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こんにちわ、マリア Je vous salue, Marie  作者: すずめのおやど


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少女よ大志を抱け…綿草(わたくさ)ものがたり・4

で。


淋の森警備本部、医務室。


「緊急封鎖連絡を見ていなかったのか…」


ベッドに寝転がってうんうん言ってる対象を見て呆れ返るコープシェフ・ジョスリン。


「これさぁ…ジョスリンは職務規定に従って発砲してるから、苦情は認められないわよ…」


と、室見局長も呆れ顔です。


「あのー、入口で警告心話、受けておられませんでした?」


で、ゼアラニーネ白薔薇騎士団長はもちろん、淋の森警備本部長様も、何でよりによってこの子がやらかすねんという顔。


Sylphyriene シルフィリーネ Ten thousand Suction. 一万卒 Slut Visual. 痴女外観 White Rossy Kinght, Imperial of Temptress. 白薔薇騎士団 Priority placement, Security department, Gonorrhea-forest. 淋の森警備本部優先配置


(正直マルハレータ行政局長代行には悪いけど、局長がやらかしてた方がまだ、言い訳が立つのよね…)


なんすか、その言い方。


(シルフィリーネ…いくら年下の上に後〜か〜ら〜来〜た〜の〜に〜追〜い〜越〜さ〜れ〜♪て悔しくても、上位職者相手にそういう言い方はやめなさい…)


ゼアラニーネ団長が私に代わって言い返して下さいましたが、人生楽ありゃ苦もありそうな説得内容ですね。


(うう、ゼアラ…行き遅れの私にはすがるものがないのよ…)


(しかしオシリフリーネ警備本部長、いくら私やティアラが出世街道爆進の身とは言えどですな、追い越した勢い余って、こんなんやらかしてたら他のモンに言い訳立たんでしょ…購買部で三色団子、ほんまに売ってへんのですか…)


レーヌ(クイーン)・マルハレータ…それなら比丘尼国行ってインロウというのを借りて来るかね…)


そう…淋の森警備本部長の嘆きはともかく、ベッドで寝てるのはうっかりティアラです。


あんたね、精気授受成績測定作業があるから売春業務担当者と監視・測定担当者以外の女官は指定時刻まで淋の森立ち入り禁止って聖環に通告、出てたやろが…。


私はマドゥラ関係事業の当事者やし、厚労局や警務局の関係者はこぞって精気授受測定を担当してるか、測定結果を歪める要素の接近を咎めたり排除するために出てるんやぞ…。


「うう、請願に行ったら全員出払ってて淋の森って言われて…」


ようやく口が利けるようになったティアラ、這う這うの体で泣き言を申しよります。


「ここは茸島と違うで…痴女宮本宮やねんからあんたが行使できる権限は全く変わるんや…先輩ばかりやねんし、茸島より格段にあちこちの出入りに制限かかるん知っとるやろ…」


とりあえず三色団子が購買部にないのであれば、真剣に比丘尼国に出向いてでも調達した上で、このうっかり者のうっかり者たるやうっかり者なうっかりティアラの口に無理からにでも突っ込みたい気分なのです。


ええ、ジーナ様の痴識いえ知識にあったのです、あれはうっかりの象徴であると。


「まぁしかし、あれだ…ティアラ、幹部女官の聖環反応がああも固まって表示されていたならば、何かあると思わなかったのか?」


「あると思ったからこそ駆けつけたんですよ…」


「まぁ…射った件は詫びておこう。済まんな」と、素直に頭を下げるコープシェフですが…。


(ティアラ。悪い事は言わん。あんたも頭下げた後で、速攻でイザベル陛下に連絡せぇ…これはあんたの上司か後見人が謝っとくべき話や…コープシェフは怒ってへんけど、その代わりに今後黒薔薇、特にコープシェフ自身が絡む作戦にあんたが参加することが事前に判明しとったら絶対にコープシェフは参加や指揮を拒否るか、あんたが参加できんようにする措置を取らはるはずや…これがどういう意味かわかるか…ほんまは速攻ドゲザかセプクもんやぞ、ヤパン人やったら)


(えええええ…なんで…)


