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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


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鬼さんパリへ行く -Le diable va à Paris- ・2

「いや、ほんまにやな、うちも今更慰安旅行とかな…」


南欧行政局・スペイン支部ことスペイン王国の南の端っこに近い、港町であるカディスというところに来ておりますのは私、八百比丘尼国生まれの鬼の茨木童子です。


そして、カディスの停車場の乗り場におります汽車の前なのですがね、よりによってそういう場所で言い合いをしております相手、どこの誰かと申しますと。


…見た目こそ小さなおなごですが、実のところは私の姉である酒呑童子…おっといけませんね、元服前の外道丸という名前で呼んでおきませんと。


で、姉が本来の名前を封じられております件。


強大に過ぎる姉の力を封じる意味合いもあるそうです。


現に、今の姉は小柄な比丘尼国の少女にしか見えませんが、本来の名前で呼び続けると、その真の姿に変わりやすくなってしまうんですよ。


「茨木かて似たようなもんやないか…あんたのそのおかまの姿も一種の封印やろが…」


ええそうです、重ねて…何度でも重ねて申しますが、私は男なのです。


もちろん、姉同様に男にも女にもなることができますけど、痴女種女官ほどには、一瞬でぱっぱっと変われないのです。


しかしですね。


私が交換制度とやらで比丘尼国の大江山を離れ、聖院島と呼ばれていた島の聖院本宮に赴任した時代の当代の金衣であった通称:三代目様の計らいで、男でも女でもない姿を取っておく方が面倒がないとなりましてね。


それと、当時の聖院の女官の生業ですとか、私がどっちつかずになった場合の欲望の向かい先の問題がありまして…。


今でこそ私は本来の鬼の()()の性質である、人の女を好んで狙う()()()に戻っておりますけどね、今で言う偽女種の姿になった時は、女のまがいものの考え…つまり、主に男に興奮するようにされておりました。


まぁ、そうした制限もマリアさん…マリアリーゼ陛下の聖院金衣就任を経て痴女皇国を建国するに至る過程で撤廃されるか、改善されたのですけど。


ともあれ、私は姉をこの汽車に押し込まなくてはなりません。


それに、姉が連れて来た同行者…私の代わりにパリに駐在する比丘尼国の武士であり仙台緑豆櫃飯(ずんだどん)国の国主家臣・支倉常長(はせくらつねなが)様とその随員は、姉よりももっとこの列車に乗せるべき方々なのです。


ええ、姉がこれ以上ごて(ごね)るようならば、このカディスに置き去りにして行こうとも。


もっとも、姉が本気を出せば、その出せる力たるや、黒薔薇騎士団の方々と最低でも互角以上。


(仕込まれた封印やら呪いやら何やらの一切合切を外せば、だりあ統括くらいはいくらしい。へたするとアルトはんと互角みたいやねんけどな、この世を終わらす気はうちにはないからな…)


まぁ、それは姉の弟にして、おおむね互角の力があるらしい私にしても同じ思いです。


それはともかく、私らのような鬼の上のものが本気を出した場合ですが、半日あればカディスから走って、この汽車を追いかけるどころか追い越してパリに先回りすることも不可能ではないのです。


道を…間違えないなら、の話ですけど。


ともあれ、一旦は私たち、マドリードという街へ向かわなくてはなりません。


なぜか。


私がパリに着任した時は、鬼であることも勘案されて、南欧行政局のお膝元に公式で招くのはちょっと…となってフランスに駐在する比丘尼国の使者である証の信任状の奉呈、パリで行った経緯があります。


しかし、今回赴任する支倉氏は、比丘尼国人の男性です。


まずは、フランスを管轄する南欧行政局のお膝元であるマドリードでイザベル局長に謁見、となったのです。


(別にあたくしも、この列車の中で謁見と歓談というだけでも良いのですが…やはり比丘尼国から遣わされた方ですから、形の上だけでもオリエンテ宮殿にお招きしておきませんと)


というわけで、ちょっとマドリードに立ち寄ってくれということに。


まぁ、それは私にもわかりますよ。


特に、今の比丘尼国(うちのくに)なんざ、江戸と京の都に別れておる関係で、外国の使者はどっちにも顔を出せとかいう話になりかねません。


それはあまりに向こう様に面倒をかける話になるということで、江戸に学問をしにお越しの京都の帝のお子様のご臨席の上で、江戸城でよそさまの使者を歓待する手筈になっておると。


逆に、姉たちの行程からすると、おなごといえど王さまがおわしめす場所を素通りするのも失礼に当たるであろう、となって、マドリードに寄るのは致し方なしとして承諾することになったようです。


とはいえ、姉はイザベル陛下を多少はご存じのようです。


それと…。


「ああ、随行の鬼さんといわはるのは外道さんですかいな。いや、私の方にも着任者の名簿を頂いておりましたけどな…不肖の母親が寄れ寄れいうて無理を申したみたいで、公使様にもご足労をおかけして申し訳ありませんなぁ…」


ええ、フラメンシア殿下も、このお迎えの汽車にお乗りだったのですよ。


で、フラメンシア殿下はフランスにもスペインにも顔の利くお立場の上に、オリエンテ宮殿のどこに何があるかを熟知なさっているということで、姉と支倉氏一行の案内役として呼ばれたのです。


そればかりか。


(こちらAVE9012、前の運転士室見。カディス指令分室、どうぞ)


(こちらRFEカディス運行指令分室。AVE9012、セニョーラ室見、どうぞ)


(こちらAVE9012、前の運転士室見。AVE9012、出発準備整いました。所定発車時刻マルナナサンマル…セロ・シエッテ・トレス・セロ。マル(ていじ)で定発可能。どうぞ)


(こちらRFEカディス運行指令分室。AVE9012、セビリア着はセロ・オチョ・クワトロ・セロ。以降はマドリードAVE集中指令室の運行管理下に入ってください。Que tengas un buen viaje,Bon voyage)


(こちらAVE9012、了解(アプレンデ)。アディーオス)


ええ、室見理恵さん、どうもこの汽車の運転台においでのようなのです。


(すみませんね…このTGV-Mって列車、元来はフランス国内用を想定してたせいもあって、スペイン王立鉄道への直通はマドリードまでしか現状、営業運転では行ってないんですよ…スペインの運転士さんだとこれが扱えないってことで、パリまであたしが延々運転するはめになってしまったんです…)

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