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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


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ドンファンをさがせ -Maestro del sexo legendario-・4

イタリア屈指の港町の一つである、ジェノヴァ港。


わたくしフラメンシアを乗せたマルセイユ級動力帆船「ロリアン」が入港した岸壁に立ち、手を振る目当ての人物の前にひょい、と飛び降りて着地しますと。


「あらあら、普通に降りられればよろしいものを…」


「ま、このロリアンはこれよりイタリア教和国発の貨物も積んで比丘尼国を目指す船…わしは片隅に便乗させて頂いた荷物のようなもんですから…」


と、支部長会議で顔馴染みではある、件の出迎えの人物に小さなカバンだけの手荷物を見せます。


「しかしフラメンシア殿下、担当国やお国ほどには我がイタリア、比丘尼国相手の貿易実績はございませんからね…」


「とりあえずは小物から始めようということで、ベラ子陛下の口利きもあったとは伺っております。それより」


ええ、お越しの人物は件のベラ子陛下の実のご母堂でもあらせられる、イタリア教和国総統にして痴女皇国イタリア支部長のルクレツィア・ボルジア閣下。


場所がジェノバであるというだけで、顔馴染みは顔馴染みなのです。


それに、たった今までわしが乗っていたこの東方(ロリアン)号、痴女皇国海事部南欧行政局担当課の所属船です。


つまり、南欧行政局の人間であるわしが便宜を図ってもらえるのはもちろん、南欧行政局の管内に組み込まれたイタリア支部にも縁が深いのです。


で、実のところはこの痴女皇国イタリア支部と罰姦(ばちかん)支部、間接的にこのフラメンシアの監督下にあるようになってしまったのです。


しかし、罰姦支部はイタリア支部管内のローマ市内に所在しますが、実際のところは罰姦聖母教会の総本山ということで、連邦世界のバチカンと言う都市国家と類似の扱いとなっております。


「ただ、バチカン教皇庁からは猛抗議を受けておるのですよね…」


「それについてはマリアリーゼ陛下の方で対策を。ルイーサもカルロ…カルロス2世もフランスの生まれということで、れんぽう世界のフランスの国籍も取らせたようでして」


なんで、こんなことにしたのか。


ルクレツィア支部長と並んで迎えの車に乗り、会談の場所に向かう道すがらで話をお伺いしますと。


「れんぽう世界のフランス共和国、聞けば宗教を揶揄する権利を法律で保障しておるそうでして…」


つまり、罰姦という聖院第二公用語の当て字、あちらの世界では一大宗教となっておる救世主教としては大変な侮辱に見えるそうなのですけど、連邦世界の既存宗教をことごとく批判する権利をフランス国民として行使したそうなのです。


「そして姦淫が懲罰的な犯罪だということで罰姦の当て字を考案して、我が兄チェーザレに教えたのが…兄の正妻となっていた現・シャルロット枢機卿ということにされたのですわ…そしてシャルロット夫人の発案を気に入った兄が罰姦の名称を定め、初代教皇就任に合意したとされております…」


つまり、東方聖母教会と同様、一種のでっち上げ宗教である罰姦聖母教会ですが、その設立経緯に深く関わった人物に名誉国籍を与えることで、連邦世界のフランス共和国民の権利を行使させたことにしたとの説明を受けます。


「あたくしも長らく連邦せかいにて活動して来た身の上ですから、向こうの事情もよくわかるのですわ…ただ、マリアヴェッラ曰く、罰姦の当て字は「あたしが決めたのではない」と泣いてまで申しておりましたし、読心の結果でも嫌々渋々りんぎ書にティンブロ(はんこ)を押したというのは真実でしたから…」


でまぁ、その当て字通りの事をやっておる罰姦聖母教会ですが、イタリア()和国と密接な関係があるようにもされた模様。


旧来のイタリア、痴女皇国の支部化と併せてイタリア連合大公国として諸国を統一して発足したのですが、実のところは各地を統治していた地方王というべき貴族たち、当主の交代と女性化が進行しております。


