アルトのアメリカ大冒険 - Route 69 - 7.91
で、このツェッペリン級飛行船なる、空飛ぶお船。
全長270m以上、最大直径40mという数字を聞かせられてもピンと来ませんでしたが、同行するイスパニア王女のフラメンシアが普段の住まいとしておる、スペイン王国の首都マドリードに所在するオリエンテ宮殿より長いのはもちろん、我がベルサイユの2/3はある長さと聞いては。
とにかく、大きいのです。
しかし、その巨体の大半は気嚢と呼ばれる、水素という物質を気体化して詰めておく場所にあてがわれておるそうです。
軽く燃えやすい気体であるという水素を保持するためのその気嚢、なんと八百比丘尼国産の絹をふんだんに使った上に、水素が漏れないように穴を自ら修復する添加剤を塗布してあるとお聞きしましては、なんともはや。
(外壁にも自己修復作用と、熱管理能力があるんだよ…上空に上がると凍りつく場所が出てくるからね…)
そして、その水素ですが。
なんとこの船、吸い込んだ空気を要素ごとに分解抽出してしまえるそうなのです。
(船体の外皮と気嚢の間には火災防止や船体膨張防止の意味もあって窒素ガスを充填してるんだよ…比重0.97…空気より少し軽いのも利点でね…ただ、普通の人は船殻内部をうろちょろできなくなったから、痴女種乗せないと上の観測室や機関室に行けないんだよね…)
まぁともかく、吸い込んだ空気を水素と酸素に分けたり、はたまた水素を水に戻して重り兼燃料に変えたりなど、状況に応じて物質のすがたを変えるしかけを多用しているようですね。
(高高度を常用する場合は窒素気嚢部にヘリウムを充填することも考えてるよ。これだとさらに浮力が増すからね…)
つまり、先ほど言われた、西から東に向かって吹く風の流れを利用する時など、山より高く上がる必要がある時にはそうすることも可能なようです。
(あと、シャワー使い放題に近い。大気からの水素回収装置や、2次発電機のフューエルセルシステム…燃料電池からの水回収システムを稼働させてるのもあるけど、重りと一次燃料を兼ねて大量の水を積んでおく必要があるからね…)
ですので、船内の水槽に入っている水の量、各種の機械が動いている間は大きく変動することがないそうです。
でまぁ、このお船をもってしても現状、大西洋の横断、1日以上はかかるそうです。
しかし、帆船の時代であれば1ヶ月ですとか、動力を積んだ鉄のお船でも5日だ1週間だと言われておる大西洋の往来、2日もかからないとなればそれだけでも大進歩のように思えます。
「ま、飛行機ってもんが普及するまでのつなぎだよ、つなぎ」
そのつなぎというには、あまりに巨額の費用を投じておられる気もしますが、とりあえず乗員乗客合わせて100名近い人数を最大で乗せて、陸上船ではありえない速さで大西洋を越えられるというだけでも、大いに利のある話になるでしょう。
それと…何かあった際に、人や物を送り込める手段が多ければ多いほど、自国から離れた領土や植民地の統治には有利に思えます。
そう…この空飛ぶ船も、アメリカという新大陸に直接の覇権は唱えられずとも、開発のための協力や出資に参画することで利益を得られるようにするための投資の一環である、マリアリーゼ陛下はそう申されます。
「こいつを作る技術を転用すれば、他に色々と便利なもんができるからね。例えばフランスに原石が大量に埋蔵されているアルミニウム…ボーキサイトって種類の石が必要になるんだけど、とんでもない軽さのお皿や鍋などを作ることもできるんだよ」
実際に、この空飛ぶ船にもその新しい金属が用いられている部分はそこそこあるそうです。
または、同じ物を作る際に、マリアリーゼ陛下やエマニエル部長が持ち込んだ未来の技術ではなく、私たちが使いこなせる範囲で用いる代用品で代わりをさせることも可能にしておく、とも。
「で、さっきの東から西へ行く時と、西から東へ行く時の風の流れの違いで、遅れたりするじゃん」
なんでも、連邦世界で爆発炎上事故を起こした空飛ぶ船、8時間以上も遅れていたそうなのです。
