鬼さんパリへ行く -Le diable va à Paris- ・9
でまぁ、ベルサイユ宮殿の庭の裏にある比丘尼国公使館の建物に寄りまして、私用のけったましんを持ち出しブローニュの森へと向かう私・茨木童子ですが。
(茨木ともあろうものが、くるまの運転もできんのかいな)
早速、姉が嫌味を言うてきます。
(無茶いわんでください。大江だとあまり必要ないんですけどねぇっ)
この、我が不肖の姉である外道丸の嫌味には、もうひとつの意味があります。
昨今の痴女宮本宮、一定以上の位階の女官にはくるまの運転の練習が義務付けられたのです。
そして、姉と悦吏子ちゃんが対象とされて泣いているのを知ってるのです。
(除外させて…)
(私も外道さんに同じ…)
それと、今の巴里市内。
聖女騎士団員以外が無闇に痴女種能力を解放するなとされております。
つまり、私なら私が、さしたる理由もなく全力で走ると怒られます。
ですが、私はくるまを動かせません。
そこで、ちかてつを使うのも面倒な場所や時間だったりする時には、けったを使えばということで私や、他の大使館員のために用意されたじてんしゃを使うこともままあるのです。
そして重要事項。
これ、女官の能力制限にもなるんですよ。
女官が全力でこぐと、自転車はあえなくぶっ壊れます…。
そして、壊すほど力を出すなということで、やはり叱られる譴責対象になってしまうのです…。
(仮に耐久力がある自転車を与えたらマン島TTレースに自転車で出場して勝てるくらいの速力、余裕で出せるって判明したからね…ママチャリでも60マイル以上とか余裕で出るんだよ…マリアに忠告したから…)
(クリス、うちはそこまで速く漕がれへんねんけど…)
(ジーナさんの身体は逸般人の運動能力にならないように規制されてるから…)
(かーさんの身体制限はともかく、普通の女官なら壊さなくてもツール・ド・フランス上位レベルの速度は楽に出るから…交通事故だけは!)
(まぁ痴女種能力使えば事故は予測できるから…)
(コイリュルです。実際に南米縦割街道を走るときはじそく100きろ以上出してましたよ…)
で、普通に漕いでも飛脚の駆け足程度の速度に留めるよう厳命される話になった経緯があるのです。
とまぁ、そんなこんなもあって、ブローニュ娯楽館なる建物にお邪魔します。
「プラウファーネ公使、ヴェロニク館長から伝わっております…」と、顔馴染みではある聖女騎士団の門衛が私を娯楽館の中に入れてくれます。
(義姉…リヴィエラ姉さんと二人でベルサイユに来ておりますが、ムッシュ・プラウファーネの送別会の時は改めてよろしくお願いいたします…)
そう、ヴェロニク・ポワカール館長、ヴァンセンヌ娯楽館のリヴィエラ館長と共にベルサイユの歓迎会に出席中なのです。
では、私は一体、何のためにこの娯楽館にやって来たのか。
ブローニュの森で客を取る偽女種たちに恵んでおったから、です。
これは欧州地区本部の方針だそうでして、欧州各地で定住者でない浮浪児や私生児…捨て児などを保護した際に、学業への熱意にいささか欠けるような者たちをパリに送って活用する事が考えられたようです。
いわば、比丘尼国の河原者や穢多の出の偽女種の扱いの類似。
そしてサン・ドニの工場街で働くか、さもなくばブローニュかを選ばせておると。
(しかし君たち、学問もある程度はできないと、そのうちに出稼ぎ国からの出稼ぎ人に仕事を取られても知りませんよ…)
などと説教をしたりもする程度には、知己の顔も多いのです。
で、出稼ぎ国の話もしておきましょうか。
南洋島や痴女島からもそれほど遠くない…比丘尼国まで航海することを考えれば、の話ですが…出稼ぎ国には、実のところイスパニア…スペインの船が現れた関係であわや、侵略を受けかけておりました。
しかし、南洋王国の依頼によって、何代目かの聖院金衣の御代に協定を結ばせたことで、奴隷ではなく出稼ぎ人として働く者を雇用するとしたのです。
そして出稼ぎ民や南洋民に対する出稼ぎ需要を広げようとしたのですが…南洋民の男は、あまり働かない傾向があったそうでして…。
しかし、当時から人余りの傾向があった出稼ぎ国では、工事の人夫や船乗りにと人を貸し出す方向に熱心。
更には、英国から比丘尼国方面への船が出稼ぎ国に寄港しはじめた結果、出稼ぎの対象には女も含まれることになったのです。
これは、スペインの絡みで出稼ぎ国に罰姦聖母教会が進出した件も絡みました。
統治のよく働く女たちに英語やイスパニア語、フランス語を教えて侍女としてあっせんする雇用需要を開拓したのです。
(連邦世界のフィリピンまんまじゃない…)
(雅美さん、だけど実際に出稼ぎ国の人は比較的モラルも高いから、ハウスメイドとしての需要…それもガチの冥土にもいいと思ってさ…ロンドンのバトラーアカデミーの侍従学科やパリ分校に留学して侍女教育を受けることもできるように制度作ったじゃん…)