(黒薔薇騎士団は上司に絶対服従やろが…特に、機密性が高い任務の場合は心話すら交わさんと動くことがままあるやないか…事前に作戦内容や指揮命令系統の確認とか、更に根本的な話としてあんたやったらあんたが参加する作戦かどうか確認すべきやろ…つまり、あんたは公式やと聖隷騎士団員やけど白薔薇騎士団の内部組織やろ?リンジー団長かゼアラニーネ団長に「今何やってんのか」確認取るべきやったんちゃうか…これが黒薔薇資格者と正規の黒薔薇騎士団員の違いやで…)


(マルハは一緒にくっついて…あ…)


(わかってくれたか。あの場でのわしの立場はマドゥラ女官を出荷しとる南洋行政局長…当事者も当事者なんや…野次馬や出歯亀であの場におったわけやないんや…担当者として淋の森、それも指揮所におらなあかんかったからおったまでなんや…)


そうなのです。


何でコープシェフが内心激おこも激おこ、今後はティアラが乱入しそうな状況の作戦であれば成功しない可能性が高いから参加や指揮を拒否する…そしてティアラ自身が黒薔薇参加または主導の作戦の一員として加わるなどとはもっての外だという上申、文書で警務局と内務局に通達するつもりなのか。


部外者なのに乱入してきたからです。


しかも、ティアラがイザベル陛下を孕ませたり陛下の子を孕んだりしたのはもちろん、あいつがベラ子陛下に付け狙われていて汎用精子卵子なので実子扱いされないとはいえど孕まされたこともあったはずという事実、黒薔薇騎士団…それも団長であれば把握していない訳がないでしょう。


ですから、コープシェフとしては譴責(けんせき)されるのを覚悟してでも、淋の森で測定していたデータの正確性を守るために、問答無用でドレイン弾によって一言も出させずにティアラを黙らせたのです…。


言い換えれば、さっきの淋の森で測定していたマドゥラ出身者とそれ以外の女官の売春に伴う精気流動情報は、それほどまでに真剣に各方面が欲していたものであり、それゆえに関係幹部が総出で測定支援してくれていたものなのです…。


ですから、聖隷騎士団…それも皇帝直轄の白薔薇三銃士の扱いたるティアラが、こうしたうっかりで黒薔薇が関係する重要作戦の遂行をぶち壊す危険を鑑みて、コープシェフは「ティアラ参加させない近づけないこと。これが守られないようなら私はティアラが絡んで失敗しそうな作戦の指揮はもちろん、参加すら嫌」と言ってるのですよ…。


ええ。


他の黒薔薇騎士団員も、だいたいはコープシェフに同調しています。


こんなうっかり者が、少なくとも作戦中は絶対に上司に服従すべき黒薔薇と行動を共にされるのは困るという反応ですし、今回の情報測定の当事者である以前に黒薔薇資格者としても、私も同意見。


ですが…それではティアラは今後、聖隷騎士団や白薔薇騎士団どころか、最悪の場合は騎士の業務すら出来なくなる危険すらあるのです…。


ええ。今の本宮警務局は黒薔薇出身者のすくつ。


更にはワルトさん他、支部派遣の人もそれなりに存在します。


下手をすると中米行政支局や南欧支部に対して「うっかりティアラのいる限り、黒薔薇騎士は関与御免」ということになりかねません。


だから…コトが大きうなる前に、お前と後見人またはそれに類する人物、それもなるべく上位の者とで詫び入れしとけっちゅうとるんじゃ…あ、ベラ子陛下はあかんぞ…あの方はコープシェフとは犬猿の仲かつ終生の敵と書いて敵と読む仲やからな…。


でまぁ、本当ならこいつ(ティアラ)とは犬猿の仲である私こと缶詰女王のマルハレータですが、コープシェフへの謝罪に適切な人脈に全く心当たりがないわけではありません。


という訳でメフラウ・オリューレ…寝てはるところ、すんませんけど手助けを…。


(事情は理解しました。確かにジョスリンならその辺に厳しいことでしょう)


