-穴と雪と氷の国-嫁入り皇帝ものがたり・11.5
夜のとばりが降りたイルクーツク駅。
その、長く広い乗降場に蛇のように横たわる列車、極東号。
列車の前方では、機関車を付け替える作業の真っ最中。
そして、3等車のあたりでは、夜にもかかわらず物売りが出ております。
(建設時から既に、物売りを募集していたのですよ…)
室見様からのお話ですが、このイルクーツク。
この先にあるはずのバイカル湖から流れ出て、北極海に注ぐアンガラ川という川の河口…と言えるほどに広い部分の右岸左岸双方に、それなりの規模で町が出来ております。
(コサックの毛皮商人を中心に、集落を作っていたんだよね)
(で、列車が来るってことで、物売りもしてみてはどうかってイルクーツク聖母教会からアルバイト募集してもらったのよ)
で、このイルクーツクで我々を待っていた者が1人。
厳密には、トクダ様をお待ちだったのです。
聖母教会の司教に連れられ、現れたのはなんと…日本人。
「某、浪速三三四国は谷町にて質屋を営む淡路屋の子に生まれました立川伝兵衛と申しまする…」
そう、コウダユウたちに先駆けてこの北方の地に漂着していた人物だそうです。
その後、この地で日本語の教師などしておったとのこと。
「心残りたるや、妻子と父母に消息が伝わっておらぬことに存じます…」
ですが、そこから先が驚愕もの。
どこの誰かを聞き出したトクダ様の会話から、マリアリーゼ陛下を通じて比丘尼国に話が伝わり、明日にはその質屋に連絡が行くそうです。
で。
「んっとな、あんた今、こっちで支給された腕輪つけてるだろ。それ使えば故郷の女房やおっとさんおっかさんと話せるようにしてもらえるらしいからな。ただ、こっちと大坂の間で一刻くれぇは時の差があっからよ。まぁ両方とも起きてる頃合いに話は出来ると思うよ」
「ははぁ…有難き幸せにございまする…」
ええ、やはりヘル・トクダ…相応に高い地位の人物であったようです。
もっとも、本人はなるべく平民に近い視線を心がけておる様子。
(お忍びで吉原とか盛り場に出かける悪癖があったのですよ、上様は…)
(さんじゅうろー…バラすなてめぇ、手討ちにするぞ…)
(今は僧職でしょうがっ。帯刀なんかしたらそれこそ、おまつ様に呼び出し喰らいますよ…)
でまぁ、デンベエなる人物も混ざっての見送りを受け、イルクーツクを離れる極東号。
本当はこの先のウランウデまでは客を乗降させる停車は行わないそうですが、例のオームリという魚に絡んだ荷物扱いなどがあるそうでして、スリュジャンカの小さな村の小さな駅に歩みを止めるそうです。
https://x.com/725578cc/status/1793055090066313523
で、山の中を斜めに突っ切ってスリュジャンカに来た極東号。
月明かり、そして薄明るい空や星の明かりに照らされるバイカル湖の湖面が乗降場の少し先に望めます。
「ひろっ」
「日の本の九州に迫る大きな湖とかで…」
(九州が36,780平方キロ。で、バイカル湖は31,500平方キロよ。関西の方には、琵琶湖46個分の面積があると言うとわかりやすいかな)
ええ、どんな湖かの図面、壁の額縁に出して頂きました。
(ちなみに最大水深1,700mを超えますので橋や湖底トンネルの建設は困難です)
(それで大回りしてバイカル湖岸を走るルートを取るのかよ…)
(昼間なら絶景なんだけどねぇ)
で。
申し訳ないお話、第二弾。
今夜も夜の十時頃に停まるウランウデから先、翌朝までの出来事はお話、できないのです。
翌朝、中原龍皇国と北方帝国の国の境の延々と広がる草原地帯や丘陵の中を走り続けていたくらいしかお話できないのです。
ううううう。
そんな訳で、お話を再開させて頂くのは、次の大きな町…ハバロフスクとなります。
