-穴と雪と氷の国-嫁入り皇帝ものがたり・11.1
モスクワ・ボストーク駅の乗降場を覆う巨大な屋根の下。
目の前に佇む、頑丈そうな緑色の箱の車列。
黄色い文字で Восток・Россияと屋根に近い窓の上に書かれた文字が目に入ります。
そして、その車列の一番最後尾。
お尻の丸いくるまが繋がっております。
https://x.com/725578cc/status/1790444774388048180
そして、この丸っこい部分が窓となっていて、見送る人々に手を振れる他、走る時に後ろを眺められる模様。
(車内は連邦世界での昔に満州鉄道で使われていた展望型寝台車を基本にしています。8席のプルマン型という形式の二段開放寝台と定員2名の個室が2室…そして残るスペースは暖房や湯沸設備に手荷物区画となっています)
と、遥か前の機関車なる馬がわりの車に居られるらしい室見局長からの解説心話が。
実際に乗り込みますと、狭めの中央廊下を進む左右の部屋らしい場所、そうした供奉の者が使うところなのでしょう。
そして、コウダユウと僧侶トクダの使う部屋が左右の個室だそうです。
では、我々はどこに。
なんとその、個室の先の大部屋には左手に二段式の寝台。
そして右手に大きな寝台が一つ。
そして、前方には後ろの展望を楽しむためであろう椅子、4つほど置かれております。
(簡単な変更で要人専用車に変えられるようにしたのです…)
そして、風呂は風呂で、荷物部屋の隣に、小さいですが浴室までもが。
(そそ、出発の際は展望区画に立って、見送りの方々に手を振ってくださいね…)
聞けば、国家の要人が公務で乗り込む際の作法であるとか。
で、我々が乗り込んだこの、極東号なる列車。
20近い箱が、ずらりと連なった姿だそうです。
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北方帝室鉄道・シベリア超特急ボストーク号1列車編成表
(2列車モスクワ行きは三角線を利用して編成方向転換、展望寝台車がウラジオ側に)
←モスクワ ウラジオストック→
展寝|供奉|1|1|食|2|2|2|2|2|食売|3|3|3|3|3|3|荷|機※
※牽引機
モスクワ〜エカテリンブルグ
・БЛ514型2車体式精気駆動ハイブリッドディーゼル機関車
(Bo-Bo-Bo)+(Bo-Bo-Bo)
エカテリンブルグ〜イルクーツク
・БЛ114型2車体式精気駆動ハイブリッドディーゼル機関車
(Bo-Bo)+(Bo-Bo)
イルクーツク〜ウラジオストク
・2ТЭ334В型2車体式精気駆動ハイブリッドディーゼル機関車
(Co-Co)+(Co-Co)
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で、私の地位ですと、元来はこの列車を送り出すのが一番、あるべき立場らしいのです。
しかし、ですねぇ…比丘尼国との今後の外交交渉ですとか、あるいは極東の政治体制を考えますとですね。
(絶対にエカテリーナのわがまま。コウダユウと別れたくないがために東の果てに送り届けるなぞ…)
(エリザべータ様…この式典では仮にも総主教代行なのですから…ちゃんと、テープかっととやらを務めて下さいよっ)
(大丈夫ですよ、エカテリーナ陛下…留守中はこのダニヤザードが見張っておりますから…ほらっ行きますわよっエリザベータ様っ)
(あぅううううう)
ええ、中東行政局から応援、頂きまくってます。
更には高木シェリーさんどころか、東欧行政局派遣のデスピナ総主教までもが、私の留守中のモスクワに陣取って下さるのは既にお教えした通り。
間違ってもエリザべータ様に、謀反のむの字も起こさせるどころか言わせることすら不可能なようにして貰えたのです。
で、極東への派遣者。
即成栽培で大きくされた子ですが、コウダユウとの間に出来た娘のアナスタシアが務めます。
Анастасия Дайкокуя Фридерика アナスタシア Thousand Suction(Limited Ten Thousand)千人卒(限定万卒)Red Rosy knights. 赤薔薇騎士団 Филиал Северной Империи/Дальневосточный офис (Vladivostok office, Russian Empire Branch.) Imperial of Temptress. 北方帝国支部・極東事務所長 Настоятельница Успенского храма во Владивостоке. ウラジオストク聖母被昇天教会典院司祭
