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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


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少女よ大志を抱け…綿草(わたくさ)ものがたり・10

眼下に広がっているはずの雄大な光景ですが、半分くらいはまともに真下を見れません。


しかし、横から眺める光景や、目の前の画面に映し出された様々な事物は…壮絶の一言。


巨大な腕の先端に付いた回転のこぎりめいた何かをゆっくりと回して掘っているらしき機械。


そして、掘り出された石を積み込む黄色やオレンジ色の腕の付いたからくりに、積み込まれた石を運ぶだんぷかーなる、くるま。


それら全てがこの鉱山の外にうかつに持ち出せないほど巨大な代物だそうです。


そして、室見局長から聞かされる衝撃の話。


(人手不足もあって24時間操業してる鉱区もあるそうなんだけど…このピルバラ地区の鉱山でも今やほとんどの採掘機器が無人または遠隔操作で動いてるのよ…露天掘りのせいもあるけど、つるはしやスコップを持ってえんやこらという鉱山のイメージは全くないでしょ?)


(しかし、ほんまえげつない掘り方しとんのな…)


(バケットホイールエクスカベーターまで使ってますよ…ルール地方やドイツの炭田で稼働してるのは知ってましたけど…)


(あー、あれな…あんなもん投入しても充分に採算が取れるんだろうな…ルールやドイツじゃ無理だろうが、コマツもヒタチもオーストラリアの鉱山に無人機械を納品してるはずだ…弟があの手のものを運用してる会社にいてね)


つまり何ですか。


あのものすごく大きな段差のついた穴の中でガリゴリと鉱石を掘ってるからくりたち、勝手に動いてるようなものなのですか…。


(そればかりじゃないわよ…ここから400キロほど北に行ったポートヘッドランド…鉄鉱石積出港までの鉱石運搬列車もほぼ、自動運転なのよ…)


見れば、険しい岩山や砂漠を時に曲がりくねり、時には突っ切って伸びる鉄の道の上を走る列車、南洋行政局管内で稼働している列車の数倍の長さの上に、繋がれた鉄の箱は全て同じ形です。


ええ、この鉄鉱石とかいう石を運ぶのでしょう。そして帰り道を行く列車の箱は…おおむね、(カラ)


(で、あれがその港ですか…ええと…大船だけでも20隻以上はいますよね…)ひこうきが進む先にある港に向けて、かめらとやらを操ると…私の視線に合わせて向いてくれる操作で見ております。


明らかに、港にある石の堆積場から何かの通路を経て、鉄鉱石とやらを積み込まれて運ばれるとおぼしき巨大な船たちが何隻もその作業を受けているか、あるいは待っているのでしょう…。


(港の東側に白緑色のプールみたいな池がいくつもあるでしょ。今、視覚情報をあずさん…通商局の資源開発部にいる五百旗頭梓(いおきべあずさ)さんと共有してもらってるけど、あれ多分塩田プールだって…)


えええええ…あれが塩田なんですか…。


わしらの世界の塩田とは似ても似つかぬその構造。


しかし、驚きはそれに留まりません。


(牛たちを追い立て管理するカウボーイも、今や無人化されているのです…)


これは、我々のひこうきに随伴して飛んでいる、オーストラリア空軍、そしてニュージーランド空軍とやらのひこうきに乗っている現地の軍人の方からのお話。


(むろん羊にしても類似の状態です。実は日本のショウユ・メーカーの開発した脱毛酵素を羊に注射して毛を抜けさせる方法が広まっており、この方法でバリカンを使わずに脱毛させる羊業家も増えているのですよ…従来から流れ作業で羊にワクチンを投与するシステムは存在していますので、それを導入している大規模事業者はワクチンの代わりに脱毛酵素剤を投与するだけで済むのです…あとは羊舎からウールを回収するだけです)


(つまり、言うなればハゲにするような脱毛薬を羊に投与すると…)


(人間にも効くんやろか、そのハゲ薬…)


(ジーナ、降機したら一発追加)


(パワハラはんたーい)