ただ…このハバロフスクも、アムール川という大河に阻まれた先にあります。
(幅があるんだよな、ハバロフスクだけに)
(駄洒落菌っ)
で、このアムール川にかかる、とても長い橋を渡る模様。
(ある程度以上の重さの貨物列車は左横のトンネルに入ります。で、下り坂を利用して加速してから登り坂を駆け上がって、橋の先で曲がった辺りから一緒になるから)
https://x.com/725578cc/status/1793072531953668179
で、後ろから見ておりますと、左に分かれてゆくモスクワ行きの道との間にもう1組、銀色に光る鉄の道が。
その道、我々が進んでいる灰色の橋の下から現れた別の道と合流し、後ろを見ている私からだと右手、北側で1組に合わさって穴の中に消えて行きます。
その離別の光景が終わると、堤防を乗り越えて大きな…本当に大きな広い川を渡ります。
この鉄の道の上に、人や車が通る道が被さっていますから空は見えませんが、上の道を支える骨組みが少々邪魔ではありますけど、左右に広がる大きな川と、今まで進んで来た道のりの南側に広大な湿地が広がっておるのも望めますね。
ハバロフスクの街、この湿地を避けて川の東に広がっております。
この街はピョートル1世の御代の探検家であったエロフェイ・ハバロフの名を冠しております。
痴女皇国世界における私ども北方帝国支部内での正式呼称、助平記念市。
ええ、可及的速やかに、かつ積極的に改名させて頂きたいのですが。
ただ、駅の案内ではハバロフスクときっちり申しておりました。
さてこのハバロフスク、いよいよとウラジオストックへ向けて南下する最終行程の手前にあります。
そして、ウラジオストックの整備がまだまだこれからのためなのはもちろん、中原龍皇国との国の境からいくばくも離れておらぬため、ここの聖母教会は騎士中心の編成であると聞かされておりました。
で…イノケンティウス教会とウスペンスキー修道院の長を務める典院司祭が部下たちを従え、私どもを歓迎するために待ち構えておりましたので、まずは降りる移住者や赴任者に祝福を与え、彼女たちに引き渡します。
そして、アナスタシアとペヨトル、更には私との間での互礼の儀を交わしておきます。
(中原龍皇国は昨今、満州族の一派が帝位に就き、満州馬賊上がりの一党を首魁とした知事を黒龍江省の総督に送り込んでおります。奴めらのこの地の都である張勃起や北の第二省都である乳膨張はもちろん、暴発斯の街にすら軍兵を集めておるという報告も)
で、この典院司祭の話。
なぜ、これがわかるかと申しますと、交易商人や移住者が向こう側の街に住んでおり、北方租界を作っておるからです。
そして、痴女皇国本国の協力を得て紫薔薇騎士団員が潜伏して、先方の挙動を探って頂いているのです。
その調査結果、迅速に本国はもちろん、何かあった際の軍事行動をいの一番に起こすことになる助平イノケンティウス教会にも伝わるようになっておると。
しかし、アナスタシアとソフィアのウラジオストック赴任によって、今後は2方面の迎撃拠点が形成されることになります。
(ぶっちゃけ俺が来てるのって、中原龍皇国対策で北方とこっちゃの間で助け合いの契り文を取り交わすためんだよなぁ…一応、その条約文書ってのには俺のさいんってのと花押を押しといてくれっつうから持ってきてるけどよ)
そう、中原龍皇国が張り切りすぎてこっちに攻めて来た場合、比丘尼国内に設けられた痴女皇国日本支部だけでなく、比丘尼国の軍勢の加勢を得ることになるそうです。
そして逆に、中原龍皇国が比丘尼国を攻めそうになった場合、ウラジオストックやハバロフスクからも支援挙兵を行なって動きを封じる「比丘尼国・北方帝国合同防衛条約」を実質的に調印することになっております。