このアナスタシア、ブリヤートっぽい顔ではありますが、どういう技か、私の金髪碧眼を引き継いでいるのです。
で、アナスタシアだけではと思いまして。
Софья Ивановна Крамская ソフィア Thousand Suction(Limited Ten Thousand)千人卒(限定万卒)Red Rosy knights. 赤薔薇騎士団 Северный Императорский филиал/Находкинская торговая контора (Nakhodka office, Russian Empire Branch.) Imperial of Temptress. 北方帝国支部・ナホトカ貿易事務所長 Монахиня Казанской церкви Богородицы.ナホトカ・カザン聖母教会典院司祭
ええ、この車両の前の一等車に、コウダユウの同僚であったシンゾウとソフィアの夫婦が乗り込んでおります。
そして二人は名目的にはナホトカへの赴任となりますが、ナホトカの街や港湾整備が進むまではウラジオストクに住まうこととなるのです…。
そして、ナホトカもウラジオストクも、海の向こうは、ヤパン。
比丘尼国の大地が、晴れていれば彼方に望めるかも知れぬ場所。
いえ…ソフィアだけではないのです。
この極東号、停まる駅で順次、赴任する者たちを降ろして行くことになります。
私やアナスタシア、そしてペヨトルはその者たちを祝福し、前途の成功を祈る立場なのです。
(恐らくはアナスタシア、ウラジオストク総督の地位をソフィアに譲り、モスクワに帰還することとなるでしょう…)
そう、アナスタシアとソフィアの任務は、極東の港町へと根付く者たちを育てることにもあります。
そしてイルクーツクやハバロフスクといったシベリアの要所に赴任する司祭や、司祭以上の者たちにも同じ任務が課せられております。
「樺太の領有を巡って話をして来いとは言われておりますからな、おかみ様からも」
と、海を挟んで我が北方と国の境を接する立場の比丘尼国の実質代表来賓であるトクダ様より、お話が。
「まぁまぁ…確かにあそこ、燃える水が採れるとは聞いておりますが、掘ることを禁じられておってはただの島。クラベやヘリング、パウル…オクトパスが獲れる漁業の権利さえなんとかなるならば」
そう、漁業の漁獲高設定の話もあるのです。
特に今回のような、支部同士の利権が絡む話であれば、あらぬ諍いのみなもと。
痴女皇国の支部同士であれば、その海域や川から獲れるはずの魚介類の生息数を算定して、そこから繁殖を脅かさない漁獲高を支部で必要な供食人口に比例して割り当てるそうです。
ただ、比丘尼国の場合は独立した政権が存在する上に、地位的には比丘尼国と痴女皇国が対等の立場らしいので、普通に支部間の利害調整を本宮通商局が行うようにはいかないとも。
(いえ。痴女のお国には結構おんぶだっこですので、その辺はお任せした方が良いですわよ、滋光様)
(へいへい…おかみ様にもその辺の話をしといて下さいよ、おまつさま…)
(カニ味噌や卵を海に捨てるような無駄さえしなきゃ、その辺は配慮するよ…おまつさん、比丘尼国でも松前藩がニシンの漁獲である程度は藩の収入になるから、その辺はクレーゼ母様に耳打ちしとく。んで、設定漁獲高を北方支部と幕府に伝えるようにするよ)
あら。
マリアリーゼ陛下ですね。
(カニ味噌とカニ卵を捨てるような国は滅びるんだ…あれはご馳走なんだよ…加熱さえすれば、ちゃんとした可食部位なんだ…)
どうも、我が北方帝国の今後の存亡に関わる機密事項のようです。
まぁ、カニの調理法については後に伝授頂くことにするとしまして。
北方国家を奏でる楽隊の音が車外から響いておりますし。
でまぁ、今回はマリアリーゼ陛下が私の代わりの代表格として、そして痴女皇国上皇として機関車の前に引かれた記念の帯を率先して切る作業に入って頂けるとか。
しかし、そのお姿ですが。
ええ、この寝台車とやらの壁に設けられた画枠。
そこに写し出された光景に、皆が絶句します。
(まりり、あんた何考えてんの…その蟹服が危険物だって知ってる人全員ドン引きしてるわよ…)
(るせぇっ!このカニバサミにカッター仕込んでテープカット決める練習までしたんだぞ!)
