鬼さんパリへ行く -Le diable va à Paris- ・8
で。
実のところ、この茨木童子。
今すぐこのパリを離任するわけではないのですが、引き継ぎが終了次第、姉である外道丸と共に巴里を離れて八百比丘尼国に帰国する運びになっております。
そして、新任の大使である支倉常長氏を盛り立てる必要から、この宴席には軽く顔を出しただけで中座することに致しました…。
なぜか。
この鏡の間なる長く広い廊下をそのまま用いた歓迎の宴ですが、招かれておる出席者には結構顔見知りが多かったのです。
その方々が今後、親交を結ぶべきは支倉氏であって、この私ではないと思えるのです。
それに、離任の際には改めて送別の催しをすると聞かされております。
ですから、ここで私が顔を出して支倉氏そこのけで貴婦人の方々に囲まれるのはよろしくないでしょうということで、テレーズ殿下他に断りを入れておきます。
(まぁ、弥助の母親や妹達が大使館職扱いで混ざってくれておりますからな…)
(それに、私はあくまでも大使館を立ち上げるために招かれたお助けの立場…皆様が今後にわたって親交を結ぶべきは支倉氏や、氏に続いて比丘尼国から来る外交の使者ですから…)
(そういえばプラウファーネさん、鬼の角、隠してはりましたわな…)
(茨木は性格がええから、どっきりでツノ生やして「僕は鬼の子だよしかも男だよっいいのかいっ」とかやるような奴や…)
(姉さん、だから昔の話はぁっ)
それとですね、中座の理由。
実は前に話が出ておりました、お◯◯券の件もあったのです。
パリでは痴女種状態で過ごしておりました事が圧倒的だったのですけど、大きな理由は鬼細胞をノートルダム寺院の地下の苗床に移植して欲しいという件がありました。
そして、痴女島の痴女種女官同様に「男を買うために」◯め◯券が支給されておったのですよ…。
で、大人になっていない方が読まれることを配慮して、肝心なことをぼかして話せと言われてますからなるべく露骨な表現を避けますがね。
痴女島の女官は、茸島に行って少年を買う行為を重ねている方が精気授受の成績が付きますし、千人卒以上への昇格詮議に受かりやすくされているそうです。
つまりは、必要があれば男に献身してやる心意気も必要と考えられているのです。
普通ならば男の甲斐性となりますが、女官は男よりも遥かに強い上に、おつむの出来も改善されます。
つまりは、女の甲斐性という考えが聖院の時から存在した、とお考えください。
で、淋の森で罪人から金を受け取るには受け取るが、茶菓子代を小遣いとして恵んでやったり、聖環でぜにのやり取りをするようになっても「おこづかい支給機能」や「買春機能」によって茸島の男の子にお金を渡すのと同様に、罪人にも小金を恵むことができるようにされております。
(プラウファーネさんも地下の設備部の男の人たちに奢ったりしてたのよね…)
(大阪のおばちゃんが飴を恵む感覚を聖環機能で実現しますた)
(はいはい、マリアちゃん、おかーさんの考えが遺伝してるわよっ)
(あのおばはんも運送会社で若い男の運転手にアメ渡してやがったんだよ、本当に…)
(見た目はロシア人の大柄な女性なんだけど行動は大阪のおばちゃんよね、豹柄や虎柄を着てるのもよく見たし…)
(雅美さん、うちが痴女皇国におらん間に怪しい風評を撒かないように…)
(かーさん、雅美さんの話は事実だろうがよ…)
しかし、このジーナさんの行為。
ドケチで知られる連邦世界の関西人も、比丘尼国の浪速三三四国も類似なのです。
この、飴を恵む理由の一つに、浪速商人が丁稚奉公を雇用していた際に、商家の主人の妻や娘が丁稚の若者に時折、菓子やら何やらを恵み励ます習慣があったのも伺っております。
そして、富裕な家のものが書生や奉公人に恵むのは美徳であり、彼らに不正を考えさせず忠孝に向かわせる方策の一つであるともされております。