で、雅美さんに聞きますと。
(マリアちゃんに聞いてよ…まぁ、横濱租界どころか比丘尼国の鉄道工事や道路工事にも最近は参加してるらしいけど、出稼ぎ人の勤労意欲の高さに注目した国があります。英国です)
(で、元来はこの時代に黒人やインド人を奴隷化する傾向が始まっていた英国だけどさ、痴女皇国世界ではそれもなぁってことで代替探しをしてたんだよ。その結果、出稼ぎ国の人の多産傾向が注目されたんだよね…農産物も魚介類も豊富だし、男はあまり働かなくても食えるには食えるから、伝染病問題さえ解決したら貧乏人の子沢山の道をまっしぐらになっちゃうんだよね…)
なぁるほど、それで昨今、比丘尼国の船にも雇われ水夫として浅黒く独特な顔立ちの出稼ぎ人が乗り込んでいたりするのですね。
しかし、優秀な出稼ぎ人はなんと、欧州にも来て執事の仕事や職人の仕事を覚え出すのです。
特に、英国やイスパニアの息のかかった海外の港では、宿屋や飯屋はもちろん、公館や商館に仕える人手は必要というわけで、にわかに脚光を浴びたようなのです。
そして横濱での出稼ぎ人の優秀さが英国を通じて知れたせいで、皮革や金属・工芸などの職人にも起用する事態が起きております。
(痴女島の罪人工場や三河監獄国で事情罪人として修行した出稼ぎ人が引く手あまたなのよね…どうしても職人になるには下積みに耐える辛抱強い性格じゃないとね…)
(これでもだいぶ下積み期間を減らす努力はしたんだよ…知能偽女種だって、この出稼ぎ人や猫絨毯人に鯖挟人扱いの預言半島人なんかを活用するための政策の一環なんだよ?)
この知能偽女種という存在、偽女種の偽女種たるやという変態の傾向や、何より股ぐらがすぐみなぎる性質を、おつむの出来の良さに回した存在なのだそうです。
はっきりと知能偽女種ということがわかるIFFすてーたす、聖環には出ないそうですけど、巷であれ聖母教会であれ慈母寺であれ、事務方などの要職にすぐ起用できるようになることでそれとわかるそうです。
あと、寿命が指導偽女種に次いで長めであるとも。
(もともとは罰姦聖母教会での偽女種の事務職として考えられたんだけどさ、軽工業や商業その他もろもろに向けても活用できると思ったんだよ…それに、英国で執事需要が高まったことを受けてバトラースクールや冥土スクールを開くかって話になって)
(うちが全力で乗っからせてもらいましたぁああああ)
(しかも、あの英国女王めがフランスの料理人欲しさに調理教程までも盛り込めとかですなっ)
(ふほほほほは、それでフランス語を覚えろとか英語覚えろとかややこしい話になっとるのですわっ)
まぁ、ことばの問題、実のところは相手が痴女皇国関係者であれば、あまり困らんのですよね。
例えば私は日の本の鬼ですが、比丘尼国の日の本ことばではなく、聖院第二公用語を使うことが多いのです。
そして、これですとまず確実に、痴女皇国の女官や偽女種相手には普通に話をすることができるのです。
そして、最悪の場合…例えば相手がフランス語しかしゃべれなくとも、フランス語ならフランス語と聖院第二公用語の両方が喋れる女官がそばにいるならば、そのおつむをお借りして話ができるのです。
つまり、出稼ぎ人のことば以外に、聖院第二公用語さえ教え込まれていたなら、まぁ何とかなるのが昨今のパリなのです。
これは結構、大きな事のように思えます。
特にフランスでは、フランス語を話せない者は蛮族であると思う者が結構いるの、知ってますからね…。
(そしてそういう奴に「わかっとんぞおっさぁああああん」とかカマすのがまた茨木の性格の悪さっちゅうやつで)
(わかりましたから姉さんは支倉氏の売り込みに助力したげて下さいよ…なんのために高い夜会装をこしらえてもろうたんですかっ)
ええ、姉…世にも珍しい、鬼のどれす姿です。
https://x.com/725578cc/status/1907744868237193727
私はこれを世に広めたいのです、特に大江の朝廷の地下と痴女宮地下24階の墓所になんとしても飾って死にたいのです。
それくらい、爆笑を誘…いえ、涙なくしては見れないのです、姉の洋式正装すがた。
で、そんな姉を笑いもの…いえいえ、他の者の目に映った姿を見て涙目の私の今の装いですが、けったに乗る前に着替えました。
まぁ、それ自体は淋の森やらヴァンセンヌやら、そして何よりこのブローニュの森でも普通に見かける、けばけばしいまでの洋風太夫装束と申し上げるべきか、服が服の意味をなしておらず尻も乳もむき出しのあれです。
しかし、私がこれを着た理由は、服の通りのことをするためではないのです。
ええ…買われるのではなく、買う側なのです、私。
(これがためにプラウファーネさんには、お◯◯券を申請のあった枚数で渡している件)
(姫様…しかしプラウファーネ殿は大丈夫なのですか?)
