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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


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葉子さんの異常な信仰 またはいかにして私は信心の対象を変え◯◯を愛するようになったか・2

一体全体、どこで我々の私物を預かってくれるのか。


不安な面持ちなのは、私、犬飼葉子(いぬかいようこ)だけではありません。


ええ、佐伯潮(さえきうしお)係長も、そして峯亜沙子(みねあさこ)課長も、普段の尊大または傲慢な姿はどこへやら、といった体で、いきなり変わった自分の周囲の光景に、呆然としておられます。


その、広大な地下洞窟といった風情の場所にはところどころに灯りが灯っており、目が慣れて来れば…いえ、今までもよりは確実にはっきりと夜目が効く状態で、洞窟内の全景を眺めることに気づきました、私。


で、その洞窟内にあるのは、一方の壁一面に作られた何かの棚と、そしてその壁とは直角に配置された祭壇。


そこへ、小柄な作業服姿の少女が近づいてきます。


「あー、()()()女官長、今日は()()私物庫ですかいな」


「はい、ご連絡させて頂きました通りです…ええと、皆さんが今後配属される国土局の設備部の痴女宮担当部長のデスピニス(ミス)・ゲドウマルです。外道ちゃん、こちら連邦世界の日本の役所からお越しの方々です…」


「へぇ、室見局長んとこに…でしたら国土局の事務所の有志の方と設備部のメンツで月イチ、慰労会っちゅうのやってますんで、そっちの方でも顔合わせさせて頂くかも知れませんな。設備部の外道です、よろしうに」


で、お辞儀をする態度も大人びている不思議な少女…しかし、なんでこんな子が部長とか言われているのか、と思いかけていた峯課長の顔がすっ、と青ざめます。


そして、顔面蒼白になったの、峯課長だけではありません。


佐伯係長と私にも、一瞬、この子…いえ、外道丸と名乗った方の本当の姿が垣間見えたのです。


そして、我々3人全てがその、禍々しい姿に恐怖したのです、本能的に。


ええ、この方の少女姿はあくまでも一種の擬態であり、本来の姿が別にちゃんと存在すると。


そして、恐らくは…一瞬だけ心に浮かんだこの方の本名…それもある程度の教育を受けるか、さもなくばネットゲームなどで親しんでいる方も多いであろう、とても有名なお名前から察するに、絶対に一千年以上は生きているであろう事も想像できました。


そう、この時点で我々、特に峯課長は今更ですが気付かれたのです。


この痴女宮は、人外の巣窟だと。


そんな方々に、迂闊に普通の人間のつもりで大聖人の教えや仏法を説くのは逆にまずい。


この判断は正解だったと後に心の底から思い知ることになる峯課長と佐伯係長ですが、とりあえずはその外道丸という見た目は少女の方の行動に注目しておられます。


「ほな、開けますけどな、その前に…()()()女官長、この()ら守ったらんと、駆け出しの卒級の子らやとこの先はもちろん、開けただけでも絶対に危険ですさかいにな…」


え。


何か出てくるのでしょうか、と思う間もなく、その外道丸という方が祭壇横の頑丈そうな鉄扉に手をかざすと、少しの間を置いて、音もなく扉が開くのです。


で、そこから漏れる妖しい冷気。


そして、事もあろうにその扉の中へ入るよう促される私たちですが、扉をくぐる前にアフロディーネ女官長が厳しい顔で申されるには、ですね。


「この先にもう1つ扉がありますが、そこに至るまでの左横の棚の中のものは絶対に手に取らないように…」


しかし、注意を受けるまでもありませんでした…。


通路右側には、日本の会議室などでよく見かける椅子を重ねて専用の台車に載せたものや、折り畳み机にしか見えぬ諸々があって、何やら懐かしい印象です。


ですが。


通路を隔てて反対の左側の棚。


黒い木箱がずらっと並んだ、そこへ手を伸ばせば絶対に何か起きる。


それくらい、嫌な感じを受けたのです。


で、この感覚、後で判明したのですが、実家で購入して置いていた大型仏壇からも、微弱ではありましたが似た陰気を感じたのです。


ええ…覚えておいてください…私が所属()()()()宗教団体の仏壇、いわゆる外法とかいう呪術を密かに取り入れていて、信者から運気や精気を吸い上げる呪法を用いていたようなのです…。


とりあえず、その禍々しい倉庫の奥に進むと、これまた両開き扉が。


そこの扉については、アフロディーネという方が開錠処理をなさったようです。


「この先は痴女皇国財務局の所轄区域ですが、棚に置かれた物品にもうかつに手を触れないようお願いします。呪われますよ…」


え。


明らかに、日本語…この世界では聖院第二公用語と言うそうなのですが、呪いという言葉で注意を受けたのです。


そして、その呪われているという物品…金のインゴットを手にとって、我々にその表面をお見せになるのです。


明らかに危険物を示すであろう、ドクロマークが鋳込まれておりますが。


「こちらの棚にある金銀は全て訳あり品。警備のためもあって、敢えてここに置かれているのです」


見れば、棚にも「取扱資格者以外触るな」「危険!呪詛品」などという注意書きがべったべたと随所に貼られている上に、日本でも見たことがある虎柄テープまでもが、棚の角や板や棒に貼り込まれています。