(正直、DGSEだろうがGIGNだろうが、この手の突出は軍法会議または内部査問の対象となる話です。受命不確認かつ軍規違反となりますので…そして処分対象者は特殊部隊勤務を外されて後方任務となって以降、実戦部隊への配属が一切叶わない日陰勤務になるのはまだマシ、最悪は不名誉除隊か…任務内容によっては軍法会議抜きの射殺すらあり得ました…)


そう、コープシェフは我々痴女皇国世界の出身者からすれば未来も未来、特殊部隊とやらに関わりその厳しい組織の中で中核を占めてきたお立場です…ケンカが強かろうが、あくまでも一般庶民の出のティアラとは、本来は生きていた世界が全く違う人物なのです…。


ええ。


やっとこのうっかり者、自分が何をやらかしたかわかってくれたみたいです。


そして、黒薔薇の団長に本気で嫌われるということが、痴女皇国ではどれほどに命取りになるのかも…。


(ティアラ。一つ言っておくと、これが実戦なら私が撃つまでもなく君は死体になっていただろう。開豁地(かいかつち)にいきなり飛び出す馬鹿は特殊部隊以前に軍人失格なのだ…)


つまり、コープシェフとしては、最低でもティアラがその辺の知識をちゃんとつけておくこと…騎士の基礎からやり直してうっかりを直さない限りは、誰が何を言おうと許す気は一切ないようですね…。


では、正規の騎士団長であるペルセポネーゼ団長であればどうか。


(心情的にはティアラさんを庇ってあげたいです。しかし、黒薔薇騎士も多数参加しての、いわば実戦作戦の最中の椿事。私とティアラさんだけの話にしておくのは他の団員への手前、難しいと言わざるを得ません…)


まぁ、そうなるよなぁ…としか。


でまぁ、室見局長。


(なんであたしを…)


(コープシェフやペルセポネーゼ団長の直接上司て、誰ですのん…)


(あ…! わかりました…ダリア、どうする?)


(そーですなー。ジョスリンの言い分もわかりますし,ペルセポネーゼ団長もさすがにこれは何か反省材料があらへんかったらあかん言うてるの、うちも納得せざるを得ませんわ。ジョスリン、ティアラちゃんについてはアルトさんまたはアレーゼ本部長もしくはマイレーネさん預かりで夏季短期集中の騎士再訓練。これで手を打ってくれまへんやろか)


(その内容なら小官が取り立てて抗弁はしません。ただ、そのうちの全員または2人につけて頂けますと、より矯正が確実かと)


ええ。


別の意味でティアラが真っ青になっています。


アルト閣下と、アレーゼ本部長とマイレーネ本部長。


この3名のうち、誰か一人だけでもついて訓練させられたひには厳しいであろうことがはっきりしているからです。


そのうえ、1人じゃダメ最低2人に鍛えさせろとか言っておられるのですから…。


ああ、かわいそうなティアラ…いえ、どっちの言い分も、わからんでもないのです。


しかし、ここは…中米行政支局やったら支局長のグレース・オマリー陛下が抗議または抗弁すべきでしょ、表向きは…もしくは話をしに行きたい相手が取り込み中なら、アポを取るか大人しく待てやと。


(待てジョスリン。一人卒相当に能力制限した上で自衛軍の体験入隊コースで勘弁したれ。うちが防衛省経由で信太山に話をつける。あそこやったらティアラちゃんも日本人やし、ちょうどええやろ…)


え。


(は。閣下…失念しておりました。閣下の矯正案、最も妥当であるかと存じます)


まぁ、そこがどういう場所かは分かりませんが、ジーナ閣下のお話であれば間違いはないのでしょう。


(脱柵者…脱走者もようけ出る鬼の部隊でな…)


と、こっそりと私に教えて下さいますけどねぇ…。


(習志野とか九州方面の師団傘下よりはマシなはずやぞ…)


まぁ、お任せします。


さて、このままティアラがしょんぼりんぐしておるのも不憫な話ですし、何よりも私とティアラの不仲を知る者に変な下衆の勘ぐりをされても困りますので…。


-------------


で、翌朝。


(しかしレーヌ・マルハレータ…君がティアラをああも庇うとはどうした風の吹き回しなのだ…)


(いえいえコープシェフ、あの場であのままでは私もコープシェフも、ティアラを罠にはめたとして疑われてしまう危険もあったかと…ですから私による嘆願は妥当だとは思うのですよ…)


(まぁ…特にあのパスタ女には何かあらぬ事を疑われてしまうだろうな…)


(それに、コープシェフが言われていた男児出産の一件です。仮にも私の子種であれば二代目南洋女王、そして球根詐欺国の王位継承権第二位…一位は妹に譲りましたけど、この身分であれば本宮にもコープシェフの本国にも言い訳が立つのでは?)