(茨木がどっぷり、人の世界に馴染んでる件)
(そりゃ姉さんだってそうでしょ、千年以上生きてりゃ人の知恵も処世も覚えますよ…)
(そう言うたら大嶽が得意やねんよな、いけめんに化けて女をかどわかすん…)
(あの力は私ももらえましたからね…)
で、大嶽丸という鬼族の大物かつ、私もよく知ってる鬼さんが大江山朝廷の幹部として在籍しております。
この大嶽さん、天女族の首魁の鈴鹿御前様とは腐れ縁です。
そして、鈴鹿御前を口説く際に本来の姿ではなくいけめんの貴人に化けていたのですが、変身が解けて元の姿になってしまって揉めた事があるのです。
そこで大嶽さんは頑張って、私が痴女種女官や女に化けたり、姉が男に化けるのと同じように苦労して「いけめんの姿がでふぉると」になれるように修行したのです。
で、大嶽さんはもともと、女好きな上に、女を力ずくで攫って犯して食べるような無粋な振る舞いではなく、いけめんに化けてあんあん言わせるのが好きという趣味の御仁です。
いわば、いけめんを見て女の方から擦り寄ってくることをやらせたい部類なのです。
そしてわたくし茨木、この大嶽さんのやり口が都の貴人もかくやの口説き手口として有効だと思い、自分でも研鑽を重ねたのです。
皆様にわかりやすく申しますと、男の時は女を呼び込むふぇろもんとやらの強い香気を発する事ができるようになりました。
そして、痴女種状態と偽女種状態の時には、女にも男にも効く、いわば性別不問の惚れぐすりのような香気を撒き散らすわざを体得したのですよ。
そして、体もジーナさんやアルトさんダリアさんあたりを参考にして、さらに男に受けるように化けております。
(それで「ごめん俺男」をやるんやから根性悪いぞ…)
(姉さんだって禿や太夫に化けたりしてたじゃないですか…悦吏子さんからいーろいろ聞いてますからねっ)
(茨木、わしのとくしゅ体質知ってるやろが…)
ええとですね、姉は普段、子供のように小柄なおなご姿が今の基本ですよ。
しかし、さかればさかるほどに、身体が大人の女になってゆくのです。
これ、おかみ様が姉に仕込んだ一種の呪いの部類の結果らしいのですけどね。
と申しますのも、私ら鬼族、食欲や性欲を刺激されればされるほど、元の鬼の姿に戻るのが本来なのです。
しかし、それをしてしまうと人は驚いて逃げるでしょう。
そりゃ、人から見たら鬼の本来の姿なんて恐れおののくような化け物だっての、私もよく自覚してますよ。
で、ジーナさんが聖院に来て私を知ってから、鬼と人の融和を改めて提案なさった件があります。
(鬼族がジーナさんに頭が上がらないのって、この時の一件の恩義があるのですよ)
そして、その一環として、興奮した際に元の姿に戻る代わりの何かが起きるようにすれば良いのではと言われました。
つまり、大嶽さんなら大嶽さんが興奮しても、元の鬼に戻るんじゃなくていけめんになれば良いと思いませんか。
そこで、大嶽さんは普段の姿を男の子にしておいて、人の女に興奮すると大人になるわざを編み出したのです。
で、興奮すればするほど強大で恐ろしい鬼の姿に化けるのは姉さんである酒呑童子の方がもっと強烈なのです。
姉が現在、まだ幼い娘の姿をでふぉるとにしておるのもこの辺があるのです。
そして、わたくし茨木童子も、今の痴女皇国でいう偽女種の姿が女官のみなさまに好評だったことから、偽女種として興奮した時には男も女も無意識のうちに誘うてしまう男たらし女たらしの方向に、この変化の体質を持って行ったのです。
(大江のむらの連中は過剰にまどわされると困るから、あるていどは耐性もちにされとるけどな)
そして、人の念によってわたしらも影響を受けるようにされてます。
例えば、姉がもっと大人なら興奮するとか云々の、姉を相手した男の願望やさかり具合の気配を受けて姉は成長するのです。
