ乗った事ないから知らないのか…メンテナンス用兼文字会話用のキーボードが前席と後席にそれぞれ備わってるんですわ。あとカリバーン自体が聖院第二公用語を理解しますから音声会話も心話も可能ですよ。たのさんの話す内容、カリバーンは基本的に理解すると思っといて下さい。ただ、あたしやクロスのおっさんほど人間らしい話の仕方できない子なんで、頭の固い話し方しますけど我慢してくだされ。工場視察の面子にはたのさんの代わりにあたしが入りますわ。たはらは元より組織や指揮命令系統とか片端からあたしの頭ん中にぶち込んで帰ったら、業務聖環のイニシャライズの時に楽できますしね。ベラ子かーさん、工場長に聖環管理担当が臨時で面子に入るって伝えておくんなされ)
はいはい、エマちゃんは話が決まるとめちゃくちゃ手が早いのはわかっておりますよ。
(あ、初代様の承認も取ってますし、マリア姉にもカリバーンとあたしがたはら来てるって言ってますから)
--
はい、ここからはたのきちに代わってあたし、マリアヴェッラがお話をしましょう。
という訳で囚人いや衆人環視の下、カリバーンの後席に無理矢理押し込まれるたのきち。
(何でこんな服着る必要あるのよー!いやあああスケアクロウ思い出すからいやーっ!)
(着ないとエアコンの恩恵に与れないからです。キーボードはフライトグローブつけても操作できますからねっ)
(ああーっ暗いよ狭いよ怖いよーっ!)
(はっはっはっ脱出用のエジェクションハンドルは無効にさせてもらいましたっ。これがために後ろに乗せたのです。つーか引いてもカリバーンがダメって言いますよ。飛んでないし火災も起きてないのに何で逃げるんだって)
(ぎゃああああ!)たのきちの心中の悲鳴も虚しく、無慈悲にコクピットハッチが閉まって行きます。
「さて、これで缶詰いっちょあがりっと」ご丁寧に乗降用ラダーまで仕舞われていますよ…。
で、警備に来たうちの騎士に、接近したらカリバーンが外部アンビエントライトで限界ラインを示しながら音声警告を出すから、近寄りすぎた人には注意して欲しいとエマ子が伝えます。
うん、あたし所有の乱暴ルギーニ以上に超・怪しい異世界オーパーツたる飛行機の姿のカリバーンです。
それも見た目はあたしからしても異様極まりない、窓も継ぎ目もなさげな姿です。
脚収納部の開いたドアはまだしも、たのきちが押し込まれたハッチ部なんか継ぎ目見えなくなってますからね。あたしたちが注意をしなければ、絶対に寄って触ろうとする人が出たはずです。
「えーと、この飛行機は比丘尼国の朝廷の偉い人が乗ってるようなものでして、近づきすぎたら自分で勝手に、これ以上近づいたら腰が抜けて立てなくなるよって意味の警告を出しながら足元に光の線を出してくれます」例を示すために工場の幹部の人と一緒に近づくエマ子。
(警告。接近中の未承認者は限界ライン以内に立ち入ってはならない。限界を超えた場合麻痺攻撃を行う)ピー、と音がして、エマ子やその人のつま先の前方の地面が警戒ラインを示す光で照らされただけではなく、カリバーンの機体色そのものがオレンジ色に変わって点滅します。
「なるほど、こうなれば最低でも一歩下がらなくてはならない訳ですね」頷いた見本役の方が後ろに下がると、カリバーンも飛んできた時の白色に戻って大人しくなります。
「ですので、だいたい三尺から四尺は間を空けて観察して欲しいのです。監獄国の方にこんなの見せて興味を引かない訳がないのはこの子…カリバーン自身が理解していますから。あと、みなさんの代表の方に特別にこれをお渡しします。これで絵を描く代わりに気になった場所を写真機として撮影できますから」と、その方にタブレットボードを渡してカメラの使い方を教えていますね、エマ子。
「カリバーン、こちらエマニエル。エアブレーキや動翼や兵装ベイハッチ、定期的に何分かの間隔で開閉試験。駐機代の代わりに観察させてあげなさい」
