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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


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鬼さんパリへ行く -Le diable va à Paris- ・11

マリアさん…マリアリーゼ陛下が青ざめた顔で言われるですね、この「猶予」とやらが短くなっておる可能性の一件。


比丘尼国…それも、人のみならず、我ら人外化外の者どもの未来にも影響甚大なのだそうです。


ええ…そればかりか、私たちが生きておるこの大地、すなわち丸い球から逃げ出すか、あるいは雪と氷に覆われ冷え切る世界で雪解けを待って数万の年を延々と耐え忍ぶのか、二つに一つの選択となるそうです。


(回避方法があるにはあるよ。地球の自転軸をいじって日照量を確保するんだ。ただ…それをやるとさ…地下資源が不足している問題の根本的解決に至らないんだよ…だから氷河期と地殻変動をやり直させて、土の下に埋もれているものを追加する必要があるんだ…)


(マリアさん…確か聖院の時代にもその懸念の話をお聞きしましたけど、比丘尼国でもごく限られた者にしか言われてませんよね…)


そうです。


マリアさんが言われたこの事実が事実としても、大々的に話が広まってしまうと、比丘尼国だけでも大混乱を招きかねません。


そして、私たち人外化外の者ならば、雪と氷に覆われようが、空気のない宇宙やらほかの星の球に行こうが簡単に死にません。


しかし、長い時をめし無しで辛抱できるか、と聞かれたならば。


そう…比丘尼国の化外とて、人たちを抜きにして生き続けることはできないのです。


いわば、人と我らは一蓮托生。


鬼なら鬼で、鬼だけではなく人を連れて生きる道を探さなくてはならないのです。


(でさぁ、外道ちゃんとプラウファーネさん、ウラジオストックに着いたらさ、予定を変更して迎えの船を用意しておくからさ、ちょっとそれに乗ってくんないかな…その件に関して関係している奴と会わせるよ)


(わかりました…)


ええ、姉はともかく、私は気が重くなりましたよ。


なぜならばこの件、大江の朝廷にどういう風に話したものやら。


誰にどう言おうと、紛糾は必須に思えます。


しかし…その件はある意味では杞憂でした。


しべりあの大地を走り抜け、ウラジオストックの港に面した停車場に降り立った私と姉、そして弥助の母や妹の前に現れたのは…。


「なんじゃなんじゃまりや、わしをこんな外地に呼ぶとは…」


ぶ。


おかみ様、なんでここに。


見れば、比丘尼国の巫女に偽装しておられますけどね、見るものが見れば誰かわかるのですよ。


それに…確か、おかみ様は長期に比丘尼国を離れられぬまじないを掛けられておったはず、なのです。


ですから、この場…このウラジオストックの港におられること自体がまずいのでは。


ちなみに痴女島…聖院島は初代様のなわばりですので、このまじないが効かない、数少ない場所なのですよ。


(せやからあのおばはんが酒を盗み飲みに来れてしまいよんねや…)


まぁ、姉さんの愚痴はちょっと、置いときましょう。


しかし、おかみ様は本当に、比丘尼国を離れても大丈夫なんでしょうか。


いえ…そりゃ、鬼族とは因縁浅からぬ仲なのです、八百万神種族。


しかし、今では「互いが滅亡するまでのいくさをすると恨みを晴らす以外の結果は返ってこない」という惨憺たる未来となってしまうのは姉や私とて一応は理解の範囲内、なのです…。


有り体に言ってしまうと、おかみ様の方も我々が絶滅すると困りますし、私たちの側でも、おかみ様がいなくなると困るのですよ。


まぁ、その辺はマリアさんも対策はしておられるようです。


五十猛命(いそたけるのみこと)からお借りした仮想神域構築のための盆栽やら鉢植え、テンプレスに積んでる。で、ちょっと帰りの途中で案内したい場所があってね…)


とりあえず、ウラジオストックの商館兼公館を仕切る総督のソフィア様、そして伴侶という比丘尼国人の新蔵という人物が中心となった一団との軽い会談を駅舎内の貴賓室で済ませた後、彼らの見送りを受けて灰色の巨大な船に乗り込みます。