(ああ…ただ、まさか君の子種を貰い受けるとは…)


(ほほほほほ、コープシェフとは今後とも仲良くさせて頂くべき。それに…マドゥラの統治を安定化させるためには、カーティカを私の寵婦(めかけ)扱いして総督任務を与えただけでは不備というものでしょう…)


で、この不穏な会話の詳細については何をどうしても闇堕ちマリアかアルト閣下の話の枠、即ち未成年者はダメの例の扱いとなるそうですけど、結論だけ申しましょう。


そして、メフラウを通じて、私の今後を運命策定神が審断して頂いたのだそうですが…。


ええ、一番悪い状態となった時でも、今から申し上げるような未来となるそうです。


そして、メフラウ…それに何よりカルノとベテハリの復活についても、現時点では…未定。


要するに、何も決まっていないと言えば決まってはいないのだそうです。


しかし、いくつかの未来は予測できるため、その分岐が一番悪い方へと進んだ場合をお見せすることは可能なのだとか…。


では、少しだけ、私と一緒にその未来とやら、ご覧頂きますよ…どうぞ。


-----------------------------------


ジョクジャ宮殿二階の執務室に運び込まれた寝台に、私の身体は寝かされております。


で、若さを失って骨と皮だけにも見える我が手を取って嗚咽(おえつ)するメフラウと、そして私に関する末期の措置に備えて待機しておられるマリアリーゼ陛下、それとエマニエル部長。


「しかし、上手くいくのか正直、不安ではありますね…」


「まぁ、失敗した場合でもスペアの寝台はある。それにエマ子にも待機してもらってるんだ。ヤバそうなら従来の措置でいくよ」


ええ。エマニエル部長は人型救世主兵器としてのお姿…桃色の羽根を備えた状態です。


そして、今回の私の死亡というか、肉体喪失。


従来の女官の自己発火焼却ではなく、新たなる処理方法の試験に供されるそうです。


「考えてみりゃマルハちゃんって、初めて事例が多かったよな…南洋王国の共産制無貨幣統治とか、マドゥラ族のカウガール作戦とかさ…」


「だからって死ぬ時まで目新しい死に方とは…」


(まぁまぁメフラウ、成功しても失敗しても銀衣準拠で家族会参列処置なのですよ…決して私はメフラウの前から完全に消え去るのではありません…よもやすれば、これからはメフラウと常に共に歩み、お助けすることになるかも知れないのです…)


(それはそうなんだけど…)


そして、私の寝台の前では、執務室正面の扉が大きく開かれています。


更には、寝台の前に置かれた初代ウサギ号と、少し丸みを帯びた二代目ウサギ号の、2台のくるまが。


そう…この執務室、小さいとは言えどくるまが2台入れるくらいには大きいお部屋なのですよ…。


で、そのウサギ号たちの前のプールに向かう坂道の先、臨時にプールの水を抜いて応急設置された参道が設けられています。その道の先は、離宮女官寮の一階に設けられた地下駐車場への通常通路に。


ええ、カルノのために、王宮の主要な通路は一切の階段を廃していた設計が役立ったそうです。ウサギ号たちは、ほぼバックして走って来たとはいえ、地下駐車場からこの執務室まで、自力で走行してきたのです…。


