フライデーの生涯と奇しくも驚くべき冒険・12【R15版】
「しかし、フランシスカさん…あの時は色々揉めたようですね…」
で、私の目の前におられるのは、今やパツキンデカパイエロフとして痴女皇国では知らぬ者とておらぬ、南米行政局顧問のイリヤ様です。
(諦められたのですか…そのアポードと評価を覆される努力…)
ええ、普通ならイリヤ様の性格です。絶対に即座に反応されるはず、なのですが…。
(これが一番、皆さんに私の容姿を説明しやすいと誰彼なしに申されましては、泣く泣く…)
確かに私から見ても、本当にエロフという呼称がしっくり来る外観のイリヤ様ですが。
「エマネが大変にご迷惑をおかけしたようで…」
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つまり、イリヤ様から見て姪の関係に当たるエマネ様も、我がメヒコ…メキシコ合衆国に暫くの間、赴任して私の補助を勤めて頂いておったのですよ。
ちなみにイリヤ様の出自、地球風に申し上げますとリュネ世界のヤスニ家の長女。
で、次女のメマーラ・ヤスニ様がリュネ王家に嫁いだ結果、授かったお子様がエマネ様でして、地球に移住した後はリュネ体液国民会会長という、リュネ出身者の親睦団体の長という名目で、実際にはリュネ女王として王家の血筋を維持する立場なのですよね…あのお若い「ぱつきんしょーとかっとぼーいっしゅひやけえろふ」な外観のエマネ様。
では、なぜエマネ様より年上のイリヤ様が女王に就任しなかったのか。
リュネでは女王の就任は¡Vale!でも、剣聖が女王を兼ねるのは基本¡De!のだそうです。
「リュネ族や魔族がリュネから淫化に移住する際の混乱期に、やむなく私が女王位を引き継いだこともありましたが、あれでも物言いが同族からつきましてね…最終的にはエマネを正式な女王として任じるしかなかったのですよ…」
つまり、リュネ世界では剣聖は最終的にリュネ王から任じられる役位であり、国王が剣聖を兼ねるのは国の政体として基本はダメという規律が存在するようです。
「まず根本的に、聖剣を握れるか、という条件がつくのですけどね」
と、剣帯から外されたそれを見せて頂きますが、そういう武器に疎い私にしてみれば、映画や日本のナロウ系アニマードに出てくる洋剣の細身のものにしか見えません。
試しに、ち◯◯柄に改造されたそれの柄を握らせて貰いますと。
「熱いですね」
「どうも、フランシスカさんには柔和な拒絶で済んでいるようです。本当に握られたくないならば、炎が出ていますよ」
つまりこの聖剣なる剣、一種の金属生命体であるかのように、意志を持っているとしか思えない振る舞いを見せるのです。
で、この剣はその見た目とは全く違う使い方をして魔族なる人外の生物を撃退するのが元来の用途であるのを、このフランシスカも存じております。
ただ…リュネ世界の戦士が握る剣は出力程度に差こそあれど、基本は超高温の収束プラズマというべき熱線を発射する「剣の形をした熱線銃」です。
で、単に熱線を発射するだけでなく、イリヤ様を始めとするリュネのベテラノ戦士が使うと、バーベキューの火程度の低出力で炎を出し続けることも可能であることが注目されました結果ですね。
痴女皇国世界の淫化帝国の高地では包丁のような姿をした調理剣なるしろもの、高地の神殿に配られて調理担当の太陽乙女や月乙女…神官によって台所の火種にされております。
(リュネ戦士出身者の神官用に、調理剣だけではなく通常の炎剣を仕掛けておく台までかまどに作られております…)
そう、かつては魔族を撃破するための必殺武器として多用されたこの手の剣、今や淫化では調理や…状況によっては暖房用として平和的に使われるのが主な用途になっておるのです。