同様に、大嶽さんなら大嶽さん、私なら私と向き合った人が発情すればするほど、私らもその影響を受けて「相手をもっと惑わせる」姿になったり、さかりの香気を強く発したりするようになってますよ、今。
で、パリにおったときの私、この力を存分に使ってたんです。
しかし、あまりやりすぎてもだめということで、アルトさんや理恵さんや雅美さんに乳上にベラ子陛下といった面子はもちろん、もっと怖い人の監視を受けていたりします。
ええ、今はスイスのモントルー・シヨン城におられるマイレーネさん…私としては女官長マイアーレさんとして接することが多かった御仁です。
つまり、私とマイレーネさんは、昔馴染みです。
で、マイレーネさんは脱ぎ殺し睨み殺しの伝説があるほどに、女官には恐れられていた人物です。
しかし、聖院開闢からの時代をまさに延々と見続けていた、生き証人でもありますし、私が大江から聖院本宮の地下に来た経緯もよくご存じです。
(プラウファーネ殿におかれては、やりすぎご注意とだけ)
(もちろんですよ…聖院の時も、私がうかつに下級女官の目に入るだけで大騒ぎになりかねませんでしたし…)
(美しさは罪ってやつだよな)
(マリアちゃんその話の根源、ほもの美少年…)
で、わたくし茨木。
弥助が演劇や活動写真の芸人になるということでサラ・ベルナール嬢のもとに身を寄せた後はどうしてたか。
(ブローニュに遊びに行ってもらってました)
(特に偽女種の男の子には大好評、あたしの予想通りだったね…)
ええ、偽女種少年たちをかどわかしたり、ブローニュの森に男や偽女種を漁りに来た女たちをかどわかしていたのです。
(ほれみい、やっぱり「ごめん俺、男」をやっとるやないけ!)
(だからなんだってんですか!それで問題が起きてたら私も痴女皇国の女官籍維持されてますから懲罰査問委員会の対象ですよっ)
(ちなみに比丘尼国の巫女さんや人外さんについても、なぜか今は痴女皇国の懲罰規定が適用されることに…)
ええ、おかみ様とかその下の元・武将のおんなどもが面倒がったのです。
(しばくのはわしらがやるとして、掟についてはまりやとこの仕掛けをこっちでもつかわしてくれや)
(ベル君が大江にいるのも都合いいんですよね…こっちに話がすぐ伝わりますし…)
(痴女皇国日本行政局でもあるから間違っちゃいないんですけどね、できたらおかみ様、そっちはそっちでやって頂きたいんですけど…)
(まりやにまかす方がめんどうがないとか、妹…てるこがいうんじゃ、もんくはてるこにゆうてくれっ)
(姉様がさぼりたいだけでしょうがっ)
ええ、やはり、おかみ様は不倶戴天の仇敵なのです。
自分が楽して酒浸りになりたいから、痴女皇国に仕事を投げてるのが今、はっきりわかりましたからね!
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おかみ「むじつや」
よりみつ「どの口が」
たむら「あきません」
きんとき「有罪ですよ」
つな「という訳でおかみ様は1週間禁酒の懲罰を提案したく」
てるこ「大江のちかのざしき牢ありますでしょ、あそこに入れるか、おいせさまにとじこめておけばよろしいですわ」
おかみ「おまえら…」
いばらき「仇敵怨敵というよりは、大江朝廷の皆を振り回す迷惑神様ですからね…」
げどう「ええこと思いついた。舞鶴の首領おるやん、しちや」
よりみつ「おるけど、あの迷惑おやじも大概やで、外道…」
げどう「せやから効き目があるんですやんか。舞鶴に奉公一週間でどうですの」
たむら「それもそうであるな」
つな「なるほど、迷惑やくざに迷惑かみさまを押し付けると」
きんとき「乗った」
げどう「わかったか茨木、おかみ様には刀でちくちくよりこれが効くんやで…」
おかみ「おまえらなぁ!(泣)」