「有り体に言いますと、ここの金銀を触ると金欲や物欲を喪失し、金を汚らわしく思うようになります。それだけならまだしも、欲求や欲望を嫌うようになるのです…つまり、遠からず食欲や性欲すら失うのです…後者が喪失すれば、女官としては真剣に生命の危機となりますので、くれぐれも絶対にお触りにならないように」


この、勅使河原という若い女性の警告。


その刺々しい内容に、思わず峯課長が抗議の突っ込みを入れようとなさったのですが。


(女官長と言われた方は普通に触ってられるんじゃ…)


「私にかかればこの程度の呪いは何とでもなります。元々ここの金塊、金貨にした際に再鋳造を困難にするためにナンム母様が仕掛けた人ども向けの呪いの仕込みですし、本来はナンム母様の子にして神たる私には効くわけがない部類の軽い呪い…ですが、駆け出し卒級痴女種女官の皆さんには、非常に危険な内容の呪いなのですよ…」


「アフロディーネ女官長の真の姿、ご覧になられますか…もっとも、見ればその呪いの金塊よりももっと迅速に死亡しかねませんが…」


え…。


「女官長の真の姿は神話神種族…連邦世界で言うギリシャ神話のアフロディーテ、またはシュメール神話のイシュタルその方そのものの存在です。その真の姿に変貌した場合、神種族結界を周囲に形成なさいますが、神の側に立つ資格がある者以外は不浄と見なされて浄化されます…つまり、死に至るのです…」


「お疑いになるならやってみせましょうか…いや、ペルセの方が適任ですね…」


「ああそうか、ペルセ団長ならエレシュキガルが本体ですもんね、あの世に送り込む裁定の手間が省けますね」


と、気楽に人の命を奪う話をなさっておられますが、私たちが死ぬどころか地獄に送り込むような話題ですよ…。


(そりゃそうです。アフロディーネさんや、双子の姉妹のペルセポネーゼさんは痴女皇国世界の遥か古代であれば真剣に実在して、人々を支配していたんですよ?正真正銘の神様として…)


(我らが母親が無茶をしたせいで、私はペルセポネの姉妹扱いで現世に来て女官の頭をする羽目になったのですがね。まぁ、勅使河原室長は人間にしては頑張っておられる部類です。ですので、ここの金銀を手にしても少々気分が悪くなる程度で済んでいるのですよ)


え。


これまた、頭の中に直接言葉をねじ込まれるような感覚で、お二人の言葉が。


(これが心話と言って、私たち女官がどこにいようと意識があれば会話を可能にする特殊能力なのです)


(それと…あー、説明をよく理解なさっておられませんでしたね。あなたたち3人の考えや記憶は全て、私たちに筒抜けだという思考共有や記憶共有能力ですが、本当に皆さんのお考えは私はもちろん、十万卒のテシガワラ室長にも丸見えだと認識頂く方が無難ですよ…)


え…内緒の話とか、考えというのは。


(事前研修で言われませんでしたっけ?…宮内省を経由した場合、智秋先輩のところで絶対に…ええ、言ってますよね先輩。ええ…そうです、今日、導入研修中の国交省からのお三方、思考共有の詳細、本当にそんなことできるのかってお考えだったようで…はい、ええ、私からもマリア先輩…マリアリーゼ陛下にも言っときますけど、出来れば東京の段階で思考共有を実際に実演しないと、変にあらぬ考えを起こして来て早々に懲罰になっちゃいますんで…よろしくご検討ください…)


ええと、どうも勅使河原室長、宮内省の結構偉い人と、タメ口に近い会話を交わしておられるようですが、話題は間違いなく私たちの件なのでしょう。


(あー、一応申し上げておきますけど、この痴女皇国内で謀反とか革命とか、国家転覆や皇帝への反逆とか考えない方が無難ですよ…誰かへの敵意を思いついたその瞬間に、厚労局や警務局といった女官の処罰に関わる部署の然るべき人物に警報が飛びますから…)


どぇえええええ。


何度、凍る必要があるのでしょう。


確かに、考えていることを他人に読まれるのを想定して行動して欲しいとは宮内省で開催された事前ブリーフィングでも注意を受けましたが…まさか、これほどまでにとは。


(ちなみに思想や信教の自由といった日本国民としての基本的人権、痴女皇国に来国する際の承諾書類に書かれている通りでして…出身国または汎銀河人類族連邦で保証されている基本的人権の凍結に承諾することになっています。これも宮内省の段階で説明を受け、合意のサインを頂いておりますよね?)


つまり、我々はこの段階で、一切の文句が言えない。


そういう立場に立たされていたのです。


(それと、皆さんは某・宗教団体と関連をお持ちのようですが…痴女皇国文教局・教育部長の玄奘氏の身体には精神体としてゴータマ・シッダールタ氏が相乗り同居しておられます。連邦世界における釈尊…お釈迦様その人であるとお考え下さい…そして釈尊は通称パンチさんの愛称で、文教局教育部仏教学科や聖院学院神学部仏教学科の非常勤講師をお勤めの立場ですから…)

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