鬼さん月へ行く -Le diable va à Luna- ・2
月が、まさに石ころだけの岩の塊だとは。
「前はスケアクロウで寄ったんやったっけ」
「そーそー。ダリアがおめでたの時だね」
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「しかし時代は変わるもんやのう…あの獣帯級駆逐艦が純ICD推進艦に化けるとは」
「まぁ、そもそも核融合炉と核分裂パルス推進複合推進機の搭載位置が適切だったからICD/G機関への置き換えも楽だったって言ってたしねぇ、サン=ジェルマンのおっさんも」
どうやらマリアさんとジーナさんの話の対象、前を行く護衛と先導の船のようです。
「以前はあれ、後ろから火を噴いて進んでたんだよ…」
それと、気になった事があります。
どうも帆のようなもの、張ってませんか、あれ。
「ああ…放熱翼のことか…峡谷に近づいたら邪魔になるから仕舞うはずや…宇宙には空気に類するもんがないか、あっても極めてうすうすやから、熱した鉄板のようなもんを突き出して溜まった熱を捨てとるんやわ。それをやらんと中の人間が蒸し風呂どころか釜茹でになってまうんよ」
めんどくさいものですねぇ…何もそんなことしてまでよその星までお邪魔…あ!
ええ、私は思い出しました、マリアさんの話を。
つまり、よその星に移り住むなら、この空気のない場所を延々と渡る船旅が続く、ということに。
(プラウファーネさん、大事なことがあるんや…行き先が決まっとる単なる旅行と、住む場所を求めて放浪する旅では全く意味も、持っていくもんも違うやろ…宇宙には地球ほど、人や他の動物が生きる条件が整うとる星を探す方が遥かに困難なのや…)
(まぁ、安心もさせておくよ。あたしの義母であるアグネス・ワーズワースNB首相は地球からの移民受け入れを表明する予定だし、うちの室見…りええや、何よりジーナかーさんがNBに行ってたりするのもその辺の下準備のためもあるんだよ…NB本星がある恒星系に存在する複数の惑星を使えば、聖院世界と痴女皇国世界、そして連邦世界の地球の住民をそっくり受け入れることは物理的には可能ではあるんだし、実際にそうなることを想定して惑星開発も進めているよ…いざとなったらリュネ世界の人工惑星をコピーして仮住まいにすることもできるしね)
なるほど。
そして、このテンプレスがまさにその…クリスさんの生まれた星まで人を連れて行くための手段の1つなのでしょう。
痴女皇国を建国した際に、どうしても生気…精気を大量に必要とする事が起きた時に人をさらっていた際にもこの船を使っていたの、何度も見ていますし、その要領で人を詰め込みに詰め込めば一万からの数の人をよその星にも持って行けるでしょう。
ええ…それをするかしないかは別にして、ジーナさんやマリアさんたち、連邦世界出身者やそっちの世界を知ってる人たちは、日の本なら日の本を捨ててよそにお邪魔するための移動の足、お持ちなのですよね…。
(エマ子だったらもっと乱暴かつ大胆な事ができるよ。よその星に海を用意する必要があるけど、日本列島ごと移し替えちゃうんだよ)
これまた、やろうと思えば出来てしまう部類の話でしょう。
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まさに、生きる者の気配を塵のひとつからすら感じない岩の塊といった態の月ですが。
しかし、今やこの月の土深くに、ちょっとした街が一つや二つは入るくらいの人が住んでいるそうです。
その入り口となる深い谷に、テンプレスが入って行きます。
もっとも、谷の要所要所には点滅する灯火が仕掛けられており、更にはベラ子陛下とジーナさんの前の窓に、こっちに進めとかいう意味であろう矢印のような絵図が透かして浮かんでおります。
そして、ジーナさんと前を行く案内の船の船頭が話をしたようで、その明るい灰色の船、なんと色を黒く変えると大胆な角度と速さで谷の上に去っていきます。
(あれ、とてもそうは見えんやろけど軍艦でな…大砲のたぐいは船内に仕舞われてるんや…かつてアレーゼさんがあの船と同じ形のもんを聖院世界に召喚した際に大騒ぎになってんけど、当時のあの船は今よりもっと過激な武装しとってな…)
(ええとね、あの船1隻だけで地球に人が住めなくなるくらいの地獄の業火と瘴気を投げ込めたんだよ)
(まぁ、対艦対施設散弾頭とかX線レーザ爆雷弾頭とかつけた大型ミサイル4発だけでも、大気圏内で爆発させたらえらいことになるわな…)
(GRAC-8だけでも100メガトン級のガンマ線〜X線レーザ光源弾頭8発じゃん…ツァーリ・ボンバのフル出力版を8発かける艦対艦ミサイルのプリュトン4発でしょ、ツァーリ・ボンバを32発同時に地球大気圏内で炸裂させたらどうなるか、あたしでも嫌な予感しかしないよ…)
(マリア。SBAC-8も散弾散布用の起爆装置は核爆弾内蔵やぞ。あれも最高出力設定で1発あたま50メガトンはあったはずや。宇宙軍管轄やからうちも正式な諸元は知らんけど、まぁ出力100メガトンにしてても不思議やあらへんわの)
(なんでそんな狂った数値の核弾頭ばかすか積んだのよって言いたいんだけどさぁ…)
(お前も理由知ってるやろが。当時はNBと冷戦状態な上に、NB本星をなんとしても制圧するために惑星表面への対地爆撃も辞さない姿勢やったやろ、連邦政府…おまけにNBには本星だけやなしに無大気惑星とか衛星の表面にも基地持ってるのがわかっとったしな)
(確かにさぁ、核兵器って大気がないと特大の有害な熱線を瞬間的に撒き散らすだけの花火だけどさぁ…)
(文句は獣帯級駆逐艦と武装を考えたおっさんにゆえ。うちらはまさに今から、そのあたおかな会社名そのままの経営者に会うねんさかい、ちょうどええやろ)
(あー、その頭のおかしい会社の首魁のもんだけどさ、一番、うちの本社から遠いバースに入らせて)
(待て待て待て!こらサン=ジェルマン!あんたそんな心の狭い男だったのかよ!)
