柑橘島の甘い恋 -oranje eiland- 9.5
「みにくいプロゴンザ」
あるところにプロゴンザというたいへん大きくてみにくいおとこがいました。
プロゴンザはおおきくなってもおよめさんがきてくれません。
それどころか、だれからもこわがられ、なかよくしてくれません。
それもそのはず、プロゴンザはひげこそゆたかでしたが、あたまのうしろがおおきくふくれあがり、はげていたのです。
そしてとてもおおきくちからづよそうな体をしていましたが、なまじけんかにつよいのがわかったせいで、だれもあいてをしてくれなくなったのです。
じぶんのみにくさをなげきかなしみながら、プロゴンザはむらはずれの池のほとりでくらしていました。
そんなとき、プロゴンザがつよいのをしっていたおさななじみのイリムというおとこはこんなはなしをプロゴンザにしてくれました。
「プロゴンザよ、おまえのつよさにほれてくれるおんながいるかもしれない。きけば西のはてには、女ばかりのくにがあっておとこがたりないそうだ。おまえのようなつよいおとこをすきになってくれるおんなもいるかもしれん」
そういって、イリムはプロゴンザに石のおのをわたします。
「プロゴンザ、このままこのむらにいても、だれもおまえをまともにあいてしてくれないだろう。だったら、そのおんなのくにをめざしてたびをしてはどうだ。もし、そのくにがなかったとしても、おまえのつよさをありがたくおもうひとがあらわれるかもしれないぞ」
こういって、イリムはプロゴンザにむらを出て西のはてをめざすことをすすめるのでした。
「イリムのいうことはもっともだ。おまえのおかげでおれもすこしだがおかねをもらえるし、おまえのはなしにしたがってみるとしよう」
プロゴンザはやまでけものをつかまえては、イリムにわたしていました。
そしてイリムはそのかわり、プロゴンザにむぎやおかねをあげていたのです。
「いいか、にわとりがいるむらではきつね、ひつじがいるむらでは、やまいぬがいないかきくのだ。そしてきつねややまいぬをつかまえれば、おまえはみとめられるだろう」
「わかった。にわとりやひつじのいるむらがとくにいいのだな」
こうしてプロゴンザはすみなれた村のはずれをはなれ、たびにでました。
道でであうひとびとはみな、プロゴンザのすがたをみてこわがりますが、あるとき、木をたくさんつんだばしゃにのったおとこがこえをかけます。
「もしもしおまえさん、おまえさんはいったいどこにいくのだ」
「おれは西のかなたにあるおんなだけのくにをめざせといわれたが、まずはひつじかにわとりのいるむらをさがせといわれたのだ」
「よし、おれがこれからしょうばいで行くむらにはにわとりがいる。おまえがかりをとくいとするならば、きつねをつかまえられるだろう。おまえがばしゃにのってくれるならおれがあんないしてやろう」
「おれはあまりかねをもっていないぞ」
「おまえのようなつよそうなおとこがのっていると、わるいやつはよってこないのだ。ただし、もしもみのほどしらずのわるいやつがおそってきたらすまないが、おれといっしょにたたかってくれ」
「よしわかった。それならばのせてくれ」
こうしてプロゴンザは、ばしゃにのせてもらえることになりました。
「それと、きつねをつかまえるときとつかまえたあとで、したほうがいいことがある。ひとつは、きつねをつかまえるかたおすとき、なるべくちをながしたりきずをつけないようにするのだ」
これはむずかしいことになりそうだ。
プロゴンザはそうおもいましたが、とりあえずはこのしょうばいにんのはなしをききます。
「もうひとつは、つかまえたきつねのけがわをはいで、じぶんのもちものにすることだ。おかねのかわりになるから、ぜったいにただでひとにあげてはならないぞ。おれがおまえにようじんぼうをたのんだように、なにかとひきかえにするのだ」
「なるほど、きずつけないほうが、きつねのけがわはねうちがでるのだな」
「そうだ。さあ、そろそろそのむらだ」
たしかに、プロゴンザがのっていたことで、わるいやつはおそれをなしたのでしょう。
ばしゃはぶじに村につきました。
「むらおさ。このプロゴンザというおとこは西のはてをめざしているそうだが、たびのためのぎんかやどうかをかせぎたいらしい。このむらのにわとりをおそうきつねたいじをまかせてみてはどうだ」