「しかし…あのクヤンに食われたり乗っ取られた者の末路を研究した結果がマルハの遺体処理のヒントになるとは…」


ええ、ディードが呆れてますね。


私も最初、聞いた時にはなんじゃそりゃでしたから。


「今回の件がうまくいけば、重要な女官は完全死亡ではなくなるし、大掛かりな寝台による保存が必要なくなる可能性すらあります、マルハレータ()()…」


ええ、この計画について重要な関与をなされた聖父様も、寝台の傍らにおられます。


「じゃ、そろそろ…始めるか。ベラ子、エマ子、もしもの場合は障壁発生補助を頼む。オリューレさんとアニサちゃん…マルハちゃんの身体処理措置、開始してくれ…」


ええ。


南洋王国の女王典礼服に身を包んだメフラウと、そして南洋慈母宗の大僧正僧侶服姿のアニサが、私を見送る処置役なのです。


私は目を閉じて彼女たちに身を任せますが、同時にエマニエル部長の知覚機能を通じて、このお部屋の光景を俯瞰する視点を得させて頂きます。


小さな台に置かれている装飾されたぱそこんと、私の左腕の聖環が特別な配線で繋がれます。


もっとも、これはこの儀式が今から南洋女王崩御と葬行のために行われる演出であり、実際にはマリアリーゼ陛下の聖環であればベラ子陛下とエマニエル部長の承認で、同様のことができるらしいですけどね。ふふふ。


で、アニサがオキョウを唱える中、メフラウが静かに、りたーんきーとやらを押します。


瞬間、私の身体はどんどんと水晶やガラスのように…トパーズというオラニエ(オレンジ)色の宝石が一番、その色に近いそうですが…結晶化なる現象を起こします。


そう…かつて南洋を騒がせた悪霊クヤンが人間を捕食したり、あるいは人の身体を乗っ取って精気を吸い尽くした後のあみのさん結晶とやらになった状態に着想を得たマリアリーゼ陛下、従来の聖院金衣や銀衣の方の崩御時に使用する寝台に使われる結晶で代用できないかとお考えになったのです。


即ち、私の身体は今、自己崩壊して発火する代わりに、一種の宝石のような状態に変質しているのだそうです。


そして…その身体が脆くも崩れようとするのを、ベラ子陛下とエマニエル部長が特殊な壁を出す不思議な力で防ぎ、私の身体が宝石の粉になったものを半分ずつに分けられます。


更には…器に入れられた私の身体だった石の粉というか、オラニエ色の砂糖のようなものをアニサ、そしてメフラウが受け取ります。


ベラ子陛下がウサギ号2号車、エマニエル部長が1号車の運転席扉を少し開けると、メフラウとアニサは4つの座席に、かつて私であった粉末を撒き、更には擦り込んで行かれます。


二人は…気でも狂ったのでしょうか。


いえ…私であった結晶の粉は、ウサギ号をいずれは侵食し、同化するそうです。


そして、今からこの2台は駐車場に移動しますが、このうち初代ウサギ号はジョクジャ宮殿の駐車場ゲートを経由して痴女宮本宮地下24階の墓所に運び込まれて安置されるそうです。


なんか、私の遺徳を称えてこうしてもらえるそうなんですけどね。


では、ということで二代目ウサギ号の運転席には、現在この車を常用しておられるメフラウが。


そして…初代ウサギ号の運転席には…なんとティアラが、泣きに泣いてくれたのか、腫れた顔で乗り込みます。


(あんたさぁ…ちゃんと運転してや…)


(やかましい馬鹿野郎、先に逝きやがって…永遠に追い抜けねぇじゃねぇかよ、これで…)


(だぁほ。あたしの地位はこれで固定やからあんたがえろなったらええだけじゃ。それより横にマリアリーゼ陛下がお乗りや。しくじんなよ、運転…)


ええ、海賊騎士団の制服らしいのですが、装飾とか運転の邪魔にならんのやろな。


で、初代ウサギ号にはマリアリーゼ陛下が乗り込まれます。


二代目ウサギ号の助手席にはベラ子陛下。


その先導は、アニサ…そしてディードが行います。


初代ウサギ号の前に立ったアニサがさっと手を上げると、ディードもそれに倣います。


そして、ティアラとメフラウが、それぞれハンドルを押して警笛とやらを長く鳴らします。


で、ティアラは歩き出したアニサについて、しずしずと坂道を降りていきます。


その後を橙騎士団典礼服姿のディード、そしてメフラウの運転する二代目ウサギ号が続きます。


更には、2台の車の後を歩き出す葬送の列。


プールサイドには女官と騎士が交互に並び、私を…そして、皆を見送ってくれます。


で、駐車場に入ったウサギ号ですが、二代目ウサギ号はかつて初代ウサギ号が駐車していた一等地らしい、警備改札…本日は臨時に撤去されています…を出てすぐそばの駐車区画に入ります。


