表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

198/296

-穴と雪と氷の国-嫁入り皇帝ものがたり・5

イェニ・サライ宮殿奥の後宮の上層からですと、東から北にかけてに見える海…ボスポラス海峡。


挿絵(By みてみん)


アジアと欧州を隔てる狭い地峡の中央部に存在する海峡ですが、ダーダルネス海峡と並んで黒海と地中海を繋ぐ重要な海の要衝でもあります。


そして、この時代でも既に、帆船はもちろん、痴女皇国仕様の動力船が多数、行き交っております。


もっとも、帆船でもお尻から水を噴き出しているのは痴女皇国仕様で建造されたか、改修された船だとわかるのですけど…。


そんな中にあって、イェニ・サライから見て北側にある金角湾の入り口…本来の連邦世界のシルケジ駅の存在したあたりの貨物駅や鉄道連絡船桟橋の沖合にいる、全長400メートル近い灰色のコンテナ船というのは、本当に異質です。


この時代の帆船、大きいものでも甲板の長さだけなら70メートルが関の山なのですよね…。


「Porte-avions PAS-01…フランス海軍航空宇宙母艦リシュリュー級1番艦、リシュリューだよ。と言ってもテンプレス級の連邦世界向けを共和国海軍仕様として仕立てた艦なのだが」


傍に立つ軍服…フランス共和国の軍服らしきを着込んだ方が、教えて下さいます。


黒薔薇騎士団欧州分団長兼・団長資格者…ジョスリーヌ・メルラン。


連邦世界のフランスの軍人さんですが、故あって痴女皇国にお越しになった上に、その特殊部隊勤務経験を活かしてあっという間に黒薔薇騎士、それも団長にまで抜擢(ばってき)された方です。


痴女皇国の発展に寄与した諸々の作戦の影の立役者として、痴女皇国にあってはもはや、知らぬ者とてない御仁です。


もちろん、私とも顔馴染み。


で、そのジョスリーヌ分団長がなぜにお越しなのか。


「あのパスタ女の差金で、キュラシアの傅育(ふいく)、ポワカール閣下のょぅι゛ょ、いや養女扱いとされたんだ…」


つまり、お子様の養育のために産休を取得しようとされたのですが、比丘尼国派遣だのなんだののお仕事があるということで、痴女皇国に無理からに戻されたと…。


「ジョスリン…諦めなはれ…」


ええ、悔し涙を密かに流すジョスリーヌさんの肩を叩くのは我が母、高木ダリアリーゼ。


「ダリア統括も何とかお口添えを。そもそもこの時代の比丘尼国のヘネラルがガイジンとの間に世継ぎなんぞ残しても良いのですかぁっ」


「向こうの希望やから仕方あらへんでしょ…」


ええ、ジョスリーヌ団長、当たり前ですがうちの親たちとも顔馴染み。


「しかしダリア統括、なぜにわざわざ共和国陸軍の海兵降下部隊をシベリアくんだりに…いえ、TAPPSでも泥濘地で運用した後は関節部の洗浄やレヴィシオン(オーバーホール)が必要となるのですが…」


「それがやね、うちの娘はまだしも、理恵さんが嫌がってな…」


皆まで言うな、という顔でジョスリーヌさんを見るダリア母様。


(ああ、騎士資格の等級の件…)


(正直、うちやあんたはまだしも、ジニアにすらついて行けるかどうか…そこであんたらの動力甲冑あるでしょ、あれやとジーナ様の()()()()号と同じようなことができるやろと…)


(それで我が共和国の部隊を召喚したんですか…)


ええ、このリシュリュー、一時期は痴女皇国に貸し出されていたそうですが、今は再びフランスの所轄に戻った模様。


で、この空母にはフランス軍所属である偵察装備の飛行機や、さっき話があった動力甲冑…空も飛べる人型戦車というべき戦術倍力防護装甲、TAPPSというものが何台も積み込まれているそうです。


つまり、泥だらけのシベリアの大地に、なるべく人の足で降り立たなくても良いようにする配慮らしいのですが…。


ただ、このTAPPS、ジーナさまの()()()()号でもそうなのですが、音速に近い速度で飛ぶ事ができます。


むろん、中にいる人間の生理現象の問題がありますけど、それさえクリアすればかなりの長時間、その甲冑の中で過ごせるそうです。


(痴女種だとTAPPSの非・戦闘行動実稼働時間72時間ごとに規定されている整備時間到達までは目一杯に動かせる。今回は戦闘機動をさせる予定はないし、仮に現地住民と戦闘になったとしてもTAPPSの兵装を使用するまでもあるまい)


まぁ、痴女種能力を使用するだけで大抵の軍隊は制圧できますしね…それに、今回はダリア母様がお越し。


母様だけで北方帝国どころか、この時代の地球の三分の一から半分くらいの人は行動不能に出来ますから。


「とりあえず移乗しよう。迎えを頼んでいるしな…」


え。


よく見ますと、水面から微妙に浮いてるんですよ…そのリシュリューってお船…。


「このボスポラス海峡と、西側のダーダルネス海峡は昔から航行の難所でね。最大でも全長300mを少し超える程度の船舶しか通過不可能なのだよ。当然、テンプレス級を基にしたリシュリュー級はモントルー条約以前に、物理的に水上航行できない一帯なのだ」