で、この調印式、ウラジオストックで行う予定です。
当方からは北方帝国少年兵団長という名目のペヨトルが。
そして、比丘尼国の青玉葱兵団たる陰間衆なる一団の頭を務めるショウジ・ジンエモンという人物が兄弟の契りの結文2通にそれぞれ署名し、その見届け人として私とヘル・トクダのサインを入れるとなっております。
これだけで頭痛がする話なのです、実は。
というのも公式に相互防衛条約なんてもんを締結したひには、北方が比丘尼国と手を結んで包囲さしてもらいまっせと中原龍皇国を正式に脅したようなもの。
従って、建前上はこうです。
痴女皇国の聖隷騎士団分団扱いのカゲマ衆なる偽女種のサムライで編成された者たちの頭を務めるヘル・ジンエモンと、同じく少年兵団長のペヨトルが、それぞれの国の美少年と偽女種の奉仕団の長として兄弟の誓いをします。
そしてウラジオストックとハバロフスクの聖母教会に陰間茶屋なる、偽女種の売春施設を作って双方の友好に役立てるから、ウラジオストックやハバロフスクに何かあったら助けてください。
で、比丘尼国側でもヨシワラはもちろん、ニイガタやアオモリの陰間茶屋、そしてサドの島の陰間茶屋に何かあったら北方帝国の少年兵で助けてね。
(つまり、教会とか寺の尼さんや神社の巫女連中のための陰間をさ、互いに守ろうよっていう、俺が見ても頭抱える条文なんだよな…だから、陰間衆の後見人である俺が見届けの花押を押しても効き目が出るって言われてよ…)
(まりり、どこの世界にウリ専少年や男の娘の娼館を相互保護する名目の安保条約なんか結ぶ国があんのよ…)
(ここにある)
(そういう問題かぁっ)
(理恵ちゃん。帰ったらあたしのお墓の前)
(何ですか雅美さん。あたし何か言いました?)
(全力で痴女皇国年の差愛友の会の面々の虎の尾踏んどるわいっ)
(そうですよパイセン。これは大問題なのです…あたしや雅美さんやオリューレさんにシェヘラザードさんにイザベルさんだけじゃないですよ。下手したら淫化からイリヤさんが聖剣持って飛んで来ますよ)
(その中原龍皇国か何か知りませんが、国土を焦土にされたいようですね…エマネの爆炎剣、借りましょうか)
(おばさま、やめた方が…)
(あかんっ。これは魔毒抜き要員の少年を迫害する行為。それに私の聖剣ははっきり言えば魔王やロッテとの一騎打ちのために打たれたのが元来の使い道。広い範囲を焼き払うにはエマネ、あんたの爆炎剣のほーが使い勝手がよいのですっ)
(エマネ、今回は流石に捨ててはおけん。マリアリーゼ陛下他の許可は必要だと思うが…ほれ、野焼き用に歩く火炎放射器のような農業魔族を開発しただろ。あれの戦闘版の第六天魔族なるもの、マリアリーゼ陛下から試作を打診されていたんだよ)
(なんてもん作らせるんですか…)
(いや、比丘尼国に頼まれて延暦寺や本願寺や永平寺や根来寺の焼き討ち用にさ)
(まりや様…もう太平の世ですし、そこらの寺の僧兵、軒並み慈母寺の尼僧兵に変わっとりますから、そんな物騒なもんを今更作られても…)
(だから実質的には中原龍皇国対策だってば…)
(あと永平寺は無実ですよ…よほど禅寺にどなたか恨みがあるんですかい…)
(秀康さん。あそこで年2回の道場体験、タヌキさんの遺言で無理やり受けさせられてんのが嫌だから機会があったら潰して欲しいって裏で話が)
(叔父御ぉおおおおおおおお)
(ちなみに松平秀康さん、越前蟹鍋国の国主を息子さんに譲って江戸で幕府の軍事顧問やってることになってんだよね…)
(だからこそ余計に仏罰喰らうような縁起の悪い事をまりや様に吹き込まれたら…俺でも悟ってますよ、まりや様に何か言ったら予想の斜め上の無茶話になることがあるって…)
(家光さん!冤罪だよ!)
