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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


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鬼さんパリへ行く -Le diable va à Paris- ・7

夕暮れのパリ市内に入り、穴の中に潜るのは私たちの乗った汽車ですが。


「いやはや、南蛮の時で二刻かからず江戸から大坂へ行けるご時世でございますからなぁ」


でまぁ、宮廷ホームとやらに降り立ちますと、緋毛氈の上をしずしずと歩いて来られるテレーズ殿下のお姿が。


「テレーズ、こちらが比丘尼国の新しき公使の支倉常長様、そして公使一行の案内役としてお越しの外道丸様です」


フラメンシア殿下の紹介で、前に進み出る支倉氏。


で、その際に支倉氏の腰のものを一旦は預からせて頂くことになります。


そこで私は支倉氏から太刀と脇差を受け取ると、控えていた聖女騎士団員にそれを渡します。


そして、随行員のさむらい達の刀も、聖女騎士団の騎士が用意した台車…ワゴンの上に乗せられております。


ええ…実は訪問の際、先方様の装いに合わせて洋装に改めようかという話が比丘尼国側で出ていたのですが、さむらいの身分である支倉氏が着任なさったのを宣伝する方がよいだろうとなりました。


で、比丘尼国のさむらいにとって刀は単なる武器ではなく、フランス国軍の軍人や聖女騎士団員のサーベルなる洋剣と同じかそれ以上に、身分証明の意味もある装飾具だということが、地元の瓦版には載るはずなのです…。


「ベルサイユ宮殿への立ち入りの際には得物携帯を禁じております件、なにとぞご理解とご容赦を頂きたく…」


「いえいえ、江戸の城でも座敷御殿への帯刀は禁じられておりますゆえ慣れたもの。何より、そちらさまの作法は心得ておりまする…」


でまぁ、私たちが公式の着任式会場として案内されたのは、なんと宮殿正面から見て、向かって右手にある聖母教会聖堂。


(正式な名称は罰姦聖母教会フランス枢機卿教区・パリ教区内ベルサイユ管区王宮聖母教会聖堂とか、わたしらの本来の名前もかくやのくっそ長ったらしい名前なんですけど、もうそこはそれうちの宮殿の中の聖母教会でよろしい思いますわ…)


で、テレーズ殿下がぼやかれる通りに本来は長名なこの教会、ベルサイユ宮殿をパリの都のどまんなかといってよい場所に移したせいで、聖母教会の元来のつくりである「日の出の太陽を背にして聖母像が置かれる」礼拝堂にはなっておらんそうです。


で、ベラ子陛下の一糸纏わぬ姿に近い等身大聖母像も、こうした「仕方なく東に祭壇が置けなかった」聖母教会仕様ということで、少し斜めに立って東の方角を見よ、と片手を伸ばしている姿のものが置かれておるとも伺いました。


(聖母像から聖水を浴びせる洗礼儀式を行う関係で、実際にあたしがそこの聖堂に立ってポーズを試行錯誤するのにお付き合いしたんですよ…ううううう!)


と、当の聖母像のもでるとなったご本人が泣いておられますけど、こればかりはどうしようもない気がします。


で、私はすでにベルサイユ宮殿に何度もお邪魔しておりましたから、この東西に長い宮殿がさまざまな設備を備えておるのは存じておりますが、建物の中に立派な教会が設けられておりますこと、姉を始めとするベルサイユ訪問お初組には興味深い光景だった模様。


(城の中に祠や神棚に仏壇の類を整えることはすれど、神社そのものを建立するのはあまり例のない話かと…)


(聞けば、いくさのための城ではなく、帝の御所と同じく居住やまつりごとのための場であるとか)


で、聖堂の祭壇前に連れて来られた私たちですが、そこにはテレーズ殿下を筆頭とするフランス王家の方々がお待ちかねでした。


そして、テレーズ殿下のそばに控えるのは罰姦聖母教会の初代教皇夫人であるシャルロット・ダルブレ枢機卿さま。


つまり、罰姦聖母教会がフランス王国の後ろ盾であり、比丘尼国との交流の仲介に一役買っているという喧伝でもあるそうです…。


で、シャルロット様のこの場でのお役目、罰姦聖母教会教皇名代兼・フランス担当枢機卿として信任状やイザベル陛下からの着任許可状を改める役回りとなります。


そして、罰姦としてもフランス支部と比丘尼国の交流を歓迎するという説話を出されたあとで、支倉氏一行の着任を歓迎する宴会の席への流れとなります。


ですが、私たちはなんと、宮殿二階に上がる階段の方へと案内されたのです。


ええ、今回の赴任者となる公使一行はそれほど人数が多くないからと、東の外れにある王宮歌劇場のからくり床を嵩上げして宴席の会場にするとお聞きしておったのですが。


(テレーズ殿下…王宮歌劇場が宴席の場ではなかったのでは…)


(それがですなプラウファーネ卿…鏡の間でやれやとか横槍差し込んで来た遠縁の叔母がおりましてな…ふらこ、あんたもイザベルおばさまに抗議してくれや…歌劇場使うんと鏡の間を使うんやったら宴席の経費が倍乗せ以上になりかねんのやぞ…)


(てれこ…鏡の間を使う件についてはソフィーちゃんが費用面の不安を払拭してくれとる…心配無用なのや…)


(テレーズねーさま。イザベルおばさまが経費をもってくださるならと、あたくしが抗議しておきましたわ。で…罰姦もわがフランスの後見者でございましょ? ベラ子陛下とルイーサ教皇代行さまから、寄付を少しばかりちょうだいしておきましたのよ…ふふふ)


(ええええええ、ルイーサ、私に断りなくそんな話を進めますかっ)


(シャルロットかーさま。お言葉ですがこれは本庁の経費でやっとります。それとマリアリーゼ陛下が、痴女皇国本宮の皇室予算から寄付の補助として付け足し下さるとの話も頂いておっては、断る道理がありませんわよね?)


しかし、鏡の間を宴席の場に用いることがそんなに問題なのか、とお思いの方もいらっしゃるかも知れません。


では、この鏡の間が初見の姉と、支倉様に印象を語って頂きましょう…。


「な、なんやこれ…なんか目がおかしくなりそうやぞ、茨木…」


「いや、鏡だけではございませぬな…壁や天井の絵画や装飾に、そこかしこの黄金の彫像…」


「灯りも玻璃(がらす)細工かいな…」


そう、どぉーんと長い廊下をそのまま宴の場にしたという、豪快な光景がそこにあったのです…。

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