二代目ウサギ号は、私の身体の半分と同化した状態で、これからもメフラウがお使いになるのですから…。


そして、侍従たちがドアを開けると、出て来たメフラウは、今度は運転席、ティアラと交代します。


初代ウサギ号の助手席、今度はアニサが乗り込むと、マリアリーゼ陛下とマリアヴェッラ陛下が後席に。


一方、ティアラとディードはゲートを開けて初代ウサギ号を誘導する役に。


そこに、ゲートから出て来た二代目様とアルト閣下…穴あきばんぴれらとかいう、白金衣なる特別な衣装だそうですね…に装いを改めておられます。


そして二代目様とアルト閣下の先導でディードとティアラは初代ウサギ号…つまりは()()()()()()()の半分を、ゲート…そして墓所に誘導します。


そして墓所側で待ち構えていた外道丸設備部長と悦吏子副部長に迎えられ、ダリア統括騎士団長の誘導で墓所正面の祭壇前に駐められます。


で、()から降りたメフラウは、私の鍵をマリアリーゼ陛下にお渡しに。


そしてマリアリーゼ陛下はベラ子陛下にその鍵を渡します。


「墓所管理者たる外道丸部長、この車はもはやマルハレータ南洋広域行政局長用の寝台そのものと同等状態です…歴代金衣銀衣の寝台同等の扱いをお願いします」


「承知しました…」


深く頭を下げて頷く外道丸部長と、悦吏子副部長。


そして、私の鍵はなぜか田中雅美・内務局長に渡されます。


(私らくるまのうんてん、できませんよって…)


で、私の身体たるウサギ号は、祭壇のある舞台の片隅に安置され、その愛嬌ある姿を墓参の方々やこの墓所での会合の際に披露することになるそうです…。


(本当は金庫室か、その手前の用具倉庫って案もあったんだけど、あそこは懲罰用の黒グッズ置き場でもあるから縁起がよくないよね…)


まぁ、金庫室はまだしもその手前はちょっと、ご遠慮をば。


で、最終的な位置に駐車した()から降りた雅美さんは、改めて鍵をこの墓所の管理者である外道丸さんに渡されます。


(事情を知らない人が見たら車のショールームみたいな感じだけどねぇ)


で、皆を前にして祭壇の前に立たれたマリアリーゼ陛下とベラ子陛下は、三角形をした黄金の塊をメフラウとアニサ、そしてディードとティアラに渡して行きます。


ああ、これは車輪にかましておく車止めというものですね。


その車止めの装着を二人で確認なさった両陛下は、祭壇前に戻られると宣言なさいます。


「マルハレータ南洋広域行政局長、そしてスカルノ朝南洋王国二代目女王はその大任を果たし、オリューレ行政局長にその任を譲りここに眠ることとなりました」


「だが、みんなは悲しまないで欲しい。マルハレータ局長の身体に行った措置は、試験的な意味もあるが、金衣や銀衣の意識保存設備を一般女官にも適用できないかを試験するためのものでもあるからだ…エマ子」


「ええ。マルハちゃんの意識は保持されているのを確認しました。マルハちゃんはこれから、ベラ子陛下と初代様のような関係となって、オリューレ局長を支える立場となるのですわ…」


荘厳な音楽が流れ出す中、運ばれて来た香台に、玄奘部長とハリティリーネ部長がアニサから種火を受け取って着火。


そして焼香するのは…両陛下とメフラウとディードに続いてはウィレミーナ、おのれか…。


(肉親だし仕方ないでしょうがっ)


(お前ほんまに球根詐欺支部こかしたら末代まで祟るからな…)


(やかましい!…あたしより先に、先に逝きやがって…!)