そして主な貴族領あるいは旧・地方王国領については司教座や大司教座領とされ、州や県という行政単位も採用され国家として再編されたのだそうです。


ええ…その州知事や県知事、聖母教会の尼僧資格者が選任されることとなりました。


そして、州や県は罰姦聖母教会荘園としての扱いも受けてしまうのだそうです。


つまり、今のイタリア教和国、罰姦と旧連合大公国政府の二重支配体制とでもいうべき状態なのです。


矛盾はないのでしょうか。


「そもそも、あたくしが今や罰姦枢機卿の一員。そのせいでローマの枢機卿会議には絶対に出席となってしまいましたのは困ったことでございますけど…」


で、私たちを乗せた車。


ジェノヴァ市内のとある聖母教会の前に到着します。


「このバンキ教会、元々は救世主教会でしたが、運営費を得るために特殊な作りで建設された経緯がございまして…」


見れば、なんとその教会、聖堂正面玄関が2階に存在するのです。


そして私とルクレツィア支部長…イタリア教和国総統閣下が降りた車寄せの先の階段を上がって教会内へと向かうようにされております。


なぜ、こんな作りとなったのか。


港町ジェノヴァの低い陸地ゆえに、いざ洪水や高潮が起きて街が水浸しになる事を想定しての嵩上げなのでしょうか。


いえ。


なんと、このバンキ教会、一階は聖母記念銀行や聖母記念電信郵便局が入居しておるのです。


「元々は貸店舗として銀行や商会に貸し付け、家賃を得ておったのだそうですわ…」


で、この教会構造。


イタリアの地方の教会で、新築のところでは採用例が増えておるそうです。


確かにこの構造ですと、階段の昇降が大変は大変ですが、従来は聖母教会聖堂と別の建物にしておった聖母記念銀行や郵便局を同じ建物に収める事ができます。


そして、歩くのにも難儀する老婆の類、イタリア教和国ではどんどんとその数を減らしておるのだそうです。


「高齢者には若返る事を前提とした出家を斡旋しておるのですわ…」


つまりは、尼僧として…そして、痴女皇国女官としての人生をやり直す生き方もありではないかという運動、高齢女性の側から起こさせたのだそうです。


その背景には、イタリア人に顕著な「まざこん」という性質がある件、ルクレツィア様からお伺いします。


「今でこそ大人しくなりましたが、生まれてからしばらくのマリアヴェッラがまさにその部類。そして、何よりもわたくしと兄であるチェーザレやホフレ、フアンは4人とも、幼くして実母ヴァノッツァから引き離されて暮らす羽目となりました件、わたくしも兄たちも、後々まで引きずっておったのです…」


つまり、ルクレツィア閣下のお父君の方針で、母親べったりではなくイタリアの支配者を目指すような強い人間として英才教育を施された結果、母親とろくに同居していなかったまま成長した事、ある意味では恨みにすら思っておられるのだそうでして…。


「ですが、今やこのイタリア教和国は尼僧並びに、尼僧を第二のマンマとして慕うべき男や偽女種が住まう国でもあります。全国民は聖母教会でのおつとめを一度は経験することで、慈愛と奉仕の精神を学ぶべし、とされたのですわ…」


ううむ。


いわば、罰姦聖母教会の偉いさんを兼ねた総統という指導者を王のかわりに首長とする、一種の独裁国家として再始動したようなのですよね、イタリア教和国。


「そして、わたくしの後の総統につきましては、罰姦教皇候補を出産した女の中より投票にて選ぶとされました。これは、姪であるオクタヴィアが選ばれやすくするための仕掛けでもあります」


で、この教会の聖堂奥の祭壇横から1階に降りる階段なり、えれべーたーなりを使って下りますと、ここなバンキ教会の事務区画やえらいさんの部屋が集中する場所となっております。


その中の、司教応接室をお借りしての会談となるようなのです、ルクレツィア閣下とのお話…。


「でまぁ、こうした経緯なのですが、実のところはイタリアの事情も絡んでおります。そしてフラメンシア殿下やマルハレータ殿下がお探しであるジャコモ・カザノヴァの逃亡先に絡んだことどもでもございますわ」


で、尼僧侍従の指導偽女種助祭が淹れてくれた珈琲淫なぞをすすりながらの話ですが。


「とにかくイタリアの男、今は聖ピエトロ聖母教会の地下にて眠る我が兄が良い例なのですが、母親にべったりする傾向が強ぅございます。そればかりか、女を無闇やたらに口説く悪癖も蔓延しておるありさまでしたのは、殿下もようご存知かと…」


そして、ルクレツィア閣下の口から出た驚愕のセリフ。


「口説くだけではなく、女を騙してでも股を開かせたり金品をねだる傾向すらあったのですわ…何せ、位階の低い女官ですら騙されかねない事件が頻発したこともありますのよ…国民の尼僧化、あるいは尼僧経験の義務化…」


つまり、イタリア教和国における尼僧とは、一種の徴兵制度に近いものなのでしょう。


尼僧であれば、そう簡単には男が騙せなくなりますし、騙そうとしても男の側も金品を得たければ働け、となってしまいますから…。


「こうしたイタリアの取り組みをきゅうくつに思って、国を捨て他国に移住したり逃れた者も相応におります。で…その中に、詐欺や姦淫の罪が発覚したカザノヴァも含まれておったのですわ…幸いにしてカザノヴァ、フラメンシア殿下の管轄ともなるでしょう有全珍(あるぜんちん)に逃れて農夫志望移民の中に紛れ込もうとしたようですが、あそこは偽女種ですら時に実力と男らしさを売りにする男臭い国と聞いております…」


そう、女たらしの詐欺師として手配をかけておったカザノヴァ、実は欧州を逃れた後の足取りが掴めておったのですよ、この時点では…。


「ええ、現地からの情報でございますけど、やはりあのカザノヴァの性格では周りに溶け込めずに浮いておるようですわね…あそこの女たち、甘い言葉だけではとうてい、口説けるような性格ではない者ばかりと伺いましたし…」

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