で、この船、私や姉は何度か乗ってますから目新しさはありません。


しかし、このウラジオストックにはあまり来ないということで注目の的のようなのです。


ええ、普段は聖院湖の岸壁に係留されているテンプレスという大きな船です。


まず、この船が船に思えないのですよ…この時代の人々には…。


さながら、城か要塞が浮かんでいるように見えるようです。


そしてこの船が飛ぶのを知っている者以外には、港を離れるときの光景は驚愕に映るのですよね…。


でまぁ、朝っぱらから大勢の見送りや見物客の注目の的になりながら、人が乗るための小型の昇降機に案内されて船の中へと連れて行かれます。


「どうぞこちらへ」


で、待ち構えていたらしい艦内服とかいう、尻が剥き出しになっていないどころか肌が露わなのは首から上と両手だけのような姿の女官が2名。


ですが、弥助の母親たちは別の場所へと連れて行かれるのです…。


(弥助くんのお母さんたちにはちょっと見せたくない場所に行くからね…話も聞かせたくはないんだよ…)


まぁ、マリアさんがそう言われるからには、本当にそうなのでしょう。


(まりやはん…もしかしてうちゅう空間とかいう、あの足元がおぼつかん場所ですかいな…)


(外道ちゃん半分正解。確かに重力はゼロか、かなりゼロに近くなるところに行くから)


そう言えば私、テンプレスには乗ったことあるんですけど、その宇宙くうかんとかいう場所は未体験のはずなのです。


ただ…姉は行ったことがあるようなのですよね、宇宙。


そう…私たちが住んでいる大地が、青く丸い球の上に張り付いているのが見える高さまで上がるようです。


で、船の中の薄い緑色や青色に塗られた通郎を進みの昇降機に乗り降りのして、連れて行かれた場所には…ベラ子陛下がおられました。


「姉にたばかられたのです…宇宙空間での操船訓練とか言われまして!」


ですが、涙目で私に訴えられてもどうしようもできません。


そして、なぜか呼ばれておられるらしいジーナさんまでもが。


「スティックス・ドライブの試験実施の前の実習やっ」


ええ、どうやらジーナさんの格好からするに、ベラ子陛下がこの船を動かす免状を下ろすための特訓の一環のようです。


えーと。


ちょっと待ってくださいよ。


という事は、結構な大旅行になるのでは。


私ら、そんな大旅行の支度は…まぁ、比丘尼国に戻る際に持ってきた荷物とか色々はありますけど。


「あー大丈夫大丈夫。聖院暦で今日中には当初の予定通りに江戸の竹芝桟橋に入港する手筈取ってるから」


そして、私らが連れて来られた場所、このテンプレスの船橋とかいう、船から突き立って出っ張ってるやぐらの部分じゃないですか。


「まぁまぁとりあえず、おかみ様も外道ちゃんもプラウファーネさんもこことこことここ座ってもろて」


と、てきぱきと私たちを椅子に腰掛けさせるジーナさん。


しかし、おかみ様ですらあしらうその姿を久々に拝見しましたけどね、この方は本当に物怖じしないんですよね…。


「安全運航という言葉があるんや…今回の練習航海、なんでかうちが臨時艦長かつ訓練担当将官扱いでな…」


「将官に任官されてんだからしょうがねぇだろ…」


などとぶつくさ言うのをマリアさんにたしなめられつつ、ベラ子陛下の右隣に座られます。


で、以前にこれに乗った時とはちょっと違うと思ったんですけど。


「ええとな、省力化のために操舵士やのうて操縦士正副2名だけで操船が可能にされたんよ。その気になれば1人で操れるけど、一応は規則で2人乗ることになっとるからな…はいベラ子、チェックリスト読み上げ始めっ」


「ひぃいいいいい」


ええ、何やら専門用語が飛び交い、二人の座る席の前に出てくる色とりどりの絵図が頻繁に切り替わっていますが、私にわかるのはとってもめんどくさそうな事だけ…いえいえ、似たような事はやってましたね…。


痴女宮がまだ聖院本宮だった頃。


私がいた地下では、聖院湖に貯めた水の力によって色々なことを行なっていました。


昇降機や、小舟を海から引き上げて坂道を通して聖院湖に持ち込むための巻き上げ機はもちろん、罪人工場で動いている工作機械や衣類の洗濯をまかなう大きな器械についても、水の力で動いていたのです。


更には、聖院本宮の屋上に水を汲み上げ、四六時中、滝のように流しておるのも水流を利用した水汲みの器械。


これらを動かす男たちは、からくりを作ったりいじり回す才覚に長けた者たちが連れて来られたり、あるいは罪人の中から選ばれていたのです。


そしてからくりの扱いについてですが、一歩間違えれば、聖院の諸々が止まってしまうため、その仕事は確認と復唱が必須だったのです。


(大変に御愁傷様ですとしか言えん就労環境やったもんな…)