そうです、赤い蟹の着ぐるみとやらで立っておられるのです。
横の聖人様もさすがに、苦笑い。
(これが東方教会管轄じゃなかったら、あたしがテープカットした方が良かったですよね…ねーさんは後でマイレーネさんとこに出頭で!)
(とりあえず国土局長として文句は言っとくわよ…信号よし進路よし、3番、ボストーク号出発進行。場内制限35)
ぷぁああああああん、と機関車とやらが鳴らす喇叭の音と、付近の聖母教会が打ち鳴らす記念と祝福の鐘の音が響きます。
私たちも、立ち上がって後方の窓から手を振ります。
(制限60、進行…この辺でエレクトリーチカの駅へ降りていく地下トンネルの入り口があります)
で、このシベリア本線なる線路。
単に東の果てを目指すだけではなく、このモスクワ近郊の農場居宅から通う者たちの利便を図るような列車も走るそうです。
そうした平民が利用するための、エレクトリーチカという近郊列車なる代物、既に動いております。
このエレクトリーチカ、ちかてつとかいう地面の下に潜る乗り物を兼ねておりまして、街中の道を阻害する事なく郊外住まいの者をモスクワ中心に運ぶとか。
そうした平民たちが主に利用するであろう駅や線路が左右に見える中、れっしゃは加速しております。
一旦は北東方向に向かいつつ、大きく弧を描いてムルマンスクやヤロスラブリ方面の線路を分ち、真東に方向を変えてニジニ・ノヴゴロドやカザンの方面を目指すとか。
(寝台車の多目的モニタに地図を出しますよ…現在地が赤く点滅している列車の絵で現わされているはずです…高速線進入予告、制限160、進行)
既に、れっしゃはかなりの勢いで白樺の林の中を突っ走っておるように見受けますが。
(そろそろ降雪対応高架に入ります。凍土帯や軟弱地盤に高速列車や貨物列車を通すための措置ですからね…これ)
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北方王室鉄道極東方面本線耐雪高架略図
|⬜︎ ⬜︎|→高速列車(複線)
|= =|
|---|
| ⬜︎ |→貨物・低速列車(単線)
| = |
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//地面//
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で、この高架橋なる橋を延々と走りますためか、れっしゃの左右の窓には雄大な北方の大地が広がっております。
森と湖と、そしてところどころに開けた大地。
しかし、あと1〜2ヶ月もすれば全てが白くなるこの土地です。
雪と氷に覆い尽くされ、人の往来もままならぬのは私が昨年に経験しましたし、何より私の生まれのどどいつなる土地、この北方の類似です。
ですが、室見様は自信満々。
理由は…。
(私たち痴女種は、実のところ女官種以上の激しい発熱を日常的にしている進化型人類種です。しかし、それだと日々の暮らしに困るどころか、周りに悪影響を及ぼします。ですので、上皇マリアリーゼによれば、従来は特殊な熱の捨て方をさせていたそうです)
ああ、室見様はマリアリーゼ陛下のご学友でしたね。
(で、この排熱、冬場はこの極東本線の要所要所にある熱交換施設に導いて排熱させることが考えられました。この高架壁は、その熱交換施設と連結したパネルヒーター…板状の放熱装置なのですよ)
そこまで言われますと、私にもなんとなくその仕掛けがわかりそうです。
(で、今から本線上だけ鉄扇公主能力でまりりが雪を降らせた試験区間を通過しますけど、驚かないでくださいね…ATC250、進行)
ざっぱああああああああん。
擬似的な吹雪を起こしておるのでしょう。
急に視界が暗くなり、雪が吹きつけてきます。
