鬼さん月へ行く -Le diable va à Luna- ・6
あー…つまりはリュネ族のイリヤさんとかエマネ王女、そして魔族とかいう種族だと紹介されたアスタロッテさんのことですね…。
ええ、幹部会議の席上では普通に黙ってても顔を合わせる立場ですけど、この方々、なにも対策されていない人間が近くに寄るだけで、非常にまずいことが起きる可能性があるとされています。
具体的には、那須の国の殺生石。
あれと同じで、近づくだけで本当は人が倒れるそうです。
(ただ、流石にそれは私たちリュネ族自身にもまずい話ですので、昨今は魔毒を撒き散らす直接の原因である苗床や魔毒苔の改良が図られております…)
(ロッテさんの発する魔毒も、今は普段ならリュネ族とほぼ同等にまで抑えられてますからね…)
ただし、完全に影響皆無とは言えぬ程度には、毒である模様。
で、2人のジーナさんが相談を始められます。
「ま、地球を捨てるか居残るか決めなあかん猶予期間、どれくらいまで縮こまってるんか、やな…」
「痴女皇国うち、そっちのNBの本星の可住化ってどんくらい進んでるもんなん」
「だいたい現状の地球と同じようなもんや。土地はあるけど、継続居住が可能かどうか難しい要素がある土地がな、まだまだようけ残っとるんや…」
で、ここで立ち上がったエマニエル部長たちが、壁面に何やら絵図を映し出す操作をなさいますと。
「あー、可住地域図やな…これは地球やろ」
https://x.com/725578cc/status/1911444869408502159
「ですよ痴女皇国母様。で、痴女皇国の私、どうぞ」
「ほいほい。ええとですな、現状では地球の陸海比は3:7ですやんか。つまり、人間が動ける陸地はだいたい地球の表面積の3割ゆうとこですな」
「で、このうち赤色の地域が可住可耕地、緑色が人が到達することはあまり困難ではないのですけど、定住には不適な地域です」
では、黒く塗り潰された場所は、一体。
「気候や降雨量、そして利用可能な陸地や水に乏しいとされるところでして、住むことはもちろん、通過も困難な場所と定義されております。単純に言うと…」
「宇宙空間に近いくらいの装備で行かないと長時間生きてられん場合もある場所、となりますかな」
それでは、NBという、クリスさんの出身地かつ、ジーナさんが現在は出向いておられる星の場合はどうなるのでしょうか。
「みんな、絶句せんといてや…エマ子、痴女皇国世界の方のNBのエクメネー分布図、出したって…」
見た瞬間、私は絶句しました。
赤い色の面積が、地球の半分くらいだったのです。
残りの陸地、全て緑か黒。
つまり、これから更に、普請を推し進めてゆかなければならないということでしょう。
「これを何とかせなあかんのが問題でなぁ…」
「おい痴女皇国うち。こっちはあんたらの単純な5年前だけやのうて、もっと緑や黒が多いのん言わんかいな…」
「やかましい、そっちはそっちでまずは何とかせぇっ」
で、聖院世界の方のNBの図も見せてもらいましたが、こっちはもっと悲惨でした…。
「で、ですなぁ。NBにおいても、痴女皇国国土局の協力…つまりはうちもいっちょ噛みしつつ、陸地の開拓を推進しとるとこですねんけど、最終的には海陸比7:3くらいがやはり妥当かと思いますねん」
「この比率より陸地を拡大すると、気候や気温変動が地球より過酷になったり、砂漠化の進行がより進む危険があります」
と、二人のエマニエル部長…エマ子さんが申されます。
「つまり、陸地をもっと増やして人を受け入れることを考えると、後で泣くんですわ…」
そこで、地球の方…ですかね、海を中心とした図面に切り替わります。
そして、海の部分を示す薄い青色のところに、濃い青や赤の矢印がでてきます。
「赤が暖流、青が寒流ですわ」
「この海流の流れによって、赤道地帯で強く熱せられた海水が南極や北極発の冷たい海流によって冷却されます。あるいは、暖流によって「冷えすぎ」を防ぐ作用があるのです…ですから、この冷却と保温の相互作用を円滑に行うためにも、海の面積は一定を確保する必要があるんですよ…」
「さらに厄介なのが塩分ですな。有機生命体にとって塩は毒ですけど、同時にある程度の量を摂取しなくてはならない不可欠物質でもあります」
「ま、智秋記念牧場でも岩塩置いて舐めさせとるしな」
「で、なぜ塩分の話をしたかと言いますとですな、はい、聖院私」
「何よ…確かに飲用不可能な水の面積が地球表面の七割を占めていては、何をすればいいのかという話になるでしょう。しかし、この塩分によって原生生物が生み出されたことや、海水あるいは汽水域で生存する生物と人類の関係を知ってしまうと、うかつに海水の淡水化を推進すべきかは疑問を持たれると思うのです」
「ま、それと…なるべく地球と条件を合わすためにも、惑星の直径とか質量が近似な星っちゅうのが可住惑星探索の条件やったはずやで…」
「これこれ痴女皇国うち…NB本星がある意味では奇跡の星やいうのん、あんたにも常識やろ…」
「知っとる。地球と重力も公転・自転サイクルもほぼ同じであとは大気組成と生物相の整備だけやったからな…それと、NB星系自体は3番惑星だけやなしに4番5番惑星がちょっと寒いけど、月並みの大きさの衛星つきの火星同等品なんも追加や。寒冷問題さえ解決したら、あそこも有酸素大気転換でいけるはずやぞ…」
「そそ、かーさま方、火星で思い出しましたけどな、火星自体も大型衛星の配置で、大気構造の改良や海の設置は可能でっせ」
「ただ…多少の時間は頂きたいですね…」
で、当然ではあると思うのですが、誰しもエマニエルさんが言われた「多少の時間」が具体的にどれくらいなのかを知りたがると思うのです。
「そうですなぁ…チン◯ネックス・ボッ◯ダスの生産量にかかってますけどな」
「おおむね5年、余裕を見て10年というところです」