(あたしが体調監視してます。やばかったら即、止めますよ…)
で、何をしとるのかと申しますと、ブローニュの偽女種たちは男や、あれが生えた痴女種も相手するのです。
そして、欧州各地から集められた孤児のうち、体を売っても良いと同意した者たちが、私が買っている相手なのです。
しかし、その理由は…。
(そもそも、鬼のプラウファーネさんの精液だと鬼細胞、それも純血の鬼の鬼細胞だから本来は危険極まりないんだけどね、ここで思い出して欲しいのは、弥助くんの付き添いのためもあって痴女種同等の体になってることなんだよね…)
つまり、マリアさんが鬼細胞の伝染を防ぐ処置を取っていたのですよ。
そして…そして、私から渡せるのは、何も懲罰偽女種や奉仕偽女種に対する延命処理用の体液だけではないのです。
この者たちが料理人や職人、そして百姓の道を進むことを考えたり、あるいは学業をなす事に目を向けられるよう、おつむの出来を改めたり知識を授けられぬものか。
そう思った私に、痴女種女官同士で記憶や経験を移植する方法を使えば?と助言されたのがマリアさんなのです。
で、私はやまらのおろちの技が使えますから、一晩にそれこそ、千人単位で咥えさせることができます。
ええ、私がパリを離れるその日まで、なるべく多く…一人でも、このパリで体を売る以外の方法でいずれ身を立てることを考える者が現れるように、私なりの方法で偽女種の小僧たちに施しをしておったのです…。
(やっとることは最低やねんけど…)
(マドモアゼル・ゲドウマル…これはプラウファーネ閣下の献身的な人助けなのです…実際に、サン・ドニの工場街にブローニュ出身者が増えてるんです…こうかはばつぐん、なのです…)
ええ、ですから、何をどうやって人助けをしているのか、具体的に今の私の姿とか諸々を語るわけにはいかないのです。
しかし…私の行為をマリアさんはもちろん、マイレーネさんまでもが止めずに静観しているだけで、行いが正しいのは証明されたようなもの。
それに、私の渡しているお◯◯券は全額ではありませんけど、彼ら偽女種たちのさいふを潤します。
(イバラキ様が去られるのは寂しいです…)
(ぼくら、おかまのきもちもわかってくれるのに…)
ええ、私は偽女種たちにそれなりに慕われとるのです。
そして、堅気のおとこに戻ったり、偽女種ではあっても正業に就くことを考えた偽女種を増やすことは、テレーズ殿下やフラメンシア殿下も大いに賛同推奨してくださっておるのです。
(本当は姉にもこれをさせたいんですけどね)
(茨木…お前、わしにあの気色わるいもんを生やせいうんか…)
(人助けです。なんなら1年くらいパリにおってもらってもいいんじゃないですか)
(わしには痴女宮のおつとめがあるやないけ!)
(1年くらいなら悦吏子ちゃんが代わってくれますでしょ…)
(お前、ほんまに性格ええなぁ…)
ええ、私は割と、身内には辛辣なのです。
しかし、大江の民のように、私らを慕ってくれたり、飛騨の民などのように私らを崇め敬ってくれるならば、その見返りは必ず渡してやるべきだと思っています。
ですから、茨木童子は義理堅いと皆さんに主張したいのです!
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げどう「そのわりに俺は男というふうに男をだます件」
いばらき「あれはさぷらいず、えいぷりるふーるとかというもの…それに姉さん、私は今、痴女種ですからアレさえ仕舞えば、見た目は完璧なおなごなのですよ?」
げどう「うぐぐぐぐぐぐぐ」
マリア「ちなみにプラウファーネさんに渡してる◯め◯券なんだけどさ、欧州地区本部の福祉予算から拠出してるんだよね」
まいれーね「フランスには、他の土地から集めた孤児たちを押し付けている一面もございますから…」
てれこ「そして売り上げや経費についてはフランス支部の管轄になりますので、◯◯こ券に関する課税とかもろもろはうちの支部の財布に入るのです…」
ふらこ「もちろんムッシュ・プラウファーネの成績にも加算されますからね」
そふぃー「経費はマリアリーゼへいかやスイスのもちだしになりますが、全てでみればもうかっておるはず…」
マリア「まぁ、巡り巡ってあたしやマイレーネさんの損にならないことだけは絶対確実なんだよな」
てれこ「方法は最低ですねんけど、それでわるがきが更生されてしまうのです…」
ふらこ「ちなみにムッシュがブローニュでやってる話、希望が寄せられたら大人の枠で読めるかもしれまへんな(にやり)」