(カリバーン了解。意図は理解した。航空灯火の試験点灯動作も並行して実行。許可されたし)
「こちらエマニエル。灯火点灯並びに点滅試験を許可する」
「なぜそんなことを…あ」見れば手すきの人がわらわら押し寄せています。
エマ子が心話で近寄ったら精気抜かれて倒れるよと警告したのを後から来た人に教えておられる先着者がいたりなど行儀は良いようですが、あれを見これを見でスター状態。
ですので可能な限り構造を観察させてあげることにしたようです。
「なんかイベントでカメコに囲まれてる状態ですね」
「母様が乱暴ルギーニを持ち込むなと言った理由、今ならよくわかります…あれの洗礼に晒されるのですね…」
「そりゃあ人が乗って空を飛ぶだけでも大騒ぎですよ…海賊退治や鬼退治の際にテンプレスで人を運び入れた際も中を見学させてくれとかひと騒動ふた騒動。とにかく、およそ機械と見ると調べる習性のある人が多いようですよ。囚人さんでも…いや、ここの囚人だからこそ未知の機会の価値を知ろうとする意欲に溢れてますね」
「知的好奇心が旺盛なのは素晴らしい事なんでしょうけど…」
「種子島銃をあっという間に複製して広めた民族ですから…キャラック船やガレオン船も本当に複製しそうですよ。事実、連邦世界だと幕末から明治維新…200年くらい後に最新式大砲はもとより蒸気船まで自力建造しようとしたりしてます。ライセンス生産契約を結んだとは言え、イギリスから買った戦艦一隻をもとに残り三隻を国産で建造するわ、さらに自力で近代的砲戦に対応した高速戦艦に魔改造したりしますので」
「なるほど…それほどまでに技術習得に旺盛だから、武力による戦争をせずにでとろいとを滅ぼせたのですね…」
「これも連邦世界の話ですけど、自分の名前が読み書き出来て足し算引き算が暗算できる。これが可能な庶民の数が他国に比べて飛び抜けてるんですよ。マリアねーさんが修学宮でショタロリ受け入れて教育する姿勢に前向きなのも、他民族を何とかして日本人の教育水準に近づけたい意志があるからなんです」
「姉さんも日本の学校に行きたがってたし、あたしを行かそうという話があるのも、教育について力を入れたい意図があるのよねぇ…」
「市民革命などで身分制度が暴力的に崩壊するのを避けたい意向もありますよ。ねーさん、立憲君主制がベストじゃないけど政治体制の主流にと考えてるんで」
「あの人、大日本帝国と菅野さんだっけか、あの時代に生きた人たちの考えに強く影響を受けてるから、よけいにリベラルって言うのかしら、富裕市民による統治を嫌がってる傾向ある気がするわね」
「おかみ様見てても分かりますやん。日本人ってなんだかんだで統制統率しやすい部類なんですよ。ただ、他民族と一定距離を置かせた方がいいのは事実っすね。監獄国の国外進出についても、他民族の文化様式を尊重させつつ行わせる必要はありますよ。日本人からしたら怠惰に映ったり異様に見える民族、この時代だと決して少なくはありませんから」
「だよねー。文化摩擦は避けたいよねー」はい、この時に何気なく話していた文化摩擦、まさかこの後に日本の高校に留学して、嫌と言うほど思い知らされるとは夢にも思いませんでしたよ。
ですが、そんなこんなで一緒に働きーの視察しーので囚人の皆さんと喜怒哀楽を共にするようになっていった私マリアヴェッラですが、確かにマリア姉が監獄国の技術水準を評価して産業拠点にしようとする理由、なんとなくわかる気がしました。
この人たちならば手綱さえ引き締めておけば、仮に産業革命や文明開花という革新に踏み切らせても悪用はしないのではなかろうか。
むしろ日本を発展させる方が痴女皇国世界のためになるのではないだろうか。