「なるほど、いかにもつよそうなおとこだ、うまくつかまえてくれるならば、そのきつねをおまえにやる。それか…そうだな、プロゴンザとかいったな、きつねのけがわをいくつかのこしてくれるなら、おまえのためにくつをつくってやろう」
プロゴンザのあしは、はだしどうぜんだったのです。
そして、にわとりをかっているこやのまわりにわなをしかけたプロゴンザは、よるがくるたびにいっぴきまたいっぴきと、きつねをつかまえてはけがわにしていきました。
「おお、たいしたものだ。プロゴンザよ、やくそくどおりおまえにせんしのためのくつをつくってやろう。そして、のこったきつねのけがわをもってさらに西のむらをめざすのだ。たしかあそこはひつじをかっていたはずだ」
こうして、むらびとたちにみおくられ、プロゴンザはふたたびたびにでました。
ところが、またべつのばしゃにとめられます。
「おまえさんはけがわうりなのか」
「いやちがう、おれはこれこれこういうことで西のはてをめざしているのだ」
「そうか、おまえはやまいぬをつかまえたいのだな。よし、おまえのもっているきつねのけがわをいちまいくれるならば、おれはゆみやをおまえにあげよう。そのひつじかいのむらもおれがしっているからつれていってやる」
またしても、プロゴンザはばしゃにのってもよいことになりました。
(こうしてかんがえると、イリムがむらをでてたびをしろといったことはほんとうだったな。おれによくしてくれたあいつのいうことにしたがったことはただしかったのだ)
そして、イリムのおしえてくれたとおりに、こんどはひつじかいのむらでおなじようにやまいぬをつかまえさせてくれとたのみます。
「このプロゴンザのおかげできつねをいちもうだじんにしてもらえたむらがあるそうだ。むらおさ、ひとつ、このつよそうなかりうどにまかせてみてはどうだろう」
プロゴンザをばしゃにのせてくれたしょうばいにんも、むらおさにうりこんでくれます。
「なるほど、プロゴンザとやら。おまえがやまいぬたちをつかまえるならばわしらはおまえにふくをやろう。ただし、なんびきかのやまいぬのけがわと、あたまのほねをくれないか。あたまのほねをまきばにかざり、やまいぬがきたらこうするぞとおどすためにつかうのだ」
「よしわかった、がんばってみよう」
しかし、やまいぬたちはむれをなしてよる、ひつじのいるこやをおそうのだそうです。
プロゴンザはわなをしかけたあたりにやまいぬのくそをおいたあと、ちゅういぶかく身をかくします。
(やまいぬならきつねをこわがるどころかおそうはずだ。きつねのけがわをまとっていればきつねがいるとおもうだろう)
やがて、よるのくらやみにまぎれて、つきよにひかるめだまがいくつもあらわれました。
なかまがすでにとおったとおもったやまいぬは、まんまとプロゴンザのしかけたわなにあしをとられます。
ぎゃんぎゃんわうわうとほえるやまいぬのむれに、つぎつぎと矢をはなってたおしたプロゴンザ。
やがつきると、おのでのこりのやまいぬたちをたおします。
いつものよわいむらびととちがうプロゴンザのゆうかんなたたかいに、さしものやまいぬのむれもこれはかなわんとおもったのでしょうか、きゃんきゃんとなきながらもりのなかににげていってしまいました。
よくあさ、うちとったなんびきものやまいぬのしがいを見たむらおさや、むらびとたちはおおいにおどろきます。
「おまえのようなつよいおとこにはむらをまもってほしいが、おまえのようなおとこならおうさまのへいたいとしてもいいだろう。おまえがそれをのぞむかはべつにして、おまえほどつよいおとこならかならず、ひとは何かをしようとしてくれるだろう」
むらおさはこういって、むらびとたちにめいれいしてやまいぬのけがわでプロゴンザのふくをつくってやりました。
「どうだ、これならばおまえがやまいぬをたおしたあかしにもなるだろう。このみなりでおまえの行きたいところをめざすがいい」
プロゴンザはれいをいって、たびのみにもどりました。
あるとき、うまにのったへいしたちがプロゴンザをよびとめます。
「あやしいがつよそうなおとこだな。おまえはどこにいくのだ」
「おれは西のかなたをめざしているのだが、このままあるいていってもよいのだろうか」
「おまえのみなりではまちのいりぐちであやしまれるだろう。やまいぬのかわをいちまいくれるならば、もんばんにみせてもあやしまれないふだをくれてやろう。このさきのまちでは、まちのいりぐちにおれたちとにたかっこうのやつらが番をしているから、そいつのひとりにこれをみせるのだ。まにあえばおれがさきまわりしてはなしをしておいてやろう」