しかし、暖かい風が室内を満たしますし…何より、我々が飛ぶような速度で疾走している線路とやら、雪…積もってませんよ…。
(現在、この極東本線の高架軌道部分だけマイナス40度、そして吹雪のシベリアの冬の気候を擬似的に再現しています。しかし、このパネルヒーティング装置などの働きで、高架橋の中の積雪や凍結は限りなくゼロに近いはずなのです…)
なんとも、凄い技術と申し上げるべきか。
(そして溶けた雪は、エカテリーナさんがお乗りのこのボストーク号が走る路盤の下を通っている単線の貨物線に流れ、そちらの線路に吹き込んだ雪や氷を溶かす温水として使われるのです)
(上越新幹線の消雪高架橋を参考にしたって言ってたよな)
(もちろん、シベリアの大地だからマイナス30度から40度、お湯もすぐに凍るのは想定済みよ。そこでパネルヒーターシステムが生きるっちゅうわけよ…)
どうも、室見様のお目付けとしてマリアリーゼ陛下がきかんしゃに乗り込んでおられる模様。
(あたしが監視してないとりええは自動運転や支援装置を切ってしまいかねないんだよ…営業列車で暴走されたらおおごとだからさ…)
(ウラル山脈越えのためにわざわざシベリア向けの機関車開発したのよ?性能試験したっていいじゃない!)
(あかん。ATCとかATOとかっての、絶対切るな意地でも切るな死んでも切るなっ)
まぁ、そういったものが必要なくらいに速いのは理解できます。
現在の速度を示す数字、その画枠に出ておりますし…250кмとか表示されてますよ…。
(エカテリンブルクまでは6軸2車体のБЛ514型が牽引するから…軸出力1000キロワットかける12軸。30分定格で2万キロワット、60分定格なら1万5千キロワットまで跳ね上げられるわよ…ウラル山脈トンネルなら時速300キロに挑戦できるわね…)
(りええやめろマジやめろ絶対やめろ)
(だってエカテリンブルクからイルクーツクまでだと平地が多いから省電力タイプのБЛ114に機関車替えちゃうのよ?あれだと今日のボストーク号の編成だと…一応は250維持できるけどさぁ…)
(全区間を変態高出力機関車で牽引させなくて正解だったな…)
(だって機関車への精気充填もあるし、万一の故障に備える意味でも一両の機関車に全区間ってのは無茶すぎよ…連邦世界の日本じゃない某国の高速列車みたいに、1日で3千キロとか4千キロ走るのが狂ってんのよっ)
(客車は大丈夫なのかよ…)
(だから洗い出しのためにも高速走行を!)
ええ、室見局長は局長で、マリアリーゼ陛下と違った意味で危険だと聞かされておったのです。
その悪い癖を阻止しようと、れっしゃの前のきかんしゃの中で、言い争っておられるのでしょう。
「母様、我々は無事に東の果てに辿り着けるのでしょうか…」
不安そうに私を見る、息子ペヨトル。
ですが、母はその問いに答えられないのです。
ええ、私は聖母様に祈りました。
せめてウラジオストックには、五体満足で辿り着かせて下さいませと!
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りええ「大船に乗った気で」
マリア「りええ…この列車で速度違反したら、あたしはあんたをシベリア出禁にするからな…」
りええ「まりり、それはTGV-Hのロシア版を投入した時に取っとく方がいいわよ。今回のシベリア本線、設計速度はスペイン王立鉄道と同じで400キロに設定してるからね…」
マリア「やめろおおおおお」
りええ「ちなみに開業に間に合わなかったんですよ、夜行仕様…」
マリア「スペインのアヒルみたいなタルゴの寝台仕様とか言ってたな…」
りええ「スペインが加わったのよね…アルストムと業務提携したから…」
マリア「というわけで、そもそもあたしらは無事にエカテリンブルグにすら辿り着けるのか」
りええ「次回に続きます…」