しかし、なんとも凄いことになっておるものです。


民主主義とやらになると、坑夫や農夫になるのをこうも拒むのかとも。


過酷な労働を嫌がるのはわかりますけど、うーむ。


(マルハちゃん。いくさの方法、そして戦争のあり方が変わったのもあるんや。あんたの時代だと、領地やそこに付随する富を求めて戦争するのが基本やろ)


(球根詐欺国だと、自分ところの領土だけじゃ海に沈むかも知れないし干拓だけじゃ足りないからと、ドイツやベルギーに兵を進めるような考えが戦争の基本だと思えばいいんだよ。あと、植民地の取り合いとかな)


(で、マリアの言うような経済的理由での戦争を仕掛けた場合、なるべく無傷で領土や領民が欲しいわけやん)


ですね。


例えば今、出稼ぎ国からスペインが紳士的淑女的に手を引かない場合、わしらが理由作って軍隊を駐留させようかとか、あるいは海賊共和国内の旧・他国領土の所有国が、海賊共和国に何らかの難癖をつけて剥ぎ取ろうかとか。


(ただ、それをすると欧州では三十年戦争とか英仏戦争とか皇帝ナポレオンというおっさんがフランスにおった時代から第一次世界大戦までの状況となって、戦争で疲弊した国土や国民の面倒を見る負担の方が大きくなることになったんや…理由は兵器の進化にある。ぶっちゃけ死人や再起不能の負傷者障害者が大量に出るわ、街や道路や橋や鉄道を再建するのにも困るくらいに破壊することができるようになったんや、一瞬にな)


(そして、勝った方が負けた方に賠償金を請求する制度、マルハちゃんの時代ならあるだろ)


ううううう、将軍様もわしを缶詰のように…いやよいです、愛称のつもりなのは理解しております。


(まぁまぁ。で、賠償金の負担で国家崩壊寸前まで行ったのが第一次世界大戦後のドイツ…神聖ローマ帝国の成れの果てだ。ドイツは戦後、帝政を廃止したのはいいが不況や冷害飢饉に加えて戦勝国から請求された賠償金返済に苦しめられたんだよ。そして、独裁政権の誕生を見たドイツは第二次世界大戦の発端となったんだ…)


お詳しいのですね。


(ああ、うちもハゲも教官出身や。実技だけでなく座学…勉強の方もやってたからな。教務で戦争史を担当することもあったから、戦争の歴史、特に近代戦史はある程度は人に軽く教えられる程度には知ってると思うて)


つまり、ジーナ閣下や大将さまは、わしが元来生きてきた時代の軍人より更に頭でいくさをする部類の方であり、わしのおる時代からジーナ様ならジーナ様の時代までの戦争の歴史を習い覚えたと…人様に教えるために。


(で、大将閣下の話に付け加えるとルール地方でフランス語とドイツ語話者が入り乱れている理由がこれや。フランスは賠償金支払いに強くこだわった国で、ドイツが払えない場合はルール地方を占領する付帯事項をつけて終戦交渉をしてたんや)


(まぁ、言うなれば差し押えで占領したわけだ…)


(それが、支払いに応じるどころか踏み倒す事も政権公約に入れて選挙で勝った政党が国家社会主義ドイツ労働者党、通称ナチス党っちゅう政党なわけやねん…)


名前からして労夫に受けの良いものにしている気が。


(で、敗戦国になったドイツ帝国だけでなく、当時の欧州は王政帝政の失政失策によって国家経営の舵取りに失敗した国ばかりでな、労働者と政治家は対等だという考えも広まっていたんだよ)


(民主主義とかいうやつですな。うちらの世界ではまだまだこれからというか、台頭するかどうかも未定だったと思いますが)


(そして、労働者に読ませる本を書いた連中も増えたんだ。タキジ・コバヤシの書いたカニコウセンも強制労働者の悲哀を綴って資本家に搾取される当時の世情を暴露しようとした目的があったはずだ」