で、この聖剣自体は魔族の長である「魔王と形容するしかない存在」や、その直属の部下で「あった」ロッテさんこと、現在は痴女皇国南米行政局・アスタロッテ副局長との対決を目的として製作された経緯があると伺っております。
そして、聖剣を持つ剣聖を補助して「らすぼすのまわりのかんぶやざこ」を追い払うための爆炎剣や業火剣といった強力かつ広域作用型の剣を有する剣豪や剣士四天王が任じられ…そう、エマネ様は爆炎剣の使い手ですが、まさに剣聖を補助して露払いをするのが元来のお役目だったのですよ。
つまり、魔族が攻めて来た際には、エマネ様や、あるいはレヴェンネ様とかドミネラ様とか、私も存じ上げている方々がイリヤ様の割と近くで一緒に戦っているような状況であったと。
これが、エマネ様とイリヤ様が互いをよく知っていて、なおかつあまり仲が良くない理由だというのは、詳細な解説を頂かずとも私にも理解の範囲内。
なにせ、魔毒を抜くためには…その、大人でない方には詳細説明を憚ることをしなくてはならないのですから。
しかも、その魔毒抜きの作業、戦いが長引けば長引くほど「絶対に必要となる」のです…。
で、今でこそ魔族とリュネ族の和睦が痴女皇国の介入と仲介によって成立し、リュネ世界と称される宇宙人工大陸施設から淫化帝国への移住が順次進められておるわけですが、淫化がリュネ世界の方々の移住先に選ばれた理由は、その急峻な山地と、そこでないと人々の暮らしが成立しなかった南米大陸西部の特殊事情を逆手に取った政略的判断によるものなのです。
連邦世界のペルーやチリにはもちろん、鉄道や道路こそありますが、どちらもアンデス山脈に阻まれております。
または、建設されてもぐねぐねと曲がりくねるか、さもなくば急勾配。
私も痴女皇国に拉致されてしばらくは淫化帝国で女官修行をさせられておりましたので、現地事情は理解しておりますが、インカ帝国同様に淫化でも飛脚制度と街道整備が行き届いておりました。
むしろ、運搬物が少ないならば、遅い自動車や鉄道と同じか、少し遅いくらいだったのですよ、飛脚による通信や小荷物輸送…。
そんな土地柄ですから、翼を出せば高速飛翔が可能なリュネ族や魔族の身体特徴、重宝されるまでに時間はかかりませんでした。
ええ、リュネ族と魔族の方々、リュネ世界特有の大気中の有害放射性物質粒子濃度にこそ左右されますが、一人一人がウルトラライトプレーン、それもジェット推進の高速型も同然のことができるのです。
急峻かつ延々と続くアンデス山脈や、アタカマ…痴女皇国世界では赤玉砂漠のような降雨量ゼロといっても過言ではない過酷な地域をものともせず、音速を超えませんがジェット旅客機に匹敵する速度で往来可能な方々です。
この飛行能力、淫化帝国人に移植が可能かを試験したこともありまして、淫化の現・上皇であるチャスカ・マンコ陛下や現在のクシ帝の伴侶で民選皇后であるコイリュル后妃など、千人卒以上の太陽乙女は翼を備える体にされるほどに重宝されています。
ただ…リュネ世界と痴女種との違いで、純血リュネ族以外の男性は翼を装備できないのですよね…。
ですから、リュネ世界で痴女皇国世界に来て戦士同等の資格を持てるのは、一部の例外を除いて女性に限られております。
(魔毒濃度をあまり上げられないのも一因なのですよね、そもそも、リュネと違って淫化帝国、常に戦争なんか、しておりませんし…)
そう、あくまでもリュネ族や魔族の能力は、淫化の地においては平和的に利用されています。