「そこであたしとエマ子は考えた。原型のLZ129ヒンデンブルグとLZ130ツェッペリン2世じゃ、積んだエンジンは違うんだけど4,000馬力から5,000馬力の出力で巡航速度時速100キロ、最高速度130キロを実現してる。で、少し全長を伸ばしたり色々積んだせいでトータル10tばかり重くなってるこのLZ810だと、6台のモーターを全て使えば8,000馬力近い出力が得られるようにした」
(キルナ〜ナルビク用の電気機関車と同じ出力のモーター、重量2/3でとか無茶言うな…)
ムロミ・国土局長が何やらお怒りになっておられますが、きっとニホンの職人に無茶を言わざるを得なかったのでしょう…ご愁傷様です。
「んで、だね。この野獣号は航行時に大量の空気を吸い込んでは酸素や水を得ているんだけど、その時の酸素と水素の貯留量によるけどね…ぐふふ」
何やら、悪い笑いを浮かべる陛下。
「こいつは量産型には積まない予定でね…船長、ロータリー・デトネーションジェット機関、1番から4番まで始動、大丈夫かな」
「燃料充填率80%、燃焼推奨時間30分となります」
「よし、15分稼働させてみて」
「了解。回転式爆轟噴進機、3番から6番まで始動準備」
な、何をなさろうというのでしょうか。
「後方監視カメラの映像を見せてあげるよ。これ、全ての推進ポッドにつけてなくてさ、船体後部に水平に取り付けてる左右の3番4番と、そこからちょっと下の5番6番のポッドの後ろにだけ、装着してるんだよね…」
で、おのおのの推進ポッド…回転羽根がぶんぶん回っておる部分とやら、何やら細身の大砲のような筒が後ろに突き出しておりますが。
「回転式爆轟噴進機、3番4番点火、始動」
「回転式爆轟噴進機、3番4番点火、始動」
見れば、その筒から炎が噴き出し始めました。
「3番4番モーター回転、発電モード切り替え」
「了解、3番4番モーター、発電モード」
「爆轟噴進機3番4番、水素燃料噴射運転で巡航推力へ」
「了解、爆轟噴進機3番4番、巡航推力」
「爆轟噴進機、5番6番始動用意」
とまあ、火を噴くが故に船体のお尻の部分に置くしかなさげなしろもの、4つに火をつけた結果。
明らかに、この空飛ぶふねの速度が上がったのです。
なぜならばこの操舵室。
風の音がよく、聞こえてくるからです。
その風切り音、それまで以上に響く上に、窓外を時に流れる雲の速さも、全く違うのです…。
「ふふふふふ、このパルスデトネーションジェットを使えば、こうして緊急加速や緊急減速に使えるしね…燃料消費量の問題さえなかったら、1日未満でアメリカに着けるくらい速くなるんだよ…」
そう、有り余る電気とやらを使って水素という燃える気を作りに作り、この爆轟噴進装置とかいう火を吐くしろものに送り込むことで、この空飛ぶ船をさらに速く進めることができるようなのです…。
「このパルスデトネーションジェット…爆轟噴進機関は燃焼筒部分がものすごく単純でね…宇宙往還機といって、地球の外に出ていくような飛行機にも使われてるんだよ、軽くて小さくできるから」
ですので、軽さが命の飛行船の、緊急移動用や空気の薄い場所での高速飛行に向いているのだそうです。
「今は研究段階だけどね、この野獣号が大西洋を横断する距離の半分だけでもこれを使えると、かなりの時間短縮が見込まれるんだよね…」
まぁ、そうでしょう。
2日半が1日未満になるだけでも、さらにすごいと思えますから。
さて、この野獣号。
現状だと1日以上の時間を船内で過ごすということで、食事が提供されるとのこと。
私もフラメンシアも、積極的に食事を必要とはしない身体になっておりますが、乗客の中に痴女種や偽女種ではない人が多数見込まれるとのことで、乗船券に応じて食材を積み込み、料理して出す設備が備わっておるそうです。
ですが、船内では火事になりそうな火種の部類をなるべく使わないようにされているとかで、温菜はスープとお肉に限っているとか。
(紅茶とコーヒー用の湯沸かしはあるぞ…)
(紅茶が飲めないと英国人が暴動を起こすというのは本当なのでしょうか…)
(この時代だと珈琲淫と効好嬌もなんだよ、暴動原因…)
