王の帰還 -Reditus Regis-・10.5
「つまり、一応はかねで物を買う制度を採用しておくべきと…」
「淫化帝国でも海岸沿いの俗地と、山中の神界では事情が異なりますが、それでも独自通貨の淫貨を発行しておりますよ、父様」
「逆に、そういうものがなければ痴女皇国本国の支援も受け入れづらいのだよ…」
「で、アトハ陛下とリミニ殿下に対しては提案があります。現状ではルーン大陸における物流や物品購買、更には精気授受に絡んだ金銭換算計算のためには便宜的に痴女皇国一般通貨である南洋ルピーをその単位として使用していますが、この南洋ルピーと等価である貨幣名を定めて頂ければ、あとは財務局でしかるべき手を打ちます。これで将来はともかく、今の間は無貨幣生活を維持してもらえますし、痴女皇国の女官報償金を基礎とした貨幣経済概念の導入も可能となるでしょう」
すらすらと提案に及ばれる、田野瀬麻里子・痴女皇国財務局副局長様。
「そしてリミニさんとイリヤさん。新生リュネ王国並びにルーン大陸支部の政体に関わられる幹部として、新貨幣名称に何か案があれば提案願います」
え。
つまり、田野瀬さんはですね…アトハとリミニがこの新しいかねの名前も決められないようでは、ルーン大陸を支部化して独自の行政権を与えることも難しいぞ、と言っておられるも同然なのです。
(わかるかアトハにリミニ。国の国威発揚とかいうことをやって国民の信頼や賛同を得るんも王様の仕事のうちやぞ…)
(確かに、こういうことを決めるにもリュネの者に親しまれる名前にすべきであろうかと…で、私に提案がありますよ)
ほう、という顔で皆がメリエンを見るのです。
このメリエン、既報の通りで歴代のリュネ王城占術師の頭を輩出してきたプロフェ氏族の当代の家長です。
そして、小柄ではありますが、きつめの顔立ち。
(その顔を歪ませるのがええのは内緒で)
(私のえろほんをりくえすとした鬼のような剣聖がいましたね…)
(昔からお前かてアトハの伽の聞き耳役やろがっ。わしとフユキのんも見てて今更何をっ)
で、毎度毎度の醜い争いの内幕はともかく、メリエンが表の顔で申すには。
「我がリュネの始祖とされる初代リュネ王たるプレキことアルデ。その始祖アルデの名を頂戴するのは如何でしょう」
「それええんちゃうか、アトハ。それとリミニ、プレキという単語についてやな…」
「何ですかイリヤ姉様…ええと、プレキとはリュネ語で始祖王とか開王という意味があるのです。そちらで申される初代様ですとか鼻祖という意味となりますかと。ですので、アルデ王をリュネの始まりとした言い伝えでは、アルデ王のことをプレキとして讃える言い回しを致すことも多いのですよ」
「なるほど、プレキと言うのは初代王を讃えるための尊称でもあるのだな。うむ。アトハ王、あなたはいかがか…このデルフィリーゼにもその始祖王のアルデという人物の名を通貨名にするのは妥当に思えるのだが…で、私どもからもう一つ提案をさせて頂こうか」
そして、デルフィリーゼ様が見せたものとは。
「これは記念硬貨とかいうものでな。例えばこの硬貨のように、罰姦聖母教会の新しい教皇の選出を祝い新教皇の顔を刻んだ鋳型で鋳造したり、あるいは東方聖母教会が発行した新しい北方皇帝アナスタシアの誕生を祝う金貨であったり、だ」
あ。
デルフィリーゼ様の狙いが一瞬にしてわかりました。
「そうだよイリヤさん…さすがだな。つまり、王復記念の貨幣を鋳造し、国家復興の記念として配布流通させるのも貨幣流通の一手だ。そして、連邦世界や痴女皇国世界でも行われているが、過去の王や偉人の顔を貨幣あるいは紙幣に使うことは珍しくはない。そして、アトハ王やリミニ王妃の顔を入れた貨幣を記念貨幣として作ること、我が財務局としては提案させて頂きたい…」
うぉ。
この、断れぬ迫力。
そして、裏のない提案に圧倒されるアトハとリミニです。
「ただ、この件についてはルーン大陸内部の問題を引き起こす可能性があるだろう。そう…西方族に、リュネ王の肖像が入った貨幣を使わせた場合、内心ではリュネの絶対支配を思い起こさせるだろう。いわばリュネ王の顔が入ったものが日常的に彼らの目に触れる、ということだな」
この凄い洞察力にも、言葉のないわしらです。
ですが、思い出せる先例はあります。
淫貨では、あくまでも淫化帝国の貨幣ですから、紙幣も硬貨も淫化皇帝または妃の顔を入れておるのです。
リュネ族や魔族は、あくまでも太陽の神や月の神の使いという扱いなのです。
「で、私から知恵を出させて頂けるならばだな…西方では原始的な木の貨幣らしきを流通させていたとは、田野瀬さんから聞いている。そこで、その西方の金にちなんだ制度を制定した族長なり、今後の西方を仕切る者の顔で貨幣を製造することも視野に入れておくべきだと思えるのだ」
「それと西方族は従来、固有の名前をつけぬ習慣があったと伺っております。これを契機に、名付けの風習を導入頂く方が痴女皇国の女官管理や聖環支給にもメリットが生じますので…王の帰還と併せて、西方にもお金のシンボルとなるだけの偉人が現れることを望むという発言と共に、西方族に自身の名前を名乗ることを推奨させる王の発言をして頂くことを提案したいとこの田野瀬は考えます…」