ええ、堪えきれなくなったんでしょう。


ティアラがまた、泣き出しました。


あのなウィレミ、その半分でええから私のために泣く気はないんか。


(姉様が財産を相続させてくれないから…)


(どあほ。メフラウにはちゃんと預けとる。お前は絶対に絶対に絶対に無駄遣いする。どうしても使いたいならばメフラウに相談せぇっ)


全く、こんな妹には後々祟るか呪うしかないと思うのです。


しかし、この場には本当は、ティアラ以上に泣きたくなっている人物がいるのです。


せやからお前ら、ちょっとはメフラウに遠慮してやな…。


そうですよ、メフラウと…そして、後々何かの時に語られるかも知れませんが、マドゥラ族出身の慈母宗僧侶たるカーティカは、心底悲しんでくれています。


ただ…貴女方のためにと、マリアリーゼ陛下はこの処置に踏み切ってくれたのです。


ええ…南洋行政局の皆の思い出の塊たる初代ウサギ号を、私の棺や寝台代わりに使うとういう前代未聞にして奇抜この上ない案の実施を決めたのもマリアリーゼ陛下です。


だから…墓所にお越し頂ければ初代ウサギ号がここにいるのですし、二代目ウサギ号を通じても、これからもメフラウに寄り添えるのです…。


そしてひとしきり、焼香が済むと…


黒まじっくいんきなるもの、雅美さんの手によって、用具倉庫から持ち出されてきます。


その、黒布をかけられたお盆に載せられた筆記用具らしきを手に取られたメフラウは、二代目聖母たるベラ子陛下の手から渡された白布でアニサが拭いてくれた私の…初代ウサギ号のボンネットに、私の最後の言葉、遺言とでも言うべき言葉を書いてくれました。


ええ、私は最善を尽くせたかどうかはわかりませんが、少なくとも南洋行政局を、そして南洋王国を守れた自負はありますよ。


ですから…申し訳ないのですがメフラウ、これからは私と一緒に歩んでください。


そして、この言葉を言わせてください…。


Prinses Marhareta deed haar best.(マルハレータはがんばったのです)


------------------------

2023.8.7追記


まるは「一見感動的やねんけどな」


あにさ「これな、私らめっちゃ困るねん…」


マリア「恐らくアルトくんか、闇落ちマリアで書かれると思うが、マルハちゃんが東奔西走してマドゥラ族を懐柔する話がある」


べらこ「つまり、マドゥラの皆さんはマルハちゃんがいたからこそ、南洋行政局…ひいては痴女皇国に協力的になったと…」


おりゅーれ「そのマルハが事業半ばで夭逝すると、とても困った事になりますわね…」


あにさ「私だけじゃ無理っす…」


べらこ「かといって、マルハちゃんに無理すんなって言えない事情もあるのです…」


てぃあら「そこで私が南洋行政局に応援で」


あにさ「やめといた方がいいよ、ティアラだと余計苦労するから…」


てぃあら「えええええ」


かーてぃ「アニサ様の言われる通りなのです…マルハレータ()()は一朝一夕でマドゥラからの信頼を得ていないのです…ここに至るまでの諸々の経緯があって、ようやっとマドゥラの者の信任を得ているのです…」


あにさ「なんでかっつーとね、第一に球根詐欺国の子でしょ。つまり肌白金髪青目。見た目からしてマドゥラの連中とは違うのよ」


かーてぃ「そしてこれが大事なのですが、マドゥラの者とジャワの者やパプアの者とはそれまでの経緯があって、利権調整が難しいのですよ。あの辺の部族、誰が覇権を握ったとて揉めるのです…」


おりゅーれ「私がある程度入って行けるのも、球根詐欺人とジャワ人の混血という事もあるんですよ、本当の話…」


あにさ「私でも悪霊退治だの何だのって実績があって、南洋慈母寺を受け入れさせていったからね…」


てぃあら「うえええええ」


じょすりん「だから、アバレナントカという子供のように思いつきで迂闊に難問だらけの泥沼に突入するなというのだ…」


あにさ「というわけで、話はアルトさんかマリア様の枠、つまりR-18の方に移るそうです…ううううう」


てぃあら「うううううう」


まるは「私が唸りたいわい…未成年のみなさんごめんなさい…しかしエロなくしてここからの展開は進まんのです…」


べらこ「ヒントはカウガール、だそうです…今後はマドゥラ人の民族衣装にすらなる可能性があるそうで…」


他全員「では、またお会いしましょう…」

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