そしてリュネ世界の人々の特殊能力を活用するために、敢えてその、放射性有害物質粒子…魔毒といわれるそれを大気中に撒き散らす地衣類である魔毒苔という植物、一定高度以上でないと繁殖しないように改良した上で、淫化帝国や南米行政局管轄地…そして、私が最終的に管理することになり、今も痴女皇国世界で私の分体が女裂振珍帝国皇帝兼・痴女皇国中米行政局長として治めている明日輝王国・魔屋王国領内で繁殖させているのです…。
イリヤ様でなく、エマネ様がメヒコに派遣されたのも、実はその、魔毒を定期的に体から除去する必要が高い方にも関わらずですね、専属の少年従者を長きに渡って任じて来られなかった結果、なかば強制的に「メキシコ行って少年を都合してもらいなさい」とアスタロッテ副局長どころか、痴女皇国本国…ベラ子陛下に言われたせいもあるのですよね。
で、その結果として、中東行政局で預かっていたエチオピア出身の少年であるビエルネの子供であるマルテスを、晴れて…と申しますか、もはや強制的に侍従少年として従えざるを得なかったのがこれまでの経緯なのです。
で、ビエルネの義母とされた私からすると、マルテスは孫も同然の関係なのです。
「いえいえ、それよりもマルテス、エマネ様とうまくやって頂いておるかが気がかりで」
ええ、今はイリヤ様と交代して淫化に戻られたエマネ様、その際にくだんのマルテスを同行させておるのです…。
つまり、あの時にビエルネとディアナの間に出来た双子の兄弟のうち、マルテスは今、痴女皇国世界の南米行政局、すなわち淫化帝国で暮らしておるのですよ、今…。
「あっちは心配いりませんよ。それよりも…そもそもフランシスカさんとビエルネ君の間の子たちは大丈夫なのですか」
「ああ、フライデイとオスティララについては大丈夫です。ミゲルとイシュタムもおりますしね…」
そう、以前に私とビエルネが作った子だけでなく…今は無きオノリナ、そして6919号の子たちもおります。
ただ、この子達は既にメヒコの治安組織の要職に就かせておりますし、起居こそこのメキシコシティの国民宮殿で行っておりますが、別室に住まわせている立場。
でまぁ、イリヤ様がなぜにこのメヒコへお越しなのか。
これは、エマネ様と交代して、メヒコの軍事顧問の立場となられたからです…当初の予定通りに。
で、この時点で、リュネ族の戦士を数ヶ月交代でこのメキシコシティに常駐させ、万一にも旧・メソアメリカ地域を攻める何かがあっても確実に迎撃する体制を整える話、これまた当初の計画通りに進んでおります。
エマネ様、そしてエマネ様と交代で赴任されたイリヤ様は、その小規模ですが強力な部隊の指揮官なのです…。
で、イリヤ様の専属侍従であるフユキ君。
彼も、このメヒコに来ております。
そして、我が孫となるドミンゴの教育役の一人を務めてくれている他、時間があればイリヤ様たちと一緒にメヒコ領内視察の名目で観光も楽しんでくれておるようで、何より。
(低濃度魔毒地帯ですから、あまり速くは飛べませんが、それでもちょっとしたひこうき並の速度は出せますからね…)
そう、イリヤ様たちリュネ族、大気中の魔毒粒子密度に影響されますが、翼を出せば飛行できるのですよね…。
ですがこの能力、フランスや連邦宙兵隊の協力を得て、独自空軍戦力を整備中の我がメキシコ合衆国では極めて有益なのですよ…。
むろん、戦闘機相手の空中戦とかではなく、何か起きた際に現地へ急行できる速度です。
極論すれば、イリヤ様なら防寒装備のフユキ君を抱えて現地へ飛べば、イリヤ様だけである程度のことは可能なのです。
「しかし、痴女皇国世界であれば海賊共和国が安定した統治を見せておるはずなのに…」
「黒人奴隷を使役したり、大国の間で領有を争ったり革命に走った過去、ありましたからね…」
そうです、今やカリブの島々や旧・キューバにバハマ、そしてハイチなども我がメキシコ合衆国の管轄領土化されてしまったのです…。