(やかましいぞマリアリーゼ!いつぞやの時に、マリアヴェッラと二人して僕のシモの毛を永久脱毛しやがった恨みを忘れていないとでも思ってんの?あの時の写真を消すだけでも大変だったんだからな…)
(お前ら…恩讐相半ばするとは言うても、おっさんにようそこまでしよったな…)
(お言葉ですがかーさま、あれはサン=ジェルマンのおっさんが悪いのです!)
(あれはさすがにあたしもちょっとだけ怒った…ハゲにしなかったのがあたしの温情だと思って欲しい)
(お前らなぁ…)
(マダム・ジーナ…あなたでも持て余す娘だというのはわかってるんだけど、僕の部屋に着くまでにマリアリーゼとマリアヴェッラに対する、僕のごきげんに染み渡る懲罰を考えて欲しい。そのためにも、敢えて本社から一番遠い気密接岸バースを指定したと思ってくれ…これは時間稼ぎのための、僕が示す温情だ…)
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黒マリ「ものは言いようだよな(ビキビキ#)」
白マリ「ちなみにテンプレス3世は近いところに入らせてもらえたわよ」
黒マリ「差別だ…」
じぇるみ「君と妹が悪いんだろうが…」
黒マリ「それにしてもおっさん、あんた生まれは一応アトランティスかシュメールってことになってるはずだろ。なんでフランス人のようなえげつない塩対応ができるんだよ」
じぇるみ「どっちかっていうと英国人に近いと思うんだけどな。それと僕はさ、ナンムとおなじで地球の生まれじゃないかも知れないんだぞ(ニヤリ)」
てるこ(これこれ、ばらしてはならぬはなしを…)
黒マリ「あー、いいこと聴いたな、それを暴露するとまずいことがあるってことですよねぇ、初代様」
てるこ(うんめい選定種が怒るとかするかもしれませんわねぇ)
黒マリ「って訳で取引だ。さっき透視したけど、テンプレス3世の隣のエアロックバースが空いてるだろ。そこにテンプレスを入れさせてくれ。あと、あたしらへの懲罰をおばはんに思い付かせるのはナシ。それで手を打とう」
べらこ「ねーさん、そこは倍返しでは」
黒マリ「恩を売っておくのもよりよい人間関係構築のためには必要な行為だよ、ベラ子くん」
じぇるみ「売ってない、全く売恩行為になってない。むしろ恐喝の押し売りだろ(泣)」
黒マリ「まぁ、失言については神種族や異星人外星人にも共通の失態ってこったな」
白マリ「あくどいわねぇ、さすが黒マリ」
じぇるみ(白い方のマリアリーゼ…なんとかこの根性悪い同位体と、その妹をだな)
白マリ(移住条件のいい土地を聖院サイドに斡旋。これで手ぇ打つわよ)
黒マリ(汚ねぇぞ白マリ!それに裏切りだろ!)
べらこ(そうですよ聖院ねーさん!)
白マリ(ベラちゃん…あたしの方にもさ、あんたたちの母親と全く同じ性格で交渉条件にうるさい上に、喧嘩に勝つまで帰ってくんなとか女に向かって平然と言いそうなジーナかーさんがいるのを忘れないようにね…)
じーな(そういうたら、聖院の方のうちも来てるんやな…)
じーな(というわけで痴女皇国のうち、あまりサン=ジェルマンさんをいじめるなら聖院側はおっさんのサイドにつくからある程度は譲歩せぇ)
じーな(汚い聖院汚い)
白マリ(あのー痴女皇国かーさん、あたしもさ、一応はクレーゼ母様経由だけどそっちの黒マリと全く同じ経緯で生まれた娘なのを忘れないでね?)
べらこ(つまり聖院ねーさんは、自分もかーさまの娘だと言いたいのですね…)
白マリ(読者の方はあたしたちの話の最初の方を思い出して欲しいんですけどね、かーさんがどれだけえげつない報復や実力行使だの、えげつない交渉内容が大好きな女だったか克明に書かれてますからね。しかも自分語りで)
黒マリ(その点については白マリに同意せざるを得ねぇな…確かにおばはん、本気出したら追い込みキツいから…)
べらこ(確かにあたしもかーさまの娘ということで、聖院ねーさんには同意せざるを得ないこともあるとしか)
じーな(それみろ、娘どもはよううちらを見とるやないけ)
じーな「おまえら親不孝者やろ!このうらぎりもの!(泣)」