(ま、初代様からあれこれ言われてるとは思うけど、ベラ子に言われてるのは監獄国、ひいては比丘尼国の状況視察…というより、向こうの連中との顔つなぎだ。他の実務はたのきちやマリーや美男公に振っちまえ。ベラ子の役目はな、痴女皇国が斡旋する仕事には監獄国の総力を挙げて応えさせたくなるようなイメージ作りでもあるんだ。彼らの思考傾向流儀生活習慣を理解しているスポンサーだよ、と思わせてくる事も大事だぜ。ま、同じ釜の飯を食って一緒に働いた戦友扱いされるだけでいいんだよ。彼らは仲間認定したが最後、恐ろしく義理堅い振る舞いをしてくれるのさ)
(ですよねー。ひどい仕打ちをしたらいぶふれんど屋、囚人の方に至るまであそこを末代まで許さんって言ってましたけど、逆に苦境を助けてくれたうちや三ツ井戸屋さんには、例え我らが倒れようとご恩は必ずお返しいたしますと繰り返し言われましたし)
(ま、うまく関係を構築してくれりゃそれでいいさ。あと、監獄国絡みはNBにあたしが行くまでにはこっちで諸々持ってやる。今やってんのは、日本の高校に行った際に監獄国に該当するような民間企業や所轄官庁との対応予習でもあると思ってくれ。連邦世界ではこっちほどじゃないが、痴女皇国やNBが握ってるオーバーテクノロジーは元より、痴女種という新種の知的生命体に国運を賭けようと躍起なんだ。乗るか反るかは別にしても、あたしたち側も人類は必要不可欠な存在だから、利益誘導しながらも最終的に善導する必要性はよく理解しておいてくれよ)
一応聞きますけど、人類を見捨てる選択肢ってアリなんですか。
(テンプレスとMIDI06があたしらに預けられてるのが答えだよ。あれ使えば確かにオールリセット、痴女皇国世界を全てなかった事にできる。そして代わりを創る事もできる。でも…めちゃくちゃ大変だぞ? 最低でも初代様が聖院を拓いたくらいの仕事が待ち構えてるよ。ま、その選択肢を選ぶにしてもやれる限りの事はやるようにしとけ。これはしなくていい苦労じゃない、やらなきゃならない苦労だ。だから投げ出すなよ?)
へいへい。あたしも苦労の必要性は一応理解はしとりますよ。
(ま、戻ったら留学関係の打ち合わせも待ってるからよ。一応若様から親衛隊候補二名の紹介も貰ってる。あ、そうそう。今回はベラ子のそばにつける関係上、限定万卒で痴女化済みだ。非接触処置が好ましいと思ったんで、面談時にあたしが施工しといたから。あと、痴女化した関係で…今回は学友のうち選抜者と痴女宮から転移で通学した方がいいって話をしてるから)
えええええ…いいの?そんな事して…。
(今回は痴女皇国や比丘尼国と日本との交流もさりながら、日本側から痴女皇国への人材提供派遣が重要達成事項だろ? 痴女宮暮らしを嫌がるようじゃ話にならねーじゃん。安心しろ。痴女化した二人は移住にも合意してるどころか、若様の実家の優秀な配下のお宅から選ばれた生え抜きだ。間違っても面従腹背なんざやらねぇから安心して仕えられてくれ。あと、もともとかなりの美人さんたちだからさ…ベラ子がたのきちから目移りするかも知れねぇぜ。ふははははははは!)
…何をやってるんですか、この姉は…。
まぁ、姉が世話焼きというか、あれこれ動きたがる習性の持ち主なのは腹違いの妹たるあたしがよく知ってますから今更ですけどね。
作業服の次は学生服か、はたまた私服か…。駆け出し皇帝だからこそあれこれやらされるのは理解していますが、そのうちに船大工とかやらされるんじゃないかと内心怖い気もします。
…あたし、母親と身長揃えてますので、くだんの母親の身体の祖国に昔いたらしい、国土海面下国の造船所でアルバイトした経歴のある皇帝陛下ほどじゃないんですけど180cmあるんですよ…。
ええ、デカ女と言われても仕方ありません。ですが言わせてください。
マリアねーさん。
頼みますから痴女皇国らしい学生服とか私服は無用です。身長あるからと卑猥な衣装ばかり押し付けるのはやめて欲しいのです。
今度変なの着せようとしたら。
…お揃いで懲罰服一日、ついでにクラブジュネスかママの店に連行しますからね!必ず!