で。


ふわふわ浮かんでるそのお船、何とこちらへと近づいてくるではありませんか。


ええ、シルケジ駅の前、幅は狭めですけど広場になっとるのは存じてます。


何と、そこの広場に降下して我々を乗せるそうです…。


あ、ちょっと注釈を。


連邦世界でのアヤ・ソフィア大聖堂はトプカプ宮殿から200mほど西南に離れていますが、痴女皇国世界では広場を挟んで隣り合っています。


そして岬の斜面を切り開いて建っているトプカプ宮殿の横、シルケジ駅をアヤ・ソフィア大聖堂の横に建てた上で、宮殿の東側横に閲兵などで使う大広場を作っています。


この広場の上空に、そのリシュリューというお船を浮かせるのだとか。


(地表から10m浮いていれば船側に突き出せる人用のアサンスール(エレベーター)が出せるからな…)


ええ、朝も早よからコンスタンチノープル上空に、甲高い音を響かせてゆったりと空中を進む灰色のお船。


その音と姿は全てのコンスタンチノープル市民にとって全く未知でもないのですが…私が中東・東欧支部担当の白薔薇三銃士として着任した後でもテンプレス級は何度かこのコンスタンチノープルに姿を現していますし、これが痴女皇国のものだと認識している市民の方が多数派なのですけど…まぁ、こんな現れ方をした日には目立って仕方がないのです。


シェヘラザード様が鯖挟国の摂政として「空飛ぶ船が来航しておりますが、国賓の送迎に現れたものでありますから皆は普通通りに朝の支度を進めるように」との広域心話によるお触れを出していなければ、一体何事かと皆が思ったでしょう。


まぁ、お触れを出していても注目の的ですけどね…。


で、イェニ・サライの横ちょに空中停泊するリシュリューからは、フランソワーズ・アルディという艦長さんと、乗船している兵隊さんたちの隊長のオドレイという女性の軍人さんがお出迎えに来られました。


で、アルディ艦長はともかく、オドレイ隊長の階級や所属部隊は秘匿されているそうです。


ですから、どこのどういう部隊の方かは教えてもらえませんでした。


(文字列だけ並べておこう。2e REP-GCP。これで、聡い者は悟ってくれるだろう…)


そして乗り込むのはダリア母様に理恵母様、そして私と…。


何やら大量の荷物を後ろに用意したヴォイキッツァ総主教。


「ああ、あれか…リシュリュー級、テンプレス級と同様にリュネ世界の方々にも対応した改装船室を装備させられたしな…」


「ジョスリーヌ分団長、申し訳ありません…これがないと長期にコンスタンチノープルを離れられないものでして…」


ええ、ヴォイキッツァ総主教、アルトさんのお話では少し出ましたが、とある事情であるものを日常的に必要とするのです。


そして、イェニチェリから抜擢された小姓のアレムダルなる者が付き従っております。


Alemdar Mustafa アレムダル Single Suction(Limited Hundred Suction)一人卒(限定百人卒) Pure male Visual.(variable tranny gender changer ) 男性外観(偽女種可変)Holy Order knights, Imperial of Temptress. 聖隷騎士団 Middle East Administration Bureau, Imperial of Temptress. 痴女皇国中東行政局 Yeniçeri Ağası 鯖挟国奉仕偽女種騎士団長


「アレムダル、貴君も知っての通り、マリア・ヴォイキッツァ総主教は特殊な立場である。今回の視察に関しては、極めて重要な一件についてジョスリーヌ殿から引き継ぎを受ける事となるゾフィー司祭はもちろん、見届け人たるヴォイキッツァ総主教のためにも、貴君が随行する必要があるのだ…」


「アレムダル。このイェニ・サライの小姓頭と奉仕騎士団の長を兼ねる貴方とヴォイキッツァが我らの目となり、吉報を持ち帰る事を期待しておりましてよ…」


セリム陛下とシェヘラザード様から激励を受ける、見た目は少年のアレムダル。


ちなみにこの子は美男公の出身に近い土地の出身ですけど、美少年であったことからアジェミー・オーラン…小姓入門兵科を経てイェニチェリに取り立てられています。


で、新しい偽女種の種別である奉仕偽女種ともなっています。


つまり…今回はヴォイキッツァ総主教に対する奉仕小姓として、私たちに随行するのです…。


その扇情的な小姓宮廷服姿に、はぁはぁする者、多数。


ええ、股間の偽女種用助平褌なる男性・偽女種兼用下着を盛り上げる膨らみの詳細がよくわかるのです。


この下着、それくらいに薄くて小さいのですよ。


ちなみにイェニチェリの軍服は金色と黄色の色使いですが、宮廷小姓の場合は金の縁取りや装飾にトルコ石色…明るい青色の制服が基調です。


そして、宮廷小姓専務者や兼務者とイェニチェリの違い。


警務のイェニチェリでは短髪か、長髪をポニテにしてますけどね。


小姓者は長髪なのです、それも女性まがいの。


ええ、ジョスリーヌ団長ですら密かに、うはうは状態。


(家光さんは出家して破戒坊主っぽいロン毛にしてますけど、家綱さんも長髪でしたね…)