むろん、これらの島々を領土化するに当たっては反発も必至でした。
しかし、ニューヨークの連邦議会席上で映し出された各国の惨状や無政府下状況の報告に言葉を失った出席議員たち。
「まず住民救済が先」と認識された結果、連邦議会はメキシコ政府による委任統治の決議を可決するに至ったのです。
(まさか連邦世界の議会議員相手に堕天使さんを使役することになるとは…)
(ねーさん、これは仕方ないでしょ…)
つまり、この決定も、純粋に連邦世界の人間が進めた話ではないのですよ…ですが、結果としてアメリカ合衆国のすぐ下からパナマまでは、完全に我がメヒコの領土となってしまいました。
ただ…この決定の結果、改めて正規の軍隊を設立した上で、この広大な領土に対する警察力の補完を考えねばならないほど、カリブ海一帯は広いのです。
幸いにして、これまた痴女皇国の実質的な支配下にあるブラジル連邦共和国からは、有償とはいえど支援が表明されました。
つまり、装備の提供です。
従来はアメリカとの協定によって、空軍と航空戦力を保有してはいなかった我がメヒコ。
そして海軍も、沿岸警備隊の域を大きく出るものではありませんでした。
ですが、カリブ海の統治にあたっては今までになかった装備や人員の拡充が必須です。
そこで、差し当たってはブラジル国産の輸送機や諸用途の小型機各種を購入する話も進めて頂いた他、島嶼部へ急行する戦力も充実させる目処がついております。
(エンブラエル生産分のニンフェット…戦闘機も購入できるように話も進めてますからね…)
(ポワカール夫人とジョスリンのコネで、フランス製のフリゲート艦や揚陸艦の建造売却も契約締結に至らせたから…)
ええ、本当に我がメヒコ、アメリカを頼って下請け工場化に身をやつすどころか、向こうが頭を下げに来ることすら決して夢ではなくなっております。
その例として、国境。
前はメヒコからアメリカへの密入国ルートだったのですが、昨今、立場が逆転しているのです…。
第三次大戦の戦場にこそなりませんでしたが、保守派と珍権派が内乱状態に陥り、国家分裂寸前にまで至っていたかの国に見切りをつけていた者たちは決して少なくなかったのです。
で、相変わらず鎖国状態ではあるものの、大規模な復興投資を受けたり、新しい資源鉱脈が次々と発見されて工業国家としての再生の端緒についたと喧伝される我がメヒコに、今度は上の国から難民が流れ込む傾向すらあるのです、昨今。
もちろん、これらの難民、普通なら受け入れかねる話。
しかし。
来る者は拒んでおりません。
それどころか、元来は欧州地区を目指して来たはずの者たちまで、受け入れ代行を受託することに。
ええ、無論、ただでは受け入れません。
代価は…その体で払って貰っております。
で、私どもメヒコ国内、それなりに元々の国土では温泉地や海岸沿いの別荘地など、リゾート開発に乗り出せそうな場所が存在しました。
特に、アカプルコなど、その最たるものでしょう。
「しかし、思い切ったことをしたものですね…実質的に国民総入れ替えに近いではないですか…」
そう、イリヤ様が申される通りでして、現在のメキシコ国内、もともとは別の国や欧州諸国の海外領土であった島々などを含めて、痴女皇国の苗床で再生または適合処置を取った人々が国民の多数となっているのです…。
または、女体化の雨を浴びて女官種同等の百人卒未満痴女種や偽女種となってしまった人たちばかりなのですよ、今のメヒコ…。
「イリヤ様もお聞きかと存じますが、このメキシコで行われている鎖国と人種転換、次は南米…ちょうど、痴女皇国世界の淫化帝国と同じ地域で実施するそうです…イリヤ様の派遣も、その作戦を前にしての準備であると痴女皇国本国からは聞いておりますし…」