プロゴンザはじがよめませんでしたが、やまいぬのかわ、いちまいならばうそをつかれてもあまりこまらないだろうとおもいました。
「よし、そのとりひきをしよう。すまないがよろしくたのむ」
「それと、おまえがけんをもちたいならば、まちなかのぶきやをたずねるといい。そのふだをみせてこのはなしをするのだ」
「おぼえておこう」
こうして、プロゴンザはさきをいそぐへいたいとわかれてあるきつづけました。
「おい、たびのおかた、おまえはどこにいくのだ」
あるとき、わるそうなかおをしたおとこたちがプロゴンザをよびとめます。
「おれはへいたいにたのまれてまちをめざしているのだが」と、へいたいからもらったふだをみせます。
「むう、こいつのようなつよそうなおとこがへいしになったら、おれたちのしょうばいはあがったりだ、やってしまえ」
そうです、こいつらはさんぞくだったのです。
しかし、はなしかけてきたおとこをなぐりとばしてかつぐと、プロゴンザはそのままはしりだします。
「おい!おかしらをどうするきだ!」
「まてこのやろう!」
しかし、おいかけてきたおとこたちよりプロゴンザのほうがはやいのです。
そして、いきをきらしたさんぞくたちをしりめに、プロゴンザはさんぞくのかしらをしばりあげると、そのまままちに入りました。
あんのじょう、プロゴンザはもんばんによびとめられますが、しばりあげられたさんぞくのかしらをみたもんばんがかおいろをかえます。
「こいつはふだつきのわるじゃないか、よくつかまえたものだ」
「それにおまえのみせたふだは、百人長…おれたちのかしらがとくべつなたびびとに与えるものだ。よしまっていろ、えらいひとをよんでやる」
そして、えらいひとらしいへいたいがやってきました。
「おれは千人長で、おまえにふだをわたしたおとこはおれの部下だ。おまえがくるかもしれないとはきいていたが、おおてがらではないか。このおとこはみちゆくたびびとをおそってものをうばうことで、おれたちもつかまえようとしていたのだ」
「おれもおそわれたのだが、そんなにわるいおとこだったのか」
「ああ、こいつのおかげでみぐるみはがれたとかいううったえがたくさんきていたのだ。よし、おまえにはとくべつにりょうしゅさまへのおめどおりをゆるしてやろう。おまえへのほうびのはなしはそこできけるだろう」
こうしてプロゴンザは、とてもえらいひとにあうことになりました。
「プロゴンザとやら、このたびのさんぞくのかしらをとらえたけんではまことにあっぱれである。千人長がおまえを兵士にほしがっているのだが、おまえは士官をするきはないか」
「えらいおかた、じつはおれはこんなみなりなので、すんでいたむらではだれからもなかよくしてもらえなかったのだ。そして、おさななじみからはよめがほしいのならば西のはての女だけのくにをめざすがよいとおしえられ、たびをしていたのだ」
「なるほど、みなのもの、おまえたちはこのプロゴンザがいう女だけのくにに心あたりはないか」
「たしかにこのおとこはつよくはあるがみにくいすがた」
「よめをもとめるおもいもわからなくはない」
「ではこうしてはいかがか。プロゴンザはさんぞくのかしらをとらえただけではなく、かりのうでもいちりゅうであり、まちのむすめでプロゴンザのよめになってもいいという女があらわれれば、なにも西のはてまでいかずともよいどうりになるのでは」
「なるほどなるほど、大臣のいうとおりじゃ。さっそくにおふれをいたせ」
こうしてプロゴンザは、しばらくはまちの領主…はくしゃくの館にとどまることになりました。
はくしゃくのむすこもむすめも、プロゴンザのつよさのあかしにおどろきます。
「たしかにプロゴンザはとてもつよいおとこだ」
「だけどおにいさま、かわいそうですがプロゴンザはみにくいすがた。ほんとうならばわたくしがみをたててやりたいのですが、わたくしもいいなずけのいるたちばです」
「よし、せめてものおわびに、ぼくたちでとこやにつれていってやろう」
プロゴンザはとこやにつれていかれて、わずかにのこった耳のあたりのけをととのえられたり、ひげをかりそろえてもらえました。
「にいさん、あんたはなぜあたまに毛がないんだい」
「おれが小さいときに、にくをやいている火にちかよってやけどをしかけたのだ。それからあたまに毛がはえなくなってしまったのだ…」