あの話、そういう理由で書かれたのですか…。


(ただ、その話を広めようとした共産党が学歴や弁舌を優先したのはどういう皮肉だとか思うけどな。そもそも無学浅学な労働者と行政側が同じ立場なのが共産主義や社会主義だろうに…彼らが自分達の指導者や上位職者を同志と読んでいたのはこれだよ。例えばあのロリヤことラヴレンチー・ベリヤであれば同志ベリヤという呼びかけが敬称だ)


しかし、こうもすらすらと言える…それも心話とは言えど聖院第二公用語で聞かされるのも凄いものです。


(共産主義は軍人の敵のようなものでね。未だにどこぞ人民共和国の軍隊はその国の第一政党の私有軍なんだよ、驚くべきことに)


(うちらがアカはアカんとか言うのは駄洒落菌のせいだけやのうて、真剣に連邦世界の衰退を招いた政治思想やからやねん…その敵性思想を理解する必要はもちろん、部下や教え子には有害性を教育する必要もあるんや…)


(ふむふむ。すると、その共産主義とやら、結局は平民を労務、とくに苦役に駆り立てるのにしくじったと見ましたけどな)


(うん、バレた。もう一つ言うと自分で自分らの主義主張が穴だらけとか理想論に過ぎんというのをバラして墓穴を掘った。さっき話に出たロリヤは秘密警察を組織して言論弾圧と政敵粛清に邁進したんやけど、その一方で変態性欲者なのが知れ渡ってた。街の少女を狩って毒牙にかけてただけやなしに、部下の嫁や映画女優…宣伝映画は作ってたからな…や女性のスポーツ選手にも下半身の親密なお付き合いを強要したんや)


(しかし、例えばうちの親がそう言うことをしたり、今のうちなら正に競牛騎手などをお手つきできますやんか。せやけど、うちの場合は騎手なら騎手にお手つきの正当な理由を話せます。じゃあそのロリヤは女に股を開かせるだけの正当な理由を持って交渉してたんですかいな)


(鋭いなマルハちゃん…もちろん、秘密警察を指揮してるわけやからその警察権力を行使して不当な要求をしたに決まってるやないか。ある女性の場合、ロリヤの誘いを拒んだがためにスパイ容疑か何かをでっち上げられて逮捕されて獄中で死亡した。まぁ…死亡前に()()()()あったのは想像に難くないわな)


(となると、労夫は仕方なく働くか、さもなくば不労行為(サボタージュ)を企みますわな)


(あと、義務教育制度の普及によって大規模な学歴社会が到来したのもあるんだ。軍人でも士官学校を卒業した上級軍人と、前線で生死を賭して戦う兵卒や下士官とではその経歴や出世可能な階級が違うようにされてしまったしな)


(ああそうか、将はまだしも兵は戦争が終わったら国に帰って民になりますわな。そこで上が腐ってたら下も腐ると)


(もしくは、兵士であることをやめられへんのがおるんや…)


(ジョスリーヌ君ははっきり言ってその部類だ)


ええ、将軍さまがきっぱり申された通りだと思います。


コープシェフは軍人として生きる意外に道はない、とご自身が申されるくらいですから…。


しかしまぁ、この広大な大陸を切り開こうという情熱、一体どっから来たのでしょうか。


(まず、英国本国の流刑地としてシマナガシに遭った連中が開拓の先陣を切ったんだが…ここから先はキャンベル中佐にお話願う方がいいだろう。中佐、どうぞ)


(ではゴルディーニ閣下のお話を引き継がせて頂きましょう…開拓動機を単純に言うと、(ゴールド)です。当時のこの大陸からは大量の(きん)が採鉱できたのです…そして、中国人を含めた各国の人間が一攫千金を求めて、大挙して押し寄せました。ラクダはその連中だけが持ち込んだ訳ではありませんが、重宝されたのは事実ですね)


(そういえばこのお国、私のような白肌金髪青目の者が多数とか。あめりかのように肌黒いものがいないのはなぜでしょう)


(あー、そこに来るんか…)