ええ、当時の私らの精気授受、それはもう色々大変だったのです。


そして、主に私が原因なんですけどね…鬼細胞に汚染される可能性があったので、誰でも彼でも地下に立ち入ったり、地下で働く者たちの精気抜きを担当できなかったのですよ。


それが改善されたのは、ジーナさんが聖院に来た後で、ひょんなことからアルトさんを通じて私たちの実態が知れたからでもあります。


更に、姉が私と交代で痴女宮に来てから、私たち鬼の力を活用して諸々に役立てようという話を進めたのは、マリアさんです。


その結果として、鬼の存在と価値が女官にも知識として広まり、今では重用歓迎されるまでに。


本当に、鬼族はジーナさんとマリアさん…そしてアレーゼ様他の当時の聖院幹部女官に頭が上がらないのですよ…。


そんな思い出のある過去を思い返しておりますと、いよいよとテンプレスの出航準備が整ったようです。


「スターボー、クリアランスチェック。パラレルスリップ・ベリースロー・スターボー」


「スターボー、クリアランスチェック。パラレルスリップ・ベリースロー・スターボー」


(右舷障害物の確認と、右に向けて真横に微速前進って意味だからね…)


などと、二人の呼びかけをマリアさんが解説して教えてくれます。


(操船のやり方はテスココ湖に置いてる監獄社の高級ボートやベラ子の乱暴丸と大して変わらないまでに簡略化されているんだよ。ベラ子が右手で動かしてるのがこういう、港で微妙な動きをさせる際のジョイスティックだから)


ふむふむ。見れば、ベラ子陛下とジーナさんの席の前に、小さな舵輪のような、両手で握るようなものがついてますね。


(あれが主操縦桿。飛行機のそれと操作は同じ。飛び始めたら飛行機に近い動きするし)


「DDCV-200クマノ、モード・インサイド・フライト。バーチカルリフトオフ、ワンハンドレッド」


「DDCV-200クマノ、モード・インサイド・フライト。バーチカルリフトオフ、ワンハンドレッド」


(くまのってのはテンプレスを連邦宙兵隊扱いの海上自衛軍艦籍で動かす際の艦名なんだよ…)


(痴女皇国の船を連邦世界に持ち込むと国籍旗や軍艦旗がアレになるからじゃ…これは痴女皇国の紋章や国旗を定めたマリ公のせいやからな…)


(かーさま。あの卑猥な紋章ですけどね、あたしが皇帝権限で変えようとすると、その都度ねーさんが邪魔するのですが)


(連邦政府とNB政府に提出した国家承認の際にお◯こマークで出したら通りました。あれの変更はものすっごい面倒なのでやれるもんならやってみてくれ)


(アグネスです。あの紋章で承認を出したのは私じゃなくてヘンリーだからね、ベラちゃん…)


(しかもあのジジイ…英国政府を経由して連邦政府事務局にあのおめ◯マークで痴女皇国の旗を認めさしよったからな…)


(ジーナさん。あの模様は日本の知識に疎いものが見ても何かよくないと感じるけど、当時はそもそも聖院や痴女皇国の詳細は機密だったでしょ…なら別にこれでもいいだろうって、ラッツィオーニ閣下もはいはいと通してしまったみたいなのよね…)


(ゴルディーニだが。あのなぁジーナ。お前が監督役としてマリアちゃんについていながらだな、何であれで申請した。あれはマリアちゃんの母親であるお前の不手際の証拠として、俺も敢えて進言や抗議を控えさせてもらった経緯があるからな…俺は今もってだな、お前にもあの卑猥な紋章を国家の象徴に定めてしまった当時の監督責任を問いたいんだが)


(うちは預かり知らぬ。痴女皇国開国当時はそもそも承認するのしないので揉めておったからマリ公の行いは黙認のはずやったやろがこのハゲ…耄碌したか…)


(マダム・ジーナ…マリアリーゼからはテンプレスでこっちに来るって聞いたんだけどさ、絶対にニホンの航空自衛軍の艦船籍でルナテックスの本社港に入港を要請しておくよ…頼むから、あんな卑猥な模様をでかでかと掲げてうちの会社の港はもちろん、月に来ないで欲しいんだけどさ…)

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