「そいつはきのどくだな。ならせめて、ひげをととのえてやろう。つよくてえらくみえるように。ほれ、かがみをみてみるといい」
これにはむすこやむすめもおおよろこびです。
「これならば、もしもよめがあらわれなくてプロゴンザがふたたびたびだつことをえらんだとしても、みためのりっぱさでしんじるひともふえるでしょう」
「そうだ、けんもつくってもらうといいよ」
そこで、百人長とやらからきいたはなしをむすこにすると、りょうしゅのむすこはうなずいて、そのおみせにプロゴンザをつれていってくれます。
「おやじさん、百人長からきいたかもしれないけど、このさんぞくをつかまえたプロゴンザのために戦士のみなりをあつらえてあげてほしいんだ」
「お、おい、おれは金を…」
「いいからいいから」
「いや、はなしはきいているんだ。おいプロゴンザとやら、できあいですまないがこのけんをふってみてくれ」
と、おもてにでてぶきやのおとこがみせたうごきでプロゴンザもけんをあつかってみます。
「よし、とりあえずはおまえがたびの戦士にみえるようにしてやろう。おだいはぼっちゃんが持ってきてくれたかねからもらうからしんぱいするな」
「じつはプロゴンザがつかまえたさんぞくのかしらをごうもんして、ぶかたちのいばしょをつきとめたんだ。そのねじろから、いままであいつらがうばいとったおたからやおかねなどがいくらか、みつかっているんだよ」
「それに、そんなわるいやつをつかまえてくれたのだから、これくらいはしてやれとおとうさまからもいわれているからしんぱいないのよ」
と、ぶきややりょうしゅのこどもたちにいわれ、プロゴンザはすなおにけんやかわのよろいなどをうけとることにしました。
ただ…プロゴンザのおよめさんになりたいというひとはあらわれなかったのです。
そこでプロゴンザはもういちど、西のはてをめざすことにしました。
「ごめんねプロゴンザ」
「その西のはての女のくにがきっとありますように。プロゴンザをむかえいれてくれますように」
「ここから西のまちには、きょうかいとやらがあるところもある。そこできけば、その女のくにについておしえてくれるかもしれない。まちについたらきょうかいをたずねるようにするとよいだろう」
プロゴンザはあつくおれいをいうと、うまにのって西をめざしました。
もはやプロゴンザがむらをでたときとはおおちがい、りっぱなせんしのすがたです。
そして、つぎにたどりついたまちでは、りょうしゅがくれたおふだでプロゴンザは中にはいることができました。
きょうかいにつくと、プロゴンザはきいたはなしをそっくりそのまま、おんなのおぼうさんにつたえます。
「なるほど、そなたはよめになってもらえる女をさがしにゆくのですね。よいでしょう。しかし、おまえのいまのすがたではたしかに女たちはおまえをおそれるばかり。おお、なんとあわれな」
「おれはどうすればよいのでしょうか」
「プロゴンザ、そなたにはふたつのみちがあります。このままたびをつづければ、そなたをへいしとしてむかえるりょうしゅもまたあらわれるでしょう。そなたほどのおとこならば、かならず仕官のくちはあるとおもいます。しかし…そなたがもとめる、よめになる女があらわれるかどうかはわかりません」
「たしかに、あの領主さまのこどもたちもそういっていました」
「そしてふたつめのみちです。そなたたはおやにもらったすがたをうしないますが、女にもてるすがたになるほうほうがあります。そのすがたになれば、わたしのくにでは、わたしのような女にまじってせいぼさまにおつかえすることができるのです」
「おれにはきめかねるはなし。しかし、おれのすがたはどのようにかわるのか」
「よろしい。このきょうかいにもそのようなすがたになったおとこがいます」
と、おんなのおぼうさん…あまさんは、おなじようなふくをきたおとこのこをよんできます。
そのおとこのこのふくをぬいでもらったすがたをみたプロゴンザはおどろきます。
なんと、そのおとこのこは女のからだですが、りっぱないちもつがあるのです。
そして女のかおとからだなのです。
「このおとこはせいぼさまにつかえるために、おんなにまちがわれるようなおとこのこになりました。わたくしたちはおかまとよんでいますが、これがプロゴンザ、あなたにしめすふたつめのみちなのです。さぁ、あなたはどちらをとりますか」
