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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


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-穴と雪と氷の国-嫁入り皇帝ものがたり・11.4

夜の帷も降りた…いえ、完全に闇でもないエカテリンブルグ記念市の駅に到着した極東(ボストーク)号。


この駅では30分の停車時間が取られておるそうですが、最悪の場合は1時間くらい停車も可能とのこと。


そして、ここで降りるか、途中の小さな町に向かう列車に乗り継ぐ移民たちに祝福を与えます。


更には、入れ替わりに乗り込む者たちにも。


ただ…この先のチュメニでは、人が寝静まった時に乗り降りがあります。


そのためにチュメニで降りる者はなるべく、1つの車に固まって乗せておるそうです…。


で、儀式も静かに行います。


更には、先頭のきかんしゃ。


静かに離れ、代わりも静かに繋がれます。


(客車への給水やゴミ回収とかも静かにね…)


ええ、列車に対する様々な補給や運び出しも、騒がしくしないように行われている模様。


そして、LEDめいた白い痴女皇国施設特有の灯火に照らされるホームを離れる列車。


(実はこのスヴェルドロフスクからチュメニまでの間でまず、時間調整用の余裕を持たせた時刻になっています。平地用の機関車に換えたこともあるので、イルクーツクまではそんなに飛ばしませんよ)


室見局長によれば、1時間はスヴェルドロフスク駅で停まっていても大丈夫だったようです。


で。


この先のオムスクまでの車内については、大人の時間なのです。


現地時間で午前2時に着くチュメニでは、深夜の乗降にお付き合いする必要がありますけど、それ以外は…ふふふふふ。


でまぁ、6時に着くオムスク、9時に着くノヴォシビルスクとシベリア中央部の森林地帯に敷かれた立派な道を走る列車ですが、この行程だと残念無念なことが2つあるそうです。


一つは、シベリアの宝石と讃えられているバイカル湖の湖畔を通過するのが夜になること。


そして、もう一つは…。


(対策しました。食堂車についてはクラスノヤルスクで夕方の食材を積む際に、モスクワ行列車で運ばれたものを積みます。そして3等車のお客についてはイルクーツクで立ち売りから買えます)


これ、何の事かと申しますとですね。


バイカル湖の特産品に、オームリという名の大きめの魚がいます。


この魚は鮭の親類であり、大きさもそこそこ…成魚で30センチから40センチになるそうです。


で、北方帝国のシベリアでは冬の間に凍らせたこのオームリの身をそぎ落とし、塩胡椒で味付けしてタマネギを添えるストロガニナという料理が冬場のご馳走であると。


更には、燻製にして保存したオームリを炙って食べるのが現地のご馳走のようです。


(連邦世界のシベリア鉄道でも、イルクーツクと…その先にあるスリュジャンカという比較的小さい町の名物ですよ。で、痴女皇国世界では小さな漁村であるこのスリュジャンカの村に手を入れて、ボストーク号の乗客向けの食材にするのはもちろん、イルクーツクなど沿線の町のタンパク源にするための漁業基地にしたんです)


で、その冷凍または燻製オームリを積み出す列車によって、ボストーク号乗客のための分も西へ運ばれるそうです。


その積み替えの駅が、クラスノヤルスクであると。


で、現地時間で朝早い6時に到着するオムスクがこのボストーク号の目覚めの時となるようです。


続いて、9時に着くノヴォシビルスクの次の「客扱いをする停車」がクラスノヤルスクとなり、お昼を回った13時に到着する模様。


しかし、これほどの速度で飛ばしていても時間の経つのが遅いと申しますか…。


(連邦世界ではオムスクもノヴォシビルスクも、その時々のシベリア開拓の拠点となっていました。特にノヴォシビルスクはその名の通り、ノヴォ(新しい)シビルスク(シベリアの町)という意味があるそうです)


で、ノヴォシビルスクでは駅の東側を流れ、街を二分する大河のオビ川が従来はその先へ進む者を阻んでいました。


しかし、道と鉄道の橋をそれぞれ1つずつ用意することで、更にその先を目指しやすくしたそうです。


「わしの時は舟で越えましたな…」


そのオビ川橋梁なる鉄の橋を越える際に、コウダユウが感慨深く呟きます。


「うーん、こりゃあ凄いもんだ。天竜川や大井川どころじゃねえ、木曽三川くらいはありそうだぜ」


トクダ様も、その川幅の広さに驚いておられます。


(クラスノヤルスクの駅の先でもエニセイ川って大きな川を橋で渡るけど、これ、痴女皇国世界では斜張橋で建設したのよね…皆さんにわかりやすく言いますと、橋を川の中で支えている橋脚という柱が存在しないんですよ。中間の柱なしで、一気にエニセイ川を越えている橋をかけたんです)