(まぁ、イエツナは私の好みそうな少年になろうと努力してくれているのが不憫でなぁ…流石の私も無下にできんのだよ…無下にしたらしたでマダム・オマツが怖いし…)


ええ、ジョスリーヌ団長でも言う事を聞かなくてはならない存在が比丘尼国にはいらっしゃるようですね。


(だってあの、おかみ様を叱り飛ばせる人よ、おまつさん…)


(大江の頼光様も一目置いておると、乳上経由でベルテファーネが申しておりましたね、アルアミーラ・オマツ…)


(ピランセス・ホウシュンインとは余も面談したことがありますが…確かに女傑ですな)


(おまつさん、貿易相手ってことでコンスタンチノープルを表敬訪問したことあるんですよね、徳川幕府の使者として…)


(というかヘネラル・イエツナと私を視察随行員と偽って実質的な新婚旅行、させたんだぞ…私はマダムを恨む、一生恨む)


(ジョスリン…愚痴はわかりますけどね、おかげで返礼として私とセリム、江戸を訪問する羽目になったんですよ…あなたも私たちの護衛、やらされたでしょ…)


(マダム・シェヘラザード…貴女ですら振り回されましたね…)


(世界は広い、そう申しておきましょう)


まぁ、その辺の経緯はともかく、私たちはその、リシュリューというお船の船上の人となります。


「ゾフィー司祭、ヴォイキッツァ総主教、こちらへ…」


まず各自に割り当てられた船室へと案内され、荷物を置く事を要請された我々、次に船橋へと向かいます。


あれ、と思う顔をしたのはゾフィー様、そしてヴォイキッツァ総主教と…アレルダム。


(この船、船であって船にあらずと言いますか…)


(どのようにして操船なさるのでしょうか、舵輪の類が一切、存在しませぬが…)


ええ、連邦世界の水上船舶同様、1人操船が可能な操船手席が正面に2つあるのですけど…確かに、戦闘機の操縦席を思わせるそれ、痴女皇国仕様の帆船からしても異質ですよ。


「ま、どのようにして動かすかは今から見てもらおう。艦長、総員着席または出航体制を発令願います」


「は、コープシェフ・メルラン…Vérifiez les préparatifs du navire pour le départ.(全艦出航準備)」


「Confirmez que chaque pièce est hermétique.(各部気密封鎖確認)」


「Criticité du moteur principal du premier et du deuxième annihilation.(第一・第二対消滅主機臨界)」


「Vérifiez le siège du timonier principal, le siège du co-timonier et le système de commandes de vol.(主操舵士席、副操舵士席、操船系統確認)」


「Le mode de navigation du Richelieu, navigation intra-atmosphérique et quasi-atmosphérique, a été confirmé.(リシュリュー航行モード、大気圏内並びに近大気圏外を確認)」


「PAS-01 Richelieu part. La destination est la frontière russo-mongole. Position de destination 50° 36′ 54″ N, 97° 23′ 5″ E, Lac Terehori…Ruines de Por-Bajin(PAS-01リシュリュー、出航。目的地はロシア・モンゴル国境北緯50度36分54、東経97度23分5。テレホリ湖上ポル・バジン遺跡島)」


で、操舵席の後方に用意された補助座席に座っている私たちから見て左側の船員の方の右手が動きます。


次の瞬間、ゆっくりと高度を上げるリシュリュー。


「Maintenir une vitesse maximale de 900 km/h jusqu'à une altitude de 10 000 mètres. La vitesse de montée est de 3 000 mètres par minute et par heure.(高度1万までは最大速度900キロ毎時未満を厳守。上昇率毎時毎分3,000メートルで)」


「Après avoir atteint la stratosphère, il entre en mode de sortie atmosphérique rapide.(成層圏到達後に大気圏急速離脱モードへ移行)」


え。


何か、その…聞いてはならぬ言葉を聞いた気が。


ええ、私、ダリア母様の知識を引き継いでおりますから、フランス語は理解可能なのです。


しかも、この船の船橋にいらっしゃる乗組員の方、過半数が痴女種で占められておるのです…。


「ま、ちょっとしたサービス兼、乗員訓練さ。何せこの緊急大気圏外上昇、連邦世界ではなかなか訓練もおぼつかなくてね…安心したまえ、NB由来のMIDIテクノロジー投入船舶だ、無粋なGなどというものはかからないよ…ただ、目的地では設定しておかないと船内は無重力になってしまうがね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