(こればかりは家光さんが正しいと思えます…ねーさん、身に覚えがあって歩けないくらいにすねが痛いのでは…)
ええ、なんとなく比丘尼国は比丘尼国で、国内の政治や軍事体制に問題がありそうな気もするのです。
しかし、その追求は野暮というもの。
それにですね。
このハバロフスクとナホトカ、そして何よりウラジオストックのその偽女種寮。
何がなんでも絶対に絶対に絶対に整備してくれ、なんなら比丘尼国から出稼ぎのその、カゲマなる偽女種を受け入れてでも作ってくれと現地の尼僧連中が口を揃えてぴーちくぱーちくうるさく請願して来ておるのです。
いえ、私もおかしいと思いますよ。
そんな美少年娼館の相互保護条約とか、明後日の発想だと思ってます。
しかし、我が北方帝国の国防のためにはやむを得ない話なのです。
ええ、私自身もその娼館、すでに開館準備が整っておるそうなので、せっかくウラジオストックに行くんですから、行ったついでに覗いてみようかって思ってるんですよ、皇帝権限で。
(汚いエカテリーナさんさすがドイツ人汚い)
(マリアヴェッラ陛下。そうお思いなら是非にお越しをっ。田中局長はご訪問の予定をすでにお組みとか)
(ちょ、雅美さん!あたし抜かして何しに行こうとしてんですかぁっ)
(ウラジオストック・ハバロフスク極東ロシア周遊若鮎入れ食いツアー。厚労局主催の慰安旅行の下見じゃない!)
(二代目様も噛んでるんですか…)
(ハリティリーネ福祉部長もよ)
(あんたらぁああああああああ)
何かこう、私の理解を超える話になってますけど。
ですが、この件で私は確信しました。
連邦世界のアキハバラとやらを守るために、有事の際には世界各地から義勇兵が参集するという伝説があるそうですけど、我が北方の地の少年娼館を守護する動きは、もはや伝説ではなく有事には実際に起きるであろうとですね。
ええそうです、少年を食い散らかす、いえいえ保護するためには絶対に、痴女皇国の幹部有志、こっちがわざわざ依頼せんでも勝手に押しかけてくると!
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まさみ「いえその、なんぼなんでも無許可で上陸は」
べらこ「支部保護名目で豪快に介入すると思う人」
りええ「まぁ、雅美さん単独でも百万から一千万の通常戦力、この時代ならしばけるからね…」
たのの「りええ…ハリティリーネさんもやる気満々よ…」
りんじー「聖隷騎士団ですが、ジャンヌマリーを兵団長として派遣可能」
じにあ「フランス病作戦があるから出来れば避けたいんですけどねぇ」
おかみ「おまえら、なにもそんなめんどいことせんでも…うちのよりみつとかたむらとかきんたま、いやきんとき、大江からはけんしたるがな」
マリア「ちなみにこの辺が出てくると戦力としてはだな、おひとり様でプラウファーネさん…茨木童子や外道ちゃんに匹敵するかそれ以上だ」
おかみ「いぶきもおるやんけ」
マリア「あれ封印してたんじゃ」
おかみ「いつでもおこせるぞ」
マリア「ちなみに伊吹童子ってのは外道ちゃん…酒呑童子や茨木童子のおかーさんな」
えかて(中原龍皇国はともかく、うちの支部の領土でカイジュウダイケッセンだけはやめて欲しいのですが)
べらこ(というかアルトさん1人行くだけでも荒野で行動になるんですけどね、本当は)
他全員(それだけは絶対回避!)