そんな事が可能なのでしょうか。


これまでの常識を疑う…いえ、アーチ橋とかいう橋ならば、狭い川であれば川中に支えがなくとも橋はかかりますが…。


しかし、それは普通に橋を通しても可能ではある事です。


長さ1キロと申しますから、普通の人が歩けば10分はかかりそうな長さの橋、果たして支えられるものか。


(ボスポラス海峡の道路橋もそれで建設したものがあります…あ、痴女皇国世界だとテンプレス級が通るからって全部トンネルにしたか…ともかく、この辺りの川は冬場に完全凍結したり、氷の塊が流れてくるのです…連邦世界のエニセイ川がまさにそれで、冬場は凍結して洪水を起こすから要所要所で氷を爆破したり、エニセイ川鉄橋の橋脚に引っかかった氷塊を船でどけて下流に流すような事をしてるのよ…)


で、実際にその、エニセイ川橋梁とやらを拝見します。


後ろを見ておりますと、2本の大きな柱が川の両岸に聳え立っている状態。


そして、その柱から斜めに伸ばされた何本もの索で橋桁を吊るようにして支えているのです。


なるほど、これならば橋を支える足や台、川の中に作らずとも。


(ただね、ハバロフスクはさすがに厳しかったんですよ…あそこはアムール川の本流と支流が合流しますから、道路橋と鉄道の併用橋で通してます。そしてふだんは貨物用ですけど、強風などで万一、橋が使えない場合のための川底の穴…アムール河底トンネルを併設してるんです)

https://x.com/725578cc/status/1792248391126356474

https://x.com/725578cc/status/1792249384723476609

https://x.com/725578cc/status/1792250029081850059


ああ、なるほど。


ライン川を知る私としては、なんとなく納得です。


そして寒さゆえに、あれが凍るようなものであると。


で。


クラスノヤルスクでの送迎の儀式を終えて貴賓車に戻った私たちの前に、盆が置かれています。


これは日本の食事ではないですか…。


いえ、実のところはハシ、使えなくもないのです。


痴女宮本宮研修を受ける者は、その食事について基本的に女官食堂を利用します。


その際に、一応は西洋風の食器も用意されていますが、大半の女官は指定された喫飯時間内で食事を終えるため、必然的にハシの使い方を覚えてしまうのです…。


しかし、米の飯に焼いたオームリ、そして漬物と味噌汁。


女官食堂でも人気が高かった、朝の和食です。


ええ、つい手が伸びる伸びる。


ご飯のおかわりも所望してしまったくらいに。


「何か帝様、異様に日の本の飯慣れしてやしませんか…」


で、疑問に思う顔をするトクダ様とコウダユウに事情を説明しますと。


「なるほど、あそこの女官の住まいの飯屋でめしが出ると…」


「そう言えば聞きましたな。南方のめしは細長い米を使うから、炊くよりも茹でる方がいい場合があると…」


そうです、あの独特の匂いのする天竺系のお米、割と慣れるまでに時間がかかるのです。


そして独特の匂いを避けるために、味を付けて炊くとか焼き飯として出ることも多いのです。


「食った感じだとこの魚、(しゃけ)に似てるよな」


「はぁ…それがしも、しべりやで馳走されたことはございますが、醤油が欲しかったなとも」


「塩だけでいけるんじゃねえか、割と脂乗ってるし。ほれ、村上の塩鮭…あ、すまねぇ光太夫、あれ村上藩がけっこういい値付けしてるんで、庶民にはあまり縁がないはずなんだわ…」


「いや、わしも北前の廻りで鮭を積んだことがございますゆえ、ものは知ってはおりますが、なかなかに口に入るものではございませんでした…」


どうも鮭…神聖ローマ帝国の北の海辺では縁のある魚ですが、比丘尼国ではそこそこの高級品である模様。


そしてかつてはショウグンとして、比丘尼国の各地からの名物名産の献上を受ける立場であったトクダ様と、いわば普通の船乗りだったコウダユウとの間ではそれなりに食事に差があったようです。


「一応は俺も武家…ぐんじんって立場らしいし、下のもんの目もあるからあまり贅沢はしなかったけど、流石に贈られたもんには箸をつけとく必要はあったからな…で、光太夫よ。俺も当時は献上を受ける立場だったから鮭、普通に食えたけどよ…そうだ、白子(しろこ)に帰る時、奥の飯蔵に残ってたら持たせてやるよ」


