王の帰還 -Reditus Regis-・2
とりあえず、杖の取手の部分の意匠については、ルーン王城市で「マリア様を怒れる人」に現物を見せてからにしましょう、となりました。
で、魔王城の広間で絶賛開催中の、リュネ王位返還式。
この剣聖イリヤが暫定的に預かっておったリュネの王位、現世に蘇った先王アトハと王妃リミニに返還する儀式も、一応はつつがなく終わりました。
そして、魔王からの贈り物であるという魔毒避けの杖も、その柄の形の是非はともかく、王家の持ち物としての機能はちゃんと備わっている実用品であることをロッテとエマネが証明して、一応はありがたく授与される運びとなったのです。
つまり、魔王とリュネの間に、実質的な和平が改めて結ばれたも同然。
しかし、次なる催しがあると聞かされるのですよ。
ええ、これも最初に聞いた時には驚きでした。
しかし、こうした方がええというのはこのイリヤにもわかるところ。
「では剣聖イリヤ、余やリミニの不在の時にもリュネ存続に向けての功労夥しき件、我が娘エマネからも聞かされた。そこで、褒賞を兼ねて余から新しき位を授けようと思う」
と、もったいつけて言う王アトハですが、実のところはですね。
ええ、大人の枠の話でもばらされとりましたがね。
まず、リミニはわしの妹…ヤスニ氏族に生まれた三姉妹の末妹で、アトハの正妃である次妹メマーラ同様、わしの実妹です。
そして、わしらもアトハも、小さい頃からお互いをよう知っておったのです。
ええ、下半身でも、それはそれは。
しかし、魔毒を扱う量が桁外れだったわし、剣聖候補に選ばれたことで、当時は王位についてなかった王子アトハとの間に子供、できませんでした。
そして、アトハに色仕掛けで迫ったメマーラとの間に生まれたのがエマネ。
この件でいまだに、リミニ義母様から産まれたかったとエマネが事あるごとに愚痴をこぼすくらい、親子の仲や夫婦仲はあまり良くなかったのです。
で、そのエマネがもう一つ、嫌がっとることがあります。
「イリヤおばさまが実の母親になってても嫌」
しばくぞエマネ。
少なくともわしはメマーラよりはまとも…。
(肉体言語で会話してるのが日常だったでしょ、イリヤ姉様…)
ああ、やってましたよ。
特にアトハはわしの尻とよく会話してました。
身体の一部で。
つまり、アトハは事あるごとにわしを魔毒抜きの伽に呼びよったのです。
しかし、剣聖に選ばれたわし、もはやアトハの王妃になることはできません。
ですが、アトハの魔毒抜きの伽番の管理役に任じられたり、あるいは伽番たちが毎夜、寝所でアトハにいらんおねだりや要求やらを言い出さないように監視する役目を言い渡されたりなどなど、とにかく理由をつけてアトハの相手をさせられとったのがこのイリヤとお考えください。
(一応、フユキ君の強力な魔毒抜きの恩恵に預かるという口実もありましたけどねぇ…)
ええ、リミニはかつてのジャムジュナ妃が受けていたような「魔毒抜きの当番少年を回してもらえない」嫌がらせを受けていたのです。
当時の嫌がらせをやっていたマーモル妃という時の王妃は「リュネ王家に嫁いだ以上は下賤の精毒を受けるなどもってのほか。然るべき血筋の男児を回すゆえにしばし待たれ」などと言って、ジャムジュナ妃に少年を配給しなかったのです。
で、困ったジャムジュナ妃が実子であるクシー王子とそういう仲になってしまったのをバラして咎めを受けるようにしたとか色々あったのですがね。
で、そんな過去の経緯があったせいで、リミニの魔毒抜きも王宮詰めの文官であるマルヴィレや、あるいはわしが噛んで粗漏がないように計っておったんです。
そうですよ…わしが今まで、アトハの事を語る時にあまり王に対する敬意を払ってないの、この辺の経緯があるからなんです。
しかし、今は占術師のメリエンが取り仕切る公式行事の最中ではあります。
で、そのアトハがもったいをつけてわしに言うにはですね。
「ただいまの魔王殿からの贈呈の品にしても、さらにはこの王器返還の儀式が魔王城で行われておる件についても然り、もはや世はいくさの真っ只中にあらず。しからば、聖剣も占器として然るべき扱いを致すべきであろう。イリヤ、今日を境に聖剣はリュネ王国ある限りはヤスニ氏族に預け、代々の当主が伝えることとしたい…」
つまり、戦争がないなら、占器の出番があるまではヤスニ氏族で預かっておいてくれということ。
「ただ、何もなしに聖剣を預けるわけにもいくまい…そこで余が憂えるのは、話に聞くイ族の謀反と反乱の決起。あれを防ぐには相応の職務を与えた強将が西方に睨みを効かせるのが上策とも思える…事実、物見砦の戦士たちの反撃が謀反失敗の契機となったのであろう?」
このアトハの発言には、言い返せないところ大。
事実、そうだったのですから。
で、根回しは受けてましたよ、この件。
(べらこ殿からお聞きしたんだけどよ、イリヤ…なんでも、ビクニ国では北の蛮族を征伐する役職って建前で、一番強い戦士の大将に官職を与えてたらしいじゃないか…我がリュネもそれにならってだな、お前に将軍という位を授けてえらいぞって俺が持ち上げたらさ、お前に領地を渡す口実にもなるんじゃないか…)