でまぁ、お船は一定高度に上がると、自ら針路と船体の水平を保つ仕掛けも使えるそうなのです。
そこで、頃合いを見計らって船員たちも交代で賄い食を取る他、乗客への食事の提供もある模様。
ハラマスの冷製マリネの前菜に始まり、明日輝コーンのポタージュですとか淫化のめざめと淫化ベリーとキヌア和え、アサイーと雁良男のドレッシング添えサラダだの、アメリカ産バッファローのビーフシチューだのといった食事が次々と出てきますが。
味はともかくですね。
食材に全力で問題があると思うのです。
そして、マリアリーゼ陛下。
子供に言えない、そしてフラメンシアのボケが大好きな例の行為。
あれ、まさか船内でお許しになる気では。
確か、船が揺れるとまずいってお聞きしましたけど。
船内でギシバタドンドンとあれに伴う揺れ、お許しになるんですか。
この料理、痴女種じゃない人に食べさせたらものすごくまずいと思うんですけど。
「そのための船室だし、シャワーと思って欲しい…キャビンは船体内部に取り込まれているし、竜骨との接続部には制振ダンパー類も採用してるから…」
ただ、私はごめんこうむります…そもそも相手おらんですし、あのフラメンシアめと何かするのも心底嫌なのですからぁっ。
(あーそうか、テレーズちゃんはアレが苦手な枠の子…)
まぁ、そういうのはフラメンシアに任せましょう。
そして、この場ではそういう卑猥な出来事があったとしても、詳細を伝えられないのです。
ですから、乗客はもちろん、船員でも痴女種がいて何かやらかしていたとしても、お伝えできないのです。
そして、私と同様にその手のアレが苦手なムッシュ・ティーチ。
食べたものがやばいと知って、中和薬とやらを密かに服用なさっておられましたが、そういう場面から逃げる気満々ですね…。
なんといってもこの飛ぶ船、食堂の他に映画を上映することもできるラウンジやサロンもあって、フラメンシアが指揮を取っておるらしい南欧行政支局管轄の演芸部門謹製の映画も上映してるそうなんですよ…。
ええ、私も、うちの母親をネタにした映画が存在するのは存じております。
実際に渡米した先の場所こそ本来の移住地とは変えられておりますが、結末はだいたい、同じなのです。
「…マリアリーゼ陛下、まさかあれ、英国で上映」
「確か、向こうの劇場で大入り満員」
ええ、なんでうちの母親の居場所がバレたか、私は悟りました。
機密保持どころか、ある意味ではだだ漏れではないですか。
しかも、むっつり助平と噂に高い英国人ども、あの手のしろものに手を出さない訳はないのです。
ええ、パリの売春も、ドーバーの海底に開けられた穴のせいでこっちに来やすくなったせいか、英語を喋り牛肉料理を好む客が多数押し寄せておるそうでしてね。
その意味では英国さまさまなのですけどね、やはりね、売春を国策事業にするのにはいまひとつ、気が重いこのテレーズの思いも汲み取っていただけますと。
そして、お願いですから船の中でみんなこぞってアレして揺れて転覆とか、やめて欲しいのです。
それと、お読み頂いた方へ。
せめて、なんとしてでも新大陸に私が無事に到着しておることをお祈り頂きたいのです。
そのためにはフラメンシアのど助平行為も暴露します。
ですから、ここから先は大人の枠でお話するようなことが起きても語れない、これを何よりお許し頂きたいのです!
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てれーず「そもそも乗客にエロ行為をさせんがために空飛ぶ船を就航させた疑いも」
マリア「濡れ衣だよテレーズちゃん。それなら普通に海を行く船の方がより広くてさ、設備も豪華にできるじゃん」
ふらめ「一見、もっともらしいマリアリーゼ陛下の発言ですが」
てぃーち「すちゅわーですってのか。客に給仕する女官のスカートの丈が短すぎると思うんだ…」
てれーず「更にはその給仕がおなごで痴女種」
ふらめ「何をかいわんや、この後の話」
てれーず「というわけで、続きはおそらくアルト閣下の枠となるようです…」
あると(どすけべいなおはなしは、やみおちよめのわくでやってほしいのです!)