「は、はぁ…何やら畏れ多い話で…」


まぁしかし、粗食と申しますけど、この一見単純な食膳、結構な金がかかっておるのでは。


(家光さんが乗るってんで、安宅丸で食器を運んで来てもらったんだよ。んで、りええと一緒にシベリア鉄道の営業開始前のお試し運転列車で運んで来てもらったって寸法さ)


(いや、輪島塗りの漆細工だなこりゃ。普通の粗末なもんでいいって言ったのに…)


と、改めて器を検分されるトクダ様。


「漆も使ってたら禿げてくるからな。俺の時は禿げる前に新しい器に換えてたみたいだけど…」


つまり、私たちの使う陶器や銀器と違い、使い捨てではないものの、それなりに年数を使えば傷んでくるような木製食器であり、あえてその性質を利用して定期的に入れ替えておるのが比丘尼国の風習のようです。


「うちは雨が降るし、湿気るからな…そもそも漆を塗るの自体が器を保たせるためなんだけどね。ただ、陶器が南蛮の手で持ち込まれた上に、こっちでも有田とかで洋風の皿を焼くようにはなってきてるから、仮に帝様が比丘尼国にお越しになっても、南蛮の飯は既に出してるから大丈夫と思いますぜ」


つまり、英国や鯖挟国にイタリアやスペイン・ポルトガルなどの国の者がある程度は入国を許されておるようなのです、比丘尼国。


「紅毛人が入れる港は限ってるけどな。べらこ陛下やまりや様とのお付き合いもあるし、南蛮人だからって驚かれることはまぁ、かなりの田舎でなきゃ大丈夫なんじゃないかな…」


「わしらとて、南蛮人とはどのような見た目かは知っておりましたからな…」


これ、中原龍皇国や痴女島の付近に来る欧州の船も理由になっておるそうです。


もしも漂着したり海上で救援を求められた際にも対応可能なようにと、南蛮人とはどのような者か、比丘尼国では農夫や漁夫、都市部生活者に至るまで庶民に対しての教育が行われてはいるのをトクダ様からお聞きします。


「ほれほれ、なにせべらこ様やじょすりぬ様ですとかあるて様ですとか、金髪碧眼の方も多いですからな。しかも痴女のお国の方々なら、帝様同様に()()()言葉が通じますし」


「今は仮に北方の者が漂着しても、対応頂けるように図って貰えましたとは伺うております…」


そう、痴女皇国による北方帝国制圧でその存在が知られたコウダユウ。


このコウダユウ一行の保護の話が伝わったことで、比丘尼国側でも北方帝国民との接触の際の作法を改めて見直し、北方民が現れそうな港町を中心に対応を伝えたそうです。


で、今や逆に、北方の民が比丘尼国に流れ着いたとしても、聖母教会尼僧に該当する神職女性を呼べばなんとかして貰えるそうです。


これも、コウダユウを丁重に迎え入れた現地の者たちの功績というべきでしょうか。


(れんぽう世界ではわしと、あと1人が日の本に帰り、2人がおそろしあの民となったと聞きましたが…他は病で死に絶えたようなのです…)


ええ、痴女皇国世界では全員が生き延び、残るシンゾウとコウダユウのうち、シンゾウは前の車両で夫婦仲良くウラジオストクへの赴任に向かう途中。


そして、コウダユウもこの後はアタカマルに乗船し、エドを経て妻子の待つ故郷、イセのシロコなる港町へ帰る立場なのです…。


ええ、この涙は見せられません。


人には見せられぬのです…。


(帝様。光太夫には内緒ですよ…光太夫とはひとかたならぬ仲であると伺うとります。もはや徳川(とくせん)将軍家の家督を息子の家綱に譲って出家したわしですが、光太夫と嫁と子、そちらの都に住まわすことはできぬものか。いや、えげれす人で横濱(よこはめ)に国使として駐在しておった()()()()殿や、後任の()()()殿から聞いたのですがな、そちら様の流儀では、わしらが中原龍皇国に対してしておるような、毎年使いを遣るとかではなく、そちら様ならそちら様の港町や都に住んで外交の橋渡しをする使者の流儀があるとか。ほれ、新蔵がまさにその、うらじおに住む使いの扱いとなりましょう。それの応用で、光太夫をどうにかできんもんかとね…)

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