で、ジーナ様からは、その話題はオーストラリアの人には地雷だとこっそり聞かされます…。


(これも簡単に申し上げると、開拓の労働力として入れなかったのです。まぁ、奴隷の産地たるアフリカから遠いというのもあったのですが…そして、流刑された人々は現地のアボリジニ族なる先住民を支配し、あるいは混血しました)


(それと、キャンベル中佐が言いにくいだろうことがある。そのゴールドラッシュに伴って中国人を主体とした非・白人の増加を憂慮した当時の政府によって、白豪政策というものが打ち出されたんだよ)


(英語での話を聞き取り筆記させるとかして白人、特に英国系のみ入国を許可するとかやったアレやな…)


(そして、英国での産業革命を受け、開拓機材や交通手段の動力化がなされたのも大きな転換点だったのです。自国内に存在する炭田から石炭が多量に得られたので、機械そのものはまだしも、燃料は他国からの輸入に頼らずに機械化動力化を推進することが可能であったのも、独自の方針で国内開拓を推進できた大きな理由でした)


(要は、よそに口出させないうちに色々進めてしまえたと…)


(更には、確かにこの国の最低半分は緑地の僅少な砂漠や岩石地帯…西オーストラリアや、今しがたまで飛行したノーザンテリトリー、更には南オーストラリアやニューサウスウェールズも決して緑豊かとは言えません。しかし、我々の先祖はそれを逆手に取ったかのごとく、必要な場所に必要な牧地や畑を開拓したとお考え願いたいのですよ)


(ただ…雨が降らないとはお聞きしたのですが…では水をどうしておられるのですか?)


と、わしは素朴な疑問を尋ねてみます。


(マルハレータ殿下…今、我々が飛行している真下にあるノーザンテリトリーからクイーンズランドにかけての雄大な山地とその東側の平野に連なる広大な一帯はグレートアルテジアン盆地と呼ばれております。その両脇にある山々への降水はこの盆地に地下水として蓄えられたのです。その量たるや、地層の違いで圧力がかかった状態でどんどんと貯まる水がついには自噴井戸として盆地のあちこちに噴き出るほどなのです…いわば、オーストラリアの本土面積の20パーセントを超す巨大な地下湖が、この眼下の大地の下に存在するとお考えください…この水は塩分を比較的多く含むのですが、羊の飲用には支障がありません。更には含有塩分を減少させれば通常の水としても利用可能なのです…)


(ああ…そのお水を使って牛や羊を育てられたのですか…)


(そうです。我々は少ない降雨の代替水源を地下に求めることが多いのも、こうした開拓によって地下を含めて利用可能な資源に目を向けざるを得ないからなのです…)


(ユーカリをパルプ材…紙資源として輸出しているのも、地下水を吸い上げる能力の高い樹木だからなのです…)


(ただ、あのテレピン油を分泌する性質がな…)


え。


名前とその性質はともかく、油と聞いただけで、この乾燥した大地では危険な気がします。


(これはオーストラリアの山火事発生原因の主要因…というかユーカリが存在する地帯ではほとんどそれなんだ…ユーカリの葉に対する異常な摩擦や、あるいは落雷が原因で葉から発火しやすいんだよ…)


(ゴルディーニ閣下は泣かされたからな…災害出動で…キャンベル中佐、これ自国だけで何とかならんかったんでっしゃろか…うちも行ってテリブル…マルハちゃんに言うと空中から撃つ大砲のタマな…で真空遮断消火爆撃やらされた緊張の任務を思い出すんですわ…)


(申し訳ない。自国での破壊兵器運用、議会がうるさいものでして…上位互換法条約に準拠しておく方がうるさ方を黙らせられたのですよ…)


(どこの国でも文官には泣かされるんですな…)


(で、ジーナ閣下…正直なところ、首相や内閣は痴女皇国世界における綿花畑開発について、我が国土同等の地理条件を備えた大陸で、如何にして大規模な綿花栽培を成功させるのか興味津々なのです…特例で密かなる無査証上陸を黙認してでも、実演を依頼せしめよと私とトンプソンは厳命を受けておりまして…正直、困っておるのです…)

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