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「さて皆さん、このお話ではプロゴンザはどちらを選ぶべきなのでしょうか」
「人のままで強い姿ならモテてもおかしくはないでしょう。女たちに見る目がないように思いますっ」
「しかし、これって偽女種になれってことですよね。プロゴンザが女と仲良くしたいなら、手っ取り早いのはやはり偽女種になってもらうことですかねぇ」
「先生…この童話、簡単なようで難しい話ですよ…確かに純粋な男としての価値を考えると、偽女種にするのはもったいない話です」
「しかし、このままでは私たち尼僧女官でなくば、プロゴンザの相手をするような心清らかな女はそうそう現れない気もします」
「下手をすると、プロゴンザのような純情な男を手玉に取って自分のいいように使う女や悪漢が現れないとも限りません」
「はいはいはーい、これはやはり、プロゴンザの考え次第、意志次第ではないでしょうか。それに、童話だから仕方ありませんけど、もし本当にプロゴンザのような男が現れたとしたら、この尼僧は偽女種になる利点や問題点をきちんと説明する必要があると思います。プロゴンザに考えるための判断材料を与えるべき」
「はいっ。それと、私たちは志願罪人の採用を受け付けることが出来るでしょう。志願罪人であれば、プロゴンザの顔や身体をある程度はいじれたはず。ですから、労働者になってもらう必要はありますが、プロゴンザの希望を叶えるにはこの方法もあるんじゃないでしょうか」
「プロゴンザの希望…というよりは、プロゴンザがどれほど女を求めているのかなどなど、もしも本当にプロゴンザのような男が現れた場合はその辺りを聞き出して、彼の自主的自発的な判断を求めるべきですね」
「個人的には少年になって欲しいんですが」
「こらこらこらこらこらぁっ、それはあんたの趣味だろうがっ」
「悪い道にそそのかしたのがバレたら懲罰でしょ…」
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…で、この道徳訓話めいた童話に関するお話をしているのは、キュラソー島の首都たるウィレムスタットの西街区に存在するリフ要塞内に建設された聖母教会・オトロバンダ修道院です。
このウィレムスタットは水路を挟んで東側のプンダ地区、そして西側のここなオトロバンダ地区に分かれていますが、西側には聖母教会や球根詐欺支部兼中米行政支局や南洋行政局に関係した…いわば痴女皇国のための施設が集中しています。
「レオノール司教はいかがお考えでしょうか…先ほどの授業で使った童話の正解」
と、先ほどまで教室で聖院学院生徒…すなわち尼僧候補の修練士女生徒を相手に教鞭を取っていた教務助祭が私に聞いて来ます。
「あれは正解がないのですよ。男性の主権や主導権を深く侵害しないのは聖院女官規範でもあります。女の色香に惑うのはまだしも、男の決断を邪魔してはならないのです。むしろ男の決断の重さと価値を男に教えるべき。どちらを選んでも、それは男の決断であるのです…」
そう、このレオノールも、数年前にスメネプで「列車から飛び降りてサリムに寄り添う事を決めた」身の上。
そしてサリムも、私の色香に迷ったとは言え、私についていく…最終的には偽女種への決断をした身です。
そうして私たちは、ハリケーン・コーニョの災害を契機に南洋王国はマドゥラ島の東端にあるスメネプの町を離れ、はるか2万キロ彼方のこのキュラソーに赴任する道を選びました。
このキュラソー赴任の顛末や、その後についてはR18版のアルト閣下のお話や闇堕ちマリアの方で語られるとの事ですが、少なくとも私がその後の立場や、私とサリム…そしてサリムとの間に授かった娘たるラウシュミは、痴女皇国での地位を得て無事に暮らしていることだけをお伝えしましょう。
そして…皆様、特に男性であれば先ほどの童話、どちらをお選びになるでしょうか。
今の時点では人の身なりはまだしも、姿形を簡単に変えてしまうのは極めて難しいかも知れません。
しかし、近い未来に人の見た目があまり重視されない…言い換えれば、人の身体や外観などどうにでもなる場合、どのような選択をなさるのでしょうか。
夏の暑い夜、一度思いを馳せて頂くのもよいかも知れません。
では、また成人向けのお話でお会いしましょう。
ブエナス・ノーチェス…ボア・ノイチ…ヴェルトルーステン。




